説明

モルトエキス含有濃厚流動食

【課題】濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味及び臭みをマスキング(低減)し、風味が良好であって摂取容易な濃厚流動食を提供する。並びに濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味及び臭みのマスキング方法を提供する。
【解決手段】濃厚流動食にモルトエキスを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルトエキスを含有した濃厚流動食に関する。詳細には、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味及び臭み(不快臭)がマスキングされて飲食に適した濃厚流動食、並びに濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味及び不快臭のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や術後患者に経口、経管投与される濃厚流動食は、栄養摂取の観点からタンパク質、脂質、糖質、ミネラルやビタミン等の栄養素を複合して含有するため、タンパク質及びタンパク分解物、脂質、塩類、ビタミン特有のエグ味、塩味、苦味、臭み(不快臭)が濃厚流動食の風味に多大な影響を及ぼし、摂取しづらいという課題を抱えている。特に栄養摂取が必要である高齢者や術後患者は当該濃厚流動食が毎日の食事に代替されるため、濃厚流動食の風味が患者のQOL(Quality Of Life)に与える影響は多大である。これら濃厚流動食特有のエグ味等を改善する方法としては、濃厚流動食に使用するミネラルとして乳酸菌由来のミネラルを用いる(特許文献1)、香料の添加量を増大させる等の試みがなされているが、その改善効果は未だ不十分であり、摂取しやすい風味を有する濃厚流動食が切に求められていた。
【0003】
一方、特許文献2には、1種又は2種以上の生薬抽出エキスを配合することを特徴とする流動食が記載されており、多数列挙されている生薬の一種として麦芽が記載されている。また、特許文献3には、麦芽をエチルアルコールが25重量%〜93重量%の濃度である水とエチルアルコールとの混合溶液で抽出して得られる抽出物が香味改善剤として使用できることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−20600号公報
【特許文献2】特開2007−28997号公報
【特許文献3】特許第4122391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味や不快臭をマスキング(低減)し、風味が良好であって摂取容易な濃厚流動食、及び濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味や不快臭のマスキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、モルトエキスを濃厚流動食に添加することにより、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味や不快臭をマスキングできることを見出して本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下の態様を有する風味が改善された濃厚流動食及び濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味や不快臭のマスキング方法に関する;
項1.モルトエキスを含有することを特徴とする濃厚流動食。
項2.モルトエキスの含有量が0.0005〜0.03質量%である、項1に記載の濃厚流動食。
項3.モルトエキスを添加することを特徴とする、濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味及び臭みからなる1種以上のマスキング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味や不快臭が顕著にマスキング(低減)され、良好な風味に改善された濃厚流動食を提供できる。当該濃厚流動食は飲食に適した良好な風味を有するため、患者のQOL(Quality Of Life)を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、モルトエキスを含有することを特徴とする濃厚流動食に関する。本発明で使用するモルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものを抽出した麦芽汁を糖化することにより得られるモルトエキスであれば特に限定されることなく使用することができる。好ましくは麦芽又はこれを焙煎したものを水で抽出した麦芽汁を糖化したものを使用することができる。具体的には、麦芽又はこれを焙煎したものに対して0.5〜100倍量、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、室温〜100℃で30分間〜15時間、麦芽を浸漬し、必要に応じて攪拌することにより抽出、糖化されたモルトエキスを得ることができる。尚、かかるモルトエキスは液体、固体、ペースト品など使用形態は問わない。
【0010】
当該モルトエキスを濃厚流動食に含有することにより、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味や臭み(不快臭)がマスキングされて飲食に適した良好な風味を有する濃厚流動食を提供することができる。特には、濃厚流動食に配合されるタンパク質とその分解物、脂質、塩類及びビタミンからなる1種以上に由来するエグ味、塩味、苦味や不快臭が顕著にマスキングされた濃厚流動食を提供することができる。
【0011】
濃厚流動食中のモルトエキスの含有量は、濃厚流動食の種類によっても適宜調整することができるが、具体的には、上記モルトエキスを0.0005〜0.03質量%、好ましくは0.0005〜0.01質量%、更に好ましくは0.001〜0.01質量%未満を挙げることができる。従来、モルトエキスはパン等の風味や色づけに使用されてきたが、モルトエキスを食品の風味付けに使用する際の添加量は0.3〜5質量%程度である。かかるところ、本発明では好ましくは0.0005〜0.03質量%といった極めて少量のモルトエキスを濃厚流動食に添加することにより、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味や不快臭を顕著にマスキングすることができ、風味が良好な濃厚流動食を提供できることを見出して至った発明である。
【0012】
本発明の濃厚流動食は、pHが3〜7であり、カロリー値が1kcal/mL以上で総合的に栄養成分を摂取するためにつくられたものであり、栄養成分としては、タンパク質、脂質、糖質、ミネラル、ビタミンから選択される2種以上を含むものをいい、一般に使用される濃厚流動食であれば特に限定されることなく、形状は液状、固形状、使用形態は経口投与、経管投与に使用される濃厚流動食を含む。経口で摂取する場合はもちろんの事、経管投与に使用される場合も、濃厚流動食を摂取後に生じるゲップなどのために、香気成分等が逆流することで味を感じることが知られており、使用方法に関わらず濃厚流動食の風味付けは重要とされている。本発明の濃厚流動食は風味が良好に改善されているため、かかる点においても患者のQOL(Quality Of Life)に貢献できるという利点を有する。
【0013】
以下、本発明で用いられる濃厚流動食を構成する各成分につき詳述する。
【0014】
タンパク質
本発明の濃厚流動食を構成するタンパク質としては、従来から食品に汎用されているものであれば特に限定されず、各種タンパク質を用いることができる。具体的には、脱脂粉乳、脱脂豆乳粉末、カゼイン、ホエイタンパク質、全乳タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、及びこれらタンパク質の分解物等が挙げられる。これらタンパク質及びタンパク質分解物は、栄養摂取に必須の成分である一方で、各原料に由来した特有の臭みやエグ味を有しており、飲食後も口内に不快感が残る。中でもタンパク質分解物は特にエグ味が強くなり、苦味も生じることが知られている。またタンパク質含量が高くなるほど、最終組成物である濃厚流動食の風味に与える影響は大きい。しかし、本発明では、濃厚流動食にモルトエキスを含有することにより、タンパク質含量が1〜8質量%、更には8質量%以上と高いタンパク質含量を有する濃厚流動食であっても、タンパク質特有のエグ味、苦味や不快臭が顕著にマスキングされ、風味が良好な濃厚流動食を提供することが可能である。
【0015】
脂質
本発明の濃厚流動食を構成する脂質は、一般に食用として利用されている脂質であれば特に限定されず、各種脂質を用いることができる。具体的には、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油等の植物油や、イワシ油、タラ肝油等の魚油、必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等を挙げることができ、好ましくは、通常炭素数が8〜10である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。これらの脂質は、栄養摂取に重要な成分である一方で、含量が高くなると脂臭さ(酸化臭)、エグ味を生じ、飲食後も口内に不快感が残る。本発明の濃厚流動食中の脂質の含有量としては、10質量%以下、好ましくは8質量%以下であるが、高い脂質含量を有する濃厚流動食であっても、脂質に由来する脂臭さ(酸化臭)、エグ味が顕著にマスキングされ、風味が良好な濃厚流動食を提供することが可能である。
【0016】
糖質
本発明の濃厚流動食を構成する糖質として、一般に食用として利用されている各種糖質を用いることができる。具体的には、グルコース、フルクトース等の単糖類、マルトース、蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類や、キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類、デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等が挙げられ、好ましくは、デキストリンを用いることができる。味覚に与える影響が糖質の中では低いためである。本発明の濃厚流動食中の糖質の含有量としては、10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%である。
【0017】
ミネラル、ビタミン
本発明の酸性濃厚流動食では、一般に食用として利用されているものが使用できる。例えば、ミネラルであれば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等は食品添加物扱いの塩の形で添加することができる。ビタミンであれば、例えば、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、D、K、ナイアシン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、又は葉酸等を使用することができる。濃厚流動食中のミネラル、ビタミンの量は「日本人の食事摂取基準[2005年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能である。これらミネラルは、ごく微量の添加でもエグ味や塩味、苦味を生じ、ビタミンは素材由来特有の臭みを生じるが、本発明の濃厚流動食では、これらのエグ味、塩味、苦味、臭みがマスキングされ、風味が良好な濃厚流動食を提供することが可能である。
【0018】
上述した濃厚流動食の各々の成分は、特有のエグ味、塩味、苦味や臭みを有しており、それらを複数種、多量に含んだ濃厚流動食は、風味が悪く、飲食後も口内に不快感が残るものとなっている。特にタンパク質及びタンパク質分解物特有の臭み、脂質特有の臭み(酸化臭)やエグ味、ミネラルの苦味やエグ味、ビタミンの特有の臭みは、濃厚流動食の風味悪化に多大な影響を及ぼすものであるが、モルトエキスを含有することにより、これら各複数成分のエグ味、塩味、苦味や不快臭を顕著にマスキングされた濃厚流動食を提供することが可能となった。
【0019】
かかる点で、本発明は、上記濃厚流動食に加え、濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味及び不快臭からなる一種以上をマスキングする方法を提供するものである。マスキング方法としては、モルトエキスが最終製品に含まれる形であれば添加時期や添加方法は特に限定されず、濃厚流動食の製造時に添加する方法や、製造された一般の濃厚流動食にモルトエキスを添加する方法等を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実験例及び実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「重量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0021】
実験例1:濃厚流動食の調製
市販の濃厚流動食Aにモルトエキスを添加することにより、風味が改善された濃厚流動食を調製した。詳細には、下記濃厚流動食Aに表1の添加量のモルトエキスを添加し、濃度変化によるマスキング効果について評価した。
【0022】
市販濃厚流動食A 栄養組成(100ml当り):タンパク質(分解物) 3.6g、脂質 0g、炭水化物 21.4g、ナトリウム 70mg、カリウム 77mg、カルシウム 75mg、マグネシウム 18mg、塩素 105mg、リン 40mg、鉄 0.7mg、亜鉛 1.0mg、銅 0.05mg、マンガン 0.022mg、イオウ 33mg、ビタミンA 60μgRE(レチノール当量)、ビタミンD 0.6μg、ビタミンE 1.5mg、ビタミンK 7.5μg、ビタミンB1 0.5mg、ビタミンB2 0.25mg、ナイアシン 2.5mg、ビタミンB6 0.25mg、葉酸 50μg、ビタミンB12 0.6μg、ビオチン 12.5μg、パントテン酸 0.5mg、ビタミンC 50mg
【0023】
【表1】

【0024】
注1)モルトエキスとして、麦芽を水で抽出後、糖化したモルトエキスを使用した。
【0025】
表1より、モルトエキスを0.001質量%又は0.005質量%濃厚流動食に添加することにより、ペプチド、ミネラル特有のエグ味、苦味を顕著にマスキングし、後味にスッキリ感が付与され、喫食に適した風味が良好な濃厚流動食が得られた。
【0026】
実験例2:濃厚流動食の調製
市販の濃厚流動食Bにモルトエキスを添加することにより、風味が改善された濃厚流動食を調製した。詳細には、下記濃厚流動食Bに表2の添加量のモルトエキスを添加し、濃度変化によるマスキング効果について評価した。
【0027】
市販濃厚流動食B 栄養組成(100ml当り):タンパク質 5.0g、脂質 2.8g、炭水化物 13.8g、ナトリウム 130mg、カリウム 130mg、カルシウム 70mg、マグネシウム 35mg、塩素 150mg、リン 75mg、鉄 1.2mg、亜鉛 1.5mg、銅 0.08mg、マンガン 0.4mg、イオウ 42mg、セレン 6μg、クロム 3.5μg、ヨウ素 10μg、モリブデン 4μg、レチノール 56.4μgRE(レチノール当量)、β−カロテン 9.3μgRE(レチノール当量)、ビタミンD 0.47μg、ビタミンE 3.42mg、ビタミンK 4.1μg、ビタミンB1 0.28mg、ビタミンB2 0.32mg、ナイアシン 2.7mg、ビタミンB6 0.38mg、葉酸 50μg、ビタミンB12 1.13μg、ビオチン 10μg、パントテン酸 1.88mg、ビタミンC 25mg
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、モルトエキスを0.001質量%又は0.005質量%濃厚流動食に添加することにより、濃厚流動食のタンパク臭、酸化臭が弱まり、エグ味、塩味や苦味が弱まり、まろやさ、スッキリ感が付与され、喫食に適した風味が良好な濃厚流動食が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、濃厚流動食特有のエグ味、塩味、苦味及び臭みが顕著にマスキング(低減)され、良好な風味に改善された濃厚流動食を提供できる。当該濃厚流動食は飲食に適した良好な風味を有するため、患者のQOL(Quality Of Life)を向上させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルトエキスを含有することを特徴とする濃厚流動食。
【請求項2】
モルトエキスの含有量が0.0005〜0.03質量%である、請求項1に記載の濃厚流動食。
【請求項3】
モルトエキスを添加することを特徴とする、濃厚流動食のエグ味、塩味、苦味及び臭みからなる1種以上のマスキング方法。