説明

ヤング率またはポアソン比の測定方法

【課題】 ひずみゲージや伸び計を用いることなく、非接触で、また、周囲温度に関係なく、ヤング率等を測定する方法を提供する。
【解決手段】 変形前画像に解析領域を設定し、変形前画像の基準画像領域部B(b)と変形後画像の比較画像領域部A(a)とにおける画素同士の画像情報の相関量から、ピクセル単位での変位量(m,m)を求め、さらに隣接画素の画像情報の相関量に基づいて最小二乗曲面を作成し、最小二乗曲面から求めた極値に基づいてピクセル単位以下のサブピクセルオーダーで変位量(Δx,Δy)を求め、解析領域内の各画素についてこれら処理を繰り返すことにより、解析領域内の各画素について全変位量(m+Δx,m+Δy)を求め、解析領域内の各画素の全変位量を用いた最小二乗近似によりヤング率又はポアソン比を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物のヤング率又はポアソン比の測定方法に関し、さらに詳細には被測定物を撮影した画像情報(輝度情報等)に基づいてヤング率またはポアソン比を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヤング率やポアソン比(以下ヤング率等ともいう)は試験片に応力(σ)を与え、そのとき生じるひずみ(ε)を測定することにより求める。その場合に、ひずみゲージを貼って測定するか、あるいは試験片の軸方向に沿ってマークした2標点間の距離の変化を伸び計等で測定し、応力-歪み曲線を作成する。そして応力-ひずみ曲線の直線関係の勾配(Δσ/Δε)からヤング率を求めるようにしている。
【0003】
一方、構造物のような物体の応力測定を行う際に、ひずみゲージを貼り付けた特定の位置だけ測定するのではなく、物体を全視野的に検出する方法として、カメラ装置で物体に荷重が載荷される前後の画像を撮影し、物体の変位量を撮影画像同士の相関関係から求める方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、特許文献1のようなカメラ装置で撮影した画像の相関関係から変位量を求める際に、測定精度を上げるために、撮影画像同士の相関関係について最小二乗近似を行うことにより、1画素分以下のいわゆるサブピクセルオーダーの変位量を計測する方法が開示されている(特許文献2参照)。さらに特許文献2によれば、縦弾性係数(ヤング率)を含む係数行列(D)を与えれば、FEM(有限要素法)の手法に基づいて、変位量の計測結果から応力を計算する方法が開示されている。この方法によれば、ヤング率を与えることにより、変位量の計測結果から応力を計算することができるが、ヤング率が未知の被測定物の場合は、他の測定によってヤング率を求めなければ応力計測できない。
【特許文献1】特開平7−181075号公報
【特許文献2】特開2006−343160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、これまでヤング率等の測定は、ひずみゲージや伸び計を用いた計測により行われていた。しかしながら、ひずみゲージを用いてヤング率を測定する場合は、ひずみゲージを貼り付けた位置の測定データしか得られなかった。また、被測定物の温度を上昇させてヤング率を測定したい場合には、熱の影響を受けるためにひずみゲージを用いることができなかった。
【0005】
また、2標点間の距離の変化を伸び計等で測定することにより、ヤング率を測定する場合は、いずれか一方でも標点の測定精度が悪いと、それだけで満足な測定データが得られなくなっていた。
【0006】
そこで、本発明はひずみゲージや伸び計を用いることなく、非接触で、また、被測定物の温度に関係なく、ヤング率等を測定する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、被測定物にある程度の大きさの広がりを有する解析対象領域を設定し、設定した解析対象領域の全体の測定データからヤング率を測定することにより、ヤング率等の測定精度を高めた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明のヤング率またはポアソン比の測定方法は、力を与える前の被測定物を撮影した変形前画像と、力を与えて変形させた後の被測定物を撮影した変形後画像とを用いてヤング率またはポアソン比を測定する方法であって、
(S1) 変形前画像に解析領域を設定する解析領域設定工程と、
(S2) 前記解析領域内の着目画素b(x,y)に対し、変形後画像内において前記着目画素b(x,y)に対応付けられる画素を、着目画素b(x,y)周辺の画像情報の相関量に基づいて探索することにより照合画素a(x+m,y+m)として決定し、着目画素b(x,y)と照合画素a(x+m,y+m)とのピクセル単位での変位量(m,m)を算出し、変形後画像内の照合画素a(x+m,y+m)、および、前記照合画素a(x+m,y+m)に隣接する画素の画像情報の相関量に基づいて、ピクセル単位以下のサブピクセルオーダーでの着目画素b(x,y)の変位量(Δx,Δy)を算出し、さらに着目画素を次々と移動して解析領域内の各画素についての変形後画像内の照合画素を決定するとともに、ピクセル単位の変位量(m,m)とサブピクセルオーダーでの変位量(Δx,Δy)とを加算した全変位量(m+Δx,m+Δy)を算出する解析領域内画素変位量算出工程と、
(S3) 解析領域内の画素の全変位量(m+Δx,m+Δy)を用いた最小二乗近似によりヤング率又はポアソン比を算出するヤング率/ポアソン比算出工程とからなる。
【0008】
この発明によれば、最初に解析領域設定工程を実行する。この工程では、変形前画像に解析領域を設定する。ここで設定される解析領域は、ヤング率やポアソン比を算出する際に演算を行う画素が含まれる領域である。
続いて、解析領域内画素変位量算出工程を実行する。この工程では、まず、解析領域内の1つの画素を着目画素b(x,y)とし、着目画素b(x,y)に対し、変形後画像内において着目画素b(x,y)に対応付けられる画素(着目画素の移動先となる画素)を、着目画素b(x,y)周辺の画像情報の相関量に基づいて探索することにより照合画素a(x+m,y+m)として決定する。探索に用いられる画像情報の相関量は、後述する輝度情報に関する相関量(例えば残差ノルム)を用いるのが好ましいが、これに限られず、着目画素周辺の画像との類似性を数値的に比較できる情報であればよい。
照合画素a(x+m,y+m)が算出されると、着目画素b(x,y)と照合画素a(x+m,y+m)とのピクセル単位での変位量(m,m)を算出する。
続いて、変形後画像内の照合画素a(x+m,y+m)、と照合画素a(x+m,y+m)に隣接する画素の前述した画像情報の相関量に基づいて、ピクセル単位以下のサブピクセルオーダーでの着目画素b(x,y)の変位量(Δx,Δy)を算出する。すなわち、照合画素a(x+m,y+m)に隣接する画素を用いて最小二乗近似、最急降下法等により、ピクセル単位以下の精度の変位量(Δx,Δy)を求める。
さらに着目画素を次々と移動し、解析領域内の各画素について、変形後画像内の照合画素を決定するとともに、ピクセル単位の変位量(m,m)およびサブピクセルオーダーでの変位量(Δx,Δy)を加算した全変位量(m+Δx,m+Δy)を算出する。
続いて、ヤング率/ポアソン比算出工程(S3)を実行する。この工程では、解析領域内の画素の全変位量(m+Δx,m+Δy)を用いた最小二乗近似によりヤング率又はポアソン比を算出する
【0009】
ヤング率Eおよびポアソン比νは変位量と以下の関係にある。
E=(F/A)/(ΔL/L) ・・・(1)
ν=(ΔD/D)/(ΔL/L) ・・・(2)
ここで、Fは被測定物に与えた力、Aは被測定物の断面積、Lは被測定物の(変形前)縦長さ、ΔLは縦変位量、Dは被測定物の(変形前)横長さ、ΔDは横変位量である。
【0010】
被測定物に与えた力F、被測定物の断面積A、被測定物の(変形前)縦長さL、被測定物の(変形前)横長さDは既知である。したがって、ヤング率Eを求めるには(1)式におけるΔL/Lを測定結果から決定する必要がある。また、ポアソン比νを求めるには(2)式におけるΔL/L、ΔD/Dを測定結果から決定する必要がある。ΔL/Lについては解析領域内の画素の変形前y座標と全変位量(m+Δy)の関係をプロットして最小二乗近似を行うことにより求めることができる。ΔD/Dについては解析領域内の画素の変形前x座標と全変位量(m+Δx)の関係をプロットして最小二乗近似を行うことにより求めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、解析領域内の全画素それぞれについてのΔLおよびΔDが、ヤング率やポアソン比の演算に組み込まれることになるので、解析領域全体の画素の変位量が平均化されたヤング率、ポアソン比が得られることになり、精度の高い計測を行うことができ、信頼性の高い測定が可能になる。
また、ひずみゲージ等を用いることなく測定が行われるので、ひずみゲージの貼り付けが困難な高温状態での測定も可能になる。さらには、被測定物の表面粗度が高くてひずみゲージの取り付けが困難な場合、被測定物の剛性がひずみゲージよりも低く、ひずみゲージでの測定が困難な場合(ゴム材料等)にも測定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
(測定システム)
図1はヤング率やポアソン比を測定する測定システムを示す図である。被測定物である試験片Sの上下端が、引張試験機の可動チャック1および固定チャック2に取り付けてある。可動チャック1を作動することにより試験片Sに荷重が負荷され、負荷荷重に応じて試験片Sが変形するようにしてある。また、試験片Sの横にはカメラ装置3(CCDカメラ)が配置してあり、試験片Sに設定した解析領域Kを写すことができるようにしてある。
【0013】
カメラ装置3は、負荷荷重が加えられる前の画像(変形前画像)と負荷荷重が加えられた後の画像(変形後画像)を撮影し、これら画像を制御部10に送信するようにしてある。
制御部10は、CPU、メモリを備えたコンピュータ装置で構成され、さらに図示しない表示装置(例えば液晶パネル)、入力装置(例えばキーボード、マウス)が付設され、表示装置に撮影画像を表示し、入力装置を介して制御に必要なさまざまな入力を行うことができるようにしてある。例えば本発明に関連する入力操作の一つとして、解析領域(幅D、長さL)の設定を行うことができるようにしてある。
【0014】
制御部10で行われる演算処理を説明するため、制御部10を機能ブロックごとに分けて説明すると、解析領域設定部11、解析領域内画素変位量算出部12、ヤング率/ポアソン比算出部13とからなる。解析領域内画素変位量算出部12は、さらに細分すると、ピクセル単位変位量算出部14と、サブピクセル変位量算出部15とからなる。
【0015】
解析領域設定部11は、試験片S全体の中からヤング率等の測定を行う一部の領域を解析領域Kとして設定する処理を行う。具体的には、測定者による解析領域を指定する入力操作に基づいて、指定された領域を解析領域Kとして記憶する。入力操作は、試験片S上の測定領域(位置および縦・横の大きさ)とを入力することにより、表示画面上に映し出された試験片S上に枠表示し、その後、測定者が枠の位置の微調整を行うことにより、所望の位置の測定が行えるようにしてある。
【0016】
解析領域内画素変位量算出部12は、変形前画像の解析領域K内の各画素が、変形後画像においてどの位置に変化したかを算出し、その変位量を求める演算を行う。この演算は、最初にピクセル単位変位量算出部14が行うピクセル単位での変位量の演算と、続いて精度を高めるためにサブピクセル変位量算出部15が行うサブピクセルオーダーでの変位量(1画素以下の変位量)の演算とからなる。
【0017】
ピクセル単位変位量算出部14は、変形前画像の解析領域K内に含まれる画素の1つ1つに対し、それぞれの画素が有する画像情報の一つである輝度値に基づいて、変形後画像内の対応する画素を決定し、ピクセル単位での変位量を算出する演算処理を行う。この演算処理において実行される画像照合を利用した画素同士の照合方法について具体的に説明する。
【0018】
図2は変形前画像と変形後画像との画素同士の対応関係を求める画像照合を説明する図である。
変形前画像には、図2(a)に示すように、変形後画像との対応を付けようとする着目画素を設定する。以後、この変形前画像における着目画素を、計測着目画素b(x,y)という。そして計測着目画素b(x,y)を中心とするdx×dyの微小領域を設定する。以後、この微小領域を基準画像領域部B(b)という。基準画像領域部B(b)は、計測着目画素b(x,y)に対応する変形後画像の画素を探索する際に、画像照合を行う領域である。この領域内に含まれる画素数を大きくとると画像照合の精度が高まる反面、演算時間が長くかかるようになる。具体的には、dx、dyとして20〜100画素程度を設定する。
【0019】
一方、変形後画像には、図2(b)に示すように、上記計測着目画素b(x,y)との対応関係を求めようとして着目する着目画素を設定する。以後、この変形後画像における着目画素を、探索着目画素a(x+Δx,y+Δy)という。そして探索着目画素a(x+Δx,y+Δy)を中心とするdx×dy(上記基準画像領域部B(b)と同サイズ)の微小領域を設定する。以後、この微小領域を比較画像領域部A(a)という。比較画像領域部A(a)は、基準画像領域部B(b)との画像照合が行われる領域であり、中心となる探索着目画素a(x+Δx,y+Δy)を1画素分ずつシフトすることで、比較画像領域部A(a)の位置が次々と移動するようになる。
【0020】
そして、比較画像領域部A(a)の位置を次々とシフトさせたときの各比較画像領域部A(a)の画像情報と、基準画像領域部B(b)の画像情報とに基づいて、互いの相関関係を求める。なお、ここでは相関関係を求めるための画像情報として輝度情報を用いるが、カラー画像であればRGB情報等の色情報を用いることもできる。
【0021】
画像照合のために用いる輝度情報の相関値Rとして、基準画像領域部B(b)に含まれる各画素の輝度値と、比較画像領域部A(a)において対応する各画素の輝度値との残差二乗和、または、下記式(3)で表される輝度値の残差ノルムRij(b,a)(輝度値の残差二乗和の平方根)を用いる。
ij(b,a)=||A(a)−B(b)|| ・・・(3)
【0022】
そして、残差ノルムRij(b,a)が最小となるときの比較画像領域部A(a)が最も相関性の高い領域となるので、これを求め、そのときの探索着目画素a(x+m,y+m)を照合画素の位置として決定する。ここでm、mは、残差ノルムが最小となる画素のΔx、Δyであり、これが変位前の位置から変位後の位置までの変位量(変位解)となる。
【0023】
このようにして、ピクセル単位変位量算出部14によって求められた変位量m、mは、ピクセル単位での変位量である。測定精度を上げるには、サブピクセルオーダー(ピクセル単位以下)での測定が要求されるので、続いてサブピクセル変位量算出部15により、精度を高めるための演算処理を行う。
【0024】
図3は、ピクセル単位で求めた変位量(変位解)を元に、サブピクセルオーダーでの変位量を求める演算処理を説明する図である。なお、この図はx方向のみを示すが、y方向についても同様である。
変位量として精度の高い値は、探索着目画素a(x+m,y+m)を中心とした1ピクセルの変動幅内に存在する。そこでピクセル単位変位量算出部14により求められた、輝度値の残差ノルムRij(b,a)が最小となる探索着目画素a(x+m,y+m)の位置座標を基準として、x、y方向の±1画素ずつを加えた隣接する合計9点(3画素×3画素)の輝度相関値から、下記式(4)により示される最小二乗曲面g(x、y)を作成する。
g(x、y)= ax+bx+cy+dy+exy+f ・・・(4)
ここでa〜fは最小二乗法により得られる係数である。
【0025】
この式に基づいて最小二乗近似を実行することにより、最小二乗曲面g(x、y)の各係数が決定され、上記9点の輝度相関値に最もフィットした曲面式が得られる。
そして、得られた曲面式が極値をとるときの座標の変化(Δx,Δy)を求めることにより、サブピクセルオーダーで変位量Δx,Δy(変位解)が算出されることになる。
【0026】
さらに、これまで説明したピクセル単位変位量算出部14とサブピクセル変位量算出部15とによる上記の演算を、解析領域K内のすべての画素に対し、繰り返し適用することにより、解析領域K内の各画素のサブピクセルオーダーでの変位量(変位解)が得られる。
そして、ピクセル単位での変位量m、mとサブピクセルオーダーでの変位量Δx,Δyとを加算することにより、測定精度が高められた全変位量m+Δx,m+Δyが得られる。
以上の演算により、変形前画像の解析領域k内の各画素と変形後画像の照合画素との対応関係を付けることができ、解析領域K全体にわたって、各画素のサブピクセルオーダーでの変位分布データが得られる。
【0027】
ヤング率/ポアソン比算出部13は、解析領域K内の各画素について算出された全変位量(m+Δx,m+Δy)を用いた最小二乗近似により、ヤング率又はポアソン比を算出する。
すなわち、上記の演算によって、解析領域K内の各画素について全変位量が求められたので、これら各画素から得られた全変位量のデータm+Δx、m+Δyと既述の(1)式、(2)式とを用いて、ヤング率Eやポアソン比νを算出する演算を行う。
【0028】
以下に、ヤング率またはポアソン比の計測に必要なΔL/Lを求める演算を説明する。
図4(a)はy方向に引張力Fを加えたときの変形前の解析領域(実線)と変形後の解析領域(一点鎖線)の関係を示す図であり、図4(b)は図4(a)におけるA−A’線上の各画素について、y座標(y)対y変位(uyp=m+Δy)をプロットした図である。図4(b)に示すように、プロットした各点に基づいて最小二乗近似を行い、これらの各点にフィットする直線式を求める。そして求めた直線とA点との交点から試験片下端の変位量uy1を求め、A’点との交点から試験片上端の変位量uy2を求める。その結果、次式(5)の関係からΔL/Lを求めることができる。
ΔL/L=(uy2−uy1)/L ・・・(5)
【0029】
以上の演算結果と(1)式とによりヤング率Eが求まる。
なお、上記説明では、図4(a)の1本のA−A’線上の各画素についての最小二乗近似を行ったが、A−A’線上だけでなく、解析領域内の全画素(例えば縦方向1000画素×横方向1000画素では1,000,000画素)についての最小二乗近似を行うことにより、さらに精度の高い測定を行うことができる。
【0030】
次にポアソン比の計測に必要なΔD/Dを求める演算を説明する。図5(a)はy方向に引張力Fを加えたときの変形前の解析領域(実線)と変形後の解析領域(一点鎖線)の関係を示す図であり、図5(b)は図5(a)におけるB−B’線上の各画素について、x座標(x)対x変位(uxp=m+Δx)をプロットした図である。図5(b)に示すように、プロットした各点に基づいて最小二乗近似を行い、近似直線を求める。そして求めた直線とB点との交点から解析領域左端の変位量ux1を求め、B’点との交点から解析領域右端の変位量ux2を求める。その結果、次式(6)の関係からΔD/Dを求めることができる。
ΔD/D=(ux2−ux1)/D・・・(6)
【0031】
そして、(5)(6)の結果と(2)式とによりポアソン比が求まる。
なお、上記説明では、図5(a)の1本のB−B’線上の各画素についての最小二乗近似を行ったが、B−B’線上だけでなく、解析領域内の全画素についての最小二乗近似を行うことにより、さらに精度の高い測定を行うことができる。
【0032】
これにより、従来の測定方法のような2標点から求める方法に比べて、精度や信頼性の高いデータが得られることになる。
【0033】
(測定動作)
つぎに、上記測定システムによるヤング率等の測定動作の手順について説明する。図6は、本発明の測定動作の手順を示すフローチャートである。
測定システムを起動し、最初に、負荷荷重を加えていない状態で被測定物を撮影した画像を変形前画像として蓄積する(S101)。続いて引張試験機の可動チャック1を作動して負荷荷重を与えておき(S102)、負荷荷重が加わった状態で被測定物を撮影した画像を変形後画像として蓄積する(S103)。
【0034】
続いて、ピクセル単位変位量算出部14が画像照合を行うことにより、ピクセル単位で、負荷荷重を加える前後の変位量m、mを測定する(S104)。すなわち、計測着目画素b(x,y)に対し、これに対応する探索着目画素a(x+m,y+m)を照合画素位置として決定し、ピクセル単位での変位量m、mを算出する。
【0035】
続いて、サブピクセル変位量算出部15により、最小二乗曲面近似を行い(S105)、負荷荷重を加える前後のサブピクセルオーダー(ピクセル単位以下)での変位量Δx,Δyを算出する。
【0036】
S104およびS105の演算処理を、解析領域K内の全画素について行い、すべての画素についての演算処理を終えたか否かを判定する(S106)。解析領域K内の一部の画素についてまだ演算処理が完了していない場合は、S104、S105の処理を繰り返し、すべて完了した場合にS107に進む。これにより各画素についての全変位量(m+Δx,m+Δy)が求められる。
【0037】
続いて、算出された各画素の全変位量(m+Δx,m+Δy)に基づいて、変位分布を作成し(S107)、得られた変位分布に対して平均化フィルタ処理を行う(S108)。フィルタ処理の具体的な方法は、特に限定されないが、例えば平均化フィルタ処理を行おうとする着目画素を中心として、その周囲8個の画素すべての輝度値に1/9をかけたものを加えあわせることにより平滑化する。なお、平均化フィルタ処理はノイズを平滑化するための処理であり、省略してもよい。
【0038】
続いて、ヤング率/ポアソン比算出部13が、解析領域K内の全画素(あるいは一部の画素)を用いて、最小二乗直線近似を行うことにより、ヤング率E、ポアソン比νを算出する(S109)。
以上の処理によりヤング率、ポアソン比を求めることができる。
【0039】
以上の説明では変形前画像、変形後画像の2枚の撮影画像から算出するようにしたが、変形前画像と、異なる力を加えて複数の変形後画像を撮影し、3枚以上の撮影画像からヤング率、ポアソン比を算出するようにしてもよい。
【0040】
なお、以上の説明は材料が弾性限度内で変形することを前提に、ヤング率の測定を説明したが、塑性変形する場合は、上述した方法と同様の方法でヤング率に相当する加工硬化係数の測定が行うことができるので、本発明には加工硬化係数の測定も含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、カメラを用いた測定系により非接触な状態で被測定物のヤング率やポアソン比の測定を行う場合に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態であるヤング率またはポアソン比の測定方法を実施するための測定システムの構成を示すブロック図。
【図2】変形前画像と変形後画像との画素同士の対応関係を求める画像照合を説明する図。
【図3】ピクセル単位で求めた変位量(変位解)を基準に、サブピクセルオーダーでの変位量を求める演算処理を説明する図。
【図4】変形前の解析領域と変形後の解析領域の関係に基づいて最小二乗近似により縦変位量(ΔL)を求める方法を説明する図。
【図5】変形前の解析領域と変形後の解析領域の関係に基づいて最小二乗近似により横変位量(ΔD)を求める方法を説明する図。
【図6】本発明の一実施形態であるヤング率またはポアソン比の測定方法を実行する際のフローチャート。
【符号の説明】
【0043】
1: 可動チャック
2: 固定チャック
3: カメラ装置(CCDカメラ)
10:制御部
11: 解析領域設定部
12: 解析領域内画素変位量算出部
13: ヤング率/ポアソン比算出部
14: ピクセル単位変位量算出部
15: サブピクセル変位量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力を与える前の被測定物を撮影した変形前画像と、力を与えて変形させた後の被測定物を撮影した変形後画像とを用いてヤング率またはポアソン比を測定する方法であって、
(S1) 変形前画像に解析領域を設定する解析領域設定工程と、
(S2) 前記解析領域内の着目画素b(x,y)に対し、変形後画像内において前記着目画素b(x,y)に対応付けられる画素を、着目画素b(x,y)周辺の画像情報の相関量に基づいて探索することにより照合画素a(x+m,y+m)として決定し、着目画素b(x,y)と照合画素a(x+m,y+m)とのピクセル単位での変位量(m,m)を算出し、
変形後画像内の照合画素a(x+m,y+m)、および、前記照合画素a(x+m,y+m)に隣接する画素の画像情報の相関量に基づいて、ピクセル単位以下のサブピクセルオーダーでの着目画素b(x,y)の変位量(Δx,Δy)を算出し、
さらに着目画素を次々と移動して解析領域内の各画素についての変形後画像内の照合画素を決定するとともに、ピクセル単位の変位量(m,m)とサブピクセルオーダーでの変位量(Δx,Δy)とを加算した全変位量(m+Δx,m+Δy)を算出する解析領域内画素変位量算出工程と、
(S3) 解析領域内の画素の全変位量(m+Δx,m+Δy)を用いた最小二乗近似によりヤング率又はポアソン比を算出するヤング率/ポアソン比算出工程とからなるヤング率またはポアソン比の測定方法。
【請求項2】
前記解析領域内画素変位量算出工程(S2)において、ピクセル単位での変位量(m,m)を算出する際に、変形前画像に測定対象領域内の着目画素b(x,y)および着目画素b(x,y)周辺の微小領域に含まれる画素からなる基準画像領域部B(b)を設定し、変形後画像に探索画素a(x+Δx,y+Δy)および探索画素a(x+Δx,y+Δy)周辺の微小領域に含まれる画素からなる比較画像領域部A(a)を設定し、基準画像領域部B(b)と比較画像領域部A(a)とにおける画素同士の画像情報の相関量を、基準画像領域部B(b)に対する比較画像領域部A(a)の位置を1画素ずつずらしながら算出することにより、算出された相関量に基づいていずれかの探索画素a(x+Δx,y+Δy)を、照合画素a(x+m,y+m)として決定する請求項1に記載のヤング率またはポアソン比の測定方法。
【請求項3】
前記解析領域内画素変位量算出工程(S2)において、ピクセル単位以下のサブピクセルオーダーでの着目画素b(x,y)の変位量(Δx,Δy)を算出する際に、変形後画像内の照合画素a(x+m,y+m)、および、前記照合画素a(x+m,y+m)に隣接する画素の画像情報の相関量に基づいて最小二乗曲面を作成し、最小二乗曲面から求めた極値に基づいて、サブピクセルオーダーでの着目画素b(x,y)の変位量(Δx,Δy)を求める請求項1に記載のヤング率またはポアソン比の測定方法。
【請求項4】
前記画像情報の相関量が、輝度値の残差ノルムまたは残差二乗和である請求項2または請求項3のいずれかに記載のヤング率またはポアソン比の測定方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate