説明

メマンチン含有経皮吸収製剤

【課題】
本発明は、メマンチン又はその薬学的に許容できる塩を有効成分とし、皮膚刺激が少なく、治療に必要な量の有効成分を投与可能とする経皮吸収型製剤を提供する。
【解決手段】
本発明は、少なくとも1種の薬物を含有する経皮吸収製剤において、当該薬物がメマンチン又はその薬学的に許容できる塩であり、かつメマンチン又はその薬学的に許容できる塩の皮膚透過速度が0.32mg/日/cm以下であることを特徴とする経皮吸収製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メマンチン(Memantine)又はその薬学的に許容できる塩を有効成分の少なくとも1種として含有してなるアルツハイマー型認知症治療用の経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、薬物の経口投与では、例えば、薬物を経口投与すると腸で吸収された薬物は肝臓へ循環して代謝を受けるため、その薬効を発現する前にかなりの量が分解される等の欠点がある。これに対して、経皮投与では、吸収された薬物は体内の初回循環時に肝臓を通過しないため、肝臓の代謝により薬効が大幅に減少することがなく、また薬物の吸収性をコントロールすることが容易となり、薬物が短時間に大量に吸収されるために起こる副作用を軽減することが可能となる。さらに、長時間にわたり一定の血中濃度を維持することが容易となり、薬物の投与回数を減らすことが可能となる。全身又は局部での薬効を得るために、経皮吸収貼付剤を用い、皮膚を介して薬物(生理活性物質)を吸収させることが行われている。
一方、メマンチンはN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体阻害薬であり、欧米においては現在臨床の場においてアルツハイマー型認知症治療剤として使用されている。NMDA受容体は、グルタミン酸による神経細胞毒性の発現に関与しており、メマンチンにより本受容体を阻害することでアルツハイマー型認知症患者の神経細胞の脱落を抑制し、病態進行を遅延させることができるとされている。現在実用的に用いられているメマンチンの製剤は塩酸メマンチンの錠剤および液剤であり、「Namenda」の商品名で経口剤としてアルツハイマー型認知症患者に処方されている。
【0003】
現在実用的に用いられているメマンチンの製剤は塩酸メマンチンの経口投与製剤であり、患者が服用するために、症状が進んだ場合には経口的に服用することが困難となる場合がある。特許文献1には、このような場合に投与回数の軽減のため、徐放化経口剤の処方が開示されているが、徐放化経口剤では服薬コンプライアンスは改善するものの服用困難さは依然として改善されず、根本的には解決法にはなっていない。
従って、経口投与よりもむしろ、簡便に皮膚に貼付するのみで投与が可能な貼付剤等による経皮投与が適していると考えられ、経皮投与製剤の開発も同時に試みられており(特許文献1〜3参照)、特許文献1ではメマンチンのエタノール溶液が使用されており、特許文献2ではオクタヒドロハイパーフォリン塩が使用されており、特許文献3では溶媒としてジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが使用されている。しかし、これらの文献にはメマンチンを皮膚刺激が無く安全、快適に投与するための方法については開示されていない。
そこで、本発明者らもメマンチンの経皮吸収製剤を作製し、その性状を確認したとろ、特許文献1に開示されたメマンチン経皮製剤では、非常に強い皮膚刺激を示し、しかもその皮膚刺激がメマンチン由来のものであることが新たな課題として明らかとなった。従って、より投薬コンプライアンスを改善し、かつ薬効を十分に発揮できるメマンチン含有製剤として、より皮膚刺激が少なく、メマンチンを長期間にわたり投与できる経皮吸収製剤が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】米国特許公開2006/0142398号公報
【特許文献2】特表2007−505152号公報
【特許文献3】特表2007−508261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メマンチン又はその薬学的に許容できる塩を有効成分とし、皮膚刺激が少なく、治療に必要な量の有効成分を投与可能とする経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、メマンチンを含有してなる経皮吸収製剤の皮膚刺激について検討してきたところ、メマンチンの皮膚透過速度と皮膚刺激に関連性が有ることを見出し、メマンチンの皮膚透過速度を一定量以下とすることで皮膚刺激を極めて効率的に低く抑えることができることを見出した。さらに、メマンチンの経皮吸収量を効果的に制御することにより、長時間にわたり薬効を示し、かつ皮膚刺激が少ない製剤が得られることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、少なくとも1種の薬物を含有する経皮吸収製剤において、当該薬物がメマンチン又はその薬学的に許容できる塩であり、かつメマンチン又はその薬学的に許容できる塩の皮膚透過速度が0.32mg/日/cm以下であることを特徴とする経皮吸収製剤を提供する。
上記薬物が、メマンチンの薬学的に許容できる塩を塩基、好ましくは水酸化ナトリウムで中和したものであることを特徴とする経皮吸収製剤を提供する。
さらに、本発明は、上記経皮吸収製剤が支持体層と少なくともその片面に薬物含有基剤としての粘着剤層を有する経皮吸収製剤を提供する。
かかる経皮吸収製剤により、メマンチンに由来する皮膚刺激が生じず、十分な薬効を発揮できる。
【0008】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)薬物としてメマンチン又はその薬学的に許容できる塩を含有してなる経皮吸収製剤であって、当該メマンチン又はその薬学的に許容できる塩の皮膚透過速度が0.32mg/日/cm以下であることを特徴とする経皮吸収製剤。
(2)薬物が、メマンチンの薬学的に許容できる塩を塩基で中和したものである前記(1)に記載の経皮吸収製剤。
(3)塩基が、水酸化ナトリウムである前記(2)に記載の経皮吸収製剤。
(4)塩基が、基剤全体の0.1〜5質量%である前記(2)又は(3)に記載の経皮吸収製剤。
(5)メマンチンの薬学的に許容できる塩が、塩酸塩である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
(6)メマンチン又はその薬学的に許容できる塩が、基剤全体の3〜20質量%である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
(7)メマンチン又はその薬学的に許容できる塩が、基剤全体の3〜10質量%である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
(8)経皮吸収製剤が、支持体層と少なくともその片面に薬物含有基剤としての粘着剤層を有するものである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
(9)経皮吸収製剤が、非水系の貼付剤である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
(10)貼付剤が、プラスター剤である前記(9)に記載の経皮吸収製剤。
(11)メマンチンの薬学的に許容できる塩を塩基で中和し、次いでこれを経皮吸収基剤と混合してなる前記(1)〜(10)のいずれかに記載の経皮吸収製剤を製造する方法。
(12)中和が、塩基の水溶液を用いて行われる(11)に記載の方法。
【0009】
以下、本発明の経皮吸収製剤に関してさらに詳細に説明する。
本発明の経皮吸収製剤は、少なくとも有効成分となる薬物を含有してなる基剤を含有してなるものであって、基剤中の薬物の少なくとも1種としてメマンチン又はその薬学的に許容できる塩を含有してなるものである。
本発明の経皮吸収製剤としては、皮膚又は粘膜から経皮的に薬物を吸収することができる製剤であればよく、具体的には例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、スプレー、パップ剤やプラスター剤等の貼付剤などが挙げられる。
本発明に用いられる必須の薬物成分は、メマンチン(1−アミノ−3,5−ジメチルアダマンタン)、又はその薬学的に許容できる塩(以下では、メマンチン又はその薬学的に許容できる塩を含めて、単にメマンチン類ということもある。)であり、メマンチン類は単独であってもよいが、メマンチン類と他の薬剤を併用することもできる。本発明におけるメマンチンの薬学的に許容される塩としては、メマンチンのアミノ基において塩を形成することができるものであれば有機酸塩や無機酸塩のいずれであってもよく、具体的には例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩や、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩などの有機カルボン酸塩や、メタンスルホン酸塩などの有機スルホン酸塩等が挙げられる。好ましいメマンチンの塩類としては、塩酸メマンチンが挙げられる。
【0010】
本発明の経皮吸収製剤は、薬物として基剤中に少なくともメマンチン又はその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を含有するものであって、当該経皮吸収製剤におけるメマンチン又はその薬学的に許容される塩の皮膚透過速度が、0.32mg/日/cm以下、好ましくは0.3mg/日/cm以下に制御されていることを特徴とするものである。本発明者らの知見によれば、かかる速度以下に皮膚透過速度を制御することにより、メマンチンに由来する皮膚刺激を大幅に抑制することが可能となる。これは、経皮投与におけるメマンチン類の皮膚透過速度と、メマンチン類に由来する皮膚刺激との間に関連性が有り、皮膚透過速度が0.32mg/日/cmを超える場合には、メマンチンに由来する皮膚刺激が生じやすくなるという本発明者らによる新たな知見に基づくものである。なお、本発明における「皮膚刺激を有する」とは、一般的に皮膚刺激の指標とされるウサギ一次皮膚刺激性から求めたPII値(皮膚一次刺激指数)が2.5以上、好ましくは1.0以上であることをいい、「皮膚刺激を低減する」とは、かかるPII値が2.5未満、好ましくは1.0未満となることをいう。
なお、ヒトに対する皮膚刺激をウサギを用いる皮膚一次刺激性試験で評価できることは知られている(「皮膚刺激性・感作性試験の実施法と皮膚性状計測および評価」技術情報協会 1999年発行)。
また、メマンチン類による薬効の発現には、0.05mg/日/cm以上、好ましくは0.1mg/日/cm以上の皮膚透過速度が必要であることから、本発明の経皮吸収製剤におけるメマンチン類の好ましい皮膚透過速度としては、0.05mg/日/cm〜0.32mg/日/cm、又は0.1mg/日/cm〜0.32mg/日/cm、より好ましくは0.05mg/日/cm〜0.3mg/日/cm、又は0.1mg/日/cm〜0.3mg/日/cmが挙げられる。さらには、0.05mg/日/cm〜0.15mg/日/cm、又は0.1mg/日/cm〜0.15mg/日/cmが挙げられる。本発明の経皮吸収製剤におけるメマンチン類の皮膚透過速度をこの範囲に制御することにより、メマンチン類由来により皮膚刺激を低減することが可能となる。
すなわち、本発明の経皮吸収製剤は、経皮吸収速度が0.32mg/日/cm以下である経皮吸収製剤であり、好ましくは、経皮吸収速度が0.3mg/日/cm以下である経皮吸収製剤である。かかる範囲とすることで、十分な薬効を有しながら、皮膚刺激を低減するメマンチン類を含有する経皮吸収製剤を得ることが可能となる。
本発明にしたがってメマンチン類の皮膚透過速度をこの範囲に制御する方法としては、経皮吸収製剤の表面積当たりのメマンチンの含有量や濃度を調整する方法、経皮吸収製剤の基剤として特定の基剤を選定する方法、吸収調節剤のような吸収速度調節剤を用いる方法などの各種の手段を採用することができるが、本発明はこのような手段に限定されるものではない。
また、上記のメマンチン類の皮膚透過速度を得られれば、製剤中に含まれるメマンチン類の含有量は特に限定されないが、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%程度であることが好ましい。また、粘着剤層の面積当たりのメマンチン(フリー体)の濃度としては、例えば、0.02mg/cm〜2.4mg/cm、好ましくは0.1mg/cm〜2.4mg/cm、0.1mg/cm〜2.0mg/cm程度が挙げられるが、前記した皮膚透過速度となるものであれば、これに限定されるものではない。
【0011】
かかるメマンチン類の皮膚透過速度を得るために、メマンチンを薬学的に許容される酸付加塩として使用した場合には、製剤中に塩基を添加してメマンチン酸付加塩を中和させておくことが好ましい。
本発明における塩基の作用は明らかではないが、メマンチンの酸付加塩に対する中和剤として作用し、その結果メマンチンの皮膚透過速度を皮膚刺激がでないレベルに調整していると考えられる。このように、塩基を含有させることにより、メマンチンの酸付加塩を中和し遊離のメマンチンとすることができ、メマンチンの「皮膚透過量」を制御することができ、かつ皮膚刺激が生じないレベルの「皮膚透過速度」に調整することが可能となるため、かかる塩基はメマンチンの吸収制御剤とともに皮膚刺激低減剤として作用しているものと考えられる。
このような、塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、有機アミン誘導体(例えばジエチルアミン等)などが挙げられ、水酸化ナトリウムが特に好ましい。特に、塩酸メマンチンと、水酸化ナトリウムとを組み合わせて、本発明の経皮吸収製剤中に含有させることが好ましい。
塩基の配合量は、メマンチン類の十分な皮膚刺激の低減を可能とするならば特に限定はされないが、製剤中に0.01〜5質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜5質量%配合することができる。また、塩基の量としては、メマンチンの酸付加塩を中和にすることができる量、又はそれ以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の経皮吸収製剤は、先述したようにメマンチン類を経皮から吸収させるものであれば特に限定されないが、より好ましくは、ODT効果(密封包帯法)を有する貼付剤としての使用が最適である。
かかる貼付剤は、支持体層とその少なくとも一面に粘着剤層を有した構成を有するものが挙げられる。当該粘着剤層には、有効成分としてのメマンチン類、粘着組成物、その他配合物を含有させることができる。
【0013】
本発明の粘着組成物としては、自己粘着力を有する粘着組成物であって、疎水性の高分子を含有したものなどが挙げられる。当該疎水性の高分子としては、疎水性であれば特に限定されないが、アクリル系高分子またはゴム系の高分子が好ましく用いられる。
アクリル系高分子としては、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート等に代表される(メタ)アクリル酸誘導体を少なくとも一種含有させて共重合したものであれば特に限定されないが、例えば、医薬品添加物事典2000(日本医薬品添加剤協会編集)に粘着剤として収載されているアクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体溶液、アクリル酸エステル−酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸メチル−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂アルカノールアミン液に含有するアクリル系高分子等の粘着剤、DURO−TAKアクリル粘着剤シリーズ(ナショナルスターチアンドケミカル社製)、オイドラギットシリーズ(樋口商会)等が使用できる。ただし、カルボキシル基含有タイプのアクリル粘着剤を用いた場合は、メマンチン類の皮膚透過性が損なわれる傾向があり好ましくない。一方、水酸基含有タイプのアクリル粘着剤(例えば、Duro−Tak 87−2510、Duro−Tak 87−2516など)、無官能基タイプのアクリル粘着剤(例えば、Duro−Tak 87−4098、
Duro−Tak 87−900A、Duro−Tak 87−9301など)は、メマンチン類を良好に皮膚透過させることができるため好ましい。
ゴム系の高分子としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SISと略記する)、イソプレンゴム、ポリイソブチレン(以下、PIBと略記する)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、SBSと略記する)、スチレン−ブタジエンゴム(以下、SBRと略記する)、ポリシロキサン等が挙げられ、その中でも、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体とポリイソブチレンが好ましく、特にスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が好ましい。このような疎水性高分子は2種以上混合して使用しても良い。
本発明における好ましい粘着組成物としては、水酸基含有タイプのアクリル粘着剤、無官能基タイプのアクリル粘着剤、SIS/PIBなどが挙げられる。
これら高分子の組成全体の質量に基づく配合量は、粘着剤層の形成及び充分な透過性を考慮して、5〜95質量%、好ましくは10〜95質量%を配合することができる。
【0014】
粘着剤層には、さらに有機酸及び/又はその薬学的に許容し得る塩を含有しても良い。使用される有機酸としては、特に制限はないが、脂肪族(モノ、ジ、トリ)カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、乳酸、マレイン酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸等)、芳香族カルボン酸(例えば、フタル酸、サリチル酸、安息香酸、アセチルサリチル酸等)、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロピルスルホン酸、ブタンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸等)、アルキルスルホン酸誘導体(例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペリジン−N’−2−エタンスルホン酸(以下、「HEPES」と略記する)等)、コール酸誘導体(例えば、デヒドロコール酸等)を挙げることができ、その中でも酢酸、プロピオン酸、乳酸、サリチル酸が好ましく、特に酢酸が好ましい。またこれらの有機酸は、その塩または、塩との混合物として用いてもよい。
【0015】
有機酸の塩としては、このような酸の無機塩であっても有機塩であってもよいが、酢酸の塩、プロピオン酸の塩、酪酸の塩、乳酸の塩、安息香酸の塩、サリチル酸の塩が好ましく、酢酸ナトリウムが特に好ましい。
これらの有機酸および/またはその塩の配合量は、貼付製剤としての充分な透過量及び皮膚への刺激性を考慮すると、粘着剤層の組成全体の質量に基づいて、0.01〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%を配合することができる。
【0016】
粘着組成物には、他に吸収促進剤を含有させてもよく、使用され得る吸収促進剤としては、従来皮膚での吸収促進作用が認められている化合物のいずれでも良く、例えば炭素鎖数6〜20の脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、アミド、またはエーテル類、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステルまたはエーテル(以上は飽和、不飽和のいずれでもよく、また、環状、直鎖状分枝状のいずれでもよい)、さらに、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、エイゾン(Azone)、エイゾン(Azone)誘導体、ピロチオデカン、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類(Span系)、ポリソルベート系(Tween系)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系HCO系)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類、植物油等が挙げられる。
具体的にはカプリル酸、カプリン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、サリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、乳酸ラウリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、1−メントール、ボルネオロール、d−リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、d l−カンフル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HCO−60、ピロチオデカン、オリーブ油が好ましく、特にラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、プロピレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ピロチオデカンが好ましい。
このような吸収促進剤は2種以上混合して使用しても良く、貼付製剤としての充分な透過性及び発赤、浮腫等の皮膚への刺激性等を考慮して、粘着層の組成全体の質量に基づいて、0.01〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜10質量%、とくに好ましくは、0.1〜5質量%の量で配合されることができる。
【0017】
また、本発明の経皮吸収型の粘着剤組成物には可塑剤を含有させてもよい。使用され得る可塑剤としては、石油系オイル(例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(例えば、オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油)、シリコンオイル、二塩基酸エステル(例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、液状ゴム(例えば、ポリブテン、液状イソプレンゴム)、液状脂肪酸エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル)、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、サリチル酸グリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル、クロタミトン等が挙げられる。特に流動パラフィン、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシルが好ましい。これらの成分は2種以上混合して使用しても良く、このような可塑剤の粘着層の組成全体に基づく配合量は、充分な透過性及び貼付製剤としての充分な凝集力の維持を考慮して合計で、10〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。
さらに、本発明の粘着層には、少なくとも12時間適用可能な粘着力が不足している場合に粘着付与樹脂を含有させることが望ましく、粘着付与樹脂としては、ロジン誘導体(例えば、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル、ロジンのペンタエリストールエステル等)、脂環族飽和炭化水素樹脂(例えばアルコンP100、荒川化学工業)、脂肪族系炭化水素樹脂(例えばクイントンB170、日本ゼオン)、テルペン樹脂(例えばクリアロンP−125、ヤスハラケミカル)、マレイン酸レジン等が挙げられる。特に水添ロジンのグリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、テルペン樹脂が好ましい。
このような粘着付与樹脂の粘着組成物の組成全体に基づく配合量は、貼付剤としての充分な粘着力及び剥離時の皮膚への刺激性を考慮して、5〜70質量%、好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。
【0018】
また、必要に応じて、抗酸化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤を粘着剤層中に含有させることができ、抗酸化剤としては、トコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒトログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール等が望ましい。充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等)、ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が望ましい。架橋剤としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物等の無機系架橋剤が望ましい。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等が望ましい。紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、クマリン誘導体、アミノ酸系化合物、イミダゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ジオキサン誘導体等が望ましい。
このような抗酸化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤は、合計で、粘着剤層の組成全体の質量に基づいて、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、とくに好ましくは2質量%以下の量で配合できる。
【0019】
本発明の経皮吸収製剤は、薬物含有粘着剤層の厚みが増加するのに伴って薬物の皮膚透過性も増大するため、粘着剤層の厚みによって薬物の投与量を調節することができる。しかし、粘着剤層の厚みが300μmを超えると、特に溶剤に溶解させて展膏したのち溶剤を乾燥除去する製法の場合に、製造の難易度が高くなる。また厚みが20μmを下回ると、皮膚への付着性が確保できない場合がある。従って、本発明における好ましい粘着剤層の厚みは、皮膚への付着性を十分確保でき、かつ製造が容易な20〜300μm、さらに好ましくは20〜250μm、50〜200μmが挙げられる。
本発明の経皮吸収製剤のような抗認知症薬は、病態の特性上、患者自身よりもむしろ介護者の手によって使用・適用されるケースが多いと考えられる。介護者が同居している家族である場合は、1日1回投与でも問題ないが、別居家族が介護・見舞いに来る場合やヘルパーが訪問介護に来る場合では、1日1回投与よりも長期間貼付可能な製剤がより望ましい。
【0020】
支持体には伸縮性または非伸縮性の支持体を用いることができる。例えば布、不織布、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アルミニウムシート等、又はそれらの複合素材から選択される。
また、ライナーは経皮吸収型製剤を皮膚に適用するまで、粘着層を保護し、認知症治療剤が変質しないように保護するもので、かつ、容易に剥離出来るようにシリコンコートされているものであれば特に限定されないが、その具体例としてはポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリプロピレンフィルムをシリコンコートしたものなどが挙げられる。
貼付剤は、通常、貼付剤を製造する方法によって製造することができる。例えば、薬物を含む基剤組成を熱融解させ、離型紙又は支持体に塗工後、支持体又は離型紙と張り合わせて本剤を得ることができる。または、薬物を含む基剤成分をトルエン、ヘキサン、酢酸エチル等の溶媒に溶解させ、離型紙又は支持体上に伸展して溶剤を乾燥除去後、支持体あるいは離型紙と張り合わせ本剤を得ることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の経皮吸収製剤は、皮膚刺激が少なく、治療に十分な量のメマンチン類を経皮吸収させることができ、かつ皮膚への粘着性にも優れ、認知症の治療に有用である。本発明の経皮吸収製剤は、皮膚刺激が少ないので、貼付しても違和感が無く、認知症患者に違和感無く長時間にわたって貼付させることが可能となる。
【0022】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。なお、実施例において、「%」は、特に示さない限り全て質量%を意味する。
【実施例1】
【0023】
塩酸メマンチン 5.0%
水酸化ナトリウム 0.9%
Duro−Tak 87−2194 94.1%
全量 100%
あらかじめ秤量した塩酸メマンチンに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌する。これにDuro−Tak 87−2194を加えて撹拌したのち、離型紙上に塗布する。これを乾燥させたのち、支持体フィルムを貼り合わせ貼付剤を得た。
【実施例2】
【0024】
塩酸メマンチン 5.0%
水酸化ナトリウム 0.9%
SIS 16.8%
ポリイソブチレン 7.7%
脂環族飽和炭化水素樹脂 40.8%
流動パラフィン 28.8%
全量 100%
あらかじめ秤量した塩酸メマンチンに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌する。これにトルエンに溶解させた残りの成分を加えて撹拌したのち、離型紙上に塗布する。これを乾燥させたのち、支持体フィルムを貼り合わせ貼付剤を得た。
【実施例3】
【0025】
塩酸メマンチン 5.0%
水酸化ナトリウム 0.9%
Duro−Tak 87−2516 94.1%
全量 100%
あらかじめ秤量した塩酸メマンチンに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌する。これにDuro−Tak 87−2516を加えて撹拌したのち、離型紙上に塗布する。これを乾燥させたのち、支持体フィルムを貼り合わせ貼付剤を得た。
【実施例4】
【0026】
塩酸メマンチン 5.0%
水酸化ナトリウム 0.9%
Duro−Tak 87−900A 94.1%
全量 100%
あらかじめ秤量した塩酸メマンチンに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌する。これにDuro−Tak 87−900Aを加えて撹拌したのち、離型紙上に約100μmの厚さで塗布する。これを乾燥させ約100μmの厚みの粘着剤層としたのち、支持体フィルムを貼り合わせ貼付剤を得た。
【実施例5】
【0027】
塩酸メマンチン 5.0%
水酸化ナトリウム 0.9%
Duro−Tak 87−2510 94.1%
全量 100%
あらかじめ秤量した塩酸メマンチンに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌する。これにDuro−Tak 87−2510を加えて撹拌したのち、離型紙上に約100μmの厚さで塗布する。これを乾燥させ約100μmの厚みの粘着剤層としたのち、支持体フィルムを貼り合わせ貼付剤を得た。粘着剤層におけるメマンチン(フリー体)の濃度は、約0.415mg/cmであった。
【実施例6】
【0028】
塩酸メマンチン 10.0%
水酸化ナトリウム 1.9%
Duro−Tak 87−2510 88.1%
全量 100%
前記した成分を用いて、実施例5と同様の方法で貼付剤を得た。
【実施例7】
【0029】
塩酸メマンチン 20.0%
水酸化ナトリウム 3.7%
Duro−Tak 87−2510 76.3%
全量 100%
前記した成分を用いて、実施例5と同様の方法で貼付剤を得た。粘着剤層におけるメマンチン(フリー体)の濃度は、約1.66mg/cmであった。
【0030】
比較例1
塩酸メマンチン 30.0%
水酸化ナトリウム 5.6%
Duro−Tak 87−2510 64.4%
全量 100%
前記した成分を用いて、実施例4と同様の方法で貼付剤を得た。粘着剤層におけるメマンチン(フリー体)の濃度は、約2.49mg/cmであった。
【0031】
試験例1
ウサギ皮膚一次刺激性試験
ウサギの剃毛済み背部皮膚に2cm×2cmの被験物質を貼付し、上からセラポアRテープ(3.8cm×5cm,ニチバン株式会社)で固定し、ウサギ用ジャケット(14101320:LOMIR社)を装着後、ケージに戻した。貼付24時間後に被験物質を剥離し、剥離後1時間、24時間、48時間目にの紅斑・痂皮および浮腫形成について肉眼的に観察し、Draizeらの評価基準(下表)に基づいて採点した。
皮膚一次刺激性の判定は、皮膚一次刺激指数(Primary Irritation Index:P.I.I.)を算出して行った。剥離後1時間、24時間および48時間目における紅斑および浮腫形成について、各個体の平均評点をそれぞれ求め、さらに各群の平均評点総和を求めて3で除することにより皮膚一次刺激指数を算出した。この結果を次の試験例2の結果と併せて次の表1に示す。
【0032】
試験例2
ヒト皮膚透過性試験
約500μmにダームトームしたヒト皮膚の真皮側をレセプター層側にし、32℃の温水を外周部に循環させたフロースルーセル(3cm)に装着した。角質層側に実施例5〜7、及び比較例1において得られた製剤をそれぞれ貼付し、レセプター層にPBSを用いて、4mL/時間の速度で2時間毎に168時間までサンプリングを行った。各時間毎に得られたレセプター溶液は、流量を正確に測り、ガスクロマトグラフィー法により薬物濃度を測定し、1日当たりの透過速度を算出した。
【0033】
【表1】

【0034】
この結果、及び前記したウサギ皮膚一次刺激性試験の結果から、皮膚一次刺激指数(PII値)と皮膚透過速度とには相関性が有り、そして皮膚一次刺激指数(PII値)が2.5未満となるためには、皮膚透過速度が約0.32mg/日/cm以下であればよいことがわかる。
このように、皮膚透過速度を0.32mg/日/cm以下、特にPII値が2.3となる0.3mg/日/cm以下とすることにより、皮膚刺激の少ないメマンチンの経皮吸収製剤を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の経皮吸収製剤は、皮膚刺激が少なく、かつ治療に有効な量のメマンチンを経皮吸収させることができ、本発明により認知症の治療に有効な実用的な外用剤を提供することができ、本発明は製薬産業などにおいて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物としてメマンチン又はその薬学的に許容できる塩を含有してなる経皮吸収製剤であって、当該メマンチン又はその薬学的に許容できる塩の皮膚透過速度が0.32mg/日/cm以下であることを特徴とする経皮吸収製剤。
【請求項2】
薬物が、メマンチンの薬学的に許容できる塩を塩基で中和したものである請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
塩基が、水酸化ナトリウムである請求項2に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
メマンチンの薬学的に許容できる塩が、塩酸塩である請求項1〜3のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
経皮吸収製剤が、支持体層と少なくともその片面に薬物含有基剤としての粘着剤層を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の経皮吸収製剤。

【公開番号】特開2009−13171(P2009−13171A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146998(P2008−146998)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】