説明

メチルメタクリラート混合ポリマーをベースとするプラスチゾル

本発明は、改善された性質を有するプラスチゾル系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された機械的性質及び同時に改善された貯蔵安定性を有するプラスチゾル系に関する。
【0002】
より長期にわたって、ポリ塩化ビニル(PVC)からなるコーティング(Beschichtungen)及びカバーリング(Belaege)はそれらの多方面にわたる使用可能性及びそれらの良好な使用特性に基づいて市場で重要な役割を果たしていた。安定剤及び場合により充填剤及び顔料をたいてい添加している、軟化剤中のPVC粉末の分散体、いわゆるプラスチゾルはより大規模に、コーティングのために、特に熱浸漬法において、例えば金属の防食のため、編織布及び革の仕上げ加工のため、フォーム、接着剤等のために使用される(Sarvetnik, Plastisols and Organosols, Van Nostrand, New York 1972; W. Becker及びD. Braun Kunststoff-Handbuch (新版) 第2/2巻, p.1077以降, Hanser Verlag 1986参照)。
【0003】
独国特許出願公開(DE-A)第26 54 871号明細書からは、PVCプラスチゾルをベースとする原料のためのカバーリング(Ueberzuegen)及び接着化合物(Klebeverbindungen)の製造方法が公知であり、前記方法は、接着促進剤(Haftvermittler)として、次のもの:
A 高められた割合の三量体重合された及びより高度に重合された(tri- und hoeherpolymerisierten)脂肪酸(X)を有する重合された脂肪酸混合物及び
B)イミダゾリン含量(Y)を有する、過剰量のポリアルキレンポリアミン
から製造された縮合生成物をプラスチゾル配合物に対して0.5〜5質量%の割合で添加し、かつ90℃以上の温度で焼き付けることにより特徴付けられており、その場合にX又はYの値の1つが40%境界を下回る場合には、他の成分の値が明白な効果の達成のために少なくとも40+Z(その場合にZはより小さな値対40の差である)、しかしながら好ましくは40+2Zであるべきである。
【0004】
独国特許出願公開(DE-A)第26 54 871号明細書による方法の別の態様は、独国特許出願公開(DE-A)第26 42 514号明細書に記載されている。それによれば、接着促進剤として、
A)化合物100gあたりアゾメチン基0.1〜1.4個を有するシッフ塩基及び/又は
B)化合物100gあたりエナミン基0.1〜1.4個を有するエナミン
を単独で又は混合物で、PVC配合物に対して0.1〜4.0質量%の量で、及び付加的に
C)A、B、Cの混合物に対して、エポキシ樹脂20〜80質量%
が使用される。
【0005】
最近、PVCをその他の原料により置換する傾向がはっきりとした形となっている。その理由は、とりわけ環境面及び燃焼した場合のダイオキシン形成の危険である。
しかしながら、そのようなあらゆる努力の場合に、実際は、PVC製品にとって当たり前であった品質の劇的な削減を甘受する用意ができていなかったことを重要視しなければならなかった。
幾つかの分野、例えば金属のコーティングでは、ポリ(メタ)アクリラートベースのプラスチゾルが成果をあげて地歩を固めることができた(独国特許(DE-C)第25 43 542号明細書、独国特許(DE-C)第31 39 090号明細書、もしくは米国特許(US-A)第4 558 084号明細書、独国特許(DE-C)第27 22 752号明細書、独国特許(DE-C)第24 54 235号明細書参照)。米国特許(US-A)第4 558 084号明細書には、メチルメタクリラート及びイタコン酸もしくはイタコン酸無水物からなるコポリマーをベースとするプラスチゾルが記載されており、前記プラスチゾルは、電気泳動により前処理された金属表面上に十分に接着するとされている。
また、例えば、ポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルをベースとするフロアカバーリング(Bodenbelaege)が提案されており、前記プラスチゾルの場合に純粋なポリメタクリル酸メチル(PMMA)が使用され、一部はエマルションポリマーとして、一部は懸濁ポリマーとして使用される(独国特許(DE-C)第39 03 669号明細書)。
【0006】
(メタ)アクリルエステル又は(メタ)アクリラートという表現は、本出願明細書の範囲内で、メタクリルエステルもしくはメタクリラート、例えばメチルメタクリラート、エチルメタクリラート等、並びにアクリルエステルもしくはアクリラート、例えばメチルアクリラート、エチルアクリラート等又は場合により双方からなる混合物を意味してよい。
【0007】
プラスチゾルの重要な適用分野は、ストーンチッピングに対する自動車の床裏面部(Unterboden)上の車体薄板の保護である。この適用において、もちろん、それにより生じる摩耗に対する高い機械的抵抗力は本質的な必要条件である。
自動車工業における加工のためには、プラスチゾルペーストのできるだけ長い使用可能性は同じように不可欠である。
【0008】
欧州特許(EP)第0533026号明細書には、電気泳動薄板(Kataphoresebleich)上への改善された接着を有し、ポリアクリル(メタ)アクリラートをベースとするプラスチゾル系が記載されており、その場合に前記のゲル化可能な組成物は炭素原子2〜12個のアルキル置換基を有するモノマー及び酸無水物から構成されている。得られるプラスチゾル配合物の耐摩耗性に関して何も言明されていない。
【0009】
欧州特許(EP)第1162217号明細書には、直径>250mmを有する一次粒子から構成されているポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルが記載されており、その場合に前記一次粒子はコア−シェル粒子からなる。得られるプラスチゾルは貯蔵安定であり、耐摩耗性についての記載は欠如している。
【0010】
多様な特許明細書において、接着(これは(単に)良好な摩耗安定性のための重要な必要条件であるが、しかし決してこれと同一視してはならない)を窒素含有モノマーの組み込みにより改善するという可能性が挙げられている。
他方では、プラスチゾルの貯蔵安定性をシェル中のメタクリル酸の組み込みにより改善することは、実地においてよく行われる。
しかしながら結合剤中でのこれらのモノマーの同時の使用は、塩基性窒素原子と酸官能基との間に塩形成をもたらす場合には、しばしば不可能である。
【0011】
プラスチゾルペーストの傑出した耐摩耗性及び同時に改善された貯蔵安定性を有するポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルを提供するという課題が存在していた。
【0012】
前記課題は、結合剤をベースとするプラスチゾルを用いて解決され、前記結合剤が、
a)塩基性窒素原子を有するラジカル重合可能なモノマー0.2〜15質量%、
b)アクリル酸及び/又はメタクリル酸の単純なアミド又はN−置換アミド、又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のアミン置換アルキルエステル0.2〜15質量%
c)メタクリル酸及び/又はアクリル酸の1つ又はそれ以上のアルキルエステル0〜80質量%、
d)メタクリル酸のメチルエステル10〜90質量%及び
e)その他のモノマーとラジカル共重合可能な1つ又はそれ以上のモノマー0〜50質量%
を含有することにより特徴付けられており、その場合に前記成分の総和は100%となり、かつ少なくとも1つの軟化剤及び場合により接着促進剤及び/又は充填剤及び場合によりプラスチゾルに常用の別の成分が含まれている。
【0013】
意外なことに、PMMA結合剤をベースとする本発明によるプラスチゾルが極めて高い耐摩耗性を有することが見出された。実地において、耐摩耗性の決定のためにはたいていチッピング−耐性−試験(欧州特許(EP)第1371674号明細書)が実施される。この試験の場合に70kgを上回るナットの耐摩耗性が達成されることが見出された。
【0014】
そのうえ、これらのポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルは、電気泳動により前処理された金属表面上への卓越した接着を有する。
【0015】
プラスチゾル用の結合剤は通常、コア/シェル構造を有するラテックス粒子を有する。
【0016】
本出願明細書のラテックス粒子は、1つのコア及び少なくとも1つのシェルからなり、これらは通常、2つ又はそれ以上の別個の工程において連続して製造される。通例、コア及び(1つ又はそれ以上の)シェルはその都度異なる組成を有する。
【0017】
前記コアの一成分はメチルメタクリラートである。この成分は、好ましくは少なくとも20質量%存在し、かつ最大85質量%である。メチルメタクリラートの割合はまた、好ましくは30〜70質量%又は40〜60質量%であってよい。
別の成分として、ラテックス粒子のコアは通常、1つ又はそれ以上の(メタ)アクリルエステルを含有し、そのアルコール成分は炭素原子1〜8個又は芳香族基1個を含有する。
【0018】
特別な一実施態様において、ラテックス粒子のコアの一成分は、n−ブチル(メタ)アクリラート、イソブチル(メタ)アクリラート又はt−ブチル(メタ)アクリラートのいずれか又はこれらからなる混合物である。
【0019】
これらのエステルは、15〜80質量%、30〜70質量%又は40〜60質量%存在していてよい。
【0020】
別の成分として、ラテックス粒子のコアは、1つ又はそれ以上の共重合可能なモノマー0〜50質量%、0〜20質量%、0〜10質量%、又は0〜5質量%を含有していてよい。これらのモノマーの存在は、場合によりラテックス粒子のコアの特定の性質を意図的に調節するために、特別な場合に好都合でありうる。与えられた重合条件下でコアを形成するポリマー中へ導入されることができる全てのエチレン系不飽和化合物が考えられる。
【0021】
前記のエチレン系不飽和モノマーは、個々にか又は混合物として使用されることができる。
【0022】
ラテックス粒子のコアの前記の成分の質量割合は、挙げられた範囲内でその都度変えることができるが、しかしながらその場合に、前記成分の選択された割合の総和が合わせて100質量%にならなければならないことが常に顧慮されなければならない。
【0023】
ラテックス粒子は、第二の又は場合によりさらなる反応段階においてコア上に形成される少なくとも1つのシェルを別の成分として含有する。コアとシェルとの、もしくはシェル同士の結合は、物理的な力のみによるか又はしかしグラフトにより生じている共有結合により、達成されることができる。
【0024】
ここで「(1つ又はそれ以上の)シェル」という概念が使用される場合には、このことは、当該の表現が、1つのシェル又は場合により複数の存在しているシェルのいずれかに適用することができることを意味するべきである。
【0025】
前記の(1つ又はそれ以上の)シェルの一成分はメチルメタクリラートである。この成分は、好ましくは少なくとも20質量%存在し、かつ最大95質量%である。メチルメタクリラートの割合はまた、40〜85質量%又は50〜80質量%であってよい。
別の成分として、ラテックス粒子の(1つ又はそれ以上の)シェルは1つ又はそれ以上の(メタ)アクリルエステルを含有し、そのアルコール成分は炭素原子1〜8個又は芳香族基1個を有する。
【0026】
前記の(1つ又はそれ以上の)シェルの別の成分は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のアミド、又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のアミン置換アルキルエステルのいずれか又は前記の化合物からなる混合物である。
【0027】
アミドは、単純なアミド、すなわちアクリルアミド又はメタクリルアミド又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のN−置換アミドであってよく、これらは次式の官能基を有する:
−C(O)−NR12
[式中、R1及びR2は互いに独立してH又は炭素原子1〜10個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、前記アルキル基は場合によりさらに付加的に式−NR34のアミノ基も有していてよく、ここでR3及びR4は互いに独立してH又は炭素原子1〜10個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル基を表すか、又は前記窒素は置換基R3及びR4と一緒になって五ないし七員環も形成してもよい]。前記環は、場合によりさらに1つ又はそれ以上の短鎖アルキル基、例えばメチル、エチル又はプロピルにより置換されていてよいか又はヘテロ原子、例えば窒素又は酸素を含んでいてよい。
【0028】
別の成分として、ラテックス粒子のシェルは、1つ又はそれ以上の共重合可能なモノマー0〜50質量%、0〜20質量%、0〜10質量%又は0〜5質量%を含有していてよい。これらのモノマーの存在は、場合によりラテックス粒子のシェルの特定の性質を意図的に調節するために、特別な場合に好都合でありうる。与えられた重合条件下でそれぞれのシェルを形成するポリマー中へ導入されることができる全てのビニル系不飽和化合物が考えられる。
【0029】
前記のエチレン系不飽和モノマーは、個々にか又は混合物として使用されることができる。
塩基性窒素を有するラジカル重合可能なモノマー(a)として、例えばN−ビニル−メチル−2−イミダゾール、N−ビニル−エチル−2−イミダゾール、N−ビニル−フェニル−2−イミダゾール、N−ビニル−ジメチル−2,4−イミダゾール、N−ビニル−ベンズイミダゾール、N−ビニルイミダゾリン(ビニル−1−イミダゾリンとも呼ぶ)、N−ビニル−メチル−2−イミダゾリン、N−ビニル−フェニル−2−イミダゾリン及びビニル−2−イミダゾール、特に好ましくはN−ビニルイミダゾール(ビニル−1−イミダゾールとも呼ぶ)が、使用されることができる。
【0030】
そのうえ、N−ビニルピロリドン、N−ビニルメチル−5−ピロリドン、N−ビニルメチル−3−ピロリドン、N−ビニルエチル−5−ピロリドン、N−ビニルジメチル−5−5−ピロリドン、N−ビニルフェニル−5−ピロリドン、N−アリルピロリドン、N−ビニルチオピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルジエチル−6,6−ピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルメチル−7−カプロラクタム、N−ビニルエチル−7−カプロラクタム、N−ビニルジメチル−7,7−カプロラクタム、N−アリル−カプロラクタム、N−ビニルカプリルラクタムが適している。
【0031】
適している別のモノマーは、N−ビニルカルバゾール、N−アリルカルバゾール、N−ブテニルカルバゾール、N−ヘキセニルカルバゾール及びN−(メチル−1−エチレン)カルバゾールである。
【0032】
アクリル酸及び/又はメタクリル酸の単純なアミド又はN−置換アミド又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のアミン置換アルキルエステル(b)として、例えばN−メチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノエチル−(メタ)アクリルアミド、
N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、
N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、
N−デシル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、
N−[3−(ジメチルアミノ)−2,2−ジメチルプロピル]−メタクリルアミド、
N−ドデシル(メタ)アクリルアミド、N−[3−ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、
N−[2−ヒドロキシ−エチル](メタ)アクリルアミド、特に好ましくは(メタ)アクリルアミドが、使用されることができる。
【0033】
さらに、(メタ)アクリル酸の次のアミン置換アルキルエステルを挙げることができる:2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリラート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリラート、3−ジメチルアミノ−2,2−ジメチルプロピル−1−(メタ)アクリラート、3−ジエチルアミノ−2,2−ジメチルプロピル−1−(メタ)アクリラート、
2−モルホリノエチル(メタ)−アクリラート、2−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリラート、3−(ジメチル−アミノ)プロピル(メタ)アクリラート、
2−(ジメチルアミノエトキシエチル)(メタ)アクリラート。
【0034】
メタクリル酸及び/又はアクリル酸のアルキルエステル(c)として、一般式
【化1】

[式中、R1は水素又はメチルを表し、
2は好ましくは炭素原子1〜12個、特に1〜8個を有するアルキル基又はシクロアルキル基を表し、前記基は場合により分枝鎖状であってよい、但しR1及びR2は同時にメチルを意味してはいけない]で示される化合物であってよい。例えばn−ブチルアクリラート、n−ブチルメタクリラート、イソブチルメタクリラート、t−ブチルメタクリラート、2−エチルヘキシルメタクリラート及びシクロヘキシルメタクリラートを挙げることができる。
【0035】
他のモノマーと共重合可能な化合物(e)として、とりわけ1−アルケン、例えば1−ヘキセン、1−ヘプテン、分枝鎖状アルケン、例えばビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチルプロペン、3−メチル−1−ジイソブチレン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、スチレン及び/又はスチレンの誘導体、例えばα−メチルスチレン、α−エチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンが使用されることができる。
【0036】
モノマーa)と相溶性の単純な(メタ)アクリルアミド又はN−置換(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリル酸のアミン置換アルキルエステルが、使用不可能な(メタ)アクリル酸と同じ程度で、軟化剤による攻撃に対してシェルの安定化のために寄与することが見出された。
【0037】
前記シェルの安定化により、本発明によるプラスチゾルは良好な貯蔵安定性も有する。標準化された測定条件下での粘度上昇、貯蔵安定性の尺度は、16%未満に低下されることができた。
【0038】
特別な一実施態様において、コア/シェルポリマーは、1つのコア及び1つのシェルからなる。コア対シェルの質量比は、幅広い範囲内で変えることができ、かつ10:90〜90:10である。この質量比は、モノマーの秤量分からもたらされる。
【0039】
さらなる実施態様は、1つのコア及び2つ又はそれ以上のシェルからなるコア/シェルポリマーであってよい。シェルの数はたいていの場合に2又は3であるが、しかしながらそれを上回っていてもよい。個々の又は全てのシェルの化学組成は同じであってよく、又はしかし場合により異なるモノマー組成を有していてよい。
【0040】
本出願明細書のコア/シェルポリマーは、少なくとも250nm、好ましくは少なくとも500nm及び特に好ましくは少なくとも700nmの一次粒度を有するラテックス粒子からなる。この場合に、一次粒度は、乳化重合の際の生成物として得られ、個々の、通例ほぼ球状の及び凝集されていないポリマー粒子の直径であると理解される。通常、この大きさについては、例えばレーザー回折により決定されることができる平均粒子直径が記載される。
【0041】
前記結合剤の製造は、本来公知の方法で、好ましくは、場合により多段階で実施されることができる乳化重合により行われることができる。
【0042】
乳化重合の使用の場合に、有利には乳濁液−又はモノマー供給法に従い操作されることができ、その場合に水の一部並びに開始剤及び乳化剤の全量又は一部が装入される。粒度は、これらの方法の場合に装入される乳化剤の量により有利には制御されることができる。乳化剤として、とりわけアニオン性及び非イオン性の界面活性剤が使用可能である。一般的に、使用される乳化剤量は−前記ポリマーに対して−、2.5質量%を上回らない。
開始剤として、乳化重合において常用の化合物、例えば過化合物(Perverbindungen)、例えば過酸化水素、ペルオキシ二硫酸アンモニウム(APS)に加えて、またレドックス系、例えば二亜硫酸ナトリウム−APS−鉄並びに水溶性アゾスターターが使用されることができる。開始剤量は前記ポリマーに対して、一般的に0.005〜0.5質量%である。
【0043】
重合温度は特定の範囲内で開始剤に依存する。例えば、APSの使用の場合に有利には60〜90℃の範囲内で操作される。レドックス系の使用の場合に、より低い温度で、例えば30℃で重合されることもできる。供給重合に加えて、バッチ重合の方法に従っても操作されることができる。その場合に、モノマーの全量もしくは一部が全ての助剤と共に装入され、かつ重合が開始される。モノマー−水−比はその場合に、放出される反応熱に適合されなければならない。まず最初にモノマー及び助剤の半分が水の全量中に乳化され、ついで室温で重合が開始され、かつ反応を行った後にバッチが冷却され、かつモノマーの残っている半分が助剤と一緒に添加されるようにして50%乳濁液が製造される場合には、通例、困難は生じない。
【0044】
固体の形での結合剤の取得は、凍結乾燥、沈殿又は好ましくは噴霧乾燥により常用の方法で行われることができる。
【0045】
前記分散液の噴霧乾燥は公知方法で行われることができる。大工業的には、通常、噴霧される分散液と並流で上から下へ熱風と共に貫流される、いわゆるスプレー塔が使用される。前記分散液は、1つの又は多数のノズルを介して噴霧されるか又は好ましくは高速回転する穴あきディスクを用いて噴霧される。投入する熱風は、100〜250℃、好ましくは150〜250℃の温度を有する。噴霧乾燥されるエマルションポリマーの性質のためには、空気の出口温度、すなわち乾燥される粉末粒子がスプレー塔の脚部で又はサイクロン分離器中で空気流から分離される温度が決定的である。この温度は、エマルションポリマーが焼結されるか又は溶融される温度をできるだけ下回るべきである。多くの場合に50〜90℃の出口温度が好適である。
出口温度は、一定の空気流の場合に連続的に単位時間あたりの噴霧される分散液量の変更により制御されることができる。
【0046】
その場合に、たいてい、凝集された一次粒子からなる二次粒子の形成となる。事情によっては、乾燥の際に個々のラテックス粒子が互いに付着してより大きな単位となることは 有利でありうる(部分的なガラス化)。凝集した単位の平均粒度(例えばレーザー回折の方法を用いて測定)の近似値として、5〜250μmが採用されることができる。
【0047】
本発明により使用されるべきポリマーは、懸濁重合の方法に従って製造されることもできる。
一次粒度はこの場合に通常10〜100μmの範囲内である。
【0048】
さらに、本発明による結合剤は、コア−シェル−ポリマーとして独国特許(DE-C)第27 22 752号明細書もしくは米国特許(US-A)第4 199 486号明細書に従って製造されることもできる。その場合にコアポリマー及びシェルポリマーは、好ましくは4:1〜1:4の質量比である。また、複数のシェルがコアの周囲に構成されることもできる。
【0049】
原則的に、多数のモノマーが前記コア−シェル−ポリマーの製造に適している。
【0050】
コア材料及びシェル材料からなるコポリマーの構造は、乳化重合の際の特定の手順により本来公知の方法で得られる。その場合に、コア材料を形成しているモノマーは第一の方法段階において水性乳濁液中で重合される。第一段階のモノマーが本質的に重合完了されている場合には、シェル材料のモノマー成分が新しい粒子の形成が回避されるそのような条件下でエマルションポリマーに添加される。それにより、第二段階において生じるポリマーはコア材料の周りにシェル状に層をなす。
【0051】
本発明による結合剤からは、コア/シェルポリマー及び少なくとも1つの軟化剤を含有するプラスチゾルが製造されることができる。軟化剤(Weichmacher)はしばしば可塑剤(Plastifizierungsmittel)とも呼ばれる。多くの場合に、唯一の軟化剤の使用で十分であるが、しかしまた、2つ又はそれ以上の異なる軟化剤の混合物を使用することも有利でありうる。
【0052】
軟化剤として、フタラート、例えばジイソデシルフタラート、ジエチルヘキシルフタラート、ジイソノニルフタラート、ジ−C7〜C11−n−アルキルフタラート、ジオクチルフタラート、トリクレジルホスファート、ジベンジルトルエン及びベンジルオクチルフタラートを特に挙げることができる。
【0053】
さらにまた、他の化合物、例えばシトラート、ホスファート及びベンゾアートが使用されることもできる。(H.K. Felger, Kunststoff-Handbuch 1/1C巻, Hanser-Verlag 1985並びにH.F. Mark他 Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, Supplemental Volume p.568-647, J. Wiley 1989参照)。適している軟化剤の選択は、独国特許(DE-C)第25 43 542号明細書からも得られることができる。
挙げられた軟化剤は、混合物としても使用されることができる。
【0054】
プラスチゾルペースト中の量比は、幅広い範囲内で変えることができる。典型的な配合物において、軟化剤はコア/シェルポリマー100質量部に対して、50〜300質量部の割合で含まれている。レオロジー要件−特にプラスチゾルの加工の場合に−に適合させるために、そのうえ、溶剤(例えば炭化水素)が希釈剤として使用されることができる。
【0055】
さらに、前記プラスチゾルは通常、さらに無機充填剤を0〜300質量部の量で含有する。レオロジー上効果的な添加剤として例えば炭酸カルシウム(白亜)、二酸化チタン、酸化カルシウム、沈降及び被覆された白亜を、さらに場合によりチキソトロープ剤、例えば熱分解法ケイ酸を挙げることができる。
【0056】
しばしば、前記プラスチゾルにそのうえ、接着促進剤が40〜120質量部の量で添加される;例えばポリアミノアミド又はブロックイソシアナートが使用される。
ポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルの分野での使用において特に有効な接着促進剤としての自己架橋性ブロックイソシアナートは、例えば欧州特許(EP)第1371674号明細書に記載されている。
前記プラスチゾルは、適用に制約されてさらにプラスチゾルに常用の別の成分(助剤)、例えば湿潤剤、安定剤、流れ調整剤(Verlaufsmittel)、顔料、噴射剤を含有していてよい。
流れ調整剤として例えばステアリン酸カルシウムを挙げることができる。
【0057】
原則的に、本発明によるプラスチゾル用の成分の混合は、多様なミキサーを用いて行われることができる。しかしながらPVC−及びポリ(メタ)アクリラート−プラスチゾルの場合の経験と一致して、低速運転プラネタリ形撹拌機、高速ミキサーもしくはディソルバー、水平ターボミキサー及びスリーロールミルが好ましい;その場合に前記選択は製造されるプラスチゾルの粘度により影響を受ける。
【0058】
前記プラスチゾル材料は、典型的には0.05〜5mmの層厚で100〜220℃(好ましくは120〜160℃)の温度で30分未満以内にゲル化されることができる。
【0059】
金属部材のコーティングのための塗布方式として目下のところ、噴霧法、例えばペースト噴霧方法が好ましい。その場合に、プラスチゾルは通常、高い圧力(約300〜400bar)を用いてエアレス−スプレーガンにより加工される。
特に重要な使用分野である自動車製造/床裏面部保護において、通常、プラスチゾルは車体の電着塗装及び行われる乾燥後に塗布されるようにして行われる。熱硬化は通常、加熱炉(例えば循環空気乾燥器)中で−温度に依存して−10〜30分の範囲内の常用の滞留時間及び100〜200℃、好ましくは120〜160℃の温度で行われる。
金属基体の電気泳動によるコーティングは、いろいろと記載されている(独国特許出願公開(DE-A)第27 51 498号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第27 53 861号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第27 32 736号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第27 33 188号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第28 33 786号明細書参照)。
【0060】
本発明によるプラスチゾルは、シームカバーリング(Nahtabdeckung)に利用されることができる。そのうえ、例えば自動車組立における、音響学的な消音(akustischen Schalldaempfung)における使用分野が存在する。
【0061】
本発明によるプラスチゾル系は、意外なことに、金属の基体(Untergruenden)上、特に電気泳動薄板上への良好ないし極めて良好な接着を有する。
【0062】
以下に与えられた例は、本発明のより十分な説明のために与えられるが、しかしながら本発明をこれに開示された特徴に限定するためには適したものではない。
【0063】
実施例
例1
撹拌機、還流冷却器、温度計及びフィードポンプを備え、水浴を用いて温度調節可能な5 l反応器中に、窒素雰囲気下に水1100gを装入する。撹拌しながら74℃〜76℃に予熱する。
開始するために、5%のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液30ml及び5%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液30mlを添加する。
引き続いて、1時間の間に、メチルメタクリラート300g、イソブチルメタクリラート340g、n−ブチルメタクリラート340g及びN−ビニルイミダゾール20g、並びにスルホコハク酸−ビス−2−エチルヘキシルエステル(ナトリウム塩)8g及び脱イオン水450mlからなるモノマー乳濁液を滴加する。
計量供給が終了した後に、30min撹拌し、引き続いて5%のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液さらに15ml及び5%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液15mlを添加する。
メチルメタクリラート880g、イソブチルメタクリラート50g、n−ブチルメタクリラート50g、N−ビニルイミダゾール20g及びスルホコハク酸−ビス−2−エチルヘキシルエステル(ナトリウム塩)8g及び脱イオン水450mlからなる第二のモノマー乳濁液を1時間かけて計量供給する。80℃を上回る反応温度の上昇を、水浴冷却を用いて回避する。
前記乳濁液の添加後に、生じた分散液を室温に冷却する前に、30minの後反応時間の間に温度を75℃〜80℃に保持する。
【0064】
例2
合成を例1に類似して行う。しかしながら第二のモノマー乳濁液中でメチルメタクリラート30gをメタクリルアミド30gにより置換する。
【0065】
比較例1
技術水準を極めて良好に代表するプラスチゾルは、欧州特許(EP)第1162217号明細書に記載されている。
一例は、例えば、コア及びシェルを同じ質量比で含有する、例A1として記載された結合剤である。コアポリマーはその場合にメチルメタクリラート60質量%及びn−ブチルメタクリラート40質量%からなる。シェルポリマーは、メチルメタクリラート76質量%、n−ブチルメタクリラート20質量%及びメタクリル酸4質量%を含有する。
製造は例1及び2に記載された方法と比較可能な方法で行われる。
【0066】
例3
遠心噴霧器を備えた乾燥塔中で前記ポリマー分散液を粉末へ変換する。その場合に塔出口温度は80℃であり;アトマイザーディスクの回転速度は20000min-1である。
【0067】
例4
プラスチゾルの製造を、ディソルバー中でDIN 11468においてポリ塩化ビニルペースト用に規定された方法に類似して行う。
次の成分を使用した:
・ 結合剤 100質量部
・ 軟化剤(ジイソノニルフタラート) 140質量部
・ ブロックイソシアナート(イソシアナート基含量3.6%、平均分子量3000g/mol。トルエンジイソシアナート6質量部とポリプロピレングリコール(平均分子量3000g mol-1)1質量部との反応及びその後のメチルエチルケトオキシムでの生じたウレタンプレポリマーのイソシアナート基のブロッキングにより製造) 80質量部。
・ 充填剤 100質量部(炭酸カルシウム;Kalkwerke Johann Schaefer製Calcit GS0)。
【0068】
例5
貯蔵安定性の尺度として、定義された貯蔵の場合の定義された期間にわたる粘度の上昇を採用する。
そのためには、新しく製造されたプラスチゾルの粘度VIを測定する。
引き続いて前記ペーストを密閉容器中で35℃で7日間貯蔵する。ついで、貯蔵されたペーストの粘度VEを測定する。
粘度の上昇[%]を、以下により算出する:
(VE−VI)/(VI)×100

【0069】
例6
前記プラスチゾルペーストを、ドクターブレードを用いて500μmの厚さでカソード浸漬塗装した薄板(KTL−薄板)上へ塗布する。
引き続いてプラスチゾルフィルムを電気炉中で140℃で30分間ゲル化させる。
【0070】
例7
耐摩耗性は、プラスチゾルの卓越した品質基準である。しばしば使用される測定法は、欧州特許(EP)第1371674号明細書に記載されている。そこに記載されているチッピング−耐性−試験は、試験すべきコーティングを定義された層厚で支持体(たいてい薄板)上へ塗布することによる方法に基づいている。ついで定義された角度のもとで、定義された高さからナットをコーティング上へ落とす。コーティングがその下にある材料が現れる前の持ち堪えるナットの量を、耐摩耗性の測定値として採用する。
高い値は良好な耐摩耗性に相当する。
【0071】

【0072】
【表1】

【0073】
前記例は、窒素含有モノマー(ビニルイミダゾール)の使用が耐摩耗性を著しく高めることを示している。
しかしながら十分な貯蔵安定性は、メタクリルアミドとの組合せのみで達成されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤をベースとするプラスチゾルにおいて、前記結合剤が、
a)塩基性窒素原子を有するラジカル重合可能なモノマー0.2〜15質量%、
b)アクリル酸及び/又はメタクリル酸の単純なアミド又はN−置換アミド、又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のアミン置換アルキルエステル0.2〜15質量%
c)メタクリル酸及び/又はアクリル酸の1つ又はそれ以上のアルキルエステル0〜80質量%、
d)メタクリル酸のメチルエステル10〜90質量%及び
e)その他のモノマーとラジカル共重合可能な1つ又はそれ以上のモノマー0〜50質量%
を含有し、その場合に前記成分の総和は100%となり、かつ少なくとも1つの軟化剤及び場合により接着促進剤(Haftvermittler)及び/又は充填剤及び場合によりプラスチゾルに常用の別の成分が含まれていることを特徴とする、結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項2】
塩基性窒素原子を有するラジカル重合可能なモノマー(a)がN−ビニルイミダゾールである、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項3】
アミド(b)がメタクリルアミドである、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項4】
結合剤がコア−シェル構造を有し、その場合にコア及びシェルのモノマー組成は異なっていてよい、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項5】
場合により異なるモノマー組成を有する、複数のシェルがコアの周囲に構成されている、請求項4記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項6】
耐摩耗性がナット50kg(チッピング−耐性−試験)を上回っている、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項7】
耐摩耗性がナット70kgを上回っている、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾル。
【請求項8】
請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾルの製造方法において、
a.結合剤を、場合により多段階である乳化重合により、製造し、
b.生じた分散液を乾燥させ、かつ
c.引き続いて少なくとも1つの軟化剤及び場合により接着促進剤及び/又は充填剤及び場合によりプラスチゾルに常用の別の成分と混合することを特徴とする、請求項1記載の結合剤をベースとするプラスチゾルの製造方法。
【請求項9】
結合剤の製造のために開始剤溶液を装入し、かつモノマー乳濁液を計量供給し、これに50℃〜100℃の温度で場合により別のモノマー乳濁液を計量供給する、請求項8記載の結合剤をベースとするプラスチゾルの製造方法。
【請求項10】
多様なモノマー乳濁液を計量供給する、請求項8記載のプラスチゾルの製造方法。
【請求項11】
第二の及び各々のさらなるモノマー乳濁液の計量供給を80〜95℃で行う、請求項8記載のプラスチゾルの製造方法。
【請求項12】
結合剤100質量部を軟化剤50〜300質量部、接着促進剤40〜120質量部及び/又は充填剤0〜300質量部と混合する、請求項8記載のプラスチゾルの製造方法。
【請求項13】
分散液を、噴霧乾燥を用いて乾燥させる、請求項8記載のプラスチゾルの製造方法。
【請求項14】
床裏面部保護としての請求項1から7までのいずれか1項記載のプラスチゾルの使用。
【請求項15】
シームカバーリングとしての請求項1から7までのいずれか1項記載のプラスチゾルの使用。
【請求項16】
音響学的な消音のための、請求項1から7までのいずれか1項記載のプラスチゾルの使用。

【公表番号】特表2008−503621(P2008−503621A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517154(P2007−517154)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006538
【国際公開番号】WO2006/000342
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】