説明

モルタル用軽量骨材の製造方法

【課題】強度に優れ、かつ耐アルカリ性や耐透水性にも優れた、モルタル用軽量骨材の製造方法を提供する。
【解決課題】有機ポリマーのエマルションまたは溶液を発泡ガラスにコーティングし、余剰のエマルションまたは溶液を除去することからなる、モルタル用軽量骨材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル用軽量骨材の製造方法に関し、より詳細には発泡ガラスを用いたモルタル用軽量骨材の製造方法に関するものであり、モルタル用軽量骨材の用途は、軽量裏込モルタル(コンクリート)、軽量吹付けモルタル(コンクリート)、左官用プレミックス軽量モルタル(コンクリート)等である。
【背景技術】
【0002】
トンネル覆工コンクリート背面の空隙を埋めるための軽量裏込め材や、盛土材、間隙充填材等には、従来から非セメント系では硬質発泡ウレタンが使用され、セメント系ではエアモルタルが使用されている。
【0003】
これらの材料は一般的に高価であり、裏込め材等に大量使用する場合には経済性、合理性に著しく欠けている。その上、圧縮強度も1.5N/mm以下と十分でない。しかも、発泡ウレタンの場合には、気温、湿度によって発泡倍率が変化するためウレタンの比重や強度の管理が難しい。また、ウレタンの原料モノマーを充填口で混合し重合させてポリマーとするため、有毒性物質である未重合モノマーが残留しやすく、特に流水箇所等では二次公害を引き起こす可能性があった。
【0004】
一方、エアモルタルは、強度が低いことに加えて、練混ぜ、運搬(ポンプ圧送等)の際にエアが消滅しやすく比重の管理が難しい。特に水中施工の場合、増粘剤を使用してもエアが水に溶解して消滅することがあり、設計通りの管理ができない。水深によっては、その圧力で体積減少する等の現象が起こり、単位容積質量の管理が不安定で強度管理が難しい欠点もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃ガラスから製造される軽量骨材(発泡ガラス)を使用するモルタルおよびコンクリートが、各種の構造物に適用されようとしている。しかし、廃ガラスを使用するモルタルは、長期耐久性が問題となる。その理由は、ガラスが一般にセメント中のアルカリ成分により劣化しやすく、また、発泡ガラス自体の吸水率がきわめて高いためである。ガラスの耐アルカリ性を改善する目的で、発泡ガラスを粘度鉱物でコーティングしてコンクリートやモルタル中に使用することも提案されているが、発泡ガラスの高吸水率を改善できていない。このように、発泡ガラスをその耐久性を向上させた上で使用する方法は開発途上である。
【0006】
軽量モルタルには、構造物の要求性能の観点から、モルタルおよびコンクリート自体に一層の軽量化と高強度化を必要とする場合がある。例えば、モルタルおよびコンクリートを吹付け工法で打設することが合理的な施工といえるが、モルタルおよびコンクリート吹付け工法に使えるような経済的でかつ耐久性に優れた軽量骨材は開発されていない。
【0007】
したがって、強度に優れ、かつ耐アルカリ性等の耐薬品性や耐透水性にも優れたモルタル用軽量骨材、ならびにそれを用いた軽量モルタルが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を鋭意検討した結果、発泡ガラス軽量骨材を有機ポリマーでコーティングすることにより、発泡ガラス軽量骨材の優れた性質を活かすことができることを発見し、強度に優れ、かつ耐薬品性、耐透水性にも優れた軽量モルタルを作製することに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は、発泡ガラスに有機ポリマーをコーティングしてなるモルタル用軽量骨材の製造方法を提供する。なお、本明細書で使用する「モルタル」という用語はコンクリートを含むことを意図する。
【0010】
本発明では、発泡ガラス軽量骨材を有機ポリマーでコーティングすることにより、セメントからくる強アルカリによってガラス中のシリカ成分が溶出する危険性を回避できる。また、発泡ガラス骨材が有機ポリマーでコーティングされることで、耐透水性も改善される。具体的には、ガラス骨材を有機ポリマーでコーティングすることによって、骨材の吸水率をコーティング前の約40%以下に改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量かつ高強度であるとともに、耐薬品性、耐透水性等にも優れたモルタル用軽量骨材が得られる。発泡ガラス原料に廃ガラスを使用すれば、製造コストを低減でき、かつ環境問題の解決策となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の発泡ガラス軽量骨材の樹脂コーティング率と吸水率の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の発泡ガラス軽量骨材の耐アルカリ性を示すグラフである。
【図3】本発明のモルタルのフロー試験値の経時変化を示すグラフである。
【図4】水セメント比に対する単位容積質量および材齢28日圧縮強度の変化を示したグラフである。
【図5】流動性試験装置の概略図である。
【図6】吹付けモルタル付着強度測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記発泡ガラスの材質には、ガラスに使われるものなら広く使用できる。代表例として、ソーダライムガラス、カリガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛クリスタルガラス、光学ガラス、結晶化ガラス等がある。これらの廃ガラスを再利用することが、コスト的にも環境上の理由からも有利である。本発明によれば、パイレックス(登録商標)ガラスのようなガラス溶解温度が高くリサイクルし難いガラスも再利用可能である。これらのうち、特にソーダライムガラスが、板ガラス、ビンガラス、管球ガラス等の安価な廃棄物から大量に入手できる点で好ましい。
【0014】
上記発泡ガラスの密度は、通常、1g/cm3未満であり、好ましくは0.6〜0.8g/cm3の範囲内にある。発泡ガラスの粒径は、通常、0.05〜25mmでよく、好ましくは0.1〜10mm、さらに好ましくは0.2〜5.0mmである。
【0015】
発泡ガラスは、微細な独立気泡が集合した構造をとることが高強度を発現する上で好ましい。このような発泡ガラスの製造方法は、当業界に周知である。例えば、上記ガラス原料を粒径5〜500μmに粉砕し、篩い分けして粒度をそろえたガラス粉末を、発泡剤および添加剤と混合し、造粒し、焼成、徐冷することにより得ることができる。発泡剤には、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭化珪素、ホウ砂、ホウ酸、酸化ホウ素、カーボン等がある。焼成温度は、通常、ガラスの軟化点以下の温度であり、ガラス組成に応じて決まる。具体的には、600〜1200℃の範囲内である。また、商品名Gライト(クリスタルクレイ(株)製)等の市販の発泡ガラスを使用してもよい。
【0016】
発泡ガラスをコーティングする有機ポリマーには、通常、有機化学の分野で従来公知の天然または合成の高分子を特に制限なく使用できる。代表的な例としては、アクリル樹脂、MMA樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂;ロジン、セラック、あまに油、やし油等の天然樹脂・油;セルロース誘導体;天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴム(SBR)、塩化ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム;ならびにエポキシシラン、アクリルシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらの有機ポリマーは、単独に使用しても二種以上を併用してもよい。特にアクリル樹脂、MMA樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム等のうち、なるべく硬度の高い樹脂を選択することが望ましい。
【0017】
ガラス骨材をコーティングする際の有機ポリマーの形態は、コーティングを実施する時期や場所に応じて変化する。すなわち、モルタル施工現場にてガラス骨材をコーティングする場合、ガラス骨材を現場に搬入する前にコーティング処理する場合等である。モルタル施工現場での発泡ガラスのコーティングは、作業利便性の点で有利である。
【0018】
そこで、モルタル施工現場でガラス骨材をコーティングする場合、有機ポリマーの形態は、溶剤タイプでもエマルションタイプでもよいが、好ましくはエマルションタイプ、特に好ましくはセメント混和用ポリマーエマルションとして市販されている形態のものである。
【0019】
一方、ガラス骨材を現場に搬入する前にコーティング処理する場合、または、特に耐酸性または耐アルカリ性の化学的耐久性が高度に要求される場合、有機ポリマーの形態は、溶剤タイプでもエマルションタイプでもよいが、特に好ましくは溶剤系のエポキシ樹脂、あるいはMMA樹脂等の硬度の高い樹脂を選択する。
【0020】
前記有機ポリマーが、有機ポリマーとセメント、シリカヒューム、フライアッシュ、スラグ等の水硬性無機材料との混合物の形態にあってもよい。この混合物を使用することで、発泡ガラス軽量骨材とモルタル主成分のセメントとの密着性を向上させることができる。この場合、有機ポリマーはエマルションの形態のものを使用する。有機ポリマー「P」と水硬性無機材料「C」との混合比率(質量比(P:C))は、通常、100:0.5〜50.0、好ましくは100:1.0〜20.0の範囲である。水硬性無機材料の混合量が少なすぎると、前記の効果が得られず、逆に高過ぎると、水硬性無機材料からのアルカリ成分の侵入によって軽量骨材の強度低下を招く。
【0021】
有機ポリマーの使用量は、有機ポリマーがエマルションの形態の場合、発泡ガラス骨材の質量に対して、通常、0.5〜10.0%、好ましくは1.0〜7.0%である。一方、有機ポリマーが、有機ポリマーと水硬性無機材料との混合物の形態の場合、発泡ガラス骨材の質量に対して、通常、1.0〜30.0%、好ましくは3.0〜20.0%である。
【0022】
本発明の発泡ガラス骨材は、例えば有機ポリマーのエマルションまたは溶液を発泡ガラスにコーティングし、余剰のエマルションまたは溶液を適宜、遠心分離機等を用いて除去した後、場合により自然乾燥または加熱乾燥することにより得られる。コーティングされた樹脂が発泡ガラス内に侵入してもよい。また、発泡ガラス同士の接着と塊状化を防止するために、発泡ガラスの有機ポリマー塗布面にさらに水硬性無機材料等の粉末を塗してもよい。コーティングされ、適宜乾燥された発泡ガラス軽量骨材は、現場で施工するまでの間、貯蔵することができる。
【0023】
本発明の別の側面は、水硬性無機材料、および前記有機ポリマーをコーティングした発泡ガラス軽量骨材を含むモルタルに関する。
【0024】
本発明のモルタルは、セメントモルタルの範囲にあるが、密度の小さい細骨材に発泡ガラスを使用することで、モルタルの単位容積質量を0.7〜1.8t/m3の範囲にして、従来の発泡ウレタンやエアモルタルと同様の密度を実現できる。加えて、裏込充填材に適用する場合には、圧縮強度を従来のエアモルタルの10倍程度である20N/mm2以上に高めることが可能である。さらに,吹付け工法、左官用プレミックスモルタルとして用いた場合には、40N/mm2程度の高強度が得られる。
【0025】
水硬性無機材料は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、超速硬性セメント、アルミナセメント、セメント系膨張材、石膏等から選択される。
【0026】
前記モルタルには、水硬性無機材料を350〜800kg/m3で使用し、そして軽量骨材を200〜550kg/mの範囲で使用する。水硬性無機材料と水の混合比率は、通常、質量比で100:30〜55である。
【0027】
本発明のモルタルには、水硬性無機材料、前記軽量骨材、水および空気粒の他に、本発明以外の軽量骨材、混和材、混和剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。混和材としては、例えばシリカヒューム、フライアッシュ、スラグ粉末等の人工微粉末、ならびに石粉等の非水硬性微粉末が挙げられる。混和剤には、AE剤、減水剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、急結剤、防水剤、分離低減剤、発泡剤、防錆剤、流動化剤等が挙げられる。
【0028】
モルタルに酸性土壌等に対する耐薬品性が要求される場合、モルタルにセメント混和用ポリマーエマルションを添加してもよい。その使用量は、水硬性無機材料100重量部に対してポリマーエマルションを4〜27重量部(ポリマーエマルションの樹脂固形分濃度を45%とする)、すなわち水硬性無機材料100重量部に対してポリマーエマルション樹脂固形分を2〜12重量部とする。これらの適正の配合割合は、目的とする軽量モルタルの耐薬品性、透水係数等を考慮して、当業者の通常レベルの技術範囲内で適宜決定できる。
【0029】
本発明のモルタルに、通常のエアモルタルのエアを体積で30%程度混入することで、比重1.0以下の超軽量で強度の高いモルタルを作製することも可能である。
【0030】
トンネルの背面等の空洞に裏込め材を充填する場合、必要のない部分へ材料を充填することは、設計上、コスト等を考慮すると問題となる。分離低減剤、流動化剤、水硬性無機材料等の配合条件を変化させることにより、充填する範囲を限定できる適度な流動性を持った揺変性のある充填材料を作製することができる。
【0031】
軽量骨材の密度が水よりも小さ過ぎて分離して浮き上がる場合には、分離低減剤を使用する。分離低減剤には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、PWA(ポリニトリルビニリデンアクリレート)系、ポリアクリルアミド、多糖類等の高分子材料がある。分離低減剤の使用量は、目的とする軽量モルタルの充填箇所が水中である場合、セルフレベリング性を要求される場合といった施工条件で変わる。通常、セルロース系の場合、水硬性無機材料:分離低減剤の質量比100:0.1〜0.5で使用し、またPWA(固形分濃度2%)の場合、100:0.1〜0.3の範囲で使用する。両分離低減剤を併用してもよい。
【0032】
本発明のモルタルに、ガラス繊維、鋼繊維、合成繊維、セルロース繊維、炭素繊維等の補強繊維を追加することによって、厚付け断面修復材として施工することも可能である。また、水硬性無機材料に作用する硬化促進剤をノズルで混合することによって、難燃性耐火被覆モルタルの吹付施工も可能である。
【0033】
本発明のモルタルは、上記の各成分を公知の方法および装置を用いて混練することにより得られる。混練装置として、具体的には、ドラムミキサー、可倒式ミキサー等の重量式ミキサー;パン型ミキサー、パグ型ミキサー等の強制練りミキサー;オムニミキサー等を用いる。混練時間その他の混練条件は、モルタルの試し練りによる練り上がり状態を見ながら適宜調整すればよい。
【0034】
本発明の軽量骨材を使用したモルタルは、強度が従来のものより高く、しかも、本発明のモルタルは、気泡剤等を使用してエアを混入するといった軽量化方法をとらずに、それ自体軽量である骨材を使用するために、練混ぜ、運搬、打込み中に密度が変化する等の性状が変化することがない。したがって、本発明の軽量骨材は、軽量裏込め材、軽量盛土材、間隙充填材、厚付け断面修復材、軽量二次製品、吹付工法による難燃性耐火被覆材、吹付けコンクリート(モルタル)、左官用コンクリート(モルタル)等、多目的の用途に利用できる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。
【0036】
〔実施例1〕−発泡ガラス骨材のプレコーティングと吸水率測定−
市販の発泡ガラス(商品名Gライト2号(クリスタルクレイ社製))を所定量計り取り、袋状のネットに入れた後、このネットを、アクリルエマルション(商品名TJ乳剤、武田薬品工業社製、固形分濃度45%)を充分量入れてある容器に2分間程度の期間浸した。その後、ネットを取り出し、余分なポリマーエマルションを取り除き、次いで遠心分離機に5分間かけた。こうして得られた軽量骨材には、軽量骨材に対して質量比6%のポリマーエマルションがプレコーティングされた。処理前に0.65g/cmあった軽量骨材の密度は、処理後に0.68g/cmとなった。
【0037】
コートされた発泡ガラス骨材自体の24時間吸水率を、JIS A 1134に準拠して測定した。比較のためにポリマーエマルションでコーティングしない骨材の吸水率も測定した。ポリマーエマルションによる表理処理前に11.2%あった吸水率は、処理により4.9%と約半分の吸水率となった。
【0038】
〔実施例2〕−コーティングされた発泡ガラス軽量骨材の加圧吸水試験−
軽量骨材のコーティングによる吸水特性の変化を調べるために、発泡ガラス軽量骨材を有機ポリマーでコーティングした後、加圧吸水率を測定した。有機ポリマーには、アクリル樹脂エマルション(全固形分濃度45%)、溶剤系エポキシ樹脂、アクリルエマルション(P)と水硬性無機材料(C)とを混合したポリマーセメントミルク(P:C=2:1)の3種類を用いた。
まず、実施例1のプレコーティングと同様の手順に従って、上記の有機ポリマーを表1に示すコーティング樹脂/骨材となるように塗布した。次いで、加水圧力1kgf/cm、圧力保持時間10分間とし、非排水状態の容器に軽量骨材を投入して、吸水率試験を実施した。表1に各材料でコーティングした場合の吸水率の測定結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
図1は、表1の結果をグラフ化したものである。図1を見てわかるように、吸水率は、コーティング樹脂量が多くなるに従って低下する傾向にある。
【0041】
〔実施例3〕−コーティングされた発泡ガラス軽量骨材の耐アルカリ性試験−
軽量骨材をコーティングすることによって、耐アルカリ性がどの程度改善されるのかを確認するため、コーティングした軽量骨材を5%NaOH水溶液に浸し、所定期間たった後の質量減少率を測定した。コーティングには、アクリルエマルションを使用した。質量減少率は、所定期間浸漬後、水溶液中から骨材を取り出し、150μmのふるいの上で水洗いし、残った骨材の表面水を拭き取り、その時の質量を測定することにより算出した。表2に、5%NaOH水溶液に浸漬した軽量骨材の質量減少率の測定結果を示す。
【0042】
【表2】

【0043】
図2は、表2の結果をグラフ化したものである。図2を見てわかるように、コーティング樹脂の対骨材質量比が大きくなるに従い、アルカリ環境下での質量減少率が小さくなる。
【0044】
〔実施例4〜7〕−モルタル製造試験−
実施例4〜7のそれぞれにおいて、本発明の発泡ガラス軽量骨材を用いてモルタルを調製し、その評価試験を行った。
まず、実施例1で得たプレコーティング済み発泡ガラス軽量骨材を、表3の配合成分表に示す早強ポルトランドセメント、水、高性能減水剤、消泡剤および分離低減剤と混合することによりモルタルを調製した。このとき、モルタルの配合条件として、水セメント比(W/C)を40〜48%、軽量骨材(S)とセメント(C)の混合比をS:C=0.67〜0.75:1.0、減水剤(Ad)対セメントの質量比を0.3〜1.0の間で変更した。また、消泡剤(Ad)および分離低減剤(Ad)は、セメント質量比でそれぞれ0.15%および0.25%一定となるように添加した。水セメント比を変化させたときに、所要の流動性を確保するため、高性能減水剤(商品名:レオビルドSP8S、(株)ポゾリス物産製)をセメント質量に対する比率で0.3〜1.0%添加した。実施例4〜7の最終的な配合比を、表4にまとめて示す。表面処理した軽量骨材の1mに占める容積率Svは50%以上であった。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
得られたモルタルの性状を確認するために、フロー、水中不分離性、空気量、単位容積質量、および圧縮強度の測定試験を実施した。
フロー測定試験は、JIS R 5201(セメントの強さ試験)に準拠した。実施例6では、経時的な流動性の変化(フローロス)を確認するために、軽量モルタルを練り混ぜ30分及び60分静置後のフロー試験も実施した。
水中分離性の確認は、所定容積の透明容器にモルタル試料を投下して目視で行った。不分離性が良好なものを○とし、不良のものを×とした。
空気量測定試験および単位容積質量測定試験はJIS A 1116(まだ固まらないコンクリートの単位容積質量及び空気量の重量による試験方法(重量方法)に準拠した。
圧縮強度測定試験は、JIS A 1115(まだ固まらないコンクリートの試料採取方法)、JIS A 1132(コンクリートの強度試験用供試体の作り方)、およびJIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠した。
【0048】
表5に、本発明のモルタルの測定試験結果を示す。水セメント比を40〜48%に設定した軽量モルタルは、いずれも良好な流動性を示した。フロー試験による結果は150mm程度であった。流動性の経時的な変化も、図3のグラフに示すようにほとんど確認されなかった。水中不分離性に関し、水中に投下した場合でも、セメント粒子等が洗い出されることはなく、充分な水中不分離性が確保されていた。
【0049】
【表5】

【0050】
図4に、水セメント比に対する単位容積質量および材齢28日圧縮強度の変化をグラフ化したものを示す。本発明の軽量モルタルの単位容積質量は、1.1〜1.2t/mの範囲にあった。これは、トンネル背面の空隙に注入した場合でも、材料は自然流下せず、かつ、覆工コンクリートに対して有害な圧力等が加わることのないものである。本発明のモルタルの強度発現性状(材齢28日圧縮強度)については、常に20N/mm以上の強度が得られ、従来の軽量空隙充填材料、軽量盛土、問隙充填材料に比べて10倍以上の高強度が確保されていた。
【0051】
本発明のモルタルの間隙への充填特性の特徴として、設定した間隔以下の隙間には材料が充填されないことがある。これにより、設計段階での合理的な材料設計が可能になる。そこで、間隙通過性の試験を、図5に示す試験装置を用いて確認した。この試験装置は、適用箇所を想定した材料の流下角度(傾斜角度)を変化させることが可能なものであり、設定可能な傾斜角度は最大30°の範囲である。
【0052】
この試験装置を用いて本発明の軽量モルタルの間隙通過性を試験した結果、傾斜角度20°において、隙間約2cm×幅20cmで材料の流下が完全に停止した。
【0053】
〔実施例8〕−吹付け工法による軽量モルタルの断面修復材としての使用例−
実施例1で得たプレコーティング済み発泡ガラス軽量骨材を、表6の配合成分表に示す普通ポルトランドセメント、水、減水剤、セメント混和用ポリマーエマルションと混合してモルタルを調製し、吹付け施工により各種の評価試験を実施した。このとき、モルタルの配合条件として、水セメント比(W/C)を33%、軽量骨材(S)とセメント(C)の混合比を0.5:1.0、減水剤(Ad1)対セメントの質量比を0.8%とした。また、ノズルにて混合した急結剤(Ad2)対セメントの質量比を15.0%とした。配合表を表7に示す。表面処理した軽量骨材の1m3中に示す容積Svは50%以上であった。表中のP/Cは、セメント(C)とセメント混和用ポリマーエマルション(P)との混合比率である。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
吹付けモルタルの物性確認のために、以下の項目の試験をした。
フロー試験は、JIS R 5201(セメントの強さ試験)に準拠した。
単位容積質量試験は、JIS A 1161(まだ固まらないコンクリートの単位容積質量及び空気量の重量による試験方法(重量方法))に準拠した。
圧縮強度試験および長さ変化率試験用の供試体は、JSCE F−561(吹付けコンクリートの圧縮強度用供試体の作り方)に基本的に準拠して作製した。
圧縮強度試験は、直径75mm、高さ150mmの円柱コア試験体を対象として、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠した。
また、長さ変化率は、JIS A 1129(モルタル及びコンクリートの長さ変化率試験方法)に準拠して実施した。
また、付着強度試験として、乾燥状態にした30cm×30cm×6cmの平板に本軽量モルタルを吹付け施工し、材齢28日において図6に示す方法で付着強度試験を実施した。具体的には、モルタル表面に上部引張用ジグを接着し、モルタルにジグ側面に沿って基板に達する切り込みを入れ、上部引張用ジグをモルタル面に対して垂直に引き上げた。そして、モルタルが基板から剥離した時点での引張り荷重を測定した。
【0057】
表8に、本発明のモルタルを吹付け施工したときの評価試験結果を示す。結果のとおり、本発明のモルタルは、吹付け工法施工可能な軽量モルタルとして満足のゆくものであった。また、フロー220mmが得られたモルタルの圧送性は良好であり、仕上げ性も良好であった。
【0058】
【表8】

【0059】
〔実施例9〕−左官工法による軽量モルタルの断面修復材としての使用例−
実施例1の手順と同様であるが、粒径1.2mmのガラスを使用し、処理後の密度が0.78g/cmとなるようにアクリルエマルションでプレコーティングした発泡ガラス軽量骨材を、表9の配合成分表に示す速硬性セメント、水、珪砂、減水剤、再乳化型粉末樹脂であるセメント混和用ポリマー、収縮低減剤、消泡剤、繊維と混合してモルタルを調製し、左官工法により試験体を作製した後、各種の評価試験を実施した。
このとき、モルタルの配合条件として、水セメント比(W/C)を38%、軽量骨材(S)と珪砂(SS)との混合比を0.6:0.4、減水剤(Ad1)対セメントの質量比を0.3%,収縮低減剤(Ad2)対セメントの質量比を3.0%,消泡剤(Ad3)対セメントの質量比を0.5%とした。また、繊維混入率はモルタルの容積比率で0.3%とした。配合表を表10に示す。表面処理した軽量骨材の1m3中に示す容積Svは27%程度であった。表10中のP2/Bはセメント(C+V)と再乳化型粉末樹脂(P2)との混合比率である。
【0060】
【表9】

【0061】
【表10】

【0062】
吹付けモルタルの物性確認のために、フロー、単位容積質量、圧縮強度、長さ変化率の測定を実施例8と同様の手順で実施した。表11に、本発明のモルタルを左官施工した場合の評価試験結果を示す。フロー131mmが得られた本発明のモルタルの仕上げ性は良好であった。
【0063】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマーのエマルションまたは溶液を発泡ガラスにコーティングし、余剰のエマルションまたは溶液を除去することからなる、モルタル用軽量骨材の製造方法。
【請求項2】
前記余剰のエマルションまたは溶液を除去した後、乾燥することからなる、請求項1に記載のモルタル用軽量骨材の製造方法。
【請求項3】
前記コーティングをモルタル施工現場で行う、請求項1または2に記載のモルタル用軽量骨材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96995(P2012−96995A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−30636(P2012−30636)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【分割の表示】特願2001−281026(P2001−281026)の分割
【原出願日】平成13年9月17日(2001.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成13年9月1日 社団法人土木学会発行の「第56回年次学術講演会 講演概要集 第5部」に発表
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(591185548)昭栄薬品株式会社 (2)
【Fターム(参考)】