説明

ラクトバチルス・ペントーサスを含む、免疫調節作用を有する組成物

本発明は、免疫調節作用を有する新規乳酸菌を含む組成物を提供する。より詳細には、本発明は、京都の伝統的な漬物であるしば漬けから分離した新規乳酸菌を含む免疫調節作用を有する飲食品や医薬品等を提供し、本乳酸菌は、ラクトバチルス・ペントーサスに属し、かつ、グリセロールの資化性が無いまたは弱いことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、免疫調節作用を有するラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)を含む組成物に関するものである。
【0002】
〔背景技術〕
乳酸菌は整腸作用や免疫賦活作用といった有益な生理活性を有することが知られている。このような有益な生理活性を有する乳酸菌の多くは動物性の発酵乳製品や腸管から分離された乳酸菌であるが、植物性乳酸菌においても免疫賦活作用を有する株が見出されている。
【0003】
例えば、特許文献1には免疫賦活作用を有する乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)L−137株について記載されている。また、京都の伝統的な漬物である「すぐき」から分離されたラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)Labre株や、「しば漬け」から分離されたラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)DA74N株なども免疫賦活作用を有することが知られている(非特許文献1、2参照)。
【0004】
〔特許文献1〕
特開平10−167972号公報(公開日:平成10年6月23日)
〔非特許文献1〕
岸惇子、小久保あおい、赤谷薫、扇谷えり子、藤田晢也、岸田綱太郎:有用乳酸菌選定のためのスクリーニング(1)ヒト末梢血における植物性乳酸菌のin vitro免疫賦活効果、Pasken Journal 15. 21-26, 2002
〔非特許文献2〕
赤谷薫、岸惇子、扇谷えり子、小久保あおい、藤田晢也、岸田綱太郎:第6回 腸内細菌学会(2002.05.30-31)要旨
京都の伝統的な漬物からは多くの菌が分離可能であり、上記Labre株以外にも免疫賦活作用等の有用な生理活性を有する菌株が存在すると考えられる。上記漬物から分離される菌株で、最も分離頻度が高い株はラクトバチルス・プランタラムおよびラクトバチルス・ペントーサスであるが、漬物から分離された菌の効能については、従来あまり研究されていない。さらに、漬物から分離される乳酸菌は、元々食品に含まれている菌であるため、それを生体内に取り込んだとしても、安全性は高いものと考えられる。それゆえ、漬物から有用性の高い乳酸菌が分離されれば、当該乳酸菌を含む有用な組成物を構成することができる。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、京都の伝統的な漬物から分離された有用な生理活性を有する乳酸菌を含む安全性の高い飲食品や医薬品等を提供することにある。
【0006】
〔発明の開示〕
本発明者らは、上記の課題を解決するために、漬物から分離された16種類の乳酸菌について、その免疫調節作用を調査し、その中から選択したラクトバチルス・ペントーサスに属する乳酸菌について、より詳細に免疫調節作用を調査した結果、当該乳酸菌を飲料水に混ぜて動物に摂取させた場合や、当該乳酸菌の懸濁液を動物に投与した場合に、免疫賦活作用や抗アレルギー作用等の免疫調節作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る組成物は、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属し、かつ、グリセロールの資化性が無いまたは弱い乳酸菌を含むことを特徴としている。本乳酸菌は、免疫調節作用を有することが好ましく、また、細胞外多糖産生株であることが好ましい。
【0008】
好適な乳酸菌としては、ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株を挙げることができる。本ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株は、本発明者らがしば漬けから分離し、高い免疫調節作用を有することを見出した株である。本菌は、DS84C株とも称される。本菌は独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されており(Lactobacillus pentosus SAM 2336)、その受託番号はFERM ABP−10028である。したがって、本発明に係る組成物は、上記ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株を含むものであることが好ましい。
【0009】
本発明に係る組成物は、上記の乳酸菌を含む組成物であって、免疫調節作用を有する組成物である。また、本発明に係る組成物は、上記の乳酸菌を含む組成物であって、抗アレルギー作用を有する組成物である。さらに、本発明に係る組成物には、乳酸菌を生菌として含むものであってもよい。これらの組成物は、免疫調節作用および/または抗アレルギー作用を有する飲食品や医薬品として有用である。
【0010】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【0011】
〔発明を実施するための最良の形態〕
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
本発明に係る組成物に含まれる乳酸菌は、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属し、かつ、グリセロールの資化性が無いまたは弱い乳酸菌であればよい。このような乳酸菌を含む組成物は、当該乳酸菌が有する有用な生理活性を発揮できる組成物として高い価値がある。なかでも、免疫調節作用を有するものであることが好ましい。免疫調節作用を有するとは、定常状態や免疫機能が低下している場合にこれを活性化する作用(免疫賦活作用)、または免疫機能が過度に亢進しているときにこれを抑制して適切な免疫状態とする作用(免疫抑制作用)、細胞性免疫と液性免疫のバランスを最適化する作用の少なくともいずれか一方の作用を有することを意味する。免疫調節作用としては、例えば、サイトカイン産生の促進または抑制作用、リンパ球活性化作用、NK(ナチュラル・キラー)活性増強作用、Th1/Th2バランス改善作用、免疫低下抑制作用、抗アレルギー作用等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明に係る組成物に含まれる乳酸菌は、さらに、細胞外多糖(Extracelluler Polysaccharide:以下「EPS」と略記する。)産生株であることが好ましい。EPSは、菌の属、種、株によって様々な性質や化学構造をしているが、本乳酸菌のEPSは、菌体表面に留まる莢膜多糖であり、墨汁染色により容易に確認できる。EPS産生株は非産生株と比較すると親水性が高いため、食品に応用しやすいという利点を有する。
【0014】
本発明に係る組成物に含まれる乳酸菌の代表的なものとして、ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株を挙げることができる。本菌は独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM ABP−10028である。以下に、ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株(以下、「S−PT84」と略記する。)について説明する。
【0015】
本発明者らは、次のような基準を設定し、しば漬けから分離された乳酸菌16種類(Lactobacillus plantarum 4種類、Lactobacillus pentosus 12種類)を選択した。すなわち、植物性乳酸菌のうち、乳酸桿菌(Lactobacillus属)であること、同じ性状を持つ株が複数分離されていること、培地中で良好な増殖を示すこと、および漬物に特徴的な菌であること、の4つの基準に適合する16種類の乳酸菌を選択した。
【0016】
これら16種類の乳酸菌について、インターロイキン12(以下「IL−12」と略記する。)誘導能を比較した結果、ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株が、マウスに菌体を腹腔内投与した場合に血清IL−12濃度を最も上昇させることを見出した。
【0017】
その後、当該S−PT84の免疫調節作用について詳細に検討したところ、以下に記載する知見を得た。
【0018】
(1)マウスから調製した脾細胞に対してin vitro で処理した場合、Th1型サイトカインのIFN−γ(インターフェロンγ)およびTNF−α(腫瘍壊死因子α)の産生を誘導し、CD4+CD69+細胞およびCD8+CD69+細胞を増加させる、すなわち、S−PT84はヘルパーTやキラーTを活性化させる作用がある。
【0019】
(2)マウスに腹腔内投与した場合、肝リンパ球のNK活性を増強させる作用がある。またCD8+細胞およびCD8+CD69+細胞を増加させ、細胞性免疫を増強する。
【0020】
(3)マウスに経口摂取させた場合、血清IL−12濃度を上昇させ、脾細胞のCD4+、CD8+およびCD3+の細胞数を増加させ、脾細胞のNK活性を増強させ、脾細胞のTh1/Th2バランスをTh1優位に変化させる。
【0021】
(4)マウスに経口摂取させた場合、シクロフォスファミド投与による体重減少を抑制し、免疫反応の低下を抑制する。
【0022】
(5)マウスに経口摂取させた場合、卵白アルブミン(OVA)で感作しても、OVA特異的IgEおよび総IgEの上昇を抑制する。
【0023】
(6)マウスに経口摂取させた場合、ストレスによるNK活性の低下を抑制する。
【0024】
以上の知見により、S−PT84は免疫調節作用を有する株であることが明らかとなった。
【0025】
S−PT84の菌学的性質を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
通常ラクトバチルス・ペントーサスはグリセロールの資化性が高いことが知られているが、表1に示したように、S−PT84はグリセロールの資化性が弱く、これまでに知られているラクトバチルス・ペントーサスとは異なることがわかった。
【0028】
S−PT84よりDNAを抽出後、Microseq Full Gene 16S rDNAキット(Applied Biosystems社製)を用いて16SrRNA遺伝子全領域約500bpについて解読を行なった。解読されたS−PT84の16SrRNA遺伝子配列(配列番号1)は、ラクトバチルス・ペントーサスJCMT(D79211)の16SrRNA遺伝子配列と100%相同性が得られたためラクトバチルス・ペントーサスと同定された。
【0029】
S−PT84は、EPSを産生しない菌と比較して親水性が高く、プラスチック面へもほとんど付着しない。また、酵母の凝集作用もほとんど示さない性質を示す。
【0030】
本発明に係る組成物は、ラクトバチルス・ペントーサスに属し、かつ、グリセロールの資化性が無いまたは弱い乳酸菌を含むものであればよいが、免疫調節作用を有するもの、または抗アレルギー作用を有するものであることが好ましい。もちろん、免疫調節作用と抗アレルギー作用の両方を併せ持つものであれば、一層有用である。
【0031】
本発明に係る組成物は、免疫調節作用および/または抗アレルギー作用を有する飲食品や医薬品として有効に利用することができる。すなわち、免疫調節作用および/または抗アレルギー作用を有する薬学的組成物としての利用が好適である。
【0032】
上記組成物に含有される乳酸菌としては、乳酸菌(生菌および死菌)、乳酸菌含有物、乳酸菌処理物等を挙げることができる。生菌は当該乳酸菌培養液等の乳酸菌含有物から得ることができる。死菌は、例えば、生菌に対して加熱、紫外線照射、ホルマリン処理などを行うことにより得ることができる。得られた生菌、死菌は、さらに磨砕や破砕等により、処理物とすることができる。
【0033】
すなわち、本発明に係る組成物は、乳酸菌、乳酸菌含有物、乳酸菌処理物の少なくともいずれか1つを含有していればよい。上記乳酸菌としては、例えば、生菌体、湿潤菌、乾燥菌等を挙げることができる。上記乳酸菌含有物としては、例えば、乳酸菌懸濁液、乳酸菌培養物(菌体、培養上清、培地成分を含む)、乳酸菌培養液(菌培養物から固形分を除去したもの)、乳酸菌発酵乳(乳酸菌飲料、酸乳、ヨーグルト等)を挙げることができる。また、乳酸菌処理物としては、例えば、磨砕物、破砕物、液状物(抽出液等)、濃縮物、ペースト化物、乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等)、希釈物等を挙げることができる。また、本発明に係る組成物に含まれるS−PT84は元々発酵食品であるしば漬けから分離されたものであるので、例えば、果菜類や穀類をS−PT84により発酵させた発酵物を含有するものも本発明に係る組成物の1形態として好適である。なお、上述のように、S−PT84は元々食品から分離されたものであるため、S−PT84を含む組成物の安全性は高い。
【0034】
本発明に係る組成物は、上述のように飲食品や医薬品等、すなわち免疫調節作用を有する薬学的組成物として用いることが好ましい。飲食品に用いる場合には、免疫調節作用を有する健康食品として実施することが好適である。また、公知の甘味料、酸味料、ビタミン等の各種成分と混合してユーザーの嗜好に合う製品とすればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ヨーグルトや乳酸菌飲料等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子等の形態で提供することが可能である。
【0035】
医薬品とする場合には、免疫賦活剤や抗アレルギー剤を挙げることができる。また、主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用する公知の補助剤を用いて製剤化することができる。剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、座剤、注射剤等を挙げることができ、特に限定されるものではない。本医薬品の投与経路としては、例えば、経口投与、直腸投与、経腸投与等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例〕
〔使用乳酸菌株〕
京都の伝統的な漬物であるしば漬けから、Lactobacillus plantarum を4種、Lactobacillus pentosus を12種分離し、Th1型免疫賦活能の高い菌株を選択するためインターロイキン12(IL−12)誘導能を比較する実験に供した。使用菌株については、表2に株名、種名およびEPSの有無を示した。IL−12誘導能を比較した結果、DS84C株(S−PT84)に特に強い活性を見出したため、以後の実験はS−PT84のみを用いて行った。
【0037】
【表2】

【0038】
〔in vitro 刺激によるIL−12誘導〕
BALB/c マウス(7週齢・雄)に4.05%チオグリコレートを腹腔内投与し、4日後にPBSを用いて腹腔内マクロファージを回収し、10%FBSを含むRPMI培地を用いて2×106 cells/ mLに調整した後、24wellプレートに0.5mLずつ播き込んだ。各wellに各菌株の加熱死菌(10μg/mL)を添加し24時間培養後の培養上清中のIL−12濃度を測定した。IL−12の活性型はp35とp40のサブユニットが結合したp70であることから、IL−12(p70)を測定した。なおIL−12の測定にはOptEIA mouse IL-12測定キット(BD Pharmingen社製)を使用した。
【0039】
結果を図1に示した。図1から明らかなように、種や親株が同じ菌株であってもIL−12の誘導能は様々であったが、DW69N、S−PT84(DS84C)、DS25Cがとくに高い活性を示した。
【0040】
〔in vivo 刺激によるIL−12誘導〕
BALB/c マウス(7週齢・雄)に各菌株の加熱死菌(500μg/0.2mL/mouse)の懸濁液(溶媒:生理的食塩水)を腹腔内投与し、6時間後に頚椎脱臼後、心臓より採血した。なお、controlのマウスには生理的食塩水を等量投与した。採血を投与後6時間としたのは、S−PT84を用いた予備検討の結果、死菌投与後の血清IL-12濃度のピークが投与後6時間であったことによる(図2参照)。採血後、遠心分離により血清を採取し、血清中のIL−12濃度をOptEIA mouse IL-12測定キット(BD Pharmingen社製)を用いて測定した。
【0041】
結果を図3に示した。図3から明らかなように、S−PT84(DS84C)、DS51CおよびDS25Cの3菌株を投与した場合の血清IL−12濃度は、controlと比較して有意に高かった。中でもS−PT84(DS84C)が最も高濃度であったため、以下の実験にはS−PT84のみを用いた。
【0042】
〔S−PT84がリンパ球に及ぼす影響〕
BALB/cマウス(7週齢・雄)から脾臓を摘出し、常法に従い脾細胞を調製した。上記S−PT84の加熱死菌(1μg/mL)を含む培地で24時間培養した。対照として、培地に何も添加せずに培養したもの(control)と、コンカナバリンA(2.5μg/mL)を添加して培養したもの(ConA)とを設けた。S−PT84死菌の刺激により、どのようなサイトカインが産生されるかを調べるため、各培養上清中のサイトカイン濃度をCBAkit(BD Pharmingen社製)を用いて測定した。また、脾細胞を回収し、蛍光ラベルされた抗CD4抗体(CY-CHCROMETMラベル、BD bioscience社製)、抗CD8抗体(FITCラベル、Immunotech社製)、抗CD69抗体(PEラベル、BD bioscience社製)を用いて細胞を標識し、CD4、CD8およびCD69陽性細胞の割合をフローサイトメトリー(Beckman Coulter社製)を用いて測定した。
【0043】
サイトカイン産生の結果を図4に示した。図4(a)は培地に何も添加していないもの(control)の結果を示し、図4(b)はS−PT84の死菌を培地に添加したもの(S−PT84)の結果を示し、図4(c)はコンカナバリンAを培地に添加したもの(ConA)の結果を示している。図4から明らかなように、S−PT84の刺激により、controlでは産生が認められないIFN−γ(インターフェロンγ)およびTNF−α(腫瘍壊死因子α)の産生が認められた。これらのサイトカインはTh1型サイトカインであり、S−PT84はTh1型サイトカインを特異的に誘導するものと考えられた。一方、Th2型サイトカインであるIL−4やIL−5は全く産生されなかった。なお、コンカナバリンAで刺激した場合は、別のTh1型サイトカインのIL−2(インターロイキン2)の産生が認められた。
【0044】
CD4+、CD8+およびCD69+細胞に及ぼす影響の結果を図5に示した。図5(a)は培地に何も添加していないもの(control)の結果を示し、図5(b)はS−PT84の死菌(1μg/ml)を培地に添加したもの(S−PT84)の結果を示し、図5(c)はコンカナバリンAを培地に添加したもの(ConA)の結果を示している。また、図5中、矢印は上または右に行くほど各表面抗原の陽性細胞が多いことを表す。図5から明らかなように、S−PT84によりヘルパーT細胞やキラーT細胞が活性化することが分かった。
【0045】
〔S−PT84腹腔内投与後の肝リンパ球の変化〕
C57BL/6マウス(7週齢・雄)に、S−PT84の加熱死菌(500μg/0.2mL/mouse)の懸濁液(溶媒:生理的食塩水)を腹腔内投与し、24時間後に肝臓を摘出し、遠心法により肝リンパ球を調製した。対照(control)は生理的食塩水のみを腹腔内投与した。調製した肝リンパ球のNK活性をPINK法を用いて測定した。PINK法とは、標的細胞であるYac-1を疎水性膜系蛍光色素3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate (Dio)で標識し、さらに、死細胞の核を膜不透過性核酸結合蛍光色素propidium iodide (PI)により二重染色し、傷害されなかったYac-1はDio単染色、傷害されたYac-1は二重染色でフローサイトメトリーで検出することにより、マウスリンパ球の細胞障害活性を算出する方法である。また、蛍光ラベルされた抗CD4抗体(CY-CHCROMETMラベル、BD bioscience社製)、抗CD8抗体(FITCラベル、Immunotech社製)、抗CD69抗体(PEラベル、BD bioscience社製)を用いて細胞を標識し、CD4、CD8およびCD69陽性細胞の割合をフローサイトメトリー(Beckman Coulter社製)を用いて測定した。
【0046】
NK活性測定の結果を図6に示した。図6中、NK activity(%)はマウス肝リンパ球のYac-1に対する細胞傷害性を表し、E:T ratioは、反応させた肝リンパ球数:Yac-1数を表す。図6から明らかなように、controlと比較して、S−PT84を投与したマウスから調製した肝リンパ球のNK活性は明らかに上昇していた。
【0047】
CD4+、CD8+およびCD69+細胞の結果を図7に示した。図7(a)は対照(control)の結果を示し、図7(b)はS−PT84を投与した場合の結果を示す。また、図7中、矢印は上または右に行くほど各表面抗原の陽性細胞が多いことを表す。図7から明らかなように、CD8+の細胞は明らかに増加しており、CD8+CD69+の細胞も増えていることからS−PT84を投与することによって、肝臓においてキラーT細胞が増加し、さらに活性化したキラーT細胞も多くなることが明らかとなった。
【0048】
〔S−PT84の経口摂取によるTh1/Th2バランス調節作用〕
BALB/cマウス(7週齢・雄)6匹に、S−PT84(死菌体)を1週間飲水(2mg/day 相当)にて自由に摂取させた。また、S−PT84を摂取させない対照群(6匹)を設けた。1週間後に心臓より採血し、さらに脾臓を摘出した。血液から遠心分離により血清を採取し、血清中のIL−12濃度をOptEIA mouse IL-12測定キット(BD Biosciences社製)を用いて測定した。また、摘出した脾臓から常法に従い脾細胞を調製し、脾リンパ球のCD4+、CD8+およびCD3+細胞数の計測(それぞれの標識抗体を用いてフローサイトメトリーにより計測した)、PINK法によるNK活性の測定、およびTh1/Th2の比を測定した(マウス脾細胞5×106個にコンカナバリンA2.5μg/mLを24時間作用させ、上清中に産生されるIL−4およびIFN−γ濃度を測定した。Th1/Th2比はIFN−γ濃度をIL−4濃度で除した値を用いた。)。
【0049】
血清IL−12濃度の測定結果を図8に示した。図8から明らかなように、S−PT84を経口摂取したマウスの血清IL−12濃度は対照群(Cont)と比較して有意に上昇していた。
【0050】
CD4+、CD8+およびCD3+細胞数の計測結果を表3に示した。表3から明らかなように、脾リンパ球Tサブセットは増加する傾向が認められた。
【0051】
【表3】

【0052】
NK活性測定の結果を図9に示した。図9中、NK activity(%)はマウス脾細胞のYac-1に対する細胞傷害性を表し、E:T ratioは反応させた脾細胞数:Yac-1数を表す。図9から明らかなように、S−PT84を経口摂取したマウスから調製した脾細胞のNK活性は対照群(Cont)と比較して有意に上昇していた。
【0053】
Th1/Th2比の測定結果を図10に示した。図10から明らかなように、S−PT84を経口摂取したマウスから調製した脾細胞では対照群(Cont)と比較してTh1サイトカイン産生の比率が顕著に増加していた。
【0054】
以上のように、S−PT84を経口摂取したマウスにおいて、Th1型サイトカインが誘導され、Th1/Th2バランスがTh1優位となり、NK活性が増加した。したがって、S−PT84は、Th1/Th2バランス調節作用および免疫賦活作用を有することが明らかとなった。
【0055】
〔シクロフォスファミド投与マウスにおける体重変化に及ぼす影響〕
BALB/cマウス(7週齢・雄)20匹を各群の平均体重がほぼ同じになるように2群に分け、S−PT84摂取群とS−PT84非摂取群(対照群)とした。S−PT84摂取群にはS−PT84(死菌体)を22日間飲水(2mg/day 相当)にて自由に摂取させた。摂取開始8日目に、全個体に制癌化学療法剤でアルキル化剤のシクロフォスファミド(Cyclophosphamide:CY)を200mg/kgの用量で腹腔内投与した。CY投与後1、2、3、5、8、12および15日目に各個体の体重を測定した。
【0056】
両群の平均体重の変化を図11に示した。図11から明らかなように、S−PT84摂取群は対照群(Control)と比較して、CY投与に起因する体重減少を抑制した。
【0057】
〔シクロフォスファミド投与マウスにおけるIL−12産生に及ぼす影響〕
BALB/c マウス(7週齢・雄)を5群に分けた。群構成は、無処置群(5匹)、S−PT84非摂取・CY非投与群(10匹)、S−PT84非摂取・CY投与群(10匹)、S−PT84摂取・CY非投与群(10匹)およびS−PT84摂取・CY投与群(11匹)とした。S−PT84摂取の2群にはS−PT84(死菌体)を12日間飲水(2mg/day 相当)にて自由に摂取させた。摂取開始7日目に、CY投与群のマウスに制癌化学療法剤でアルキル化剤のシクロフォスファミド(Cyclophosphamide:CY)を200mg/kgの用量で腹腔内投与した。CY投与後5日目に、無処置群を除く4群のマウスにS−PT84の加熱死菌(500μg/0.2mL/mouse)の懸濁液(溶媒:生理的食塩水)を腹腔内投与した。S−PT84の死菌投与後6時間目に無処置群を含む全個体の心臓から採血した。採血後、遠心分離により血清を採取し、血清中のIL−12濃度をOptEIA mouse IL-12測定キット(BD Pharmingen社製)を用いて測定した。
【0058】
結果を図12に示した。図12から明らかなように、S−PT84非摂取群ではCY投与により顕著に血清IL−12濃度の減少が認められたが、S−PT84摂取群はCY投与による血清IL−12濃度の減少を有意に抑制し、対照群とほぼ同様の血清IL−12濃度であった。
【0059】
以上の結果から、S−PT84は、CYによる体重減少および免疫低下を抑制する、すなわち免疫賦活作用を有することが明らかとなった。
【0060】
〔抗アレルギー作用の検討〕
BALB/cマウス(7週齢・雄)36匹を4群に分けた。群構成は、無処置群(5匹)、対照群(10匹)、S−PT84群(11匹)、Dex摂取群(10匹)とし、S−PT84群にはS−PT84(死菌体)を7週間飲水(2mg/day 相当)にて自由に摂取させ、Dex摂取群には、0.5mg/kgの用量で7週間強制経口投与を行った。無処置群および対照群には水道水を7週間自由に摂取させた。なお、Dexは抗炎症、抗アレルギー作用を有するステロイド剤であり、陽性対照薬として用いた。S−PT84摂取またはDex投与開始から1週間後および2週間後に、20μgの卵白アルブミン(OVA)と2mgの水酸化アルミニウムゲルを混和して、無処置群を除く3群のマウスに腹腔内投与した。2回目の投与日(0週目)から1週間ごとに5週目まで全個体について合計6回の採血を行い、OVA特異的IgE濃度を測定した。OVA特異的IgE濃度の測定はOptEIA mouse IgE測定キット(BD Pharmingen社製)を改良し、補足用抗体の代わりにOVAをコーティングしたELISA法にて測定した。また、3週目の血液サンプルを用いて、総IgEを測定した。総IgEの測定には、OptEIA mouse IgE測定キット(BD Pharmingen社製)を用いELISA法にて測定した。
【0061】
OVA特異的IgE濃度の変化を図13に示し、総IgE濃度の測定結果を図14に示した。図13から明らかなように、S−PT84群では対照群(Control)と比較してOVA特異的IgE濃度の上昇を有意に抑制した。Dex群は抑制傾向を示したものの有意差は認められなかった。また、図14から明らかなように、S−PT84群およびDex群では対照群(Control)と比較して総IgE濃度の上昇を有意に抑制した。
【0062】
以上の結果から、S−PT84は抗アレルギー作用を有することが明らかとなった。
【0063】
〔ストレスによる免疫低下の抑制効果の検討〕
C57BL/6マウス(6週齢・雄)9匹を各群の平均体重がほぼ同じになるように3群に分けた。群構成は、対照群(3匹)、ストレス負荷群(3匹)およびS−PT84摂取+ストレス負荷群(3匹)とした。S−PT84摂取群にはS−PT84(死菌体)を7日間飲水(2mg/day 相当)にて自由に摂取させた。摂取開始8日目に、ストレス負荷群及びS−PT84摂取+ストレス負荷群6匹を1度水浸させた後、先端に空気穴を施した50mLのポリエチレンチューブに入れ、24時間拘束した。対照群は24時間、絶水、絶食とした。その後動物から脾臓を摘出、脾リンパ球を調製し、NK活性を測定した。
【0064】
NK活性の測定についての結果を図15に示した。対照群に比較してストレス負荷群ではNK活性が有意に低下した。しかしS−PT84摂取+ストレス負荷群では対照群と同様のNK活性に維持され、ストレス負荷群に比較し有意に高値であった。このことからS−PT84はストレスによる免疫低下を抑制することが明らかとなった。
【0065】
〔死菌と生菌との間における免疫賦活作用の差異〕
図3において示した、腹腔内投与によってマウス血清IL−12濃度を増加させた乳酸菌について、死菌と生菌との間で免疫賦活作用を比較した。
【0066】
4種の乳酸菌(DB22C、DS51C、DS2C、DS84C(S−PT84))の過熱死菌または生菌(いずれも500μg(2.5×108個)/0.2ml/マウス)の懸濁液を調製し、これらをBALB/cマウス(7週齢・雄)に腹腔内投与し、その6時間後にマウスを頚椎脱臼させ、心臓より採血した。なお、乳酸菌の代わりに生理食塩水を等量投与したマウスをControlとした。
【0067】
採血後、遠心分離により血清を回収し、血清中のIL−12濃度をOptEIA(BD Pharmingen社製)を用いて測定した。結果を図16に示す。
【0068】
図3と同様に、DS84C(S−PT84)を投与した群においてIL−12産生量が最も高かった。また、図16から明らかなように、DS84C(S−PT84)の生菌を投与した群は、死菌を投与した群よりもIL−12産生量が高かった。
【0069】
〔製造例1:錠剤〕
以下に示す方法により、S−PT84を含有する医薬品(錠剤)を製造した。
【0070】
S−PT84の乾燥粉砕物66.7gを、乳糖232.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径10mm、重量300mgの錠剤を製造した。
【0071】
〔製造例2:ヨーグルト〕
乳固形分21%のS−PT84発酵乳を、市販の牛乳に添加し3日間静置しヨーグルトを調製した。得られたヨーグルトは良好な香味を示した。
【0072】
〔製造例3:乳酸菌飲料〕
S−PT84を用いて表4に示した組成で乳酸菌飲料を調整した。得られた乳酸菌飲料は良好な香味を示した。
【0073】
【表4】

【0074】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と添付の特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【0075】
〔産業上の利用の可能性〕
本発明に係る組成物は、飲食品として摂取したり、医薬品として投与すれば、免疫機能を賦活化することにより免疫機能低下を抑制でき、また、免疫機能のバランスを調節することにより生体に悪影響を及ぼす免疫機能の過度の亢進を抑制できるという効果を奏する。
【0076】
本発明に係る組成物は、免疫調節作用を有する健康食品や医薬品として実施可能である。したがって、本発明は食品産業や医薬品産業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、16種類の乳酸菌のin vitro 刺激によるマクロファージIL−12誘導実験の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、S−PT84を腹腔内投与した後の血清IL−12濃度の推移を示すグラフである。
【図3】図3は、16種類の乳酸菌を腹腔内投与した後のマウス血清IL−12濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図4】図4(a)〜(c)は、S−PT84の刺激によりリンパ球が産生するサイトカインを調べた結果を示す、フローサイトメーターのチャートであり、(a)は培地に何も添加していないもの、(b)はS−PT84の死菌を培地に添加したもの、(c)はコンカナバリンAを培地に添加したものの結果を示すチャートである。
【図5】図5(a)〜(c)は、S−PT84の刺激によりCD4+、CD8+およびCD69+細胞に及ぼす影響を調べた結果を示す、フローサイトメーターのチャートである。(a)は培地に何も添加していないもの、(b)はS−PT84の死菌を培地に添加したもの、(c)はコンカナバリンAを培地に添加したものの結果を示すチャートである。
【図6】図6は、S−PT84腹腔内投与後の肝リンパ球のNK活性を測定した結果を示すグラフである。
【図7】図7(a)・(b)は、S−PT84の腹腔内投与により肝リンパ球のCD4+、CD8+およびCD69+細胞に及ぼす影響を調べた結果を示す、フローサイトメーターのチャートである。(a)は対照の結果を示すチャートであり、(b)はS−PT84を投与した場合の結果を示すチャートである。
【図8】図8は、S−PT84を経口摂取したマウスの血清IL−12濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図9は、S−PT84を経口摂取したマウスの脾細胞におけるNK活性を測定した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、S−PT84を経口摂取したマウスの脾細胞におけるTh1/Th2の比を測定した結果を示すグラフである。
【図11】図11は、S−PT84を経口摂取したマウスにおけるシクロフォスファミド投与後の体重変化を示すグラフである。
【図12】図12は、S−PT84を経口摂取したマウスにおけるシクロフォスファミド投与後の血清IL−12濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図13】図13は、S−PT84を経口摂取したマウスにおけるOVA投与後のOVA特異的IgE濃度の変化を示すグラフである。
【図14】図14は、S−PT84を経口摂取したマウスにおけるOVA投与3週後の総IgE濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図15】図15は、S−PT84を経口摂取したマウスにおけるストレス負荷時の免疫低下抑制効果を示すグラフである。
【図16】図16は、4種の乳酸菌(DB22C、DS51C、DS2C、DS84C(S−PT84))の過熱死菌または生菌を腹腔内投与した後のマウス血清IL−12濃度を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属し、かつ、グリセロールの資化性が無いまたは弱い乳酸菌を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記乳酸菌は、免疫調節作用および/または抗アレルギー作用を有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記乳酸菌は、細胞外多糖産生株であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
上記乳酸菌は、ラクトバチルス・ペントーサスS−PT84株(FERM ABP−10028)であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
免疫調節作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
抗アレルギー作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
乳酸菌を生菌として含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
飲食品または医薬品であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2008−501013(P2008−501013A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514348(P2007−514348)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006585
【国際公開番号】WO2005/115420
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】