説明

メラミン類分解剤及びこれを用いたメラミン類の分解方法

【課題】複雑な培養制御を要することなくメラミン類を効率的に分解できる微生物を提供する。
【解決手段】好気的条件下でメラミン類を分解する、ステノトロホモナス フミ 2KA14−3(受領番号FERM ABP−11479)、アクロモバクター 1KC64−1(受領番号FERM ABP−11352)、スフィンゴバクテリウム 1KB32−1(受領番号FERM ABP−11351)及びマイクロバクテリウム 2KA14−1(受領番号FERM ABP−11353)並びにこれらの変異株を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、メラミン類の分解方法及びこの方法に用いる分解微生物等に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料工場や塗装工程を有する工場から排出される廃水には、親水性有機化合物が多く含まれている。廃水は一般に活性汚泥によって処理されるが、廃水中には難分解性物質も含まれており、こうした難分解性物質は分解されずに排出されてしまう可能性がある。例えば、塗料中に架橋剤として含まれるメラミン樹脂も難分解性物質の一つである。メラミン樹脂は、トリアジン環を有するメラミン類の一種であるメラミンをメチロール化して重縮合して得られる重合体である。メラミン類が完全分解されれば、CO2とNH4となる。
【0003】
廃水中のメラミン樹脂を分解するために、種々のメラミン類の分解微生物あるいは微生物群が探索されてきている。例えば、活性汚泥によると、1000〜7500ppmのメラミン溶液を嫌気性条件下、pH9付近、30〜37℃という条件で、1日で87%以上の分解率で分解できることが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、塗料製造工場の廃水処理施設から採取したスラッジから単離したメラミン分解性微生物(4種の菌株を含む菌ペースト)をメラミン含有培地(メラミン100mg/l)で培養したところ、49日で培地中のメラミンを100%分解できたことが記載されている(特許文献2)。
【0005】
水田土壌より単離したメラミン分解性微生物を公知のベータプロテオバクテリアCDB21やブラディルゾビジウムジャポニカムCSB1と組み合わせて用いて、メラミン含有培地(メラミン濃度5mg/L)を30℃で210rpm、暗所で培養を行うことにより、メラミンの分解実験を行ったことが記載されている(特許文献3)。この文献によれば、メラミン分解性微生物と公知の微生物とを組み合わせることにより、初めて、完全にメラミンを分解できたことが開示されている。
【0006】
また、種々の環境から採取したトリアジン環化合物を分解する微生物群を単離し、メラミン分解性評価を行ったところ、100ppmメラミン溶液を、1日で20%、2日で70%の分解性を示したことも記載されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−163892号公報
【特許文献2】特開2007−282631号公報
【特許文献3】特開2010−130965号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】塗料の研究、No.149,p2-p7, 2008年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまで単離されたメラミン分解性微生物は、必ずしも十分なメラミン分解性を発揮する物ではなかった。文献に開示されるのは、いずれも、複合的な微生物群による複合的なメラミン系化合物の分解処理である。こうした微生物群による分解処理は、安定した菌組成を得ることのほか、個々に分解性能の異なる微生物を良好に機能させるための制御が困難であり、安定してメラミン系化合物を分解するのは困難であった。また、分解速度も十分でなかった。また、できるだけ低エネルギーコストで廃水処理を行うことも望まれている。
【0010】
そこで、本明細書は、複雑な培養制御を要することなくメラミン類を効率的に分解できる微生物及び当該微生物によるメラミン類の分解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々の環境から、メラミン類の分解処理条件を考慮してメラミン類分解微生物のスクリーニングを行ったところ、いくつかの微生物を見出した。さらに、これらの微生物のうち、特にメラミン類の分解活性が良好でありかつ同様の分解傾向を有する複数の微生物を見出した。本発明は、これらの知見に基づいて提供される。
【0012】
本発明によれば、好気的酸性条件下でメラミン類を分解するメラミン下の(1)〜(4)から選択される1種又は2種以上のメラミン類分解剤を用いる、メラミン類の分解剤が提供される。
以下の(1)〜(4)から選択される1種又は2種以上を含む、メラミン類分解剤。
(1)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するステノトロホモナス フミ 2KA14−3
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号4に示す塩基配列からなるDNA又は塩基配列と99.6%超の同一性を有する塩基配列からなるDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
【0013】
(2)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するアクロモバクター属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:淡黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号1に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.6%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
【0014】
(3)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するスフィンゴバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号2に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.5%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
【0015】
(4)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するマイクロバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:+
(分類学的性質)
配列番号3に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と90.9%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
【0016】
前記ステノトロホモナス属菌、前記アクロモバクター属菌、前記スフィンゴバクテリウム属菌及び前記マイクロバクテリウム属菌における前記科学的性質は、好気的条件、20℃でメラミン及びモノメトキシメチルメラミンを分解する性質であってもよい。
【0017】
前記ステノトロホモナス属菌は、ステノトロホモナス フミ 2KA14−3(受領番号FERM ABP−11479)又はその変異株であるステノトロホモナス属菌であってもよいし、前記アクロモバクター属菌は、アクロモバクター 1KC64−1(受領番号FERM ABP−11352)又はその変異株であるアクロモバクター属菌であってもよいし、前記スフィンゴバクテリウム属菌は、スフィンゴバクテリウム 1KB32−1(受領番号FERMABP−11351)又はその変異株であるスフィンゴバクテリウム属菌であってもよいし、前記マイクロバクテリウム属菌は、マイクロバクテリウム 2KA14−1(受領番号FERMABP−11353)又はその変異株であるマイクロバクテリウム属菌であってもよい。
【0018】
本発明によれば、本発明のメラミン類分解剤を用いて、メラミン類を分解する工程
を備える、メラミン類の分解方法が提供される。
【0019】
前記分解工程は、前記メラミン類分解剤を、好気的条件下で15℃以上40℃以下の温度で前記メラミン類に接触させる工程であってもよい。また、前記分解工程は、塗装廃水中の前記メラミン類を分解する工程であってもよい。さらに、前記分解工程は、前記メラミン類分解剤を含有する活性汚泥を用いる工程であってもよい。
【0020】
本発明によれば、上記ステノトロホモナス属菌、上記アクロモバクター属菌、上記スフィンゴバクテリウム属菌及び上記マイクロバクテリウム属菌から選択される1種又は2種以上でメラミン類を含む廃水を分解する分解槽を有する、廃水処理装置も提供される。
【0021】
本発明によれば、メラミン類分解能を有し、上記ステノトロホモナス フミ 2KA14−3(受領番号FERM ABP−11479)又はその変異株である細菌、上記アクロモバクター 1KC64−1(受領番号FERM ABP−11352)又はその変異株である細菌、スフィンゴバクテリウム 1KB32−1(受領番号FERM ABP−11351)又はその変異株であるスフィンゴバクテリウム属菌、又はマイクロバクテリウム 2KA14−1(受領番号FERM ABP−11353)又はその変異株である細菌も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、各種環境から準備した30株についてのメラミン分解性能の評価結果を示す図である。
【図2】図2は、GC−MS分析及びNMR分析により、この活性汚泥処理前後の各チャートを示す図である。
【図3】図3は、各種環境から準備した30株の菌についての実廃水を用いたメラミン類分解性能の評価結果を示す図である。
【図4】図4は、1KB32−1株についての実廃水を用いたメラミン類分解性能の評価に関して、分解処理前のHPLCチャートを示す図である。
【図5】図5は、1KB32−1株についての実廃水を用いたメラミン類分解性能の評価に関して、分解処理後のHPLCチャートを示す図である。
【図6】図6は、1KB32−1株についての高濃度メラミン類含有実廃水を用いたメラミン類分解性能の評価に関して、活性汚泥処理液についての(a)メラミン類分解処理前及び(b)メラミン類分解処理後、(c)酸性処理後及び(d)酸性処理後にメラミン類分解処理後の各HPLCチャートを示す図である。
【図7】図7は、1KB32−1株によるメラミン類分解後におけるメラミン、アンメリン、アンメリド、シアヌル酸の濃度変化を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書の開示は、メラミン類分解性を有するステノトロホモナス属菌、アクロモバクター属菌、スフィンゴバクテリウム属菌及びマイクロバクテリウム属菌及びその利用に関する。本明細書に開示されるこれらのメラミン類分解微生物は、メラミンなどのメラミン類を、共通する条件でかつ効率的に分解できる。しかもこれらの微生物は、低エネルギーコストでメラミン類を分解できる。したがって、例えば、これらの微生物を1種又は2種以上用いることで、複雑な制御を要さず、低エネルギーコストで効率的にメラミン類を分解できる。また、これらの微生物は、モノメトキシメチルメラミンなどの単置換メラミンを含む「置換基を有するメラミン」を分解できる。したがって、メラミン樹脂を使用する工程の廃水の廃水処理に有用である。以下、本明細書の開示の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
(メラミン類分解微生物)
本明細書に開示されるメラミン類分解微生物は、ステノトロホモナス属、アクロモバクター属、スフィンゴバクテリウム属及びマイクロバクテリウム属に属している。これらの微生物は、土壌、堆肥及び塗装廃水から微生物を採取して選択されたものである。また、これらの微生物は、共通して、置換基を有するメラミンを含む培地で、好気的条件、20℃で、培養継続することにより、選択されたものである。
【0025】
これらの微生物は、いずれも、単独で高いメラミンの分解能を有するほか、置換基を有するメラミンの分解能を有する。したがって、これらの微生物を単独であるいは複数組み合わせて用いることで、メラミン類を効率的に分解することができる。また、これらの微生物は、メラミンを、アンメリン、アンメリド及びシアヌル酸を経て、さらに低分子にまで分解し、トリアジン環を有しない化合物へと無害化することができる。
【0026】
(ステノトロホモナス属菌)
本明細書に開示されるステノトロホモナス属菌は、以下の菌学的性質及び分類学的性質を有する。
【0027】
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
【0028】
(分類学的性質)
16S rRNAをコードする塩基配列(16S rDNA遺伝子)について、配列番号4に示す配列を有している。配列番号4に示す塩基配列をもとにデータベース(Genbank/DDBJ/EMBL又はアポロンDB−BA7.0 (テクノスルガ・ラボ 静岡))及びホモロジー検索ソフト(アポロン2.0(テクノスルガ・ラボ、静岡)又はBLAST)を用いてホモロジー検索したところ、配列番号4に示す塩基配列は“Stenotrophomonas humi R−32729(Accession No.AM403587)”として登録された塩基配列と最も高い同一性(99.6%)を示した。
【0029】
以上の菌学的性質及び16S rDNAの塩基配列に基づく知見から、本明細書に開示されるステノトロホモナス属菌はStenotrophomonas fumiに属する新規な菌株であると推定された。このため本微生物を新菌株と認定し、Stenotrophomonas humi 2KA14−3と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に2012年3月5日に寄託申請し、2012年3月6日(受領日)付けで受領番号FERM ABP−11479として受領された。
【0030】
なお、本明細書に開示される新規なステノトロホモナス属菌は、受領番号FERM ABP−119479で特定される寄託菌株に限定されず、当該寄託菌株と同じ菌株に分類される他の微生物も含むものである。例えば、本明細書に開示されステノトロホモナス属菌は、上記した菌学的性質を有するステノトロホモナス属菌を含んでいる。また、本明細書に開示されるステノトロホモナス属菌は、その16S rDNA遺伝子について配列番号4に示す塩基配列に対して99.6%超の同一性を有し、好ましくは99.7%以上、より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上の同一性を有する。また、例えば、好気的条件下、低温(例えば20℃)でメラミン及び/又はモノメトキシメチルメラミンを分解する能力を有するステノトロホモナス属菌を含んでいる。
【0031】
(アクロモバクター属菌)
本明細書に開示されるアクロモバクター属菌は、以下の菌学的性質及び分類学的性質を有する。
【0032】
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。好ましくは、20℃、好気的条件下で、メラミン及びモノメトキシメチルメラミンを分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:淡黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
【0033】
(分類学的性質)
16S rRNAをコードする塩基配列(16S rDNA遺伝子)について、配列番号1に示す配列を有している。配列番号1に示す塩基配列をもとにデータベース(Genbank/DDBJ/EMBL又はアポロンDB−BA7.0(テクノスルガ・ラボ、静岡))及びホモロジー検索ソフト(アポロン2.0(テクノスルガ・ラボ、静岡)又はBLAST)を用いてホモロジー検索したところ、配列番号1に示す塩基配列は“Acromobacter sp.MT−E3 (Accession No.EU727196.1)”として登録された塩基配列と最も高い同一性(99.6%)を示した。
【0034】
以上の菌学的性質及び16S rRNAの塩基配列に基づく知見から、本明細書に開示されるアクロモバクター属菌はAchromobacterに属する新規な菌株であると推定された。このため本微生物を新菌株と認定し、Achromobacter sp.1KC64−1と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に2011年3月21日に寄託申請し、2011年3月22日(受領日)付けで受領番号FERM ABP−11352として受領された。
【0035】
なお、本明細書に開示される新規なアクロモバクター属菌は、受領番号FERM ABP−11352で特定される寄託菌株に限定されず、当該寄託菌株と同じ菌株に分類される他の微生物も含むものである。例えば、本明細書に開示されるアクロモバクター属菌は、上記した菌学的性質を有するアクロモバクター属菌を含んでいる。また、本明細書に開示されるアクロモバクター属菌は、その16S rDNA遺伝子について配列番号1に示す塩基配列に対して99.6%超の同一性を有し、好ましくは99.7%以上、より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上の同一性を有する。また、例えば、好気的条件下、低温(例えば20℃)でメラミン及び/又はモノメトキシメチルメラミンを分解する能力を有するアクロモバクター属菌を含んでいる。
【0036】
(のスフィンゴバクテリウム属菌)
本明細書に開示されるスフィンゴバクテリウム属菌は、以下の菌学的性質及び分類学的性質を有する。
【0037】
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。好ましくは、20℃、好気的条件下で、メラミン及びモノメトキシメチルメラミンを分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
【0038】
(分類学的性質)
16S rRNAをコードする塩基配列(16S rDNA遺伝子)について、配列番号2に示す配列を有している。配列番号2に示す塩基配列をもとにデータベース(Genbank/DDBJ/EMBL又はアポロンDB−BA7.0(テクノスルガ・ラボ、静岡))及びホモロジー検索ソフト(アポロン2.0(テクノスルガ・ラボ、静岡)又はBLAST)を用いてホモロジー検索したところ、配列番号2に示す塩基配列は“Sphingobacterium sp. MG2(Accession No.AY556417.1)”及び“Sphingobacterium sp. G−2−27−2(Accession No.EF102865.1)”として登録された塩基配列と最も高い同一性(99.5%)を示した。
【0039】
以上の菌学的性質及び16S rRNAの塩基配列に基づく知見から、本明細書に開示されるスフィンゴバクテリウム属菌はSphingobacteriumに属する新規な菌株であると推定された。このため本微生物を新菌株と認定し、Sphingobacterium sp.1KB32−1と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に2011年3月21日に寄託申請し、2011年3月22日(受領日)付けで受領番号FERM ABP−11351として受領された。
【0040】
なお、本明細書に開示される新規なスフィンゴバクテリウム属菌は、受領番号FERM ABP−11351で特定される寄託菌株に限定されず、当該寄託菌株と同じ菌株に分類される他の微生物も含むものである。例えば、本明細書に開示されるマイクロバクテリウム属菌は、上記した菌学的性質を有するスフィンゴバクテリウム属菌を含んでいる。また、本明細書に開示されるスフィンゴバクテリウム属菌は、その16S rDNA遺伝子について、配列番号2に示す塩基配列に対して99.5%超の同一性を有し、好ましくは99.6%以上、より好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.8%以上、一層好ましくは99.9%以上の同一性を有する。また、例えば、好気的条件下、低温(例えば20℃)でメラミン及び/又はモノメトキシメチルメラミンを分解する能力を有するスフィンゴバクテリウム属菌を含んでいる。
【0041】
(マイクロバクテリウム属菌)
本明細書に開示されるマイクロバクテリウム属菌は、以下の菌学的性質及び分類学的性質を有する。
【0042】
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下で、メラミン類を分解する。好ましくは、20℃、好気的条件下で、メラミン及びモノメトキシメチルメラミンを分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:+
【0043】
(分類学的性質)
16S rRNAをコードする塩基配列(16S rDNA遺伝子)について、配列番号3に示す配列を有している。配列番号3に示す塩基配列をもとにデータベース(Genbank/DDBJ/EMBL又はアポロンDB−BA7.0(テクノスルガ・ラボ、静岡))及びホモロジー検索ソフト(アポロン2.0(テクノスルガ・ラボ、静岡)又はBLAST)を用いてホモロジー検索したところ、配列番号3に示す塩基配列は“Microbacterium sp. AS−44(Accession No.AJ391205.1)”として登録された塩基配列と最も高い同一性(90.9%)を示した。
【0044】
以上の菌学的性質及び16S rRNAの塩基配列に基づく知見から、本明細書に開示されるマイクロバクテリウム属菌はMicrobacteriumに属する新規な菌株であると推定された。このため本微生物を新菌株と認定し、2KA14−1と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に2011年3月21日に寄託申請し、2011年3月22日(受領日)付けで受領番号FERM ABP−11353として受領された。
【0045】
なお、本明細書に開示される新規なマイクロバクテリウム属菌は、受領番号FERM ABP−11353で特定される寄託菌株に限定されず、当該寄託菌株と同じ菌株に分類される他の微生物も含むものである。例えば、本明細書に開示されるマイクロバクテリウム属菌は、上記した菌学的性質を有するマイクロバクテリウム属菌を含んでいる。また、本明細書に開示されるマイクロバクテリウム属菌は、その16S rDNA遺伝子について、配列番号3に示す塩基配列に対して90.9%超の同一性を有し、好ましくは91.0%以上、より好ましくは95.0%以上、さらに好ましくは97.0%以上、一層好ましくは98.0%以上、より一層好ましくは99.0%以上の同一性を有する。また、例えば、好気的条件下、低温(例えば20℃)でメラミン及び/又はモノメトキシメチルメラミンを分解する能力を有するマイクロバクテリウム属菌を含んでいる。
【0046】
これらの微生物を、公知の方法により変異処理し、一定条件下でスクリーニングすることにより、メラミン類の分解能に関し同等あるいはそれ以上の変異株を取得できる。なお、こうした微生物の変異処理方法としては、例えば物理的方法又は化学的方法が挙げられる。物理的方法としては、紫外線照射、X線照射等が用いられ、化学的方法としては、変異原性化学物、例えば亜硝酸、N−メチルN′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、アクリジン系色素等が使用される。こうした方法は、いずれも当業者における周知技術である。
【0047】
本明細書に開示される微生物は、いずれも、特別な炭素源及び窒素源がなくても、メラミン類を分解・資化して生存、増殖することが可能である。このため、炭素源及び窒素源を必須とすることなく、低コストでメラミン類を分解処理することができる。
【0048】
本明細書においてメラミン類とは、例えば、以下の式(1):
【化1】

(式(1)において、X1は、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ヒドロキシアルキルアミノ基、アルコキシアルキルアミノ基、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基、ビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基からなる群から選択される基であり、好ましくは、アミノ基、アルコキシアルキルアミノ基、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基であり、特に好ましくはアミノ基であり、X2、X3は、それぞれ独立に、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミノアルキル基、アルコキシアルキルアミノ基、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基、ヒドロキシアルキルアミノ基、ビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基からなる群から選択される基である。)
で表されるトリアジン環を1分子中に少なくとも1個有する化合物である。メラミン類には、トリアジン環を一つ有する単核性メラミン類と複数個有する多核性メラミン類が含まれる。
【0049】
トリアジン環におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロパン−1−イル基、プロパン−2−イル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基を例示することができ、好ましくはメチル基、エチル基、特に好ましくはメチル基を挙げることができる。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基を例示することができ、好ましくはメチルチオ基を挙げることができる。アルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロパン−1−イルアミノ基、プロパン−2−イルアミノ基(イソプロピルアミノ基)、イソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基を例示することができ、好ましくはエチルアミノ基を挙げることができる。ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基を例示することができ、好ましくはジメチルアミノ基を挙げることができる。アミノアルキル基としては、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロパン−1−イル基、アミノプロパン−2−イル(アミノイソプロピル基)、アミノイソブチル基、アミノsec−ブチル基、アミノtert−ブチル基を例示することができ、好ましくはアミノメチル基を挙げることができる。ヒドロキシアルキルアミノ基としては、例えば、ヒドロキシメチルアミノ基、ヒドロキシエチルアミノ基を例示することができ、好ましくはヒドロキシメチルアミノ基を挙げることができる。ビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基としては、例えば、ビス(ヒドロキシメチル)アミノ基、ビス(ヒドロキシエチル)アミノ基を例示することができ、好ましくはビス(ヒドロキシメチル)アミノ基を挙げることができる。アルコキシアルキルアミノ基としては、メトキシメチルアミノ基、メトキシエチルアミノ基、エトキシエチルアミノ基、エトキシメチルアミノ基等が挙げられる。また、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基としては、ビス(メトキシメチル)アミノ基、ビス(メトキシエチル)アミノ基、ビス(エトキシメチル)アミノ基、ビス(エトキシエチル)アミノ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子、好ましくは塩素原子を挙げることができる。
【0050】
トリアジン環において、X1はアミノ基、アルコキシアルキルアミノ基、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基とすることが好ましい。また、X2、X3は、それぞれ独立に、アミノ基、アルコキシアルキルアミノ基、ビス(アルコキシアルキル)アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノアルキル基、ヒドロキシアルキルアミノ基、ビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基、又は水素原子とすることができる。
【0051】
単核性のメラミン類は、上記式Iにおいて、X1、X2及びX3がアミノ基(NH2)である化合物(メラミン)が含まれる。また、単核性のメラミン類には、メラミンにおいてアミノ基の一つのHが置換されているメラミン類である単置換メラミン、メラミンにおいて、二つ以上のHが置換されている多数置換メラミンである「置換基を有するメラミン」が含まれる。また、単核性のメラミン類には、X1及びX2がアミノ基であり且つX3が水酸基である化合物(アンメリン)、X1がアミノ基であり且つX2及びX3が水酸基である化合物(アンメリド)などのメラミン類の分解中間体が含まれる。
【0052】
単置換メラミンには、X1がアルコキシアルキルアミノ基であり、X2及びX3がアミノ基である、モノアルコキシアルキルメラミンが挙げられる。また、多置換メラミンには、X1及びX2がアルコキシアルキルアミノ基であり、X3がアミノ基である、ジアルコキシアルキルメラミンが挙げられる。さらに、X1〜X3がアルコキシアルキルアミノ基であるトリアルコキシアルキルメラミンが挙げられる。さらに、X1がビス(アルコキシアルキル)アミノ基であり、X2及びX3がアミノ基であるジアルコキシアルキルメラミンが挙げられる。さらに、このほか、メラミンの水素原子1個〜6個のうち、1〜6個がアルコキシアルキル基で置換されたアルコキシアルキル置換メラミンが含まれる。
【0053】
単核性のメラミン類は、好ましくはメラミンの有するアミノ基のうち水素原子の少なくとも一つがメトキシメチル基で置換された単置換メラミン及び多置換メラミンが挙げられる。こうしたメラミン類としては、モノメトキシメチルメラミン、ジメトキシメチルメラミン、トリメトキシメチルメラミンを始めとして、最大6個がモノメトキシメチル基で置換されたメラミンが挙げられる。
【0054】
この他、メラミン類としては、シアヌル酸、イソシアヌル酸、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラム、硫酸メラム、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、サクシノグアナミン、メラミンシアヌレート、メラミンフォスフェート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、トリグアナミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、メチレンジメラミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメラミン、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0055】
また、多核性のメラミン類としては、上記式(1)で表されるトリアジン環を複数含む化合物が挙げられる。例えば、同一又は異なるトリアジン環を単量体ユニットとして有する重合体が挙げられる。こうした多核性メラミン類としては、いわゆるメラミン樹脂が挙げられる。ここで、メラミン樹脂とは、メラミンなどの単核性メラミン類にアルデヒド、殊にホルムアルデヒド及び/又はアルコールを反応させることにより得られる重合体を包含し、例えば、メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等のアルキルエーテル化メラミンやメチロール化メラミンなどを挙げることができる。
【0056】
モノメトキシメチルメラミン、サイメル303及び305(いずれも日本サイテックインダストリーズ製)が挙げられる。モノメトキシメチルメラミン並びにサイメル303及び305に含まれるトリアジン環構造を以下に示す。なお、サイメル303及び305は、平均重合度がそれぞれ1.7及び2.3である。
【0057】
【化2】

【0058】
塗装工程における廃水には、塗料に由来する各種のメラミン樹脂あるいは当該メラミン樹脂の部分分解物である多核性及び単核性メラミン類(単置換メラミンや多置換メラミン)が含まれていることが多い。
【0059】
(メラミン類分解剤)
本明細書に開示されるメラミン類分解剤は、上記したステノトロホモナス属菌、アクロモバクター属菌、スフィンゴバクテリウム属菌及びマイクロバクテリウム属菌から選択される1種又は2種以上を含んでいる。本明細書に開示される微生物製剤は、これらの各微生物が、共通する条件下で単独で高いメラミン類の分解能を発揮でき、同様の分解傾向を有することから、任意の組み合わせで用いても、高いメラミン類の分解活性を有する製剤を得ることができる。また、この微生物製剤によれば、低エネルギーコストでメラミン類を分解することができる。なお、本メラミン類分解剤を用いてメラミン類を分解する条件は、メラミン類が分解される限り、特に限定されないで、後述する条件を適用できる。本メラミン類分解剤は、好気的条件下、夏場における冷却手段や冬場における加熱手段を要することなく、例えば、15℃以上40℃以下でメラミン類を効果的に分解できる。
【0060】
本メラミン類分解剤は、メラミン類の分解の用途に用いられ、メラミン類を含んでいればとくにその適用対象は限定されない。典型的には、例えば、メラミン類を含有する工場廃水、農業廃水、家庭廃水などを適用対象とすることができる。また、適用対象は、土壌、堆肥等のメラミン類の残留可能性のある適用対象中のメラミン類としてもよい。なお、こうした固形物中のメラミン類は、固形物を適宜水等の液体に懸濁して液体にメラミン類を溶解させた懸濁物やその固液分離物であってもよい。工場廃水としては、特に塗装工程を有する工場や現場の廃水(塗装廃水ともいう。)が挙げられる。
【0061】
(メラミン類の分解方法)
本明細書に開示されるメラミン類の分解方法は、本発明のメラミン類分解剤を用いて、メラミン類を分解する工程を備えることができる。本分解方法によれば、加熱手段又は冷却手段を特に必要とすることなく、また、好気的条件でメラミン類を微生物によって分解処理できるため、低コストで実施できる。また、メラミン類分解剤を構成する微生物は、いずれも、単独で、メラミン類を分解する能力が良好であるため、複雑な制御を必要とせずに、効率的にメラミン類を分解できる。
【0062】
分解工程において、本分解剤を構成する微生物が、メラミン類を分解し資化する条件は、特に限定されないが、好気的条件下でメラミン類と接触させることが好ましい。好気的条件は、通常、大気圧雰囲気での培養により容易に得ることができる。大気圧雰囲気下で、必要に応じて、静置培養のほか、振とう培養、撹拌培養、通気培養等の各種の好気的培養手法を適宜採用することができる。
【0063】
本分解方法における分解工程の条件は、上記したとおり既に説明した条件を適用できる。好ましくは、好気的条件下で15℃以上40℃以下の温度で前記メラミン類に接触させるようにする。本明細書に開示される微生物は、こうした温度域、すなわち、加温を必要としない温度域においても、良好なトリアジン分解能及び置換メラミン分解能を有している。この温度域は、メラミン樹脂の使用工程の工程廃水としては通常の温度であるほか、年間を通じて外気又は室内において一定期間放置することにより容易に得ることができる温度である。このため、本明細書に開示される微生物は、特に廃水を加温や冷却等の温度制御を必須とすることなく、低エネルギーコストで廃水処理をすることが可能である。本方法では、35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下、さらに20℃以下であっても十分にメラミン類や置換メラミン類を分解できる。一方、メラミン類分解活性が維持される限り、20℃以上であってもよい。より高温域であれば、メラミン類の分解活性はより向上する。こうした観点からは、分解温度は、25℃以上であってもよく、30℃以上であってもよい。なお、40℃を超える高温での分解工程を排除するものではない。
【0064】
また、pHについては、中性付近とすることが好ましい。すなわち、pH6〜8程度であり、より好ましくはpH6.5以上7.5以下程度である。こうしたpHを維持するには、こうしたpHに緩衝域を有する緩衝液を適宜選択して用いることができる。
【0065】
分解工程は、本メラミン類分解剤を含有する活性汚泥を用いる工程であってもよい。こうした分解工程を実施することで、活性汚泥による分解作用とメラミン類分解剤による分解作用とを同時に実現することができる。また、こうした分解工程を備えることで、後段で詳述するように分解工程に先立って行う活性汚泥による処理工程を補ったりあるいは省略することも可能である。本メラミン類分解剤を含有する活性汚泥を用いる場合であっても、上記した本分解工程における条件の範囲内で分解工程を実施することができる。
【0066】
分解工程に先立ってメラミン類含有廃水に対して活性汚泥処理工程が実施されていることが好ましい。本メラミン類分解剤による分解工程に供される廃水は、好ましくは、活性汚泥処理後の廃水である。メラミン類は、上記のように各種の廃水、典型的には車両を始め、各種の塗装工程の廃水に含まれる。本発明者らによれば、メラミン樹脂を含む塗料の塗装工程等の廃水には、メラミン樹脂に由来する多様なメラミン類が含まれているが、活性汚泥処理により、メラミン類を含む廃水のうち、メラミン類以外の溶剤などの各種成分が分解除去され、ひいては、メラミン類が主成分ともなりうることがわかっている。すなわち、メラミン類分解剤による分解処理前に活性汚泥処理工程を実施することで、微生物の増殖阻害を生じさせるような成分を除去でき、その後のメラミン類分解剤を用いた分解工程に適した組成とすることができる。
【0067】
活性汚泥処理の手法や種類は特に限定されないで、従来メラミン類を含みうる塗装工程廃水に適用した方法をそのまま適用することができる。例えば、活性汚泥を添加し、例えば15℃〜40℃、pH6〜8で曝気処理30〜70日間程度とすることができる。
【0068】
また、メラミン類分解剤による分解工程に先立って、メラミン類含有廃水に対して、酸性下で廃水中の多置換メラミン類を分解する工程を実施することが好ましい。本発明者らによれば、酸性下にこうした廃水を曝すことで、多置換メラミン類が分解されてメラミン、あるいはこれに加えて単置換メラミンが主成分となることがわかっている。メラミン、あるいはこれに加えて単置換メラミンを主成分とすることで、本メラミン類分解剤を用いた分解を効率的に行うことができる。
【0069】
この処理工程の酸性条件は特に限定しないが、分解促進の観点からは、好ましくは、pH6以下であり、より好ましくはpH5以下であり、さらに好ましくはpH4以下であり、一層このましくはpH3以下である。また、pH調整操作の観点からは、好ましくはpH3以上であり、より好ましくはpH4以上であり、さらに好ましくはpH5以上である。メラミン類含有廃水は、例えば、適当な有機酸及び/又は無機酸で酸性化することができる。典型的には塩酸などの無機酸が挙げられる。酸性処理工程は、その温度は特に限定しないが、好ましくは15℃以上40℃以下程度とし、適宜撹拌しながら行うことが好ましい。時間も、置換基の解離を促進し、分解物であるメラミン、あるいはこれに加えて単置換メラミンが主成分となるように実施する。温度にもよるが、例えば、数時間から60時間程度、好ましくは10時間から50時間手程度行うことが好ましい。
【0070】
酸性処理工程と活性汚泥処理工程とは、いずれか一方を行ってもよいが、その双方を行ってもよい。双方を行う場合には、好ましくは活性汚泥処理工程を先に行い、その後、酸性処理工程を行う。活性汚泥処理工程後に酸性処理工程を実施することで、酸性処理工程をより効果的に行うことができる。
【0071】
酸性処理工程後に本メラミン類分解剤を用いた分解工程を実施する場合には、酸性の液性を中和して既に説明した本分解工程に適したpHに調整することが好ましい。pH調整は、特に限定しないが、適当なアルカリを用いて実施する。
【0072】
(メラミン類含有廃水の処理方法)
本発明によれば、メラミン類を含有する廃水の処理方法が提供される。本処理方法は、酸性下でメラミン類含有廃水中の多置換メラミン類を分解する処理工程、を備えることができる。こうした処理方法によれば、多置換メラミン類が減少し、メラミン、あるいはメラミンと単置換メラミンが主体となっているため、その後の微生物等を用いた分解処理に適した組成となっている。特に、本処理方法は、本メラミン類分解剤を用いた分解処理のために当該分解処理に先立ってすることが好ましい。本メラミン類分解剤によれば、残存する各種のメラミンあるいはメラミンと単置換メラミンを効率的に分解できるからである。また、本処理方法は、活性汚泥処理後の塗装工程廃水に適用することが好ましい。活性汚泥によりメラミンあるいはメラミンと単置換メラミンが主成分となっているため酸処理も効率的に進行する。
【0073】
(メラミン類を含む廃水の処理装置)
本明細書の開示によれば、本明細書に開示されるステノトロホモナス属菌、アクロモバクター属菌、スフィンゴバクテリウム属菌及びマイクロバクテリウム属菌からなる群から選択される1種又は2種以上で、メラミン類を含む廃水を分解する分解槽を有する、廃水処理装置が提供される。本装置によれば、常温でかつ好気的条件で廃水を処理できるので、装置構成も簡略化できるし、しかも、低コストで連続運転させることができる。本処理装置においては、本分解方法について説明した各種の実施態様を適用することができる。
【0074】
分解槽におけるこれらの微生物の存在形態は特に限定しない。浮遊状態であってもよいし、凝集形態であってもよいし、なんらかの固相担体に固定化された状態であってもよい。また、分解槽の形態も特に限定されない、必要に応じてバッチ式あるいは連続式の処理に適したものとすることができる。
【0075】
本処理装置は、メラミン樹脂塗料を用いた塗装工程廃水処理設備の一部であってもよい。また、前記分解槽の前段には、活性汚泥処理槽及び/又は酸性処理槽を備えることもできる。活性汚泥処理槽及び酸性処理槽における各処理は、活性汚泥処理工程及び酸処理工程について既に説明した各種の実施態様を適用できる。好ましくはこれらの双方を有し、上流から順に活性汚泥処理槽、酸性処理槽及び本分解槽を備える。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
(メラミン類分解微生物の集積培養及び分離)
(スクリーニングA)
土壌、堆肥、塗装廃水などから微生物を採取し、培地A(0.1%サイメル303(完全アルキル化型メトキシメチルメラミン、日本サイテックインダストリーズ製)、0.1%サイメル325(イミノ基型メトキシメチルメラミン、日本サイテックインダストリーズ製)、0.1Mリン酸カリウムナトリウムバッファ(pH6.7)、0.5%NaCl、1mM MgSO4、0.1mM CaCl2、5mg/L EDTA、2mg/L FeSO4・7H2O、0.1mg/L ZnSO4・7H2O、0.043mg/L MnSO4、・5H2O、0.3mg/L H3BO3、0.223mg CoCl2・6H2O、0.01mg/L CuSO4・5H2O、0.015mg/L NiCl2・6H2O、0.03mg/L Na2MoO4・2H2O、0.66mg/L CaCO3)10mlに加え、20℃、150rpmで振とうし、1週間ごとに培養液1mlを採取し、新しい培地A9mlに加え、再び、20℃、150rpmで振とうを続ける操作を5週間継続した。振とう液0.1mlを選択培地B(培地A、15g/L 寒天)に塗布し、20℃、7日間培養した。培養後、出現したコロニーの中から29株を分離した。
【0078】
(スクリーニングB)
さらに、土壌、堆肥、塗装廃水などから微生物を採取し、培地A(0.1%サイメル303(完全アルキル化型メトキシメチルメラミン、日本サイテックインダストリーズ製)、0.1%サイメル325(イミノ基型メトキシメチルメラミン、日本サイテックインダストリーズ製)、0.1Mリン酸カリウムナトリウムバッファ(pH6.7)、0.5%NaCl、1mM MgSO4、0.1mM CaCl2、5mg/L EDTA、2mg/L FeSO4・7H2O、0.1mg/L ZnSO4・7H2O、0.043mg/L MnSO4、・5H2O、0.3mg/L H3BO3、0.223mg CoCl2・6H2O、0.01mg/L CuSO4・5H2O、0.015mg/L NiCl2・6H2O、0.03mg/L Na2MoO4・2H2O、0.66mg/L CaCO3)10mlに加え、20℃、150rpmで振とうし、1週間ごとに培養液1mlを採取し、新しい培地A9mlに加え、再び、20℃、150rpmで振とうを続ける操作を5週間継続した。振とう液0.1mlを選択培地B(培地A、15g/L 寒天)に塗布し、20℃、7日間培養した。培養後、出現したコロニーの中から1株を分離した。
【実施例2】
【0079】
(メラミンの分解能評価)
培地C(培地Aのうち、サイメル303及びサイメル325を0.01%メラミン(和光純薬株式会社製)としたもの)10mlに濁度2(波長660nm)に調整したスクリーニングAによって得られた分解菌29株の懸濁液500μlを添加し、20℃で24時間、150rpmで振とう培養してメラミン分解性を評価した。メラミンの分解性は、溶液中に存在するメラミンをHPLC(島津製作所Prominence、カラム:インタクト製Unison UK-C8)を用いて分析し、その濃度変化により評価した。その結果を図1に示す。また、スクリーニングBにより追加で分離した1株についても、同様にメラミンの分解能を評価した。結果を、図1に併せて示す。
【0080】
図1に示すように、スクリーニングによって得られた菌株はほとんどがほぼ100%メラミンを分解した。こうした分解率は、従来の好気的条件におけるメラミン分解法を遙かに凌ぐものであった。
【実施例3】
【0081】
(実廃水でのメラミン類分解能評価)
本実施例は、実廃水A(COD1000mg/ml)1lに活性汚泥を添加し(MLSS2700mg/l)、20〜25℃、pH7〜8で曝気処理50日間行った。ろ過により固液分離を行い、活性汚泥処理液(液層)を得た(COD130mg/ml)。図2に示すように、GC−MS分析及びNMR分析により、この活性汚泥処理液の含有成分は溶剤成分が消失し、トリアジン環を有するメラミン類が主成分として残留していることがわかった。
【0082】
活性汚泥処理液10mlに濁度2(波長660nm)に調製した分解菌29株の懸濁液500μlを添加し、20℃で24時間、150rpmで振とう培養してメラミン類分解性を評価した。メラミン類の分解性は実施例2と同様にして評価した。同様にして、スクリーニングBにより分離した分解菌1株についても、分解能を評価した。これらの結果を併せて図3に示す。
【0083】
図3に示すように、スクリーニングによって得られた菌株は、ほとんど実廃水中のメラミン類分解能を有していた。なかでも、2KA14−3株、1KC64−1株、1KB32−1株、2KA14−1株の4株は一日の処理で初期値200ppmのメラミンをほぼ半分にまで分解した。また、1KB32−1株についての処理前後のHPLCチャートを図4及び図5に示す。図4及び図5に示すように、メラミン分解処理によりメラミン(ピークB)とモノメトキシメチルメラミンの一つのピーク(ピークC)が完全に消失し、その他の置換基を有するメラミンのピーク(モノメトキシメチルメラミン(ピークD)、ジメトキシメチルメラミン(ピークE、F)も減少が見られ、本菌株を用いるとメラミンだけでなく「置換基を有するメラミン」に関しても分解可能であることが示された。また、図4及び図5に示すように、その他のメラミン(ピークH)も減少しており、上記した「置換基を有するメラミン」だけでなくその他のメラミンにも有効であることがわかった。さらに、こうした傾向を、同様にメラミン類分解能の高い2KA14−3株、1KC64−1株、2KA14−1株についても確認できた。
【実施例4】
【0084】
(高濃度メラミン類含有実廃水での分解能評価)
本実施例では高濃度メラミンを含有する実廃水での分解性を評価した。
塗装工程廃水B(COD6000mg/ml)1lに活性汚泥を添加し(MLSS2700 mg/l)、20〜25℃、pH7〜8で曝気処理を50日間行った。活性汚泥処理液10mlに対して、濁度2(波長660nm)に調製した1KB32−1株の懸濁液500μlを添加し、20℃で4週間振とう培養を行い、実施例2と同様にしてメラミン類分解性を評価した。活性汚泥処理前後のHPLCのクロマトグラムを図6中の(a)及び(b)に示す。図6(a)及び(b)に示すように、クロマトグラム上のピークに変化は見られずメラミン類分解能は検出されなかった。なお、これらのクロマトグラム上のピークHは、多置換メラミンを含むメラミン類に対応している。
【0085】
さらに、活性汚泥処理液10mlを、1N塩酸を用いてpH5に調整後、20℃で4週間振とうを行った。この酸処理の結果、図6(c)に示すように、多置換メラミンを含むメラミン類に由来するピークHは消滅し、その替わりメラミン(ピークB)、単置換メラミンであるモノメトキシメチルメラミン(ピークC)のピークが出現した。さらに、この酸処理後の溶液を1N水酸化ナトリウム溶液を用いてpH7に調整後、濁度2(波長660nm)に調整した1KB32−1株の懸濁液500μlと混合し、20℃で3日間振とう培養を行い、これらのメラミン類分解性を評価した。その結果を図6(d)に示す。
【0086】
図6(d)に示すように、HPLCのクロマトグラム上のメラミン(ピークB)及びモノメトキシメチルメラミン(ピークC)はほぼ消滅した。以上のことから、活性汚泥処理液の特定微生物による分解処理によっては、メラミン類は分解されないで残存するが、その後の酸処理により多置換メラミンを含むメラミン類は消失ないし減少してメラミン及び単置換メラミンが主体となり、その後の特定の微生物による処理によってこれらのメラミン類が容易に消失することがわかった。
【実施例5】
【0087】
本実施例では、菌株を同定した。メラミン類分解性評価の結果から、メラミン分解性の高い1KC64−1株、1KB32−1株、2KA14−1株及び2KA14−3株について形態学的性質及び遺伝学的性質を解析した。形態学的性質はLB寒天培地で37℃、48時間培養後に形成されたコロニーを実体顕微鏡(オリンパス製 SZH10)で、グラム染色後に光学顕微鏡(オリンパス製 BX50F4)で観察した。
【0088】
また、分類学的性質は、これらの各菌株菌体からゲノム抽出し、定法に従い、16S rDNA遺伝子の塩基配列に基づく遺伝学的解析を行った。すなわち、16S rRNA領域をPCRにより増幅し、その後、配列決定を行った。なお、使用したプライマーは、以下のとおりとした。
【0089】
(1KC64−1株、1KB32−1株、2KA14−1株用)
増幅プライマー
9F:5'-gagtt tgatc ctggc tcag-3'(配列番号5)
1492R:5'-tacgg ytacc ttgtt acgac tt-3'(配列番号6)
Y=t 又はc
(1KC64−1株、1KB32−1株、2KA14−1株用の増幅プライマー)
シークエンスプライマー
9F:5'-gagtt tgatc ctggc tcag-3'(配列番号5)
1240R:5'-ccatt gtagc acgtg t-3'(配列番号7)
【0090】
(2KA14−3株用)
増幅プライマー
9F : 5’-gag ttt gat cct ggc tca g- 3’(配列番号5)
1510R : 5’-gtg aag ctt acg gyt acc ttg tta cga ctt- 3’(配列番号8)
シークエンスプライマー
9F : 5’-gag ttt gat cct ggc tca g- 3’(配列番号5)
785F : 5’-gga tta gat acc ctg gta- 3’(配列番号9)
805R : 5’-tac cag ggt tac taa tcc- 3’(配列番号10)
1510R : 5’-gtg aag ctt acg gyt acc ttg tta cga ctt- 3’(配列番号11)
【0091】
得られた増幅産物につき、定法に従い、塩基配列を決定した。得られた16S rDNA領域の塩基配列に基づいて相同性検索及び簡易分子系統解析を行った。データベースとしては国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を使用した。結果を表1に示す。また、それぞれの菌についての遺伝学的解析結果を表2〜5に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
[表2]
(1KC64−1株)
近縁種 相同性(%)
Achromobacter sp. MT-E3(EU727196.1) 99.6
Alcaligenes sp. ON5(AJ306836.1) 99.6
Alcaligenes sp. SK0603(DQ459259.1) 99.5
Achromobacter sp. Esp3(EF433459.1) 99.5
Achromobacter sp. AMC1(AY635878.1) 99.5
Alcaligenes sp. Yen(AY744384.1) 99.4
Achromobacter sp. CEMM 05-01-040(GU244494.1) 99.4
Achromobacter sp. CEMM 05-01-038(GU244493.1) 99.4
Achromobacter sp. F3feb.50(GQ417634.1) 99.4
Achromobacter sp. F2oct.45(GQ417528.1) 99.4
Achromobacter xylosoxidans ybb5(EU214611.1) 99.4
Achromobacter insolitus Y2P1(EU221379.1) 99.4
【0094】
[表3]
(1KB32−1株)
近縁種 相同性(%)
Sphingobacterium sp. MG2(AY556417.1) 99.5
Sphingobacterium sp. G-2-27-2(EF102865.1) 99.5
Sphingobacterium sp. No.6(FJ868219.1) 99.4
Sphingobacterium sp. M7(FM958445.1) 99.4
Sphingobacterium sp. F19(GU120661.1) 99.4
Sphingobacterium multivorum BAC3045(HM355636.1) 99.4
Sphingobacterium sp. 1ZP4(HQ540555.1) 99.3
Sphingobacterium multivorum OM-A8(AB020205.1) 99.2
Sphingobacterium sp. IN42(HQ423411.1) 99.1
Sphingobacterium sp. Cxh-8(EF059711.1) 99.0
【0095】
[表4]
(2KA14−1株)
近縁種 相同性(%)
Microbacterium liquefaciens DSM20638(NR_026162) 90.5
Microbacterium sp. AS-44(AJ391205.1) 90.9
Microbacterium sp. S15-M4(AM234160.1) 90.8
Microbacterium sp. 3019BRRJ(FJ200406.2) 90.8
Microbacterium oxidans XH0903(GQ279110.1) 90.8
Microbacterium oxidans WT141(GQ152132.1) 90.8
Microbacterium oxidans 407(EU714369.1) 90.8
Microbacterium oxidans 3227(EU714357.1) 90.8
Microbacterium oxidans 2704(EU714344.1) 90.8
Microbacterium oxidans 2083(EU714335.1) 90.8
Microbacterium oxidans(AB365061.1) 90.8
Microbacterium maritypicum(AM181506.1) 90.8
【0096】
[表5]
(2KA14−3株)
近縁種 相同性(%)
Stenotrophomonas humi R-32729 (AM403587) 99.6
Stenotrophomonas nitritireducensJCM13311 (Tecsrg0094) 99.5
Stenotrophomonas terrae R-32768 (AM403589) 98.9
Pseudomonas pictorium ATCC23328 (AB021392) 98.4
Stenotrophomonas acidaminiphilaDSM13117 (Tecsrg0095) 98.1
Stenotrophomonas maltophilaNBRC14161 (Tecsrg0093) 97.6
Stenotrophomonas koreensisJCM13256 (Tecsrg0092) 97.1
Stenotrophomonas ginsengisoli DCY01 (DQ109037) 97.4
Stenotrophomonas rhizophila e-p10 (AJ293463) 97.3
Xanthomonas sacchari LMG471 (Y10766) 96.7

【0097】
表2に示す遺伝学的解析によれば、1KC64−1株は、Achromobacterに属する可能性が高いと考えられた。また、菌学的性質の観察結果から得られた性質は、16SrDNA塩基配列解析の結果において帰属が示唆されたAchromobacter属菌の一般性状と一致するものの、若干異なっていると考えられた。以上のことから、1KC64−1は属のレベルにおいてAchromobacter に含まれると判断された。一方、Achromobacter に属する公知株には、こうしたメラミン分解性を有しているものが報告されていないことから、1KC64−1株はAchromobacter に属する新規菌株であると判断された。
【0098】
表3に示す遺伝学的解析によれば、1KB32−1株は、Sphingobacteriumに属する可能性が高いと考えられた。また、菌学的性質の観察結果から得られた性質は、16SrDNA塩基配列解析の結果において帰属が示唆されたSphingobacterium属菌の一般性状と一致するものの、若干異なっていると考えられた。以上のことから、1KB32−1株は属のレベルにおいてSphingobacterium に含まれると判断された。一方、Sphingobacterium に属する公知株には、こうしたメラミン分解性を有しているものが報告されていないことから、1KB32−1株はSphingobacterium に属する新規菌株であると判断された。
【0099】
表4に示す遺伝学的解析によれば、2KA14−1株は、Microbacteriumに属する可能性が高いと考えられた。また、菌学的性質の観察結果から得られた性質は、16SrDNA塩基配列解析の結果において帰属が示唆されたMicrobacterium属菌の一般性状と一致するものの、若干異なっていると考えられた。以上のことから、2KA14−1は属のレベルにおいてMicrobacterium に含まれると判断された。一方、しかしなから、Microbacterium に属する公知株には、こうしたメラミン分解性を有しているものが報告されていないことから、2KA14−1株はMicrobacterium に属する新規菌株であると判断された。
【0100】
表5に示す遺伝学的解析によれば、2KA14−3株は、Stenotrophomonasに属する可能性が高いと考えられた。また、菌学的性質の観察結果から得られた性質は、16SrDNA塩基配列解析の結果において帰属が示唆されたStenotrophomonas humiの一般性状と一致するものの、若干異なっていると考えられた。以上のことから、2KA14−3株は種のレベルにおいてStenotrophomonas humiに含まれると判断された。一方、しかしなから、Stenotrophomonas humiに属する公知株には、こうしたメラミン分解性を有しているものが報告されていないことから、2KA14−3株はStenotrophomonas humiに属する新規菌株であると判断された。
【実施例6】
【0101】
実施例4における1KB32−1株によるメラミン類分解の0日後、1日後、3日後、6日後、10日後、13日後の各サンプルをHPLC解析し、メラミン、アンメリン、アンメリド、シアヌル酸の濃度変化を比較した。HPLC条件は以下のとおりとした。結果を図7に示す。
HPLC条件:
カラム:Unison UK-amino 2.0mm×250mm(インタクト社製)
溶媒:アセトニトリル:水=80:20、10mM酢酸アンモニウム
流速:0.2mL/min
温度:40℃
検出:UV220nm(メラミン、アンメリド、シアヌル酸)
230nm(アンメリン)
【0102】
図7に示すように、メラミンは処理3日でほぼ消失した。これに対し、アンメリン、アンメリド、シアヌル酸の各中間体の濃度はメラミンの減少分に比べてわずかに上昇したのみでその後消失し、メラミン分解に対して中間体の分解反応は十分に速く、中間体の生成は問題とはならず、こうした中間体が速やかに無害な物質へと変換されていると判断された。
【配列表フリーテキスト】
【0103】
配列番号5〜11:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)から選択される1種又は2種以上を含む、メラミン類分解剤。
(1)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するステノトロホモナス属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号4に示す塩基配列からなるDNA又は塩基配列と99.6%超の同一性を有する塩基配列からなるDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(2)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するアクロモバクター属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:淡黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号1に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.6%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(3)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するスフィンゴバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号2に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.5%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(4)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するマイクロバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:+
(分類学的性質)
配列番号3に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と90.9%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
【請求項2】
前記ステノトロホモナス属菌、前記アクロモバクター属菌、前記スフィンゴバクテリウム属菌及び前記マイクロバクテリウム属菌における前記科学的性質は、好気的条件、20℃でメラミン及びモノメトキシメチルメラミンを分解する性質である、請求項1に記載のメラミン類分解剤。
【請求項3】
前記ステノトロホモナス属菌は、ステノトロホモナス フミ 2KA14−3株(受領番号FERM ABP−11479)又はその変異株であるステノトロホモナス属菌である、請求項1又は2に記載のメラミン類分解剤。
【請求項4】
前記アクロモバクター属菌は、アクロモバクター 1KC64−1(受領番号FERM ABP−11352)又はその変異株であるアクロモバクター属菌である、請求項1〜3のいずれかに記載のメラミン類分解剤。
【請求項5】
前記スフィンゴバクテリウム属菌は、スフィンゴバクテリウム 1KB32−1(受領番号FERM ABP−11351)又はその変異株であるスフィンゴバクテリウム属菌である、請求項1〜4のいずれかに記載のメラミン類分解剤。
【請求項6】
前記マイクロバクテリウム属菌は、マイクロバクテリウム 2KA14−1(受領番号FERM ABP−11353)又はその変異株であるマイクロバクテリウム属菌である、請求項1〜5のいずれかに記載のメラミン類分解剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のメラミン類分解剤を用いて、メラミン類を分解する工程、
を備える、メラミン類の分解方法。
【請求項8】
前記分解工程は、前記メラミン類分解剤を、好気的条件下で15℃以上40℃以下の温度でメラミン類に接触させる工程である、請求項7に記載のメラミン類の分解方法。
【請求項9】
前記分解工程は、廃水中のメラミン類を分解する工程である、請求項7又は8に記載のメラミン類の分解方法。
【請求項10】
前記廃水は、活性汚泥処理後の廃水である、請求項9に記載の分解方法。
【請求項11】
前記分解工程に先だって、酸性下で前記廃水中の多置換の前記メラミン類を分解する処理工程を備える、請求項7〜10のいずれかに記載の分解方法。
【請求項12】
前記分解工程は、前記メラミン類分解剤を含有する活性汚泥を用いる工程である、請求項7〜11のいずれかに記載の分解方法。
【請求項13】
以下の(1)〜(4):
(1)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するステノトロホモナス属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号4に示す塩基配列からなるDNA又は塩基配列と99.6%超の同一性を有する塩基配列からなるDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(2)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するアクロモバクター属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:淡黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号1に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.6%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(3)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するスフィンゴバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:−
(分類学的性質)
配列番号2に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と99.5%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
(4)以下の菌学的性質及び分類学的性質を有するマイクロバクテリウム属菌
(菌学的性質)
(科学的性質)
好気的条件下でメラミン類を分解する。
(形態学的性質)(使用培地:LB培地、37℃、48時間)
細胞形態:桿菌
コロニー色調:黄色
(生理学的性質)
グラム染色:+
(分類学的性質)
配列番号3に示す塩基配列からなるDNA又は前記塩基配列と90.9%超の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する。
から選択される1種又は2種以上で、メラミン類を含む廃水を分解する分解槽を有する、廃水処理装置。
【請求項14】
好気的条件下でのメラミン類分解能を有し、ステノトロホモナス フミ 2KA14−3株(受領番号FERM ABP−11479)又はその変異株である、細菌。
【請求項15】
好気的条件下でのメラミン類分解能を有し、アクロモバクター 1KC64−1(受領番号FERM ABP−11352又はその変異株である、細菌。
【請求項16】
好気的条件下でのメラミン類分解能を有し、スフィンゴバクテリウム 1KB32−1(受領番号FERM ABP−11351)又はその変異株である、細菌。
【請求項17】
好気的条件下でのメラミン類分解能を有し、マイクロバクテリウム 2KA14−1(受領番号FERM ABP−11353)又はその変異株である、細菌。
【請求項18】
メラミン類を含有する廃水の処理方法であって、
酸性下で前記廃水中の多置換の前記メラミン類を分解する処理工程、
を備える方法。
【請求項19】
前記廃水は、活性汚泥処理後の塗装工程廃水である、請求項18に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−231789(P2012−231789A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96987(P2012−96987)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】