ラクトバチルス・プランタラムの菌体又は培養物を有効成分とするインスリン抵抗性改善剤
【課題】植物性乳酸菌株の菌体または培養物を少量摂取することによりインスリン抵抗性を改善し得る新規なインスリン抵抗性改善剤ならびにそのようなインスリン抵抗性改善作用を有する食品および医薬を提供する。
【解決手段】微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とするインスリン抵抗性改善剤。
上記のインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする食品。
上記のインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とするインスリン抵抗性改善薬。
【解決手段】微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とするインスリン抵抗性改善剤。
上記のインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする食品。
上記のインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とするインスリン抵抗性改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本人に馴染みの深い植物性乳酸菌を少量摂取することでインスリン抵抗性を改善しうる薬剤およびその用途に関し、さらに具体的には、本発明は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とするインスリン抵抗性改善剤ならびにそれを含有する食品および医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の糖尿病発症率は著しく増加し、2007年国民健康・栄養調査の結果では糖尿病予備軍を併せて2210万人、成人の2割が該当すると言われている。しかし、根本的な治療法は確立しておらず、カロリー制限と運動療法による指導が行われ、適宜薬物療法が組み合わされている。
【0003】
特表2009−511471号公報(特許文献1)では、ラクトバチルス・プランタラムの自己免疫疾患に対する効果を示している。I型糖尿病は自己免疫疾患であるが、日本人に著しく多いII型糖尿病を改善するものではなかった。
【0004】
特開2008−074734号公報(特許文献2)は、アスパラガスからのGABAの抽出あるいはアスパラガスエキスとグルタミン酸ナトリウムを基質としてラクトバチルス・ブレビスで発酵させてGABAを生産させ、そのGABAを有効成分とするインスリン抵抗性改善薬を開示している。この技術は、本質的にGABAそのものを供与しそれを使用することである。
【0005】
特開2007−284360号公報(特許文献3)は、乳酸菌の有機溶媒抽出物がペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)依存的遺伝子転写活性があることを開示しているが、溶媒抽出操作が煩雑であり、菌体そのものに活性は無い。この文献には、高脂血症、肥満症、高血圧の他に糖尿病を含めた疾患の治療、予防に関する一般記載はみられるものの、糖尿病に関しI型あるいはII型糖尿病を含めて具体的な記載はない。さらに、乳酸菌に関してもラクトバチルス・プランタラムについての言及はない。
【0006】
特開2003−252770号公報(特許文献4)および特開平10−7577 号公報(特許文献5)には、乳酸菌が糖尿病に有効であることが記載されているが、使用する乳酸菌はいずれもいわゆる動物性乳酸菌であり、大量投与が必要であるなど、必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−511471号公報
【特許文献2】特開2008−074734号公報
【特許文献3】特開2007−284360号公報
【特許文献4】特開2003−252770号公報
【特許文献5】特開平10−7577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況に鑑み、本発明は、特定の植物性乳酸菌株の菌体または培養物を少量摂取することによりインスリン抵抗性を改善し得る新規なインスリン抵抗性改善剤、ならびにそのようなインスリン抵抗性改善作用を有する食品および医薬を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、植物性乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体が上記のようなインスリン抵抗性を改善する作用を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の構成を要旨とするインスリン抵抗性改善剤ならびにその食品および医薬への用途に関するものである。
(1)微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とする、インスリン抵抗性改善剤。
(2)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、食品。
(3)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬。
【0011】
別の観点において、本発明は下記のような構成を要旨とするものでもある。
(4)食品として用いられる、上記(1)に記載のインスリン抵抗性改善剤。
(5)医薬として用いられる、上記(1)に記載のインスリン抵抗性改善剤。
(6)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善食品。
(7)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善作用を有する食品。
(8)微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を含有し、インスリン抵抗性改善作用を有することを特徴とし、インスリン抵抗性改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
(9)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、糖尿病の予防または改善もしくは治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を使用することにより、動物性乳酸菌のような大量投与を必要とせずにインスリン抵抗性を改善することができ、また、このようなインスリン抵抗性の改善により糖尿病の予防または治療にも有用である。本発明におけるラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、漬物や各種発酵食品を作る際に有用な植物性乳酸菌であり、特に日本人にとって食経験も長く馴染みがあり、摂取することに対する抵抗も少ない。ラクトバチルス・プランタラムの菌体によってインスリン抵抗性を改善した例はこれまでに無かった。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株が、上記のようなインスリン抵抗性を改善する作用を有することは思いがけなかったことと解される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験例における腹腔内糖負荷試験の結果を示すグラフ。
【図2】試験例における尿糖陽性率(10週目)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体または培養物を有効成分とすることを特徴とするものであることは前記したところである。ここで、インスリン抵抗性は、血中のインスリンレベルが高いにもかかわらず血糖値が高いまま継続する状態を意味し、インスリン抵抗性改善剤は、このインスリン抵抗性を改善させる作用を有するものである(「日経バイオ最新用語辞典 第5版、日経BP社発行」参照)。インスリン抵抗性評価法としては、HOMA−R(homeostasis model assessment)もしくはHOMA−IR(homeostasis model assessment-insulin resistance)、c−ペプチド値等を指標として評価する方法がある。
【0016】
本発明において使用されるラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、具体的には、工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センター)に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されている。
【0017】
ラクトバチルス・プランタラムNO.14株は、野菜(白菜など)から分離されたもので、下記のような菌学的性質を有するものである(特開平4−63587号公報参照)。
A.形態的性状
(1) 細胞の形・大きさ:桿菌、2〜5μm×1.5μm (2) 運動性:なし (3)胞子の有無:なし (4) グラム染色:陽性 (5) 細胞の多形性の有無:なし
B.培地上の生育状態
(1) MRS寒天培地:30℃、3日間で直径約3mmの白色、円形のコロニーを形成する。
(2) MRS液体培地:30℃、3日間で混濁し、底部に沈殿する。
(3) MRS寒天穿刺培養:穿刺に沿って一様に生育、表面にも生育する。
C.生理的性質
(1) 硝酸塩を還元しない (2) インドールを生成しない (3) ゼラチンを液化しない (4) カタラーゼ反応:陰性 (5) デンプンを加水分解しない (6) グルコース発酵形式:ホモ発酵 (7) 生成乳酸:DL-乳酸 (8) 耐塩性:NaCl〜10%まで生育し、11%(w/v)で生育不可
(9) 糖類からの酸の生成及びガス生成の有無
酸の生成 ガスの生成 酸の生成 ガスの生成
アミグダリン + − メレジトース + −
アラビノース − − メリビオース + −
セロビオース + − ラフィノース + −
エスクリン + − ラムノース − −
フラクトース + − リボース + −
ガラクトース + − サリシン + −
グルコン酸 + − ソルビトール + −
ラクトース + − シュクロース + −
マルトース + − トレハロース + −
マンニトール + − キシロース − −
マンノース + −
(10) 生育温度:至適温度 28〜31℃、生育範囲 7〜42℃
(11) 生育pH:至適pH 6.9、生育範囲 3.0〜7.8
(12) リトマスミルク:酸性化 (13) ウレアーゼ:陰性 (14) オキシダーゼ:陰性 (15) 硫化水素の生成:生成せず (16) VP反応:陰性 (17) MR反応:陽性
【0018】
上記の分類学的性状と糖の発酵性は、典型的なラクトバチルス・プランタラムの性状を有していた。なお、本発明におけるラクトバチルス・プランタラムNo.14株はGABA生産能を有していない。
【0019】
D.同定試験
以下に記載したラクトバチルス属の基準菌株、被検菌No.14株のrecA(recombinase A protein)遺伝子の部分塩基配列約300bpを決定し、その配列を用いて分子系統解析を行った。(Tはその種の基準株である)
Lactobacillus brevis LMG7944T (AJ621625)
Lactobacillus collinoidesLMG9194T(AJ621631)
Lactobacillus paraplantarumLMG16673T(AJ621662)
Lactobacillus paraplantarumLMG18402(AJ271963)
Lactobacillus paraplantarumNIRD-P2(AJ271964)
Lactobacillus pentosusLMG10755T(AJ286118)
Lactobacillus pentosusLMG10755T(AJ621666)
Lactobacillus pentosusLMG18401(AJ292254)
Lactobacillus plantarum subsp.argentoratensisA7(AJ640080)
Lactobacillus plantarum subsp.argentoratensisDK022T(AJ640079)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumATCC14917T(AJ286119)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumB41(AJ286119)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumWCFS1(NC_004567)
【0020】
その結果No.14株はLactobacillus plantarumのrecA遺伝子で形成されるクラスター内に含まれ、Lactobacillus plantarumに帰属することが推定された。
【0021】
本発明で使用するラクトバチルス・プランタラムNo.14株は菌体または培養物(菌体を含む)で使用するが、菌体がもとの形態を維持したものの他、破砕もしくは粉砕されたものであってもよい。本発明において使用するラクトバチルス・プランタラムNo.14株の培養は、この細菌が増殖可能な条件であればどのような方法でもよく、乳酸菌の培養に用いられる通常の固形培地あるいは液体培地(例えばMRS培地)等を使用して通常の培養条件で培養することができる。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の培養物は、そのまま、あるいは遠心分離等で集菌して湿潤状態とするか、その後適当な液体(例えば分岐デキストリン水溶液等)に懸濁して液体状態で本発明のインスリン抵抗性改善剤として使用することができるが、さらにこれを乾燥させた形態のものを使用することもできる。
【0022】
ラクトバチルス・プランタラム菌体または培養物を乾燥させる方法としては、例えば自然乾燥法、加熱法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等の通常の方法を使用することができる。本発明において、乾燥させたラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、そのままでも使用できるが、通常の粉砕機等を用いて粉末化することもできる。また、湿潤状態(懸濁状態を含む)の菌体は、必要に応じて、通常の破砕機等を用いて破砕したものをインスリン抵抗性改善剤として使用することもできる。従って、本発明におけるラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、湿潤状態あるいは乾燥状態のいずれでも使用可能であり、また、もとの菌体の形態を保持したものでもよいし、微細片状に破壊された形態であってもよく、その状態もしくは形態は特に制限されない。本発明においては、使用し易さ、保存し易さ、安定性等の点から粉末の形態のものがより好ましい。
【0023】
後記実施例に示されるように、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体は、インスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)動物モデル試験において、HOMA−IRによる評価が対照と比較して有意に低下し、インスリン抵抗性を改善させる作用を有することが確認された。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、上記のようなインスリン抵抗性改善効果を示すことからインスリン抵抗性改善剤として有用である。本発明において、前記のように調製された基本形態のラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、食品用のインスリン抵抗性改善剤あるいは医薬用のインスリン抵抗性改善薬として種々の形態で使用(摂取)することができる。本発明によるインスリン抵抗性改善剤は、このようなインスリン抵抗性の改善によりII型糖尿病の予防もしくは改善または治療にも有用である。
【0024】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤を食品(飲食品)として用いる場合は、サプリメントもしくは栄養補助剤等の健康補助食品とするかあるいは一般の飲食品に含有させた健康食品等種々の食品形態とすることができる。そのような食品の形態としては、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を含有させた錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末、ゼリー、ドリンク剤等の種々の形態とすることができる。また、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を一般の飲食品に含有もしくは混合させる場合の食品としては特に限定されないが、例えば、固形食品としては漬け物類、菓子類、ケーキ、ふりかけ類、麺類等、半流動食品としては、ヨーグルト、ゼリー類、粥類等、飲料としては、乳酸菌飲料、スープ類、お茶、青汁等があげられる。上記のような種々の形態の食品を調製する場合、必要に応じて一般に飲食品に用いられる乳化剤、分散剤、緩衝剤等の通常の添加剤を使用することができる。また必要に応じて、栄養補助等を目的としてビタミン類、ミネラル類、食物繊維等の添加物を適量配合することもできる。ビタミンCあるいはE等を添加した場合には、長期保存時の劣化(退色、酸化等)を防止することができる。本発明による飲食品は、インスリン抵抗性に対して穏やかに作用してこれを改善することができる。本発明の食品は、製品形態として上記のようなインスリン抵抗性の改善(または血糖値の上昇抑制、血糖値が気になる方もしくは高めの方)のために用いられる旨の表示を付した飲食品(特定保健用食品等)とすることができる。
【0025】
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体または培養物の配合量は、一般に、乾燥形態での菌体含量として、食品一食分あたり0.5〜1g程度が適当である。また、本発明による食品を摂取する場合、乾燥状態のラクトバチルス・プランタラムの菌体量として、経口摂取で一般に毎食事あたり109〜1011CFU程度、あるいは1日あたり1010〜1012CFU程度が適当である。
【0026】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤を医薬品として用いる場合は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物は、投与方法、投与目的等によってきまる適当な剤形、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤等の種々の形態とすることができる。これらの製剤を製造するには、製薬上許容される担体あるいは希釈剤等、具体的には通常医薬に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、等張化剤等を添加することができる。投与方法としては、経口投与、直腸投与等の投与経路で投与することができる。本発明医薬の投与量は、投与方法、患者の状況等に応じて変化することはいうまでもなく、また適量と投与回数は専門医によって決定されるが、具体的には、ラクトバチルス・プランタラム菌体乾燥物として成人1日当たり1010〜1012CFU程度が適当である。
【0027】
上記のような本発明によるインスリン抵抗性改善剤、あるいはインスリン抵抗性改善食品または医薬は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を使用することにより、動物において実際にインスリン抵抗性を改善させることができ、従って、インスリン抵抗性の改善に有効であり、さらには糖尿病の予防もしくは改善または治療に有効である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
[試験例]インスリン非依存性糖尿病動物モデルに対する試験
【0030】
1.乳酸菌培養物の調製
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、まず115℃20分の滅菌処理をしたフラクトース糖源Rogasa培地で前培養した。その後4L容バイアルビンにて本培養を行った。培養液を回収し、遠心分離機にて集菌、2回生理食塩水で洗浄・遠心後に分岐デキストリンとともに凍結乾燥させた。これをミルで粉砕した。その結果この粉末の乳酸菌数は8.2×109CFU/gで30g調製できた。
【0031】
2.モデル動物と試験群
糖尿病モデルマウスである4週齢のKK-TA系雄性マウス(日本クレア)を2群に振り分け、AIN-93Gを基本飼料とし、うち1群には1.0×108CFUのラクトバチルス・プランタラムNo.14株凍結乾燥菌体、対照群として同質量の分岐デキストリンを毎日経口投与した。
【0032】
3.試験方法
実験期間中、体重ならびに食餌摂取量を測定、尿糖を隔週測定とした。飼育9週目に腹腔内糖負荷試験を行った。10週目に16時間絶食後、解剖した。血漿血糖値、血漿インスリン量、各組織重量等を測定し、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株のインスリン抵抗性指標に与える影響を調べた。
【0033】
4.試験結果
結果を表1、図1〜2に示す。飼料摂取量、体重、腹腔内糖負荷試験については有意な差は無かったが、インスリン抵抗性改善に関する指標(HOMA−IR)について、明らかに有効性を示した。
【0034】
表1 インスリン抵抗性の状態
対照 No.14株
絶食時血糖値(mg/dl) 112.8±13.7 113.9±8.9
絶食時インスリン濃度(pg/ml)2296±438 982±123
HOMA−IR 16.0±2.4 7.1±1.0
【0035】
[実施例1]乾燥粉末の調製
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株をMRS液体培地で前培養し、本培養物を分岐デキストリンと混合し、凍結乾燥し粉末化し、本発明のインスリン抵抗性改善剤を調製した。
【0036】
[実施例2]カプセル化剤の製造
凍結乾燥粉末を散剤化した後、水をバインダーとして造粒物を得、空カプセルに300mg充填し、2×1010CFU/個となるようカプセル剤とした。
【0037】
[実施例3]製剤の製造
凍結乾燥菌体に還元水あめ、ソルビトール、アラビアガムを適宜水をバインダーとして加熱・造粒しながら添加し、クエン酸、香料などで味を調整し、粉末油脂とショ糖脂肪酸エステルを加え混合し、圧縮錠剤機により圧縮して、1錠当たりの有効成分を1010CFU/錠 含有する錠剤を製造した。
【0038】
[実施例4]発酵食品の製造
米粉に適宜加水し、加熱α化したものに糖(ブドウ糖、ショ糖等)を添加し、前培養したラクトバチルス・プランタラムNo.14株を接種し、30℃24時間発酵させ米粉発酵物を得た。これに果汁、ゲル化剤などを添加し内容量50gのカップデザートとした。最終的な有効成分を1010CFU/食含む発酵食品を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、インスリン抵抗性改善剤、さらに具体的には、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とするインスリン抵抗性改善剤ならびにそれを含む食品および医薬として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本人に馴染みの深い植物性乳酸菌を少量摂取することでインスリン抵抗性を改善しうる薬剤およびその用途に関し、さらに具体的には、本発明は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とするインスリン抵抗性改善剤ならびにそれを含有する食品および医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の糖尿病発症率は著しく増加し、2007年国民健康・栄養調査の結果では糖尿病予備軍を併せて2210万人、成人の2割が該当すると言われている。しかし、根本的な治療法は確立しておらず、カロリー制限と運動療法による指導が行われ、適宜薬物療法が組み合わされている。
【0003】
特表2009−511471号公報(特許文献1)では、ラクトバチルス・プランタラムの自己免疫疾患に対する効果を示している。I型糖尿病は自己免疫疾患であるが、日本人に著しく多いII型糖尿病を改善するものではなかった。
【0004】
特開2008−074734号公報(特許文献2)は、アスパラガスからのGABAの抽出あるいはアスパラガスエキスとグルタミン酸ナトリウムを基質としてラクトバチルス・ブレビスで発酵させてGABAを生産させ、そのGABAを有効成分とするインスリン抵抗性改善薬を開示している。この技術は、本質的にGABAそのものを供与しそれを使用することである。
【0005】
特開2007−284360号公報(特許文献3)は、乳酸菌の有機溶媒抽出物がペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)依存的遺伝子転写活性があることを開示しているが、溶媒抽出操作が煩雑であり、菌体そのものに活性は無い。この文献には、高脂血症、肥満症、高血圧の他に糖尿病を含めた疾患の治療、予防に関する一般記載はみられるものの、糖尿病に関しI型あるいはII型糖尿病を含めて具体的な記載はない。さらに、乳酸菌に関してもラクトバチルス・プランタラムについての言及はない。
【0006】
特開2003−252770号公報(特許文献4)および特開平10−7577 号公報(特許文献5)には、乳酸菌が糖尿病に有効であることが記載されているが、使用する乳酸菌はいずれもいわゆる動物性乳酸菌であり、大量投与が必要であるなど、必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−511471号公報
【特許文献2】特開2008−074734号公報
【特許文献3】特開2007−284360号公報
【特許文献4】特開2003−252770号公報
【特許文献5】特開平10−7577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況に鑑み、本発明は、特定の植物性乳酸菌株の菌体または培養物を少量摂取することによりインスリン抵抗性を改善し得る新規なインスリン抵抗性改善剤、ならびにそのようなインスリン抵抗性改善作用を有する食品および医薬を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、植物性乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体が上記のようなインスリン抵抗性を改善する作用を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の構成を要旨とするインスリン抵抗性改善剤ならびにその食品および医薬への用途に関するものである。
(1)微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とする、インスリン抵抗性改善剤。
(2)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、食品。
(3)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬。
【0011】
別の観点において、本発明は下記のような構成を要旨とするものでもある。
(4)食品として用いられる、上記(1)に記載のインスリン抵抗性改善剤。
(5)医薬として用いられる、上記(1)に記載のインスリン抵抗性改善剤。
(6)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善食品。
(7)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善作用を有する食品。
(8)微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を含有し、インスリン抵抗性改善作用を有することを特徴とし、インスリン抵抗性改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
(9)上記(1)に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、糖尿病の予防または改善もしくは治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を使用することにより、動物性乳酸菌のような大量投与を必要とせずにインスリン抵抗性を改善することができ、また、このようなインスリン抵抗性の改善により糖尿病の予防または治療にも有用である。本発明におけるラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、漬物や各種発酵食品を作る際に有用な植物性乳酸菌であり、特に日本人にとって食経験も長く馴染みがあり、摂取することに対する抵抗も少ない。ラクトバチルス・プランタラムの菌体によってインスリン抵抗性を改善した例はこれまでに無かった。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株が、上記のようなインスリン抵抗性を改善する作用を有することは思いがけなかったことと解される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験例における腹腔内糖負荷試験の結果を示すグラフ。
【図2】試験例における尿糖陽性率(10週目)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体または培養物を有効成分とすることを特徴とするものであることは前記したところである。ここで、インスリン抵抗性は、血中のインスリンレベルが高いにもかかわらず血糖値が高いまま継続する状態を意味し、インスリン抵抗性改善剤は、このインスリン抵抗性を改善させる作用を有するものである(「日経バイオ最新用語辞典 第5版、日経BP社発行」参照)。インスリン抵抗性評価法としては、HOMA−R(homeostasis model assessment)もしくはHOMA−IR(homeostasis model assessment-insulin resistance)、c−ペプチド値等を指標として評価する方法がある。
【0016】
本発明において使用されるラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、具体的には、工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センター)に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されている。
【0017】
ラクトバチルス・プランタラムNO.14株は、野菜(白菜など)から分離されたもので、下記のような菌学的性質を有するものである(特開平4−63587号公報参照)。
A.形態的性状
(1) 細胞の形・大きさ:桿菌、2〜5μm×1.5μm (2) 運動性:なし (3)胞子の有無:なし (4) グラム染色:陽性 (5) 細胞の多形性の有無:なし
B.培地上の生育状態
(1) MRS寒天培地:30℃、3日間で直径約3mmの白色、円形のコロニーを形成する。
(2) MRS液体培地:30℃、3日間で混濁し、底部に沈殿する。
(3) MRS寒天穿刺培養:穿刺に沿って一様に生育、表面にも生育する。
C.生理的性質
(1) 硝酸塩を還元しない (2) インドールを生成しない (3) ゼラチンを液化しない (4) カタラーゼ反応:陰性 (5) デンプンを加水分解しない (6) グルコース発酵形式:ホモ発酵 (7) 生成乳酸:DL-乳酸 (8) 耐塩性:NaCl〜10%まで生育し、11%(w/v)で生育不可
(9) 糖類からの酸の生成及びガス生成の有無
酸の生成 ガスの生成 酸の生成 ガスの生成
アミグダリン + − メレジトース + −
アラビノース − − メリビオース + −
セロビオース + − ラフィノース + −
エスクリン + − ラムノース − −
フラクトース + − リボース + −
ガラクトース + − サリシン + −
グルコン酸 + − ソルビトール + −
ラクトース + − シュクロース + −
マルトース + − トレハロース + −
マンニトール + − キシロース − −
マンノース + −
(10) 生育温度:至適温度 28〜31℃、生育範囲 7〜42℃
(11) 生育pH:至適pH 6.9、生育範囲 3.0〜7.8
(12) リトマスミルク:酸性化 (13) ウレアーゼ:陰性 (14) オキシダーゼ:陰性 (15) 硫化水素の生成:生成せず (16) VP反応:陰性 (17) MR反応:陽性
【0018】
上記の分類学的性状と糖の発酵性は、典型的なラクトバチルス・プランタラムの性状を有していた。なお、本発明におけるラクトバチルス・プランタラムNo.14株はGABA生産能を有していない。
【0019】
D.同定試験
以下に記載したラクトバチルス属の基準菌株、被検菌No.14株のrecA(recombinase A protein)遺伝子の部分塩基配列約300bpを決定し、その配列を用いて分子系統解析を行った。(Tはその種の基準株である)
Lactobacillus brevis LMG7944T (AJ621625)
Lactobacillus collinoidesLMG9194T(AJ621631)
Lactobacillus paraplantarumLMG16673T(AJ621662)
Lactobacillus paraplantarumLMG18402(AJ271963)
Lactobacillus paraplantarumNIRD-P2(AJ271964)
Lactobacillus pentosusLMG10755T(AJ286118)
Lactobacillus pentosusLMG10755T(AJ621666)
Lactobacillus pentosusLMG18401(AJ292254)
Lactobacillus plantarum subsp.argentoratensisA7(AJ640080)
Lactobacillus plantarum subsp.argentoratensisDK022T(AJ640079)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumATCC14917T(AJ286119)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumB41(AJ286119)
Lactobacillus plantarum subsp.plantarumWCFS1(NC_004567)
【0020】
その結果No.14株はLactobacillus plantarumのrecA遺伝子で形成されるクラスター内に含まれ、Lactobacillus plantarumに帰属することが推定された。
【0021】
本発明で使用するラクトバチルス・プランタラムNo.14株は菌体または培養物(菌体を含む)で使用するが、菌体がもとの形態を維持したものの他、破砕もしくは粉砕されたものであってもよい。本発明において使用するラクトバチルス・プランタラムNo.14株の培養は、この細菌が増殖可能な条件であればどのような方法でもよく、乳酸菌の培養に用いられる通常の固形培地あるいは液体培地(例えばMRS培地)等を使用して通常の培養条件で培養することができる。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の培養物は、そのまま、あるいは遠心分離等で集菌して湿潤状態とするか、その後適当な液体(例えば分岐デキストリン水溶液等)に懸濁して液体状態で本発明のインスリン抵抗性改善剤として使用することができるが、さらにこれを乾燥させた形態のものを使用することもできる。
【0022】
ラクトバチルス・プランタラム菌体または培養物を乾燥させる方法としては、例えば自然乾燥法、加熱法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等の通常の方法を使用することができる。本発明において、乾燥させたラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、そのままでも使用できるが、通常の粉砕機等を用いて粉末化することもできる。また、湿潤状態(懸濁状態を含む)の菌体は、必要に応じて、通常の破砕機等を用いて破砕したものをインスリン抵抗性改善剤として使用することもできる。従って、本発明におけるラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、湿潤状態あるいは乾燥状態のいずれでも使用可能であり、また、もとの菌体の形態を保持したものでもよいし、微細片状に破壊された形態であってもよく、その状態もしくは形態は特に制限されない。本発明においては、使用し易さ、保存し易さ、安定性等の点から粉末の形態のものがより好ましい。
【0023】
後記実施例に示されるように、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体は、インスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)動物モデル試験において、HOMA−IRによる評価が対照と比較して有意に低下し、インスリン抵抗性を改善させる作用を有することが確認された。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、上記のようなインスリン抵抗性改善効果を示すことからインスリン抵抗性改善剤として有用である。本発明において、前記のように調製された基本形態のラクトバチルス・プランタラムの菌体または培養物は、食品用のインスリン抵抗性改善剤あるいは医薬用のインスリン抵抗性改善薬として種々の形態で使用(摂取)することができる。本発明によるインスリン抵抗性改善剤は、このようなインスリン抵抗性の改善によりII型糖尿病の予防もしくは改善または治療にも有用である。
【0024】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤を食品(飲食品)として用いる場合は、サプリメントもしくは栄養補助剤等の健康補助食品とするかあるいは一般の飲食品に含有させた健康食品等種々の食品形態とすることができる。そのような食品の形態としては、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を含有させた錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末、ゼリー、ドリンク剤等の種々の形態とすることができる。また、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を一般の飲食品に含有もしくは混合させる場合の食品としては特に限定されないが、例えば、固形食品としては漬け物類、菓子類、ケーキ、ふりかけ類、麺類等、半流動食品としては、ヨーグルト、ゼリー類、粥類等、飲料としては、乳酸菌飲料、スープ類、お茶、青汁等があげられる。上記のような種々の形態の食品を調製する場合、必要に応じて一般に飲食品に用いられる乳化剤、分散剤、緩衝剤等の通常の添加剤を使用することができる。また必要に応じて、栄養補助等を目的としてビタミン類、ミネラル類、食物繊維等の添加物を適量配合することもできる。ビタミンCあるいはE等を添加した場合には、長期保存時の劣化(退色、酸化等)を防止することができる。本発明による飲食品は、インスリン抵抗性に対して穏やかに作用してこれを改善することができる。本発明の食品は、製品形態として上記のようなインスリン抵抗性の改善(または血糖値の上昇抑制、血糖値が気になる方もしくは高めの方)のために用いられる旨の表示を付した飲食品(特定保健用食品等)とすることができる。
【0025】
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体または培養物の配合量は、一般に、乾燥形態での菌体含量として、食品一食分あたり0.5〜1g程度が適当である。また、本発明による食品を摂取する場合、乾燥状態のラクトバチルス・プランタラムの菌体量として、経口摂取で一般に毎食事あたり109〜1011CFU程度、あるいは1日あたり1010〜1012CFU程度が適当である。
【0026】
本発明によるインスリン抵抗性改善剤を医薬品として用いる場合は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物は、投与方法、投与目的等によってきまる適当な剤形、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤等の種々の形態とすることができる。これらの製剤を製造するには、製薬上許容される担体あるいは希釈剤等、具体的には通常医薬に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、等張化剤等を添加することができる。投与方法としては、経口投与、直腸投与等の投与経路で投与することができる。本発明医薬の投与量は、投与方法、患者の状況等に応じて変化することはいうまでもなく、また適量と投与回数は専門医によって決定されるが、具体的には、ラクトバチルス・プランタラム菌体乾燥物として成人1日当たり1010〜1012CFU程度が適当である。
【0027】
上記のような本発明によるインスリン抵抗性改善剤、あるいはインスリン抵抗性改善食品または医薬は、ラクトバチルス・プランタラムNo.14の菌体または培養物を使用することにより、動物において実際にインスリン抵抗性を改善させることができ、従って、インスリン抵抗性の改善に有効であり、さらには糖尿病の予防もしくは改善または治療に有効である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
[試験例]インスリン非依存性糖尿病動物モデルに対する試験
【0030】
1.乳酸菌培養物の調製
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、まず115℃20分の滅菌処理をしたフラクトース糖源Rogasa培地で前培養した。その後4L容バイアルビンにて本培養を行った。培養液を回収し、遠心分離機にて集菌、2回生理食塩水で洗浄・遠心後に分岐デキストリンとともに凍結乾燥させた。これをミルで粉砕した。その結果この粉末の乳酸菌数は8.2×109CFU/gで30g調製できた。
【0031】
2.モデル動物と試験群
糖尿病モデルマウスである4週齢のKK-TA系雄性マウス(日本クレア)を2群に振り分け、AIN-93Gを基本飼料とし、うち1群には1.0×108CFUのラクトバチルス・プランタラムNo.14株凍結乾燥菌体、対照群として同質量の分岐デキストリンを毎日経口投与した。
【0032】
3.試験方法
実験期間中、体重ならびに食餌摂取量を測定、尿糖を隔週測定とした。飼育9週目に腹腔内糖負荷試験を行った。10週目に16時間絶食後、解剖した。血漿血糖値、血漿インスリン量、各組織重量等を測定し、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株のインスリン抵抗性指標に与える影響を調べた。
【0033】
4.試験結果
結果を表1、図1〜2に示す。飼料摂取量、体重、腹腔内糖負荷試験については有意な差は無かったが、インスリン抵抗性改善に関する指標(HOMA−IR)について、明らかに有効性を示した。
【0034】
表1 インスリン抵抗性の状態
対照 No.14株
絶食時血糖値(mg/dl) 112.8±13.7 113.9±8.9
絶食時インスリン濃度(pg/ml)2296±438 982±123
HOMA−IR 16.0±2.4 7.1±1.0
【0035】
[実施例1]乾燥粉末の調製
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株をMRS液体培地で前培養し、本培養物を分岐デキストリンと混合し、凍結乾燥し粉末化し、本発明のインスリン抵抗性改善剤を調製した。
【0036】
[実施例2]カプセル化剤の製造
凍結乾燥粉末を散剤化した後、水をバインダーとして造粒物を得、空カプセルに300mg充填し、2×1010CFU/個となるようカプセル剤とした。
【0037】
[実施例3]製剤の製造
凍結乾燥菌体に還元水あめ、ソルビトール、アラビアガムを適宜水をバインダーとして加熱・造粒しながら添加し、クエン酸、香料などで味を調整し、粉末油脂とショ糖脂肪酸エステルを加え混合し、圧縮錠剤機により圧縮して、1錠当たりの有効成分を1010CFU/錠 含有する錠剤を製造した。
【0038】
[実施例4]発酵食品の製造
米粉に適宜加水し、加熱α化したものに糖(ブドウ糖、ショ糖等)を添加し、前培養したラクトバチルス・プランタラムNo.14株を接種し、30℃24時間発酵させ米粉発酵物を得た。これに果汁、ゲル化剤などを添加し内容量50gのカップデザートとした。最終的な有効成分を1010CFU/食含む発酵食品を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、インスリン抵抗性改善剤、さらに具体的には、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とするインスリン抵抗性改善剤ならびにそれを含む食品および医薬として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とする、インスリン抵抗性改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項3】
請求項1に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬。
【請求項1】
微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体又は培養物を有効成分とすることを特徴とする、インスリン抵抗性改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項3】
請求項1に記載されたインスリン抵抗性改善剤を含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2011−57622(P2011−57622A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209509(P2009−209509)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名 第63回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集 2.発行者名 社団法人 日本栄養・食糧学会 会長 矢ケ崎 一三 3.発行年月日 2009年 5月 1日
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(591104848)株式会社桃屋 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名 第63回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集 2.発行者名 社団法人 日本栄養・食糧学会 会長 矢ケ崎 一三 3.発行年月日 2009年 5月 1日
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(591104848)株式会社桃屋 (17)
【Fターム(参考)】
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