ラジカルスカベンジャー、そのラジカルスカベンジャーを用いて熱安定性を向上させたポリウレタン組成物、及びポリウレタン繊維
【課題】ポリウレタンの熱安定性を向上させ、耐黄変性を付与することのできるラジカルスカベンジャーを提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂に溶かして、ポリウレタンの熱安定性を高めることのできるラジカルスカベンジャー。該ラジカルスカベンジャーが、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも二種類の組み合わせからなることが特徴である。
【解決手段】ポリウレタン樹脂に溶かして、ポリウレタンの熱安定性を高めることのできるラジカルスカベンジャー。該ラジカルスカベンジャーが、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも二種類の組み合わせからなることが特徴である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明はポリウレタンの熱安定性を改善することのできるラジカルスカベンジャー、及びそれを用いたポリウレタンに関し、特に少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーからなるラジカルスカベンジャー、及び、それを添加して熱安定性を向上させてなるポリウレタン繊維に関する。
【背景技術】
【０００２】
スパンデックスともよばれるポリウレタン弾性繊維は、長鎖合成ポリマーであり、一般的にはポリテトラメチレンエーテルグリコールとメチレンジフェニルイソシアネートからなる重合体である。商業上、スパンデックスは、耐光、耐熱、抗酸化、及び耐排気ガスなどの特性において優れているが、その物性が不安定であるため、黄変や機械的性質の劣化などの現象を引き起こす。この問題は、様々な添加剤を用いることで改善されている。例えば、ベンゾトリアゾールとヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いて耐光性や黄変を改善したり（特許文献１）、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と有機リン系抗酸化剤を用いて抗酸化性や耐黄変性を強化したり（特許文献２〜４）、或いは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と多糖類を結合させる（特許文献５）ことによって、スパンデックスの耐黄変性を改善させたりすることが提案されている。このように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とその他の添加剤の併用により、上述したような改善効果を達成することができるものの、まだ改善の余地があるといえる。例えば、ポリウレタンを高温で引抜き加工を行う際、有機リン系抗酸化剤の場合にはその一部が高温で熱分解され、多糖類を添加剤とした場合にはその一部が高温で脱水反応を起こして穴が生じ、引抜き加工後、繊維の物性が不安定になるという現象がおこる。いずれにしても、スパンデックスの耐黄変性用の添加剤を探す場合、上述した特許からも明らかなように、一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を単独で使用してもスパンデックスの耐黄変性を満足させることはできないため、その他の添加剤を併用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００３】
【特許文献１】米国特許第３３７９６７５号明細書
【特許文献２】米国特許第３３８６９４２号明細書
【特許文献３】米国特許第３５７３２５１号明細書
【特許文献４】米国特許第４５４８９７５号明細書
【特許文献５】米国特許第５０２８６４２号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
そこで、上記の技術問題を解決するために、本発明は、ラジカルスカベンジャー、及びラジカルスカベンジャーを添加して熱安定性を向上させたポリウレタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
上記の目的は、ラジカルスカベンジャーによる熱安定性を向上させた変性ポリウレタンによって達成され、この場合、前記ラジカルスカベンジャーとして少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを使用すると共に、その二種類の成分がいずれもヒンダードフェノール系酸化防止剤（ｈｉｎｄｅｒｅｄ ｐｈｅｎｏｌｉｃ ａｎｔｉｏｘｉｄａｎｔｓ）であることが特徴である。
【０００６】
前記ラジカルスカベンジャーは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも二種の化合物からなる。
【０００７】
特に、本発明で使用するラジカルスカベンジャーは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とし、これに、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも一種を更に添加してなるラジカルスカベンジャーであることが好ましい。
【０００８】
また本発明においては、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンの使用量を、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部とし、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも一種の使用量を、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部とすることが好ましい。
【０００９】
更に、本発明においては、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンと、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一種の化合物との使用比率は、重量比で１：９９〜９０：１０であることが好ましいが、特に５：９５〜６０：４０であることが好ましく、１０：９０〜４０：６０であることが最も好ましい。
【００１０】
また、ポリウレタンに添加するラジカルスカベンジャーの使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して５重量部以下であることが好ましく、特に好ましくはポリウレタン１００重量部に対して０．５重量部である。
【００１１】
本発明においては、ラジカルスカベンジャーと共に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系抗酸化剤、紫外線吸収剤、添加剤などのうち、少なくとも一種類の第三成分を更に含んでも良い。
【００１２】
本発明においては、ラジカルスカベンジャーと共に、紫外線吸収剤として、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ビス（１−メチル−１−フェニルエチル）フェノールを添加することが好ましい。
【発明の効果】
【００１３】
本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーは、ポリウレタンの熱安定性を大幅に高めることができるとともに、その耐黄変性の効果は、従来の一種類の成分からなるラジカルスカベンジャーより明らかに高い。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
以下に、本発明の所定の目的を達成するための方法、手段、及び効果を更に理解できるよう、詳細に説明する。
【００１５】
本発明は、ポリウレタン（スパンデックス）の耐黄変性及び熱安定性を更に強化する、ラジカルスカベンジャーの新しい調合方法を提出する。
【００１６】
本発明においては、ポリウレタン内に、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを添加するが、特に、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とし、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一種類を加えた、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーによってポリウレタンの耐黄変性と熱安定性を向上させることが好ましい。
【００１７】
本発明において重要なのは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とするラジカルスカベンジャーと、上述した三種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤からなる群の中から選択された一種類とをポリウレタンに添加し、耐熱、耐黄変性処理をすることによってポリウレタンの熱安定性を大幅に向上させる、という点である。これは、前述した特許文献に開示されている単一成分のラジカルスカベンジャーを使用する場合とは大きく異なり、しかも、耐黄変性の効果は単一成分の捕捉剤を使用した場合より大幅に高い。
【００１８】
本発明で用いられる少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーは、少なくとも二種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤からなる。その内の一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンとした場合を例にとると、その使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部である。もう一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、からなる群の中から選択された一種類とした場合を例にとると、その使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部である。前者に対する後者の配合比率は、重量比で９９：１〜１０：９０の間であることが好ましく、９５：５〜４０：６０であることがより好ましい。なお、ポリウレタンの生産コストと効果を考慮すると、両ラジカルスカベンジャーの比率は、９０：１０〜６０：４０であることが最も好ましい。
【００１９】
本発明におけるラジカルスカベンジャーのポリウレタンへの添加量は、１００重量部のポリウレタンに対して約０．０１−３重量部であることが好ましい。また、本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーには、更に、第三のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系抗酸化剤、紫外線吸収剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、ギ酸捕捉剤、或いは無機充填材等を配合させることができる。
【００２０】
本発明で用いる前記した二種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤以外に、本発明で同時に用いることのできる第三のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、１,１−ビス（３,５−ｔｅｒｔ−ブチル−２−ヒドロキシフェニル）エタン［１,１−ｂｉｓ（３,５−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−２−ｈｙｄｒｏｘｙｐｈｅｎｙｌ）ｅｔｈａｎｅ］、テトラエチレングリコールビス（３−（３−ｔｅｒｔ−ブチル−５−メチル−４−ヒドロキシフェニル））プロピオネート（ＣＡＳ Ｎｏ．３６４４３−６８−２）、１,６−ヘキサメチレン（３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル））プロピオネート［１,６−ｈｅｘａｍｅｔｈｙｌｅｎｅ ｂｉｓ−３−（３,５−ｄｉ−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−４−ｄｙｄｒｏｘｙ ｐｈｅｎｙｌ）ｐｒｏｐｉｏｎａｔｅ］、Ｎ,Ｎ−ヘキサメチレン−３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシけい皮酸アミド（ＣＡＳ Ｎｏ．２４５−４４２−７）、４,４’−メチレン（２,６−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール）［４,４’−ｍｅｔｈｙｌｅｎｅ（２,６−ｄｉ−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ ｐｈｅｎｏｌ）］、２,２’−メチレン（４−メチル−６−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール）［２,２’−ｍｅｔｈｙｌｅｎｅ−ｂｉｓ（４−ｍｅｔｈｙｌ−６−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ ｐｈｅｎｏｌ）、１,１,３−トリス（５’−ｔｅｒｔ−ブチル−４’−ヒドロキシ−２’−メチルフェニル）ブタン［１,１,３−ｔｒｉｓ（５’−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−４’−ｈｙｄｒｏｘｙ−２’−ｍｅｔｈｙｌｐｈｅｎｙｌ）ｂｕｔａｎｅ］、２,４’−ジメチル−６’−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル−メチレン−６−ｔｅｒｔ−ブチル−４−メチルフェニルアクリル酸（ＣＡＳ Ｎｏ．６１１６７−５８−６）等を例示することができる。
【００２１】
本発明においては、適切なリン系抗酸化剤をヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用することができる。前記リン系抗酸化剤としては、例えば、亜りん酸トリフェニル、亜りん酸トリス（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２５０−７０９−６）、テトラキス（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）−４,４’−ビフェニリルジリン酸エステル（ＰＥＰ−Ｑ）、ペンタエリスリトールジ亜リン酸ジ（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２４７−９５２−５）、及びペンタエリスリトールジ亜リン酸エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−２７６−６）等を例示することができる。
【００２２】
本発明で使用するラジカルスカベンジャーは、紫外線吸収剤と併用することによって、ポリウレタンの耐黄変性效果を高めることができる。よく使われる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系であり、例えば、２−（２’−ヒドロキシ−３’−ｔｅｒｔ−ブチル−５’−メチルフェニル−５−クロロベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−４４５−４）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ジ−ｔｅｒｔ−ペンチルフェノール（ＣＡＳ−Ｎｏ．２４７−３８４−８）、２−（２’−ヒドロキシ−５−メチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２１９−４７０−５）、２−ベンゾトリアゾール−２−イル−４,６−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−３４６−６）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−ヒドロキシ）−４−（ｔｅｒｔ−ブチル−６−ｓｅｃ−ブチル）フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２５３−０３７−１）、２−（２’−ヒドロキシ−５’−ｔｅｒｔ−オクチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２１−５７３−５）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ビス（１−メチル−１−フェニルエチル）フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２７４−５７０−６）、２,２’−メチレンビス（６−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−イル）−４−（１,１,３,３−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド））フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．１０３５９７−４５−１）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−イル）−６−ドデシル−４−メチルフェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２３３２８−５３−２）、２−（２’−ヒドロキシ−３’−イソプロピルフェニル−５’−ｔｅｒｔ−オクチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．７３９３６−９１−１）等である。ただし、非ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤も使用することができる。例えば、Ｎ−（２−ヘキシルオキシフェノール）−Ｎ’−（２−エチルフェニル）オキサリルジアミン（Ｓａｎｄｕｖｏｒ ＶＳＵ）、２−（４,６−ジフェニル−１,３,５−トリアジン−２−ヒドロキシ）−５−ヘキシルオキシフェノール（Ｔｉｎｕｖｉｎ １５７７）、２−［４,６−ビス（２,４−キシリル）−２−（１,３,５−トリアジニル）］−５−オクチルオキシフェノール（Ｃｙｔｅｃ ＵＶ−１１６４）、ポリ−［［６−（１,１,３,３,−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド）−イミノ］−１,３,５−トリアジン−２,４−ジイル−［２−（２,２,６,６−テトラメチルピペリジン］−アミノ］−ヘキシリデン−［４−（２,２,６,６−テトラメチルピペリジン）］−イミノ（ＣＡＳ Ｎｏ．７１８７８−１９−８）、４−ヒドロキシ−２,２,６,６−テトラメチルピペリジン−１−エタノールとこはく酸ジメチルのポリマー（ＣＡＳ Ｎｏ．６５４４７−７７−０）等である。
【００２３】
本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーには、上述した添加剤以外に、その他の添加剤も併用することができる。このような添加剤としては、例えば、ベンゼンスルフィド抗酸化剤、非ベンゼンスルフィド抗酸化剤、Ｎ−Ｈ、或いはＮ−ＯＨ、或いはＮ−Ｎ抗酸化剤、金属失活剤、アルカリ性共安定剤充填材、強化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、介面活性剤、着色料、蛍光増白剤、難燃剤、抗静電気剤、及び発泡剤等を例示することができる。
【００２４】
本発明の、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーによってポリウレタンを変性する方法は、少なくともそれら二成分のラジカルスカベンジャーをそれぞれポリウレタン樹脂に溶かし、その後、押出し加工や引き抜き加工によって繊維にするか、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを適切な溶剤、例えば、Ｎ,Ｎ−ジメチルアセトアミド（ＤＭＡＣ）に溶かし、ポリウレタン樹脂と混ぜ合わせた後、溶剤を取り除き、引き抜き加工によって繊維にするか、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを、まずその他の液体媒質に溶かし、或いは分散させ、さらに、ポリウレタン樹脂と混ぜ合わせた後、引き抜き加工によって繊維にする方法である。ポリウレタン樹脂は、主に、グリコール類、或いは、エーテル系グリコール類とメチレンジフェニルイソシアネートを重合させてなるものである。
以下、詳細な内容について、実施例に基づいてさらに説明する。
【実施例１】
【００２５】
１モルのポリテトラメチレンエーテルグリコール（ＰＴＭＥＧ：分子量２０００±１００）と２モルのメチレンジフェニルイソシアネート（ＭＤＩ）を混ぜ合わせ、８０℃−９０℃で反応させて、末端にメチレンジフェニルイソシアネートをもつポリマーをつくり、その後、約５５℃に冷却し、Ｎ,Ｎ−ジメチルアセトアミド（ＤＭＡＣ）を加え、固体成分が４５％含まれた溶液を調製し、さらにエチレンジアミンとシクロジアミンを加えて連鎖延長剤を調製するとともに、エチレンジアミンでキャッピング剤をつくる。この時、ポリウレタン樹脂の含有量は約３６％であり、粘度は約２２００ポアズ（ｐｏｉｓｅ；４０℃）であった。
【００２６】
得られた粘性液体をいくつかに分け、表１に示す添加剤をそれぞれ加え、混ぜ合わせて溶解させた後、平坦なガラス板上に塗布して成膜し、乾燥炉に入れて１００℃で３０時間乾燥し、そのＹＩ値を測定して耐熱性を評価した。測定結果を表１に示した。
表１の結果から分かるように、本発明の、二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせた試料２、４の場合には、明らかに、従来の一種類からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料１、３の場合より優れている。二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせて使用した試料６、４の場合は、明らかに、一種類からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料５、７の場合より優れている。ラジカルスカベンジャー９は、工業的に頻繁に用いられる化合物であるが、二成分のラジカルスカベンジャーを使用した本発明の場合と比較すると、ＹＩ値が高いことが明らかである。
【００２７】
【表１】
【実施例２】
【００２８】
１００重量部の熱可塑性ポリウレタン樹脂（ＴＰＵ品名：Ｓ−１９５ＡＬ；台湾昆仲公司提供）を乾燥炉に入れ、５時間乾燥させた後、表２に示した添加剤と均等に混ぜ合わせ、射出成形機に入れて２００℃で射出成形し（射出圧力：１２０ ｋｇｆ／ｃｍ２）、円形の試験片（直径５０ｍｍ、厚さ２ｍｍ）を形成させた。得られた試験片について、耐候試験（ＱＵＶ：１２時間）、燻蒸（５０℃；１６時間）、熱乾燥（１５０℃；３０分）、及びボイル（９５℃；１時間）などを行った後、黄変指数（ＹＩ）を測定して耐黄変性を評価した。測定結果を表３に示した。
表３の結果から分かるように、二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせた本発明の試料１２、１３、及び１４の場合は、耐候性、耐煙性、耐温性、及び、耐加水分解性のいずれも、一種類の成分からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料１１及び１５の場合より明らかに優れており、組み合わせ試料１６も、組み合わせ試料１７より優れていた。
【００２９】
【表２】
【００３０】
【表３】
【００３１】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はこの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の構成を逸脱しない範囲で当業者が容易に行うことのできる設計変更等も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【００３２】
本発明はポリウレタンの熱安定性を大幅に高めることができ、その耐黄変性に著しく有効であるので、産業上極めて有用である。
【技術分野】
【０００１】
本発明はポリウレタンの熱安定性を改善することのできるラジカルスカベンジャー、及びそれを用いたポリウレタンに関し、特に少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーからなるラジカルスカベンジャー、及び、それを添加して熱安定性を向上させてなるポリウレタン繊維に関する。
【背景技術】
【０００２】
スパンデックスともよばれるポリウレタン弾性繊維は、長鎖合成ポリマーであり、一般的にはポリテトラメチレンエーテルグリコールとメチレンジフェニルイソシアネートからなる重合体である。商業上、スパンデックスは、耐光、耐熱、抗酸化、及び耐排気ガスなどの特性において優れているが、その物性が不安定であるため、黄変や機械的性質の劣化などの現象を引き起こす。この問題は、様々な添加剤を用いることで改善されている。例えば、ベンゾトリアゾールとヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いて耐光性や黄変を改善したり（特許文献１）、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と有機リン系抗酸化剤を用いて抗酸化性や耐黄変性を強化したり（特許文献２〜４）、或いは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と多糖類を結合させる（特許文献５）ことによって、スパンデックスの耐黄変性を改善させたりすることが提案されている。このように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とその他の添加剤の併用により、上述したような改善効果を達成することができるものの、まだ改善の余地があるといえる。例えば、ポリウレタンを高温で引抜き加工を行う際、有機リン系抗酸化剤の場合にはその一部が高温で熱分解され、多糖類を添加剤とした場合にはその一部が高温で脱水反応を起こして穴が生じ、引抜き加工後、繊維の物性が不安定になるという現象がおこる。いずれにしても、スパンデックスの耐黄変性用の添加剤を探す場合、上述した特許からも明らかなように、一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を単独で使用してもスパンデックスの耐黄変性を満足させることはできないため、その他の添加剤を併用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００３】
【特許文献１】米国特許第３３７９６７５号明細書
【特許文献２】米国特許第３３８６９４２号明細書
【特許文献３】米国特許第３５７３２５１号明細書
【特許文献４】米国特許第４５４８９７５号明細書
【特許文献５】米国特許第５０２８６４２号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
そこで、上記の技術問題を解決するために、本発明は、ラジカルスカベンジャー、及びラジカルスカベンジャーを添加して熱安定性を向上させたポリウレタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
上記の目的は、ラジカルスカベンジャーによる熱安定性を向上させた変性ポリウレタンによって達成され、この場合、前記ラジカルスカベンジャーとして少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを使用すると共に、その二種類の成分がいずれもヒンダードフェノール系酸化防止剤（ｈｉｎｄｅｒｅｄ ｐｈｅｎｏｌｉｃ ａｎｔｉｏｘｉｄａｎｔｓ）であることが特徴である。
【０００６】
前記ラジカルスカベンジャーは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも二種の化合物からなる。
【０００７】
特に、本発明で使用するラジカルスカベンジャーは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とし、これに、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも一種を更に添加してなるラジカルスカベンジャーであることが好ましい。
【０００８】
また本発明においては、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンの使用量を、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部とし、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された、少なくとも一種の使用量を、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部とすることが好ましい。
【０００９】
更に、本発明においては、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンと、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一種の化合物との使用比率は、重量比で１：９９〜９０：１０であることが好ましいが、特に５：９５〜６０：４０であることが好ましく、１０：９０〜４０：６０であることが最も好ましい。
【００１０】
また、ポリウレタンに添加するラジカルスカベンジャーの使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して５重量部以下であることが好ましく、特に好ましくはポリウレタン１００重量部に対して０．５重量部である。
【００１１】
本発明においては、ラジカルスカベンジャーと共に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系抗酸化剤、紫外線吸収剤、添加剤などのうち、少なくとも一種類の第三成分を更に含んでも良い。
【００１２】
本発明においては、ラジカルスカベンジャーと共に、紫外線吸収剤として、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ビス（１−メチル−１−フェニルエチル）フェノールを添加することが好ましい。
【発明の効果】
【００１３】
本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーは、ポリウレタンの熱安定性を大幅に高めることができるとともに、その耐黄変性の効果は、従来の一種類の成分からなるラジカルスカベンジャーより明らかに高い。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
以下に、本発明の所定の目的を達成するための方法、手段、及び効果を更に理解できるよう、詳細に説明する。
【００１５】
本発明は、ポリウレタン（スパンデックス）の耐黄変性及び熱安定性を更に強化する、ラジカルスカベンジャーの新しい調合方法を提出する。
【００１６】
本発明においては、ポリウレタン内に、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを添加するが、特に、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とし、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一種類を加えた、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーによってポリウレタンの耐黄変性と熱安定性を向上させることが好ましい。
【００１７】
本発明において重要なのは、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを主とするラジカルスカベンジャーと、上述した三種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤からなる群の中から選択された一種類とをポリウレタンに添加し、耐熱、耐黄変性処理をすることによってポリウレタンの熱安定性を大幅に向上させる、という点である。これは、前述した特許文献に開示されている単一成分のラジカルスカベンジャーを使用する場合とは大きく異なり、しかも、耐黄変性の効果は単一成分の捕捉剤を使用した場合より大幅に高い。
【００１８】
本発明で用いられる少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーは、少なくとも二種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤からなる。その内の一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンとした場合を例にとると、その使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部である。もう一種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、からなる群の中から選択された一種類とした場合を例にとると、その使用量は、ポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部である。前者に対する後者の配合比率は、重量比で９９：１〜１０：９０の間であることが好ましく、９５：５〜４０：６０であることがより好ましい。なお、ポリウレタンの生産コストと効果を考慮すると、両ラジカルスカベンジャーの比率は、９０：１０〜６０：４０であることが最も好ましい。
【００１９】
本発明におけるラジカルスカベンジャーのポリウレタンへの添加量は、１００重量部のポリウレタンに対して約０．０１−３重量部であることが好ましい。また、本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーには、更に、第三のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系抗酸化剤、紫外線吸収剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、ギ酸捕捉剤、或いは無機充填材等を配合させることができる。
【００２０】
本発明で用いる前記した二種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤以外に、本発明で同時に用いることのできる第三のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、１,１−ビス（３,５−ｔｅｒｔ−ブチル−２−ヒドロキシフェニル）エタン［１,１−ｂｉｓ（３,５−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−２−ｈｙｄｒｏｘｙｐｈｅｎｙｌ）ｅｔｈａｎｅ］、テトラエチレングリコールビス（３−（３−ｔｅｒｔ−ブチル−５−メチル−４−ヒドロキシフェニル））プロピオネート（ＣＡＳ Ｎｏ．３６４４３−６８−２）、１,６−ヘキサメチレン（３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル））プロピオネート［１,６−ｈｅｘａｍｅｔｈｙｌｅｎｅ ｂｉｓ−３−（３,５−ｄｉ−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−４−ｄｙｄｒｏｘｙ ｐｈｅｎｙｌ）ｐｒｏｐｉｏｎａｔｅ］、Ｎ,Ｎ−ヘキサメチレン−３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシけい皮酸アミド（ＣＡＳ Ｎｏ．２４５−４４２−７）、４,４’−メチレン（２,６−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール）［４,４’−ｍｅｔｈｙｌｅｎｅ（２,６−ｄｉ−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ ｐｈｅｎｏｌ）］、２,２’−メチレン（４−メチル−６−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール）［２,２’−ｍｅｔｈｙｌｅｎｅ−ｂｉｓ（４−ｍｅｔｈｙｌ−６−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ ｐｈｅｎｏｌ）、１,１,３−トリス（５’−ｔｅｒｔ−ブチル−４’−ヒドロキシ−２’−メチルフェニル）ブタン［１,１,３−ｔｒｉｓ（５’−ｔｅｒｔ−ｂｕｔｙｌ−４’−ｈｙｄｒｏｘｙ−２’−ｍｅｔｈｙｌｐｈｅｎｙｌ）ｂｕｔａｎｅ］、２,４’−ジメチル−６’−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル−メチレン−６−ｔｅｒｔ−ブチル−４−メチルフェニルアクリル酸（ＣＡＳ Ｎｏ．６１１６７−５８−６）等を例示することができる。
【００２１】
本発明においては、適切なリン系抗酸化剤をヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用することができる。前記リン系抗酸化剤としては、例えば、亜りん酸トリフェニル、亜りん酸トリス（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２５０−７０９−６）、テトラキス（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）−４,４’−ビフェニリルジリン酸エステル（ＰＥＰ−Ｑ）、ペンタエリスリトールジ亜リン酸ジ（２,４−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェニル）エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２４７−９５２−５）、及びペンタエリスリトールジ亜リン酸エステル（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−２７６−６）等を例示することができる。
【００２２】
本発明で使用するラジカルスカベンジャーは、紫外線吸収剤と併用することによって、ポリウレタンの耐黄変性效果を高めることができる。よく使われる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系であり、例えば、２−（２’−ヒドロキシ−３’−ｔｅｒｔ−ブチル−５’−メチルフェニル−５−クロロベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−４４５−４）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ジ−ｔｅｒｔ−ペンチルフェノール（ＣＡＳ−Ｎｏ．２４７−３８４−８）、２−（２’−ヒドロキシ−５−メチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２１９−４７０−５）、２−ベンゾトリアゾール−２−イル−４,６−ジ−ｔｅｒｔ−ブチルフェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２３−３４６−６）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−ヒドロキシ）−４−（ｔｅｒｔ−ブチル−６−ｓｅｃ−ブチル）フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２５３−０３７−１）、２−（２’−ヒドロキシ−５’−ｔｅｒｔ−オクチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．２２１−５７３−５）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール−２−イル）−４,６−ビス（１−メチル−１−フェニルエチル）フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２７４−５７０−６）、２,２’−メチレンビス（６−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−イル）−４−（１,１,３,３−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド））フェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．１０３５９７−４５−１）、２−（２Ｈ−ベンゾトリアゾール２−イル）−６−ドデシル−４−メチルフェノール（ＣＡＳ Ｎｏ．２３３２８−５３−２）、２−（２’−ヒドロキシ−３’−イソプロピルフェニル−５’−ｔｅｒｔ−オクチルフェニル）ベンゾトリアゾール（ＣＡＳ Ｎｏ．７３９３６−９１−１）等である。ただし、非ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤も使用することができる。例えば、Ｎ−（２−ヘキシルオキシフェノール）−Ｎ’−（２−エチルフェニル）オキサリルジアミン（Ｓａｎｄｕｖｏｒ ＶＳＵ）、２−（４,６−ジフェニル−１,３,５−トリアジン−２−ヒドロキシ）−５−ヘキシルオキシフェノール（Ｔｉｎｕｖｉｎ １５７７）、２−［４,６−ビス（２,４−キシリル）−２−（１,３,５−トリアジニル）］−５−オクチルオキシフェノール（Ｃｙｔｅｃ ＵＶ−１１６４）、ポリ−［［６−（１,１,３,３,−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド）−イミノ］−１,３,５−トリアジン−２,４−ジイル−［２−（２,２,６,６−テトラメチルピペリジン］−アミノ］−ヘキシリデン−［４−（２,２,６,６−テトラメチルピペリジン）］−イミノ（ＣＡＳ Ｎｏ．７１８７８−１９−８）、４−ヒドロキシ−２,２,６,６−テトラメチルピペリジン−１−エタノールとこはく酸ジメチルのポリマー（ＣＡＳ Ｎｏ．６５４４７−７７−０）等である。
【００２３】
本発明で使用する少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーには、上述した添加剤以外に、その他の添加剤も併用することができる。このような添加剤としては、例えば、ベンゼンスルフィド抗酸化剤、非ベンゼンスルフィド抗酸化剤、Ｎ−Ｈ、或いはＮ−ＯＨ、或いはＮ−Ｎ抗酸化剤、金属失活剤、アルカリ性共安定剤充填材、強化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、介面活性剤、着色料、蛍光増白剤、難燃剤、抗静電気剤、及び発泡剤等を例示することができる。
【００２４】
本発明の、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーによってポリウレタンを変性する方法は、少なくともそれら二成分のラジカルスカベンジャーをそれぞれポリウレタン樹脂に溶かし、その後、押出し加工や引き抜き加工によって繊維にするか、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを適切な溶剤、例えば、Ｎ,Ｎ−ジメチルアセトアミド（ＤＭＡＣ）に溶かし、ポリウレタン樹脂と混ぜ合わせた後、溶剤を取り除き、引き抜き加工によって繊維にするか、少なくとも二成分のラジカルスカベンジャーを、まずその他の液体媒質に溶かし、或いは分散させ、さらに、ポリウレタン樹脂と混ぜ合わせた後、引き抜き加工によって繊維にする方法である。ポリウレタン樹脂は、主に、グリコール類、或いは、エーテル系グリコール類とメチレンジフェニルイソシアネートを重合させてなるものである。
以下、詳細な内容について、実施例に基づいてさらに説明する。
【実施例１】
【００２５】
１モルのポリテトラメチレンエーテルグリコール（ＰＴＭＥＧ：分子量２０００±１００）と２モルのメチレンジフェニルイソシアネート（ＭＤＩ）を混ぜ合わせ、８０℃−９０℃で反応させて、末端にメチレンジフェニルイソシアネートをもつポリマーをつくり、その後、約５５℃に冷却し、Ｎ,Ｎ−ジメチルアセトアミド（ＤＭＡＣ）を加え、固体成分が４５％含まれた溶液を調製し、さらにエチレンジアミンとシクロジアミンを加えて連鎖延長剤を調製するとともに、エチレンジアミンでキャッピング剤をつくる。この時、ポリウレタン樹脂の含有量は約３６％であり、粘度は約２２００ポアズ（ｐｏｉｓｅ；４０℃）であった。
【００２６】
得られた粘性液体をいくつかに分け、表１に示す添加剤をそれぞれ加え、混ぜ合わせて溶解させた後、平坦なガラス板上に塗布して成膜し、乾燥炉に入れて１００℃で３０時間乾燥し、そのＹＩ値を測定して耐熱性を評価した。測定結果を表１に示した。
表１の結果から分かるように、本発明の、二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせた試料２、４の場合には、明らかに、従来の一種類からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料１、３の場合より優れている。二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせて使用した試料６、４の場合は、明らかに、一種類からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料５、７の場合より優れている。ラジカルスカベンジャー９は、工業的に頻繁に用いられる化合物であるが、二成分のラジカルスカベンジャーを使用した本発明の場合と比較すると、ＹＩ値が高いことが明らかである。
【００２７】
【表１】
【実施例２】
【００２８】
１００重量部の熱可塑性ポリウレタン樹脂（ＴＰＵ品名：Ｓ−１９５ＡＬ；台湾昆仲公司提供）を乾燥炉に入れ、５時間乾燥させた後、表２に示した添加剤と均等に混ぜ合わせ、射出成形機に入れて２００℃で射出成形し（射出圧力：１２０ ｋｇｆ／ｃｍ２）、円形の試験片（直径５０ｍｍ、厚さ２ｍｍ）を形成させた。得られた試験片について、耐候試験（ＱＵＶ：１２時間）、燻蒸（５０℃；１６時間）、熱乾燥（１５０℃；３０分）、及びボイル（９５℃；１時間）などを行った後、黄変指数（ＹＩ）を測定して耐黄変性を評価した。測定結果を表３に示した。
表３の結果から分かるように、二成分のラジカルスカベンジャーを組み合わせた本発明の試料１２、１３、及び１４の場合は、耐候性、耐煙性、耐温性、及び、耐加水分解性のいずれも、一種類の成分からなるラジカルスカベンジャーを使用した試料１１及び１５の場合より明らかに優れており、組み合わせ試料１６も、組み合わせ試料１７より優れていた。
【００２９】
【表２】
【００３０】
【表３】
【００３１】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はこの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の構成を逸脱しない範囲で当業者が容易に行うことのできる設計変更等も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【００３２】
本発明はポリウレタンの熱安定性を大幅に高めることができ、その耐黄変性に著しく有効であるので、産業上極めて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
ポリウレタン樹脂に溶かして、ポリウレタンの熱安定性を高めるラジカルスカベンジャーであって、該ラジカルスカベンジャーが、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも二種類の組み合わせからなることを特徴とするラジカルスカベンジャー。
【請求項２】
前記組み合わせが、少なくとも、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを必須成分として含み、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一つを含むと共に、前記１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンの使用量がポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部であり、前記ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも一つの使用量がポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部である、請求項１に記載されたラジカルスカベンジャー。
【請求項３】
更に、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンと、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される少なくとも一種との使用比率が、重量比で１０：９０〜４０：６０である、請求項２に記載されたラジカルスカベンジャー。
【請求項４】
ポリウレタン１００重量部に対して、請求項１〜３の何れかに記載されたラジカルスカベンジャーを５重量部以下含有してなることを特徴とする、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項５】
請求項１に記載されたラジカルスカベンジャーによって変性されてなることを特徴とする、変性ポリウレタン繊維。
【請求項１】
ポリウレタン樹脂に溶かして、ポリウレタンの熱安定性を高めるラジカルスカベンジャーであって、該ラジカルスカベンジャーが、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも二種類の組み合わせからなることを特徴とするラジカルスカベンジャー。
【請求項２】
前記組み合わせが、少なくとも、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンを必須成分として含み、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群の中から選択された少なくとも一つを含むと共に、前記１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンの使用量がポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１重量部であり、前記ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される、少なくとも一つの使用量がポリウレタン１００重量部に対して少なくとも１０重量部である、請求項１に記載されたラジカルスカベンジャー。
【請求項３】
更に、１,３,５−トリメチル−２,４,６−トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）ベンゼンと、ペンタエリスリチル−テトラキス〔３−（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネート、トリス（３,５−ジ−ｔｅｒｔ−ブチル−４−ヒドロキシベンジル）イソシアヌル酸、オクタデシル−３−（３,５−ジ−ｔ−ブチル−４−ヒドロキシフェニル）プロピオネートからなる群から選択される少なくとも一種との使用比率が、重量比で１０：９０〜４０：６０である、請求項２に記載されたラジカルスカベンジャー。
【請求項４】
ポリウレタン１００重量部に対して、請求項１〜３の何れかに記載されたラジカルスカベンジャーを５重量部以下含有してなることを特徴とする、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項５】
請求項１に記載されたラジカルスカベンジャーによって変性されてなることを特徴とする、変性ポリウレタン繊維。
【公開番号】特開２０１１−１４４３４６（Ｐ２０１１−１４４３４６Ａ）
【公開日】平成２３年７月２８日（２０１１．７．２８）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１０−１０６９５０（Ｐ２０１０−１０６９５０）
【出願日】平成２２年５月７日（２０１０．５．７）
【出願人】（５１０１０１８５９）奕益實業有限公司 (3)
【出願人】（５１０１２５９５８）雙鍵化工股▲分▼有限公司 (2)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２３年７月２８日（２０１１．７．２８）
【国際特許分類】
【出願日】平成２２年５月７日（２０１０．５．７）
【出願人】（５１０１０１８５９）奕益實業有限公司 (3)
【出願人】（５１０１２５９５８）雙鍵化工股▲分▼有限公司 (2)
【Ｆターム（参考）】
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