説明

ラジアントチューブ及び加熱炉

【課題】燃焼ガスの熱をラジアントチューブ本体に効率的に伝熱し、ラジアントチューブ本体の局所的変形を生じずに、設置時のイニシャルコストも安価であり、例えば工業用加熱炉の熱源として有効に適用可能なラジアントチューブを提供する。
【解決手段】燃焼ガスをその内部の一方向へ流すラジアントチューブ本体7と、ラジアントチューブ本体7に配置されて燃焼ガスを発生するバーナー8と、バーナー8の配置位置とラジアントチューブ本体7における燃焼ガスの排出口7aとの中間位置7bよりも排出口7aに近い位置に配置される伝熱促進体3とを備えるラジアントチューブ1である。伝熱促進体3が、セラミックハニカムブロック2からなり、セラミックハニカムブロック2は、その貫通孔4aの延設方向が燃焼ガスの流れ方向と略平行になるように、配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアントチューブとこれを備える加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアントチューブは、ストレート型、U型、L型、T型、W型さらにはO型といった各種形状を有するチューブ本体の内部に配置されるバーナーによってチューブ本体を加熱し、チューブ本体の表面からの放射熱によって被加熱物を間接的に加熱する放射伝熱管である。
【0003】
ラジアントチューブは、炉内雰囲気ガスを汚染しないという特長を有することから、例えば、雰囲気ガスを使用する熱処理炉等の加熱炉に賞用される。チューブ本体の内部の燃焼ガスは、エゼクターで吸引されて外部へ排出される。排出された排ガスと空気とを熱交換して燃焼用空気を予熱するレキュペレータ付きラジアントチューブもある。
【0004】
図6は、ラジアントチューブ本体の表面温度の一例を示すグラフであり、バーナー先端からの距離(mm)とラジアントチューブ本体の表面温度(℃)との関係を示す。
図6にグラフで示すように、ラジアントチューブ本体の表面温度は、バーナー先端の近傍、例えばバーナー先端からの距離が400mm付近では1170℃超に達するのに対し、バーナー先端からの距離が3000mm付近では1080℃程度にしか達せず、約90℃程度の温度差を生じる。一般的に、ラジアントチューブ本体の表面温度は、バーナーが設置されている位置から排気側へ向かって低下していく。この理由は、バーナー側から排気側へ向かって流れる燃焼ガスの温度が、ラジアントチューブ本体へ伝熱する過程で低下していくためである。このため、ラジアントチューブ本体の排気側ほど燃焼ガスの熱をラジアントチューブ本体に効率よく伝えることが、ラジアントチューブの熱利用効率を高めるために有効である。
【0005】
燃焼ガスからラジアントチューブ本体への伝熱を促進する手段として、ラジアントチューブ本体の内部に伝熱促進体を配置することが知られている。
例えば、特許文献1には、レンガ製の断面十字型の伝熱促進体をラジアントチューブ本体の内部に配置することが開示され、また、特許文献2には、セラミック製のスパイラル形状の伝熱促進体をラジアントチューブ本体の内部に配置することが開示されている。
【0006】
これら伝熱促進体は、ラジアントチューブ本体の内部における燃料ガスの流れを撹拌又は旋回させることによって、燃料ガスからラジアントチューブ本体への対流伝熱の促進を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63−173613号公報
【特許文献2】特開昭57−112694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1により開示された発明は、伝熱促進体1個の質量が比較的大きく、熱伝導率が低い。つまり、特許文献1により開示された伝熱促進体は重くて冷め難い。このため、例えばバーナーの燃焼量が高負荷から低負荷に変化した場合には、ラジアントチューブ本体と伝熱促進体とが接触している位置、及びそれ以外の位置の間で、ラジアントチューブ本体の表面温度に大きな差が不可避的に生じてしまい、ラジアントチューブ本体に局所的に熱応力が作用する。さらに、伝熱促進体の質量による応力もラジアントチューブ本体に局所的に作用する。その結果、伝熱促進体の周辺部でラジアントチューブ本体の変形や亀裂が発生し易くなり、ラジアントチューブ本体が短命化し易い。また、断面十字形状では比表面積(単位体積当たりの表面積)が小さいことから、放射伝熱の促進効果が小さい。
【0009】
特許文献2により開示された発明は、伝熱促進体の熱伝導率が高く、かつ比較的軽量であり、チューブの局所的変形は発生し難い。また、比表面積も比較的大きいことから放射伝熱の効果も期待される。しかしながら、伝熱促進体の形状が複雑であることから伝熱促進体の製作費がかなり嵩み、設置時のイニシャルコストの大幅な上昇は避けられない。
【0010】
本発明の目的は、燃焼ガスの熱をラジアントチューブ本体に効率的に伝熱しながら、ラジアントチューブ本体の局所的変形を生じることなく、さらには、設置時のイニシャルコスト面でも有利なラジアントチューブと、これを用いる加熱炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、軽量であって、かつ熱伝導率も高い構造を有する伝熱促進体として、セラミックハニカムに注目した。セラミックハニカムは、広範囲の用途向けの市販品として大量生産されており、比較的安価であり、入手も容易である。そこで、市販のセラミック製のハニカムを、ラジアントチューブの伝熱促進体として用いたところ、非常に有効に伝熱できることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
本発明は、燃焼ガスをその内部の一方向へ流すラジアントチューブ本体と、ラジアントチューブ本体に配置されて燃焼ガスを発生するバーナーと、バーナーの配置位置とラジアントチューブ本体における燃焼ガスの排出口との中間位置よりも排出口に近い位置に配置される伝熱促進体とを備えるラジアントチューブであって、伝熱促進体は、セラミックハニカムからなり、セラミックハニカムは、その貫通孔の延設方向が前記流れ方向と略平行になるように、配置されることを特徴とするラジアントチューブである。
【0013】
この本発明に係るラジアントチューブでは、伝熱促進体が、燃焼ガスの流れ方向へ互いに離間して複数個配置されることが好ましい。
別の観点からは、本発明は、上述した本発明に係るラジアントチューブを備える加熱炉であって、ラジアントチューブは、伝熱促進体が加熱炉の内壁面よりも炉内側に位置するように、配置されることを特徴とする加熱炉である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃焼ガスの熱をラジアントチューブ本体に効率的に伝熱しながら、ラジアントチューブ本体の局所的変形を生じることなく、さらには、設置時のイニシャルコスト面でも有利であり、例えば工業用加熱炉の熱源として有効に適用することができるラジアントチューブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係るラジアントチューブにおける、セラミックハニカムからなる伝熱促進体の配置を示す二面図である。
【図2】図2は、市販のセラミックハニカムの外観を示す説明図である。
【図3】図3は、セラミックハニカムからなる伝熱促進体の支持具を示す説明図である。
【図4】図4は、本発明に係るラジアントチューブを加熱炉に設置した状況を示す説明図である。
【図5】図5は、ラジアントチューブ本体の表面温度を比較して示すグラフである。
【図6】図6は、従来のラジアントチューブ本体の表面温度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、図面や実施例を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るラジアントチューブ1における、セラミックハニカムブロック2からなる伝熱促進体3の配置を示す二面図である。図2は、市販のセラミックハニカム4の外観を示す説明図である。図3は、セラミックハニカムブロック2からなる伝熱促進体3の支持具5を示す説明図である。さらに、図4は、本発明に係るラジアントチューブ1を加熱炉6に設置した状況を示す説明図である。
【0017】
本発明に係るラジアントチューブ1は、ラジアントチューブ本体7と、バーナー8と、伝熱促進体3と、レキュペレータ9とを備えるので、これらの構成要素を説明する。
ラジアントチューブ本体7は、U型をなしており、その一端でバーナー8により加熱された燃焼ガスを他端へ向けて一方向(図1、4における白抜き矢印方向)へ流す構造をなっている。
【0018】
ラジアントチューブ本体7はU型には限定されず、例えば、ストレート型、L型、T型、W型さらにはO型といった各種形状を有していてもよい。U型のラジアントチューブ本体の場合には、ラジアントチューブ本体7の後流側直管部に伝熱促進体3がほぼ均等な間隔で互いに離間して複数配置されることが好ましい。
【0019】
ラジアントチューブ本体7は、この種のものとして当業者にとっては周知であるので、これ以上の説明は省略する。
バーナー8は、ラジアントチューブ本体7の一部(図示例では一端部)に配置されて燃焼ガスを発生する。バーナー8はこの種のものとして当業者にとっては周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0020】
伝熱促進体3は、ラジアントチューブ本体7のガス流れ方向の後半部、すなわちバーナー8の配置位置とラジアントチューブ本体における燃焼ガスの排出口7aとの中間位置7bよりも排出口7aに近い位置に、望ましくは、燃焼ガスの流れ方向へ互いに離間して複数個(図示例では4個)、配置される
伝熱促進体3は、市販のセラミックハニカム4を加工したセラミックハニカムブロック2により構成される。図2に示すように、市販のセラミックハニカム4は、多数の貫通孔4aが一方向を指向して配列した構造を有する。セラミックハニカムブロック2は、断面四角形の市販のセラミックハニカム4の角を落として断面八角形に加工される。セラミックハニカムブロック2の断面は、例えば四角形のままでも円筒状でもよいが、ラジアントチューブ本体7の内壁面と僅かな隙間を有して挿入可能な形状、大きさであることが好ましい。
【0021】
伝熱促進体3は、格子面をガス流れ方向へ相対させて貫通孔4aがガスの流れ方向と略平行になるように配置される。すなわち、セラミックハニカムブロック2は、その貫通孔4aの延設方向が燃焼ガスの流れ方向と略平行になるように、配置される。
【0022】
セラミックハニカムブロック2からなる伝熱促進体3を、ラジアントチューブ本体7の内部へ配置する形態は、例えば配置される位置が水平であれば単に配置するだけでもよいが、ラジアントチューブ本体7に固定されることが好ましい。たとえば、図1、2に示されるように、ラジアントチューブ本体7のガス排気側に取り付けられているレキュペレータ9からチューブ本体側へ向けてセラミック製の支持棒10を取り付け、この支持棒10を、セラミックハニカムブロック2とこれを挟むように管状の固定具11に貫挿し、支持具5を構成する固定具11および支持棒10を溶接して固定することが例示される。固定の方法は溶接以外にボルト止めやリベット止め等でもよい。
【0023】
表1に、図2に示す市販のセラミックハニカム4の放射率の測定結果の一例を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、セラミックハニカム4は、外壁面よりも格子面からの放射が大きい。つまり、ラジアントチューブ本体7の内部により多くの格子面を露出させることによって、放射によるラジアントチューブ本体7への伝熱効果が大きくなる。また、厚さが比較的薄いセラミックハニカムブロック2を燃焼ガスの流れ方向へ離間して複数配置することによって、燃焼ガスの流れが随所で撹拌されるため、燃焼ガスからラジアントチューブ本体7への対流伝熱も促進される。
【0026】
セラミックハニカムブロック2の厚さ、材質、セル数、配置される個数及び間隔等は、適用するラジアントチューブ1において所定の性能が得られるように、材料コストや加工コストとのバランスで適宜決定すればよい。例えば、セラミックハニカムブロック2の厚さは、あまり厚いとかえって伝熱し難くなることも考えられ、一方、薄すぎるとセラミックハニカムブロック2自体の強度が低下したり、加工性やラジアントチューブ本体7の内部への設置性が低下することも考えられる。
【0027】
セラミックハニカムブロック2のセル数が小さ過ぎると排ガスの流れを阻害する可能性があり、一方大き過ぎると表面積が小さくなる。セル数は5〜72セル/インチが適当である。実用上、セラミックハニカムブロック2の厚さは5〜100mm程度が適当であり、セラミックハニカムブロック2の材質はムーライト、コージェライト、酸化チタン、アルミナ、ジルコン、シリコンカーバイド、ストーンウエア等が挙げられる。配置間隔は10〜300mm程度、配置個数は3個以上が適当である。
【0028】
ラジアントチューブ本体7の排出口7aには、レキュペレータ9が配置される。レキュペレータ9は、ラジアントチューブ本体7の内部の燃焼ガスを吸引して外部へ排出するとともに、排出された排ガスと空気とを熱交換して燃焼用空気を予熱する。
【0029】
本発明に係るラジアントチューブ1は以上のように構成される。この本発明に係るラジアントチューブを加熱炉に適用する場合には、図4に示すように、伝熱促進体3が加熱炉6の内壁面よりも炉内側に位置するように、ラジアントチューブ1が配置されることが好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
図1〜4により示すラジアントチューブ1として、下記仕様のものを使用した。
(i)ラジアントチューブ1
U字管:チューブ径=178mm、直管部長さ2018mm、素材=耐熱鋳鋼
(ii)バーナー8
大同特殊鋼製:容量293MJ/h、PUSH−PULL方式
(iii)燃料
COG:19.3MJ/Nm,空燃比=1.20
(iv)レキュペレ−タ9
住金マネジメント製、空気流量=75.2Nm/h、排ガス流量=86.3Nm/H、空気予熱能力=600℃
(v)燃焼条件
燃焼負荷100%、炉温=950℃
伝熱促進体3は下記仕様のものを使用した
(vi)セラミックハニカム4
市販品:素材=コージェライト、46セル/インチ、多孔部形状=四角形
(vii)伝熱促進体3
縦150mm×横150mm×厚さ50mmにスライスしたセラミックハニカム4を、図1に示すように8角形の形状に加工したセラミックハニカムブロック2を3個使用した。これら3個のセラミックハニカムブロック2を、直径10mmのSUS310製の支持棒10に貫挿し、同材質の管状の固定具11を用いて、150mm間隔で図3に示すように固定した。セラミックハニカムブロック2の位置は、ラジアントチューブ本体7の排気側内部の、ガス流れ方向の後流側直管部の1/3長さに相当する範囲とした。
【0031】
比較のため、特許文献1により開示された、耐火レンガ製の断面十字形状の伝熱促進体(長さ100mmで、6個使用)を用いたラジアントチューブと、特許文献2により開示された、SiC製のスパイラル形状の伝熱促進体(長さ305mmで、2個使用)を用いたラジアントチューブについても評価した。設置方法および設置範囲は、本発明に係るラジアントチューブと同様とした。
【0032】
これら3種のラジアントチューブを加熱炉に設置した。図4に示すように、伝熱促進体3が加熱炉6の内壁面よりも炉内側に位置するように、ラジアントチューブ1を設置した。
【0033】
表2に、ラジアントチューブの3種のラジアントチューブの伝熱促進体のスペックを示すとともに、表3および図6に試験結果を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
図5に示すように、本発明例のラジアントチューブ1は、伝熱促進体3を設置しなかった場合と比較して、伝熱促進体3を配置した範囲でのラジアントチューブ本体7の表面温度が25〜35℃上昇した。これは、燃料として4.0%削減の改善効果に相当する。
【0037】
また、表3に示すように、本発明例のラジアントチューブ1は、1年間使用後もチューブ本体の局所変形は認めらなかったとともに、特許文献2のラジアントチューブの約1/90の費用で設置できた。
【符号の説明】
【0038】
1 本発明に係るラジアントチューブ
2 セラミックハニカムブロック
3 伝熱促進体
4 セラミックハニカム
4a 貫通孔
5 支持具
6 加熱炉
7 ラジアントチューブ本体
7a 排出口
7b 中間位置
8 バーナー
9 レキュペレータ
10 支持棒
11 固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガスをその内部の一方向へ流すラジアントチューブ本体と、該ラジアントチューブ本体に配置されて前記燃焼ガスを発生するバーナーと、該バーナーの配置位置と前記ラジアントチューブ本体における前記燃焼ガスの排出口との中間位置よりも該排出口に近い位置に配置される伝熱促進体とを備えるラジアントチューブであって、
前記伝熱促進体は、セラミックハニカムからなり、当該セラミックハニカムは、その貫通孔の延設方向が前記流れ方向と略平行になるように、配置されることを特徴とするラジアントチューブ。
【請求項2】
前記伝熱促進体は、前記燃焼ガスの流れ方向へ互いに離間して複数個配置される請求項1に記載されたラジアントチューブ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたラジアントチューブを備える加熱炉であって、該ラジアントチューブは、前記伝熱促進体が当該加熱炉の内壁面よりも炉内側に位置するように、配置されることを特徴とする加熱炉。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19644(P2013−19644A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155052(P2011−155052)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(592201575)住金マネジメント株式会社 (7)
【Fターム(参考)】