説明

モノクローナル抗体8H9の使用

本発明は、ヒトB7−ホモログ3の4Igドメインアイソフォームである4Ig−B7H3に結合するモノクローナル抗体8H9を開示する。本発明は、腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長する方法を提供し、本方法は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能な薬剤を効果的な量含む組成物を、対象者に投与する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者の治療におけるモノクローナル抗体8H9又はその誘導体の使用に関する。
尚、本発明は、米国出願番号第60/896,416号(出願日2007年3月22日)、及び米国出願番号第60/915,672号(出願日2007年5月2日)の優先権の利益を主張する。これら先行出願の全内容及び開示は、参照することにより本出願に組み込むものとする。
【背景技術】
【0002】
腫瘍限定的な表面抗原は、診断及び免疫ベースの治療のための標的となることができる。標的免疫療法に使用される理想的な腫瘍抗原は、正常細胞に存在せず、腫瘍細胞表面で多量に発現する必要がある。さらに、モノクローナル抗体によって認識される系譜を変化させる腫瘍細胞上に発現する「ジェネリック」腫瘍特異抗原は、抗体ベースの戦略において広範囲に有用性を有することができる。マウスのモノクローナル抗体8H9によって認識される新規の58kD表面腫瘍関連抗原が、既に報告されている(例えば、特許文献1参照)。8H9によって認識される抗原は、神経外胚葉、間葉、及び上皮由来の腫瘍の広範囲の細胞膜上に発現するとともに、正常組織への分布が制限されていた。この新規の抗体−抗原系は、腫瘍標的と免疫療法において非常に有望である。
【0003】
モノクローナル抗体8H9は、腫瘍の標的化と撮像化、及び腫瘍細胞のパージング(除去)に使用することが可能である。また、8H9抗原は、神経芽細胞腫、脳腫瘍、線維形成性小円形細胞腫瘍、横紋筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、PNET、黒色腫、非上皮性悪性腫瘍、ウィルムス腫瘍、肝芽腫、及び様々な組織由来の上皮性悪性腫瘍を含む広範囲のヒトの癌に対する抗体ベースの免疫療法を目的とした潜在的な標的である。8H9の一本鎖抗体の構成又は抗体融合構成体もまた、開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国公開公報第2005/0169932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、モノクローナル抗体8H9を用いて、腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長するデータをさらに提供する。
【0006】
本出願を通じて、様々な参考文献が引用されている。これら刊行物の開示は、それら全てを参照することにより本出願に組み込むこととし、これにより本発明に付随する分野の状況を完全に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長する方法を提供する。本方法は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能な薬剤を効果的な量含む組成物を、対象者に投与する工程を備える。
【0008】
本方法は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を発現する腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長する方法を提供する。本方法は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能な薬剤を効果的な量含む組成物を、対象者に投与する工程を備える。
【0009】
本発明は、モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、候補抗体をSEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチド又はそのフラグメントと接触させる工程を備える。ポリペプチドに結合する抗体は、モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体である。本発明はまた、上記のスクリーニング方法によって認識される抗体を提供する。
【0010】
本発明は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を提供する。抗原は、SEQ ID NO.15と、少なくとも約10%、好ましくは10%から99%の間の相同性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】8H9の一本鎖可変領域(scFv:Single-Chain Variable Fragment)アミノ酸配列(SEQ ID NO.7)及び遺伝子配列(センス及び相補性、SEQ ID No.8−9)を示す。相補性決定領域(CDR:Complementary determining regions)は、次に示す順序で囲み枠として示される:CDR−1(HC 重鎖)、CDR−2(HC)、CDR−3(HC)、CDR−1(LC 軽鎖)、CDR−2(軽鎖)、CDR−3(軽鎖)。
【図2】8H9のscFvのヌクレオチドとアミノ酸配列(SEQ ID No.10−12)を示す。変異8H9 scFvは、以下に示す部位特異的突然変異生成(VH:K13EとVL:R18Q、R45Q、K103E、K107E)を有することにより、PIを6.4から4.8に、正味荷電を−1から−9に下げることになり、これは非特異的正常細胞の粘着性を下げる戦略である。
【図3】8H9のウエスタンブロット法の非還元SDS−PAGEを示す。
【図4】8H9のアフィニティー精製(非還元SDS−PAGE、ウエスタンブロット法)を示す。
【図5】8H9のアフィニティー精製(非還元SDS−PAGE、銀染色)を示す。
【図6】FACSによって分析された、K562細胞表面上のHLA−I(MHCクラスI)とB7H3タンパク質発現を示す。
【図7】K562とHTB82細胞に対するNK92細胞の細胞溶解活性を示す(細胞媒介性細胞崩壊のためのクロム遊離アッセイの結果)。
【図8】HTB82細胞に対するNK細胞の細胞溶解活性を示す(細胞媒介性細胞崩壊のためのクロム遊離アッセイの結果)。NK92MI:親NK細胞、NK92MI/NTGLS−8H:8H9のscFvで形質導入されたNK92MI。
【図9】K562細胞に対するNK細胞の細胞溶解活性を示す(細胞媒介性細胞崩壊のためのクロム遊離アッセイの結果)。NK92MI:親NK細胞、NK92MI/NTGLS−8H:8H9のscFvで形質導入されたNK92MI。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長する方法を提供する。本方法は、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能な薬剤を効果的な量含む組成物を、対象者に投与する工程を備える。本明細書で用いられる「予後を改善する」とは、疾患の将来的な方向性を可能な限り回復又は治癒に導くことが可能な癌の早期発見と治療の早期開始を意味する。この一方、「生存期間を延長する」とは、癌診断後の平均余命を長くすることを意味する。一実施形態では、癌はモノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を発現する。
【0013】
一実施形態では、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原は、SEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチドである。その他の実施形態では、抗原は、SEQ ID NO.15のポリペプチドホモログである。一般的には、SEQ ID No.15に対し、少なくとも約10%の相同性、又は少なくとも約15%の相同性、又は少なくとも約25%の相同性、又は少なくとも約35%の相同性、又は少なくとも約45%の相同性、又は少なくとも約55%の相同性、又は100%までの相同性がある。当業者であれば、容易にSEQ ID No.15のホモログ又はオーソログといえる(例えば、表1参照)。
【0014】
【表1】

【0015】
ある実施形態では、上記組成物中の薬剤は、モノクローナル抗体8H9由来の相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドである。このようなポリペプチドの例は、一本鎖抗体又は抗体融合構成体を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用される「一本鎖抗体」は、免疫グロブリン分子(4つのペプチド鎖)を、通常、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖を組み込んだ単一ペプチドの形態で、抗原又は腫瘍への免疫反応性と特異性を保有する単一ペプチドに還元することを示す。一方で、「抗体融合構成体」は、このような一本鎖抗体をその他のタンパク質又はペプチドに化学的に又は遺伝的に連結させることにより新規の抗体融合構成体を形成することを示す。
【0016】
一実施形態では、このようなポリペプチドは、SEQ ID No.1−3、4−6、又は1−6のCDRを含む。好ましくは、上記ポリペプチドにおけるCDR以外の配列は、ヒト由来である。その他の実施形態では、ポリペプチドは、SEQ ID No.7又は12のアミノ酸配列を有する。さらに、上記組成物中の薬剤は、直接的に又は間接的に標識薬剤又は細胞毒性薬に連結することができる。このような標識薬剤又は細胞毒性薬の代表例は、ラジオアイソトープ及び緑膿菌外毒素等の毒素を含むが、これらに限定されない。
【0017】
一般的に、上記組成物は、腹腔内、静脈内、オマヤ貯留槽又は脊椎穿刺による髄腔内、腫瘍(原発性又は転移性のどちらか)又は腫瘍を取り囲む組織へと実質内に投与されることができる。
【0018】
上記組成物の薬剤は、ラジオアイソトープで標識された時に、治療目的及び撮像目的のどちらにも用いることができる。一実施形態では、上記組成物中のこのような薬剤は、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの131−ヨードを運搬し、好適な実施形態では治療に用いられる。
【0019】
他の実施形態では、上記組成物中の薬剤は、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの124−ヨードを運搬し、好適な実施形態では撮像及び線量測定の用途に用いられる。
【0020】
他の実施形態では、上記組成物中の薬剤は、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの131−ヨードに生物学的に等価な放射能量のベータ放射体又はアルファ放射体を運搬する。このようなベータ放射体又はアルファ放射体は、213−ビスマス、212−ビスマス、111−インジウム、118−レニウム、90−イットリウム、225−アクチニウム、及び177−ルテチウム、又は85−アスタチンであることができる。
【0021】
他の実施形態では、上記組成物中の薬剤は、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの124−ヨードに生物学的に等価な放射能量のポジトロン放射体を運搬する。このようなポジトロン放射体は、94m−テクネチウム、64−銅、89−ジルコニウム、68−ガリウム、66−ガリウム、76−臭素、86−イットリウム、82−ルビジウム、110m−インジウム、13−窒素、11−炭素、又は18−フッ素であることができる。
【0022】
好適な実施形態では、上記組成物は、対象者が1以上の他の癌治療の処置を受けた後に投与される。さらなる実施形態では、上記組成物は、対象者が1以上の他の癌治療の処置を受けている時に同時に又は連続して投与される。このような他の癌治療の例は、外科手術、化学療法、及び放射線療法を含むが、これらに限定されない。
【0023】
また、本発明は、上述した特性(例えば、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能である等)を、腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長するための薬物として有する薬剤の使用方法を提供する。一実施形態では、腫瘍はモノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を発現する。この薬剤を含む組成物を投与する経路と投与量は、当業者によって容易に決定可能である。例えば、組成物は、上述した投与経路と投与量に基づいて投与されることができる。
【0024】
また、本発明は、モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、候補抗体を、SEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチド又はそのフラグメントと接触させる工程を備える。ポリペプチドに結合する抗体は、モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体である。本発明はまた、本明細書に記載の方法によって同定される抗体を含む。
【0025】
本発明はまた、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を提供する。抗原は、SEQ ID NO.15と少なくとも約10%、好ましくは10%と99%の間の相同性を有する。
【0026】
本発明はまた、NK/T細胞中の抗転移免疫応答を上方制御する方法を提供する。本方法は、NK/T細胞に存在するB7H3レセプターを適切な薬剤で阻害する工程を備える。
【0027】
本発明はまた、モノクローナル抗体8H9がその標的物質に結合することを競合的に阻害する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、候補物質と標的物質が結合可能な条件下で、候補物質を標的物質に接触させる工程を備える。好適な実施形態では、上記方法は、複合体の形成、及び候補物質と標的物質を検出することをさらに備える。本実施形態では、標的物質はB7H3であり(CD276としても公知である)、薬剤は抗体、ペプチド、細胞表面タンパク質、又はリガンドであることができる。
【0028】
本発明は、以下に続く実験の詳細事項を参照することによってより理解されることになるが、特定の詳細な実験は、実例にすぎず、本明細書に記載されるとともに後述する特許請求の範囲によって定義される本発明を制限することを意図したものではない。
【0029】
実施例
(実施例1)
(脳脊髄液を通じて運ばれる131ヨード8H9放射免疫治療を含むモダリティを組み合わせることによる改善結果)
<背景>
CNS(脳実質又は軟膜(LM:leptomeninges))に転移する原発性脳腫瘍及び癌は、制御が困難である。脳脊髄液(CSF)コンパートメントを経由して投与された抗体ベースの標的治療は、治療潜在性を有する。モノクローナル抗体8H9は、ヒト固形腫瘍の広範囲に反応するマウスIgG1抗体である。オマヤ槽を介して投与される131−ヨード−8H9は、非ヒト霊長類における有益な薬物動態を有するとともに毒性は最小減である。
【0030】
<方法>
第1相試験では、15人の患者(患者(pt)、年齢2−34歳)(1黒色腫、3再発上衣腫、8再発性CNS神経芽細胞腫(NB)、3再発髄芽腫)が、線量測定用の2mCiのイントラ−オマヤ(Intra-Ommaya)131I−8H9を受け、続いて一週間後に、10(n=3 患者(pt))、20(n=3)、30(n=6)、又は40(n=3)のイントラ−オマヤ治療投与量を受けた。一連の脳脊髄液(CSF)と血液がサンプリングされ、線量測定の演算がなされた。核スキャンが24時間の時点で実施され、131I−8H9の位置確認が試験された。131−ヨード−8H9線量測定と治療投与量は、患者(pt)がPD(進行性疾患)を有していない場合には、1ヶ月後に再度実施された。
【0031】
<結果>
グレード1又は2の熱、頭痛、又は嘔吐を含む副作用があり;1人は、第1回目の注射(30mCi)において一時的なグレード3のALT上昇があった。CSFに対する計算平均放射線量は、35.7(範囲15−79)cGy/mCiであり、平均血液用量は、2.4cGy/mCiであった。15人の患者(pt)のうち、8人(#1群)は神経芽細胞腫の一次診断を有していた。彼らは、(3.8年の平均年齢中央値で)CNS転移が進行した時に、131−ヨード−8H9を含むサルベージ投薬管理によって治療された。8人全ての患者(pt)が無進行で生存し続け(131−ヨード−8H9投与後、3+、10+、16+、16+、18+、18+、20+、30+ヶ月後、及びCNS/LM再発後、5−43+ヵ月後)、1人の患者(pt)において、131−ヨード−8H9は、LM疾患のCR(完全寛解)を成し遂げた。対照的に、CNS/LMのNBの発現から死に至るまでの平均期間は、27の歴史的対照では5.4ヶ月であった。急性副作用は自己限定性であり、40mCi投与量ではDLT(用量規制毒性)は見られなかった。
【0032】
<結論>
CNS転移と類似して殆どの他の固形腫瘍では、従来の治療法はNB−CNSには効果がないものであった。イントラ−オマヤ131−ヨード−8H9は、(1)安全であり、(2)CSFと髄質に対して好ましい線量測定を有し、(3)8H9−陽性LM/CNS癌の治療において従来のモダリティを用いてサルベージ治療を追加すると臨床的有用性を有することができる。
【0033】
(実施例2)
(PET/CTスキャンにおいて124−ヨード−8H9を用いたCNS腫瘍の解像度及びコントラスト撮像の改善)
【0034】
<背景>
実施例1に記載する如く、脳脊髄液(CSF)コンパートメントを経由して投与された抗体ベースの標的治療は治療潜在性を有し、放射性標識131−ヨード−8H9は転移性疾患を治療するのに用いることができる。患者の予後は、治療の改善によってのみではなく、転移性疾患の発見の改善及び線量測定の改善によって良くなることになる。以下に続く例は、神経芽細胞腫の発見の改善手段を記載する。
【0035】
<方法>
5人の患者において124−ヨード−8H9が髄腔内に投与され、一連のPET/CT撮像及びCSFのサンプリングが実施された。患者はCNS腫瘍(脈絡叢癌、転移性横紋筋肉腫、及び転移性神経芽細胞腫)を有していた。1.7−2mCiの124−ヨード−8H9はオマヤ貯留槽を介して投与された。PET/CTスキャンは、注射後、約4、24、及び48時間後の時点で得られた。48時間経過後の一連の脳脊髄液(CSF)サンプルが得られた。画像は、3つ全ての時間点で脊柱上に関心領域を配することによって分析された。PET画像は、CSFコンパートメントの範囲内で直接的な活性測定値を提供した。
【0036】
<結果>
124−ヨード−8H9 PETスキャンは、MRI上の構造的病変を有する2人の患者における疾患を標的とする抗体分布の高解像度画像を提供した。24時間時点では、殆どの抗体が室から除去され、硬膜管(thecal sac)を経由した脳弓隆部周りに分布していた。この分布は、前治療111In−DTPA脳槽造影法とよく一致していた。肝臓、脾臓、及び膀胱における全身作用は、24時間と48時間時点においてみられた。生物学的なT1/2クリアランスは、CSFに対して14.1から92.9cGy/mCiの投与量に対応して8.9時間から64.6時間の範囲であった。
【0037】
<結論>
124−ヨード−8H9のPCT/CTは、131−ヨード−8H9を備えるSPECTよりも高い解像度とコントラスト画像を提供し、これは分布、標的化、線量測定に用いられる。
【0038】
(実施例3)
(8H9抗体は、ヒトB7−ホモログ3の4Igドメインアイソフォームである4Ig−B7H3を認識する)
【0039】
以下の実施例は、8H9抗体によって認識される抗原の生物学的特性を記載する。抗原の同定は、ヒトB7−ホモログ3の4Igドメインアイソフォームである4Ig−B7H3である。
【0040】
<細胞培養>
ヒト神経芽細胞腫細胞株LAN−1は、Dr.Robert Seeger(Children's Hospital of Los Angeles、ロサンゼルス、カリフォルニア州)によって提供された。ヒト横紋筋肉腫細胞株HTB82、骨肉腫細胞株U2OS、及びバーキットリンパ腫細胞株Daudiはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(メリーランド州 ベテスダ)から購入した。全ての細胞株は、5%のCO2インキュベーター内37℃で、10%子牛血清、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地で成長させた。
【0041】
<モノクローナル抗体>
8H9と対照MoAb 5F9は、どちらもマウスIgG1であり、ヒト神経芽細胞腫に対して作り出された。これらは、プロテインA(GE Healthcare社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)アフィニティークロマトグラフィーによって、使用前に精製された。
【0042】
<全細胞溶解液とウエスタンブロット法>
8H9−陽性細胞株(LAN−1、HTB82、及びU2OS)及び8H9−陰性細胞株(Daudi)は〜80%コンフルエンスまで成長した。細胞は、2mMのEDTAを用いて採取され、氷冷PBSで洗浄された。
【0043】
Native PAGEは、NativePAGE Novex・ビス-トリス・ゲルシステム(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて製造者の取扱説明書に基づき実施した。簡潔に言えば、細胞は、氷上で(20分間)、NativePAGE1×サンプルバッファー+1%界面活性剤(Triton−X100又はn−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)のいずれか)とプロテアーゼ阻害剤カクテル錠(Roche Applied Science社、ドイツ)中に溶解された。溶解液は4℃で20分間、14,000rpmで遠心分離することにより澄んだ状態とした。50μgの全細胞溶解液は、NativePAGE Novex 4−16%ビス−トリス・ゲルによって分析した。
【0044】
SDS−PAGEは、非還元又は還元条件下で、トリス−グリシン・レディゲル(Ready gel)システム(バイオ−ラッド、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて実施された。簡潔に言えば、細胞は、氷上で(20分間)、Triton溶解バッファー(50mM トリス−塩酸、pH7.2、50mM塩化ナトリウム、10%グリセロール、1%Triton−X100、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル錠)中に溶解された。溶解液は上述と同様に、澄んだ状態とし、25〜50μgの全細胞溶解液は、4−15%トリス−塩酸ゲルによって分析した。
【0045】
どちらかのPAGEにおける電気泳動の後、サンプルは、免疫ブロットPVDF膜(バイオ・ラッド社)上に移動され、室温(RT)で1時間、TBST中の10%粉乳でブロックされ、一次抗体(8H9は10−20μg/ml、5F9は20μg/ml)とともに3時間室温(RT)で培養された。その後、膜はTBSTで洗浄され、二次ペルオキシダーゼ結合AffiniPureヤギ抗マウスIgG(H+L)(Jackson Immuno Research社、ウエストグローブ、ペンシルベニア州)とともに培養された。バンドは、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(ピアス社、ロックフォード、イリノイ州)を用いて検出された。
【0046】
<細胞下分画>
粗膜調製のために、LAN−1細胞は、組織培養皿からピペットで取り出され、氷冷PBSで洗浄され、氷上でスクロースバッファー(0.25Mスクロース、5mM トリス−塩酸、pH7.2、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル錠)内に、Dounceホモジナイザー(Kontes社、バインランド、ニュージャージー州)を用いて溶解された。顕微鏡により判断したところ、1000gで10分間遠心分離することにより、全ての核がペレット状となった。1000gにおける浮遊物は、Beckman L-70K(25,000rpm、SW41Tiローター)で30分間、100,000gで超遠心分離機にかけられることにより、細胞膜微粒子(P100)と細胞質(S100)分画が得られた。細胞質分画は1%Tritonに調製され、その一方で粗核および細胞膜分画は、Triton溶解バッファーに再懸濁され、使用前に澄んだ状態とした。
【0047】
<8H9抗原アフィニティー精製>
8H9抗原は、MoAb 8H9を用いた免疫アフィニティークロマトグラフィーによって、LAN−1細胞抽出物から精製された。8H9アフィニティーカラムは、Pierce's Protein G IgG Plus Orientation キット(ピアス社、ロックフォード、イリノイ州)を用いて、製造者の取扱説明書に基づき調製された。
【0048】
4mgのLAN−1全細胞溶解液又は等価的な細胞膜分画(上述の方法で調整したもの)は、20μlの8H9−プロテインGセファロース(スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)と共有結合的に架橋、3mgの結合8H9/mlビーズ))とともに一晩4℃で培養された。Triton溶解バッファーで全面的に洗浄した後、コラムは、50mMのトリス−塩酸(pH7.2、1M塩化ナトリウムを含む)、0.1Mグリシン−塩酸(pH2.8とpH2.0)、SDSサンプルバッファー(62.5mMのTris塩酸、pH6.8、2%SDS、10%グリセロール、0.005%ブロモフェノール・ブルー)、及びSDSサンプルバッファーで順番に溶出させ、そして水中で5分間煮沸した。溶出物の小さいアリコート(分割量)を観察することにより、8H9抗体を用いて非還元下でウエスタンブロット分析を用いて8H9抗原の存在をみることができた。溶出物の1/4は、銀染色(SilberQuest Silver Staining Kit, Invitrogen社)によっても分析された。最後に、8H9抗原−陽性溶出物(0.1Mのグリシン−塩酸、pH2.0溶出分画)の半分が、コロイダル・クマシー・ブルー染色(GelCode Blue Stain Reagent ピアス社)によって分析され、8H9抗原−陽性バンドは、MSKCC Microchemistry and proteomics core facilityによる質量分光同定に送られた。
【0049】
<結果>
<8H9抗原のウエスタンブロット法による検出>
8H9抗原は、天然状況下でNativePAGE Novex・ビス−トリス・ゲルシステムを用いて、8H9 MoAbによって初めて検出された。単独のバンドは、全ての8H9−陽性細胞株(LAN−1、HTB82、及びU2OS)において検出されたが、8H9−陰性細胞株(Daudi)では検出されず、これは、1%非イオン界面活性剤(Triton−X100又はDDMのいずれか)を用いたフローサイトメトリー分析によって規定されたものである(データ示さず)。本検出は、5F9(Ku70タンパク質に対する対照MoAbである)が異なる大きさのバンドを検出した(データ示さず)ことから、特異的であった。
【0050】
その後、8H9抗原もまた、非還元条件下で、トリス−グリシン・レディゲル SDS-PAGEシステムを用いて8H9 MoAbによって検出された。天然の条件下と同じ様に、単独のバンド(〜85KD、Invitrogen SeeBlue Plus2 Pre-Stained Standard をタンパク質分子量マーカーとして使用)が全ての8H9−陽性細胞株(LAN−1、HTB82、及びU2OS)において検出されたが、8H9−陰性細胞株(Daudi)では検出されず、これは、1%Triton溶解バッファを用いたものである(図3参照、データ示さず)。本検出は、5F9(Ku70に特異的なIgG1)が同じ大きさのバンドを検出しなかった(データ示さず)ことから、特異的であった。検出された8H9抗原の大きさは、8H9放射性免疫沈殿法を用いた過去のデータと一致している。我々は、還元条件下ではウエスタンブロット分析によって8H9抗原を検出することができず(データ示さず)、8H9が立体配座的に感受性の高いエピトープを認識していることを提示する。
【0051】
細胞下分画後、8H9抗原は、細胞膜分画内で大部分が検出され(図3)、これは8H9抗原が細胞表面抗原であるという過去のデータに一致している。そして、細胞膜分画内で8H9抗原を濃縮することは、アフィニティー精製を用いて実施された。
【0052】
<8H9抗原のアフィニティー精製>
LAN−1細胞株が抗原精製のために選択され、これは、LAN−1細胞株が、8H9抗原の比較的高レベルな発現及び組織培養内で急速に成長する能力を有しているからである。8H9アフィニティーカラムは、8H9のFc部分が規定の方向性においてゲルマトリックスのプロテインGと共有結合的に結合することによって調製された。これにより、抗原結合のための遊離抗体結合部位をより多く露出させることが可能となる。架橋に用いられる従来のイミドエステルDMPの代わりにNHS−エステルDSSを使用すると、担体からの抗体の溶出が有意に防がれることになる。
【0053】
LAN−1(及び陰性対照としてのDaudi)全細胞溶解液又はLAN−1細胞膜分画のいずれかを8H9−プロテインGセファロースとともに一晩培養した後には、8H9抗原のかなりの部分(>50%)がセファロースに結合されていた(図4、データ示さず)。8H9抗原が0.1M グリシン−塩酸、pH2.0において特異的且つ圧倒的に溶出したことが、ウエスタンブロット分析によって観察され(図4、データ示さず)、8H9抗体とその抗原との間の非常に強い相互作用が示された。同じ溶出液を銀染色した後、明らかなバンドが、LAN−1細胞抽出物においてのみ検出され、Daudi細胞抽出物からは検出されなかった(図5)。溶出液は、85KD付近で、質量スペクトル解析に用いられるのに十分澄んだ状態であった。最後に、バンド中における十分な量の8H9抗原(〜10ng、コロイダル・クマシー・染色によって可視化、データ示さず)が採取され、質量分析同定に送られた。
【0054】
<質量分析同定>
トリプシン消化物は、2μL総容積のPoros 50 R2(PerSeptive社)逆相ビーズを用いたマイクロ・クリーン・アップ工程を受け、エッペンドルフ型ゲルローディングチップに詰められた。質量分析(MALDI-ReTOF)が、RP−マイクロチップカラムから回収されたペプチドプール(16&30%MeCN)において、遅延引き出し(Delayed extraction)を備えるBruker Ultraflex TOF/TOF機器を用いて実施された。質量フィンガープリント法については、MALDI-ReTOF実験両方を組み合わせた実験的質量(m/z)が利用されることにより、PeptideSearch (Mathias Mann、Max-Planck Institute for Biochemistry、マーティンスリート、ドイツ)を用いて非冗長ヒトタンパク質データベース(NR;〜192,489エントリー;NCBI;ベテスダ、メリーランド州)が調査される。分子量の範囲は予測される量の2倍の範囲が網羅されており、質量精度制限は50ppmよりもよく、切断部位を逃す最大分子量は、ペプチドごとに考慮した。部分的に分画されたプールから選択されたペプチドの質量分析配列(MALDI-TOF-MS/MS)が、「LIFT」モードのBruker Ultraflex TOF/TOF機器上、及び、MASCOT MS/MS Ion Search program(Matrix Science社)を用いたヒトデータベースを検索するために取得されたフラグメントイオンスペクトル上で実施された。ペプチド消化物から2つのペプチド配列が同定された;NPVLQQDAHSSVTITPQR(SEQ ID NO.13)、及び SPTGAVEVQVPEDPVVALVGTDATLR(SEQ ID NO.14)。
【0055】
これらにより、抗原が、4Ig−B7H3(ヒトB7−ホモログ3の4Igアイソフォームであり、CD276と呼ばれることもあり、受入番号NM_001024736.1であり、57235kD分子量の534アミノ酸のペプチドをコードするものである)として明確に同定された。遺伝子は、染色体15q24.1上に位置している。成熟ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、以下の通りである(潜在的なN−糖鎖付加部位が下線で示されている):
【0056】

【0057】
【表2】

【0058】
現在のところ、新規のB7は、B7H1、B7DC、B7H2、B7H3、及びB7H4を含む(表2参照)。これらのmRNAは極めて遍在的であるが、これらのタンパク質分子は転写後レベルにおいて別個に制御されることができる。B7H3は、タンパク質のB7共刺激ファミリーのメンバーとしてChapovalらによって最初にクローンされた。その後、Ig様ドメインを2つ有する代わりに4つ有するタイプI細胞膜タンパク質として存在することが決定され、4Ig−B7H3という新しい名前が与えられた(表2参照)。インビトロの4Ig−B7H3は、T細胞活性化のための共刺激よりも抑制的であった。B7H3タンパク質発現は、胃、NSCLC、神経芽細胞腫、及び多数のヒト腫瘍細胞株で発見されてきた5、7、8。4Ig−B7H3を発現するヒト神経芽細胞腫瘍及び細胞株は、NK−媒介性免疫応答を抑制することができる。B7H3は、胃癌の59%及び胃腺腫サンプルの100%で発現が確認されており、より良い生存率と相関性があるように見受けられる。マウスモデル10、11及びヒト黒色腫12においては、B7H3は抗腫瘍応答を立証するように見受けられる。マウスB7H3は急性及び慢性の同種移植拒絶反応を促進させる13。B7H3は、腫瘍免疫学的監視を促進する役割を高い確実性で有している一方、4Ig−B7H3は抑制作用を発揮する。4Ig−B7H3が、脳と胎盤以外の殆どの部分において主要アイソフォームであることは、興味深いことである。胎盤において、B7H3は、ウエスタンブロット法によると110kdの二重バンドと60kdの単一バンドである15。これは、妊娠中の絨毛外栄養膜において最も顕著である。B7H3は、骨形成においても役割を有すると考えられている16
【0059】
4Ig−B7H3を8H9の抗原として同定することにより、この糖タンパク質がヒトの固形腫瘍において高度に発現することが示される。8H9が認識するエピトープは、正常組織に対する腫瘍に制限されているように見受けられる。現在までに公開されたmRNAの作用に基づき、当業者は、この抗原が腫瘍標的となるには遍在的且つ不適当であると結論付けることになる。しかしながら、我々はそうではないことを発見した。我々は、4Ig−B7H3を対象とする抗体は主な副作用(最近、T細胞を対象とする抗−CD28抗体又は抗−CTLA4を投与した時に観察されていたような副作用)なしに安全に投与可能であることを主張する。我々は、4Ig−B7H3が免疫共抑制分子であり、そして8H9のような抗体がその機能を調節可能であるとともにヒトの癌の範囲全域で宿主抗腫瘍免疫応答を促進可能であることを確信している。
【0060】
(実施例4)
(8H9モノクローナル抗体を用いた、活性化NK/T細胞におけるB7H3レセプターの単離及び同定)
モノクローナル抗体8H9は、ヒトB7−ホモログ3の4Igドメインアイソフォームである4Ig−B7H3を認識する。ヒトB7−ホモログ3(B7H3)は、CD276としても知られており、免疫系に負の信号をもたらす、特にNK/T細胞に負の信号をもたらし、腫瘍細胞が免疫応答を免れることが可能となるとして考えられている。モノクローナル抗体8H9が標的とする同定された抗原4Ig−B7H3は、B7H3(CD276)の優性異型である。4Ig−B7H3は、V−様及びC−様Igドメインを複製するスプライス変異を含むヒトB7H3の優性表現型である14、6
【0061】
免疫モジュレータとしては、B7H3の陽性と陰性両方の免疫学的機能が報告されている。2Ig−B7H3異型を記載した報告によると、B7H3の役割は、活性化T細胞上の推定レセプターに結合することによってT細胞活性化とIFN−γ生成を促進させることであることが示されている。抗腫瘍応答はマウス腫瘍モデルにおけるB7H3発現によって高められた11。患者において、胃癌のB7H3陽性は生存率の増加と相互関係がある。反対に、B7H3の共抑制の役割は、2Ig−B7H3と4Ig−B7H3の両方がT細胞増殖とサイトカイン生成を抑制すること、B7H3がB7H3欠損マウスにおけるTH1媒介免疫応答を選択的に下方制御すること17、及び4Ig−B7H3がNK細胞の表面において推定抑制レセプターと相互作用することによって神経芽腫細胞のNK媒介溶解を抑制することという報告によって支持された。相反する発見は、拮抗B7H3レセプターによって、説明されることが可能であった。
【0062】
以下の例は、活性化NK/T細胞上のB7H3レセプターがどのようにして同定及び単離可能であるかを示す。本実験は実施されなかった。
【0063】
NK/T細胞上のB7H3レセプターは、2Ig−B7H3−Fcと4Ig−B7H3−Fcの両方をベイトとして使用して、アフィニティークロマトグラフィーによって精製される。B7H3−Fc融合タンパク質は、以下の方法で作り出される:2Ig−B7H3−Fcは、R&D Systemsから購入する一方で、ヒト4Ig−B7H3の細胞外ドメインをエンコードするcDNA配列は、pFUSE−mlg−G2a−Fc2発現ベクターを用いてマウスIgG2aのFc領域に融合させる。融合タンパク質は、CG44−CHO細胞株において発現され、プロテインAセファロースを用いてアフィニティークロマトグラフィーによって精製される。融合タンパク質の純度と機能性は、クマシー・ブルー染色と抗−B7H3ウエスタンブロット法によって評価される。
【0064】
B7H3レセプターに陽性であるNK/T細胞が選択される。従来のNK/T細胞株NK92、NKL、NK3.3、YT、TALL−104に加えて、新鮮な末梢血単核細胞(PBMC)から濃縮された活性化NT/T細胞は、B7H3−Fcとともに培養され、その後、蛍光共役二次抗体を備える染色を用い、蛍光活性化細胞分類(FACS)によって分析される。陽性細胞は、さらにB7H3−Fcウエスタンブロット法によって確認される。
【0065】
B7H3レセプターに陽性であるとして選択されたNK/T細胞は、アフィニティー精製に用いられる。B7H3−Fcアフィニティーカラムは、B7H3−FcのFc部分をゲルマトリックス上のプロテインGに、Protein G IgG Plus Orientation キット(ピアスバイオテクノロジー社)を用いて共有結合的に結合させることにより調製される。B7H3レセプター陽性細胞からの細胞抽出物は、カラム上のセファロースビーズとともに培養される。カラムは、広範囲に洗浄され、溶出される。B7H3レセプターの存在と純度はB7H3−Fcウエスタンブロット法と銀染色によって観察される。20ngを超えるB7H3レセプター陽性バンドは、質量分析の同定に送られる。
【0066】
(実施例5)
(抑制性B7H3(CD276)の阻害、及びその後に生じる腫瘍細胞のNK/T細胞媒介細胞溶解の改善のためのモノクローナル抗体の使用方法)
【0067】
腫瘍への免疫応答は、T細胞上の抑制レセプターをその抑制レセプターに特異的なモノクローナル抗体を用いて阻害することによって促進されることが示されてきた。本現象の公知例は、抗−CTLA−4モノクローナル抗体を用いてT細胞上のCTLA−4抑制レセプターを妨害することによって、免疫応答が向上することである。以下の例は、8H9抗体を用いてNK/T細胞上のB7H3レセプターを妨害することが、どのようにNK/T細胞媒介毒性に対して腫瘍細胞を感作させるかを示す。本実験は実施されなかった。
【0068】
細胞媒介細胞溶解(クロム遊離)アッセイ:NK細胞媒介細胞溶解アッセイにおいて、ヒトCML細胞株K562が標的細胞に選択される。FACS分析に示される如く、K562のHLA−1とB7H3タンパク質の発現は低い。横紋筋肉腫HTB82細胞は対照として用いる。標準的な4時間51クロム遊離アッセイでは、横紋筋肉腫HTB82細胞の10%以下しかNK92細胞によって溶解されない一方で、K562細胞の60%までがNK92エフェクター細胞によって効果的に殺傷される。K562の標的細胞集団の1グループは、スプライス型の4Ig−B7H3をエンコードする核酸でトランスフェクトされることにより、B7H3が本細胞集団において過剰発現となる。K562標的細胞は、100μCi51Cr/10細胞を用いて1時間37℃で放射性標識される。モノクローナル抗体8H9はトランスフェクトされた標的細胞とともに培養される一方で、対照はHLA−1 mAb HB95とともに培養される。細胞溶解アッセイは、共抑制B7H3レセプターに陽性であるエフェクター細胞を用いて実施される。NK92エフェクター細胞は、96−ウェルプレートにおいて250μlの標的細胞とともに4時間37℃で培養される。B7H3トランスフェクトK562に対するNK92エフェクター細胞の細胞溶解活性は、非トランスフェクトK562に対して減少することになる。回復した細胞溶解活性が、共抑制B7H3阻害後に観察されることになる。
【0069】
(参照)
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17. Suh WK, Gajewska BU, Okada H, Gronski MA, Bertram EM, Dawicki W, Duncan GS, Bukczynski J, Plyte S, Elia A, Wakeham A, Itie A, Chung S, Da Costa J, Arya S, Horan T, Campbell P, Gaida K, Ohashi PS, Watts TH, Yoshinaga SK, Bray MR, Jordana M, Mak TW: The B7 family members B7H3 preferentially down-regulates T helper type 1-mediated immune responses. Nat. Immunol. 4: 899-906, 2003.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長する方法であって、
モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能な薬剤を効果的な量含む組成物を、前記対象者に投与する工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記薬剤が、SEQ ID No.1−6の配列を有する相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記薬剤が、SEQ ID No.1−3又はSEQ ID No.4−6の配列を有する相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記薬剤が、モノクローナル抗体8H9の相補性決定領域(CDR)を含む抗体構成体であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記抗体構成体が、一本鎖抗体又は抗体融合構成体であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記CDR以外の配列がヒト由来であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、SEQ ID NO.7又は12のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原が、CD276である、又は、特にヒトB7−ホモログ3の4Igドメインアイソフォームである4Ig−B7H3であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体8H9が、ヒトB7−ホモログ3の立体構造エピトープを認識することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、直接的に又は間接的に標識薬剤又は細胞毒性薬に結合することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記細胞毒性薬が、ラジオアイソトープであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記標識薬剤が、ラジオアイソトープであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記対象者が1以上の他の癌治療の処置を受けた後に、前記組成物が投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記他の癌治療が、外科手術、化学療法、及び放射線療法からなる群から選択されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記腫瘍が、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を発現することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、静脈注射、髄膜注射、オマヤ貯留槽又は脊椎穿刺による注射、腫瘍又は腫瘍周りの組織への実質内注射、及び腹腔内注射からなる群から選択される方法によって投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの131−ヨード、又は生物学的に等価な放射能量のベータ放射体もしくはアルファ放射体を運搬することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの124−ヨード、又は生物学的に等価な放射能量のベータ放射体、アルファ放射体、もしくはポジトロン放射体を運搬することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記対象者が、PET/CTスキャンを受けることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原が、SEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチド、又はSEQ ID NO.15のポリペプチドホモログであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項21】
腫瘍を有する対象者の予後を改善する又は生存期間を延長するための薬物として使用される薬剤であって、
前記薬剤が、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原に結合可能であることを特徴とする薬剤。
【請求項22】
前記腫瘍が、モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原を発現することを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項23】
前記腫瘍が、転移性神経芽細胞腫及び神経芽細胞腫からなる群から選択されることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項24】
前記薬剤が、SEQ ID No.1−3、又はSEQ ID No.4−6の配列を有する相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドであることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項25】
前記薬剤が、SEQ ID No.1−6の配列を有する相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドであることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項26】
前記薬剤が、モノクローナル抗体8H9の相補性決定領域(CDR)を含む抗体構成体であることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項27】
前記抗体構成体が、一本鎖抗体又は抗体融合構成体であることを特徴とする請求項26記載の薬剤。
【請求項28】
前記CDR以外の配列がヒト由来であることを特徴とする請求項26記載の薬剤。
【請求項29】
前記抗体が、SEQ ID NO.7又は12のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項26記載の薬剤。
【請求項30】
前記薬剤が、直接的に又は間接的に標識薬剤又は細胞毒性薬に結合することを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項31】
前記細胞毒性薬が、ラジオアイソトープであることを特徴とする請求項30記載の薬剤。
【請求項32】
前記対象者が1以上の他の癌治療の処置を受けた後に、前記薬剤が投与されることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項33】
前記他の癌治療が、外科手術、化学療法、及び放射線療法からなる群から選択されることを特徴とする請求項32記載の薬剤。
【請求項34】
前記薬剤を含む組成物が、静脈注射、髄膜注射、オマヤ貯留槽又は脊椎穿刺による注射、腫瘍又は腫瘍周りの組織への実質内注射、及び腹腔内注射からなる群から選択される方法によって投与されることを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項35】
前記薬剤が、1注射当り0.01mg乃至20mgで投与されるとともに、1mCi乃至100mCiの131−ヨード、又は生物学的に等価な放射能量のベータ放射体もしくはアルファ放射体を運搬することを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項36】
前記モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原が、SEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチド、又はSEQ ID NO.15のポリペプチドホモログであることを特徴とする請求項22記載の薬剤。
【請求項37】
前記対象者の腫瘍が治癒することを特徴とする請求項21記載の薬剤。
【請求項38】
モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体をスクリーニングする方法であって、
候補抗体を、SEQ ID NO.15の配列を含むポリペプチド又はそのフラグメントと接触させる工程を備え、
前記ポリペプチドに結合する抗体が、モノクローナル抗体8H9と同じ又は類似の結合特異性を有する抗体であることを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項38の方法により同定される抗体。
【請求項40】
モノクローナル抗体8H9によって認識される抗原であって、
前記抗原が、SEQ ID NO.15と約10−99%の相同性を有することを特徴とする抗原。
【請求項41】
NK/T細胞中の抗転移免疫応答を上方制御する方法であって、
NK/T細胞に存在するB7H3レセプターを適切な薬剤で阻害する工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項42】
前記薬剤が、単一のモノクローナル抗体又は複数のモノクローナル抗体からなることを特徴とする請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記モノクローナル抗体が、8H9であることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
モノクローナル抗体8H9がその標的物質に結合することを競合的に阻害する薬剤をスクリーニングする方法であって、
候補物質と前記標的物質が結合可能な条件下で、該候補物質を前記標的物質に接触させる工程を備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−523478(P2010−523478A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554789(P2009−554789)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/058030
【国際公開番号】WO2008/116219
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(399026731)スローン − ケタリング・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチ (15)
【Fターム(参考)】