説明

モルデナイトの製法

【課題】アルミノシリケートMCM-68の合成を行う条件下、特定の処理を行うことによりモルデナイトを生成する方法の提供。
【解決手段】MCM-68の合成を行う際に、結晶化の最中に、原料を適度に流動させることにより、モルデナイト(mordenite)が生成する。即ち、本発明は、(1)シリカ源、(2)N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)の水酸化物又はハロゲン化物、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を、オートクレーブ中でこの混合物を流動させながら加熱することから成るモルデナイトの製法、及びこの合成したままの(as-synthesized)モルデナイトを更に焼成することから成るモルデナイトの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、MOR構造を持つモルデナイトの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミノシリケートMCM−68は2000年にMobil社により合成された比較的新しいゼオライトである(特許文献1)。このゼオライトは、大細孔(12員環細孔)や中細孔(10員環細孔)が三次元的に交わった構造をもつ。このタイプのゼオライトは一般に広い表面積と大きな内部空間を持つので、石油精製や石油化学プロセスにおける触媒として有用であり、比較的嵩高い有機分子を基質とする触媒として有用と期待されている。
Mobil社によるアルミノシリケートMCM−68の製法は、鋳型(テンプレート)、コロイダルシリカ、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム及び水を混合して得たゲルを、オートクレーブ中で加熱し、得られた結晶を焼成するといういわゆる水熱法により合成されている。
一方、ゼオライトの一種であるモルデナイト(mordenite)は、四角柱状の骨格構造をしており、通常鋳型(テンプレート)、粉末状シリカ、水酸化ナトリウム、塩化アルミニウム及び水を混合して得たゲルを、オートクレーブ中で加熱し、得られた結晶を焼成するという水熱法により合成されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002-535227(国際公開WO00/43316)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous materials 95 (2006) 141-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、MCM-68は、オートクレーブを静置して合成されていた(後述の比較例)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところが、本発明者らは、MCM-68の合成を行う際に、オートクレーブを回転させてその内容物を流動化させると、モルデナイト(mordenite)が生成することを見出した。更に、モルデナイトが効率良く生成する回転数に最適範囲があることを見出した。即ち、MCM-68の合成と同じ原料を用いて、結晶化の最中に、原料を適度に流動させることにより、モルデナイトを生成させることができる。
即ち、本発明は、(1)シリカ源、(2)N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)の水酸化物又はハロゲン化物、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を、オートクレーブ中でこの混合物を流動させながら加熱することから成るモルデナイトの製法、及びこの合成したままの(as-synthesized)モルデナイトを更に焼成することから成るモルデナイトの製法である。
【発明の効果】
【0007】
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で用いた合成装置の概略図を示す。A〜Dはオートクレーブの回転状態を表す。
【図2】実施例1で得られたモルデナイトのX線回折パターンを示す図である。上図は合成したまま、下図は焼成後のものを示す。
【図3】実施例1で得られた合成したままの(as-synthesized)モルデナイトの走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】実施例2で得られた生成物のX線回折パターンを示す図である。Aはオートクレーブの回転速度が0 rpm(静置)、Bは回転速度が20 rpm、Cは回転速度が40 rpm、Dは回転速度が60 rpm、Eは回転速度が80 rpmの場合を示す。
【図5】実施例3のクメンのクラッキング反応の転化率を示す図である。
【図6】比較例1で得られたMCM-68のX線回折パターンを示す図である。上図は合成したまま、下図は焼成後のものを示す。
【0009】
本発明のモルデナイト(mordenite)は、12員環及び8員環のチャンネルが二次元的に交わった構造をもつアルミノシリケートである。ユニットセル(単位胞)はRnSi48-nAlnO96(Rは陽イオンを表す。)という組成の斜方(直方)晶系である。
モルデナイト(mordenite)は、International Zeolite Association Structure Commission (IZA-SC)により"MOR"の三文字コードが与えられており、表1に示す原子座標と結晶学的パラメーターで一義的に決まるトポロジーを有する。
【表1】

注)空間群Cmcm (International Union of Crystallography (IUCr)の定めるNo. 63の空間群)格子定数a = 18.25 Å, b = 20.51 Å, c = 7.50 Å
【0010】
以下、本発明のモルデナイト(mordenite)の製法を順に説明する。
(A)まず、(1)シリカ源、(2)鋳型としてN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)の水酸化物又はハロゲン化物、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を、オートクレーブ中でこの混合物を流動させながら加熱することにより合成したままの(as-synthesized)モルデナイトを合成する。
【0011】
本発明で用いるシリカ源として、水ガラス、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、シリコンアルコキシド、石英など、好ましくはフュームドシリカが挙げられる。
本発明で用いる鋳型(テンプレート)は、下式
【化1】

で表されるN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムであり、この化合物は二価陽イオンである。
式中のアルキル基(即ち、R及びR)は、同じであっても異なってもよく、その炭素数は1〜4である。R及びRはそれぞれ、同じであってもよく、また全てのアルキル基(即ち、R及びR)が同じであってもよい。
このアルキル基としては、例えば、CH3-、CH3CH2-、CH3CH2CH2-、(CH3)2CH-、CH3CH2CH2CH2-、(CH3)2CHCH2-、(CH3CH2(CH3)CH-、(CH3)3C-を挙げることができる、
この化合物(鋳型)は、水酸化物又はハロゲン化物(ヨウ化物、臭化物、塩化物、フッ化物)として用いてもよい。
【0012】
本発明で用いるアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物として、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)又はBa(OH)、好ましくはNaOHが挙げられる。KOHの場合は純度85%以上、その他の場合は95%以上のものを使用し、脱イオン水で5〜50%に希釈して用いるか、又は予め希釈されたものを使用する。
用いる水は高純度の水、例えば、イオン交換水(脱イオン水)が好ましい。
【0013】
以上の各成分を、シリカ100モルに対して、鋳型を10〜50モル、より好ましくは10〜30モル、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を1〜30モル、より好ましくは10〜30モル、水を500〜10000モル、より好ましくは2000〜7000モルの割合で用いる。
【0014】
これら原料を適宜混合し、撹拌して均一な水性反応原料組成物とした後、原料が流動するような条件で、結晶化させる。
このことにより、モルデナイト(mordenite)が生成する。
この原料が流動化するような条件は、例えば、合成ゲルの入ったオートクレーブを特定の回転数で回転させて、オートクレーブの向きを連続的に変化させる方法で作り出すことができる(後述の実施例2を参照のこと)。
このような好ましい回転条件は、オートクレーブを10〜60rpm、好ましくは20〜30rpmで回転させる。
このときの、加熱温度は、120〜200℃、より好ましくは150〜170℃である。加熱時間は一般に120〜400時間、好ましくは150〜200時間である。
【0015】
この工程で得られる合成したままの(as-synthesized)モルデナイトは、以下の組成式で表される。
AlSi48−n96
(式中、nは約4〜5を表す。)
Si/Alは約8.5〜12である。
Rは上記の鋳型の陽イオン部分(R2+)から電荷を除いたものを表す。
また、X線回折データは以下の値を含む。(強度比10%以上のピーク)
2θ=6.60±0.10、8.76±0.10、9.84±0.05、13.64±0.05、15.40±0.10、19.76±0.10、22.40±0.10、23.32±0.10、25.84±0.10、26.40±0.10、27.84±0.10、31.08±0.10、35.84±0.10
【0016】
(B)焼成工程
この結晶性シリケートを、オートクレーブから取り出した後焼成する。この焼成は、通常、マッフル炉又は管状炉を用いて、O:N=0:100〜100:0、好ましくは20:80〜30:70の雰囲気で、0.1〜100ml/分の流量で1〜12時間流通させて行う。温度は500〜800℃、好ましくは600〜700℃である。
この工程で得られるモルデナイトは、以下の組成式で表される。
AlSi48−n96(式中、nは4〜5を表す。)
この結晶性多孔質シリケートは、上述のMOR構造を持ち、上記表1の空間群と原子座標で特定される骨格トポロジーを有する。
【0017】
焼成処理したあとのmordeniteのX線回折データは以下の値を含む。(強度比10%以上のピーク)
2θ=6.60±0.10、8.86±0.10、9.88±0.05、13.56±0.05、15.40±0.10、19.76±0.10、22.36±0.10、23.32±0.10、25.80±0.10、26.40±0.10、27.84±0.10、31.08±0.10、35.84±0.10
焼成後のmordeniteは,長軸(c軸)方向の長さLが80〜100nmの微粒子であり、長軸(c軸)方向の長さLと短軸(a又はb軸)方向の長さDの比(アスペクト比:L/D)は1.0〜2.0である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
本実施例において、X線回折は以下の条件で測定した。
使用装置 : MAC Science社製MX-Labo粉末X線解析装置
X線源 : CuKα = 1.5405A、印加電圧 : 40 kV、管電流: 20 mA
測定範囲 : 2θ = 2.040〜52.000deg
スキャン速度 : 2.000 deg. / min、サンプリング間隔 : 0.040 deg.
発散スリット: 1.00 deg、散乱スリット: 1.00 deg、受光スリット: 0.30 mm
縦型ゴニオメータ、モノクロメータ使用
測定方法 連続法、通常法
【0019】
製造例1
本合成例では、後記の実施例で用いる鋳型を合成した。
まず、下式で示すようにN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドを合成した。
【化2】

ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物(アルドリッチ製)15.7 g (63 mmol)にエチルアミン(関東化学)(70wt% in water) 100 ml (1.26 mol)を加えて室温で2時間攪拌した。ここに蒸留水(46 ml)を加え、70℃で24時間、次いで100℃で20時間攪拌した。放冷後、濃塩酸(11ml)をpHが約2になるまでゆっくり滴下した。これを吸引濾過し、蒸留水(500 ml)で洗浄して得られた固体を乾燥した。生成物(N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミド)の収量は17.1 g (収率 90%)であった。
【0020】
次に、N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを合成した。
【化3】

N2雰囲気の1000 ml 二口フラスコに水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4、和光純薬製) 6.2 g (164 mmol)を入れ、攪拌しながらテトラヒドロフラン(THF) 300 mlを加え、攪拌を開始した。ここに上記で得たジイミド体16.0 g (53 mmol)を少しずつ加え、THF (240 ml)で洗い入れた。その後68時間還流下攪拌した。放冷後、過剰のLiAlH4を分解するために、よく撹拌しながら蒸留水(6.2 g)、15wt% NaOH (6.2 g)、蒸留水(18.7 g)を約30分間隔で順次ゆっくり加え、さらに2時間攪拌した。次にグラスフィルター(G3)を用いて吸引濾過後、フィルター上の固形物をTHF (120 mL)でよく洗浄し、濾液と洗液を合わせて減圧濃縮した。得られた油状物質から水分を完全に除去し、油状の生成物(N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン)を得た。収量は12.1 g (収率 93%)であった。
【0021】
次に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物を合成した。
【化4】

上記で合成したジピロリジン体12.1 g (49 mmol)をエタノール(EtOH) 90 mLに溶解し、攪拌しつつヨウ化エチル(EtI) 17 ml (212 mmol)を滴下した後157時間還流下攪拌した。放冷後、アセトン100 mlを加え、これをグラスフィルター(G3)で吸引濾過して結晶生成物を得た。この結晶生成物をアセトン(80 ml x 2)で加熱洗浄して放冷後、アセトン(50 ml)及びベンゼン(40 ml)で順次洗浄し、真空乾燥した。生成物(N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物)の収量は19.4 g(収率 71%)であった。
生成物の分析値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, D2O) δ: 1.25 (12H, t, J=7.2Hz, -CH3), 2.82 (8H, s, CH-CH2-N+), 2.89 (2H, s, -CH=CH-), 3.28 (8H, q, J=7.5Hz, CH3-CH2-N+), 3.78 (4H,d, CH-CH-CH2), 6.42 (2H, t, J=3.8 Hz, -CH-CH=)
13C NMR(100 MHz, D2O) δ: 8.14, 8.99, 33.71, 40.59, 53.32, 56.24, 65.05, 134.75
【0022】
次に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジウムジヒドロキシドを合成した。
【化5】

三角フラスコ中で、製造例1で得たN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(8.83 g, 15.8 mmol)を蒸留水(100 ml)に溶解した。これに、イオン交換樹脂(三菱化学、DIAION, SA10A, OH形)(45 g)と蒸留水(100 ml)を加えて、室温で48時間穏やかに撹拌した。これを濾過し、16.5gまで減圧濃縮し、蒸留水で(28.7 g)に希釈して、N, N, N', N'-テトラエチルビシクロ[2. 2. 2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジヒドロキシドを得た。0.05 M HClで滴定した結果、濃度(R2+として)0.516 mmol/g、交換率 93.6 %であった。
1H NMR(400 MHz, D2O) δ: 1.21 (12H, t, J=7.3Hz, -CH3), 2.77 (8H, s, CH-CH2-N+), 2.84 (2H, s, -CH=CH-), 3.24 (8H, q, J=7.5Hz, CH3-CH2-N+), 3.73 (4H,d, CH-CH-CH2), 6.37 (2H, t, J=3.8 Hz, -CH-CH=)
13C NMR(100 MHz, D2O) δ: 7.93, 8.81, 33.62, 40.54, 53.17, 56.16, 64.95, 134.61
【0023】
実施例1
90 ml フッ素樹脂(PFA)製容器にコロイダルシリカ(デュポン社、LUDOX(登録商標)HS-40、SiO2: 40wt%) 3.00 gを入れ、超純水 (milliQ)8.20 gを加えて10分間撹拌した。次に、水酸化アルミニウム (Al(OH)3, Pfaltz & Bauer) 0.156 gを溶かして10分間撹拌した。そのあと、水酸化カリウム (8 mol L-1 KOH solution: 6.097 mmol g-1, Wako) 1.23 gを加え30分間撹拌し、製造例1で合成した鋳型であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物を加えて4時間撹拌を行った。調製したゲルを23 mlのフッ素樹脂製容器に移し、オートクレーブ(外部寸法10cm×5cmφ・内部寸法3.8cm×2.8cmφ・内容積23 ml)を用いて160℃, 16日間(384時間)、回転条件(20 rpm)で合成を行った。合成に用いた装置を図1に示す。回転軸中心からオートクレーブ中心までの距離は8.4cmである。
合成後、オートクレーブを取り出して放冷し、液が中性となるまで蒸留水を用いて遠心分離(4000 rpm, 60分間×5回)をした。そのあと100℃オーブンで一晩乾燥して白色粉末 (as-synthesized)を得た。
その後、焼成を650℃で10時間、空気雰囲気で行った。
得られた結晶は、そのX線回折パターンを図2に示すように、MOR構造(IZA-SCによる三文字コード)をもつモルデナイトであった。
得られた結晶は、その走査型電子顕微鏡写真を図3に示すように、c軸方向の長さが約100 nmでアスペクト比が約1.0の、均一な形状をもつ微結晶であった。
【0024】
実施例2
本実施例では、実施例1と同様の条件でオートクレーブを回転させ、そのオートクレーブの回転数を変えることにより、生成物を観察した。
加熱温度と時間をそれぞれ160℃と7日間(168時間)に固定し、オートクレーブの回転速度を0(静置), 20, 40, 60, 80 rpmと変化させた。その結果、生成物は0 rpm(静置)と80 rpmではアモルファス、20, 40, 60 rpmではMOR(モルデナイト)であった。回転数が20〜60 rpmの範囲外では、モルデナイトは合成されなかった。
得られた生成物のX線回折パターンを図4に示す。B(回転速度 20 rpm)、C(回転速度 40 rpm)及びD(回転速度 60 rpm)は、MOR構造(モルデナイト)に特徴的なX線回折パターンを示したが、A(回転速度 0 rpm、静置)とE(回転速度 80 rpm)のX線回折パターンにはピークがなく、結晶が得られなかったことを示す(即ち、アモルファスが得られた)。
【0025】
このように図1の装置を用いた場合に回転数が20〜60 rpmの範囲でのみモルデナイトが合成された理由は次のように考えられる。
オートクレーブの中心(重心)は周期が1/(回転速度)の等速円運動をする。回転軸まわりの回転運動によって、オートクレーブはA〜Dのように向きを変える。このようにオートクレーブが向きを変えると、オートクレーブ内のゲルの粘度は高いため、ゲルは向きを変えたオートクレーブ内で重力と反対方向に移動し、ゲル全体は攪拌される(即ち、結晶化の過程で反応物は流動化する。)。しかし、回転速度が大きすぎると、ゲルの移動が回転運動に追随できなくなり、ゲル全体は攪拌されない(即ち、結晶化の過程で反応物は流動化しない。)。このような攪拌の効果は、回転速度または回転周期の関数であり、これらで規定することができる。即ち、オートクレーブを特定の回転速度と回転周期で回転させることにより、反応物を結晶化中に流動させることができる。
【0026】
実施例3
本実施例では、実施例1で得られた微結晶モルデナイトを用いて、クメンのクラッキング反応を行った(下式)。
【化6】

反応液に基質のクメン(TCI社製)1μLをパルスで添加し、各パルスごとに、ベンゼン収率を測定した。触媒は10 mg及び25 mg用い、反応は250℃で行った。生成物の分析には熱伝導検出器(Thermal Conductivity Detector; TCD)を備えたガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC-8A)を用いた。
比較のため、市販のmordenite(触媒学会参照触媒JRC-Z-HM20、長軸(c軸)方向の長さL 120〜240nm、アスペクト比(L/D) 2.0〜2.5)を用いて同様に反応を行った。
クメンの転化率を図5に示す。本発明の微結晶モルデナイトは、市販のモルデナイト(JRC-Z-HM20)と比べて粒子径が小さく、高い触媒活性を有し、寿命が長いことがわかった。
【0027】
比較例1
実施例1と同じ原料を用いて、水熱合成を静置条件(0 rpm)で行う以外は、実施例1と同様に結晶化を行った。得られたX線回折パターンを図6に示す。回転条件下ではMOR構造のモルデナイトが得られたのに対し、静置条件下ではMSE構造(IZA-SCによる三文字コード)のMCM-68が得られた。実施例2の静置条件(0 rpm, 168時間)ではアモルファスが得られたが、さらに合成時間を長くする(384時間)ことにより、MCM-68が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)シリカ源、(2)N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)の水酸化物又はハロゲン化物、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を、オートクレーブ中でこの混合物を流動させながら加熱することから成る合成したままの(as-synthesized)モルデナイトの製法であって、このモルデナイトが組成式RAlSi48−n96(式中、nは4〜5を表し、RはN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)を表す。)で表わされ、下記の値を含むX線回折パターンをもつ合成したままの(as-synthesized)モルデナイトの製法。
2θ(単位:度)=6.60±0.10、8.76±0.10、9.84±0.05、13.64±0.05、15.40±0.10、19.76±0.10、22.40±0.10、23.32±0.10、25.84±0.10、26.40±0.10、27.84±0.10、31.08±0.10、35.84±0.10
【請求項2】
更に請求項1で得られた合成したままの(as-synthesized)モルデナイトを焼成することから成るモルデナイトの製法であって、このモルデナイトが組成式HAlSi48−n96(式中、nは4〜5を表す。)で表わされ、下記の値を含むX線回折パターンをもつモルデナイトの製法。
2θ(単位:度)=6.60±0.10、8.86±0.10、9.88±0.05、13.56±0.05、15.40±0.10、19.76±0.10、22.36±0.10、23.32±0.10、25.80±0.10、26.40±0.10、27.84±0.10、31.08±0.10、35.84±0.10
【請求項3】
前記オートクレーブ中でこの混合物を流動させることが、オートクレーブを20〜60rpmで回転させることである請求項1又は2に記載の製法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−46575(P2011−46575A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198021(P2009−198021)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】