説明

モールドパウダー

【課題】 小断面サイズの丸鋳片においても、ブレークアウト等の操業トラブルが発生せず、表面欠陥のない健全な品質の鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造に用いるモールドパウダーを提供すること。
【解決手段】 鋳型断面形状が円形の丸鋳片を得るための鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーは、1573Kにおける粘度が0.8Pa・S以上(ただし、0.8〜1.0Pa・Sは除く)であり、CaO/SiO(重量比)で表される塩基度が0.3〜1.5であり、結晶化温度が1273K以上であり、Fの含有量が2.0重量%超、5.0重量%以下、Naの含有量がNaO換算で4.0重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に用いるモールドパウダーに関し、特に鋳型断面形状が円形の丸鋳片の連続鋳造に適したモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、主に、(1)鋳型内の溶鋼表面の被覆保温および酸化防止、(2)溶鋼中より浮上する非金属介在物吸収および溶鋼の清浄化、ならびに(3)鋳型/初期凝固シェル間の潤滑性保持および冷却均一化の目的で、粉末状あるいは顆粒状のモールドパウダーを鋳型内の溶鋼湯面に添加する。
【0003】
一般に、モールドパウダーは、主にCaO−SiO−AlにFe、MgO等を加えた酸化物を基材とし、これに粘度、凝固温度、塩基度等の物性を調整する目的で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物、炭酸塩または弗化物の形態で適量含み、また溶融調整目的でCを適量含有した組成を有している。
【0004】
溶鋼表面に添加されたモールドパウダーは溶融してスラグ状になり、鋳型と凝固シェル間に均一に流入して潤滑作用を及ぼすことで、安定した連続鋳造を行うことができる。
【0005】
一方、継目無鋼管、あるいは条鋼製造用のビレット、ブルームと呼ばれる鋳造半製品を製造するために、鋳型断面形状が円形の丸鋳片鋳造技術が開発され実施されている。
【0006】
このような丸鋳片鋳造技術は、従来のスラブ等の矩形断面形状の鋳型を用いた連続鋳造に比較して、より最終製品に近い形状(ニアネットシェイプ)に直接鋳造することができるので、分塊工程等を省略することができ、省工程・省コストの面で有利である。
【0007】
矩形断面形状の連続鋳造については、従来、例えば特許文献1、特許文献2において、疵発生率および割れ感受性の高い高マンガン鋼、中炭素鋼等で、ブレークアウト等の操業トラブルのない安定した鋳造を行うために、モールドパウダーの物性を高塩基度化、高凝固温度化し鋳片の緩冷却化を図ることが提案されている。
【0008】
しかしながら、鋳型断面が円形の連続鋳造においては、高塩基度化によりモールドパウダーが凝固した後の性状が結晶質になりやすいため、凝固時の収縮が大きくなり、メニスカス直下の抜熱が不均一となって、凝固シェルの局所的なディプレッション(凹み)、縦割れやそれに伴うブレークアウト等の問題が生じる。
【0009】
また、高凝固温度化により、鋳型縁部にスラグベアと呼ばれる溶融パウダーの凝固物が発生しやすくなるが、円形断面鋳型では矩形断面鋳型に比較してその鋳型の形状から安定に形成されやすく、スラグベアの肥大化により鋳型と凝固シェル間の溶融パウダーの流入路が塞がれ、不均一流入となりやすい。
【0010】
一般に円形断面鋳型では矩形断面鋳型に比較して小断面であるため、スラグベアが成長した場合、その断面比率が大きく、溶融パウダーの不均一流入をより助長し、結果として不均一冷却による操業不安定を助長してしまう。
【0011】
このように、円形断面鋳型を用いた連続鋳造において、溶鋼の緩冷却化に対し、高塩基度化、高凝固温度化は逆効果になる場合がある。
【0012】
これらの問題を解決するために、特許文献3では、以下に示す(1)式で定義された塩基度を最大でも0.9に抑え、また融点は1423K以上であるが実用的には1573Kに抑える一方、粘度をスラブ連続鋳造に比べ、高め(0.3〜0.7Pa・Sに設定したモールドパウダーが提案されている。
〔CaO(mass%)+0.718×CaF(mass%)〕/SiO(mass%)…(1)
【0013】
このパウダーの粘度を高めにすることで、溶鋼湯面からの溶融パウダーの巻き込みを抑制し、かつ溶融パウダーの鋳型/凝固シェル間への流入をより安定化させることができる。さらに、スラグベアの生成を抑制するために、Na、Fの含有量を抑えている。そして、このモールドパウダーを用いて、直径225mmの円形断面鋳型で鋳造速度2.0m/minの条件下で低炭素鋼の連続鋳造テストを行った結果、適正なパウダー消費量を保持しつつ、縦割れ等の鋳片表面欠陥の発生率を低減し、ブレークアウトを防止することができたとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−193248号公報
【特許文献2】特開平4−224063号公報
【特許文献3】特開平8−25008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、鋳型の断面サイズが小さい場合には、溶鋼の湯面変動が大きくなる傾向にある。図1は各サイズ毎の平均湯面変動を示したものであるが、直径210mm以下で急激に湯面変動が大きくなる。その結果、溶融パウダーの鋳型/初期凝固シェル間のスラグフィルムが破断され、パウダーの不均一流入とそれに伴う初期凝固不安定性の助長によるディプレッション、縦割れ等の鋳片表面欠陥、ブレークアウト等の操業トラブルの発生確率の増加を引き起こす。
【0016】
一方、直径300mm以上の比較的大断面の丸鋳片連続鋳造においても、より安定した操業を実現することにより、鋳造速度を高速度化し生産効率を向上させるニーズが存在する。
【0017】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、小断面サイズの丸鋳片においても、ブレークアウト等の操業トラブルが発生せず、表面欠陥のない健全な品質の鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造に用いるモールドパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、モールドパウダーの溶融状態での粘度、塩基度、結晶化温度を適切に調整することにより、小断面の丸鋳片の連続鋳造においてもブレークアウト等の操業トラブルが発生せず、表面欠陥のない健全な品質の鋳片を得ることができることを見出した。
【0019】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、鋳型断面形状が円形の丸鋳片を得るための鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、1573Kにおける粘度が0.8Pa・S以上(ただし、0.8〜1.0Pa・Sは除く)であり、CaO/SiO(重量比)で表される塩基度が0.3〜1.5であり、結晶化温度が1273K以上であり、Fの含有量が2.0重量%超、5.0重量%以下、Naの含有量がNaO換算で4.0重量%以下であることを特徴とするモールドパウダーを提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モールドパウダーの性状を適切に調整することにより、小断面サイズの丸鋳片の連続鋳造においても、ブレークアウト等の操業トラブルが発生せず安定した連続鋳造が可能となり、表面欠陥のない健全な品質の鋳片を得ることができる。また、このような効果をパウダー低消費量で実現することができ経済的であり、さらに鋳造速度の高速化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】円形断面鋳型の鋳型サイズと湯面変動指数との関係を示すグラフ。
【図2】ラボテストにおける溶融パウダーのスラグ切断荷重指数と1573Kにおける溶融パウダーの粘度との関係を示すグラフ。
【図3】実施例1の連続鋳造テストにおける表面欠陥およびブレークアウトの発生頻度を示すグラフ。
【図4】実施例1の連続鋳造テストにおけるモールドパウダーの消費量についての結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明では、鋼の連続鋳造を行うにあたり、モールドパウダーを、
(1)1573Kにおける粘度が0.8Pa・S以上
(2)CaO/SiO(重量比)で表される塩基度が0.3〜1.5
(3)結晶化温度が1273K以上
とする。
【0023】
このように本発明の要件を規定した根拠について以下に説明する。
図2は、ラボテストにおける溶融パウダーのスラグ切断荷重指数と、1573Kにおける溶融パウダーの粘度との関係を示すグラフである。図2においてスラグ切断荷重指数とは、溶融パウダーのプールに浸漬したテストピースを引き上げる際に生じる荷重抵抗をロードセルで測定し無次元化した指標である。
【0024】
図2から明らかなように、溶融パウダーの粘度を上げることでスラグ切断荷重が増加する。このことから、モールドパウダーを高粘度化することで、溶融パウダーが鋳型/凝固シェル間に流入して形成されるスラグフィルムが、急激な湯面変動によっても破断しにくくなり、パウダー流入はより均一化することが把握される。また、同様に大きな湯面変動により引き起こされる溶融パウダーの溶鋼湯面からの巻込みも、モールドパウダーの一層の高粘度化により抑制することができる。
【0025】
一方、高粘度化により、パウダー消費量は低減かつ安定化し、低消費量での溶融パウダーの均一流入が確保され、抜熱変動、およびそれに伴う初期凝固不安定化によるディプレッション、縦割れ等の表面欠陥の発生、ブレークアウト等の操業トラブルも抑制される。
【0026】
このように溶融パウダーの粘度を上げることにより、連続鋳造操業が安定化し、高鋳造速度での操業も可能になる。このような効果を有効に発揮させるために、本発明では1573Kにおける粘度を0.8Pa・S以上と規定している。
【0027】
また、CaO/SiOの式で表されるモールドパウダーの塩基度を適正に調整することで、鋳型と凝固シェル間の溶融パウダーのスラグフィルムを適正化し、凝固時の収縮を小さくし、鋳型と凝固シェルとの間のエアギャップの生成を適度に抑制し、冷却化を均一化することができる。前述したように、高塩基度化は鋳片の緩冷却化に効果があるが、円形断面鋳型の連続鋳造では、抜熱が不均一化し、初期凝固不安定性を増大させる。一方、塩基度が低いほど溶融パウダーが凝固した後の性状がガラス質になりやすいので、緩冷却効果はなくなる。また、塩基度が0.3未満では結晶化温度を1273K以上とすることが難しい。これらの点を考慮すると、円形断面鋳型を使用する場合の塩基度CaO/SiO(重量比)の適正範囲は0.3〜1.5であり、したがって本発明ではモールドパウダーの塩基度CaO/SiO(重量比)を0.3〜1.5の範囲としている。丸鋳片の連続鋳造を考慮すると、塩基度が0.5以上であることがより好ましい。
【0028】
モールドパウダーの結晶化温度は鋳型と凝固シェル間の抜熱に影響を及ぼす。この結晶化温度が1273K未満の場合には、強冷却指向が強くなり、鋳型と凝固シェル間の抜熱が大きくなりすぎ、鋳片の縦割れ等の欠陥が発生する確率が高くなる。そのため、本発明ではモールドパウダーの結晶化温度を1273K以上と規定している。
【0029】
上記要件を満たせば、丸鋳片の連続鋳造に適したものとなるが、さらに前記モールドパウダーのNaの含有量をNaO換算で4.0重量%以下、Fの含有量を5.0重量%以下とすることが好ましい。このようにNa、Fを低減することにより、スラグベアの生成を抑制し、溶融パウダーの鋳型/凝固シェル間の流入路を安定に確保し、スラグフィルムの均一流入を実現する。さらに、浸漬ノズル等の耐火物の溶損を抑制し、連々鋳時間を従来より延長することができる。なお、浸漬ノズルと鋳型との間の狭い小断面鋳型条件下では、湯面変動が大きくなりやすく、浸漬ノズルからの受熱も大きく、スラグベアの成長を助長するため、さらにNaをNaO換算で3.0重量%以下にすることが好ましい。また、Fは抑制すべき元素ではあるが、結晶化温度を1273K以上とする観点からは、2重量%を超えて含有することが好ましく、さらには3重量%を超えて含有することが好ましい。
【0030】
なお、本発明におけるモールドパウダーは、上記要件を満たす限り、その組成は限定されず、CaO−SiO−Alに、Fe、MgO等を加えた酸化物を基材とし、これに粘度、凝固温度、塩基度等の物性を調整する目的で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物、炭酸塩または弗化物の形態で適量含み、また溶融調整目的でCを適量含有した一般的な組成のものを用いることができる。また、その他の連続鋳造の操業条件も特に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
表1に示すA〜EのうちA〜Dのモールドパウダーを用い、直径170〜210mmの円形断面鋳型を用いて中炭〜中高炭範囲の炭素鋼(組成は表2に示す)で、丸鋳片連続鋳造テストを実施した。このテストには曲げ型連続鋳造機(多点矯正)使用し、鋳造速度は1.4〜2.0m/minとした。このテストの結果を図3および図4に示す。なお、表1中、パウダーA〜Cは本発明の要件から外れる従来例であり、D,Eは本発明の範囲を満たす本発明例である。なお、結晶化温度は粘度が高くなると検知し難くなる傾向にあり、粘度の高いパウダーEは一般的な方法では結晶化温度を測定することは困難であるが、ここでは、白金ルツボ中でパウダースラグを完全に溶融させた後、1273Kまで炉冷し、30分間保持した後、水冷凝固させ、その水砕品をX線回折分析し、結晶の有無を確認した。すなわち、結晶のピークを検出することができれば結晶化温度が少なくとも1273Kであることを確認することができる。この方法に基づいて結晶化温度を求めた結果、パウダーEの結晶化度は1273K以上であった。
【0032】
図3に本テストにおける表面欠陥およびブレークアウトの発生頻度を示す。この図から明らかなように、従来例のモールドパウダーA〜Cを用いた場合には、はディプレッション、縦割れ等の表面欠陥およびブレークアウトのいずれかまたは両方が発生したが、本発明例のモールドパウダーDを用いた場合には、表面欠陥は皆無で、ブレークアウトの発生もなく、安定した操業を達成することができた。
【0033】
図4に直径170〜210mmの円形断面鋳型を用いた連続鋳造における各モールドパウダーの平均消費量についての結果を示す。この図から明らかなように、本発明例のモールドパウダーDは、従来例のモールドパウダーA〜Cに比べて消費量が低減し、低消費量でも安定鋳造が確保されていることがわかる。
【0034】
また、従来例のうちモールドパウダーAは中高炭レベルの炭素鋼用強冷却指向のパウダーであり、モールドパウダーB,Cは中炭用緩冷却指向のパウダーであり、従来は鋳造される鋼の炭素含有レベルに応じて使い分けていたが、本発明例のモールドパウダーDはどちらの鋼種でも安定して適用することができた。したがって、本発明のモールドパウダーを用いることによりパウダー銘柄の統合が期待できる。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同じ連続鋳造機を用い、表1に示すモールドパウダーD,Eを用いて、中炭〜中高炭範囲の炭素鋼における高速連続鋳造テストを実施した。鋳型サイズは直径170〜330φとした。
【0036】
表3に各サイズ毎の鋳造速度、ならびに表面欠陥およびブレークアウトの発生率を示す。なお、鋳造速度は各サイズにおける従来の鋳造速度を100%として%表示している。この表に示すように、鋳造速度が従来に比べて15〜25%程度高速化しているのにも関わらず、表面欠陥、ブレークアウト等の操業トラブルは皆無であり、高速鋳造下でも安定操業が実現できることが確認された。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型断面形状が円形の丸鋳片を得るための鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、
1573Kにおける粘度が0.8Pa・S以上(ただし、0.8〜1.0Pa・Sは除く)であり、
CaO/SiO(重量比)で表される塩基度が0.3〜1.5であり、
結晶化温度が1273K以上であり、
Fの含有量が2.0重量%超、5.0重量%以下、Naの含有量がNaO換算で4.0重量%以下であることを特徴とするモールドパウダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115714(P2010−115714A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48587(P2010−48587)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2000−53739(P2000−53739)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】