説明

メチレンラクトン化合物の取り扱い方法

【課題】メチレンラクトン化合物の着色を取り除くとともに、重合性の低下を改善し、安定的に取り扱うことができるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
[化1]


(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に取り扱う方法であって、該取り扱い方法は、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する工程を含んでなるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチレンラクトン化合物の取り扱い方法に関する。より詳しくは、メチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に取り扱う際に好適に用いることができるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチレンラクトン化合物は、生理活性発現骨格として知られており、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤等の医農薬中間体として期待される他、耐熱性、光学特性、UV硬化性、粘着性等の特性を有する重合体を製造するための単量体として適用されることが期待されるものである。このような単量体から得られる重合体は、電子情報材料、電池材料、光学材料、レジスト材料、塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料や医農薬原料に適用できる可能性がある。このように、メチレンラクトン化合物は、化学、医農薬等の分野において有用な化合物である。
【0003】
これらメチレンラクトン化合物は、40℃以下の常温や冷蔵保存すると保存中に着色したり、重合性が低下する等の品質の劣化が生じる場合があることが判明した。このような不具合の原因としては、(1)保存時に共存させる重合禁止剤、(2)メチレンラクトン化合物が変性した微量化合物、及び、(3)メチレンラクトン化合物製造時に混入した化合物等の存在等が考えられるが、その原因を特定するには至っていない。このような着色した化合物は、例えば、重合体の原料として用いた場合に、充分な重合性を発揮するものとはいえず、また、得られる重合体が着色したものとなるため、メチレンラクトン化合物の着色を取り除くとともに重合性の低下を改善し、安定に保つ方法が必要となる。
【0004】
従来の化合物を安定に保つための安定化方法としては、重合禁止剤として活性炭を用いてビニルモノマーを安定化させる方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。
しかしながら、この安定化方法は、活性炭を用いてビニルモノマーの重合禁止効果を得ようとするものであり、着色を取り除くことや重合性の低下を改善することを目的とするものではなく、メチレンラクトン化合物を対象としたものでもない。
また、生成物の品質を損なうことなくエステル化反応を行うことを目的として、多価アルコールをアクリル酸および/またはメタクリル酸と反応することによって多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、置換されていないフェノール性化合物を禁止剤として使用し、活性炭を反応混合物へ添加してエステル化反応を行う製造方法(例えば、特許文献2参照。)や、ヒドロキノン系重合禁止剤を含有させた単量体水溶液を40℃以下の重合開始温度で酸化性重合開始剤を用いて重合する単量体水溶液の重合方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、これらの製造方法は、得られるエステルの品質を損なうことを防止したり、高分子量体を容易に重合できるようにしたりすることを目的とするものであって、着色した化合物の着色を取り除くことや重合性の低下を改善することを目的とするものではない。また、これらは、いずれもメチレンラクトン化合物を対象としたものでもない。
【0005】
また従来より、メチレンラクトン化合物は、例えば、α−メチレン−γ−ブチロラクトンに2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)が添加されたものや、α−メチレン−γ−バレロラクトンにヒドロキノンが添加されたもののように、重合禁止剤が添加された形態で販売されている(例えば、非特許文献1参照。)が、このような重合禁止剤が添加された形態のものであっても、保存中に着色や重合性の低下を生じることがある。
したがって、着色を生じたメチレンラクトン化合物から着色を取り除くとともに重合性の低下を改善し、重合体製造の原料として安定的に取り扱うことができるものとする工夫の余地があった。
更に、ラジカル重合を行うにあたって、分子状酸素(単に酸素とも呼ぶ)は、開始剤や単量体から生成するラジカルと反応して重合を開始できない化合物とするため、重合を阻害することになる(例えば、非特許文献2参照。)上、保存時においても有機化合物に対してラジカル反応を起こし、それが原因となって劣化、着色する恐れがあることが知られている。しかしながら、驚くべきことに、メチレンラクトン化合物は、酸素共存下よりもむしろ酸素非共存下における保存中に劣化、着色することがあり、加えて、劣化した該化合物を単量体として用いた場合に、酸素非共存下にもかかわらず、重合が阻害されたり、重合開始までの誘導期が長くなったりすることが分かり、これまで知られている一般的な単量体の取り扱いとは異なる方法を見出す工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平9−165355号公報
【特許文献2】特表平4−502468号公報
【特許文献3】特開昭50−143884号公報
【非特許文献1】TCI ORGANIC CHEMICALS、2006−2007、1401頁、1404頁
【非特許文献2】化学辞典(東京化学同人)654頁、655頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、メチレンラクトン化合物の着色を取り除くとともに、重合性の低下を改善し、安定的に取り扱うことができるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、メチレンラクトン化合物の着色を取り除く方法について種々検討したところ、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理すると着色を取り除くことができることを見出した。更に本発明者は、メチレンラクトン化合物が保存時に着色するだけでなく、重合反応の原料として用いた場合に、重合速度が低下したり重合開始までの誘導期が長くなる等の重合性の低下を生じる場合があることも見出すとともに、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理すると、着色を取り除くことができるだけでなく、このような重合性の低下も改善されることを見出した。更に、多孔質性固体を用いてメチレンラクトン化合物を処理すると、処理を施さないものに比べて、着色や重合性の低下が抑制され、無色もしくはそれに近い状態のまま、かつ、重合速度の低下や重合開始までの誘導期の長期化を生じさせることなく安定して存在する期間が長くなり、保存や取り扱いに好適な形態のメチレンラクトン化合物が得られることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
本発明は、保存時に着色や重合性の低下を生じるというメチレンラクトン化合物に特有の特性に着目し、これらの不具合を改善し、また、これらの不具合を起こりにくくする方法を見出したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に取り扱う方法であって、上記取り扱い方法は、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する工程を含んでなるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法は、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する工程を含んでなるものである。多孔質性固体で処理するとは、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体と接触させることを意味し、メチレンラクトン化合物と多孔質性固体とが接触することになる限り、流通式、バッチ式やその他の方法等、処理する方法等は特に制限されないが、メチレンラクトン化合物の製造時及び/又は製造後に、流通式及び/又はバッチ式で固液処理することが好ましい。固液処理は、メチレンラクトン化合物を溶媒に溶解させた後に行ってもよいし、メチレンラクトン化合物が処理温度で液体である場合には、溶媒を使用することなくニートで行ってもよい。
なお、本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法は、多孔質性固体で処理する工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。また、本発明において取り扱いには、保存することが含まれる。
【0012】
上記多孔質性固体によるメチレンラクトン化合物の処理を行う時期は特に制限されず、メチレンラクトン化合物の製造時であってもよく、製造後であってもよい。製造時とは、メチレンラクトン化合物の製造工程において、メチレンラクトン化合物が合成される時のことであり、特に触媒の分離回収工程以降や蒸留等の精製工程以降を指す。本発明の多孔質担体は、触媒の分離回収にも使用することができる。製造後とは、メチレンラクトン化合物の製造工程が終了した後、容器に移される等して保存されたり、移送・輸送されたりする時のことである。また、メチレンラクトン化合物を誘導体や重合体の原料として使用する前に処理することも、製造後に処理することに含まれる。
また、多孔質性固体による処理は、メチレンラクトン化合物に着色を生じてから行ってもよく、着色を生じる前に行ってもよい。いずれの場合においても、処理した後のメチレンラクトン化合物が無色もしくはそれに近い状態で、更なる着色を生じることなく、安定に保持する期間を処理しないものに比べて長くすることができ、かつ、重合性の低下を生じることなく安定して存在する期間を処理しないものに比べて長くすることができるため、メチレンラクトン化合物を着色や重合性の低下を起こしにくい、取り扱い性に優れたものとすることができる。
なお、本発明において、着色があるとは、メチレンラクトン化合物のUV−VISスペクトル分析を行い、スペクトルのベースラインをゼロに合わせた時に、400〜600nmの領域に観測されるピークのいずれかの吸光度の最大値が、0.005以上となることを意味する。0.005以上になると、目視でも着色していることが判別できる。
【0013】
メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する時間は、製造時に処理する場合には、5分間〜60時間であることが好ましい。より好ましくは、10分間〜48時間である。多孔質性固体で処理する時間が5分間よりも短いと、着色の除去や重合性の低下の改善を充分に行うことができないおそれがある。多孔質性固体で処理する時間が60時間よりも長いと、顕著な効果の発現が見られなくなると共に、生産性に劣ることになる。製造後に処理する場合には、5分間〜1ヶ月間であることが好ましい。より好ましくは、10分間〜3週間である。多孔質性固体で処理する時間が5分間よりも短いと、着色の除去や重合性の低下の改善を充分に行うことができないおそれがある。多孔質性固体で処理する時間が1ヶ月よりも長くしても、処理時間に見合うだけの顕著な効果が見られなくなるだけなので、例えば、メチレンラクトン化合物を容器等で保存する際に、多孔質性固体を共存させて長期に保存してもよい。
【0014】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法において、製造時にメチレンラクトン化合物を取り扱う温度は、0℃〜150℃であることが好ましい。より好ましくは、20℃〜120℃である。また、製造時にメチレンラクトン化合物を取り扱う圧力は0.001〜20MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.01〜18MPaである。製造後にメチレンラクトン化合物を取り扱う温度は、−50℃〜100℃であることが好ましい。より好ましくは、−30℃〜90℃である。また、製造後にメチレンラクトン化合物を取り扱う圧力は、0.01〜5MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1MPaである。取り扱い時には、分子状酸素(単に酸素とも呼ぶ)を共存させることがより好ましい。
【0015】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法においては、メチレンラクトン化合物100質量%に対して、0.00001〜10000000質量%の多孔質性固体を用いて処理することが好ましい。より好ましくは、0.0001〜1000000質量%である。更に好ましくは、0.0005〜500000質量%である。
多孔質性固体が0.00001質量%未満であると、メチレンラクトン化合物の着色を充分に取り除いたり、重合性等を改善したりすることができないおそれがある。多孔質性固体が10000000質量%より多いと、特に顕著な効果の発現が見られなくなる上、多孔質性固体の分離回収が困難になる恐れがある。
【0016】
上記多孔質性固体による処理は、少なくとも、メチレンラクトン化合物を合成した後、2年以内に行うことが好ましい。より好ましくは、1年以内に行うことである。2年を過ぎると、着色を取り除く効果が小さくなる場合がある。なお、多孔質性固体によるメチレンラクトン化合物の処理は、一度だけ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0017】
上記メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する工程は、メチレンラクトン化合物の着色を除去するために行うものであり、処理工程を経たメチレンラクトン化合物の着色が、処理する前よりも少なくなっていればよいが、処理工程を経た後のメチレンラクトン化合物のUV−VISスペクトル分析を行い、スペクトルのベースラインをゼロに合わせた時に、400〜600nmの領域に観測されるピークのいずれかの吸光度の最大値が、処理する前に比べて90%以下になっていることが好ましい。より好ましくは、80%以下であり、更に好ましくは、40%以下であり、最も好ましくは観測されていたピークが消失することである。
【0018】
本発明のメチレンラクトン化合物は、下記一般式(1);
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表される。メチレンラクトン化合物は、常温及び冷蔵保存において着色が生じやすく、また、重合速度が低下したり、重合開始までの誘導期が長くなる等の重合性の低下も起こる場合があるが、多孔質性固体で処理することにより、これらの不具合を効果的に取り除くことができるため、本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法を好適に適用することができる。
なお、上記一般式(1)において、上記R、R、R及びRが下記のようなものであると、多孔質性固体で処理することによる効果がより顕著に発揮されることになる。
【0021】
上記R、R、R及びRとしては、水素原子、水酸基、炭素数1以上60以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基もしくは脂環式不飽和アルキル基、又は、炭素数1以上60以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミノ基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ元素等を有する原子団であることが好ましい。より好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上30以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、炭素数1以上30以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、オニウム塩を有する原子団である。更に好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、及び、炭素数1以上18以下のエステル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、アミノ基を有する原子団である。更に好ましくは、水素原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい炭素数1以上12以下の炭化水素基である。特に好ましくは、水素原子、水酸基、又は、炭素数1以上8以下のアルキル基である。最も好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基である。なお、上記R、R、R及びRは、結合し、環構造を形成してもよい。
【0022】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法に用いられる多孔質性固体は、活性炭、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアや、シリカ−アルミナ、ゼオライト、チタニア−ジルコニア等の複合酸化物、粘土化合物、ハイドロタルサイト、ポリオキソメタレート等が挙げられ、中でも、活性炭、アルミナ、及び、ハイドロタルサイトからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。多孔質性固体がこれらのものであると、メチレンラクトン化合物の着色を取り除いたり、重合性の低下を改善したり、メチレンラクトン化合物を着色や重合性の低下を起こしにくいものにしたりする効果がより顕著に発揮されることになる。
【0023】
本発明の多孔質性固体は、上記活性炭、アルミナ、及び、ハイドロタルサイトの中でも、活性炭であることがより好ましい。活性炭の種類は特に限定されず、やし殻系、木質系、石炭系等の原料から得られた活性炭を使用でき、水蒸気炭、塩化亜鉛炭等が使用できる。形状も特に限定されず、破砕状、顆粒状、成形状、球状、粉末状いずれの場合も使用することができる。表面のpHは、酸性、中性、塩基性いずれも使用できるが、弱酸性(pH=4.5)〜中性〜弱塩基性(pH=8.5)がより好ましい。特に好ましくは、やし殻系、木質系の水蒸気炭や塩化亜鉛炭であり、最も好ましくは、木質系の水蒸気炭や塩化亜鉛炭である。多孔質性固体として活性炭を用いると、メチレンラクトン化合物の着色を取り除いたり、重合性の低下を改善したりできることに加え、多孔質性固体で処理した後のメチレンラクトン化合物が処理しない場合に比べて無色もしくはそれに近い状態で、更なる着色を生じることなく、安定に保持する期間、及び、重合性の劣化を生じることなく安定して存在する期間をより長くすることができ、メチレンラクトン化合物を保存や取り扱いに適したものとする効果がより顕著に発揮されることになる。
【0024】
上記メチレンラクトン化合物は、例えば、塩基性触媒存在下、γ−ブチロラクトンと蟻酸エステルとを反応させ、続いて、得られた化合物をホルムアルデヒドと反応させる方法、塩基性触媒存在下、γ−ブチロラクトンとシュウ酸エステルとを反応させ、続いて、得られた化合物をホルムアルデヒドと反応させる方法、金属酸化物や塩基性触媒存在下、γ−ブチロラクトンをホルムアルデヒドと反応させる方法、α−ハロゲン化メチルアクリル酸を亜鉛存在下、カルボニル化合物と反応させる方法、アクリル酸とアルケン化合物とをパラジウム触媒等の存在下で反応させる方法等によって製造することができる。本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法は、このような製造方法によって製造されたメチレンラクトン化合物に好適に用いることができる。これらの中でも、塩基性触媒存在下、γ−ブチロラクトンと蟻酸エステルとを反応させ、続いて、得られた化合物をホルムアルデヒドと反応させる方法、金属酸化物や塩基性触媒存在下、γ−ブチロラクトンをホルムアルデヒドと反応させる方法、α−ハロゲン化メチルアクリル酸を亜鉛存在下、カルボニル化合物と反応させる方法、アクリル酸とアルケン化合物とをパラジウム触媒等の存在下で反応させる方法により得られたメチレンラクトン化合物に用いられることがより好ましい。このような製造方法によって製造されたメチレンラクトン化合物に用いると、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。
【0025】
上記のような製造方法で得られたメチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理して得られるものは、着色が充分に抑制され、また、高い重合性を有するものであることから、電子情報材料、光学材料や電池材料等をはじめとする各種産業分野で用いられる重合体の原料として好適に用いることができ、着色が充分に抑制された重合体を得ることができる。このような、本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法を用いて得られるメチレンラクトン化合物を原料として得られる重合体もまた、本発明の1つである。
以下に、光学材料用途に用いられる重合体を製造する場合について記載する。
【0026】
上記メチレンラクトン化合物を原料とする重合体の製造において、重合反応の温度は−100〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、0〜100℃である。
【0027】
上記重合体の原料となる単量体成分は、メチレンラクトン化合物を含む限り、その他の単量体を含んでいてもよいが、メチレンラクトン化合物が単量体成分100質量%中、5〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜100質量%である。メチレンラクトン化合物が5質量%未満であると、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがある。
【0028】
上記単量体成分が含むその他の単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル類等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニルが好ましい。より好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニルである。
【0029】
上記重合体の製造においては、溶媒を用いることなく行ってもよく、溶媒を用いて行ってもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、クロロホルム、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンが好ましい。より好ましくは、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトンである。また、使用する溶媒の沸点が高すぎると、最終的に得られるポリマーの残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃のものが好ましい。
【0030】
上記溶媒の使用量としては、全単量体濃度を20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%となるように設定することが好ましい。単量体濃度が20質量%より低い場合には生産性が低く、更に成形用材料として脱溶媒する際に大量の熱量が必要となる場合や、得られた成形用材料に残存揮発分が多くなる場合がある。またモノマー濃度が80質量%より高い場合には、重合の進行に伴いポリマー溶液の粘度が上昇し、撹拌や抜き出し、移送・輸送等が困難となる場合がある。
【0031】
上記重合体の製造においては、必要に応じて重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が好ましく、これらの1種又は2種以上を用いることができる。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定はされない。
【0032】
上記重合体の製造においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプト酢酸メチル等のメルカプタン系連鎖移動剤、α−メチルスチレンダイマー等が好ましく、これらの1種又は2種以上を用いることができる。より好ましくは、連鎖移動効果が高く、残存モノマーを低減でき、入手も容易な、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸である。連鎖移動剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや、反応条件、目標とするポリマーの分子量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、全単量体成分100質量%に対して5質量%以下が好ましい。より好ましくは1質量%以下である。
【0033】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法は、上述したように、酸素共存下よりもむしろ酸素非共存下における保存中に着色や重合性の低下を生じる場合があるという特有の性質を有するメチレンラクトン化合物に好適な取り扱い方法であり、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理することにより、メチレンラクトン化合物の保存によって生じる着色を取り除いたり、重合速度の低下や長期化した重合開始までの誘導期を改善したりすることができ、更に活性炭で処理をした場合には、無色もしくはそれに近い状態のまま、重合性の低下を生じさせることなく安定して存在する期間を長くすることができるものである。このような、上記一般式(1)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に多孔質性固体で処理することにより安定な状態とするメチレンラクトン化合物の安定化方法もまた、本発明の1つである。
更に、このような、上記一般式(1)で表されるメチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理して得られる、取り扱いに適した形態の安定なメチレンラクトン化合物もまた、本発明の1つである。
【0034】
本発明はまた、上記一般式(1)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に多孔質性固体で処理する工程を含むメチレンラクトン化合物の製造方法でもある。このような製造方法でメチレンラクトン化合物を製造することにより、安定化されたメチレンラクトン化合物を製造することができる。本発明のメチレンラクトン化合物の製造方法は、メチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に多孔質性固体で処理する工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。また、多孔質性固体で処理する工程は、上述したメチレンラクトン化合物の取り扱い方法における多孔質性固体で処理する工程と同様であることが好ましい。
【0035】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法によって得られるような、安定化されたメチレンラクトン化合物は、メチレンラクトン化合物に多孔質性固体を添加することによっても得ることができる。このような、上記一般式(1)で表されるメチレンラクトン化合物と多孔質性固体とを含むメチレンラクトン化合物含有組成物もまた、本発明の1つである。
本発明のメチレンラクトン化合物含有組成物は、メチレンラクトン化合物、及び、多孔質性固体をそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0036】
上記メチレンラクトン化合物含有組成物は、メチレンラクトン化合物含有組成物全体100質量%に対して、メチレンラクトン化合物を20質量%以上含むものが好ましい。より好ましくは、40質量%以上であり、更に好ましくは、50質量%以上であり、より更に好ましくは、60質量%以上であり、その上更に好ましくは、70質量%以上である。また、特に好ましくは、90質量%以上であり、より特に好ましくは、92質量%以上であり、更に特に好ましくは、94質量%以上である。その上特に好ましくは、96質量%以上であり、最も好ましくは、98質量%以上である。
また、上記メチレンラクトン化合物含有組成物は、メチレンラクトン化合物と多孔質性固体とを接触させている時間やメチレンラクトン化合物の変質の度合いにより異なるが、メチレンラクトン化合物含有組成物全体100質量%に対して、多孔質性固体を0.000001〜80質量%含むものであることが好ましい。より好ましくは、0.00001〜75質量%であり、更に好ましくは、0.0001〜70質量%である。特に好ましくは、0.0005〜65質量%であり、最も好ましくは、0.001〜60質量%である。
【0037】
本発明のメチレンラクトン化合物含有組成物は、メチレンラクトン化合物と多孔質性固体とを含む限り、その他の成分を含んでいてもよいが、組成物全体100質量%に対して、その他の成分の含有量が0.000001〜15質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.00001〜12質量%である。
【0038】
本発明のメチレンラクトン化合物含有組成物が含むメチレンラクトン化合物、及び、多孔質性固体として好ましいものは、上述した本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法における好ましいメチレンラクトン化合物、及び、多孔質性固体と同様である。
【発明の効果】
【0039】
本発明のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法は、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理することにより、メチレンラクトン化合物の着色を効果的に取り除いたり、重合速度の低下や長期化した重合開始までの誘導期を改善したりすることができるものであり、更にメチレンラクトン化合物の着色や重合性の低下を抑制し、無色もしくはそれに近い状態のまま、かつ、重合速度の低下や重合開始までの誘導期の長期化を生じさせることなく安定して存在する期間を長くしてメチレンラクトン化合物を保存や取り扱いに好適な形態にすることができるメチレンラクトン化合物の取り扱い方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
α−メチレン−γ−ブチロラクトンは、減圧蒸留ではなくカラムクロマトグラフィーにより精製(無色)した以外は、US5166357を参考に合成した。ガスクロマトグラフィー(Agilent社 6890Nを使用)分析の結果、純度は99.5%(面積比換算)であった。
α−メチレン−γ−バレロラクトンは、東京化成から購入した試薬(薄黄色)を使用した。ガスクロマトグラフィー(Agilent社 6890Nを使用)分析の結果、純度は約96%(面積比換算)であった。
紫外−可視分光分析(UV−VIS)はSHIMADZU社 UV−1650PCを用い、セミミクロブラックセルに試料を直接入れて測定した。
活性炭は日本エンバイロケミカルズ社の白鷲を使用した。アルミナはメルク社製のアルミナ(中性)を使用した。ハイドタルサイトは富田製薬社製のハイドロタルサイトを使用した。
なお、下記実施例においては、実験日が異なる等の操作上の理由により、スペクトルのベースラインが必ずしもゼロに一致していない場合には、スペクトルの700〜800nmの部分をベース(ゼロ)として吸光度の数値を読むこととした。
【0042】
(試料A)α−メチレン−γ−ブチロラクトン(30g)に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(500ppm)を加えて空気下冷蔵庫で保存した。1ヶ月後、α−メチレン−γ−ブチロラクトンが薄黄色〜薄桃色に着色していることを目視により確認した。UV−VISを測定したところ、スペクトルA(比較例1)が観測された。
【0043】
(試料B)α−メチレン−γ−ブチロラクトン(30g)を空気下室温で保存した。1ヶ月後、α−メチレン−γ−ブチロラクトンが薄桃色に着色していることを目視により確認した。UV−VISを測定したところ、スペクトルB(比較例2)が観測された。
【0044】
(試料C)試料Aを更に6ヶ月間空気下室温で保存した。UV−VISを測定したところ、スペクトルC(比較例3)が観測された。
【0045】
(試料D)α−メチレン−γ−バレロラクトン(5g)を空気下室温で保存した。1ヶ月後、α−メチレン−γ−バレロラクトンが元の薄黄色から濃い黄色に変色していることを目視により確認した。UV−VISを測定したところ、スペクトルD(比較例4)が観測された。
【0046】
(試料E)α−メチレン−γ−バレロラクトン(5g)を窒素下室温で保存した。1ヶ月後、α−メチレン−γ−バレロラクトンが元の薄黄色から濃い黄色に変色し、その色は試料Dよりも濃いことを目視により確認した。UV−VISを測定したところ、スペクトルE(比較例5)が観測された。
【0047】
(実施例1)
試料A(1.5g)を試験管に入れ、ここに活性炭(0.1g)を加えて、空気下室温で2時間放置した。活性炭を濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル1が観測された。
【0048】
(実施例2)
試料A(1.5g)を試験管に入れ、ここに活性炭(0.1g)を加えて、空気下室温で6時間放置した。活性炭を濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル2が観測された。
【0049】
(実施例3)
試料A(1.5g)を試験管に入れ、ここにアルミナ(中性:0.1g)を加えて、空気下室温で2時間放置した。アルミナを濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル3が観測された。
【0050】
(実施例4)
試料A(1.5g)を試験管に入れ、ここにハイドロタルサイト(0.1g)を加えて、空気下室温で2時間放置した。ハイドロタルサイトを濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル4が観測された。
【0051】
(実施例5)
試料B(1.5g)を試験管に入れ、ここに活性炭(0.1g)を加えて、空気下室温で6時間放置した。活性炭を濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル5が観測された。
【0052】
(実施例6)
試料C(1.5g)を試験管に入れ、ここに活性炭(0.1g)を加えて、空気下室温で6時間放置した。活性炭を濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル6が観測された。
【0053】
(実施例7)
試料D(1.5g)を試験管に入れ、ここに活性炭(0.1g)を加えて、空気下室温で12時間放置した。活性炭を濾過し、UV−VISを測定したところ、スペクトル7が観測された。
【0054】
(実施例8)
実施例2で得られた液を空気下室温で保存した。1ヶ月後にUV−VISを測定したところ、スペクトル8が観測された。
【0055】
(実施例9)
反応装置に、実施例7で得られたα−メチレン−γ−バレロラクトン(0.8g)を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)(0.002g)を添加し、均一な溶液とした。反応液を静置のまま85℃まで昇温して、硬化するまでの時間を目視にて観察したところ、40分であった。なお、硬化するまでの時間とは、α−メチレン−γ−バレロラクトンの重合が進行し流動性がなくなった時点までの時間を指す。
【0056】
(比較例6)
反応装置に、試料D(0.8g)を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)(0.002g)を添加し、均一な溶液とした。反応液を静置のまま85℃まで昇温して、硬化するまでの時間を目視にて観察したところ、90分を要した。また、得られた重合物は、実施例9で得られた重合物に比べて強く黄色に変色した。
【0057】
(結果)
試料Aを測定したスペクトルAの測定結果から、メチレンラクトン化合物であるα−メチレン−γ−ブチロラクトンに、市販品と同様に重合禁止剤である2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを添加したものであっても、保存中に着色を生じることが確認された。また、実施例1〜4の結果から、試料Aを多孔質性固体で処理した後は、着色が低減されていること、及び、多孔質性固体として活性炭を用いた場合に着色低減の効果が最も高いことが確認された。
試料Bを測定したスペクトルBの測定結果から、メチレンラクトン化合物であるα−メチレン−γ−ブチロラクトンに重合禁止剤を添加しない場合にも保存中に着色を生じることが確認され、実施例5の結果から、試料Bを多孔質性固体で処理した後は、着色が低減されていることが確認された。
試料Cを測定したスペクトルCとスペクトルAとの比較から、α−メチレン−γ−ブチロラクトンの保存期間が長くなると、着色が強くなることが確認された。また、実施例6の結果から、試料Cのように、着色が強い場合にも、多孔質性固体による処理によって、着色が充分に低減されていることが確認された。
試料D及びEのスペクトル測定結果から、メチレンラクトン化合物は、空気存在下よりも窒素下で保存した場合のほうが着色が大きいことが確認された。また、実施例7の結果から、メチレンラクトン化合物としてα−メチレン−γ−ブチロラクトンに代えてα−メチレン−γ−バレロラクトンを用いた場合にも、多孔質性固体による処理によって、着色が充分に低減されることが確認された。
試料Aを測定したスペクトルAと、実施例8のスペクトル8との比較から、多孔質性固体で処理した後のメチレンラクトン化合物は、処理をしないものに比べて、保存中の着色が抑制され、より安定なメチレンラクトン化合物となることが確認された。
実施例9と比較例6との比較から、多孔質性固体で処理した後のメチレンラクトン化合物は、処理をしないものに比べて、重合性が優れており、多孔質性固体による処理によって重合性の低下が改善されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】α−メチレン−γ−ブチロラクトンに2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを加えて空気下冷蔵庫で1ヶ月保存した試料(試料A)、及び、当該試料に実施例1〜4に記載の多孔質性固体による処理を行った後のUV−VISスペクトル分析結果である。
【図2】α−メチレン−γ−ブチロラクトンを空気下室温で1ヶ月保存した試料(試料B)、及び、当該試料に実施例5に記載の多孔質性固体による処理を行った後のUV−VISスペクトル分析結果である。
【図3】試料Aを更に6ヶ月間空気下室温で保存した試料(試料C)、及び、当該試料に実施例6に記載の多孔質性固体による処理を行った後のUV−VISスペクトル分析結果である。
【図4】α−メチレン−γ−バレロラクトンを空気下室温で1ヶ月で保存した試料(試料D)、窒素下室温で1ヶ月で保存した試料(試料E)、及び、試料Dに実施例7に記載の多孔質性固体による処理を行った後のUV−VISスペクトル分析結果である。
【図5】試料A、及び、試料Aに実施例2に記載の多孔質性固体による処理を行った後、空気下室温で1ヶ月保存した後のUV−VISスペクトル分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に取り扱う方法であって、該取り扱い方法は、メチレンラクトン化合物を多孔質性固体で処理する工程を含んでなる
ことを特徴とするメチレンラクトン化合物の取り扱い方法。
【請求項2】
前記多孔質性固体は、活性炭、アルミナ、及び、ハイドロタルサイトからなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項1に記載のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法。
【請求項3】
前記多孔質性固体は、活性炭であることを特徴とする請求項2に記載のメチレンラクトン化合物の取り扱い方法。
【請求項4】
下記一般式(1);
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、メチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に多孔質性固体で処理する工程を含む
ことを特徴とするメチレンラクトン化合物の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(1);
【化3】

(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物を製造時及び/又は製造後に多孔質性固体で処理して得られる
ことを特徴とするメチレンラクトン化合物。
【請求項6】
下記一般式(1);
【化4】

(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、1価の有機基を表す。)で表されるメチレンラクトン化合物と多孔質性固体とを含む
ことを特徴とするメチレンラクトン化合物含有組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−179614(P2009−179614A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21496(P2008−21496)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】