説明

メラミン誘導体の新規用途

【課題】ホルムアルデヒドの放散を抑えた高難燃性の硬質ポリウレタンフォームを提供する。
【解決手段】式(I)で示されるメラミン誘導体を、水に溶解させたか又は相溶性ポリオールに分散させた、硬質ポリウレタンフォーム製造用メラミン誘導体液、該メラミン誘導体液を含有する均一なポリオールプレミックス、及び該メラミン誘導体液を原料として使用して製造された難燃性硬質ポリウレタンフォーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性硬質ポリウレタンフォームを製造するためのメラミン誘導体を含有する液、当該メラミン誘導体を含有するポリオールプレミックス、及び当該メラミン誘導体を原料として使用して製造された硬質ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
硬質ポリウレタンフォームは、ポリオール及びポリイソシアネート、ならびに発泡剤を必須成分として使用し、反応させて得られる発泡体であり、主として断熱材として使用される。ポリオールとしては、分子中に水酸基、第1級もしくは第2級アミノ基を有する多官能化合物にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを開環付加させて得られるポリエーテルポリオールないしは、カルボキシル基を有する多官能化合物に上記のアルキレンオキサイドを開環付加させて得られるポリエステルポリオールが一般的に使用される。このような硬質ポリウレタンフォームの重要な要求特性として耐熱性、難燃性が挙げられる。
【0003】
従来、硬質ポリウレタンフォームの難燃化には、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、若しくはトリス(β−クロロプロピル)ホスフェート等の含塩素リン酸エステル;三酸化アンチモン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、若しくはホウ素含有化合物等の無機難燃剤の配合によるか、あるいはヌレート化による難燃性の向上が図られてきた。
しかしながら、ハロゲン系難燃剤は装置の腐食や材料の変色をもたらしたり、廃棄時に脱ハロゲン処理が必要であったりする。リン系難燃剤は可塑性を有しているため、コシが弱くなり、使用が制限され、燃焼時に有害ガスを発生する場合がある。アンチモン系や無機系難燃剤は原料と均質に混ざりにくく、発泡が悪く難燃性に劣るなどの欠点を有している。
【0004】
また、難燃性の高い硬質ポリウレタンフォームを製造するためには架橋密度を高くするとともに耐熱性の高い化学構造をその構造内に導入することが有効である。このような目的に使用されるポリオールとしてフタル酸系ポリオールやマンニッヒポリオールが挙げられるが、十分な難燃効果が得られていない。
【0005】
最近、ポリウレタンフォーム用難燃剤としてメラミンが難燃性や他の特性にも優れていることから注目されるようになり、その利用が試みられている。しかしながら、メラミンも粉末であるため、工業規模でポリウレタンフォーム製造時に添加する場合、作業効率が低下するのを免れられず、ポリオールに溶解しない欠点も有している。
【0006】
そこで、メラミンのこのような欠点を改良するため、分散剤存在下でメラミンをポリオール中に安定して分散させたり、メラミンに化学的に水酸基性化合物を置換したメラミン誘導体を用いることが試みられている。
例えば、トリアジン骨格を有した耐熱性、難燃性の高いポリオールとしてメラミンにプロピレンオキサイドを付加したメラミンポリオールや、メラミンをホルムアルデヒドと反応させた後、アルキレンオキサイドやポリオールと反応させる手法が報告されている(特許文献1及び2)。また、メラミンやメラミン樹脂粉末をポリオール中に安定して分散させる試みもなされている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−110122号公報
【特許文献2】特開平10−251399号公報
【特許文献3】特開平5−171027号公報
【特許文献4】特開平4−120119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献1及び2の方法では、メラミン誘導体が原料自体を調製するのに複雑な工程を必要とするため、コスト高になるばかりでなく、これらのメラミン誘導体がその分子量に比してメラミン核含有率が低いため、十分な難燃性が得られず、ホルムアルデヒドの放散によるシックハウスの問題があることを新しく見出した。さらに、本発明者らは、特許文献3の方法では、スプレー発泡ウレタンフォームの製造においてメラミン粉が目詰まりの原因となって作業性が悪化するばかりでなく、タンク内でメラミンの沈降が発生し、安定した難燃性が得られない問題があることも新たに見出した。
【0009】
一方で、メラミンを触媒存在下でアミノアルコールとのアミン交換によりメラミンポリオールを得る手法が知られていたが、それによって得られたメラミンポリオールは、分子量が小さいため、トリアジン環特有の凝集力の影響を受けるので、融点が高く流動性に乏しい。そのためこれをポリウレタンフォームに配合することは困難であった。
【0010】
本発明は、アミノアルコールにより変性されたメラミンポリオールを原料に使って、ホルムアルデヒドの放散が抑えられ得る高難燃性の硬質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アミノアルコールにより変性されたメラミンポリオールなどのメラミン誘導体を水又はこのメラミン誘導体と相溶性のあるポリオール(以下「相溶性ポリオール」ともいう)に、希釈して低粘度液を得、これを原料として使用することで、良好な難燃性の硬質ポリウレタンフォームが得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、
Xは、−NR’であり;
Yは、−NR’であり;
Zは、−NR’であり;
’はC〜Cヒドロキシアルキルであり、R、R、R’、R、及びR’は、それぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであり、ここで該C〜Cアルキル及び/又はC〜Cヒドロキシアルキルは1個以上の酸素原子で中断されていてもよい)で示されるメラミン誘導体を、水に溶解させたか又は相溶性ポリオールに分散させた、硬質ポリウレタンフォーム製造用メラミン誘導体液に関する。
本発明は、また、該メラミン誘導体を含有する均一なポリオールプレミックス、及び該メラミン誘導体液を原料として使用して製造された難燃性硬質ポリウレタンフォームにも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記式(I)のメラミン誘導体を水や相溶性ポリオールで希釈することで低粘度化するので、均一なポリオールプレミックスを容易に得ることができる。
また、上記式(I)のメラミン誘導体は、10%以上の高いメラミン核含有率を有し得るので、硬質ポリウレタンフォームの難燃性を向上するのに優れ、従来のフタル酸系ポリオール以上の難燃性を付与することもできる。
さらに、本発明は、従来と比べて、合成が簡便となり、また高価なハロゲン化メラミン(塩化シアヌル)ではなく、安価なメラミンやエタノールアミン、触媒などの原料が使えるので、低コストで難燃性硬質ポリウレタンフォームを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<メラミン誘導体>
前記式(I)のメラミン誘導体において、Xは、−NR’であり、ここでR’はC〜Cヒドロキシアルキルであるが、架橋密度と窒素含有量が増大してウレタンフォームの難燃性が高まる点で、C〜Cヒドロキシアルキルが好ましく、−COHが特に好ましい。
【0016】
前記式(I)のメラミン誘導体において、Yは−NR’であり、Zは−NR’であり、ここでR’及びR’は、それぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであるが、架橋密度と窒素含有量が増大してウレタンフォームの難燃性が高まる点で、C〜Cヒドロキシアルキル、特にC〜Cヒドロキシアルキル、とりわけ2−ヒドロキシエチルが好ましい。
本発明では、R’及びR’の両方がC〜Cヒドロキシアルキル、特にC〜Cヒドロキシアルキル、とりわけ2−ヒドロキシエチルであるのが好ましい。
【0017】
前記式(I)のメラミン誘導体において、R、R、及びRは、それぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであるが、前記式(I)のメラミン誘導体の合成が容易になるため(すなわち2級アルカノールアミンの場合と比較して1級アルカノールアミンを用いた方が後述のアミン交換反応速度が速くなって合成時間が短縮する)、水素原子であることが好ましい。
【0018】
本発明においてC〜Cアルキルは、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖の1価の炭化水素基をいい、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチルなどが例示され、ポリオール中の窒素含有量が増大し、製造原価も安価になる点から、C〜Cアルキルが、特にエチルが好ましい。上記C〜Cアルキルは、1個以上の酸素原子で中断されていてもよい。
本発明においてC〜Cヒドロキシアルキルは、ヒドロキシル基1個以上、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個で置換された上記のC〜Cアルキルをいい、ヒドロキシメチル、1−及び2−ヒドロキシエチル、1−、2−、及び3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシ−1−メチル−エチル、1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル、1−、2−、3−、及び4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシ−1−メチル−プロピル、2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−エチル、1−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピル、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル、ならびに2,3−ジヒドロキシブチル、2−(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピルなどが例示され、ポリオール中の窒素含有量が増大し、製造原価も安価になる点から、C〜Cヒドロキシアルキルが、特に2−ヒドロキシエチルが好ましい。上記C〜Cヒドロキシアルキルは1個以上の酸素原子で中断されていてもよく、エトキシエタノールなどが例示される。
【0019】
前記式(I)のメラミン誘導体は、ウレタン原料として、R、R、及びRが水素原子であり、かつR’、R’、及びR’が、それぞれ互いに独立して、C〜Cヒドロキシアルキル、特に3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシ−1−メチル−エチル、2−ヒドロキシエチル、及びヒドロキシメチル、とりわけ2−ヒドロキシエチルであるのが、窒素含有量が増大し、製造原価も安価になることから好ましい。
【0020】
前記式(I)のメラミン誘導体は、R’、R’、及びR’がC〜Cヒドロキシアルキルである場合、すなわちX、Y、及びZの3つ全てがアルカノールアミノ基の場合、ウレタン重合反応で重合停止剤として働かないので、樹脂化反応が阻害されずに済み好ましい。
また、前記式(I)のX、Y、及びZのうち少なくとも2つ、特に3つ全ては、合成の簡便さ、反応性の制御、及び低コストの点から、同一のアルカノールアミノ基、特に−NHCOHであることが好ましい。
【0021】
前記式(I)のメラミン誘導体の製法は、特に制限されず、公知の方法に基づいて製造することができる。例えば、R’、R’、及びR’がC〜Cヒドロキシアルキルである式(I)のメラミン誘導体は、米国特許第4312988号明細書及び米国特許第2328961号明細書に記載される方法に準じて合成することができる。すなわち、下記スキーム1に示すように、メラミンを触媒の存在下でアルカノールアミン:HNRR’とアミン交換反応させて、アルカノールアミノ基:−NRR’で三置換されたメラミンポリオール(Ia)を得ることができる(上記式中、R’はC〜Cヒドロキシアルキルであり、Rは、それぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであり、ここで該C〜Cアルキル及び/又はC〜Cヒドロキシアルキルは1個以上の酸素原子で中断されていてもよい)。
【0022】
【化2】

【0023】
上記スキームをみて分かるとおり、メラミン1当量に対するアルカノールアミンの当量を適宜変更すれば、アルカノールアミノ基:−NRR’(R及びR’は上記で定義されたとおりである)で置換されたメラミンとして、その一置換体、二置換体、及び三置換体のいずれをも得ることができる。例えば、メラミン:アルカノールアミン比を1:2以上とすれば、メラミンのアミノ基2又は3個がアルカノールアミノ基と交換されて、二又は三置換体のメラミン誘導体を得ることができる。
また、メラミンに対するアルカノールアミンの比は反応時間との関係で適宜調整してもよい。例えば、この比は反応時間が短縮される点で高いほど好ましく、例えばメラミン1当量に対して、アルカノールアミンは2当量以上、特に4当量以上が好ましい。しかしその一方、低コストやアミン交換反応後の蒸留時間が短縮される点で、メラミン1当量に対して、アルカノールアミンは5当量以下、特に4当量以下が好ましい。
また、用いる触媒としては、特に限定されないが、塩化アンモニウムやリン酸などのルイス酸を用いることができる。また上記触媒とホスフィン酸とを併用することで、得られた前記式(I)のメラミン誘導体の着色を低減することが可能である。
【0024】
本発明では、メラミンを一のアルカノールアミンとアミン交換反応させた後に、別の種類のアルカノールアミンとアミン交換反応させることで、二種以上のアルカノールアミノ基で置換されたメラミンの二置換体及び三置換体を得ることができる。
【0025】
本発明におけるアミン交換反応、すなわち、メラミンのアミノ基をアルカノールアミノ基と交換させる反応は、窒素気流化で行うことが好ましく、反応温度は160〜220℃、好ましくは180℃〜200℃である。160℃以上では反応速度が速まり、220℃以下では得られる前記式(I)のメラミン誘導体の着色が抑えられ、有利である。
【0026】
ここで、前記式(I)のメラミン誘導体の製造例の一つを示す。メラミンとエタノールアミンとをモル比率1:2以上で触媒とともにアミン交換反応に付し、エタノールアミノ基:−NHCOHで置換されたメラミン(以下「エタノール変性メラミン」ともいう)を得る。この反応は1段階反応で非常に簡易な工程で合成が可能である。反応終結は、特に制限されないが、例えば、HPLCにて、原料メラミン及び一置換体のピークが観測されなくなった時点以降とし、二置換体と三置換体が任意の比率となった時、反応を停止させてもよい。反応停止は反応液をNaOH水溶液などで中和させることで行ってもよい。その後、減圧下で加熱して残存するエタノールアミンを留去して、上記エタノールアミノ基で置換されたメラミンをワックス状固体として得る。
【0027】
<ポリオールプレミックスの調製>
ポリウレタンフォームの製造において、ポリオールが他の原料成分と相溶しないと、混合タンク内で相分離を起こしたり、発泡性の低下を引き起こしたりして、良好なポリウレタンフォームを得ることができないため、ポリオールは他の原料成分と完全に相溶することが望ましい。
前記式(I)のメラミン誘導体は強い凝集力により液状化が非常に困難であるし、特にエタノール変性メラミンはワックス状固体でもあるので、そのままではウレタンフォーム原料として使用することができない。しかし、前記式(I)のメラミン誘導体、特にエタノール変性メラミンは、高い水溶性を有しているので水に良好に溶解したり、あるいは相溶性ポリオールに良好に分散したりすることができる。
このようにして得られる本発明のメラミン誘導体液は、低粘度であり、またポリオールと良好に相溶するので、これらポリオールに配合すると、均一なポリオールプレミックスを調製することができる。もっとも、前記式(I)のメラミン誘導体を相溶性ポリオールに分散させた場合は、それに水を添加して均一なポリオールプレミックスとして調製してもよいが、そのようなポリオールプレミックスを調製することなく、そのままイソシアネート等と混合して発泡させ、ポリウレタンフォームを製造してもよい。
このようにして、前記式(I)のメラミン誘導体は、ポリウレタンフォーム原料として用いることができ、硬質ポリウレタンフォームに難燃性を与えることができる。
【0028】
上記メラミン誘導体液中での前記式(I)のメラミン誘導体の濃度は、ポリオールプレミックスの水酸基価(OHv)を小さくさせ、またポリオールプレミックス中の該メラミン誘導体配合量を増やせる点で、60%以上、特に80%以上が好ましく、該メラミン誘導体液の粘度が良好に低下する点から、95%以下、特に90%以下が好ましい。
【0029】
本発明で使用されるポリオールとしては、従来から硬質ポリウレタンフォームに使用されているものが使用できる。このようなポリオールとして、例えばポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールとが組み合わせて用いられる。これにより、ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールとは相溶性が低く、発泡過程でセル膜が破られてセルが連通される。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール[但し、エチレンオキサイド(EO)含有率が0%の場合は、分子量は600以下でなければならない]、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0030】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキサイドを付加重合させ、さらにエチレンオキサイドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキサイドを付加重合させ、さらにエチレンオキサイドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のエチレンオキサイド単位は10〜30モル%程度である。エチレンオキサイド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高いポリイソシアネート類との混合性が良くなり、反応性が高くなる。ポリエーテルポリオールは、複数種類のものを併用して水酸基の官能基数や水酸基価を調整することもできる。
【0031】
一方、ポリエステルポリオールとしては、フタル酸、アジピン酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。ポリエステルポリオールの水酸基価が200mgKOH/g以上の場合、ポリウレタンフォームの架橋密度が高くなってフォームの硬度や強度が上昇する傾向を示す点から好ましい。一方、水酸基価が400mgKOH/g以下の場合、架橋密度が低くなって発泡体が柔らかくなり、セルの連通性も上昇する点から好ましい。例えば、水酸基価が200〜400mgKOH/gのフタル酸グリコールエステルが好適に用いられる。
また、フタル酸等の芳香族環を有するポリカルボン酸を用いることにより、得られる硬質ポリウレタンフォームの硬さ(剛直性)を向上させることができる。
【0032】
本発明で使用する相溶性ポリオールは、前記式(I)のメラミン誘導体と相溶するポリオールであれば特に制限されず、例えば、溶解度パラメータ(SP)値が、9.1以上、好ましくは9.3以上のポリオールを指し、上限は21が好ましい。具体的には、例えば、分子量1000未満のポリプロピレングリコール、アミン系ポリオール、フタル酸系ポリオール、ポリエチレングリコール、シュクロース系ポリオール、分子量2000未満かつEO含有率5%以上のEOPO共重合ポリエーテルポリオール、マンニッヒポリオール、グリセリン(SP値:20.3)、特にアミン系ポリオール、フタル酸系ポリオール、ポリエチレングリコール、上記EOPO共重合ポリエーテルポリオール、マンニッヒポリオール、とりわけアミン系ポリオール(分子量500の場合には、SP値:11.5〜12.5程度)、上記EOPO共重合ポリエーテルポリオール(分子量3000の場合には、SP値:9.02〜9.22程度)が、本発明のメラミン誘導体と良好に相溶して均一なポリオールプレミックスを調製し得るので、好ましい。
なお、分子量3000のポリプロピレングリコール等は、SP値が8.9と小さいためメラミン誘導体と相溶しにくく、取り扱いにくくなるため好ましくない。
【0033】
本発明で得られるポリオールプレミックスの粘度は、2000cps以下、特に1000cps以下、とりわけ500cps以下であることが好ましい。粘度の調整は慣用の手法が使え、例えば、本発明の効果を損なわない限度で、前記式(I)のメラミン誘導体の含有量を減らしたり、リン系難燃剤など他の成分を添加したりすることで、粘度を低下させることができる。
【0034】
本発明で得られるポリオールプレミックスは、前記式(I)のメラミン誘導体、ポリオール、及び水以外に、本発明の効果を損なわない限り他の成分を含んでもよい。例えば、着色剤、難燃剤等である。
特に、前記式(I)のメラミン誘導体は架橋距離が近く、剛直な構造を有しているため、リン系難燃剤を多量に配合してもコシが弱くなる虞が少なくなるので、本願発明の効果を損なわない限りにおいて、リン系難燃剤を多量に配合することができる。さらに、リン系難燃剤、例えばトリス(クロロプロピル)ホスフェートは、前記式(I)のメラミン誘導体と比べて安価である上、可塑剤としても働くため、コスト低下ならびに難燃性及び施工性の向上が図れるので、前記式(I)のメラミン誘導体100部に対して、例えば120部程度まで配合してもよいが、得られる硬質ポリウレタンフォームのコシを強くさせ、燃焼の際の有害ガスの発生が抑えられる点から、50部以下まで配合させるのが好ましい。
【0035】
<硬質ポリウレタンフォームの製造>
本発明は、前記式(I)のメラミン誘導体を含有する、UL94 水平燃焼試験において、燃焼速度が0.5〜2、好ましくは0.5〜1.5、特に好ましくは0.5〜1であり、燃焼距離が60mm以下、好ましくは45mm以下、特に好ましくは30mm以下である、難燃性硬質ポリウレタンフォームにも関する。
かかる難燃性に優れた硬質ポリウレタンフォームは、前記式(I)のメラミン誘導体を原料として用いることで得られる。例えば、前記メラミン誘導体液をそのまま使用するか、又は上記で得られたポリオールプレミックスを使用して、慣用の方法で、例えばシリコーン整泡剤及び触媒の存在下でポリイソシアネートと混合し発泡させることで硬質ポリウレタンフォームを得ることができる。特に、前記メラミン誘導体液は、水配合量の多い水処方硬質スプレー発泡に最適であり、多量に配合することができるので、硬質ポリウレタンフォームの難燃性向上に大きく寄与することができる。なお、前記式(I)のメラミン誘導体は、イソシアネートとポリオールとのウレタン反応中に2級アミンを遊離させるため、自己触媒効果によってウレタン反応速度を向上させ、現場発泡でのクリームからライズ(ウレタン反応による反応液の増粘から発泡)までの時間を短縮させるので、現場発泡に適し、触媒量の低減にも寄与し得る。
【0036】
本発明で使用されるポリイソシアネートとしては、従来から硬質ポリウレタンフォームに使用されているものが使用できる。このようなポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、1,3−及び1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI)、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0037】
脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ポリイソシアネートの具体例
としては、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロへキサンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのうち好ましいのは、粗製MDI、TDIである。
【0038】
上述のようにして得られる本発明の硬質ポリウレタンフォームは、原料である前記式(I)のメラミン誘導体がホルムアルデヒドを使用しないで製造されるので、有害なホルムアルデヒドを放散する虞がなく、有利である。
また、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、従来の難燃剤、例えば、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を使用しなくとも難燃性が付与されるため、その場合は燃焼時に発生するガス、例えば、リン系酸化物やダイオキシン類、例えば、ポリ臭素化ジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、ハロゲン化水素ガスなどの低煙化、低毒化、低腐食化の達成が可能となる。また、難燃剤減量による低比重化も可能である。
前記式(I)のメラミン誘導体の剛直な骨格と架橋間距離が近くて済むことから、寸法安定性(耐シュリンク性)に優れた硬質ポリウレタンフォームを得ることも可能となる。
それ以外にも、不溶不融のフィラーを使用しなくとも難燃性が付与されるため、その場合はブリードや衝撃吸収性の低下を起こさない難燃性硬質ポリウレタンフォームを得ることも可能となる。
【0039】
本発明において分子量は、GPCによる測定法を用い(カラム:昭和電工(株)製 Shodex GPCKF−804、溶離液:テトラヒドロフラン(0.8ml/min)、検出:RI)、ポリスチレン換算にて算出した。
また、本発明において溶解度パラメータ(solubility parameter)値δ[単位:J1/2cm−3/2]は、液体の1モルあたりの蒸発エネルギーをΔE[単位:kJmol−1]と、そのモル体積をV[単位:cmmol−1]とすると、下式:
δ=(ΔE/V1/2
で定義される。上記δの値は、液体での分子間相互作用の大きさを示す物理化学定数として使用されている。実測のΔE値より求めた常温でのδ値が、多くの化合物について報告されている。
この溶解度パラメータは、原子団寄与法による計算値であり、ポリオールのような、沸点が本質的に観測されていない熱分解性の化合物等の物性推測ができる。例えばVan Krevelen, "Properties of Polymers", Thirdcompletely Revised Edition, ELSEVIER (1990)に記載の方法で計算できる。各原子団のパラメータに関しては、各種提案されており、いずれの方法で計算してもよいが、Hoftyzer-Van Krevelen, Hoy, Small, Fedors らの方法を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
硬質ポリウレタンフォームの作製に以下の原材料を使用した:
エタノール変性メラミン:イノアック技術研究所製、性状:黄色ワックス状固体、水に易溶;軟化温度:約100℃;平均官能基数:2.5〜2.8;水酸基価:550〜650、
アミン系ポリオール:ADEKA製、BM−54、水酸基価:435〜465、平均官能基数:4.0、(分子量500、SP値:11.5〜12.5)、(末端にEOを含有する。)
EOPOランダムポリエーテルポリオール:ADEKA製、PR−3007、水酸基価:36〜39、平均官能基数:2.0、(分子量3000、SP値:9.02〜9.22)
フタル酸系ポリオール:川崎化成工業製、RDK−133H、
マンニッヒポリオール:旭硝子社製、EXCENOL 400R
ジグリセリン誘導体(PO24):阪本薬品社製、SC−P1600、ポリオキシエチレン(30)ジクリセリルエーテル、分子量1600、
シリコーン整泡剤:東レ・ダウ社製、SF−2938F、
樹脂化触媒:花王ケミカル社製、カオライザーNo.1、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、
泡化触媒:花王ケミカル社製、カオライザーNo.3、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、
リン系難燃剤:大八化学、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、TMCPP、
ポリイソシアネート:BASF社製、ポリメリックMDI〔ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI)〕、NCO基含量30.0〜32.0g/100g、ルプラネートM−11S。
【0042】
エタノール変性メラミンを水に溶解させ、80%と90%のエタノール変性メラミン水溶液を調製した。なお、80%エタノール変性メラミン水溶液とは、エタノール変性メラミンが80%、水が20%からなるものを意味し、表1の実施例1と実施例2では50部用いているため、この溶解させた水の量を「(10)」で表記した。また、表1の実施例3では90%エタノール変性メラミン水溶液を100部用いているため、溶解させた水の量を「(10)」で表記した。
次いで、表1の配合比に従って、プレミックス原料を混合してポリオールプレミックスを調製し、INDEX100になるように発泡原料を混合し発泡させて、実施例1〜3及び比較例1〜3の硬質ポリウレタンフォームを得た。なお、実施例1〜3では、エタノール変性メラミン水溶液を使用したため、水は添加しなかった。
さらに、実施例1の配合において、アミン系ポリオールとEOPOランダムポリエーテルポリオールの合計量(60部)を分子量3000のポリプロピレングリコール(SP値:8.9)に置換えてプレミックスを作成したが、エタノール変性メラミンポリオールとポリプロピレングリコールが容易に分離してしまい均一なプレミックスを調整することができなかった。
【0043】
上記で製造された硬質ポリウレタンフォームの密度及び強度をJIS K-6400に基づき測定した。燃焼性については、試験片(150×40×10t mm)を作製してUL-94 HFに基づく水平燃焼試験で測定した。結果は表1に記載した。
【0044】
表1に示すように、フタル酸系ポリオール及びマンニッヒポリマーをそれぞれ使用した比較例1及び2は水平燃焼試験のHBF基準にもHF-1基準にも不合格であった。また、比較例3は比較例1にリン系難燃剤を配合した以外は同様であるが、HBF基準には合格したが、HF−1基準には不合格であった。
一方、実施例1及び2は、80%エタノール変性メラミン水溶液50重量部の配合で、HF−1基準に合格した。特に、実施例2は、実施例1にリン系難燃剤を10重量部配合したものだが、かかる難燃剤の少量配合で大きく難燃性が向上した。実施例3は、90%エタノール変性メラミン水溶液100重量部の配合で、他にポリオールを使用しなかったが、HF−1基準に合格した。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、良好な難燃性を示す硬質ポリウレタンフォームを提供することができるため、建築物、生活関連用品などの難燃化を図ることが可能になる。
たとえば、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、現場発泡スプレーフォーム又は硬質ウレタンボードとして得られ、各種用途の保温材、断熱材、例えば、LPG又はLNGタンク、LPG又はLNGタンカー、冷凍船、冷凍車両、冷凍倉庫、各種化学プラント、電気冷蔵庫、建築用、電子機器キャビネット、全種類の建築装飾成形品、運搬車両用内壁及び付属品などのための保温材、断熱材などに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は、式(I):
【化3】


(式中、
Xは、−NR’であり;
Yは、−NR’であり;
Zは、−NR’であり;
’はC〜Cヒドロキシアルキルであり、R、R、R’、R、及びR’は、それぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであり、ここで該C〜Cアルキル及び/又はC〜Cヒドロキシアルキルは1個以上の酸素原子で中断されていてもよい)で示されるメラミン誘導体を、水に溶解させたか又は相溶性ポリオールに分散させた、硬質ポリウレタンフォーム製造用メラミン誘導体液。
【請求項2】
’及びR’の一つ又は二つがC〜Cヒドロキシアルキルである、請求項1に記載されたメラミン誘導体液。
【請求項3】
、R、及びRが水素原子である、請求項1又は2に記載されたメラミン誘導体液。
【請求項4】
R’、R’、及びR’が2−ヒドロキシエチルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載されたメラミン誘導体液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載されたメラミン誘導体を含有する均一なポリオールプレミックス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載されたメラミン誘導体液を原料として使用して製造された、難燃性硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項7】
請求項5に記載されたポリオールプレミックスを原料として使用して製造された、難燃性硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載された式(I)のメラミン誘導体を含有する、燃焼速度が1〜2であり、燃焼距離が60mm以下である、難燃性硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載された難燃性硬質ポリウレタンフォームを含む、現場発泡スプレーフォーム又は硬質ウレタンボード。

【公開番号】特開2011−252058(P2011−252058A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125791(P2010−125791)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】