説明

モータ及び軸受の温度上昇抑制方法

【課題】簡易な構造で軸受(モータ軸受)の温度上昇を防止すること、またこれによって軸受の長寿命化を図ることができるモータ及び軸受の温度上昇抑制方法を提供する。
【解決手段】回転軸10と、回転軸10に固定された円筒形のロータ1と、ロータ1の外周面に対向するように配置されたステータ20と、回転軸1を回転自在に支持する軸受30A,30Bとを備えるモータAにおいて、ロータ1の端面2B,2Cの少なくとも一方に、回転軸1の外周に沿って円環状に窪み部2b,2cが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ及び軸受の温度上昇抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、回転機械としてのモータはステータをロータの周面に対向配置したものであり、上記ロータは軸受によって回転自在に支持されている。このようなモータにおける発熱はステータやロータで発生する鉄損及び銅損が主であるが、ステータやロータからの熱伝搬によって軸受が温度上昇すると、軸受内の潤滑油が揮発すること等によって軸受の寿命が低下する。
下記特許文献1には、このようなモータの冷却技術として、ロータを支持する軸受を囲むように軸受用冷却流路を形成し、この軸受用冷却流路に冷却水を流すことにより軸受を冷却する技術が開示されている。
【特許文献1】特許3320200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記軸受の冷却技術は、軸受用冷却流路を設ける必要があるので、モータが複雑化、大形化、高重量化あるいは/及び高コスト化するという問題がある。また、軸受用冷却流路を設けることによってモータが複雑化すると、モータの生産効率が悪くなるという問題がある。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構造で軸受(モータ軸受)の温度上昇を防止すること、またこれによって軸受の長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、モータに係る第一の解決手段として、回転軸と、該回転軸に固定された円筒形のロータと、該ロータの外周面に対向するように配置されたステータと、前記回転軸を回転自在に支持する軸受とを備えるモータにおいて、前記ロータの端面の少なくとも一方に、前記回転軸の外周に沿って円環状に窪み部が形成されている、という手段を採用する。
【0006】
また、モータに係る第二の解決手段として、上記第一の解決手段において、前記窪み部が、前記回転軸の軸方向に沿った断面において、角を有さない形状である、という手段を採用する。
【0007】
また、モータに係る第三の解決手段として、上記第一または第二の解決手段において、前記窪み部が、円周溝状に形成されている、という手段を採用する。
また、モータに係る第四の解決手段として、上記第三の解決手段において、前記窪み部が、前記回転軸の軸心を中心として同心円状に複数形成されている、という手段を採用する。
【0008】
また、軸受の温度上昇抑制方法に係る解決手段として、回転軸に固定された円筒形のロータを回転自在に支持する軸受の温度上昇抑制方法であって、二つの端面の少なくとも一方に、前記回転軸の外周に沿って円環状に窪み部が形成されたロータを用いる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転軸の外周に沿って円環状に窪み部が形成されているので、この窪み部分だけロータの体積が減少すると共に鉄損が減少する。これにより、ロータの温度が窪み部を設けない場合に比べて低温となると共に軸受の温度が低温度になり、また、モータ効率を向上させることができる。従って、簡易な構造で軸受の温度上昇を防止することができ、またこれによって軸受の長寿命化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るモータAの回転中心軸Pに沿った縦断面図、また図2は、当該縦断面図におけるII−II線断面図である。
モータAは、永久磁石型同期モータであり、ロータ1、回転軸10、ステータ20、一対の軸受30A,30B及びケーシング40から構成されている。
【0011】
ロータ1は、円筒状のロータコア2と8枚の永久磁石3(3N,3S)とによって構成されており、ロータコア2の中心軸上に設けられた貫通孔2aに回転軸10が圧入・固定されている。
【0012】
ロータコア2は、中空円盤形状の鋼鈑を複数枚積層した積層鋼板であり、端面2B、2Cにおいて回転軸10の外周に沿って円環状に窪み部2b,2cが形成されている。
【0013】
この窪み部2b,2cは、モータAにおいて最も特徴とする構成要素である。この窪み部2b,2cの詳細について説明すると、窪み部2b,2cは、図3に示すように構成されている。
窪み部2b,2cは、それぞれ端面2B,2Cにおいて、回転軸10の外周に沿って円周溝状に形成されたものである。この窪み部2b,2cは、鋼板を積層させた後に切削加工で溝入れすることにより、形成されたものである。
【0014】
これら窪み部2b,2cは、回転軸10の回転中心軸Pの方向に沿った断面において、角を有さない形状となっている。具体的には、この窪み部2b,2cの断面形状を略U字状に形成し、窪み部2b,2cを形成する面が曲部を介して連なった形状となっている。
【0015】
図1及び図2に戻って、永久磁石3(3N,3S)は、円弧状に形成されており、外周側にN極の極性を持つ永久磁石3NとS極の極性を持つ永久磁石3Sとがそれぞれ4枚ずつ、ロータコア2の周面に貼設されている。具体的には、ロータコア2の中心軸方向に同極性のものが2枚(図1参照)、またロータコア2の周方向に永久磁石3Nと永久磁石3Sとが交互に並ぶように4枚(図2参照)、つまり合計8枚が貼設されている。
このような構成により、ロータ1は、4つの磁極を備えている。
【0016】
回転軸10は、円柱状部材であって、複数の径を有して多段状に形成されたものである。この回転軸10の最大径を有する部位にロータコア2が固定されており、この最大径を有する部位を挟むように両側に軸受30A,30Bが圧入・固定されている。
【0017】
ステータ20は、略円筒形状のステータコア21と該ステータコア21に巻回された巻き線22とから構成されている。
ステータコア21は、複数の金属製のコアプレートが積層されて構成されており、円環状に形成されてヨーク21aから内周側に突設されたティース21bを等角度間隔に24個備えている。このティース21bの先端部は、全体として略円管状の内周面20aを形成している。
【0018】
巻き線22は、ティース21bに複数巻き回されており、モールド剤23がティース21bに対する巻き線22の位置を固定している。
【0019】
このような構成により、ステータ20は、24極の磁極を備えており、内周面20aが所定の隙間を介してロータ1の外周面(永久磁石3)に対向する。
【0020】
軸受30A,30Bは、ボールベアリングであり、内輪が回転軸10に固定され、外輪がケーシング40に固定されて、回転軸10を回転自在に支持している。
【0021】
ケーシング40は、回転中心軸Pを中心とする略円筒状に形成されており、内部空間にステータ20と軸受30A,30Bによって回転中心軸Pが回転中心となるように回転自在に支持されたロータ1とを収容する。
【0022】
具体的には、ケーシング40は、回転中心軸Pを軸心とする円筒壁部40a、この円筒壁部40aの両端に配置され、回転中心軸Pを中心とする略円形の端壁部40b、40c、端壁部40b、40cの中心近傍に各々設けられ、軸受30A,30Bが各々固定される軸受取付部40d,40e及び回転軸10の各端部が挿通される開口部40f,40gを備えている。そして、円筒壁部40aと各端壁部40b、40cによって囲まれた空間に略円筒状のステータ20を、またこのステータ20の内側かつ軸受取付部40d,40eの間にロータ1を収容する。また、上記軸受取付部40d,40eは、軸受30A,30Bの外輪が固定されている。
このようなケーシング40において、円筒壁部40a内には、外部から供給される冷却水の流路(冷却流路40h)がステータ20の外周に沿って形成されている。
【0023】
次に、上記の構成を備えるモータAの作用について説明する。
巻き線22に通電すると複数の巻き線22、ステータコア21、永久磁石3によって磁気回路が形成され、巻き線22への通電を切り替えることでロータ1が回転する。
【0024】
この際、巻き線22に銅損が生じると共にステータコア21に鉄損が生じることにより、巻き線22とステータコア21が発熱してステータ20の温度が上昇する。また、ロータ1に鉄損が生じることにより、ロータコア2が発熱してロータ1の温度が上昇する。
【0025】
ロータ1に発生した熱は、ロータ1の外周面から空気を介してステータ20に伝熱するか、回転軸10又は空気を介して端面2B,2Cから軸受30A,30Bに伝熱する。なお、ステータ20は、冷却流路40hによって冷却され、回転軸10はほとんど発熱しないので、ロータ1がステータ20と回転軸10とに比べて高温となっている。
【0026】
図4は、モータAと窪み部2b,2cを設けずに他の構成要素をモータAと同様とした溝なしモータとを比較したグラフであって、図4(a)は、稼働から所定時間が経過した各軸受30A,30Bの温度をそれぞれ比較したグラフであり、図4(b)は、モータ効率を比較したグラフである。
【0027】
軸受30A及び軸受30Bのいずれの場合であっても、図4(a)に示すように、窪み部2b,2cを設けずに構成した溝なしモータの軸受の温度に比べてモータAの軸受30A,30Bの温度が低い値を示しており、図4(b)に示すように、溝なしモータのモータ効率に比べてモータAのモータ効率が数パーセントだけ高い値を示している。
【0028】
図4(a)と図4(b)とに示される結果を総合的に解釈すると、窪み部2b,2cを設けることでロータコア2の体積が減少し、この減少分だけ鉄損が減少したものと考えることができる。そして、この鉄損減少により上記溝なしモータよりもモータAのロータ1の温度が低くなるので、軸受30A,30Bの温度が減少すると共にモータ効率が上昇したと考えることができる。
【0029】
このような本実施形態によれば、回転軸10の外周に沿って円環状に窪み部2b,2cが形成されているので、この窪み部分だけロータコア2の体積が減少すると共に鉄損が減少する。これにより、ロータ1の温度が窪み部2b,2cを設けない場合に比べて低温となって軸受30A,30Bの温度が低温度になると共にモータ効率を向上させることができる。従って、簡易な構造で軸受30A,30Bの温度上昇を防止することができ、またこれによって軸受30A,30Bの長寿命化を図ることが可能となる。
【0030】
さらに、窪み部2b,2cを円周溝状に形成すると共に回転中心軸Pの方向に沿った断面において、角を有さない形状となっているので、磁束密度が局所的に高くになることがない。これにより、モータAの稼働が不安定になったり、磁場が変化して性能が低下したりすることがない。
【0031】
なお、上述したように、窪み部2b,2cを設けることにより、鉄損が減少すると推測したが、窪み部2b,2cが熱抵抗的に作用し、ロータ1で発生した熱が軸受30A,30Bまで伝達し難くなると推測することもできる。
すなわち、端面2B,2C近傍において、ステータ20側から回動軸10を介して熱伝導により軸受30A,30Bに伝熱する熱は、窪み部2b,2cが形成されることにより回転軸10までの到達距離が増加するので、この増加した距離だけケーシング40の内部空間に放熱され易くなり、軸受30A,30Bへの伝熱量が減少したと考えることができる。
また、窪み部2b,2c近傍から内部空間を介して熱放射により軸受30A,30Bに伝熱する熱は、窪み部2b,2cの分だけ軸受30A,30Bまでの到達距離が長くなるので、この長くなった距離だけ電磁波が軸受30A,30Bに到達し難いものとなり、伝熱量が減少したと考えることができる。
また、上記の要因が重畳的に作用して軸受30A,30Bの温度が低下したと考えることもできる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下の変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、窪み部2b,2cを円周溝状に形成したが、これは窪み部2b,2cの熱抵抗的な作用があること等を考慮してなされたものであり、必ずしも円周溝状に窪み部を形成する必要はない。
例えば、図5(a)に示す変形例1のように、複数の小孔状の窪み部2eが回転軸10の外周に沿って円環状に形成してもよい。また、図5(b)に示す変形例2のように、窪み部2b,2cの外方に、回転軸10の回転中心軸P(軸心)を中心として同心円状に窪み部2fを形成してもよい。
さらに、ロータ1の端面2B,2Cに散在的に複数の窪み部を設けてもよいし、長孔状の窪み部を複数形成してこれを円環状に配置してもよい。なお、一方の端面2B,2Cにだけ窪み部を設ける構成にしても上述した効果が得られることは言うまでもない。
【0033】
(2)上記実施形態では、窪み部2b,2cが回転中心軸Pの方向に沿った断面において、角を有さない形状に構成したが、これは角に磁束密度が集中してモータAの稼働についての不安定要素を排除するためであり、必ずしも必須の処理ではない。
(3)上記実施形態では、永久磁石型同期モータに本発明を適用して説明したが、他のインナーロータ型のモータに対しても適用することが可能である。

(4)上記実施形態では、ロータ1と回転軸10とを分離することができる構成としたが、例えば、切削加工によりこれらロータ1と回転軸10とを一体的に形成してもよい。同様に、ロータコア2は、積層に構成しなくてもよく一体的に構成してもよい。
【0034】
(5)上記実施形態では、窪み部2b,2cは中空のままの構成としたが、窪み部2b,2cに断熱材をつめて、これを接着剤によって固定させてもよい。
(6)上記実施形態では、切削加工により端面2B,2Cに溝入れをすることで窪み部2b,2cを形成したが、例えば積層することで窪み部が形成される鋼鈑を用いて窪み部2b,2cを構成してもよい。
【0035】
(7)また、各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。例えば、磁極の数やケーシングの形状を適宜変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータAの概略構成図を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態において、図1におけるII−II断面図である。
【図3】本発明の一実施形態において、ロータ1の端面2B,2Cを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るモータAと溝なしモータとを比較したグラフであって、図4(a)は、軸受30A,30Bの温度を比較したグラフであり、図4(b)は、モータ効率を比較したグラフである。
【図5】本発明の一実施形態において、モータAの変形例を示した図であって、図5(a)は、変形例1を示す図であり、図5(b)は、変形例2を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ロータ
2B,2C…端面
2b,2c…窪み部
10…回転軸
20…ステータ
30A,30B…軸受
A…モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸に固定された円筒形のロータと、該ロータの外周面に対向するように配置されたステータと、前記回転軸を回転自在に支持する軸受とを備えるモータにおいて、
前記ロータの端面の少なくとも一方に、前記回転軸の外周に沿って円環状に窪み部が形成されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記窪み部は、前記回転軸の軸方向に沿った断面において、角を有さない形状であることを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
前記窪み部は、円周溝状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のモータ。
【請求項4】
前記窪み部は、前記回転軸の軸心を中心として同心円状に複数形成されていることを特徴とする請求項3記載のモータ。
【請求項5】
回転軸に固定された円筒形のロータを回転自在に支持する軸受の温度上昇抑制方法であって、
二つの端面の少なくとも一方に、前記回転軸の外周に沿って円環状に窪み部が形成されたロータを用いることを特徴とする軸受の温度上昇抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−239999(P2009−239999A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79715(P2008−79715)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】