説明

メッキ方法

【課題】設備や工程の複雑化を招くことなく、被加工物の微細な孔にもメッキが施されるメッキ方法を提供する。
【解決手段】被加工物10の微細孔11には飽和水蒸気が充填される。飽和水蒸気は空気と同様に気体であるため、微細孔11に残存する空気15は水蒸気16によって置換される。この水蒸気16が充填された微細孔11を含む被加工物10を冷却すると、微細孔11に充填された水蒸気16は凝縮する。そのため、凝縮した水蒸気16は、水膜17となって微細孔11の内表面を覆う。この微細孔11の表面に凝縮した水膜17およびメッキ液19はいずれも液体であるため、メッキ液19は表面張力の影響を受けることなく微細孔11に浸入する。その結果、微細孔11に水膜17が形成された被加工物10をメッキ液19に浸漬することにより、微細孔11における水の凝縮で生成した水膜17とメッキ液19とは容易に置換される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ方法に関し、特に微細孔を有する被加工物の表面にメッキを行うメッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な穴が形成された基板や多孔体などのように微細孔を有する被加工物にメッキを施す場合、これら微細孔の内壁にも均一なメッキを行うことが求められている。被加工物に設けられている微細孔が小さくなるほど、メッキ液は自身の表面張力によって微細孔への充填が妨げられる。そのため、孔の微細化が進むほど、均一なメッキが困難になっている。
【0003】
そこで、従来は、以下のような方法により微細孔へのメッキ液の充填が提案されている。例えば、特許文献1〜3の場合、被加工物へ超音波を照射することにより、微細孔に残存する空気の排出および微細孔へのメッキ液の充填の促進を図っている。また、特許文献3は、被加工物を超音波で振動させることにより、微細孔に残存する空気の排出および微細孔へのメッキ液の充填の促進を図っている。さらに、特許文献4は、メッキ液を攪拌することにより、微細孔へのメッキ液の充填の促進を図り、特許文献5は、メッキ液に界面活性剤を添加することにより、微細孔へのメッキ液の充填の促進を図っている。
【0004】
しかしながら、近年の被加工物となる機器の高集積化および小型化の進展にともない、被加工物に形成される微細孔はさらなる微細化が進んでいる。そのため、従来の技術では、被加工物への均一なメッキが困難になりつつある。また、従来の場合、超音波の照射や攪拌などが必要となるため、処理設備の複雑化を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−212754号公報
【特許文献2】特開平9−326931号公報
【特許文献3】特開平11−080990号公報
【特許文献4】特開平10−223681号公報
【特許文献5】特開2005−126803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、設備や工程の複雑化を招くことなく、被加工物の微細な孔にも確実にメッキが施されるメッキ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のメッキ方法は、微細孔を有する被加工物に対し、前記微細孔の内側を含む表面にメッキを行うメッキ方法であって、前記被加工物の前記微細孔の内側に飽和水蒸気を充填する工程と、飽和水蒸気が充填された前記被加工物を冷却して、前記微細孔の内側に水蒸気の凝縮による水膜を形成する工程と、前記微細孔の内側に前記水膜が形成された前記被加工物をメッキ液に浸漬し、前記微細孔の内側にメッキ液を充填し、前記微細孔の内側にメッキ層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成により、請求項1記載のメッキ方法では、微細孔には飽和水蒸気が充填される。飽和水蒸気は、空気と同様に気体である。そのため、微細孔に残存する空気は、飽和水蒸気によって容易に置換される。その結果、微細孔には、飽和水蒸気が充満する。この飽和水蒸気が充填された微細孔を含む被加工物を冷却すると、微細孔に充填された水蒸気は凝縮する。そのため、凝縮した水蒸気は、水膜となって微細孔の内表面を覆う。この微細孔の表面に凝縮した水膜とメッキ液とはいずれも液体であるため、メッキ液は表面張力の影響を受けにくくなる。その結果、微細孔に水膜が形成された被加工物をメッキ液に浸漬することにより、微細孔に凝縮した水膜とメッキ液とは容易に置換される。これにより、微細孔の内側にもメッキ液が速やか、かつ確実に充填される。また、例えば被加工物を水蒸気が飽和した空間に収容する、あるいは被加工物を熱水に浸漬することにより、微細孔には飽和水蒸気が充填される。そのため、処理を行うための複雑な設備を必要としない。したがって、設備や工程の複雑化を招くことなく、被加工物に形成されている微細な孔にも均一にメッキを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態によるメッキ方法の被加工物を示す模式的な断面図
【図2】第1実施形態によるメッキ方法の手順を示す概略図
【図3】図1のIII部分の拡大図であって、(A)は水蒸気が供給された状態、(B)は水膜が形成された状態、(C)はメッキ液が供給された状態を示す
【図4】第2実施形態によるメッキ方法の手順を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、メッキ方法の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるメッキ方法を説明する。
【0011】
図1に示すように、メッキが施される対象となる被加工物10は、複数の微細孔11、12を有している。微細孔11、12は、例えば被加工物10である基板に形成されているスルーホールや多孔質部材の孔部など、意図的に形成した孔や、基板の表面に形成の意図とは無関係に不可避的に形成される孔など任意の微細な孔である。なお、本明細書中において「微細孔」とは、微細孔12のように被加工物10の一方の端部から他方の端部まで閉塞されていない孔、および微細孔11のように一方の端部が閉塞された孔の双方を含むものとする。
【0012】
被加工物10は、メッキを形成する前に、例えば外形などの形状の整形や意図的な微細孔12の形成などの加工が施されている。そして、被加工物10は、必要に応じて表面の洗浄や表面の処理などの複数の工程が施されている。これらの前処理が施された被加工物10は、図2(A)に示すように水蒸気が充満された処理室13に入れられる。処理室13は、水蒸気が充満、すなわち内部に充填されている気体の大部分が水蒸気である。
【0013】
この処理室13に被加工物10を入れることにより、処理室13の水蒸気は被加工物10の微細孔11、12に浸入する。これにより、被加工物10の微細孔11、12に残存する空気は、処理室13の水蒸気によって置換される。すなわち、図3に示すように被加工物10の微細孔11は、空気15が追い出され、水蒸気16が充填される。この結果、微細孔11の内部は、飽和水蒸気によって満たされる。
【0014】
処理室13での処理が完了すると、図2(B)に示すように被加工物10は冷却される。被加工物10を冷却することにより、微細孔11の内側に充填されている水蒸気は凝縮する。そのため、図3(B)に示すように微細孔11の内側は、凝縮によって生成した水の水膜17で覆われる。すなわち、微細孔11は、処理室13での処理によって飽和水蒸気が満たされていたため、内表面の全体が凝縮した水による水膜17で濡れた状態となる。
【0015】
冷却された被加工物10は、図2(C)に示すようにメッキ槽18のメッキ液19に浸漬される。このとき、被加工物10の微細孔11は、図3(B)に示すように凝縮した水による水膜17によって内面の全体が濡れている。そのため、メッキ液19は、図3(C)に示すように表面張力の影響が低減されつつ微細孔11へ浸入する。すなわち、微細孔11の内表面に形成されている水膜17は、被加工物10をメッキ液19に浸漬することにより、メッキ液19の表面張力の影響を受けることなくメッキ液19と置換される。その結果、微細孔11の内側には、メッキ液19が充填される。例えば無電解メッキの場合、被加工物10は、メッキ液19に所定の時間浸漬される。また、電解メッキの場合、被加工物10は、メッキ液19に浸漬された状態で所定の時間通電される。
【0016】
以上の手順により、メッキ液19は微細孔11の内側へ均一に浸透する。そのため、被加工物10は、微細孔11の内側にも均一なメッキ層が形成される。
以上説明した第1実施形態では、被加工物10の微細孔11には処理室13において飽和水蒸気が充填される。飽和水蒸気は、空気と同様に気体である。そのため、微細孔11に残存する空気15は、水蒸気16によって容易に置換される。その結果、微細孔11には、水蒸気16が充満する。この水蒸気16が充填された微細孔11を含む被加工物10を冷却すると、微細孔11に充填された水蒸気16は凝縮する。そのため、凝縮した水蒸気16は、水膜17となって微細孔11の内表面を覆う。この微細孔11の表面に凝縮した水膜17とメッキ液19とはいずれも液体であるため、メッキ液19は表面張力の影響が低減されつつ微細孔11に浸入する。その結果、微細孔11に水膜17が形成された被加工物10をメッキ液19に浸漬することにより、微細孔11における水の凝縮で生成した水膜17とメッキ液19とは容易に置換される。これにより、微細孔11の内側にもメッキ液19が速やか、かつ確実に充填される。したがって、設備や工程の複雑化を招くことなく、微細孔11が形成されている被加工物10にも、もれなくメッキを施すことができる。
【0017】
(第2実施形態)
第2実施形態の場合、被加工物10に飽和水蒸気を供給する方法が第1実施形態と異なる。第1実施形態では、図2(A)に示すように水蒸気が充満した処理室13に被加工物10を入れることにより微細孔12へ水蒸気を供給した。これに対し、第2実施形態では、被加工物10は、図4(A)に示すように熱水槽20の熱水21に浸漬される。熱水21は、沸騰状態または沸騰前後の80℃以上に設定されている。被加工物10を熱水21に浸漬することにより、被加工物10の微細孔11に残存している空気は膨張し、微細孔11の外側へ排出される。被加工物10は熱水21に浸漬されているため、微細孔11からの空気の排出に代わって熱水21が微細孔11へ浸入する。また、微細孔11から空気が完全に排出されなくても、微細孔11には熱水21を由来とする水蒸気が充満し、微細孔11の内部における水蒸気の割合は増大する。その結果、被加工物10を熱水21に浸漬することにより、微細孔11の内側には水蒸気が供給され、その後に図4(B)に示すように被加工物10を冷却することにより、被加工物10の微細孔11の内側には第1実施形態と同様に水膜17が形成される。したがって、微細孔11に水膜17が形成された被加工物10を図4(C)に示すようにメッキ液19に浸漬することにより、第1実施形態と同様に第2実施形態の場合でも、微細孔11の内側に均一なメッキを施すことができる。
【0018】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。なお、上記の複数の実施形態では、図3に示すように微細孔11を例に水蒸気または熱水の浸入について説明したが、微細孔12やその他の微細孔についても微細孔11と同様に空気と水蒸気が置換される。また、被加工物10は、説明した例である板状に限らず、例えば電池の電極など多孔質材料で形成してもよい。このような多孔質材料の場合、この多孔質材料を構成する複数の孔が微細孔に相当する。
【0019】
また、上記実施形態では、被加工物10を室温より高い温度の飽和水蒸気に晒すまたは熱水に浸した後、室温付近まで冷却する例について説明した。しかし、室温の被加工物10を室温以下に冷却する構成としてもよい。すなわち、被加工物10を室温に放置した後、この被加工物10を室温以下、例えば露点以下に冷却する。これにより、室温に放置されている被加工物10の周囲の水蒸気は、冷却によって結露し、微細孔11に水膜を形成する。その結果、上記実施形態と同様に被加工物10をメッキ液を浸漬することにより、水膜とメッキ液とが置換され、微細孔11の内側にムラのない均一なメッキを施すことができる。
【符号の説明】
【0020】
図面中、10は被加工物、11は微細孔、16は水蒸気、17は水膜、19はメッキ液を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細孔を有する被加工物に対し、前記微細孔の内側を含む表面にメッキを行うメッキ方法であって、
前記被加工物の前記微細孔の内側に飽和水蒸気を充填する工程と、
飽和水蒸気が充填された前記被加工物を冷却して、前記微細孔の内側に水蒸気の凝縮による水膜を形成する工程と、
前記微細孔の内側に前記水膜が形成された前記被加工物をメッキ液に浸漬し、前記微細孔の内側にメッキ液を充填し、前記微細孔の内側にメッキ層を形成する工程と、
を含むことを特徴とするメッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−52263(P2011−52263A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201581(P2009−201581)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(390036009)株式会社山田メッキ工業所 (1)
【Fターム(参考)】