説明

ラジアルタービン

【課題】羽根車流路内の流れの剥離による低速領域の拡大、及び流入気体と動翼前縁との衝突損失を抑制することによって、タービン効率の向上可能なラジアルタービンを提供する。
【解決手段】複数の動翼2が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼2の前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との交差部に、この動翼2の厚さtの50%以下の寸法を半径Rとする円弧面2a,2aが形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した流体が軸方向に流出するラジアルタービンに関し、より詳しくは、気体の流れの剥離や衝突による損失を低減してタービン効率を向上可能なラジアルタービンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タービンは、一般的に軸流型タービンとラジアル型タービンに大別される。軸流タービンは中・大容量に適し、大型の火力発電所での蒸気タービン等には殆ど全て軸流タービンが採用されている。一方、ラジアルタービンは歴史上、ガスの寒冷発生用として発達してきた機器であり、ガスをタービンに供給し膨張させることで、ガスの温度を下げることを目的としたもので、空気分離装置における寒冷発生膨張タービンがその代表例である。
そして、中・小型の軸流タービンの断熱効率は最大でも40%程度であるのに対し、ラジアルタービンでは80〜85%に達する。この決定的な違いがラジアルタービンの最大の特長であり、ガスからの動力回収量は、軸流タービンのほぼ2倍(単段当り)となる。
【0003】
この様に、ラジアルタービンは渦巻室から流入した気体を半径方向内向きに向かわせて、羽根車に回転エネルギーとして変換させるものであるが、前記羽根車に生じる気体の流れの渦や剥離によって空力性能が低下し、結果としてタービン効率が低下するという問題があった。
【0004】
そのため、タービン効率の向上を図った従来例に係るラジアルタービンにつき、以下添付図5〜7を参照しながら説明する。図5は従来例1に係るラジアルタービンの断面図、図6は従来例2に係るラジアルタービン用動翼を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)におけるY−Y断面図で、半径一定断面での翼(ブレード)の形状を示す図、図7は図6(a)の矢視Z−Zの動翼を拡大して示す部分詳細断面図である。
【0005】
先ず、従来例1に係るラジアルタービンは、前縁に後退角を有する張出部13bまたは切欠部(図示省略)を設けた翼13aを有する羽根車13を設けたものである。翼13aの前縁にこの様な張出部13bまたは切欠部を設けることによって、前記張出部13bまたは切欠部から生じる渦は、中心軸が流れに平行なスクリュー状の渦である。この渦は強く安定しており、翼13a全体に生じる剥離に対し、全圧の高い流れを供給し、剥離の規模を小さく抑制する作用がある。その結果、剥離に伴うタービン効率の改善を図り得る(特許文献1参照)。
【0006】
従来例2に係るラジアルタービン用動翼20は、半径一定断面における各翼22の翼形中心線が円弧と放物線で与えられている。そのため、前記翼22とディスク部21からなる動翼20の軸S方向長さを増加させずに適正に保ちつつ、動翼20入口直後の曲がりを比較的緩やかにすることができる結果、翼面での気体の流れの剥離等による空力性能の低下を回避できる(特許文献2参照)。
【0007】
ところが、上記従来例2に係るラジアルタービンは、従来例1と同様、図7に示される如く翼22の前縁22−1が平面を有すると共に、翼22の圧力面22−2及び負圧面22−3との交差部は直角な角部22a,22aを有していた。
【0008】
そのため、気体が前記翼22間の羽根車流路に外周側より流入する際、翼前縁22−1の前記角部22a,22aの影響によって、前記羽根車流路における流れの剥離及びこの剥離に起因する低速領域の拡大が助長され、上記従来例1,2の如き改善にも拘わらず、タービン効率低下の要因となっていた。また、翼22の前縁22−1が平面のため、動翼20への流入気体と翼22の前縁22−1との衝突損失も、タービン効率低下の要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−190201号公報
【特許文献2】特開2000−265801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、羽根車流路内の流れの剥離による低速領域の拡大、及び流入気体と動翼前縁との衝突損失を抑制することによって、タービン効率の向上可能なラジアルタービンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るラジアルタービンが採用した手段は、複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を半径とする円弧面が形成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項2に係る圧縮機のラジアルタービンが採用した手段は、複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を面取寸法とする面取り部が形成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項3に係るラジアルタービンが採用した手段は、請求項1または2に記載のラジアルタービンにおいて、前記動翼の圧力面及び負圧面が、前記前縁に向かってこの動翼の中心線となす角度が10度以下であるテーパ面を有し、このテーパ面が前記円弧面または面取り部に滑らかに接続されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るラジアルタービンによれば、複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を半径とする円弧面が形成されてなるので、羽根車流路内の流れの剥離による低速領域の拡大、及び流入気体と動翼前縁との衝突損失を抑制することによって、タービン効率の向上を図り得る。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るラジアルタービンによれば、複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を面取寸法とする面取り部が形成されてなるので、上記同様、羽根車流路内の流れの剥離による低速領域の拡大、及び流入気体と動翼前縁との衝突損失を抑制することによって、タービン効率の向上を図り得る。
【0016】
更に、本発明の請求項3に係る圧縮機のラジアルタービンによれば、前記動翼の圧力面及び負圧面が、前記前縁に向かってこの動翼の中心線となす角度が10度以下であるテーパ面を有し、このテーパ面が前記円弧面または面取り部に滑らかに接続されてなるので、羽根車流路内の流れの剥離による低速領域の拡大、及び流入気体と動翼前縁との衝突損失を抑止することによって、タービン効率の更なる向上を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るラジアルタービンの要部構造を示す要部縦断面図である。
【図2】図1の矢視X−Xを示す矢視図である。
【図3】図(a)は本発明の実施の形態1に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図、図(b)は本発明の実施の形態1の他の態様に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図である。
【図4】図(a)は本発明の実施の形態2に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図、同図(b)は本発明の実施の形態2の他の態様に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図である。
【図5】従来例1に係るラジアルタービンの断面図である。
【図6】従来例2に係るラジアルタービン用動翼を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)におけるY−Y断面図で、半径一定断面での翼(ブレード)の形状を示す図である。
【図7】図6(a)の矢視Z−Zの動翼を拡大して示す部分詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明の実施の形態1に係るラジアルタービンを、以下添付図1〜3を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態に係るラジアルタービンの要部構造を示す要部縦断面図、図2は図1の矢視X−Xを示す矢視図、図3(a)は本発明の実施の形態1に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図、同図(b)は本発明の実施の形態1の他の態様に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図である。
【0019】
本発明の実施の形態1に係るラジアルタービンは、羽根車1、この羽根車1と一体的に形成された動翼2、ケーシング4側に形成されたノズル翼3及びケーシング流路4aとを主構成要素とし、前記ケーシング流路4aから回転軸5に対し直交方向に流入した気体を半径方向内向きに向かわせて、前記羽根車1に回転エネルギーとして変換させた後、回転軸5方向に流出させる。
【0020】
即ち、前記ケーシング流路4aに導かれた気体は、ケーシング流路4aからノズル翼3により回転方向の高速旋回流となって流出し、動翼2間に形成された羽根車流路1aに流入する。この羽根車流路1aに流入した気体は、この羽根車1中では外周側から内周側に向かうにつれて、この羽根車1に連結された回転軸5にトルクを与え、回転方向速度を減じながら回転軸5と平行方向に流出する。
【0021】
この様に構成された本発明の実施の形態1に係るラジアルタービンにおいて、前記動翼2は、図3(a)に示す如く、前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との夫々の交差部に、この動翼2の厚さtの50%以下の寸法を半径Rとする円弧面2a,2aが形成されている。そして、動翼2の前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3とが、前記円弧面2a,2aによって滑らかに接合されている。
【0022】
また、本発明の実施の形態1に係る他の態様として、前記動翼2が、図3(b)に示す如く、前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との夫々の交差部に、この動翼2の厚さtの50%以下の寸法を面取寸法Cとする面取り部2b,2bが形成されても良い。そして、動翼2の前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3とが、前記面取り部2a,2aに曲面を介して滑らかに接合されている。
【0023】
ここで、前記円弧面2a,2aの半径R及び面取り部2b,2bの面取寸法Cは、動翼2の厚さtの50%以下の寸法とすることが肝要である。前記半径Rや面取寸法Cが動翼2の厚さtの50%を越えれば、2個の円弧2a,2a同士または2個の面取り部2b,2b同士の接合面が滑らかに形成されず、前縁2−1に突起部を生じるためである。
【0024】
以上、本発明の実施の形態1に係るラジアルタービンによれば、動翼2の前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との夫々の交差部に、所定寸法の半径Rを有する円弧面2a,2aまたは所定寸法の面取寸法Cを有する面取り部2b,2bを形成することによって、ノズル翼3から羽根車流路1a内へ流入する気体の流れが、動翼2の前縁2−1で剥離の発生を抑制される。その結果、剥離による低速領域の拡大や、流入気体と動翼2の前縁2−1との衝突損失が抑制され、タービン効率の向上が図られ得る。
【0025】
本発明の実施の形態1に係るラジアルタービンは、前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との夫々の交差部に前記面取り部2b,2bを形成するより、前記円弧面2a,2aを形成する方がより滑らかな接合面が得られるため、剥離の発生や衝突損失の点から顕著な効果が得られる。
【0026】
次に、本発明の実施の形態2に係るラジアルタービンを、添付図4を参照しながら以下に説明する。図4(a)は本発明の実施の形態2に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図、同図(b)は本発明の実施の形態2の他の態様に係り、図2のA部動翼を拡大して示す部分詳細図である。
尚、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、前記動翼の前縁近傍の構成に相違があり、その他は全く同構成であるから、この動翼の前縁近傍についての説明に止めるものとする。
【0027】
即ち、本発明の実施の形態1に係る動翼2の前縁2−1近傍においては、動翼2の前縁2−1と圧力面2−2及び負圧面2−3との夫々の交差部に、所定寸法の半径Rを有する円弧面2a,2aまたは所定寸法の面取寸法Cを有する面取り部2b,2bが形成されていた。
【0028】
それに対し、本発明の実施の形態2に係る動翼2の前縁2−1近傍においては、図4(a)に示す如く、前記動翼2の圧力面2−2及び負圧面2−3が、前縁2−1に向かってこの動翼2の中心線Lとなす角度θが10度以下であるテーパ面2c,2cを有している。更に、前縁2−1と前記テーパ面2c,2cとの夫々の交差部に、この動翼2の厚さtの50%以下の寸法を半径Rとする円弧面2a,2aが形成されている。そして、前縁2−1とテーパ面2c,2cとが、夫々前記円弧面2a,2aによって滑らかに接合されている。
【0029】
また、本発明の実施の形態2に係る他の態様として、前記動翼2の前縁2−1近傍において、図4(b)に示す如く、前縁2−1と前記テーパ面2c,2cとの夫々の交差部に、この動翼2の厚さtの50%以下の寸法を面取寸法Cとする面取り部2b,2bが形成されても良い。そして、動翼2の前縁2−1と前記テーパ面2c,2cとが、前記面取り部2a,2aに夫々曲面を介して滑らかに接合されている。
【0030】
ここで、前記円弧面2a,2aの半径R及び面取り部2b,2bの面取寸法Cは、動翼2の厚さtの50%以下の寸法とすることが肝要である。前記半径Rや面取寸法Cが動翼2の厚さtの50%を越えれば、2個の円弧2a,2a同士または2個の面取り部2b,2b同士の接合面が滑らかに形成されず、前縁2−1に突起部を生じるためである。
【0031】
更に、前記テーパ面2c,2cが、動翼2の中心線Lとなす角度θが10度以下の寸法とすることも肝要である。前記テーパ面2c,2cと動翼2の中心線Lとなす角度θが10度を越えれば、羽根車流路1aに流入する気体に対する衝突損失の抑制効果が低減するためである。
【0032】
以上、本発明の実施の形態2に係るラジアルタービンによれば、前記動翼2の圧力面2−2及び負圧面2−3に、前縁2−1に向かってこの動翼2の中心線Lとなす角度θが10度以下であるテーパ面2c,2cが形成されると共に、動翼2の前縁2−1と前記テーパ面2c,2cとの夫々の交差部に、所定寸法の半径Rを有する円弧面2a,2aまたは所定寸法の面取寸法Cを有する面取り部2b,2bを形成することによって、ノズル翼3から羽根車流路1a内へ流入する気体の流れが、動翼2の前縁2−1で剥離の発生が抑制される。その結果、剥離による低速領域の拡大や、流入気体と動翼2の前縁2−1との衝突損失が抑制され、タービン効率の向上が最大0.3%程度図られ得る。
【符号の説明】
【0033】
R:円弧面の半径, C:面取り部の面取寸法, t:動翼の厚さ,
L:動翼の中心線, θ:テーパ面が動翼の中心線となす角度,
1:羽根車, 1a:羽根車流路,
2:動翼,
2−1:前縁, 2−2:圧力面, 2−3:負圧面,
2a:円弧面, 2b:面取り部, 2c:テーパ面,
3:ノズル翼,
4:ケーシング, 4a:ケーシング流路,
5:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を半径とする円弧面が形成されてなることを特徴とするラジアルタービン。
【請求項2】
複数の動翼が取り付けられた羽根車に、半径方向から流入した気体が軸方向に流出するラジアルタービンにおいて、前記動翼の前縁と圧力面及び負圧面との交差部に、この動翼の厚さの50%以下の寸法を面取寸法とする面取り部が形成されてなることを特徴とするラジアルタービン。
【請求項3】
前記動翼の圧力面及び負圧面が、前記前縁に向かってこの動翼の中心線となす角度が10度以下であるテーパ面を有し、このテーパ面が前記円弧面または面取り部に滑らかに接続されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のラジアルタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−168918(P2010−168918A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10067(P2009−10067)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)