説明

メラノーマ鑑別指標の導出方法

【課題】分光分析を用いて非侵襲で、かつ客観的にメラノーマを鑑別することを可能にする、新規のメラノーマ鑑別指標の導出方法を提供する。
【解決手段】対象物表面の拡散反射スペクトルを測定し、前記対象物表面の位置情報とその位置における拡散反射スペクトルとを含む複数の画素データを取得する第1のステップと、第1のステップで取得した拡散反射スペクトルを多次元ベクトルとみなし、この多次元ベクトルと基準ベクトルとのなす角度を求める第2のステップと、第2のステップで求めた角度及び画素データの位置情報に基づき、対象物表面の分子情報を反映している指標を求める第3のステップとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノーマ鑑別指標の導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノーマ(悪性黒色腫)は、部分生検が患者の利益につながらないことが知られている。したがって、その診断は熟練した医師の目視に頼っているのが現状である。このため、客観的数値に基づいた診断法とそれを可能にする装置の実現が、臨床現場から強く要求されている。
【0003】
現在、非侵襲の皮膚表面の測定方法として、分光分析を用いた方法がいくつか提案されている。例えば、可視−近赤域の複数の波長における画像を取得し、その画像を処理することによって、メラニン、ヘモグロビンなどの分布を示す画像を得る方法が知られている。また、ファイバオプティクスを用いて可視−近赤外域フルスペクトルを計測し、特定の波長域におけるスペクトル強度等に基づいて、メラニンなどの判別を行う方法が知られている。しかし、これらの方法により得られた画像やスペクトル強度のデータに基づいてメラノーマか否かを客観的に判別することは困難であり、これらをメラノーマの診断に用いた場合、結局、最終的な診断は得られたデータに基づく医師の主観的判断に依存するため、上記の臨床現場からの要求を満たすことはできなかった。
【0004】
また、メラノーマの特徴は、その辺縁部形状のでたらめさにあるといわれている。したがって、そのでたらめさを定量化できれば、メラノーマを鑑別できると考えられる。ここで、形状のでたらめさを定量化するため手段の一つとして、擬フラクタル次元を利用することが知られている(特許文献1)。しかし、擬フラクタル次元のみを指標として用いた場合、メラノーマを鑑別するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−154761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、分光分析を用いて非侵襲で、かつ客観的にメラノーマを鑑別することを可能にする、新規のメラノーマ鑑別指標の導出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のメラノーマ鑑別指標の導出方法は、対象物表面の拡散反射スペクトルを測定し、前記対象物表面の位置情報とその位置における拡散反射スペクトルとを含む複数の画素データを取得する第1のステップと、前記第1のステップで取得した拡散反射スペクトルを多次元ベクトルとみなし、この多次元ベクトルと基準ベクトルとのなす角度を求める第2のステップと、前記第2のステップで求めた角度及び画素データの位置情報に基づき、対象物表面の分子情報を反映している指標を求める第3のステップとを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、前記分子情報を反映している指標は、擬フラクタル次元、エネルギー指標、エントロピー指標のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメラノーマ鑑別指標の導出方法によれば、分光分析を用いて非侵襲で、かつ客観的にメラノーマを鑑別することを可能にする、新規のメラノーマ鑑別指標の導出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いられる装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明に用いられる装置に搭載された分光器の一実施例を示す構成図である。
【図3】実施例1における典型的なメラノーマ(a)と脂漏性角化症(b)の擬似カラー画像である。
【図4】実施例1における基準スペクトルとして用いられる日本人のための身体部位に依存しないスペクトルの一例である。
【図5】実施例1における典型的なメラノーマ(a)と脂漏性角化症(b)の角度分布を示す2次元化カラー画像である。
【図6】実施例1における擬フラクタル次元に対してROC解析を施して求めたROCカーブである。
【図7】実施例1における感度と特異度の鑑別指標閾値依存性を示すグラフである。
【図8】実施例2における典型的な(a)悪性例、(b)良性例のディジタルカラーダーモスコープ画像である。
【図9】実施例2における角度θの分布を描いたヒストグラムである。
【図10】実施例2におけるエネルギー指標に対する良性群と悪性群の平均値を示すグラフである。
【図11】実施例2におけるエネルギー指標に対するROC解析結果を示すグラフである。
【図12】実施例2におけるエネルギー指標に対する感度/特異度の閾値依存性を示すグラフである。
【図13】実施例2におけるエントロピー指標に対する良性群と悪性群の平均値を示すグラフである。
【図14】実施例2におけるエントロピー指標に対するROC解析結果を示すグラフである。
【図15】実施例2におけるエントロピー指標に対する感度/特異度の閾値依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0012】
はじめに、本発明に用いられる装置の一実施例について図1と図2を参照して説明する。図1において、1は対象物Sである。2は白色光源であり、スリット3を備えた分光器4はCCDカメラ5と一体となっている。分光器4は、透過型グレーティングを搭載したイメージング分光器である。計測対象物の1ラインから反射した光はスリット3を通り、分光器で分光されて検出器たるCCDカメラ5の受光面に結像する。すなわち、CCDカメラ5の受光面のX軸は計測対象物の1ライン上の位置に対応し、Y軸方向は分光された光のスペクトルとなる。
【0013】
図2に分光器4の詳細構造を示す。スリット3はスリット本体3aと集光するためのレンズ3bとで構成されている。さらに2枚のレンズ4a、4cとの間にある透過型グレーティング方式のプリズム4bとにより構成されている。CCDカメラ5には、EM(Electron Multiplying)CCDカメラや光電子増倍管が搭載されたCCDカメラなどを用いて、微弱な光にも感じるように感度を高めている。
【0014】
この装置の光学的部分の構成はこのようになっているので、CCDカメラの1フレームで、対象物Sの1ラインの拡散反射スペクトルデータを取得できる。このデータはデータ処理装置6に入力される。続いて、光学的部分を微小な長さ動かして次の1ライン拡散反射スペクトルデータをCCDカメラの次のフレームに取得し、データ処理装置に送る。この動作を繰り返すことにより、2次元の面の拡散反射スペクトルデータを取得できる。実際には、上記X軸に対応する計測対象物表面の1ラインに垂直な方向に掃引させる機構、例えば、制御手段6bで光学的部分をほぼ連続的に移動させながら、その動作に同期してCCDカメラ5でデータを取得するようになっている。
【0015】
また、図示しないが、本実施例の装置は、一組の偏光板を備えている。この偏光板により、白色光源2からの光が直線偏光化されるとともに、この直線偏光化された白色光源2からの光の偏光面と垂直な直線偏光成分のみを分光器4に入射させるようになっている。これにより、対象物Sの表面で生じる乱反射の影響が抑制されるようになっている。なお、この2つの直線偏光の向きは任意に設定できるように構成されている。
【0016】
また、図示しないが、本実施例の装置は、計測中央部に常に焦点を合わせることができる自動焦点(AF)機能を有している。これにより、対象物Sの表面の比較的空間周波数の大きな凹凸に起因する影の影響を抑制することができるようになっている。
【0017】
さらに、図示しないが、本実施例の装置は、色素病変と正常部との境界領域観察に優れる顕微光学系機能を有している。
【0018】
そして、この装置は、搭載しているスリット3の光学スリット長と分光器4の光学系倍率が決める計測画面縦寸法と、スリット3の光学スリット幅と調節手段7の駆動ソフト設定が決める計測画面横寸法と、CCDカメラ5の1画素寸法、スリット3の光学スリット幅と分光器4の光学系倍率が決める1画素寸法、を2次元画像の基本長さスケールとして、2次元画像内各画素に分光器4の特性が決める波長範囲内の拡散反射スペクトルを格納できる。この装置は、位置の情報と拡散反射スペクトルの情報を、光学スリットの長手方向と垂直方向に掃引、すなわちラインスキャンすることで、短時間で取得可能である。取得した計測対象の拡散反射スペクトルの解析は、2次元スペクトル画像の描画を可能にする。したがって、この装置によれば、拡散反射スペクトルに定性的・定量的な違いがあれば、そのような光学的に違いがある領域を強調表示することができる。拡散反射スペクトルから色の三原色各要素値を計算して、それをもとに描画すれば、カラー写真と遜色ない擬似カラー画像も再構成できる。
【0019】
つぎに、本発明によるメラノーマ鑑別指標の導出方法について説明する。
【0020】
はじめの第1のステップでは、対象物S表面の拡散反射スペクトルを測定し、対象物S表面の位置情報とその位置における拡散反射スペクトルとを含む複数の画素データを取得する。なお、ここで得られる拡散反射スペクトルは、2次元平面中の波長に関するものである。
【0021】
また、分子レベルでの情報を利用するために、可視−近赤外スペクトル、例えば、500〜800nm領域のフルスペクトルを用いる。可視−近赤外スペクトルには、対象物Sを構成する分子レベルでの成分とその成分の量の情報が含まれているからである。
【0022】
上記装置を用いた拡散反射スペクトルの測定においては、一度に所定の空間領域すべてを走査してしまうため、メラノーマなどの色素性病変の診断には不必要と考えられる画素データも得られてしまうことがある。そこで、好ましくは、フィルタリングを行う。すなわち、画素データを取得した後に、所定の波長において所定の反射率を有する画素データを除外する。
【0023】
つぎの第2のステップでは、第1のステップで取得した拡散反射スペクトルを多次元ベクトルとみなし、このベクトルと基準ベクトルとのなす角度を、スペクトラル・アングル・マッパー法(Kruse, F.A. et al., : “The spectral image processing system (SIPS)-interactive visualization and analysis of imaging spectrometer data”, (1993) Remote Sensing of Environment, 44 (2-3), pp. 145-163.)に準じ、求める。
【0024】
対象物Sを皮膚とした場合を例にとると、具体的には、各画素データiが保持している拡散反射スペクトルを多次元ベクトルpとみなす。また、得られた画素データの中に正常皮膚のものが十分に含まれる場合は、その正常皮膚の全ての画素データの拡散反射スペクトルを平均したものを基準ベクトルpとみなす。得られた画素データの中に正常皮膚のものが十分に含まれていない場合は、別に同一被験者の正常皮膚の画素データを取得し、その拡散反射スペクトルを平均したものを基準ベクトルpとみなすこともできる。あるいは、複数被験者の正常皮膚の画素データを取得し、その拡散反射スペクトルを平均したものを基準ベクトルpとみなすこともできる。あるいは、顔、足の裏、体幹など身体の各部位ごとに分けて、上述したいずれかの方法で作成した基準ベクトルpを用いても良い。
【0025】
そして、各画素データiの多次元ベクトルpが基準ベクトルpとなす角度θを、多次元ベクトルpと基準ベクトルpとの内積から求める。この角度θは、基準ベクトルpが得られた正常部位と、多次元ベクトルpが得られた各画素データiとの間の質的な違い、例えば、皮膚の構成成分比の違いといった分子レベルでの差異を示している。
【0026】
【数1】

【0027】
第3のステップでは、第2のステップで求めた角度及び画素データの位置情報に基づき、対象物S表面の分子情報を反映している指標を求める。
【0028】
ここで、第2のステップで求めた角度及び画素データの位置情報に基づき3次元角度画像を作成してもよい。この3次元角度画像は、平面上に画素データiの位置情報に基づき角度θの大きさを高さに変換して配置した3次元の立体である。すなわち、この3次元角度画像は、各画素データiの位置に、角度θの大きさに応じた高さを有する四角柱を配置したようなものである。この3次元角度画像から、対象物表面の分子情報を反映している指標を求めることができる。
【0029】
ここで、分子情報を反映している指標としては、擬フラクタル次元、エネルギー指標、エントロピー指標が挙げられる。例えば、擬フラクタル次元は、ボクセルカウンティング法(ボックスカウンティング法)などを用いて3次元角度画像をフラクタル解析することで求められる。これらの分子情報を反映している指標は、メラノーマ鑑別指標として用いることができる。メラノーマ鑑別指標に対する閾値は、ROC(Receiver Operating Characteristics)解析により決定することができる。なお、ROC解析とは、さまざまな閾値における感度を縦軸に、偽陽性率を縦軸にプロットしたグラフをもとに、各種手法の精度評価や、手法間の比較、閾値の決定などを行う解析手法である。
【0030】
以上のように、本発明のメラノーマ鑑別指標の導出方法は、対象物S表面の拡散反射スペクトルを測定し、前記対象物表面の位置情報とその位置における拡散反射スペクトルとを含む複数の画素データiを取得する第1のステップと、前記第1のステップで取得した拡散反射スペクトルを多次元ベクトルpとみなし、この多次元ベクトルpと基準ベクトルpとのなす角度θを求める第2のステップと、前記第2のステップで求めた角度θ及び画素データiの位置情報に基づき、対象物S表面の分子情報を反映している指標を求める第3のステップとを備えたことを特徴とする。
【0031】
また、前記分子情報を反映している指標は、擬フラクタル次元、エネルギー指標、エントロピー指標のいずれかであることを特徴とする。
【0032】
本発明のメラノーマ鑑別指標の導出方法によれば、分光分析を用いて非侵襲で、かつ客観的にメラノーマを鑑別することを可能にする、新規のメラノーマ鑑別指標の導出方法が提供される。
【実施例1】
【0033】
メラノーマ3例、脂漏性角化症3例を対象物Sとした解析結果を示す。画像の数は、メラノーマ25画像、脂漏性角化症19画像である。
【0034】
図3に、拡散反射スペクトルから再構成された、典型的なメラノーマ(a)と脂漏性角化症(b)の擬似カラー画像を示す。
【0035】
各画像が保持しているスペクトルと、図4に示す複数被験者の正常部分から計算した基準スペクトルをベクトル化して、各画像が保持しているスペクトルと基準スペクトルの内積から、各画素に対応する角度を計算した。得られた角度分布を2次元化カラー画像として図5に示す。これらの図は、3次元角度画像を真上から見下ろし、高さを色で表現したものである。
【0036】
3次元角度画像に、ボクセルカウンティング法を適用し、擬フラクタル次元を求めた。得られた擬フラクタル次元、すなわち、メラノーマ鑑別指標に対して、ROC解析を施して求めたROCカーブを図6に、感度(SE:メラノーマをメラノーマと診断する確率)と特異度(SP:正常なものを正常と診断する確率)の鑑別指標閾値依存性を図7に示す。図6において、感度と特異度の積が最大になるのは、SE:100%、SP:79%のときであった。
【0037】
識別指標がたった一つにもかかわらず、図6、図7からわかるように、感度と特異度ともにこれまで報告されたことのない好成績を示した。この結果は、擬フラクタル次元を評価する前段階の処理が重要であることを明らかにしており、開示した前処理技術、すなわち、3次元角度画像の作成とボクセルカウンティング法の適用は、擬フラクタル次元に分子レベルの情報を付与できることを示している。
【0038】
なお、このようにして得られた擬フラクタル次元を、他の指標、例えば、画像の各種テクスチャー特微量などと組み合わせて鑑別指標としても構わない。
【実施例2】
【0039】
爪甲色素線条の悪性/良性を鑑別する方法について説明する。
【0040】
爪部悪性黒色腫(爪部メラノーマ)は、爪母に存在するメラノサイトががん化して発症する。日本人の場合、悪性黒色腫の約10%を占めている。予後も悪いとされており、その原因は確定診断の難しさにある。
【0041】
爪母に存在するメラノサイトは、正常状態では不活性でメラニンを産生しない。このメラノサイトが、がん化の有無にかかわらず、メラニンを産生し始める場合がある。産生されたメラニンは爪の成長とともに、爪甲色素線条と呼ばれるパターンを形成する。メラノサイトががん化していないときの爪甲色素線条は良性母斑とみなされる。爪甲色素線条パターンから、爪母に存在するメラノサイトががん化しているか否かを識別できると考えられている。しかしながら、ダーモスコープを用いる目視によってこのパターンが母斑か悪性かを識別するには相当の経験が必要であること、悪性黒色腫の場合一般に生検が患者の利益につながらないことが、確定診断を難しくしている。その困難さが、予後を悪くする要因となっている。
【0042】
本実施例では、カラー画像が本来持っている3つの自由度を有効に利用して、爪甲色素線条の悪性/良性を鑑別した。解析対象は、爪部のディジタルカラーダーモスコープ画像(jpg形式)とした。フルスケール画像内に解析対象領域を指定し、その領域内の各画素(i番目のピクセル)が持っているRGBパラメータ値を成分とする3次元ベクトルp=(R,G,B)を考えた。また、主観を排除し、かつ、診断システムを自動化するのに適した基準ベクトルとするために、基準ベクトルをpwhite=(1,1,1)とした。
【0043】
スペクトラル・アングル・マッパー法(Kruse, F.A., et al., : “The spectral image processing system (SIPS)-interactive visualization and analysis of imaging spectrometer data”, (1993) Remote Sensing of Environment, 44 (2-3), pp. 145-163.)に準じ、解析対象領域内全画素についてpとpwhiteのなす角度θを算出した。なお、角度θは各画素のベクトルと基準ベクトルにおける3つの成分がそれぞれどのように異なっているかの測度に対応するので、色差の表現の一つと考えられる。
【0044】
【数2】

【0045】
角度θをもつ画素数をもとめ、それをn(θ)とした。指定領域の大きさ(面積)への依存性を除去するために、n(θ)を指定領域内に存在する全画素数Ntotで除算し、規格化した。なお、これは、角度θをもつ画素の出現確率とみなせる。
【0046】
【数3】

【0047】
つぎに、画像処理では良く知られているテクスチャー特徴量のうち、エネルギー指標とエントロピー指標を計算した。
【0048】
【数4】

【0049】
【数5】

【0050】
両パラメータについて、良性群と悪性群について統計処理を行い、両群を高い精度で識別できるパラメータを悪性/良性鑑別パラメータとした。両群を識別するパラメータの閾値を求めるために、ROC解析を用いた。なお、角度θの替わりにその余弦cosθを用いることも可能である。
【0051】
爪部悪性黒色腫(悪性)6例、爪部良性母斑(良性)6例について、本手法を適用した。図8に、典型的な(a)悪性例、(b)良性例のディジタルカラーダーモスコープ画像を示す。
【0052】
図8の画像における指定領域(枠内)を解析して得られた、角度θの分布を描いたヒストグラムを図9に示す。図9は、横軸は非負なる整数値の角度変数θをとり、縦軸にはθ−0.5≦θ<θ+0.5なる範囲の角度θを持っている画素の出現確率がプロットされている。ただし、θ=0のときは0≦θ<0.5とした。図9(a)が図8(a)に示す症例のヒストグラム、図9(b)が図8(b)に示す症例のヒストグラムである。図9は、以下のことを示唆している。良性の場合、角度は小さい値に集中、もしくはある値の周りに集中する。一方、悪性の場合、角度は小さい値から大きい値まで広く分布する。言い換えると、良性では色特徴(colour features)は均一に近く、一方、悪性ではさまざまな色特徴が出現している。
【0053】
全12例に対して、白色を基準として計算されたエネルギー指標(egy)とエントロピー指標(epy)の値を表1にまとめた。悪性群、良性群に対するそれぞれの平均値は、t−検定の結果、1%有意水準で有意差ありと判定された。
【0054】
【表1】

【0055】
エネルギー指標に対して、図10には、良性群と悪性群の平均値(エラーバーは分散を表す)、図11には、ROC解析結果、図12には、感度/特異度の閾値依存性が示されている。悪性群、良性群に対するそれぞれの平均値は、t−検定の結果、1%有意水準で有意さありと判定された。ROC解析結果は、閾値が0.2221から0.2652の範囲で、パラメータがたった一つにもかかわらず、感度は100%、得意度は83.3%と好成績であった。閾値よりも低い値が悪性黒色腫である。
【0056】
エントロピー指標に対して、図13には、良性群と悪性群の平均値、図14には、ROC解析結果、図15には、感度/特異度の閾値依存性が示されている。悪性群、良性群に対するそれぞれの平均値は、t−検定の結果、エネルギー指標と同様、1%有意水準で有意さありと判定された。ROC解析結果は、閾値が1.5950から1.6451の範囲で、パラメータがたった一つにもかかわらず、感度は83.3%、特異度は100%と好成績であった。閾値より高い値が悪性黒色腫である。
【0057】
白色を基準としても十分好成績が得られることがわかった。このことは、客観性をたもったままプログラムの自動化が容易に実施できることを示唆している。いずれにしても、元の画像の自由度を最大限利用する、すなわち、色特徴の違いに基づく本手法は、たった一つのパラメータで爪甲色素線条の悪性/良性鑑別に威力があることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物表面の拡散反射スペクトルを測定し、前記対象物表面の位置情報とその位置における拡散反射スペクトルとを含む複数の画素データを取得する第1のステップと、
前記第1のステップで取得した拡散反射スペクトルを多次元ベクトルとみなし、この多次元ベクトルと基準ベクトルとのなす角度を求める第2のステップと、
前記第2のステップで求めた角度及び画素データの位置情報に基づき、前記対象物表面の分子情報を反映している指標を求める第3のステップと
を備えたことを特徴とするメラノーマ鑑別指標の導出方法。
【請求項2】
前記分子情報を反映している指標は、擬フラクタル次元、エネルギー指標、エントロピー指標のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のメラノーマ鑑別指標の導出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−252904(P2010−252904A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103999(P2009−103999)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】