説明

ライトバトン

【課題】電子機器の周囲温度の上昇を防止することができるライトバトンを提供する。
【解決手段】バトン本体1は、横方向に長い柱体状に形成されており照明器具2に電源供給するフライダクト11と、フライダクト11に保持されフライダクト11の下方に照明器具2を吊り下げる形で照明器具2が取り付けられる吊りパイプ10と、フライダクト11の上方においてフライダクト11に取り付けられた上面開口の箱状であって、バトン本体1の制御に用いる電子機器19を収納するとともに、奥行方向の両側面と下面とが熱を遮断する外板20aで形成された収納箱20とを備える。フライダクト11は、横方向に沿う一対の側面が上方ほど互いに離れるように傾斜した傾斜面11aとなっており、収納箱20は、横方向と奥行方向とのいずれについてもフライダクト11の上面の寸法内に収まる位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ局のスタジオや劇場・ホールなどで使用され、照明器具が吊り下げられるライトバトンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、テレビ局のスタジオでは、スタジオ全体を照明可能とするために、スタジオの上部に配置された複数本のライトバトンを用いて照明器具を配置している。
【0003】
スタジオ上部においては、鋼材等にて格子状に組み上げられた天井グリッドやすのこ等により構築された天井面3上に、図8に示すように各ライトバトンをそれぞれ上下方向(図8の矢印A方向)に昇降させる昇降装置4が設置されている。各ライトバトンはそれぞれ、複数台の照明器具2を横方向に並べて吊り下げ可能な吊りパイプ10と、横方向に長い柱体状に形成され各照明器具2に電源供給するフライダクト11とを有したバトン本体1を備えている。吊りパイプ10は、フライダクト11と同方向に長い棒状に形成されており、フライダクト11の下方に吊り下げられる。これにより、照明器具2はフライダクト11の下方に吊り下げられることになる。
【0004】
フライダクト11には、複数台の照明器具2を同時に接続できるように、横方向に沿う側面から引き出されそれぞれ照明器具を接続可能な接続器12(コネクタ)が複数個設けられている(たとえば特許文献1参照)。図11に示すように、フライダクト11にコンセント口12’が複数個設けられたものもある。なお、フライダクト11はボーダーケーブル17によって電源供給されており、図8ではバトン本体1の上昇時に弛んだボーダーケーブル17を収納するケーブル受け籠18がフライダクト11の上方に設けられているが、図12のようにボーダーケーブル17を巻き取るケーブルリール33を採用してケーブル受け籠18を省略したものもある。
【0005】
ところで、一般的なバトン本体1は、図13に示すようにフライダクト11の上方のケーブル受け籠18内にボーダーケーブル17が接続される接続端子台を有したケーブル接続箱21が設けられており、このケーブル接続箱21内にはバトン本体1の制御に用いる電子機器19が収納されている。ここでいう電子機器19には、バトン本体1の衝突を検知するセンサ機器等を含んでいる。
【特許文献1】登録実用新案第3045733号公報(第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、この種のライトバトンのフライダクト11は、図13(b)に示すように長手方向に直交する断面が長方形状であって、かつ幅方向(図13(b)の左右方向)の寸法がケーブル接続箱21に比べて小さく形成されている。したがって、図14(a)に示すように照明器具2で発生する熱により照明器具2付近から上昇する対流熱が、フライダクト11の幅方向の側方を通過し、フライダクト11の上方に設けられたケーブル接続箱21の温度を上昇させるという問題がある。ケーブル接続箱21の温度が上昇すると、ケーブル接続箱21に収納された電子機器19の周囲温度が上昇して電子機器19に悪影響を及ぼし、電子機器19の故障にもつながる。
【0007】
一方、図14(b)に示すように、フライダクト11の幅方向の側方に突出する形でフライダクト11の下面に取り付けられる遮熱板34を設け、フライダクト11の幅方向の側方を通過する対流熱の流れを遮ることによって、対流熱によるケーブル接続箱21の温度上昇を防止することも考えられる。しかし、図14(b)の構成は、遮熱板34がフライダクト11の幅方向の側方に突出しており、バトン本体1への照明器具2の着脱を行う際に遮熱板34が邪魔になるので望ましくはない。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、ライトバトンへの照明器具の着脱を邪魔することなく、電子機器の周囲温度の上昇を防止することができるライトバトンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明では、複数台の照明器具を横方向に並べて取付可能であり昇降装置によって上下方向に昇降自在に支持されるバトン本体を備え、バトン本体は、前記横方向に長い柱体状に形成されており、それぞれ照明器具が接続されることにより各照明器具に電源供給する複数個の接続器が前記横方向に配列されたフライダクトと、フライダクトに保持されフライダクトの下方に照明器具を吊り下げる形で照明器具が取り付けられる吊りパイプと、フライダクトの上方においてフライダクトに取り付けられた上面開口の箱状であって、バトン本体の制御に用いる電子機器を収納するとともに、水平面内で前記横方向に直交する方向である奥行方向の両側面と下面とが熱を遮断する外板で形成された収納箱とを有し、フライダクトは、前記奥行方向の一対の側面が上方ほど互いに離れるように傾斜した傾斜面となっており、収納箱は、前記横方向と前記奥行方向とのいずれについてもフライダクトの上面の寸法内に収まる位置に配置されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、収納箱が前記横方向と前記奥行方向とのいずれについてもフライダクトの上面の寸法内に収まる位置に配置されているので、フライダクトの下方に吊り下げられた照明器具付近から上昇する対流熱をフライダクトで受けることにより、収納箱への前記対流熱の影響を低減することができる。さらに、フライダクトは、前記奥行方向の一対の側面が上方ほど互いに離れるように傾斜した傾斜面となっているので、フライダクトの側方を通過する前記対流熱の流れは、各傾斜面に沿って上方ほど収納箱から離れる向きに向けられることになり、収納箱への対流熱の影響を一層低減することができる。また、収納箱は前記奥行方向の両側面と下面とが熱を遮断する外板で形成されているから、フライダクトの側方を通過した前記対流熱の一部が収納箱側に流れ込んでも、この対流熱は外板で遮られ収納箱内に収納された電子機器の周囲温度はほとんど上昇することがない。したがって、電子機器の周囲温度の上昇を防止することができる。しかも、フライダクトから側方に突出する遮熱板は不要であるから、ライトバトンへの照明器具の着脱時に遮熱板が邪魔になることもない。なお、収納箱は上面開口であるから、電子機器で発生した熱については上方に放熱可能であり、これによっても電子機器の周囲温度の上昇を防止できる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記収納箱が、下面を形成する前記外板を含み前記フライダクトの上面に重ねて配置される底部材と、前記奥行方向の両側面を形成する外板を含み底部材における前記奥行方向の各端部からそれぞれ上方に立設された一対の側壁部材とを備え、各側壁部材が、熱を遮断する内張り板を各外板に対して内側から対向する位置にそれぞれ有し、外板と内張り板との間に断熱性を有する断熱層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、フライダクトの側方を通過した前記対流熱の一部が収納箱側に流れ込んでも、この対流熱は断熱層で断熱され、当該対流熱によって収納箱の内部空間の温度が上昇することはないので、電子機器の周囲温度の上昇をより確実に防止できる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記フライダクトが、前記昇降装置で巻き取り可能なワイヤロープによって吊り下げられるようにワイヤロープの一端部が結合される吊り金具を有し、ワイヤロープと吊り金具との結合部位を覆い当該結合部位を保護する保護カバーが、一部をフライダクトに接触させて設けられており、フライダクトおよび保護カバーがいずれも熱伝導率の高い材料から形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、保護カバーを設けたことによってワイヤロープと吊り金具との結合部位を保護することが可能になり、また、当該保護カバーが、一部をフライダクトに接触させて設けられており、フライダクトおよび保護カバーはいずれも熱伝導率の高い材料から形成されているので、フライダクトの熱を保護カバーに放熱することによってフライダクト自身の温度上昇を防止することができる。その結果、フライダクトの熱が収納箱に伝わることを防止でき、収納箱に収納された電子機器の周囲温度の上昇をより確実に防止できる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記フライダクトの上方から垂れ下げられておりフライダクトに電源供給するボーダーケーブルのうち、前記バトン本体の上昇時に弛んだ部分を収納する上面開口のケーブル受け籠が、一部をフライダクトに接触させてフライダクトの上方に設けられており、フライダクトおよびケーブル受け籠がいずれも熱伝導率の高い材料から形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ケーブル受け籠が、一部をフライダクトに接触させて設けられており、フライダクトおよびケーブル受け籠はいずれも熱伝導率の高い材料から形成されているので、フライダクトの熱をケーブル受け籠に放熱することによってフライダクト自身の温度上昇を防止することができる。その結果、フライダクトの熱が収納箱に伝わることを防止でき、収納箱に収納された電子機器の周囲温度の上昇をより確実に防止できる。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記ケーブル受け籠が下面の一部と前記フライダクトの上面との間に、前記収納箱が配置される空洞部を形成しており、収納箱が、ケーブル受け籠の下面との間に隙間を有して配置されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、収納箱が、ケーブル受け籠の下面との間に隙間を有して配置されているので、ケーブル受け籠内にボーダーケーブルが収納された状態でボーダーケーブルに通電しても、ボーダーケーブルから発生する熱が収納箱に伝達されることを防止できる。また、収納箱の上面が塞がれた構成に比べると、収納箱の上面からの放熱効果が向上する。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記ケーブル受け籠が、下面において前記空洞部に面した部位に、前記バトン本体を識別可能とするためにバトン本体に付与されている識別子を表示する表示部が設けられていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ケーブル受け籠の下面に設けた表示部が、フライダクトとケーブル受け籠との間に形成された空洞部を通して視認可能となるので、バトン本体が比較的高い位置にあるときでもバトン本体の下方から識別子を認識しやすくなる。
【0021】
請求項7の発明は、請求項5または請求項6の発明において、前記空洞部が、前記バトン本体の長手方向における中央部に設けられるとともに、前記照明器具の下方から照明器具の向きを変える際に用いられる介錯棒の先端部を挿入可能な大きさに形成されており、空洞部内には、介錯棒の先端部を引掛可能な引掛け部が設けられていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、空洞部を利用して介錯棒の先端部を引掛可能な引掛け部を設けたので、バトン本体の昇降時にバトン本体の進行方向に障害物があっても、作業者がバトン本体の下方から介錯棒を用いてバトン本体を操ることにより、バトン本体と障害物との衝突を回避することができる。しかも、介錯棒の先端部を引掛可能な引掛け部を、バトン本体の長手方向における中央部に設けてあるから、フライダクトの長手方向の一端部に介錯棒の先端部を引っ掛ける場合に比べて、バトン本体を回転させずに安定して操ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、収納箱が前記横方向と前記奥行方向とのいずれについてもフライダクトの上面の寸法内に収まる位置に配置されているので、フライダクトの下方に吊り下げられた照明器具付近から上昇する対流熱をフライダクトで受けることにより、収納箱への前記対流熱の影響を低減することができる。さらに、フライダクトは、前記奥行方向の一対の側面が上方ほど互いに離れるように傾斜した傾斜面となっているので、フライダクトの側方を通過する前記対流熱の流れは、各傾斜面に沿って上方ほど収納箱から離れる向きに向けられることになり、収納箱への対流熱の影響を一層低減することができる。また、収納箱は前記奥行方向の両側面と下面とが熱を遮断する外板で形成されているから、フライダクトの側方を通過した前記対流熱の一部が収納箱側に流れ込んでも、この対流熱は外板で遮られ収納箱内に収納された電子機器の周囲温度はほとんど上昇することがない。したがって、電子機器の周囲温度の上昇を防止することができるという利点がある。しかも、フライダクトから側方に突出する遮熱板は不要であるから、ライトバトンへの照明器具の着脱時に遮熱板が邪魔になることもない。なお、収納箱は上面開口であるから、電子機器で発生した熱については上方に放熱可能であり、これによっても電子機器の周囲温度の上昇を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(実施形態1)
本実施形態ではテレビ局のスタジオで使用する照明設備用のライトバトンを例示する。この種の照明設備は、一般的に図8に示すように、複数台の照明器具2を横方向に並べて取り付け可能なライトバトンを用いて照明器具2をスタジオの上部に配置するものであって、照明器具2によりスタジオの照明を行う照明システムと、ライトバトンのバトン本体1を上下方向(図8の矢印A方向)に昇降させる昇降システムとを備えている。
【0025】
スタジオの上部には、鋼材等にて格子状に組み上げられた天井グリッドやすのこ等により天井面3が構築されており、天井面3上にはバトン本体1を上下方向に昇降させる昇降装置4が設置されている。昇降装置4にはバトン本体1を吊り下げるワイヤロープ5を巻き取り可能なモータMが設けられており、ワイヤロープ5は、昇降装置4から引き出された先端部が天井面3上に配置された滑車6に掛けられて天井面3から下方に引き出されてバトン本体1に結合される。複数本のバトン本体1を使用する場合には、昇降装置4は1本のバトン本体1に対して1台ずつ設けられる。昇降装置4は、バトン本体1の上下方向の位置(高さ位置)を設定する昇降操作盤7と、バトン本体1の高さ位置を昇降操作盤7で設定された高さ位置に調節するように昇降装置4におけるワイヤロープ5巻き取り用のモータMを制御する昇降制御盤8と共に昇降システムを構成している。昇降装置4は昇降負荷配線9を介して昇降制御盤8から電源供給される。
【0026】
一方、バトン本体1は、複数台の照明器具2を横方向に並べて吊り下げ可能な吊りパイプ10と、各照明器具2に電源供給するフライダクト11とを有する。フライダクト11は横方向に長い柱体状に形成され、閉塞された内部空間には照明器具2に電源供給するための内部配線が引き回されており、長手方向に沿う側面においては長手方向の全長に亘って、それぞれ内部配線に接続されるとともに照明器具2を接続可能な複数個の接続器12(コネクタ)が等間隔で引き出されている。吊りパイプ10は、フライダクト11と同方向に長い棒状に形成されており、フライダクト11の下方に吊り下げられる。これにより、吊りパイプ10に取り付けられた照明器具2は、フライダクト11の下方に吊り下げられる形になる。
【0027】
フライダクト11に対して電源供給を行うのは、バトン本体1に取り付けられた照明器具2を個別に調光可能な調光器盤13である。調光器盤13は、バトン本体1に取り付けられた照明器具2と、各照明器具2の調光レベルを設定する調光卓14と共に照明システム1を構成している。調光器盤13は、交流電源が供給されており、調光卓14で設定された調光レベルに従って位相制御方式により照明器具2に供給する電力量を調節する。ここでは、調光器盤13は天井面3上に設置された接続端子箱15に照明負荷配線16を介して接続されており、フライダクト11はこの接続端子箱15に対してボーダーケーブル17を介して接続される。そのため、バトン本体1は、バトン本体1の上昇時に弛んだボーダーケーブル17を収納するケーブル受け籠18をフライダクト11の上方に備えている。ボーダーケーブル17と各接続器12との間の配線はフライダクト11内を引き回される。なお、ここでは昇降制御盤8に3相3線式の交流電源を供給し、調光器盤13に単相3線式あるいは3相4線式の交流電源を供給する。
【0028】
ところで、本実施形態のバトン本体1は、図1(a)に示すように、フライダクト11の上方に、電子機器19(図1(c)参照)を収納する収納箱20が設けられている。この収納箱20内には、従来はケーブル接続箱21内に収納されていた、バトン本体1の制御に用いる電子機器19(バトン本体1の衝突を検知するセンサ機器等)が収納される。以下では、図1(a)の左右を左右(横方向)、図1(b)の左右を前後(奥行方向)としてバトン本体1の構成について説明する。
【0029】
フライダクト11は、図1(b)に示すように、左右方向に沿う一対の側面(前後方向の両側面)が互いに上方ほど互いに離れる向きに傾斜した傾斜面11aになっている。ここでは、フライダクト11は長手方向に直交する断面を上底の方が下底よりも長い台形状とするように形成されているが、下端部の前後寸法をさらに小さくすることによって長手方向に直交する断面をいわゆる逆三角形状としてもよい。
【0030】
さらに、収納箱20は、図1(c)に示すように、上面が開放されており、左右方向に沿う両側面(前後方向の両側面)および下面がそれぞれ熱を遮断する外板20a(いわゆる遮熱板)で形成されている。ここでは、図1(a)のように、左右方向に沿う両側面を形成する外板20aは、左右両端縁側ほど上下寸法を小さくするように上端縁が上方に凸となる弧状に形成されている。この収納箱20は、フライダクト11の上面からはみ出さないようにフライダクト11の上面の上方に収まる位置に配置される。すなわち、収納箱20の左右寸法はフライダクト11の左右寸法よりも小さく形成され、かつ収納箱20の前後寸法はフライダクト11の上面の前後寸法、つまりフライダクト11の一対の傾斜面11aにおける上端縁間の距離よりも小さく形成される。ここでは、収納箱20はバトン本体1においてフライダクト11の長手方向における中央部に設けられている。
【0031】
以下に、本実施形態の構成を採用することにより奏する効果を図2を参照して説明する。
【0032】
すなわち、上記バトン本体1では、吊りパイプ10に取り付けられた照明器具2(ここではスポットライトとする)で発生した熱により照明器具2付近から上昇する対流熱を、収納箱20に到達する前にフライダクト11で受けることにより、収納箱20への対流熱の影響を低減することができる。さらに、フライダクト11の側方を通過する際に、フライダクト11の前方を通過する対流熱(図2の矢印B)とフライダクト11の後方を通過する対流熱(図2の矢印C)とに分かれることになる。ここにおいて、フライダクト11の両傾斜面11aは上方ほど互いに離れるように傾斜しているので、フライダクト11の前方を通過する対流熱は斜め前方に上昇し、フライダクト11の後方を通過する対流熱は斜め後方に上昇することになり、フライダクト11の上面の真上には対流熱がほとんど流れ込まない。したがって、フライダクト11の側方を通過した対流熱の大半は、フライダクト11の上方においてフライダクト11の上面からはみ出さないように配置された収納箱20に直接影響することはない。要するに、対流熱による収納箱20の温度上昇が防止され、その結果、収納箱20に収納された電子機器19の周囲温度の上昇が防止される。
【0033】
また、収納箱20は、前後両側面および下面がそれぞれ熱を遮断する外板20aで形成されているから、フライダクト11の側方を通過した対流熱の一部が収納箱20側に流れ込んでも、この対流熱は外板20aで遮られることになり、収納箱20内の温度が上昇することはほとんどない。しかも、収納箱20は内部空間の熱を上方に放熱できるように上面を開口しており、これによっても収納箱20内の温度上昇が防止される。
【0034】
さらに、図1(a)に示すようにケーブル受け籠18を左右両端部がフライダクト11に密接する構成とし、かつケーブル受け籠18とフライダクト11とをいずれも熱伝導性に優れた(熱伝導率の高い)熱伝導性材料であるアルミニウムから形成することにより、フライダクト11の熱をケーブル受け籠18を通じて放熱できるようにし、フライダクト11の放熱効果を高めている。結果的に、フライダクト11でより多くの対流熱を受けて吸収することができ、フライダクト11の上方に配置された収納箱20への対流熱の影響を一層低減することができるので、収納箱20内の温度上昇を一層抑えることができる。
【0035】
ところで、従来のバトン本体1においては、フライダクト11は図9(a)に示すように、ワイヤロープ5の一端部が結合される吊り金具22を有しており、ワイヤクリップ23を用いたワイヤロープ5の端末加工部分を含むワイヤロープ5と吊り金具22との結合部位が、合成ゴム製の保護カバー24’によって覆われている。図9(b)のようにワイヤロープ5と吊り金具22との距離を伸縮可能とするターンバックル25を用いている場合には、前記保護カバー24’はターンバックル25も覆う形に取り付けられる。
【0036】
一方、本実施形態のバトン本体1は、ワイヤロープ5と吊り金具22との結合部位を覆う保護カバー24の構成が、図9(a)、(b)の従来構成とは相違する。本実施形態の保護カバー24は、フライダクト11およびケーブル受け籠18と同様に、熱伝導性に優れた熱伝導性材料であるアルミニウムから形成されている。ここで、ワイヤロープ5は、フライダクト11におけるケーブル受け籠18の左右両側方にそれぞれ結合されており、保護カバー24は、図3に示すようにフライダクト11の上面に密接するとともに、ケーブル受け籠18の左右各側面に密接する形でケーブル受け籠18の左右両側方にそれぞれ配置される(図3では収納箱20とケーブル接続箱21と後述の引掛けパイプ30とを省略している)。
【0037】
各保護カバー24はそれぞれ、上下方向に直交する断面がケーブル受け籠18側に開放されたコ字状となる形状に形成されており、上下寸法がケーブル受け籠18の左右各側面の上下寸法と等しく設定されている。ケーブル受け籠18の左右各側面には上下方向の全長に亘って一対のレール26が敷設されており、保護カバー24は、ケーブル受け籠18側の端部を当該レール26に係合させることによりケーブル受け籠18に一体に取り付けられる。吊り金具22のメンテナンス時などは、保護カバー24を上方にスライドさせることにより保護カバー24を取り外すことができる。なお、ここではワイヤロープ5と吊り金具22との距離を伸縮可能とするターンバックル25を用いており、当該ターンバックル25も保護カバー24で覆っている。
【0038】
この構成によれば、フライダクト11およびケーブル受け籠18の熱を保護カバー24を通じて放熱でき、フライダクト11およびケーブル受け籠18の放熱効果を高めることができる。特に、ケーブル受け籠18と保護カバー24とはケーブル受け籠18の左右各側面における上下方向の全長に亘って接触しているから、ケーブル受け籠18の放熱効果は高くなる。しかも、従来の合成ゴム製の保護カバー24’に比べて、ワイヤロープ5と吊り金具22との結合部位を確実に保護できるという利点がある。たとえば、スタジオの上部に位置するバトン本体1に取り付けた各照明器具2の向きを変える際には、照明器具2の下方に立つ作業者は、介錯棒27(図10(a)、(b)参照)という道具を用い、介錯棒27の先端部を照明器具2に引っ掛けて照明器具2の向きを操るが、保護カバー24によりワイヤロープ5と吊り金具22との結合部位を確実に保護しているから、介錯棒27の先端部が誤ってワイヤロープ5と吊り金具22との結合部位に当接することはない。
【0039】
また、図1(a)のように、ケーブル受け籠18の下面のうちの左右両端部を除いた部位とフライダクト11の上面との間には空洞部28が設けられ、収納箱20は、ケーブル受け籠18の下面との間に隙間を有するようにこの空洞部28内に配置されている。すなわち、収納箱20とケーブル受け籠18との間には隙間があるので、ケーブル受け籠18内にボーダーケーブル17が収納された状態で、ボーダーケーブル17に電流が流れてボーダーケーブル17が発熱しても、この熱が収納箱20に伝わることはない。本実施形態ではボーダーケーブル17が接続される接続端子台(図示せず)を有したケーブル接続箱21を収納箱20の左右両側方に収納箱21と隣接するように配置しているが、図4に示すように、空洞部28における左右方向の中央部にケーブル接続箱21を配置し、収納箱20をケーブル接続箱21とは左右方向に離間するように空洞部20の左右両端部にそれぞれ配置する構成を採用してもよい。図4の場合には、ケーブル接続箱21で発生した熱が収納箱20に影響することもない。
【0040】
ところで、バトン本体1の昇降時にバトン本体1の進行方向にたとえば舞台セットなどの障害物29(図10(b)参照)がある場合には、バトン本体1と障害物29との衝突を回避する必要がある。従来から、このような場合には、作業者が上述した介錯棒27を用いバトン本体1の下方から介錯棒27の先端部をバトン本体1に引っ掛けてバトン本体1を操ることが行われている。ただし、従来のバトン本体1においては、介錯棒27の先端部を引っ掛ける専用の部位が設けられておらず、図10(a)、(b)に示すようにフライダクト11や吊りパイプ10に介錯棒27の先端部を引っ掛けてバトン本体1を操る方法が一般的に用いられている。この方法では、介錯棒27の先端部が誤って照明器具2や接続器12やワイヤケーブル5等に当接し、これらを破損してしまう可能性がある。また、図10(c)、(d)に示すようにケーブル受け籠18の上端部に介錯棒27の先端部を引っ掛けてバトン本体1を操る方法も用いられているが、この方法では、バトン本体1の上昇時に、介錯棒27の先端部が邪魔になってボーダーケーブル17がケーブル受け籠18内に収まらずにケーブル受け籠18からはみ出してしまうことがある。
【0041】
これに対して本実施形態のバトン本体1は、上述した空洞部28が介錯棒27の先端部を挿入可能な大きさに形成されるとともに、当該空洞部28内には、図5に示すように、介錯棒27の先端部を引っ掛けるための引掛けパイプ30(引掛け部)を備えている。これにより、介錯棒27の先端部をフライダクト11や吊りパイプ10あるいはケーブル受け籠18に引っ掛けることなく、バトン本体1の昇降時に作業者Hがバトン本体1の下方から介錯棒27を用いてバトン本体1を操り、バトン本体1と障害物29との衝突を回避することができる。しかも、ここでは空洞部28はバトン本体1における左右方向の中央部に設けられており、これにより引掛けパイプ30もバトン本体1の左右方向の中央部に設けられることになる。その結果、バトン本体1の左右方向の一端部に介錯棒27の先端部を引っ掛けてバトン本体1を操る場合に比べて、バトン本体1を操る際にバトン本体1が回転しにくくなり、バトン本体1を操りやすくなる。
【0042】
なお、引掛けパイプ30は、収納箱20の前後両側方にそれぞれ設けられるとともに、収納箱20において前後両側面を形成する外板20aの上端縁に沿って上方に凸となる弧状に形成され、かつフライダクト11からの高さ位置が外板20aの上端縁と一致するように配置されているので、意匠的にも優れている。ケーブル受け籠18は、介錯棒27の先端部を引掛けパイプ30に引っ掛ける際に邪魔にならないように、下面のうち引掛けパイプ30に対向する部位が引掛けパイプ30に沿って湾曲した形状に形成されている。
【0043】
ところで、一般的にスタジオの上部には、複数本のバトン本体1がスタジオのほぼ全域に亘って配設されているので、各バトン本体1にはそれぞれを識別可能とするための固有の識別子(たとえば「LA−5」など)が付与されている。そして、この識別子がバトン本体1に表示され、バトン本体1への照明器具2の取り付け等を行う作業者はバトン本体1に表示された識別子を確認することによって、バトン本体1を識別する。ただし、従来のバトン本体1においては、図13(a)に示すように、識別子をケーブル接続箱21等の前後両側面のみに表示していたので、比較的高い位置にあるバトン本体1に関しては、バトン本体1を下方から見上げても識別子の表示が見えず、識別子を確認することができなかった。そのため、作業者がバトン本体1の識別子を確認する際には、比較的高い位置にあるバトン本体1についてはバトン本体1の識別子の表示を視認できる位置に移動する必要があり、作業性が悪かった。
【0044】
これに対して、本実施形態のバトン本体1では、ケーブル接続箱21の前後両側面に識別子を表示する構成に加えて、図6に示すように、ケーブル受け箱21の下面のうちの空洞部28に面した部位にも識別子を表示する表示部31が設けられている(図6では収納箱20および引掛けパイプ30を省略している)。これにより、比較的高い位置にあるバトン本体1についても、バトン本体1の下方から空洞部28を通して表示部31が視認可能となるので、識別子を容易に確認することができる。ここで、表示部31に光源を組み込むことにより自発光式の表示部31としたり、表示部31を照射する照明装置をバトン本体1に組み込んだりして、表示部31の視認性を高めてもよい。
【0045】
上述した本実施形態の構成によれば、収納箱20内の温度を図14(a)の従来構成に比べて約10度低下させることが可能となる。このように収納箱20内の温度上昇を防止したことにより、耐熱性の低い電子機器(たとえばネットワーク接続用のHUBなど)を収納箱20内に収納してバトン本体1に搭載することも可能になる。
【0046】
なお、本発明はたとえば劇場・ホールなど、スタジオ以外で使用する照明設備用のライトバトンに採用することもできる。
【0047】
(実施形態2)
本実施形態のライトバトンは、収納箱20の構成が実施形態1のライトバトンとは相違する。その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【0048】
本実施形態では、収納箱20が、
下面を形成する外板20aを含みフライダクト11の上面に重ねて配置される底部材と、前後方向の両側面を形成する外板20aを含み底部材における前後各端部からそれぞれ上方に立設された一対の側壁部材とを備え、底部材と各側壁部材とは、熱を遮断する内張り板20b(いわゆる遮熱板)を図7に示すように各外板20aに対して内側から対向する位置にそれぞれ有している。さらに、外板20aと内張り板20bとの間には、断熱材が充填されることにより断熱性を有する断熱層20cが形成されている。断熱層20cは断熱材を充填する代わりに空気層としてもよい。
【0049】
上記構成によれば、照明器具2付近から上昇する対流熱がフライダクト11の側方を通過し収納箱20側に流れ込んでも、この対流熱は断熱層20cで断熱されることになり、収納箱20の内部空間の温度上昇を確実に防止することができる。また、複数本のバトン本体1が前後方向に近接して配設されている場合に、収納箱20が、他のバトン本体1に取り付けられた照明器具2と隣り合う位置関係にあり、当該照明器具2から放射熱を受けることがあっても、この放射熱は断熱層20cで断熱されることになり、収納箱20の内部空間の温度上昇を防止することができる。
【0050】
なお、ここでは外板20aおよび内張り板20bを、フライダクト11に比べて熱伝導率の低い材料から形成することにより、フライダクト11からの熱の伝導も防止し、収納箱20内の温度上昇を確実に防止している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態1を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の要部のX−X断面図である。
【図2】同上の構成を示す断面図である。
【図3】同上の右側の保護カバーを外した状態を示し、(a)は上面図、(b)は正面図である。
【図4】同上の他の例を示す正面図である。
【図5】同上の構成を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図6】同上の構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態2の要部を示す断面図である。
【図8】従来のライトバトンを用いた照明設備を示す概略構成図である。
【図9】従来例の要部を示す正面図である。
【図10】従来のライトバトンを介錯棒で操る方法を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は正面図、(d)は側面図である。
【図11】従来の他のライトバトンを用いた照明設備を示す概略構成図である。
【図12】従来のさらに他のライトバトンを用いた照明設備を示す概略構成図である。
【図13】従来例の構成を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のY−Y断面図である。
【図14】(a)は従来例の構成を示す断面図、(b)は他の従来例の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 バトン本体
2 照明器具
4 昇降装置
5 ワイヤロープ
10 吊りパイプ
11 フライダクト
17 ボーダーケーブル
18 ケーブル受け籠
19 電子機器
20 収納箱
22 吊り金具
24 保護カバー
27 介錯棒
28 空洞部
30 引掛けパイプ(引掛け部)
31 表示部
11a 傾斜面
20a 外板
20b 内張り板
20c 断熱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台の照明器具を横方向に並べて取付可能であり昇降装置によって上下方向に昇降自在に支持されるバトン本体を備え、バトン本体は、前記横方向に長い柱体状に形成されており、それぞれ照明器具が接続されることにより各照明器具に電源供給する複数個の接続器が前記横方向に配列されたフライダクトと、フライダクトに保持されフライダクトの下方に照明器具を吊り下げる形で照明器具が取り付けられる吊りパイプと、フライダクトの上方においてフライダクトに取り付けられた上面開口の箱状であって、バトン本体の制御に用いる電子機器を収納するとともに、水平面内で前記横方向に直交する方向である奥行方向の両側面と下面とが熱を遮断する外板で形成された収納箱とを有し、フライダクトは、前記奥行方向の一対の側面が上方ほど互いに離れるように傾斜した傾斜面となっており、収納箱は、前記横方向と前記奥行方向とのいずれについてもフライダクトの上面の寸法内に収まる位置に配置されていることを特徴とするライトバトン。
【請求項2】
前記収納箱は、下面を形成する前記外板を含み前記フライダクトの上面に重ねて配置される底部材と、前記奥行方向の両側面を形成する外板を含み底部材における前記奥行方向の各端部からそれぞれ上方に立設された一対の側壁部材とを備え、各側壁部材は、熱を遮断する内張り板を各外板に対して内側から対向する位置にそれぞれ有し、外板と内張り板との間に断熱性を有する断熱層が形成されていることを特徴とする請求項1記載のライトバトン。
【請求項3】
前記フライダクトは、前記昇降装置で巻き取り可能なワイヤロープによって吊り下げられるようにワイヤロープの一端部が結合される吊り金具を有し、ワイヤロープと吊り金具との結合部位を覆い当該結合部位を保護する保護カバーが、一部をフライダクトに接触させて設けられており、フライダクトおよび保護カバーはいずれも熱伝導率の高い材料から形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のライトバトン。
【請求項4】
前記フライダクトの上方から垂れ下げられておりフライダクトに電源供給するボーダーケーブルのうち、前記バトン本体の上昇時に弛んだ部分を収納する上面開口のケーブル受け籠が、一部をフライダクトに接触させてフライダクトの上方に設けられており、フライダクトおよびケーブル受け籠はいずれも熱伝導率の高い材料から形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のライトバトン。
【請求項5】
前記ケーブル受け籠は下面の一部と前記フライダクトの上面との間に、前記収納箱が配置される空洞部を形成しており、収納箱は、ケーブル受け籠の下面との間に隙間を有して配置されていることを特徴とする請求項4記載のライトバトン。
【請求項6】
前記ケーブル受け籠は、下面において前記空洞部に面した部位に、前記バトン本体を識別可能とするためにバトン本体に付与されている識別子を表示する表示部が設けられていることを特徴とする請求項5記載のライトバトン。
【請求項7】
前記空洞部は、前記バトン本体の長手方向における中央部に設けられるとともに、前記照明器具の下方から照明器具の向きを変える際に用いられる介錯棒の先端部を挿入可能な大きさに形成されており、空洞部内には、介錯棒の先端部を引掛可能な引掛け部が設けられていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のライトバトン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−294192(P2007−294192A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119729(P2006−119729)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000136468)株式会社フジテレビジョン (14)
【出願人】(391046632)森平舞台機構株式会社 (5)
【Fターム(参考)】