説明

モータの固定子

【課題】レーシング処理やワニス処理などを廃止または簡素化できるモータの固定子を提供する。
【解決手段】複数のスロット16を有するステータコア11と、複数のスロット16内に配置される絶縁部材12と、ワイヤ線20が複数のスロット16内に絶縁部材12を介して所定のスロット数を空けて分布巻きされて形成される複数相のコイル13と、を備えるモータの固定子10であって、ワイヤ線20は、単線ワイヤからなり、張力が付与された状態で絶縁部材12内に配置されることで、ステータコア11、絶縁部材12、及びコイル13がそれぞれ物理的に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動源として用いられる、ワイヤ線が分布巻きされたモータの固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分布巻きモータの固定子は、ステータコアに対してワイヤ線を直巻してコイルを形成する直巻方式や、予めワイヤ線を巻回して成形したコイルをステータコアのスロット内に挿入するインサータ方式などによって製造されている。また、曲げ剛性の高い単線ワイヤにおいては、複数の分割されたワイヤを予め所定の形状に成形して互いに接合することでも製造されている。また、モータの固定子においては、ステータコアとワイヤ線との間の絶縁、及び異相コイル間の絶縁を保障するため、絶縁紙などの絶縁部材を、ステータコアとワイヤ線との間や、異相のワイヤ線間に挿入して絶縁距離を確保することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図24は、特許文献1に記載された固定子の要部断面図、及び製造方法を示す斜視図である。この固定子1は、シート状の電気絶縁部材2の端部を互いに重ね合わせて筒状にして、ステータコア3に形成されたスロット4内に配置した後、予めU字状に形成されたセグメント5を、筒状の電気絶縁部材2に挿入し、更にセグメント5の先端部を互いに周方向反対側に折り曲げて他のセグメント5の先端部と接合することで製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000‐14068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の固定子1においては、電気絶縁部材2、ステータコア3、及びワイヤ線(セグメント5)の固定は、それぞれの摩擦力によってのみ固定されているため、固定力が必ずしも十分ではなかった。このため、ワイヤ線を巻回した後、レーシング処理やワニス処理などが必要となり、固定子作製に多くの工数を要し、コストが増大する問題があった。また、電気絶縁部材2がシート状部材であるため、絶縁破壊が生じないように、ワイヤ線に大きな力をかけずにゆるく巻回することになる。結果として、ワイヤ線の長さが必要以上に長くなってモータ効率に影響する問題があった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、レーシング処理やワニス処理などを廃止または簡素化できるモータの固定子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、複数のスロット(例えば、後述の実施形態におけるスロット16)を有するステータコア(例えば、後述の実施形態におけるステータコア11)と、
前記複数のスロット内に配置される絶縁部材(例えば、後述の実施形態における絶縁部材12)と、
ワイヤ線(例えば、後述の実施形態におけるワイヤ線20、20A)が前記複数のスロット内に前記絶縁部材を介して所定のスロット数を空けて分布巻きされて形成される複数相のコイル(例えば、後述の実施形態におけるコイル13)と、
を備えるモータの固定子(例えば、後述の実施形態におけるモータの固定子10)であって、
前記ワイヤ線は、単線ワイヤ(例えば、後述の実施形態におけるワイヤ線20、20A)からなり、張力が付与された状態で前記絶縁部材内に配置されることで、前記ステータコア、前記絶縁部材、及び前記コイルがそれぞれ物理的に固定されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成に加えて、前記複数相のコイルのコイルエンド部(例えば、後述の実施形態におけるコイルエンド部17)は、各相の巻き回数単位で前記ステータコアに交互に配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記単線ワイヤは、110μm以上の絶縁被膜(例えば、後述の実施形態における絶縁被膜41,41A)により被覆されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項の構成に加えて、前記単線ワイヤは、無機物粒子(例えば、後述の実施形態における無機物粒子42)が樹脂(例えば、後述の実施形態における樹脂43)内に分散してなる複合絶縁被膜(例えば、後述の実施形態における複合絶縁被膜41A)により被覆されることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項の構成に加えて、前記単線ワイヤは、無機質の絶縁被膜により被覆されることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項5のいずれかの構成に加えて、前記単線ワイヤは、断面略矩形の導電線(例えば、後述の実施形態における導電線40)と、前記導電線の外表面を覆う前記絶縁被膜を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項6の構成に加えて、前記導電線は、断面積一定且つ、巻き回数ごとに断面形状が異なることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項1〜請求項7のいずれかの構成に加えて、前記絶縁部材は、弾性を有する樹脂部材(例えば、後述の実施形態における絶縁部材12)であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項1〜請求項8のいずれかの構成に加えて、前記ワイヤ線の張力は、前記ワイヤ線の弾性許容応力以下、および/または前記絶縁部材の許容圧縮強度以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項1〜請求項9のいずれかの構成に加えて、前記スロットは、開口部(例えば、後述の実施形態における開口部18)が前記ステータコアの内周面(例えば、後述の実施形態における内周面19)に開口することを特徴とする。
【0017】
請求項11に係る発明は、請求項1〜請求項10のいずれかの構成に加えて、前記スロット内に配置された前記コイルの占積率(例えば、後述の実施形態における占積率S)は、40%以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項12に係る発明は、請求項1〜請求項11のいずれかの構成に加えて、前記複数相のコイルは、U相、V相、W相の3相のコイル(例えば、後述の実施形態におけるU相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13w)からなり、
前記3相のコイルは、2相のコイルのコイルエンド部が径方向に並ぶように、前記ワイヤ線を前記複数のスロットに波巻きして形成されることを特徴とする。
【0019】
請求項13に係る発明は、請求項1〜請求項12のいずれかの構成に加えて、前記コイルは、略U字形に成形された複数のワイヤ線(例えば、後述の実施形態におけるワイヤ線20A)を前記スロットに挿入し、前記ワイヤ線の先端(例えば、後述の実施形態における先端21)同士を接合して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、ワイヤ線の巻回後におけるレーシング処理やワニス処理などを廃止または簡素化でき、製造工程を簡略化することが可能となり、モータの固定子の製造コストが抑制される。
【0021】
請求項2の発明によれば、コイル量が低減し、コイル抵抗や銅損を抑制してモータ効率を向上させることができる。また、モータ重量の低減及びモータ体格の小型化が図られる。
【0022】
請求項3の発明によれば、モータの小型化、高性能化を達成するため、コイルに高電圧を印加しても、異相ワイヤ線間の絶縁距離を確実に確保することができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、例え、コイルの異相ワイヤ線間に放電現象が生じても、絶縁被膜の劣化を抑制することができ、絶縁寿命の長期化が図られる。
【0024】
請求項5の発明によれば、絶縁被膜の放電に対する耐性を高めることができ、絶縁寿命の長期化が図られる。
【0025】
請求項6の発明によれば、ワイヤ線を、スロット内に整列させて配置することができ、占積率を高めてモータ効率を向上させることができる。また、同一占積率とした場合、絶縁被膜の厚さを大きくすることができ、絶縁性能が向上する。
【0026】
請求項7の発明によれば、ワイヤ線を、スロット内隙間が最小隙間となるように整列させて配置することができ、占積率を高めてモータ効率を向上させることができる。
【0027】
請求項8の発明によれば、複数相のコイルを形成する際、張力を付与した状態でワイヤ線が絶縁部材に配置されても、ワイヤ線を傷付ける虞がなく、所定のモータ性能が維持される。
【0028】
請求項9の発明によれば、複数相のコイルを形成する際、張力を付与した状態でワイヤ線を絶縁部材に分布巻きしても、ワイヤ線や絶縁部材が塑性変形することがなく、所定のモータ性能が維持される。
【0029】
請求項10の発明によれば、インナーロータタイプのモータの固定子として好適に使用することができる。
【0030】
請求項11の発明によれば、モータ効率の向上が図られる。
【0031】
請求項12の発明によれば、コイル量の低減が可能となり、コイル抵抗や銅損を抑制してモータ効率を向上させることができる。また、モータ重量の低減及びモータ体格の小型化を図ることができる。
【0032】
請求項13の発明によれば、曲げ剛性の高い単線ワイヤからなるワイヤ線を用いて、コイルを容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るモータの固定子の要部拡大斜視図である。
【図2】第1実施形態のモータの固定子のワイヤ線の巻回状態を示す模式図である。
【図3】内径側から見た固定子の部分拡大図である。
【図4】1相分のワイヤ線の巻回状態を示す要部拡大斜視図である。
【図5】スロットに挿入されたワイヤ線の状態を示す断面図である。
【図6】(a)及び(b)は、占積率を説明するための図である。
【図7】(a)及び(b)は、スロットに挿入された断面積の異なるワイヤ線の状態を示す断面図である。
【図8】絶縁被膜厚さが同じ場合の線径と絶縁被膜比率との関係を示すグラフである。
【図9】Dakinの式に基づく絶縁被膜厚さとPDIV(部分放電開始電圧)の関係を示すグラフである。
【図10】絶縁被膜で被覆された単線ワイヤの断面図である。
【図11】無機物粒子が樹脂内に分散してなる複合絶縁被膜により被覆された単線ワイヤの断面図である。
【図12】(a)は第1実施形態に係るモータの固定子の製造方法を示す製造工程図であり、(b)は従来の製造方法を示す製造工程図である。
【図13】モータの固定子の製造装置の要部拡大図である。
【図14】図13に示す製造装置の平面概念図である。
【図15】図13に示す製造装置によって、ワイヤ線がステータコアに巻回される手順を段階的に示す要部斜視図である。
【図16】製造装置のフックによりワイヤ線に張力が付与される状態を示す側面図である。
【図17】第2実施形態のモータの固定子のワイヤ線の巻回状態を示す模式図である。
【図18】第2実施形態に係るモータの固定子の製造方法を示す製造工程図である。
【図19】分割された単線のワイヤ線の斜視図である。
【図20】分割された単線のワイヤ線がスロットに挿入された状態の模式図である。
【図21】図20のワイヤ線が折り曲げられた状態の模式図である。
【図22】ワイヤ線を折り曲げる際の軸方向の固定を説明する内径側から見た固定子の部分拡大図である。
【図23】断面形状が異なる複数の単線ワイヤが、最小隙間でスロットに挿入された状態を示す断面図である。
【図24】(a)は従来の固定子の要部断面図、(b)はこの固定子の製作工程を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の各実施形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0035】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明に係る第1実施形態のモータの固定子10は、3相8極の分布巻き固定子であり、ステータコア11と、絶縁部材12と、コイル13(U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13w)と、を備えて形成される。ステータコア11は、例えば、プレス抜きされた複数枚の珪素鋼板が積層されて構成され、48個のティース15と、隣接するティース15,15間に形成される48個のスロット16とを備える。スロット16の開口部18は、ステータコア11の内周面19に開口している。
【0036】
各スロット16には、樹脂材料を射出成型して形成され、電気的絶縁特性、及び適度の弾性を有する複数の絶縁部材12が、スロット16の内面を覆うようにステータコア11の軸方向両側から挿入されている。絶縁部材12は、ステータコア11と各相コイル13u、13v、13w間を電気的に絶縁するものである。射出成型される樹脂材料としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどが例示される。
【0037】
絶縁部材12は、ワイヤ線20に張力を付与しながら巻回する際、ワイヤ線20を傷付ける虞がなく、絶縁性能が確保可能なものであればよく、樹脂の成型品に限定されず、例えば、適度な厚さや弾性を有するアラミッド紙なども使用することができる。また、ステータコア11に樹脂をアウトサート成型して絶縁部材12としてもよい。
【0038】
U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wは、導電体である単線ワイヤからなるワイヤ線20を、所定のスロット16に挿入し、波巻きによってステータコア11に巻き付けて形成される。
【0039】
各相コイル13u、13v、13wのコイルエンド部17u、17v、17wは、3相のコイル13u、13v、13wの内、2相のコイル(13uと13v、13vと13w、または13wと13u)のコイルエンド部(17uと17v、17vと17w、または17wと17u)が径方向に並ぶように、各相コイル13u、13v、13wの巻き回数単位でステータコア11の径方向に交互に配置されている。
【0040】
図2から図4に示すように、本実施形態の固定子10は、ダブルスロット方式の固定子であり、各相2本ずつのワイヤ線20が、ステータコア11の隣接する2つの同相スロット16(U相スロット16u、V相スロット16v、W相スロット16w)に波巻きにより分布巻きされている。スロット16は、ステータコア11の周方向(図2中右側から左側)に、U相スロット16u、V相スロット16v、W相スロット16wの順で繰り返されて配置されている。
【0041】
具体的には、先ずU相コイル13uを構成する2本のワイヤ線20が、それぞれ2つのU相スロット16uに固定子10の軸方向一端側(図2の下端)から他端側(図2の上端)に向けて絶縁部材12を介して挿入され、各2つのV相スロット16v及びW相スロット16wを飛び越して次の2つのU相スロット16uに軸方向他端側から一端側に絶縁部材12を介して挿入される。以後同様に、ステータコア11を一周するように、ワイヤ線20が波巻きによってU相スロット16uに挿入されてU相コイル13uの第1ターン13u1が形成される。
【0042】
次いで、V相コイル13vを構成する2本のワイヤ線20が、上記2つずつのU相スロット16u間のそれぞれ2つのV相スロット16vに固定子10の軸方向他端側から一端側に向けて絶縁部材12を介して挿入され、各2つのW相スロット16w及びU相スロット16uを飛び越して次の2つのV相スロット16vに軸方向一端側から他端側に絶縁部材12を介して挿入され、以後同様に、ステータコア11を一周するようにV相スロット16vに波巻きされてV相コイル13vの第1ターン13v1が形成される。
【0043】
同様に、W相コイル13wを構成する2本のワイヤ線20が、上記2つずつのU相スロット16u間のそれぞれ2つのW相スロット16wに固定子10の軸方向一端側から他端側に向けて絶縁部材12を介して挿入され、各2つU相スロット16u及びV相スロット16vを飛び越して次の2つのW相スロット16wに軸方向他端側から一端側に絶縁部材12を介して挿入される。これによりU相コイル13uとV相コイル13vのコイルエンド部17u,17vが交差する軸方向一端側又は軸方向他端側と反対側の軸方向他端側又は軸方向一端側をW相コイル13wのコイルエンド部17wが通過する。以後同様に、ステータコア11を一周するようにW相スロット16wに波巻きされてW相コイル13wの第1ターン13w1が形成される。
【0044】
同様にして、U相コイル13uの第2ターン13u2、V相コイル13vの第2ターン13v2、W相コイル13wの第2ターン13w2、U相コイル13uの第3ターン13u3、・・・・が、この順でステータコア11に巻回される。
【0045】
このように、U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wを、1ターンごとに交互に配置することにより、図1に示すように、U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wの内、2相のコイル(13u及び13w、13v及び13w)のコイルエンド部(17u及び17w、17v及び17w、)が、径方向に並ぶように配置されて、ワイヤ線20が複数のスロット16に波巻きされる。U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wを、各相の巻き回数単位で交互に配置することにより、従来のコイルと比較して、コイルエンド部17u、17v、17wの体積が小さくなり、これによりコイル量が低減する。
【0046】
図4は、理解を容易にするため、U相コイル13uのみを示した図であり、各相のコイルエンド部17u、17v、17wは、第1ターン13u1と第2ターン13u2の間に設けられた半径方向隙間に、W相コイル13wの第1ターン13w1及びV相コイル13vの第1ターン13v1が挿入されることになる。以後の各ターン(第(n−1)ターンと第nターンとの間)についても同様である。
【0047】
このため、コイルエンド部17uは、1ターンごとに少しずつ径方向外方に変位して形成されて半径方向隙間が確保される。その変位量は、ステータコア11の外径側から内径側に向かうに従って次第に小さくなっている。また、コイルエンド部17uの変位量は、ステータコア11の半径方向厚さの略中心部から径方向外側に配置されるコイルエンド部17uを径方向外方に向けて変位させ、略中心部から径方向内側に配置されるコイルエンド部17uを径方向内方に向けて変位させるようにしてもよい。V相コイルエンド部17v、及びW相コイルエンド部17wについても同様である。
【0048】
各相コイル13u、13v、及び13wを構成するワイヤ線20は、図3に示すように、絶縁部材12の形状に沿って曲げられ、張力が付与された状態で各相スロット16u、16v、及び16wに上記したように波巻きされる。これにより、ステータコア11、絶縁部材12、及び各相コイル13u、13v、13wは、ワイヤ線20の張力によって物理的に固定されることになる。ここで、張力によって物理的に固定されるとは、張力によってステータコア11、絶縁部材12、及び各相コイル13の相対的位置関係が殆ど移動しない状態のことである。従って、従来の固定子で実施されていたレーシング処理や、ワニス処理などを廃止し、必要に応じて自己融着線を用いた簡易的な融着熱処理を行なうことで十分となる。
【0049】
ワイヤ線20の張力は、ワイヤ線20の弾性許容応力以下、或いは、ワイヤ線20の張力によって絶縁部材12に作用する応力が許容圧縮強度以下とするのが好ましく、両方を満たすのがより好ましい。これにより、巻回されたワイヤ線20の塑性変形や破断、絶縁部材12の塑性変形など、ワイヤ線20の張力による不具合が生じることがない。
【0050】
図5に示すように、ワイヤ線20は、絶縁部材12を介して各スロット16内に配置され、U、V、W相のコイルエンド部17u、17v、17wが、図1に示すように、巻き回数単位でステータコア11の径方向に交互に配置されるので、他の相のコイルが巻回される際、既に巻回されている相のコイルが邪魔になることがなく、コイル13の占積率Sを高めた状態で巻回することが可能であり、本実施形態の固定子10の占積率Sは、40%以上、図5においては略55%とすることができる。また、本実施形態のワイヤ線20は、スロット16中の絶縁部材12の周方向隙間Tと略等しい幅を有する略矩形断面を有している。そのため、スロット16内にワイヤ線20を隙間なく整列して配置することができ、占積率Sを更に向上させている。ここで、占積率Sとは、図6に示すように、スロット16内に挿入されたワイヤ線20から、絶縁被膜20aを除いた電気的導体部分20bの断面積S1の合計と、スロット16の断面積S2との比として定義される。
【0051】
ワイヤ線20の断面形状は図5に示すものに限らず、図7(a)及び(b)に示す円形断面を有するものでもよい。図7(a)及び(b)を参照して、スロット16に挿入された細径のワイヤ線20と大径のワイヤ線20とを比較すると、占積率Sは、一見、細径のワイヤ線20の方が高いようにも見えるが、絶縁被膜厚さが同じ場合の線径と絶縁被膜比率との関係を示す図8に示すように、線径が太くなるに従って、絶縁被膜41の断面積比率が小さくなり、占積率S上有利となる。また、同一占積率とした場合、単線ワイヤである導電線40を太くすることにより、絶縁被膜41の被膜厚さを厚くすることができ、絶縁性能が向上する利点もある。さらに、図7(a)に示す円形断面のワイヤ線20に比べて図5に示す矩形断面のワイヤ線20の方がスロット16内の隙間を小さくすることができる。
【0052】
また、通常のワイヤ線には、厚さ40〜50μm程度のエナメル被覆が施されて絶縁処理されているが、エナメル被覆電線で使用可能な電圧は、一般的に500V以下と言われており、500V以上になると部分放電が開始されて絶縁劣化が生じる虞がある。高電圧化が進む電気自動車のモータの場合、サージ電圧も考慮すると1000V程度の耐電圧が要求される。このため、各相コイル13u、13v、13wのワイヤ線20間に、絶縁紙などを配置して相間絶縁することも考えられるが、固定子10の製作時に絶縁紙の挿入工程が必要になるなど、作業が煩雑となる問題がある。
【0053】
図9はDakinの式に基づく絶縁被膜厚さとPDIV(部分放電開始電圧(耐電圧))の関係を示すグラフであり、このグラフからPDIVを1000Vとするには、絶縁被膜厚さは、略110μm必要であることが分かる。従って、図10に示すように、ワイヤ線20の絶縁被膜として厚さ110μm以上のエナメル被膜等の絶縁被膜41をワイヤ線20に焼き付けることにより、導電線40間に220μmの絶縁被膜41による導体間距離を確保することができる。これにより、ワイヤ線20間に絶縁紙などを配置して相間絶縁することなく、ワイヤ線20の絶縁被膜41のみで部分放電の抑制が可能となり、コイル13の製作が容易となる。尚、絶縁被膜41として、エナメル被膜と同等性能を有する絶縁テープや絶縁フィルムを110μm以上の厚さに巻き付けるようにしてもよい。
【0054】
また、図11に示すように、絶縁被膜として複合絶縁被膜41Aを用いることもできる。複合絶縁被膜41Aは、樹脂43内に無機物粒子42が分散されており、部分放電による絶縁性能の劣化速度が無機物粒子42によって抑制され、絶縁寿命を長くすることができる。尚、他に絶縁被膜として耐放電特性の高い無機質の絶縁被膜を用いてもよい。無機質の絶縁被膜としては、ガラス、マイカ、ノーメックス、カプトンなどの無機材を、テープ状、またはフィルム状にして形成することができ、導電体(単線ワイヤ)40に直接、或いはエナメル被膜が施された導電線40に巻き付けることで被覆される。
【0055】
次に、図12から図16に基づいて、本実施形態のモータの固定子10の製造方法について説明する。図12は本発明に係るモータの固定子の製造工程(a)と、従来の製造工程(b)とを、比較して示す製造工程図であり、図12(b)に示すように、従来の製造方法によると、ステータコア(鉄心)の各スロットに絶縁部材を組み付けた後(ステップS1)、絶縁部材を介して分割されたワイヤ線をステータコアに挿入し(ステップS2)、分割されたワイヤ線に折り曲げ加工を行い(ステップS3)、次いで隣り合う分割されたワイヤ線の端部同士の接合処理を行う(ステップS4)。そして、コイルをレーシング紐で結束するレーシング処理(ステップS5)、及びワニスを含侵・硬化させるワニス処理を施してステータコア、絶縁部材、及びコイルを固定する(ステップS6)。このように、従来の製造方法によると、6ステップの工程を経てモータの固定子が製造される。
【0056】
これに対して、本発明に係るモータの固定子の製造方法は、図12(a)に示すように、ステータコア(鉄心)11の各スロット16に絶縁部材12を組み付ける工程(ステップS11)と、絶縁部材12を介してワイヤ線20をステータコア11に巻き付ける工程(ステップS12)との、2ステップの工程に短縮することができ、材料の削減と共に、製作時間を大幅に短縮することができ、製作コストを抑制することができる。なお、ワイヤ線20が、熱処理によって接着できるような樹脂が塗布される自己融着線などである場合には、熱処理工程(ステップS13)によってワイヤ線20を簡易的に固定することで、コイルの固定化を簡素化できる。
【0057】
具体的には、図13及び図14に示すように、ステータコア11が水平に配置され、それぞれ2本のワイヤ線20を吐出するU、V、W相の3つのノズル31と、所定の位置でワイヤ線20を保持する複数のフック32によって、ステータコア11にワイヤ線20が波巻きされる。
【0058】
ノズル31は、U相コイル13uを構成する2本のワイヤ線20を吐出するU相ノズル31uと、V相コイルを構成する2本のワイヤ線20を吐出するV相ノズル31vと、W相コイル13wを構成する2本のワイヤ線20を吐出するW相ノズル31wとを備え、ステータコア11の内径側に配置される。各相ノズル31u、31v、31wは、それぞれ2本のワイヤ線20を吐出しながらノズルガイドレール30に案内されてステータコア11の上下方向、及び径方向に移動可能である。
【0059】
フック32は、ステータコア11の軸方向両端側にそれぞれ12個ずつ、合計24個配置されており、各相ノズル31u、31v、31wから吐出されたワイヤ線20を所定の位置で係止して、ステータコア11の径方向外方で保持する。
【0060】
ワイヤ線20をステータコア11に分布巻き(波巻き)する具体的な工程は、図15(a)に示すように、2本のワイヤ線20をステータコア11の軸方向一端側(図中下端)から他端側(図中上端)に向けて絶縁部材12を介して一対の第1のスロット16aに挿通する。そして、第1のスロット16aから引き出されたワイヤ線20を径方向内側に移動したフック32で係止し(図15(b))、ワイヤ線20に張力を付与した状態で第1のスロット16aの径方向外方で保持する(図15(c))。
【0061】
ワイヤ線20に張力を付与する際、ワイヤ線20をフック32に係止して径方向外方に引っ張ると、スロット16に挿通したワイヤ線20が、径方向内方に膨らんでしまい占積率が低下する虞がある。この場合、ワイヤ線押圧機構を設けて、径方向内方に膨らんだスロット16内のワイヤ線20を、径方向外方に押圧して膨らみを補正しながらワイヤ線20を巻回するようにしてもよい。
【0062】
次いで、ワイヤ線20をフック32に係止したまま、ワイヤ線20を次に挿通する予定の第2のスロット16bの位置まで、ステータコア11をフック32と共に所定の角度だけ回動させる。これにより、ノズル31から吐出されたワイヤ線20は、ステータコア11の外周側に沿って配置される(図15(d))。ここで、ワイヤ線20を第2のスロット16bの径方向外方で保持して(図15(e))、ワイヤ線20をステータコア11の軸方向他端側(上側)から一端側(下側)に向けて絶縁部材12を介して第2のスロット16bに挿通する(図15(f))。
【0063】
以後同様に、図16に示すように、ステータコア11の軸方向一端側(下端側)において、第2のスロット16bから引き出されたワイヤ線20を、フック32に係止してワイヤ線20に張力を付与した状態で第2のスロット16bの径方向外方で保持し、ワイヤ線20を次に挿通させる第3のスロットの位置まで、ステータコア11をフック32と共に所定の角度だけ回動させる。ノズル31から吐出されてステータコア11の外周側に沿って配置されたワイヤ線20を、フック32により第3のスロットの径方向外方で保持する。上記した工程を繰り返し行うことにより、1相のコイル13(例えば、U相コイル13u)がステータコア11に波巻きされる。
【0064】
上記した動作を、U相ノズル31u、V相ノズル31v、W相ノズル31wの3つのノズル31で同時に行わせることで、ステータコア11にU相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wの3つのコイル13が、巻き回数単位で交互に配置されて形成される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態に係るモータの固定子10によれば、絶縁部材12を介してスロット16内に分布巻きされて複数相のコイル13を形成するワイヤ線20が、単線ワイヤから構成され、且つ張力が付与された状態で絶縁部材12内に配置されてステータコア11、絶縁部材12、及びコイル13を、それぞれ物理的に固定するようにしたので、ワイヤ線20の巻回後におけるレーシング処理やワニス処理などを廃止または簡素化でき、製造工程を簡略化することが可能となり、モータの固定子10の製造コストが抑制される。
【0066】
また、単線ワイヤは、110μm以上の絶縁被膜41により被覆されているので、モータの小型化、高性能化を達成するためコイル13に高電圧を作用させても、異相ワイヤ線20間の絶縁距離を確実に確保することができる。
【0067】
また、単線ワイヤは、断面略矩形の導電線40と、絶縁被膜41からなるので、ワイヤ線20を、スロット16内に整列させて配置することができ、占積率Sを高め、モータ効率を向上させることができる。また、同一占積率Sとした場合、絶縁被膜41の厚さを大きくすることができ、絶縁性能が向上する。
【0068】
更に、複数相のコイル13u,13v,13wのコイルエンド部17u,17v,17wは、各相の巻き回数単位でステータコア11に交互に配置されるので、コイル量が低減し、コイル抵抗や銅損を抑制してモータ効率を向上させることができる。また、モータ重量の低減及びモータ体格の小型化が図られる。
【0069】
更にまた、絶縁部材12は、弾性を有する樹脂部材であるので、複数相のコイル13を形成する際、張力を付与した状態でワイヤ線20が絶縁部材12に配置されても、ワイヤ線20を傷付ける虞がなく、所定のモータ性能が維持される。
【0070】
また、ワイヤ線20の張力は、ワイヤ線20の弾性許容応力以下、および/または絶縁部材12の許容圧縮強度以下であるので、複数相のコイル13を形成する際、張力を付与した状態でワイヤ線20を絶縁部材12に分布巻きしても、ワイヤ線20や絶縁部材12が塑性変形することがなく、所定のモータ性能が維持される。
【0071】
更に、スロット16は、開口部18がステータコア11の内周面19に開口するので、インナーロータタイプのモータの固定子として好適に使用することができる。
【0072】
更にまた、スロット16内に配置されたコイル13の占積率Sは、40%以上であるので、モータ効率の向上が図られる。
【0073】
また、複数相のコイル13は、U相、V相、W相の3相のコイル13からなり、3相のコイル13は、2相のコイル13のコイルエンド部17が径方向に並ぶように、ワイヤ線20を複数のスロット16に波巻きして形成されるので、コイル量の低減が可能となり、コイル抵抗や銅損を抑制してモータ効率を向上させることができる。また、モータ重量の低減及びモータ体格の小型化を図ることができる。
【0074】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態のモータの固定子について説明する。
図17は第2実施形態のモータの固定子のワイヤ線の巻回状態を示す模式図である。第2実施形態では、予め複数に分割された単線のワイヤ線20Aの先端同士が接合(結線)されて各相のコイル13が形成されるものであり、ステータコア11の軸方向一端側又は他端側に接合部23がある以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。従って、第1実施形態のモータの固定子10と同一部分には同一符号または相当符号を付して説明を省略し、本実施形態の製造方法について詳細に説明する
【0075】
本実施形態のモータの固定子10の製造方法は、図18に示すように、ステータコア(鉄心)11の各スロット16に絶縁部材12を組み付ける工程(ステップS21)と、絶縁部材12を介して分割されたワイヤ線20Aをステータコア11を挿入する工程(ステップS22)と、分割されたワイヤ線20Aに折り曲げ加工を行う工程(ステップS23)と、隣り合う同相の分割されたワイヤ線20Aの端部同士の接合処理を行う工程(ステップS24)の、4ステップの工程に短縮することができ、材料の削減と共に、製作時間を大幅に短縮することができ、製作コストを抑制することができる。なお、ワイヤ線20Aが、熱処理によって接着できるような樹脂が塗布される自己融着線などである場合には、熱処理工程(ステップS25)によってワイヤ線20を簡易的に固定することで、コイルの固定化を簡素化できる。
【0076】
具体的には、先ず、図19に示す予め略U字形に形成され且つ巻き回数ごとに径方向外方に変移量の異なるコイルエンド部17が形成された複数のワイヤ線20Aが、図20に示すように、ステータコア11のスロット16、例えば、各2つのV相スロット16v、W相スロット16wを挟んで配置される2組のU相スロット16uに絶縁部材12を介して挿入される。続いて、図20中矢印で示すようにワイヤ線20Aの一端側を周方向一方側に折り曲げるとともに、他端側を周方向他方側に折り曲げることにより、図21に示すように、同相となる隣り合うワイヤ線20Aの先端21同士が近接配置される。
【0077】
このとき、図5に示すように、ワイヤ線20Aはスロット16中の絶縁部材12の周方向隙間Tと略等しい幅を有するので、絶縁部材12により周方向に固定されている。また同時に、図22に示すように、予め成形されたコイルエンド部17が絶縁部材12と係合することにより軸方向にも固定される。即ち、ワイヤ線20Aを折り曲げることによりワイヤ線20Aには張力が付与され、ステータコア11に対して物理的に固定されることとなる。そして、同相となるワイヤ線20Aの先端21同士を接合して接合部23を形成することにより、U相コイル13uの第1ターン13u1が形成される。
【0078】
V相コイル13v、及びW相コイル13wも同様に巻回することで、V相コイル13vの第1ターン13v1、W相コイル13wの第1ターン13w1が形成される。同様にして、U相コイル13uの第2ターン13u2、V相コイル13vの第2ターン13v2、W相コイル13wの第2ターン13w2、U相コイル13uの第3ターン13u3、・・・・が、この順でステータコア11に巻回され、最終的に図1に示すように、ステータコア11にU相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wの3つのコイル13が、巻き回数単位で交互に配置される。
【0079】
このように形成されたモータの固定子10においても、ワイヤ線20Aを予め略U字形に形成する際に巻き回数ごとに径方向外方に変移量の異なるコイルエンド部17を形成しているため、第1ターンと第2ターンのコイルエンド部17の間に、他相のコイルエンド部17が挿入可能な隙間が形成される。また、各相のワイヤ線20Aは、張力が付与された状態で絶縁部材12内に配置されているので、ステータコア11、絶縁部材12、及び各相コイル13u、13v、13wが、ワイヤ線20の張力によって物理的に固定され、レーシング処理や、ワニス処理などを廃止または簡素化できる。
【0080】
図23は、断面形状が異なる複数の単線ワイヤがスロットに挿入された状態を示す断面図である。本実施形態によれば、図23に示すように、スロット16の周方向幅に合わせて、周方向に一様厚の絶縁部材12を用いて巻き回数ごとに幅が異なる複数のワイヤ線20A(単線ワイヤ)を用いてステータコア11に巻回することにより、スロット16とワイヤ線20Aとの隙間を最小限にすることができ、占積率Sを更に向上させることができる。
【0081】
尚、各ワイヤ線20Aは、モータ効率の低下を防止するため、各ターンの電気抵抗が一定となるように、断面形状が異なっても、導電線40の断面積は一定であることが望ましい。また、導電線40の断面形状は任意の形状とすることができるが、占積率Sを高めるためには、導電線40の断面形状を平角形状とするのがよい。
【0082】
上記したように、本実施形態によれば、断面形状が巻き回数ごとに異なるワイヤ線20Aを用いた固定子の製作が可能となる。また、断面形状が大きく曲げ剛性の高いワイヤ線に対して有効である。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係るモータの固定子10によれば、略U字形に成形された複数のワイヤ線20Aをスロット16に挿入し、ワイヤ線20Aの先端を折り曲げることによりワイヤ線20Aに張力を持たせて、ワイヤ線20Aが張力が付与された状態で絶縁部材12内に配置されるようにしたので、ステータコア11、絶縁部材12、及びコイル13を、それぞれ物理的に固定することができ、それにより、レーシング処理やワニス処理などを廃止または簡素化でき、製造工程を簡略化することが可能となり、モータの固定子10の製造コストが抑制される。
【0084】
また、コイル13は、略U字形に成形された複数のワイヤ線20Aをスロット16に挿入し、ワイヤ線20Aの先端21同士を接合して形成されるので、曲げ剛性の高い単線ワイヤからなるワイヤ線20Aを用いて、コイル13を容易に製作することができる。
【0085】
また、導電線40は、断面積一定且つ、巻回ごとに断面形状が異なるので、ワイヤ線20を、スロット16内隙間が最小隙間となるように整列させて配置することができ、占積率Sを高め、モータ効率を向上させることができる。
【0086】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、ワイヤ線が、波巻きにより分布巻きされるモータの固定子について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば、重ね巻きされるモータの固定子にも適用することができる。
また、上記実施形態では、4つのスロットを跨いで周方向に並ぶ2つずつの各スロットを同相コイル用のスロットとしてワイヤ線を巻回しているが、2つのスロットを跨いで1つずつの各スロットを同相コイル用のスロットとしてワイヤ線を巻回してもよく、他相用のスロットを跨いで周方向に並ぶ所定数の各スロットを同相コイル用のスロットとしてワイヤ線を巻回するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10 モータの固定子
11 ステータコア
12 絶縁部材(樹脂部材)
13 コイル
13u U相コイル
13v V相コイル
13w W相コイル
16 スロット
17 コイルエンド部
18 開口部
19 ステータコアの内周面
20,20A ワイヤ線(単線ワイヤ)
21 ワイヤ線の先端
23 接合部
40 導電線
41 絶縁被膜
41A 複合絶縁被膜
42 無機物粒子
43 樹脂
T 絶縁部材の周方向隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコアと、
前記複数のスロット内に配置される絶縁部材と、
ワイヤ線が前記複数のスロット内に前記絶縁部材を介して所定のスロット数を空けて分布巻きされて形成される複数相のコイルと、
を備えるモータの固定子であって、
前記ワイヤ線は、単線ワイヤからなり、張力が付与された状態で前記絶縁部材内に配置されることで、前記ステータコア、前記絶縁部材、及び前記コイルがそれぞれ物理的に固定されることを特徴とするモータの固定子。
【請求項2】
前記複数相のコイルのコイルエンド部は、各相の巻き回数単位で前記ステータコアに交互に配置されることを特徴とする請求項1に記載のモータの固定子。
【請求項3】
前記単線ワイヤは、110μm以上の絶縁被膜により被覆されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータの固定子。
【請求項4】
前記単線ワイヤは、無機物粒子が樹脂内に分散してなる複合絶縁被膜により被覆されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項5】
前記単線ワイヤは、無機質の絶縁被膜により被覆されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項6】
前記単線ワイヤは、断面略矩形の導電線と、前記導電線の外表面を覆う前記絶縁被膜を備えることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項7】
前記導電線は、断面積一定且つ、巻き回数ごとに断面形状が異なることを特徴とする請求項6に記載のモータの固定子。
【請求項8】
前記絶縁部材は、弾性を有する樹脂部材であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項9】
前記ワイヤ線の張力は、前記ワイヤ線の弾性許容応力以下、および/または前記絶縁部材の許容圧縮強度以下であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項10】
前記スロットは、開口部が前記ステータコアの内周面に開口することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項11】
前記スロット内に配置された前記コイルの占積率は、40%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項12】
前記複数相のコイルは、U相、V相、W相の3相のコイルからなり、 前記3相のコイルは、2相のコイルのコイルエンド部が径方向に並ぶように、前記ワイヤ線を前記複数のスロットに波巻きして形成されることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のモータの固定子。
【請求項13】
前記コイルは、略U字形に成形された複数のワイヤ線を前記スロットに挿入し、前記ワイヤ線の先端同士を接合して形成されることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載のモータの固定子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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