説明

モールドモータ

【課題】電食の対策としてはセラミック製の軸受や、導電性グリスを使用した軸受を採用する必要があるが、コストが上昇する、あるいは信頼性に欠けるなどの問題がある。
【解決手段】本発明のモールドモータは、固定子鉄心に固定子巻線を巻装した固定子と、中央を貫通するシャフトと、シャフトと一体で形成され、固定子の内周側で回転自在に配置された回転子と、シャフトを支持する軸受と、軸受を固定するブラケット完成品と、を備える。固定子はモールド樹脂でモールドされている。ブラケット完成品は、軸受を保持する軸受ハウジング部と、モールド樹脂を介して固定子巻線と対向し、ブラケット完成品をモールド樹脂に圧入する導電性のブラケットを有する。軸受とブラケットが樹脂により絶縁されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドモータのブラケット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型空調機器などの電気機器等に搭載されるモールドモータのブラケットは、鋼板のプレス加工品にて軸受保持部を形成し、モールドされた固定子側に、例えば圧入により固定される構造となっている。(例えば特許文献1参照)
図3は、従来のモールドモータの構造断面図である。図3に示すように、ブラケット35は鋼板をプレス加工して形成された軸受保持部を有する。従来のモールドモータ300は、樹脂にて絶縁された固定子鉄心31に固定子巻線32を巻装した固定子33をモールド樹脂34にてモールドした固定子完成品にブラケット35を圧入固定する構造となっている。また、回転子39は、シャフト30と一体で形成され、固定子33の内周側で回転自在に配置されている。シャフト30は、軸受A36及び軸受B37にて支持されており、軸受A36及び軸受B37はそれぞれブラケット35の軸受保持部及び軸受ハウジング38により固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−154260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構造のモールドモータ300の構造について図3に基づいて説明する。図3に示すようにモールドモータ300のブラケット35は、固定子巻線32とモールド樹脂34を介し近接している。このため、固定子巻線32からモータを駆動する電位がブラケット35に誘起され、ブラケット35とシャフト30との間に電位が発生する。そして、その電位により軸受A36内に電流が流れ、電食が発生する。
【0005】
電食の対策としてはセラミック製の軸受や、導電性グリスを使用した軸受を採用する必要があるが、コストが上昇する、あるいは信頼性に欠けるなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモールドモータは、固定子鉄心に固定子固定子巻線を巻装した固定子と、中央を貫通するシャフトと、シャフトと一体で形成され、固定子の内周側で回転自在に配置された回転子と、シャフトを支持する軸受と、軸受を固定するブラケット完成品と、を備える。固定子はモールド樹脂でモールドされている。ブラケット完成品は、軸受を保持する軸受ハウジング部と、モールド樹脂を介して固定子巻線と対向し、ブラケット完成品をモールド樹脂に圧入する導電性のブラケットを有する。軸受とブラケットが樹脂により絶縁されている。
【発明の効果】
【0007】
このような構成により、ブラケットとシャフトとの間に電位が発生しても、その電位により軸受内に電流が流れることがなく、電食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の実施の形態1におけるモールドモータの構造断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態2におけるモールドモータの構造断面図である。
【図3】図3は従来のモールドモータの構造断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1におけるモールドモータのブラケット完成品の構造について図1に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるモールドモータの構造断面図である。
【0011】
図1に示すように、モールドモータ100は、固定子13と、中央を貫通するシャフト20と、回転子19と、シャフト20を支持する軸受A16、軸受B17と、軸受A16を固定するブラケット完成品15と、を備えている。また、軸受B17は軸受ハウジング18により固定されている。固定子13は、樹脂にて絶縁された固定子鉄心11に固定子巻線12を巻装して構成されている。回転子19は、シャフト20と一体で形成され、固定子13の内周側で回転自在に配置されている。固定子13をモールド樹脂14によりモールドして固定子完成品を構成している。
【0012】
ブラケット完成品15は、鋼板(金属)にて形成された導電性のブラケット15aと樹脂で形成された軸受ハウジング部15bとから構成されている。ブラケット完成品15は、ブラケット15aをモールド樹脂14に圧入することにより固定子完成品に圧入固定されている。このような構成により、軸受A16とブラケット15aが軸受ハウジング部15bを形成する樹脂により絶縁される。軸受ハウジング部15bを形成する樹脂の材質としては、強度面から不飽和ポリエステル樹脂が望ましい。
【0013】
また、軸受ハウジング部15bを形成する樹脂の比誘電率は3〜5が望ましい。樹脂の比誘電率を3〜5にすると、絶縁性を確保できる。樹脂の比誘電率が5よりも大きいと抵抗成分が現れることが多く、絶縁性を確保することが難しい。このような構成により、固定子巻線12からモータを駆動する電位がブラケット15aに誘起されるが、軸受ハウジング部15bにより絶縁される。このため、ブラケット15aとシャフト20との間に電位が発生しても、その電位により軸受A16内に電流が流れることがなく、電食を防止することができる。
【0014】
更に、モールドモータ100の内部は数十pFから数百pFの浮遊容量が存在しており、また軸受A16も数pFから100pF程度の浮遊容量を有している。例えば、軸受A16の浮遊容量が100pF、樹脂にて形成された軸受ハウジング部15bの絶縁部の浮遊容量が10pFとする。軸受A16と絶縁部が直列と考えると、絶縁部が無い場合の軸受A16にかかる電圧の大きさを100とすると、絶縁部を設けることでこの電圧の大きさが約10となる。これにより、軸受A16にかかる電圧を更に低減することができ、電食を防止することができる。従って、軸受ハウジング部15bの絶縁部の浮遊容量、すなわち軸受A16とブラケット15aとの間の静電容量を10pF以下とすることが望ましい。なお、軸受ハウジング18も、上記同様に樹脂にて形成されている。
【0015】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2におけるモールドモータについて図2に基づいて説明する。図2は、本発明の実施の形態2におけるモールドモータの構造断面図である。なお、実施の形態1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0016】
本実施の形態におけるモールドモータ200のブラケット完成品25は、鋼板(金属)
にて形成されたブラケット25aと、鋼鈑(金属)にて形成された導電性の軸受ハウジング部25bと、ブラケット25aおよび軸受ハウジング部25bとを接続保持する樹脂にて形成された接続保持部25cを備える。ブラケット完成品25は、ブラケット25aをモールド樹脂14に圧入することにより固定子完成品に圧入固定されている。このような構成により、軸受A16とブラケット25aが接続保持部25cを形成する樹脂により絶縁される。
【0017】
また、接続保持部25cを形成する樹脂の比誘電率は、実施の形態1と同様の理由で3〜5が望ましい。このような構成により、固定子巻線12からモータを駆動する電位がブラケット25aに誘起されるが、樹脂にて形成された接続保持部25cにより絶縁される。このため、ブラケット25aとシャフト20との間に電位が発生しても、その電位により軸受A16内に電流が流れることがなく、電食を防止することができる。また、軸受ハウジング部25bが鋼鈑にて形成されているので、熱による変形を防止し、より強固に軸受A16を固定することができる。
【0018】
更に、実施の形態1と同様の理由で樹脂にて形成された接続保持部25cの絶縁部の浮遊容量、すなわち軸受A16とブラケット25aとの間の静電容量を10pF以下とすることが望ましい。これにより、軸受A16にかかる電圧を更に低減することができ、電食を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上のように、本発明にかかるモールドモータは、小型空調機器などの電気機器等に搭載するモータ等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0020】
11 固定子鉄心
12 固定子巻線
13 固定子
14 モールド樹脂
15 ブラケット完成品
15a ブラケット
15b 軸受ハウジング部
16 軸受A
17 軸受B
18 軸受ハウジング
19 回転子
20 シャフト
25 ブラケット完成品
25a ブラケット
25b 軸受ハウジング部
25c 接続保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に固定子巻線を巻装した固定子と、
中央を貫通するシャフトと、
前記シャフトと一体で形成され、前記固定子の内周側で回転自在に配置された回転子と、前記シャフトを支持する軸受と、
前記軸受を固定するブラケット完成品と、を備え、
前記固定子はモールド樹脂でモールドされており、
前記ブラケット完成品は前記軸受を保持する軸受ハウジング部と前記モールド樹脂を介して前記固定子巻線と対向し、前記ブラケット完成品を前記モールド樹脂に圧入する導電性のブラケットを有し、
前記軸受と前記ブラケットが樹脂により絶縁されたモールドモータ。
【請求項2】
前記軸受ハウジング部が樹脂にて形成された請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項3】
前記ブラケット完成品は、前記軸受ハウジング部と前記ブラケットとを接続保持する接続保持部をさらに有し、前記軸受ハウジング部が金属にて形成され、かつ前記接続保持部が樹脂にて形成された請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項4】
前記樹脂の比誘電率が3〜5である請求項1〜3のいずれか1項に記載のモールドモータ。
【請求項5】
前記樹脂により絶縁された前記軸受と前記ブラケットとの間の静電容量が、10p以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のモールドモータ。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のモールドモータを備えた電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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