説明

ラットおよび他種由来の多能性細胞

多能性細胞は、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストを含む無血清培養培地中で誘導されそして自己再生状態に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞における自己再生表現型の維持に関する。提供される方法および組成物は、多能性幹細胞、例えば、胚性幹(ES)細胞、特に、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタおよびヒトを含む哺乳動物の幹細胞の培養および単離に適する。特に、本発明は、ラット、マウスおよびヒトの多能性細胞の自己再生培養物、ならびにそのための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血清および白血病抑制因子(LIF)を含む培地の存在下でのインビトロ多能性幹細胞培養物の樹立および維持は、周知である(Smithら、(1998)Nature 336: 688-90)。このような方法は、「許容的」なマウスの系統から多くの継代にわたって多能性胚性幹(ES)細胞を維持するために用いられてきた。多能性幹細胞培養物の維持および自己再生は、フィーダー細胞またはその抽出物(通常はマウス線維芽細胞)の存在下で幹細胞が培養される場合にさらに支持される。このような条件下では、培養物中で多くの継代にわたってヒトES細胞を多能性状態に維持し得る。
【0003】
多くの場合において、ES細胞は、血清または血清抽出物を含む(したがって、非限定である)培地を用いるか、またはヒトES細胞を維持するために用いられる線維芽細胞フィーダー細胞のような他の細胞の存在を必要とする細胞培養条件を用いる場合のみ維持され得るか、あるいは最もよく維持される。しかし、培地中のものであろうとまたは例えばフィーダー細胞によって産生されるものであろうと、何らかの不確定の構成成分が、ES細胞の増殖および分化についての研究を潜在的に妨害し、または邪魔する。これは、ES細胞およびその子孫の治療および他の適用のための良好な製造実施の発展を妨げる。いくつかの限定されたES細胞培地が知られているが、代替のおよび好ましくは改良された限定培地が必要とされる。
【0004】
本出願人による先の出願であるWO-A-03/095628およびより後の未公開出願において、(1)gp130のアゴニスト(例えば、LIF)および(2)TGF−βスーパーファミリーのアゴニスト(例えば、BMP4)またはIdシグナリング経路のアゴニストを含む無血清培地中でES細胞のような多能性幹細胞を培養することは、複数の継代にわたって幹細胞の自己再生を促進するために用いられる。gp130シグナリングの存在下では、TGF−βスーパーファミリーまたはIdシグナリング経路のアゴニストは、驚くべきことに、分化前のシグナルよりもむしろ自己再生の刺激を提供した。それにもかかわらず、多能性細胞を自己再生状態に維持する効率、およびフィーダー細胞から離してまたはフィーダー条件培地から離して多能性細胞を移すための培地は、常に改良されることが望まれる。
【0005】
Sato Nら、Nat. Med. 2004年1月 10(1) 55-63頁は、血清を含む培地中でのマウスおよびヒトES細胞に対する、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)インヒビターである6−ブロモインディルビン−3’−オキシムの効果を記載している。しかし、これらの効果は非常に短い時間枠にわたってのみ観察され、あまりにも短いため確かな結論を引き出し得なかった。そして、その研究に用いられた非限定培地中の未知の因子の影響は重要であり得る。本発明の発明者らは、その結果を反復することを試みたがこれに失敗し、そして実際にはそれらの記載と反対の効果を見出した。
【0006】
ES細胞の培養培地の調製のためには、個々の培地構成成分をできる限り純粋な形態で提供することが望まれる。しかし、ほとんどの培地構成成分はサイトカインであり、その純度は、それらを細胞系で製造し、次に生産ブロスから潜在的な汚染物質を除去する必要によって損なわれる。いくつかのサイトカインに伴う別の問題は、それらが効果的かつ無毒性である濃度範囲が狭いことである。より広い範囲の濃度を有しおよび/またはより高い濃度でより毒性が低い培地構成成分は、非常に有用である。サイトカインはまた、貯蔵において安定性が限定され得、そしてより安定な培地構成成分が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、当該技術分野における問題を克服しまたは少なくとも改善すること、好ましくは代替の、より好ましくは改良された、多くの継代にわたって該幹細胞の自己再生を支持し得る、多能性幹細胞に適した培養方法および培養培地を提供することである。本発明のさらなる目的は、細胞の分化が制御される様式で誘導され得るまで多能性幹細胞培養物のインビトロでの維持を可能にする、代替の培養系を提供することである。本発明のよりさらなる目的は、多能性幹細胞の誘導および単離を増強し、かつES細胞の単離が難しい生物からまたは多能性幹細胞がまだ単離されていない生物からのそれらの誘導および単離を促進する方法および組成物を提供することである。本発明のさらなる関連の目的は、そのような生物由来の多能性幹細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の局面によれば、多能性細胞でのGSK3およびMEKおよびFGFレセプターすべての阻害が、細胞の自己再生を促進するために用いられる。
【0009】
本発明によれば、ES細胞のような多能性幹細胞は、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニスト(例えば、小分子GSK3インヒビターおよび小分子MEKインヒビターおよび小分子FGFRアンタゴニスト)を含む、(好ましくは無血清の)培地中で培養される。それによって、幹細胞の複数の継代にわたる自己再生が促進される。したがって、多能性細胞でのGSK3、MEKおよびFGFレセプターシグナリングの阻害は、自己再生の刺激を提供する。
【0010】
本発明は、多くの適用を有する。GSK3およびMEKの阻害の組み合わせ、MEKおよびFGFRの阻害の組み合わせ、またはGSK3、MEKおよびFGFRの阻害の組み合わせが、多能性細胞、特にES細胞を増殖させるため、およびそれらがフィーダー上で誘導または増殖されていた場合、多能性細胞、特にES細胞を、フィーダー細胞またはフィーダー細胞の層(しばしばフィーダーまたはフィーダー細胞という)を伴わずに増殖するように適応させるために用いられ得る。培養物中で幹細胞を増殖させる方法は、GSK3インヒビターおよびMEKインヒビターの存在下、MEKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下、または好ましくはGSK3インヒビター、MEKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で細胞を培養する工程を含む。1以上のGSK3インヒビターおよびMEKインヒビター、1以上のMEKインヒビターおよびFGFRアンタゴニスト、ならびに必要に応じて1以上のMEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFRアンタゴニストを含む培養培地が調製され得る。GSK3インヒビターおよびMEKインヒビターを用いて、MEKインヒビターおよびFGFRアンタゴニストを用いて、またはGSK3インヒビター、MEKインヒビターおよびFGFRアンタゴニストを用いて、ES細胞(ES細胞がこれまで単離されなかった生物由来のES細胞を含む)が誘導され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によって誘導および維持されたマウスES細胞、およびこれらのES細胞によるキメラ寄与の高効率を示す。
【図2】本発明によって増殖された継代4マウスES細胞を示す。
【図3】本発明によって増殖されたマウスES細胞がOct4陽性であることを示す。
【図4】本発明によって単離されたラットES細胞のコロニーを示す。
【図5】本発明によって単離されたラットES細胞がNanog陽性であることを示す。
【図6】本発明によって単離されたラットES細胞がOct4陽性であることを示す。
【図7】本発明によって単離されたラットES細胞がCdx−2陽性であることを示す。
【図8】本発明によって単離されたラットES細胞がアルカリフォスファターゼ陽性であることを示す。
【図9】本発明によって単離された4つのラットES細胞系におけるRT−PCR発現データを示す。
【図10】本発明によって単離されたラットES細胞から生じた奇形腫の成熟分化組織切片を示す。
【図11a】3i中でOct4およびNanogの発現を保持するラットICM派生物および一次コロニーを示す。a.血清およびLIFの存在下、または3i中での培養3日後のICMのOct4およびCdx2についての免疫蛍光染色。
【図11b】3i中でOct4およびNanogの発現を保持するラットICM派生物および一次コロニーを示す。b.培養されたラットICM中のOct4およびCdx2免疫陽性細胞の定量化。
【図11c】3i中でOct4およびNanogの発現を保持するラットICM派生物および一次コロニーを示す。c.3i中での培養4日後のICMのOct4およびNanog免疫染色。
【図11d】3i中でOct4およびNanogの発現を保持するラットICM派生物および一次コロニーを示す。d.ICM派生物の脱凝集4日後の3i中の一次コロニー。
【図12a】3i中で増殖したラット胚由来細胞の形態、クローン性増殖、染色体相補体が、細胞を誘導したことを示す。a.フィーダー上で、3iで継代された細胞の代表的なコロニー。
【図12b】3i中で増殖したラット胚由来細胞の形態、クローン性増殖、染色体相補体が、細胞を誘導したことを示す。b.3i中のフィブロネクチン上でフィーダーなしで継代された細胞。
【図12c】3i中で増殖したラット胚由来細胞の形態、クローン性増殖、染色体相補体が、細胞を誘導したことを示す。c.3iコロニーのOct4およびNanogについての免疫蛍光染色。
【図12d】3i中で増殖したラット胚由来細胞の形態、クローン性増殖、染色体相補体が、細胞を誘導したことを示す。d.E14Tg2aマウスES細胞(mES)、ラットExS細胞(rExS)およびマウスOctおよびマウスNanog導入遺伝子を発現するラットExS細胞(rExS+mO/mN)と比較した、ラット胚由来3i細胞におけるマーカー発現のRT−PCR分析。
【図12e】3i中で増殖したラット胚由来細胞の形態、クローン性増殖、染色体相補体が、細胞を誘導したことを示す。e.3iラットES細胞(C系)由来の中期染色体。
【図13a】インビトロでのラット3i細胞の分化を示す。a.フィーダー上で血清+LIFへ曝露した後の細胞の位相差画像および免疫蛍光画像。
【図13b】インビトロでのラット3i細胞の分化を示す。b.3iなしの無血清培地中のゼラチン上の培養8日後の分化細胞。
【図13c】インビトロでのラット3i細胞の分化を示す。c.XXラットES細胞におけるX染色体状態の特徴付け。未分化のXXラット3i細胞および6日間分化させたXXラット3i細胞およびXXラット神経幹(NS)細胞における、H3K27me3(緑色)についての免疫蛍光。未分化細胞は染色の拡散を示し(不活性Xの欠如)、これに対して分化細胞および体性幹細胞はH3K27me3核小体(不活性X)の存在を示す。細胞は、Dapi(青色)で対比染色された。
【図14a】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。a.奇形腫の組織切片。角化上皮(C系)、横紋筋(B系)、腸上皮(C系)。
【図14b】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。b.GFP発現D系3i細胞を用いて生じさせたE10.5キメラの無傷胚および頭から尾までの横断切片(i〜x)の画像。緑色はGFP蛍光、青色はDAPI核染色。
【図14c】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。c.C系の細胞から誘導された毛色キメラ。アルビノの鼻はレシピエントのFischer系(頭巾斑のあるアルビノ)、体の色は導入されたDA系細胞を示す。
【図14d1】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。d.成体毛色キメラのゲノムDNAのマイクロサテライト分析。多型のマイクロサテライト領域D1Rat122およびD3Rat17を、尾、耳および血液のゲノムDNAからPCRによって増幅し、アガロースゲルおよび蛍光検出法によって分析した。
【図14d2】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。d.成体毛色キメラのゲノムDNAのマイクロサテライト分析。多型のマイクロサテライト領域D1Rat122およびD3Rat17を、尾、耳および血液のゲノムDNAからPCRによって増幅し、アガロースゲルおよび蛍光検出法によって分析した。
【図14d3】奇形腫の形成およびキメラへの寄与を示す。d.成体毛色キメラのゲノムDNAのマイクロサテライト分析。多型のマイクロサテライト領域D1Rat122およびD3Rat17を、尾、耳および血液のゲノムDNAからPCRによって増幅し、アガロースゲルおよび蛍光検出法によって分析した。
【図15】代表的なヒツジES細胞系(7a、継代5以上)のインビトロでの未分化状態および分化状態を示す。
【図16】未分化状態の代表的なヒツジES細胞系(7a、継代5)のRT−PCRデータを示す。
【図17】培地1〜4で培養された胚間における胚派生物を形成したウシ胚および継代1にまでなったウシ胚の%割合の比較を示す。派生物%:χ=12.49、p=0.0059;継代%χ=9.96、p=0.0189。a 観察(すなわち、派生物%、継代%)と処理との間に正の相関がある。b 観察と処理との間に負の相関がある。
【図18】培地1〜4で培養された胚間における継代3(P)または継代6(P)まで胚性幹細胞系を形成した胚の%割合の比較を示す。P:χ=12.02、p=0.0073;P:χ=13.81、p=0.0032。a 観察(すなわち、PまたはPの細胞系%)と処理との間に正の相関がある。b 観察と処理との間に負の相関がある。
【図19】培地1〜4で培養された胚由来のウシ胚性幹細胞コロニーの継代0でのコロニー増殖の比較を示す。
【図20】培地1〜4で培養された樹立ウシES細胞系(BES−4)の最初の継代(すなわち、P23+1)の間のコロニー増殖の比較を示す。
【図21】(a、b)コントロール培地、(c、d)培地2、(e、f)培地3または(g、h)培地4で、(a、c、e、g)37日間または(b、d、f、h)57日間培養されたウシ胚性幹細胞コロニーの形態の比較を示す。培養は、継代4、5または6においてであった。
【図22】(a)コントロール培地、(b)培地2、(c)培地3または(d)培地4で10日間培養された樹立ウシES細胞系(BES−1)由来のウシ胚性幹細胞コロニーの形態の比較を示す。培養は、P19+1においてであった。スケールバー=2mm。
【図23】(a)コントロール培地、(b)培地2、(c)培地3または(d)培地4で単離されたコロニー由来のウシ胚性幹細胞の形態の比較を示す。培養は、PまたはPにおいてであった。
【図24】(a)コントロール培地、(b)培地2、(c)培地3または(d)培地4で培養された樹立ウシES細胞系(BES−1)由来のウシ胚性幹細胞の形態の比較を示す。培養は、P18+1においてであった。
【図25】培地1〜4で単離されたES細胞系由来のES細胞についての培養の間の多能性の遺伝子発現プロフィールの比較を示す。P、P、Pでコントロール(培地1)系;P、P、Pで培地2系;P、P、Pで培地3系;P、P、Pで培地4系。すべてのゲルの図について、遺伝子順序は、左から右に向かって以下の通り:β−Actin、Oct4、Rex1、Sox2、SSEA1、アルカリフォスファターゼおよびNanog。
【図26】培地1〜4で単離されたES細胞系由来のウシES細胞についての多能性の遺伝子発現プロフィールの比較を示す。これは、(a)継代1と(b)後の継代とでのいくらかの変化を示す。コントロールの例はPおよびP由来であり、培地2の例はPおよびP由来であり、培地3の例はPおよびP由来であり、そして培地4の例はPおよびP由来である。すべてのゲルの図について、遺伝子順序は、左から右に向かって以下の通り:β−Actin、Oct4、Rex1、Sox2、SSEA1、アルカリフォスファターゼおよびNanog。
【図27】1、4または5継代にわたって培地1〜4で培養された樹立ES細胞系(BES−4)由来のウシES細胞についての多能性の遺伝子発現プロフィールの比較を示す。すべてのゲルの図について、遺伝子順序は、左から右に向かって以下の通り:β−Actin、Oct4、Rex1、Sox2、SSEA1、アルカリフォスファターゼおよびNanog。
【図28】インビトロで分化を促進する条件に置かれた場合の樹立ウシES細胞系由来の外植片の応答の比較を示す。(a)培地2で培養された外植片から形成された胚様体。(b)培地3で培養された外植片から形成された胚様体。(c)および(d)培地4で培養された外植片由来の細胞は、培養容器に付着し、分化し始めた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
多能性細胞とは、胚性幹(ES)細胞と呼ばれるものを含むが、これに限定されない。多能性細胞(ES細胞を含む)の特徴的な性質としては、多能性発生期に関わる複数の遺伝子の発現、供給源動物に存在するありとあらゆる組織タイプを代表する細胞に分化する能力、キメラに寄与する能力、および、特にキメラの生殖系列に寄与する能力が挙げられる。例えば、ES細胞のような真性多能性細胞は、多能性関連遺伝子Nanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのすべてではないとしても多くを発現することが期待される。特に、Nanog、Oct4およびSox−2の発現は、細胞がES細胞である決定的な最初の指標を提供すると広く考えられている。キメラにおける生殖系列遺伝および3つの一次胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)のすべてから分化した細胞を含む奇形腫または奇形癌を生じる能力もまた、細胞がES細胞であることの決定的な指標として広く考えられている。
【0013】
GSK3阻害とは、1以上のGSK3酵素の阻害をいう。したがって、GSK3インヒビターはGSK3酵素ファミリーの1つのメンバー、いくつかのメンバー、またはすべてのメンバーを阻害し得る。GSK3酵素ファミリーは周知であり、GSK3−αおよびGSK3−βが挙げられるが、これらに限定されない。多くの変異型が記載されている(例えば、Schafferら; Gene 2003; 302(1-2): 73-81参照)。特定の実施態様ではGSK3−βが阻害される。GSK3−αインヒビターもまた適切であり、そして一般に本発明において使用されるインヒビターは両方ともを阻害する。広い範囲のGSK3インヒビターが公知である(例証として、インヒビターCHIR98014、CHIR99021、AR−AO144−18、TDZD−8、SB216763およびSB415286)。他のインヒビターが公知であり、そして本発明において有用である。さらに、GSK3−βの活性部位の構造は特徴付けられており、特異的なインヒビターおよび非特異的なインヒビターと相互作用する主要残基が同定されている(Bertrandら;J Mol Biol.2003;333(2):393-407)。この構造特徴付けによって、さらなるGSKインヒビターが容易に同定され得る。
【0014】
ある実施態様のインヒビターは、GSK3−βおよびGSK3−αに特異的であり、実質的にerk2を阻害せず、そして実質的にcdc2を阻害しない。インヒビターは、IC50値の比として測定した場合、マウスerk2および/またはヒトcdc2よりもヒトGSK3に対して、好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも200倍、非常に好ましくは少なくとも400倍の選択性を有する。ここで、GSK3 IC50値とは、ヒトGSK3−βおよびGSK3−αについての平均値をいう。CHIR99021およびCHIR98014について良好な結果が得られており、これらは両方ともGSK3に特異的である。GSK3インヒビターの例は、Bennett Cら、J. Biol. Chem., 277巻, 34号, 2002年8月23日, 30998-31004頁およびRing DBら、Diabetes, 52巻, 2003年3月, 588-595頁に記載されている。CHIR99021の使用に適した濃度は、0.01〜100、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10μMの範囲にある。
【0015】
GSK3阻害はまた、RNA干渉(RNAi)を用いて好都合に達成され得る。代表的に、GSK3遺伝子のすべてまたは一部に対して相補的である2本鎖RNA分子が多能性細胞に導入され、したがって、GSK3をコードするmRNA分子の特異的な分解を促進する。この転写後機構は、目的のGSK3遺伝子の発現を低減または停止させることとなる。RNAiを用いてGSK3阻害を達成するための適切な技術およびプロトコールは、公知である。
【0016】
本明細書中においてMEKインヒビターとは、一般的なMEKインヒビターをいう。したがって、MEKインヒビターとは、MEK1、MEK2およびMEK3を含むタンパク質キナーゼのMEKファミリーメンバーの任意のインヒビターをいう。また、MEK1インヒビター、MEK2インヒビターおよびMEK3インヒビターをいう。MEKインヒビターは、MEKキナーゼファミリーの1つのメンバー、いくつかのメンバーまたはすべてのメンバーを阻害し得る。当該技術分野で既に公知の適切なMEKインヒビターの例としては、MEK1インヒビターであるPD184352およびPD98059、MEK1およびMEK2のインヒビターであるU0126およびSL327、ならびに、Daviesら(2000)(Davies SP, Reddy H, Caivano M, Cohen P. Specificity and mechanism of action of some commonly used protein kinase inhibitors. Biochem J. 351, 95-105)に記載されたものが挙げられるが、これらに限定されない。特に、PD184352は、他の公知のMEKインヒビターと比較した場合に、高い特異性および効力を有することが見出されている。他のMEKインヒビターおよびMEKインヒビターのクラスは、Zhangら(2000)Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters; 10:2825-2828に記載されている。炭疽菌の致死因子が、PD098059のものと同様のMAPKK阻害プロフィールを示すことも見出された(Duesberyら、1999)。さらなる適切なMEKインヒビターとしては、PD032509、U0126、SL327およびCI−1055が挙げられる。
【0017】
MEKキナーゼの阻害はまた、RNA干渉(RNAi)を用いて好都合に達成され得る。代表的に、MEK遺伝子のすべてまたは一部に対して相補的である2本鎖RNA分子が多能性細胞に導入され、したがって、MEKをコードするmRNA分子の特異的な分解を促進する。この転写後機構は、目的のMEK遺伝子の発現を低減または停止させることとなる。RNAiを用いてMEK阻害を達成するための適切な技術およびプロトコールは、公知である。
【0018】
MEK阻害を達成するための他のアプローチとしては、ras/MAPKカスケードの構成成分の活性を阻害または低減する化合物を用いることが挙げられる。例えば、化合物は、1つ以上のマイトジェン活性タンパク質キナーゼ(例えば、ERK1およびERK2)を阻害する。あるいは、化合物は、例えば同様の効果を有するgp130への酵素の結合を阻害することによって、SHP−2を阻害する。さらなる実施態様では、インヒビターはMEKを阻害する。
【0019】
あるいは、MEKの阻害は、ras/MAPKカスケードの構成成分のダウンレギュレーションによって達成され得る。MKP−3は、MAPキナーゼフォスファターゼの一例およびERKの公知のダウンレギュレータであり、そして導入遺伝子としてES細胞に導入されている。
【0020】
キナーゼインヒビター(GSK3インヒビターおよびMEKインヒビターを含む)を同定するための多くのアッセイが、公知である。例えば、Daviesら(2000)には、ペプチド基質および放射性標識ATPの存在下でキナーゼをインキュベートするキナーゼアッセイが記載されている。キナーゼによる基質のリン酸化は、基質への標識の取り込みを生じる。各反応のアリコートを、リン酸セルロース紙上に固定化し、そしてリン酸中で洗浄し、遊離ATPを除去する。次いでインキュベーション後の基質の活性を測定し、そしてキナーゼ活性の指標が提供される。キナーゼインヒビター候補の存在下および不在下における相対的なキナーゼ活性は、そのようなアッセイを用いることで容易に決定され得る。Downeyら(1996)J Biol Chem.;271(35):21005-21011にもまた、キナーゼインヒビターの同定に用いられ得るキナーゼ活性についてのアッセイが記載されている。
【0021】
線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプター(FGFR)のアンタゴニストとは、代表的にFGFR1および/またはFGFR2を阻害する、FGFレセプターのポリペプチドまたは小分子または他のアンタゴニストをいう。したがって、FGFレセプターアンタゴニストは、FGFレセプターファミリーの1つのメンバー、いくつかのメンバー、またはすべてのメンバーのアンタゴニストであり得、FGFR1、FGFR2、FGFR3およびFGFR4が挙げられるがこれらに限定されない。FGFレセプターファミリーのメンバーは、代表的に、3つの免疫グロブリン様ドメインを含み、そして酸性アミノ酸領域(酸性ボックス)を提示し、この領域は、FGFファミリーメンバーのFGFレセプターへの結合に関与し得る。場合によっては、2つの免疫グロブリン様ドメインのみを含む分子もまた、FGFレセプターとして機能し得る。多くのFGFRアンタゴニストが公知であり、SU5402およびPD173074が挙げられるがこれらに限定されない。SU5402の適切な濃度はμMの範囲であり、例えば0.1〜20μM、好ましくは0.5〜10μM、特に1〜5μMの範囲である。発明者らは、PD173074がSU5402の代わりに用いられ得ること、そしてPD173074は約100倍低い濃度で十分に効果的であり、このことはFGFレセプターに対して、より高い親和性を有することと一致することを見出した。したがって、PD173074の適切な濃度は、1〜200nMの範囲、好ましくは5〜100nM、特に10〜50nMの範囲である。ドミナントネガティブ変異体FGFレセプターの導入遺伝子発現によってFGFレセプターシグナリングを阻害することもまた公知である。しかし、本発明の実施態様では、遺伝子導入ベースの拮抗ではなく、小分子アンタゴニストの使用が好ましい。
【0022】
FGFレセプターのアンタゴニストを同定するための適切なアッセイは、公知である。例えば、FGFレセプター経由のシグナリングがレポーター遺伝子の発現を活性化する細胞系が、潜在的なアンタゴニストの活性を評価するために用いられ得る。
【0023】
有利なことに、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストと組み合わせたMEKインヒビターの使用は、ES細胞の増殖を改善することが見出された。
【0024】
好ましい実施態様では、約0.1μMと約25μMとの間のMEKインヒビターが用いられる。さらに好ましくは、約0.1μMと約5μMとの間のMEKインヒビターが用いられ、より好ましくは、0.2μMから2μMまでである。
【0025】
本発明による特に好ましい培地は、0.8μMのPD184352、3μMのCHIR99021および/または3μMのSU5402を含む。特に好ましい培地は、0.8μMのPD184352、3μMのCHIR99021および3μMのSU5402を含み、好ましくはN2B27培地中である。SU5402の濃度は、異なる多能性細胞系に合うように最適化され得、代表的には1〜5μMの範囲(例えば、2μM)である。
【0026】
以下の実施例において、発明者らは、自己再生を促進するために、MEKインヒビターとともに、および特定の実施例ではFGFレセプターのアンタゴニストともともにGSK3インヒビターの存在下でマウスES細胞を培養した。他の特定の実施例において、培養物中でマウス多能性細胞の自己再生を促進する方法は、GSK3およびMEKを阻害する工程、またはGSK3、MEKおよびFGFレセプターを阻害する工程を含む。
【0027】
必要に応じて、gp130下流シグナリングの活性化は、GSK3およびMEKを阻害することによって自己再生の促進をさらに増強するためにもまた用いられ得る。gp130下流シグナリングを活性化する分子は、時に、gp130アクチベーターまたはgp130アゴニストとも言われる。1以上のgp130下流シグナリング経路の活性化は、gp130を介して作用するサイトカイン、例えばLIFレセプターのサイトカインまたは他のアゴニストの使用によって達成され得る。gp130を介して作用し得、したがってgp130シグナル伝達を活性化し得るサイトカインとしては、LIF、毛様体神経栄養因子(CNTF)、カルジオトロフィン、オンコスタチンM、IL−6+sIL−6レセプター、ハイパーIL−6およびIL−11が挙げられるが、これらに限定されない。適切なサイトカインには、gp130に結合し得および/またはgp130を介してシグナリングを活性化し得る模倣物、融合タンパク質またはキメラが含まれる。血清存在下でgp130を介して作用するサイトカインの役割は十分に確立されているが、血清不在下で未分化細胞を維持するそれらのサイトカインの能力は限られる。
【0028】
本発明の利点は、GSK3インヒビター、MEKインヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在下では、多能性細胞が限定培地中で増殖し得ることである。GSK3インヒビター、MEKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの組み合わせを用いることによる特別な利点は、この培地がインスリン、N2B27またはgp130アゴニスト(例えば、LIF)などの他の増殖因子を含有する必要がないことである。したがって、本発明は、血清、血清抽出物、フィーダー細胞およびフィーダー細胞抽出物不含である培地中でのES細胞の代替のおよび/または改良された培養を可能にする。
【0029】
マウス(Bradleyら、(1984) Nature 309: 255-56)、アメリカミンク(Mol Reprod Dev (1992) 12月; 33(4): 418-31)、ブタおよびヒツジ(J Reprod Fertil Suppl (1991); 43: 255-60)、ハムスター(Dev Biol (1988) 5月; 127(1): 224-7)およびウシ(Roux Arch Dev Biol (1992); 201: 134-141)を含む多くの哺乳動物供給源から、目的の胚性幹細胞が報告されている。しかしながら、場合によっては、完全な特徴付けがなく、複能性(multipotent)または多能性(pluripotent)細胞が、「ES細胞」または「ES様細胞」と称されていることに留意される。ES細胞の状態は、時に、細胞形態(培養物中でのいくらかの自発的な分化、嚢胞性胚葉体の形成または多能性発生期に関わる遺伝子の発現の観察)に基づいて付与されている。しかしながら、目的のES細胞のより厳格な特徴付けが、細胞が確かにES細胞であるかどうかを立証するために望ましい。これはUS6,271,436で確証されており、この文献は、ES細胞(例えば、ブタES細胞)を誘導するためのこれまでの多くの試みが、報告された細胞が多能性ES細胞であると決定的に証明できなかったことを示している。
【0030】
ES細胞の特徴的性質としては、多能性発生期に関わる複数の遺伝子の発現、供給源動物に存在するありとあらゆる組織タイプを代表する細胞に分化する能力、キメラに寄与する能力および特にキメラの生殖系列に寄与する能力が挙げられる。例えば、真性ES細胞は、多能性関連遺伝子Nanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのすべてではないとしても多くを発現することが期待される。特に、Nanog、Oct4およびSox−2の発現は、細胞がES細胞である決定的な最初の指標を提供すると広く考えられている。キメラにおける生殖系列遺伝および3つの一次胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)のすべてから分化した細胞を含む奇形腫または奇形癌を生じる能力もまた、細胞がES細胞であることの決定的な指標として広く考えられている。
【0031】
本明細書の特定の実施例は、マウスおよびヒトのES細胞を用い、そして一次派生物由来のラット細胞もまた用いる。本発明の方法および組成物が、霊長類(特にヒト)、齧歯類(特にマウスおよびラット)、ウシ、ヒツジ、およびブタの多能性幹細胞、特にES細胞を含む他の哺乳動物または鳥類の多能性細胞培養物の培養への適応に適していることが理解される。他の実施態様では、本発明の方法および組成物は、ウシ、ヒツジおよびブタ胚の一次派生物由来の多能性細胞を培養するために用いられ得る。
【0032】
本発明の方法および組成物は、Nanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのうち1つ以上、好ましくは任意の2つ以上を発現する多能性細胞(ES細胞を含む)を培養するのに特に適している。好ましい実施態様では、多能性細胞は、Nanog、Oct4およびSox−2を発現する。代表的に、多能性細胞は培養物中で形態的に未分化であり、培養物中で長期間(代表的に少なくとも10、20または50継代を上回る)にわたって、著しい分化または生存力の低下または多能性細胞特性の損失なく維持され得る。本発明の培地中でまたは本発明の方法を用いて単離または培養された多能性細胞は、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得ることが予想される。例えば、細胞は、培養物中で4、6、8、10、12週またはそれ以上にわたって維持され得、そしてなお、それらの本来の特性(本明細書に記載の多能性細胞に特異的な特性を含む)を実質的に保持する。例証として、本明細書に記載の手順を用いて単離されたラット多能性細胞は、増殖速度の低下も著しい分化もなく、6ヶ月間にわたって連続培養に供された。
【0033】
そのような特性としては、キメラに寄与する能力(キメラの生殖系列に寄与することを含む)が挙げられる。例えば、マウスES細胞は、例えばマウス胚盤胞に注入された場合に、キメラに寄与し得る。同様に、ラット多能性細胞およびES細胞(本明細書で初めて提供された)は、キメラの全細胞がラット細胞であるキメラに寄与し得る。他の哺乳動物(例えば、本明細書に記載のような)由来のES細胞も、同様にキメラに寄与し得る。ES細胞はまた、例えば免疫不全マウスへのES細胞の注入後、奇形腫または奇形癌を形成し得る。代表的に、奇形腫または奇形癌は、3つの胚葉のすべてから分化した細胞を含むが、場合によっては1つまたは2つの胚葉のみから分化した細胞が観察され得る。
【0034】
本発明の第2の局面は、自己再生を促進するための多能性細胞、特にES細胞の培養方法を提供し、該方法は:
(1)GSK3のインヒビター;
(2)MEKのインヒビター;および、必要に応じて、
(3)FGFレセプターのアンタゴニスト、
を含む培地中で該細胞を維持する工程を含む。
【0035】
本発明の方法は、一般的に、血清不含および血清抽出物不含である培地中で、血清または血清抽出物の存在下で予め継代された多能性細胞を増殖(ES細胞の増殖を含む)させるために用いられ得る。好ましくは、このような方法はまた、フィーダー細胞および/またはフィーダー細胞抽出物の不在下で行われる。例えば、以下の工程を含むES細胞の培養が行われ得る:
必要に応じてフィーダー上で、培養物中でES細胞を多能性状態に維持する工程;
少なくとも1回該ES細胞を継代する工程;
該培地から血清または血清抽出物を除去しそして(存在する場合)該フィーダーを除去して、該培地がフィーダー、血清および血清抽出物不含であるようにする工程;および
続いて、GSK3のインヒビター、MEKインヒビターおよび必要に応じてFGFRアンタゴニストの存在下でES細胞を多能性状態に維持する工程。
【0036】
本発明は、ES細胞のトランスフェクトされた集団を得る方法もまた提供し、該方法は:
選択マーカーをコードする構築物でES細胞をトランスフェクトする工程;
該ES細胞をプレートする工程;
MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFRアンタゴニストの存在下で該ES細胞を培養する工程;および
該選択マーカーを発現する細胞を選択する工程、
を含む。
【0037】
さらに必要に応じて、細胞は、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびgp130下流シグナリング経路のアクチベーターの存在下で培養される。
【0038】
選択マーカーは、抗生物質耐性をコードし得、例えばEP-A-0695351に記載のような、細胞表面マーカーまたは他の選択マーカーであり得、そして好ましくは、所望の細胞で選択マーカーを優先的に発現するプロモーターに作動可能に連結した選択マーカーをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0039】
さらなる実施態様において、本発明は、多能性(特にES)細胞の培養方法を提供し、該方法は、培養容器(例えばプレート上の個々のウェル)へ個々の細胞を移す工程、および、GSK3インヒビター、MEKインヒビターおよび必要に応じてFGFRアンタゴニストの存在下で該細胞を培養する工程を含み、それにより、すべての細胞が単一細胞の子孫である多能性(特にES)細胞のクローン集団を得る。必要に応じて、細胞はまた、gp130下流シグナリング経路のアクチベーターの存在下で培養され得る。
【0040】
一旦、ES細胞の安定で均一な培養物が得られると、培養条件は、外胚葉、中胚葉または内胚葉の細胞運命から選択される1以上の細胞タイプへ細胞の分化を方向づけるように変更され得る。サイトカインおよびシグナリング因子の添加または除去は、高効率での特定の分化細胞集団の誘導を可能にし得る。非神経外胚葉運命へのES細胞の分化は、gp130を介して作用するサイトカイン、MEKインヒビターおよびGSK3インヒビターの存在下でES細胞を維持すること、ならびに次いで、サイトカインを除去する一方、GSK3インヒビターおよびMEKインヒビターを維持すること、および/または分化を方向づけ得るさらなるシグナリング分子を添加することによって達成され得る。あるいは、細胞は、MEKインヒビターおよびGSK3インヒビターの存在下で維持され得、次いで、該インヒビターの1つまたは両方を除去すること、および/または分化を方向づけ得るシグナリング分子を添加することによって分化を方向づけ得る。上記の方法はすべて、必要に応じて、プロセスの産物である分化した細胞を得る工程および/または単離する工程を含む。
【0041】
本発明のさらなる局面は、細胞培養培地を提供する。ある培地は、多能性(特にES)細胞の自己再生のためであり、該培地は、GSK3のインヒビター、MEKのインヒビターおよびFGFRアンタゴニストを含む。該培地は、必要に応じてgp130下流シグナリング経路のアクチベーターもまた含み得る。本発明の別の培地は、幹細胞培養培地であり、GSK3のインヒビター、MEKインヒビターおよびFGFRアンタゴニストを含む。すべての培地は、好ましくはさらに基本培地を含む。さらに、すべての培地は、好ましくはgp130のアゴニスト不含であり、したがって、好ましくはLIF不含である。
【0042】
本発明は、血清および血清抽出物不含である培地を提供する。1つのこのような培地は:
基本培地;
MEKインヒビター;
GSK3インヒビター;および
鉄トランスポーター;
を含み、ここで、該培地は、必要に応じて、血清および血清抽出物不含である。
【0043】
培地は、好ましくはFGFRアンタゴニストもまた含む。培地は、必要に応じてgp130下流シグナリング経路のアクチベーターもまた含み得る。
【0044】
多能性幹細胞(特にラットまたはマウス細胞)に好ましい培地は、血清不含およびgp130アゴニスト不含であり得、そしてMEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストを含む。培地構成成分の置換は、本明細書に記載のようになされ得る。
【0045】
基本培地は、細胞のために炭素および/またはビタミンおよび/またはミネラルの必須供給源を供給する培地である。基本培地は、一般的にタンパク質不含であり、そして細胞の自己再生をそれ自体で支持し得ない。鉄トランスポーターは、鉄の供給源を提供し、または培養培地から鉄を取り込む能力を提供する。適切な鉄トランスポーターとしては、トランスフェリンおよびアポトランスフェリンが挙げられる。培地は、1以上のインスリンまたはインスリン様増殖因子、およびアルブミン(好ましくは組換え体)またはアルブミン代替物をさらに含み、そしてフィーダー細胞およびフィーダー細胞抽出物不含であることが好ましい。培地は、アポトーシスのインヒビターまたは培養物中の多能性細胞の維持を促進する任意の他の構成成分もまた含み得る。例えば、培地は、ROCKインヒビター、例えばY−27632(Watanabeら、Nature Biotechnology (2007) 25(6): 681-686)を含み得る。
【0046】
本発明の特定の培地は、付加的な基本培地とともにまたはなしで、MEKインヒビター、GSK3インヒビター、インスリン、アルブミンおよびトランスフェリンを含む。この培地では、LIFが、必要に応じて含まれ得、そしてgp130シグナリングの他のアクチベーターによって置換され得る。しかし、好ましい培地は、gp130レセプター結合サイトカインであるLIFを含み、その適切な濃度は、一般的には10U/mlと1000U/mlとの間、より好ましくは50U/mlと500U/mlとの間、さらにより好ましくは100U/mlの範囲にある。GSK3およびMEKインヒビターは、好ましくは本明細書により詳細に記載の通りである。
【0047】
本発明は、胚盤胞から多能性細胞を誘導する方法をさらに提供し、該方法は:
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊を解離する工程;
(4)該解離した内部細胞塊から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む。
【0048】
必要に応じて、該単離した1または複数の細胞は、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびgp130下流シグナリングのアクチベーターの存在下で培養される。FGFレセプターのアンタゴニストもまた存在させ得る。
【0049】
好ましくは、前記方法は、胚盤胞をLIF中で、より好ましくは2〜4日の期間にわたって培養する工程を含む。単離した1または複数の細胞は、好ましくは無血清培地中で培養される。代表的には、これらの細胞は、凝集塊として再プレートされる。胚盤胞はまた、好ましくは、無血清培地中で、必要に応じてBMPレセプターのアゴニストの不在下で、培養される。
【0050】
本発明によれば、細胞の培養は、接着培養で行われることがさらに好ましく、これは培養基材上に細胞接着タンパク質を含むことによって促進され得る。本発明によれば、単層培養で多能性細胞を培養することもまた好ましいが、必要に応じて、細胞を懸濁培養でまたはプレ細胞凝集塊として増殖させる;細胞をビーズ上であるいは他の適切な足場(例えば膜または他の3次元構造物)上で増殖させることもできる。
【0051】
驚くべきことに、本発明の組成物および方法は、ラットからの多能性細胞およびES細胞の誘導に特に適していることが見出された。いくつかの報告がラット多能性細胞が産生されたことを主張するが(Vassilievaら (2000) Exp Cell Res 258(2):361-373頁; Schultzeら (2006) Methods Mol Biol 329: 45-58頁)、提示された証拠は、全く決定的ではない。Schultzeらは、ラットES細胞系を誘導および維持するほとんどの試みが失敗し、研究者が研究のこの方針を断念することを余儀なくされたことを認めている。同様に、Vassilievaらは、ラットES細胞を生じさせるそれまでの試みが、目的のES細胞が培養物中で短期間維持し得るのみであったために、あるいは実験が反復可能でなかったために、失敗であったことを述べている。さらに、当該分野で記載された細胞系は、多能性ES細胞ではないことが証明された。目的の名称「ES細胞」は、培養物中の限定的な分化、胚様体の形成、または多能性関連マーカーの不完全なセット(多くの場合1つの遺伝子のみ)の発現の観察に基づいて付与されている。しかしながら、そのような指標では、ES細胞の一義的な同定は不可能であり、単に複能性の(多能性ではない)細胞が単離されたことを示すだけであり得る。多能性の多くの重要な指標は実証されておらず、ラットES細胞が実際に単離されたかどうかについてはかなりな疑問が残る。特に、(i)3つの胚葉のすべてから分化した組織を含む奇形腫または奇形癌を形成する能力、(ii)キメラの生殖系列のコロニーを形成する能力、または(iii)複数の多能性関連遺伝子の連動された発現、特にNanog、Oct4およびSox−2の連動された発現が実証されたものは、報告されたラット細胞系にない。
【0052】
以下に詳述した比較例では、目的のラットES細胞を得る報告の再現は失敗に終わった。
【0053】
しかしながら、本発明の方法はラット多能性細胞およびES細胞の誘導に適していることが示され、これらの細胞は、解離されたラット胚盤胞の内部細胞塊の一次派生物から単離した。したがって、本発明は、胚盤胞から多能性ラット細胞を誘導する方法を提供し、該方法は:
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)MEKインヒビターおよびGSK3インヒビターの存在下で該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊の一次派生物を単離および解離する工程;
(4)該解離した内部細胞塊の一次派生物から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む。
【0054】
代表的に、ラット胚盤胞を、2から4日間(例えば、3日間)にわたって培養する。胚盤胞はまた、MEKインヒビター、GSKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養し得る。単離されたラット多能性細胞は、代表的に、本明細書に記載の多能性細胞およびES細胞の性質を有する。
【0055】
いくつかの実施態様では、本方法は、栄養外胚葉の除去によって胚盤胞から内部細胞塊を単離するように、ならびにMEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で内部細胞塊を培養するように、改変される。
【0056】
本明細書に記載の方法は、他の動物からの多能性細胞の誘導にもまた適している。例えば、本明細書に記載の工程は、ウシおよびヒツジ胚盤胞で行われ、したがって、ウシまたはヒツジ一次派生物からの多能性細胞の誘導が可能である。本明細書に記載の方法は、ヒト胚盤胞からヒト多能性細胞を誘導するためにもまた用いられる。本方法は、ブタ胚盤胞で、ブタ一次派生物から多能性細胞を誘導するためにもまた行われ得る。
【0057】
本明細書に記載の方法は、非許容的なマウス系統から多能性細胞を誘導するためにもまた用いられる。したがって、本発明は、これまでES細胞の誘導に対して非許容的であると考えられてきたマウス系統由来のマウス多能性細胞もまた提供する。
【0058】
本発明のさらなる局面は、本発明の方法によって得られるラット多能性細胞を提供する。本発明はまた、Nanog、Oct4、FGF4およびSox−2のうち2つ以上を発現する多能性ラット細胞もまた提供する。好ましくは、多能性ラット細胞は、Nanog、Oct4およびSox−2を発現する。多能性ラット細胞は、アルカリフォスファターゼもまた発現し得、そして本明細書に記載の多能性細胞およびES細胞のいずれかの特性、例えば、キメラの生殖系列のコロニーを形成する能力、および内胚葉、中胚葉および外胚葉から誘導された分化した組織を含む奇形腫または奇形癌を形成する能力を有し得る。
【0059】
したがって、本発明は、Rex1、Stella(Dppa3)、FGF4およびSox−2を発現する多能性ラット細胞を提供する。本発明の多能性ラット細胞は、多能性状態の1つ以上のさらなるマーカーそしてまたは内部細胞塊に関わるマーカー(例えば、Errβ、Pecam1、Tbx3およびGbx2が挙げられる)もまた発現し得る。多能性ラット細胞は、FGF5を発現しない。さらに、本発明のラット多能性細胞は、胚盤葉上層(epiblast)および初期胚葉に関わる遺伝子(例えば、Otx2、Eomes、Foxa2、brachyury、Gata6、Sox17およびCer1)を発現しないかまたは有意レベルで発現しない。本発明のラット多能性細胞の分析では、胚盤葉下層(hypoblast)および胚体内胚葉(definitive endoderm)マーカーGata6およびSox17、中胚葉マーカーbrachyuryおよびFlk1、および神経外胚葉(neurectoderm)マーカーPax6およびnestinの発現を検出できなかった。これらの特性、および本発明のラット多能性細胞の他の特性は、本発明の他の哺乳動物多能性細胞によってもまた示される。
【0060】
したがって、本発明の多能性細胞は、近年の着床後卵筒期の胚盤葉上層から誘導された幹細胞(EpiSCという)と見分けられ得る(Tesar P.J.ら Nature (2007) 448: 196-9; Brons I.G.M.ら Nature (2007) 448: 191-5)。この幹細胞は、着床前胚に再統合してキメラに寄与する能力をほとんどまたは全く示さない。本発明の多能性細胞と対照的に、EpiSCは、本発明の多能性細胞が分化するように誘導される条件下で、単一細胞への解離後容易に増殖できず、ES細胞または初期胚盤葉上層のマーカーを発現せず、そしてFGF2+アクチビン中での維持を必要とする。
【0061】
本発明の多能性細胞(ラット、ヒツジ、ウシおよびブタ多能性細胞を含む)は、培養物中で形態的に未分化である。本発明の多能性細胞は、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得る。好ましくは、多能性細胞は、培養物中で4、6、8、10または12週間以上にわたって、より好ましくは、約3、6、9または12ヶ月以上にわたって、維持され得る。培養物中に維持された後、多能性細胞の子孫は、原多能性細胞の特性のうち1つ以上、好ましくはすべてを保持する。
【0062】
本発明の多能性細胞は、キメラに寄与し得る。特に、それらは、キメラの全細胞が多能性細胞と同種の細胞であるキメラに寄与し得る。例えば、多能性ラット細胞がキメラの産生に用いられた場合、キメラの細胞のすべてがラット細胞である。本発明の多能性細胞は、好ましくはキメラの生殖系列に寄与し得る。
【0063】
本発明の多能性細胞は、3つの胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)のすべてから分化した細胞が存在する奇形腫または奇形癌を形成し得る。
【0064】
本発明の多能性細胞が正常核型を有する、すなわち、多能性細胞の核型が、同種および/または同系列由来の細胞の正常核型に対応することもまた、好ましい。
【0065】
代表的に、本発明の多能性細胞(ラット、ヒツジ、ウシおよびブタ多能性細胞を含む)は、以下の特性のうち1つ以上、好ましくは2つ、3つ、4つまたは5つ、そして最も好ましくはすべてを示す:
a)キメラを形成する能力;
b)培養物中で単一細胞として増殖および/または繁殖する能力;
c)Rex1、Stella、FGF4およびSox−2の発現;
d)それらが、アクチビンおよび/またはFGFの存在下で分化が誘導されるかまたは増殖しない;
e)それらが、アクチビンレセプター遮断によって分化が誘導されないかまたは死滅する;および
f)該多能性細胞の増殖および/または繁殖が、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在によって支持される。
【0066】
どんな特定の理論によっても束縛されることも望まないが、MEK阻害が多能性表現型の維持に特に重要であると考えられる。したがって、本発明は、MEKインヒビターの存在下で維持される多能性幹細胞およびその集団もまた提供する。好ましくは、多能性細胞および集団は、MEKインヒビターおよび多能性状態を維持するために適切な1つ以上のさらなる因子(例えば、GSK3インヒビター、FGFレセプターのアンタゴニストおよびgp130を介して作用するサイトカインが挙げられるが、これらに限定されない)の存在下で維持される。
【0067】
本発明は、本明細書に記載の多能性ラット細胞の集団もまた提供する。本発明の特定の方法によって得られ、したがって本発明によって提供されるラット多能性細胞の集団は、均質性が高いことが見出され、上述の特性に従って評価された多能性細胞を、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%含有する。本発明の特定の実施態様では、98%以上の純度のラット多能性細胞培養物が得られた。例えば、本発明は、細胞の少なくとも95%が多能性細胞の特性を保持する多能性ラット細胞の集団を提供する。好ましくは、細胞の少なくとも95%が、Nanogおよび/またはOct4を発現する。
【0068】
他の局面では、本発明は、多能性ラット細胞とMEKインヒビターを含む培養培地とを含む、多能性ラット細胞の培養物を提供する。好ましくは、培地は、GSK3インヒビターおよび/またはFGFレセプターのアンタゴニストをさらに含む。必要に応じて、培地は、多能性細胞の増殖を支持するために適切な1つ以上のさらなる構成成分(例えば本明細書に記載の構成成分の1つ以上)を含有する。
【0069】
本発明は、本発明の方法によって得られる、本明細書に記載の他の動物から誘導された多能性細胞、例えばウシ、ヒツジおよびブタ多能性細胞もまた提供する。本発明によれば、そのような多能性細胞は、本明細書に記載の多能性細胞およびES細胞の特性のうち1つ以上を有する。
【0070】
したがって、本発明は、Nanog、Oct4、FGF4およびSox−2のうち2つ以上を発現する、多能性マウス細胞以外の多能性哺乳動物細胞を提供する。好ましくは、多能性細胞は、Nanog、Oct4およびSox−2を発現する。より好ましくは、多能性細胞は、アルカリフォスファターゼをさらに発現する。好ましい実施態様では、多能性細胞は、Rex1、Stella、FGF4およびSox−2を発現する。代表的に、多能性細胞はFGF5を発現しない。本発明の多能性細胞は、多能性状態の1つ以上のさらなるマーカーそしてまたは内部細胞塊に関わるマーカー(例えば、Errβ、Pecam1、Tbx3およびGbx2が挙げられる)もまた発現し得る。さらに、本発明の多能性細胞は、胚盤葉上層および初期胚葉に関わる遺伝子(例えば、Otx2、Eomes、Foxa2、brachyury、Gata6、Sox17およびCer1)を発現しないかまたは有意レベルで発現しない。
【0071】
本発明は、本明細書に記載の多能性細胞の集団(ウシ、ヒツジおよびブタ多能性細胞の集団を含む)もまた提供する。本発明の特定の方法によって得られ、したがって本発明によって提供される多能性細胞の集団は、好ましくは、上述の特性に従って評価された多能性細胞を少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%含有する。いくつかの特定の実施態様では、本発明は、98%以上の多能性細胞を含有する集団を提供する。例えば、本発明は、細胞の少なくとも95%が多能性細胞の特性を保持する多能性細胞の集団を提供する。好ましくは、細胞の少なくとも95%が、Nanogおよび/またはOct4を発現する。
【0072】
本明細書に記載の培地(特に、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストを含む培地)で培養されたES細胞の集団が、例えば、NanogまたはOct4などの多能性関連マーカーについて免疫染色することによって分析される場合に、従来の培地中で維持されたES細胞よりも著しく高い均質性を示すことが見出された。本明細書に記載の培地を用いた多能性の維持は、多能性細胞の均質性の高い集団が、著しい細胞分化がなく、そして多能性細胞の正選択および分化した細胞タイプの逆選択を定期的に行う必要なく、培養物中で長期間にわたって維持され得るという点で、格別な利点を提供する。
【0073】
他の局面では、本発明は、多能性細胞とMEKインヒビターを含む培養培地とを含む、多能性細胞の培養物を提供する。好ましくは、培地は、GSK3インヒビターおよび/またはFGFレセプターのアンタゴニストをさらに含む。必要に応じて、培地は、多能性細胞の増殖を支持するために適切な1つ以上のさらなる構成成分(例えば本明細書に記載の構成成分の1つ以上)を含有する。
【0074】
本発明の実施例で用いられる培養培地は、好ましくは血清アルブミンもまた含む。これは精製型または好ましくは組換型で用いることができ、そして組換型であれば、これは、潜在的な夾雑因子であるサイトカインなどが存在しないという利点がある。培養培地は血清アルブミンを含有する必要がなく、そしてこの構成成分は省くことができ、あるいは他のバルクタンパク質に、またはWilesらによって記載された合成ポリマー(ポリビニルアルコール)に、置き換えることができる。
【0075】
本発明の特に好ましい培地は、完全限定の培地である。この培地は、非限定の構成成分(いわゆる、その内容が不明である、あるいは非限定の因子または非特定の変動因子を含有し得る、構成成分)を含有しない。完全限定培地を用いることの利点は、多能性細胞の培養およびその後の操作について、効率的および一貫したプロトコールが得られることである。さらに、多能性状態の細胞の維持が高効率および高い予測性で達成でき、そして限定培地を用いて培養された細胞で分化が誘導される場合に、非限定培地が用いられた場合と比べて、分化シグナルに対する応答がより均質であることが見出される。
【0076】
本発明の方法は、分化細胞を得る方法もまた包含し、この方法は、記載のような多能性細胞を培養する工程、および細胞の分化を許容するまたは生じさせる工程を含み、ここで、該細胞は、他の細胞タイプ(多能性幹細胞を含む)と比較して所望の分化細胞の差次的発現を可能にする選択マーカーを含有し、それによって、選択マーカーの差次的発現が、所望の分化細胞の優先的な単離および/または生存および/または分割をもたらす。選択マーカーは、所望の分化細胞で発現し得るが、他の細胞タイプでは発現し得ず、または発現レベルが所望の分化細胞と他の細胞タイプとで異なり得、それによって、選択マーカーの発現を選択できる。分化細胞は、組織幹細胞または前駆細胞(複能性のまたは単分化能性の幹細胞または前駆細胞を含む)であり得、そして最終分化細胞であり得る。本発明は、前記方法によって得られる分化細胞およびそのような分化細胞の集団もまた提供する。
【0077】
本発明によって得られる分化細胞の例としては、生殖幹細胞、体性幹/前駆細胞、造血幹細胞、上皮幹細胞および神経幹細胞が挙げられる。1つの実施態様では、分化細胞は神経細胞である。他の分化細胞タイプおよび分化細胞の集団が、この方法によって得られることは明らかである。
【0078】
一般的にまた、本発明は、本明細書に記載された発明の方法のいずれかに従うことにより得られた細胞にまで及ぶ。本発明の細胞は、創薬のためのアッセイに用いられ得る。本発明の細胞は、細胞治療にもまた用いられ得、したがって、本発明の方法は、MEKの阻害およびGSK3の阻害および必要に応じてFGFシグナリングの拮抗の組み合わせを用いて、多能性細胞を誘導および/または維持する工程、そこから細胞治療のための細胞を誘導する工程、およびそれらの細胞を細胞治療に用いる工程を含む。必要に応じて、その組み合わせは、gp130下流シグナリングのアクチベーターの不在下で用いられる。
【0079】
本発明は、ラット、ヒツジ、ウシおよびブタ多能性細胞、およびES細胞の誘導に対して非許容的であると考えられているマウス系統由来の多能性細胞を誘導する、さらなる方法をさらに提供する。
【0080】
したがって、本発明は、胚盤胞から多能性ラット細胞を誘導する方法を提供し、該方法は:
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)MEKインヒビターおよびGSK3インヒビターの存在下で該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊の一次派生物を単離および解離する工程;
(4)該内部細胞塊の解離した一次派生物から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む。
【0081】
関連する局面では、本発明は、胚盤胞から多能性哺乳動物細胞を誘導する方法を提供し、該方法は:
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊を解離する工程;
(4)該解離した内部細胞塊から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む。
【0082】
必要に応じて、方法は、LIF中で胚盤胞を培養する工程を含む。好ましい実施態様では、胚盤胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する。
【0083】
特定の実施態様では、胚盤胞は、ラット胚盤胞、ウシ胚盤胞、ヒツジ胚盤胞、ブタ胚盤胞、またはES細胞の誘導に対して非許容的なマウス系列由来のマウス胚盤胞である。
【0084】
いくつかの実施態様では、工程(4)の1または複数の細胞は、内部細胞塊の解離した一次派生物から単離される。
【0085】
本発明によって提供される多能性細胞を誘導する方法は、好ましくはNanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのうち1つ以上を発現し、より好ましくはNanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのうち任意の2つ以上を発現する多能性細胞を提供する。好ましい実施態様では、多能性細胞は、Nanog、Oct4およびSox−2を発現し、そして好ましくは、多能性細胞は、アルカリフォスファターゼをさらに発現する。特に好ましい実施態様では、多能性細胞は、Rex1、Stella、FGF4およびSox−2を発現する。多能性細胞がFGF5を発現しないこともまた好ましい。
【0086】
本発明の方法は、培養物中で形態的に未分化である多能性細胞の提供を可能にする。代表的に、多能性細胞は、本明細書に記載したように、培養物中で長期間にわたって維持され得る。例えば、多能性細胞は、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得る。好ましくは、多能性細胞は、培養物中で約6ヶ月以上にわたって維持され得る。代表的に、多能性哺乳動物細胞の子孫は、培養物中で維持された後、原多能性哺乳動物細胞の特性を保持する。
【0087】
本発明の方法は、キメラに寄与し得る多能性細胞を提供する。特に、それらは、キメラの全細胞が多能性哺乳動物細胞と同種の細胞であるキメラに寄与し得る。好ましくは、多能性細胞は、キメラの生殖系列に寄与し得る。
【0088】
本発明の方法によって産生された多能性細胞は、さらに、3つの胚葉のすべてから分化した細胞が存在する奇形腫または奇形癌を形成し得る。多能性細胞は、培養物中で単一細胞として増殖および/または繁殖し得、アクチビンおよび/またはFGFの存在下で分化が誘導されるかまたは増殖せず、そしてアクチビンレセプター遮断によって分化が誘導されない。多能性哺乳動物細胞の増殖および/または繁殖は、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在によって支持される。
【0089】
本発明のさらなる局面では、本発明の方法によって得られるラット多能性細胞、ヒツジ多能性細胞、ウシ多能性細胞、ブタ多能性細胞および非許容的なマウス系列由来のマウス多能性細胞が提供される。本発明は、本発明の方法によって得られる多能性細胞の集団もまた提供する。
【0090】
本発明のすべての局面の好ましい実施態様では、1または複数の多能性細胞は、ES細胞である。
【0091】
本発明のさらなる局面は、遺伝子操作ラットを得る方法を提供し、該方法は、ラット多能性細胞を遺伝子改変する工程および該多能性細胞をラット胚に導入して遺伝子改変ラットを産生する工程を含む。
【0092】
本発明のなおさらなる局面は、マウス以外の遺伝子操作非ヒト哺乳動物を得る方法を提供し、該方法は、哺乳動物多能性細胞を遺伝子改変する工程および該多能性細胞を非ヒト哺乳動物胚に導入して遺伝子改変哺乳動物を産生する工程を含む。
【0093】
遺伝子操作哺乳動物は、例えば、任意の非ヒト哺乳動物であり得、ラット、ウシ、ヒツジまたはブタを含む。好ましい実施態様では、遺伝子操作哺乳動物は、目的の遺伝子についてのホモ接合性ヌルである。他の実施態様では、遺伝子改変は、ラットまたは非ヒト哺乳動物中の遺伝子を対応するヒト遺伝子と置き換えることを含む。さらなる実施態様では、遺伝子改変は、1以上の目的の遺伝子をノックアウトすること、または目的の遺伝子の標的挿入を含む。そのような遺伝子操作は、当業者が容易に利用可能な技術を用いて行われ得る。
【0094】
本発明は、本発明の方法によって得られる、遺伝子操作ラットおよびマウス以外の遺伝子操作非ヒト哺乳動物もまた提供する。そのような遺伝子操作哺乳動物は、いくつかの適用、例えば、1以上の目的の遺伝子の生理学的な役割の評価において用いられ得る。本発明の遺伝子操作ラットまたは遺伝子操作非ヒト哺乳動物の他の用途は、創薬および/または試験におけるものである。いくつかの実施態様では、これは、例えば潜在医薬品の潜在副作用を評価するための、毒性の研究を含み得る。さらなる実施態様では、本発明の遺伝子操作ラットまたは遺伝子操作非ヒト哺乳動物は、ヒトまたは動物疾患のモデルとして用いられる。
【0095】
本発明の遺伝子改変ラットの使用は、ラットが生体医学研究の多くの領域で好ましいモデル生物であるため、格別な利点であり得る。例えば、行動回復および認知修復の評価は、マウスよりもラットにおいて非常に精巧である。
【0096】
本発明の多くの利点は、上記の通りでありまたは明らかである。比較的無毒性および細胞透過性である細胞培養構成成分が同定され得る。本発明の特定の実施態様において用いられるMEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFRアンタゴニストは、特に、例えばタンパク質サイトカインの精製と比較して、容易に精製され得る。組換えタンパク質は、作製が高価であり得、そして小分子の培地構成成分は、より安価に生産されかつ貯蔵がより安定であり得、より広い有効濃度範囲を伴い得る。さらに、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび/またはFGFRアンタゴニストの使用は、以前は得られなかった哺乳動物多能性細胞タイプの誘導および維持を可能にする。
【0097】
以下に記載の特定の実施態様は、無血清の完全限定培地でCHIR99021、PD184352およびSU5402の組み合わせを用い、そしてマウスES細胞の自己再生の改善を示し、ほとんど分化を示さなかった。BMPの存在下でES細胞を培養する場合、いくつかの神経発生があることが時々報告される。これは、本発明の実施例においては見られなかった。
【0098】
本発明を、ここで、特定の実施例においてさらに説明し、図によって示す。
【0099】
実施例において、用語2i培地または2iは、MEKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストを含む培地を示すために用いられる。用語3i培地または3iは、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストを含む培地を示すために用いられる。
【実施例】
【0100】
実施例1
マウスES細胞を、CHIR99021、PD184352およびSU5402を含む培地で増殖させ、該培地は以下のように調製した:
【0101】
【表1】

【0102】
培地
DMEM/F12−N2培地の調製
100mlのDMEM/F12(Gibco 42400-010)に対して、1mlのN2 100×ストック溶液を添加する。DMEM/F12培地中のN2の各構成成分の最終濃度は:
インスリン 25μg/ml
プトレシン 16μg/ml
トランスフェリン 100μg/ml
亜セレン酸ナトリウム 30nM
プロゲステロン 6ng/ml
BSA 50μg/ml
である。
【0103】
Neurobasal/B27の調製:
100mlのNeurobasal培地(Gibco 21103-049)に対して、2mlのB27(Gibco 17504-044)および1〜2M L−グルタミン(TC保存 1:100)を添加する。
【0104】
N2B27培地の調製:
DMEM/F12−N2培地をNeurobasal/B27培地と1:1の比で混合する。この培地を、すべての化合物の希釈および細胞の増殖に用いた。
【0105】
この培地は、129系統マウスからのES細胞の誘導および維持に用い、そして非許容的なマウス系統であるCBA、および部分的に許容する系統であるC57BL/6からのES細胞の誘導にもまた用いた。この培地を、ラット胚の一次派生物中の細胞の維持に用い、多能性ラット細胞が培養物中でこの培地によって維持されることを示した。
【0106】
したがって、ES細胞は、GSK3インヒビター、MEKインヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの組み合わせによって維持され、そして本発明は、そのための培養方法および培地もまた提供する。
【0107】
実施例2
4.5dpcのラット胚(E4.5)を収集し、透明帯を酸のタイロード中で除去し、そして栄養外胚葉を除去するために免疫手術を行った。内部細胞塊を、以下の培地(3I培地)中で、ガンマ線を照射されたDIA−M細胞(Buehrら、2003に記載)のフィーダー層上に4ウエルプレート中で培養した:
3μM Chiron 99021 (GSKインヒビター)
0.8μM PD184352 (MEKインヒビター)
2μM SU5402 (FGFレセプターのアンタゴニスト)
N2B27中。
【0108】
必要に応じて、ペニシリンおよびストレプトマイシンを添加しても良い。
【0109】
望ましい場合は、フィーダー細胞として、DIA−M細胞よりもむしろマウス胚線維芽細胞(MEF)の初代培養物を用い得る。
【0110】
これらの培養物を、3日間維持した。その期間後、小さな派生物を手動で脱凝集させ、そして小さな細胞塊を、同じ培地中の新しいDIA−Mフィーダー上に移動させた。
【0111】
これらの培養物を、2週間維持した。培地を2〜3日ごとに交換し、培養物を定期的に検査した。小さくて透明なコロニーが現れた場合、これらを同様の条件でさらに移し、十分に大きい場合は脱凝集させた。
【0112】
培養2週間後、いくつかの培養物中に未分化細胞のコロニーが見られた。これらのコロニーのうちのいくつかはフィーダーに付着したが、より多くは、それらは丸くなり、基材から剥離した。培養物を、トリプシンEDTAまたは手動(細長いピペットの中にコロニーを引き込んで、新しいウエルの中に細胞塊を吐き出すことによって)のいずれかでコロニーを脱凝集することによって継代した。培養物を、常時、DIA−Mフィーダー上および3I培地中で維持した。
【0113】
このようにして誘導および培養された細胞は、形態的に未分化であり(図4)、そして多能性関連遺伝子Nanog(図5および9)およびOct4(図6および9)ならびにFGF4、Sox−2(図9)およびアルカリフォスファターゼ(図8)を発現する。ラット細胞は、栄養外胚葉マーカーCdx2もまた発現した(図7および9)。
【0114】
参考文献:
Buehr, M., Nichols, J., Stenhouse, F., Mountford, P., Greenhalgh, C.J., Kantachuvesiri, S., Brooker, G., Mullins, J.M., Smith, A.G. (2003). Rapid loss of oct-4 and pluripotency in cultured rodent blastocysts and derivative cell lines. Biol Reprod 68: 222-229.
【0115】
実施例3
実施例2に記載のように単離されたラット148C ES細胞系由来の細胞を、標準的な方法を用いて奇形腫を生じさせるために用いた。要するに、ラットES細胞を、免疫不全SCIDマウスの腎臓皮膜下に注入した。図10は、そのような実験の1つで生じた奇形腫の切片を示す。動物は大きな腫瘍を発生し、これを注入の33日後に屠殺した。
【0116】
成熟した分化組織、特に上皮、横紋筋および腸上皮が、切片において明らかに見られ得る。これらの組織は、それぞれ外胚葉、中胚葉および内胚葉から誘導される。したがって、これらの3つの一次胚葉のそれぞれから誘導される分化細胞が存在し、それはラット148C ES細胞が多能性であることを示す。
【0117】
実施例4
ラット胚盤胞からの多能性幹細胞の誘導
胚性幹(ES)細胞は、1981年以来近交系マウスから誘導されているが1,2、他の種については証明されていない。他の齧歯動物からのES細胞の樹立の度重なる失敗に加え、霊長動物胚由来細胞がマウスES細胞と主要な性質において異なるとの証拠によって、胚の培養された幹細胞と多能性細胞との関連性が疑われる4−7。ここで、発明者らは、初期胚盤葉上層の多能性状態を分化誘導シグナルから保護するように設計した条件で、ラット胚を培養する。これは、多能性マーカーOct4およびNanogを発現する細胞の培養物の再現可能な樹立をもたらす。これらの細胞は形態的に未分化であり、そして安定した長期増殖を示す。これらは、マウスES細胞と分子特性を共有し、そしてインビトロでの分化を誘導し得、そして免疫無防備状態の成体マウスで複分化した奇形腫を形成する。表現型的にそして機能的に、それらは、近年記載された卵筒由来EpiSC3,10とは異なる。最も重要なことに、ラット胚盤胞への注入において、それらはキメラへの大きな寄与を与え得る。発明者らは、ES細胞の特性を備える多能性細胞がラット胚から単離され得ると結論付ける。発明者らは、非誘導性培養物中に置かれた未感作胚盤葉上層細胞からのES細胞誘導が、一般的な機能であり得ると示唆する。
【0118】
ES細胞は、合成の組織培養物の状況下で多能性マウス胚盤葉上層細胞から生じる4,6。ES細胞自体が、この人工環境の産物であるか、または培養中に捕獲される個体発生の特定相を表すのかは不明である11。実験に基づいた経験から得た知識は、線維芽細胞フィーダーおよび/またはサイトカイン白血病抑制因子(LIF)を、ウシ胎児血清または増殖因子骨形成タンパク質の選択されたバッチと組み合わせて用いることで、ES細胞が、特定の近交系マウス系統から再現可能に誘導され得ることである4,12。しかし、同条件で、すべてのマウス系統からES細胞を生じるわけでなく、そしてラットからは全く生じていない13,14。発明者らおよび他15,16はラット胚からの細胞系の誘導を報告したが、該細胞系は、ES細胞と外見上の形態類似点を有するがES細胞同一性の主要な転写決定因子(Oct4およびNanog17)を有意レベルで発現せず、そしてインビトロで、腫瘍またはキメラにおいて、決定的な胚葉分化をし得ない。発明者らの手では、そのような細胞は胚体外栄養外胚葉および胚盤葉下層系統だけを生じ、そして、発明者らは、それらを胚体外幹(ExS)細胞と称している。ラット胚から真性ES細胞を誘導することの度重なる失敗は、マウス胚の多能性胚盤葉上層とラット胚の多能性胚盤葉上層との間のなんらかの根本的な違いを反映している可能性がある18。あるいは、この培養物構築が、特定の改変された遺伝的背景が実験マウスの大量の近親交配によって産生されること以外には、多能性の維持に不適切であり得る。
【0119】
発明者らは、マウスES細胞培養において分化誘導刺激を排除するために、3つの小分子インヒビター(3i)の組み合わせを案出した(Yingら、提出中)。3iは、樹立細胞系で、およびマウス胚からのデノボ誘導の間の両方で、多能性の効率的な維持を可能にする。この法則がマウスに限られるのか、またはより広く適用し得るのかを決定するために、発明者らはラット胚細胞における3iの効果を調べた。転写決定因子Oct4の発現の保持を、一次派生物中の未分化細胞の存在に代わる代替アッセイとして用い得る。Oct4は、血清含有培地中6,7または無血清培地中で培養されたICM中で急速に消滅する。内部細胞塊(ICM)を、免疫手術によってE4.5ラット胚盤胞から単離し、そして付着を容易にするために、およびまた白血病抑制因子(LIF)の供給源として、フィーダー上にプレートした。3または4日後、培養物を固定し、免疫染色によって分析した(図11a−c)。上記のOct4の損失と同時に、発明者らは、Cdx2(栄養外胚葉決定因子)およびOct4のアンタゴニストのアップレギュレーションを観察した19。これらの変化は、フィーダーまたは可溶性のLIFによって、またはインヒビターなしの無血清培地中の培養によって妨げられなかった。対照的に、3iの存在下では、発明者らは、Oct4タンパク質が派生物中の細胞の多くで維持され、そしてCdx2の発現が抑制されることを見出した。さらに、培養ICM中でOct4と同様にダウンレギュレートされる多能性状態の第2の決定マーカー(Nanog)は、3iが補充された無血清培地で維持された。発明者らは、3i培地で3日間培養したICMを小塊に解離し、そしてそれらを同じ条件で再プレートした。4日後、細胞はなお生存中であり、そして繁殖し、Oct4およびNanogを発現し続ける形態的に未分化の細胞コロニーを形成しているように見えた(図1d)。
【0120】
3iが初代培養物中において方向付けられていない状態を持続させるというこれらの兆候から続けて、発明者らはより長期の効果を調べた。2つの異なる系統(DAおよびFischer344)のラット胚由来の合計35個のICMを、3i中のフィーダー上にプレートした。3日後、11個のICMが付着し繁殖し、よって、それらを機械的に小塊に分割し、そして新しいウエルに再プレートできた。これらの再プレートしたICMのうち4つから、形態的に未分化の小コロニーが発生した。10日後、これらのコロニーのそれぞれを新しいウエルに無傷で移した。4日後、すべてのサイズがかなり大きくなった。次いで、これらのコロニーを手動で解離し、再プレートした。さらに、すべての場合に未分化コロニーが発生した。発明者らは、これらの培養物が次いで繰り返し継代され、4つの細胞系(2つはFischer胚由来および2つはDA胚由来)の樹立をもたらすことを見出した。4系統はすべて、形態的および増殖特性において同様であった。それらは、密集した細胞の3次元凝集塊として繁殖している(図12a)。このことは、3iで培養されたES細胞に特有である(Yingら、提出中)。個々の細胞は、ES細胞に特徴的な高い核対細胞質比率および突出した核小体を有する。それらは無極性であり、突起、細胞構築特性、または特殊化の他の兆候を欠く。細胞が大きくなりすぎるとフィーダー層から剥離する傾向があるため、通常通り、コロニーが中間のサイズに達する3〜4日毎に、細胞を継代した。発明者らは、未分化細胞を3i中でゼラチンコートしたプラスチックの上で維持するのは難しいことを見出した。フィーダーなしでは接着は弱く、細胞は凝集して基材から剥離する傾向があった。しかし、フィブロネクチンでコートした皿上では、付着は改良され、未分化細胞の繁殖に十分であった(図12b)。これは、フィーダーの主要な貢献が、特定の自己再生シグナルを提供することよりも、細胞接着を支持することであることを示す。コロニーを、ピペッティングによって手動で、またはAccutaseを用いて酵素的に、容易に解離し得る。解離後、マイクロピペットによって単離された単一細胞は、連続して継代し得る未分化コロニーを容易に生じ得る(図12b)。細胞を、従来の手順によって凍結保存し、そして回収し得る。培養物は6ヶ月間にわたって連続的に増殖しており、増殖速度の低下なく、そして明らかな分化はほとんどまたは全くなかった。
【0121】
これらのラット細胞の潜在的同一性を評価するために、発明者らは、多能性および系統方向付けの主要なマーカーの発現を調べた。免疫蛍光によって、細胞はOct−4およびNanogの核発現を示す(図12c)。RT−PCR分析で、Rex−1、Errβ、Sox2、StellaおよびOct4/Sox2標的Fgf4とともにこれらの遺伝子の発現を確認した(図12d)。胚盤葉下層および限定的な内胚葉マーカーGata6およびSox17、中胚葉マーカーbrachyuryおよびFlk1、または神経外胚葉マーカーPax6およびnestinについての転写は、検出されなかった。Nanog増幅のためのプライマーを、ラット遺伝子に特異的な配列に対して設計した。これらのプライマーは、ラット細胞由来の予想されるサイズの産物を一貫して生じたが、マウスES細胞由来のものは生じなかった。反対に、マウスに特異的なプライマーは、いかなるラット細胞由来の産物も生じなかった。細胞のラット同一性は、中期スプレッドの調製によって確認した(図12e)。4つの系はすべて、ラットに特徴的である中部動原体型(metacentric)染色体および次端部動原体型(acrocentric)染色体を含んだ。これは、末端部動原体型(telocentric)染色体しか有さないマウスとは異なる。
【0122】
2回の反復実験では、合計41個のさらなるICMを3iで培養した。これらのうち、13個が付着し、細胞塊を形成した。これらを3日後に脱凝集し、その後6ウエル中に一次未分化コロニーが生じた。これらの培養物の6個すべてが、連続的に増殖可能な未分化細胞系を生じた。これらの培養物は、もとの4つの系と形態的に見分けられず、そしてすべてがOct4とNanogとの両方を発現する。次いで、発明者らは、18個の脱凝集したICMからさらに4つの系を誘導した。発明者らは、誘導手順が再現可能であり、そして堅固であると結論付ける。
【0123】
発明者らは、未分化状態の維持に対する培養条件を変更することの効果について調べた。発明者らは、誘導に用いられるLIF産生DIA−Mフィーダーを、明らかな妥協なく、標準的なマウス胚線維芽細胞(MEF)と置き換え得ることを見出した。LIFは培養培地に含まれず、これはマウスES細胞のために3iが十分であることと一致する。3iから血清およびLIFまたはBMPおよびLIFが補充された培地に移されたラット細胞は、種々の形態に分化し、Oct4およびNanogの発現を喪失した(図13a)。これらの観察は、3iラット細胞のgp130/Stat3シグナリングへの応答が、マウスES細胞20,21と比較して減少していたことを示す。これは、これまでのラットES細胞誘導の失敗への大きな寄与因子であり得る。
【0124】
インヒビターなしで培養された細胞は、種々の形態へと分化した(図13b)。FgfrインヒビターおよびMekアクチベーションのインヒビター(2i)中での培養は、マウスES細胞でも見られるように、GSK3インヒビターなしでも未分化集団の維持に十分であった。これらの所見は、FGF/Erkシグナリングの遮断が未感作な多能性状態を持続させる決定的な要件であるという仮説(Yingら、提出中)と一致する。
【0125】
未分化雌ES細胞および未感作胚盤葉上層の特徴は、X染色体が両方とも活性であること、および分化に際して1つが不活性化することである22−24。発明者らは、XX3iラット細胞を、トリメチル化されたヒストン3リジン27(H3K27)(中間期核の不活性X染色体を識別するエピジェネティックなサイレンシングマーク)25に対する抗体で染色した。3i中で維持された細胞は、拡散した免疫反応性のみを示し、これに対して6日間にわたって血清に曝露した後に分化した細胞は、不活性Xに特徴的な突出した核小体を示した(図13c)。これらのデータは、未分化XX3iラット細胞で2つのX染色体が活性であること、および1つのX染色体が分化の間に不活性化することを示す。したがって、3iラット細胞は、初期胚盤葉上層およびES細胞の適切なエピジェネティックな状態を示す。
【0126】
3iなしの無血清培地中で懸濁培養すると、細胞は死滅した。しかし、血清またはMatrigelを添加すると、細胞は、胚様体のような構造に凝集した(図13d)。これらの構造のRT−PCR分析は、Oct4およびNanogのダウンレギュレーション、ならびに内胚葉および中胚葉マーカーの出現を明らかにした(図13e)。3iラット細胞の分化能力をさらに特徴付けるために、発明者らは、DAおよびFischer由来の系両方の細胞を、11匹の免疫無防備状態のSCIDマウスの腎臓皮膜下に注入した。30〜55日後に、動物を屠殺した。7匹が、注入した部位に、1グラム未満から4グラム以上までの種々のサイズの肉眼で見える組織塊を示した。増殖は、試験した両方の系から得られた。各系由来の2つの試料の組織学的分析は奇形腫の古典的な特徴を明らかにし、これは、横紋筋、骨、軟骨、角化上皮、分泌腸上皮、および他の多くを含む複数の分化細胞タイプおよび構造を備えていた(図14a)。発明者らは、3iラット細胞系が奇形腫を産生することができ、そして成熟多重系統分化の能力があると結論付ける。
【0127】
真性ES細胞の決定的な特徴は、ホスト胚をコロニー化し、そして分化した子孫をキメラ動物の3つの胚葉のすべてに寄与する、それらの能力である。リポフェクションおよびピューロマイシンによる選択に続いて、発明者らは、組み込まれたプラスミドから構造的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する細胞のプールを誘導した。これらの細胞を胚盤胞に注入し、発生中の胚への寄与を追跡した。E10.5で採取された8個の胚のうちの2個は、GFP標識した細胞の広範囲にわたる寄与を示した(図14b)。凍結切片の検査で、3つの胚葉のすべての組織に取り込まれたことを確認した。
【0128】
発明者らはまた、出生後キメラに寄与するそれらの潜在能を決定するために、未改変3iラット細胞を胚盤胞に注入した。アグーチDAとアルビノFischerとの間の遺伝的に決定された毛色の違いは、1つの系統の細胞を他の系統の胚に導入した場合の、キメリズムの好都合な指標を提供する。移された胚から発生した15匹の仔のうち、2匹の動物が、Fisherホスト中に導入されたDA細胞の存在の特徴である毛色を示した(図14b)。これらの動物は、強く着色され、DA細胞の寄与を示す。アルビノホストの寄与は頭部でのみ見られ、これは、Fischerにおける頭巾斑の対立遺伝子の存在の結果である。このパターンは、頭巾斑のあるアルビノ系統と完全に着色された系統との間のラットキメラの特性である26。これらの動物のキメラ性質を確認および定量するために、発明者らは、尾生検のマイクロサテライト分析を行った。これは、両方の寄与する遺伝子型由来の細胞が、これらの2匹の動物中にそれぞれ25:75および75:25(DA:Fischer)の割合で存在したことを明らかにした(図14d)。これらのキメラは、健常で稔性の成体に発達した。しかしながらどちらも雄であり、したがって、導入された細胞からの配偶子(遡及的にXXとして特定される)の発生を支持するわけではない。
【0129】
近年、マウスおよびラットにおいて、着床後の卵筒期の胚盤葉上層由来の細胞系の誘導が報告されている3,10。これらのいわゆるEpiSCは、インビトロで多重系統分化の潜在能を有するが、真性ES細胞とは、表現型、分子および発生において種々の違いを示す。最も顕著には、それらは、着床前の胚に再び取り込まれてキメラに寄与する能力をほとんどまたは全く示さない。対照的に、3iラット細胞は、キメラに寄与する。それらは、Rex1、Stella(Dppa3)およびアルカリフォスファターゼ(EpiSC中に存在しないES細胞および初期胚盤葉上層のマーカー)もまた発現する。さらに、3iラット細胞が、単一細胞への解離後容易に増殖し得るのに対し、維持された細胞−細胞接触がEpiSCにとって重要であるように見える。発明者らは、3iラット細胞が、EpiSCを維持するために必要な特定の増殖条件(FGF2+アクチビン)において維持され得るかどうかを試験した。発明者らは、3iをアクチビン+FGF2に置き換えた場合、フィーダー上であるかフィブロネクチンでコートされた皿上であるかにかかわらず、それらがマウスES細胞のように挙動しそして分化することを見出した。さらに、アクチビンレセプターインヒビターSB431452(EpiSC10の分化を誘導するが、マウスES細胞では誘導しない)は、未分化3iラット細胞の増殖を妨げなかった。3i細胞とEpiSCとの決定的な違いは、後者が胚盤胞ではなく着床後の胚から誘導されることである。発明者らはまた、胚盤胞由来のラットExS細胞が3i中で維持され得るかどうかを試験し、それらが生き残らないことを見出した。したがって、3iラット細胞は、培養ラット胚から樹立された他の細胞系とは異なる。
【0130】
これらの所見は、まとめて、3iの使用が、ES細胞の基本特性:長期間の自己再生;多能性;および発生中の胚への取り込み能力を備えたラット細胞系の誘導を可能にすることを証明する。それらはまた、ES細胞状態の主要な分子マーカーであるNanog、Oct4、Sox2およびRex1を発現する。ラットES細胞の利用性は、生物医学研究の多くの分野での選択種における遺伝子ターゲッティングおよび関連するゲノム工学技術の適用への道を開く。3iラット細胞の利用性は、成体組織中で融合および機能し得る細胞を産生するインビトロでの幹細胞分化の能力を試験するためのより高度なインビボモデルを使用する機会をすぐに生み出す。例えば、認知修復の評価は、マウスよりもラットにおいて非常に精巧である。
【0131】
中和する3i培養系を用いた培養ラット胚細胞における多能性の効率的な維持は、ES細胞の誘導が、実に、組織培養による創造物というよりもむしろ常在胚細胞の捕獲を表し得ることを示唆する。したがって、ES細胞の単離は、広範囲な転写またはエピジェネティックな再プログラミング5,6,27を伴わなくとも良い。むしろ、ES細胞は、誘導シグナルが除去される場合の初期胚盤葉上層の繁殖の不履行による、単なる存続を表し得る(Yingら、提出中)。これは、3i法則に基づく培養処方物が、家畜種を含む他の動物からのES細胞の誘導に十分であり得る可能性を上昇させる。
【0132】
方法
RT−PCRおよびマイクロサテライト分析、奇形腫発生、および抗体の詳細は、補足情報で提供する。
【0133】
免疫手術。透明帯を酸性のタイロードで4.5dpcラット胚盤胞から除去し、胚盤胞を20%抗ラット全血清(Sigma)中で3時間、37℃でインキュベートした。胚盤胞を洗浄し、補体の供給源としてラット血清中で20分間インキュベートし、そして溶解した栄養外胚葉をピペッティングによって除去した。
【0134】
培養手順。フィーダー細胞を、4ウエルプレート中のゼラチン上に1ウエルにつき1.5×10細胞の密度でプレートした、ガンマ線を照射されたマウス線維芽細胞から調製した。単離したICMおよび継代した細胞系を、FgfレセプターインヒビターSU5402を2μM、Mek1/2アクチベーションのインヒビターPD184352を0.8μM、およびGSK3インヒビターCHIR99021を3μM含む(3i;Yingら、提出中)N2B27培地28中のフィーダー上にプレートした。この3i細胞系を、細いピペットにコロニーを吸引し、得られた脱凝集された細胞および小塊を新しいプレートに移すことによって、型通りに継代した。胚様体形成のために、およそ200の脱凝集された細胞の試料を、10μl懸滴に移した。これらを2日間培養し、細胞凝集体を収集し、さらに5日間培養皿に移した。
【0135】
トランスフェクションプロトコール。コロニーをAccutase(Sigma)で解離し、10%FCS含有GMEM中でペレット化し、次いで無血清3i培養培地中で再懸濁し、最終容量が400μlになるようにプレートした。0.25μgのScaIで線形化したpPyCAGgfpIPプラスミド29DNA、0.25μlのPLUS試薬および0.625μlのLipofectamine LTX(Invitrogen Corporation)の混合物を添加し、培養物を一晩インキュベートした。この試薬を18時間後に除去し、そして新しい無血清3i培養培地と取り替えた。安定なトランスフェクタントは、トランスフェクションの48時間後に0.5μg/mlのピューロマイシンを加えて選択した。ポリクローナル系を、ピューロマイシン中で連続的に維持されるいくつかの耐性のあるコロニーを集めることによって得た。
【0136】
キメラ形成。4.5dpcラット胚を、注入した日の正午までに収集し、そして空洞化を最大にするためにKSOM培地中でさらに2〜3時間培養した。細胞系を、Accutase中で脱凝集させ、そして10〜12細胞をレシピエント胚の胚盤胞の空洞に注入した。注入された胚を、3.5dpc妊娠ラットの子宮に移した。精管切除された雄ラットは入手できないため、発明者らは本研究のために自然交配レシピエントを用いなければならず、それによって移された胚の着床の頻度が減少した。
【0137】
ビブラトーム切片作製。蛍光胚を、PBS中20%のゼラチンおよび20%のアルブミンを1:1で含む混合物中に包理し、次いで、4℃で一晩、4%のパラホルムアルデヒド中に固定した。次いで、このゼラチンブロックを、4℃で一晩、10%のグルタルアルデヒドを有する「硬化溶液(setting solution)」中に包理した。切片を、ビブラトーム(シリーズ1000)で100μmで切断し、次いで、DAPI核蛍光染色液を含むVectashield(Vector Laboratories)中で、カバーグラスの下に取り付ける前に10分間、PBS/0.1%のTween20で処理した。24時間以内に、切片を共焦点顕微鏡法によって検査した。
【0138】
マイクロサテライト遺伝子型決定。蛍光タグ化したオリゴを、尾、耳および血液のゲノムDNAから、ラットのマイクロサテライト領域D1Rat122(フォワードのオリゴ、6−FAM−CTGCTCCACCTGCCTGTATT、リバースのオリゴ、TCCCTTTGCAATAGACAATGG)およびD3Rat17(フォワードのオリゴ、VIC−TCATTTTCCTTCCTCTCTCTCA、リバースのオリゴ、AAGACAAAATGCTGGAGGGA)を増幅するために用いた。PCR反応物は、PTC−200サーマルサイクラー(MJ Research)で、GoTaq Flexi DNA Polymerase(Promega Corporation、商品番号M8305)を用いて、以下の条件下で増幅した;95℃で2分間、続いて、94℃で30秒、56℃または62℃で30秒、および72℃で30秒のサイクルを35回、最後に72℃で5分間伸長させる。アニーリング温度は、D1Rat122およびD3Rat17でそれぞれ56℃および62℃であった。PCR産物を、滅菌蒸留水で100倍希釈した。この1μlをLIZ-500内部サイズ標準(Applied Biosystems、商品番号4322682)を含むHi-Diホルムアミド(Applied Biosystems、商品番号4311320)9μl中に希釈した。得られた産物をABIキャピラリー3730DNAアナライザで検出し、4%のアガロースゲル上で視覚化した。D1Rat122対立遺伝子は、DAおよびFischerラット系統でそれぞれ230bpおよび255bpである。D3Rat17対立遺伝子は、DAおよびFischer系統でそれぞれ140bpおよび178bpである。
【0139】
奇形腫形成。約200〜400細胞をSCIDマウス(BALB/c JHan Hsd-Prkdc scid.)の腎臓被膜下に注入した。種々の時点で腫瘍を収集し、その重量を、腫瘍および腎臓の重量を量り、体側の注入していない腎臓の重量を引くことによって決定した。腫瘍をパラフィンワックスに包理し、切片化し、そしてマッソン・トリクロームで染色した。
【0140】
抗体。細胞が増殖していたプレートをPBS中4%PFA中に固定し、PBST(PBS中に0.3%のTriton)で膜透過処理し、そして室温で2時間、PBST中1%のBSAおよび10%のヤギ血清中でブロックした。この一次抗体は、抗oct−4C10(Santa Cruz Biotechnology、1:200)、抗nanog(Abcam、1:200)および抗cdx2(Abcam、1:80)であり、それらを4°Fで一晩、プレート上で放置した。二次抗体は、Alexa 488 IgG2b ヤギ抗マウス(oct−4に対して)、Alexa 568 ヤギ抗ウサギ IgG(nanogに対して)およびAlexa 568 IgG1 ヤギ抗マウス(cdx2に対して)であり(濃度はすべて1:1000)、それらを室温で2時間、プレート上で放置した。プレートを、DAPIで対比染色した。一次抗体を省略すると、蛍光が生じないか(nanog、cdx2)、またはぼやけたバックグラウンド全体(oct−4)となった。X染色体免疫染色のために、細胞を顕微鏡用スライド(SuperFrost Plus、VWR international)上にプレートし、次いで約3時間にわたってインキュベートした。次いで、細胞を、室温で15分間、4%のパラホルムアルデヒド中に固定し、そして10分間、0.5%のTriton Xで膜透過処理した。H3K27me3に対する抗血清(Thomas Jenuweinから寛大にも戴いた)は、1:500で用いた。
【0141】
RT−PCR。RNAを、RNeasy Mini Kit(Qiagen、商品番号74104)を用いて約50コロニーから精製した。その後、cDNAを、SuperScript First-Strand Synthesis System(Invitrogen Corporation、商品番号11904-018)を用いてOligo-dTプライミングによって生成した。代表的に、cDNAの10分の1は、PTC−200サーマルサイクラー(MJ Research)で、GoTaq Flexi DNA Polymerase(Promega Corporation、商品番号M8305)を用いて、以下の条件下でPCR増幅した;94℃で2分間、続いて、94℃で20秒、50℃で20秒、および72℃で1分間のサイクルを30回、最後に72℃で5分間伸長させる。用いたプライマー配列およびプロダクトサイズを、以下に列挙する。
【0142】
ラットmRNA ラットプライマー配列 プロダクトサイズ
β-Actin フォワード−CACTGGCATTGTGATGGACT 427bp
リバース −ACGGATGTCAACGTCACACT
Brachyury フォワード−AACTGCGAGTGGGTCTGGAAG 451bp
リバース −TGGGTCTCGGGAAAGCAGTG
Cdx2 フォワード−CCGAATACCACGCACACCATC 394bp
リバース −CTTTCCTTGGCTCTGCGGTTC
Eras フォワード−CGAGCGGTGTGGGTAAAAGTG 501bp
リバース −GGTGTCGGGTCTTCTTGCTTG
Errβ フォワード−TGTGCGGGGACATTGCTTCTG 436bp
リバース −TCCCGATCTGCCAAGTCACAG
FGF4 フォワード−CGGGGTGTGGTGAGCATCTTC 202bp
リバース −CCTTCTTGGTCCGCCCGTTC
GATA-6 フォワード−TCATCACGACGGCTTGGACTG 467bp
リバース −GCCAGAGCACACCAAGAATCC
Kdr フォワード−ATACACCTGCACAGCGTACAG 271bp
リバース −TCCCGCATCTCTTTCACTCAC
Nanog フォワード−GCCCTGAGAAGAAAGAAGAG 356bp
リバース −CTGACTGCCCCATACTGGAA
Nestin フォワード−AGAGAAGCGCTGGAACAGAG 234bp
リバース −AGGTGTCTGCAACCGAGAGT
Oct-4 フォワード−GGGATGGCATACTGTGGAC 412bp
リバース −CTTCCTCCACCCACTTCTC
Pax6 フォワード−GAGACTGGCTCCATCAGACC 212bp
リバース −CTAGCCAGGTTGCGAAGAAC
Rex-1 フォワード−TTCTTGCCAGGTTCTGGAAGC 277bp
リバース −TTTCCCACACTCTGCACACAC
Sox2 フォワード−GGCGGCAACCAGAAGAACAG 414bp
リバース −GTTGCTCCAGCCGTTCATGTG
Sox17 フォワード−AGGAGAGGTGGTGGCGAGTAG 268bp
リバース −GTTGGGATGGTCCTGCATGTG

Stella フォワード−TCCTACAACCAGAAACACTAG 304bp
リバース −GTGCAGAGACATCTGAATGG
【0143】
マウスmRNA マウスプライマー配列 プロダクトサイズ
Nanog フォワード−ATGAAGTGCAAGCGGTGGCAGAAA 464bp
リバース −CCTGGTGGAGTCACAGAGTAGTTC
【0144】
参考文献
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【0145】
比較例1
EP1726640(発明者の名前は寺谷および落谷)は、ラット胚性幹細胞の提供を記載すると主張している。しかし、以下の実験において、本出願人は、寺谷および落谷によって記載された培養条件が、単離されたラットICMの生存または繁殖を支持せず、したがってこれらの条件はラットES細胞の誘導または維持に適さないことを示した。
【0146】
I.寺谷および落谷のプロトコールによる樹立ラットES細胞(3i条件で誘導)の培養
A.培地を、寺谷および落谷のプロトコールに記載されたように作製した(すなわち:DMEM中に、EP1726640に記載のrLIF、KSRおよび他の構成成分を記載の濃度で含む)。
B.フィーダー層をガンマ線を照射されたMEFから調製した(マウス胚線維芽細胞の初代培養物、継代3)。
C.樹立ラットES細胞系由来のコロニー(実施例4に記載された手順によって誘導した−oct−4 1系(継代12)、DA2系(継代〜10)、C系(継代22)およびD系(継代20))を脱凝集し、そして4ウエルプレートのウエルに移した(Aの培地中およびBのフィーダー上)。これを、プレート253とラベルした。同じ系から調製した培養物を、3i条件下で並行して維持した。
D.結果
2日目。oct−4 1系およびDA2系:不良:コロニーの表面に丸くなった細胞が現れている。C系およびD系:いまだ未分化に見える。
6日目。すべて不良。多くの細胞が死滅し、多くは分化し、皿の底に玉石様の細胞があり、また、丸くなった細胞が剥離している。細胞は繁殖しているように見えない。培地を交換した。
8日目。すべての細胞が分化または死滅した。培養物は、不透明な褐色物の大きな塊からなり、ウエルの底に多くの細胞が派生物を生じた。
コントロール培養物(3i中)は未分化に見え、そして大量に繁殖していた。
C.結論。寺谷および落谷のプロトコールに記載の条件で培養されたすべての細胞が8日以内に死滅または分化した:したがって、このプロトコールは、ラットES細胞を生存可能な未分化の繁殖状態で維持することができない。
【0147】
II.寺谷および落谷のプロトコールに記載の条件において試みられたラットES細胞系の誘導
A.培地およびフィーダー層は、上記IAおよびBで記載した通りである。
B.ラット胚盤胞(4.5dpc)を収集し、免疫手術に供した。
C.7個の単離した内部細胞塊(ICM)を、寺谷および落谷に記載された培地(rLIF、KSRなど)に移した(プレート258B)。
D.コントロールとして、6個の単離したICMを3i培地に移した(プレート258A)。
E.コントロールのウエル(A)ではいくつかの派生物が見られたが、寺谷および落谷条件のウエル(B)では何も見られなかった。培養物を固定した。
F.DAPI染色の後、3iコントロール群で5/6のICM派生物を同定した。すべての細胞が大量に繁殖した。
G.寺谷/落谷群では1/7の派生物が同定できた。それは、非常に小さく、DAPI染色後にのみ派生物として同定可能であった。
H.結論。寺谷および落谷のプロトコールは、単離されたラットICMの生存または繁殖を支持しない。この方法によってラットES細胞が誘導され得るとの主張を支持する証拠は全くない。
【0148】
実施例5
ヒツジ多能性細胞の誘導および特徴付け
以下の実施例は、従来の方法によっては得られ得ないヒツジ胚性幹(ES)細胞の提供を記載する。ヒツジES細胞を、新規な無血清培養系を用いて、以下の工程(A)〜(D)を含む手順を実施することによって樹立し、産生した:
(A)細胞が凝集した状態で残存している、ヒツジ胚盤胞の培養によって形成された内部細胞塊を解離する工程、
(B)解離した内部細胞塊の培養物から生じる一次胚性幹細胞を、移せるかまたは継代できるまで培養する工程、
(C)細胞が凝集した状態で残存している、移せるかまたは継代できるようになった一次胚性幹細胞を解離し、その後それを継代および培養する工程、および
(D)細胞をさらに移すか継代し、そして培養し、胚性幹細胞系を樹立する工程。
【0149】
ヒツジES細胞樹立のための方法、樹立ヒツジES細胞を特徴付けるための方法およびヒツジES細胞を継代培養するための方法は、以下の通りである。
【0150】
1.ヒツジ。
これらの方法は、ヒツジの任意の系統からES細胞を誘導するのに適切である。例えば、ES細胞を、Merino系統などのヒツジ系統から誘導し得る。
【0151】
2.フィーダー細胞。
ヒツジES細胞の樹立およびその後の培養および移動のために、フィーダー細胞を用いることが好ましい。フィーダー細胞は、任意の種から誘導されたものであり得、そして好ましくはむしろ正常線維芽細胞であるが、遺伝子ベースの選択マーカーの有無にかかわらず、樹立および/または不滅化されたフィーダー細胞系(例えば、DIAM(C3H10T1);Rathjen PD, Toth S, Willis A, Heath JK, Smith AG. Differentiation inhibiting activity is produced in matrix-associated and diffusible forms that are generated by alternative promoter usage. Cell 1990: 62:1105-1114)を除外しない。具体的には、正常マウス胚線維芽細胞が挙げられ得るが、しかし新生児または成体の線維芽細胞を除外しない。より具体的には、妊娠が12日目から16日目の間の正常マウス胚線維芽細胞の初代培養細胞を用い得る。正常線維芽細胞として、例えば、12.5日目の129sv胎仔マウスの正常線維芽細胞が例示される。フィーダー細胞は、従来の方法によって調製でき、または市販の製品(マウス胎仔線維芽細胞;ATCC)を用いることもできる。マイトマイシンC、ガンマ線照射などの処理によって不活性化されたフィーダー細胞を用いることが好ましい。対象となる培養容器を、例えばゼラチン、フィブロネクチン、ラミニンなど(しかしこれらに限定されない)のマトリックスでプレコートすることもまた好ましいとされ得る。
【0152】
3.培養培地。
ヒツジES細胞の産生、樹立および培養のために、実質的に無血清の培養培地を用いた。用いた培養培地の具体的な組成を、以下に示す。
【0153】
a)ヒツジES細胞樹立のための培養培地。
胚盤胞から内部細胞塊形成までの工程で用いる培養培地を、「ヒツジES細胞樹立のための培養培地」という。組成の例は、Dattena Mら(Dattena M, Mara L, Bin T AA, Cappai P. Lambing rate using vitrified blastocysts is improved by culture with BSA and hyaluronan. Mol Reprod Dev. 2007年1月;74(1):42-7)に記載の通りである。
【0154】
b)ヒツジES細胞のための培養培地。
内部細胞塊形成後の培養(樹立ヒツジES細胞の培養を含む)で用いる培養培地を、「ヒツジES細胞のための培養培地」または以下「N2B27+3i」という。組成の具体例;5mMのL−アラニル−グルタミンまたは2mMのL−グルタミンを含む100mLのダルベッコ改変イーグル培地/F12(Invitrogen/Gibco)(表II)、1mLの100×N2補剤(表II;25μg/mLのインシュリン、16μg/mLのプトレシン、100μg/mLのトランスフェリン、30nMの亜セレン酸ナトリウム、6ng/mLのプロゲステロン、50μg/mLのウシまたはヒト血清アルブミン、最終濃度)が添加された100mL(1:1 v/v)のNeurobasal培地(Invitrogen/Gibco)(表II)、2mLの50×B27補剤(表II;2mg/LのL−アラニン、3.7mg/LのL−グルタミン酸、441mg/Lのl−グルタミン、7.76mg/LのL−プロリン、0.10mg/Lのビオチン、0.34mg/LのビタミンB12、0.02mg/Lのコルチコステロン、0.0063mg/Lのプロゲステロン、0.1mg/LのビタミンA、0.1mg/Lの酢酸レチノール、4mg/Lのインシュリン、0.002mg/Lのトリヨード−L−チロニン、25mg/Lのピルビン酸ナトリウム、0.047mg/Lのリポ酸、1mg/LのビタミンE、1mg/mLの酢酸D,L−α−トコフェロール、2.5mg/Lのカタラーゼ、1mg/Lの還元型グルタチオン、2.5mg/Lのスーパーオキシドジスムターゼ、2mg/LのL−カルニチン、1mg/Lのエタノールアミン、15mg/LのD(+)−ガラクトース、2600mg/LのHEPES、16.1mg/Lのプトレシン、0.016mg/Lの亜セレン酸ナトリウム、0.194mg/Lの硫酸亜鉛、1mg/Lのリノール酸、1mg/Lのリノレン酸、2500mg/Lのウシまたはヒト血清アルブミン、5mg/Lのトランスフェリン、最終濃度)、3μMのCHIR99021、0.8μMのPD184352、2μMのSU5402[Antibiotic-Antimicrotics溶液(必要に応じて)]。
【0155】
4.培養条件。
ヒツジES細胞の産生、樹立および培養におけるヒツジES細胞培養の温度は、35℃〜37.5℃の範囲であった。好ましくは37℃である。代表的な細胞培養に用いられる加湿5%COインキュベーター内で培養を行った。
【0156】
5.ヒツジES細胞の樹立の方法。
ヒツジES細胞の樹立の方法の具体例を以下に記載する。
【0157】
a)卵母細胞(胚盤胞期の胚)の収集。
卵母細胞収集のためのヒツジを選択した。卵母細胞収集は、Dattena Mら(Dattena M, Mara L, Bin T AA, Cappai P. Lambing rate using vitrified blastocysts is improved by culture with BSA and hyaluronan. Mol Reprod Dev. 2007年1月;74(1):42-7)に記載された従来の方法によって行ったが、当然のことながら、他の従来の卵母細胞収集方法もまた用いることができる。具体的には、ヒツジを自然交配させ、膣栓検出後、卵母細胞サンプリングのための雌ヒツジを屠殺し、子宮を摘出した。この子宮を適切な培地で灌流し、受精卵母細胞(胚)を回収した。発生または成熟を、受精卵母細胞(胚)から桑実胚を経て胚盤胞(胚盤胞期の胚)まで進行させ、そして、発生が胚盤胞期まで進行したことを顕微鏡観察によって確認した。好ましくは、発生を、後期胚盤胞期まで、そして内部細胞塊が存在し見えるようになるまで、進行させる。
【0158】
b)内部細胞塊の形成および単離。
上述の5a)で得られた胚盤胞を顕微鏡で確認し、そして、例えば酸性タイロード(pH2.5)、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼを用いて、透明帯を除去した。次いで、マイトマイシンCで処理したフィーダー細胞を0.1%ゼラチン/PBSでコートした培養皿上に蒔き、5〜10個の透明帯を除去したヒツジ胚盤胞を各皿に移し、そして上述のヒツジES細胞樹立のための培養培地「N2B27+3i」を用いて培養を開始した。
【0159】
培養1日目から8日目の間、透明帯を除去したヒツジ胚盤胞(後期)はフィーダー細胞に接着した。接着後5〜10日で、先細のガラスパスツールピペットなどを用いて胚盤胞由来の内部細胞塊を機械的に解離した。5〜20細胞の内部細胞塊の断片または凝集塊を、上述のヒツジES細胞樹立のための培養培地「N2B27+3i」を含む同様の培養皿に移した。そのとき、内部細胞塊は、トリプシン−EDTAなどのようなプロテアーゼで解離するのではなく、上記のように機械的に解離した。
【0160】
c)ヒツジES細胞の樹立。
フィーダー細胞が蒔かれた0.1%ゼラチン/PBSでコートした培養皿で、上記のように解離した内部細胞塊を、ヒツジES細胞のための培養培地「N2B27+3i」中で培養した。一次ES細胞コロニーは、培養4日目から10日目の間で現れた。この一次ES細胞コロニーの出現を、顕微鏡観察で確認した。観察されたES細胞を「一次ES細胞」という。その後約5〜10日にわたって培養を続けることによって、一次ES細胞コロニーは、さらに移すか継代できるようになった。本明細書で用いる「継代できる状態」とは、形成された一次ES細胞コロニーを構成する細胞の数が、約200〜600に達した状態をいう。それがそのような形態を有することを顕微鏡で確認しながら、ES細胞コロニーを先細のガラスパスツールピペットを用いて分離した。この分離されたES細胞コロニーを、ヒツジES細胞のための培養培地を含む無菌中間培養容器に移し、そして、トリプシン−EDTAのようなプロテアーゼを用いて、好ましくはアポトーシスインヒビター(例えば、Y-27632; Watanabe Kら A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells. Nature 5月27日(2007))の存在下で酵素的に単一細胞に解離するか、または機械的に約5〜20細胞からなる細胞凝集塊に解離した。解離したES細胞コロニーを、フィーダー細胞が蒔かれた0.1%ゼラチン/PBSでコートした培養皿で、ヒツジES細胞のための培養培地中で、初代培養に供した(継代1の細胞)。ES細胞コロニーは約2〜4日後に現れ、培養を開始してから約5〜10日後に継代できる状態になった。その後の細胞の継代は上記のように行った。
【0161】
6)ヒツジES細胞の提示。
ヒツジES細胞は、以下の性質(a)〜(m)のうちいくつかまたはすべてが特徴付けられていることが期待され、その多くは実験的に確認された:
(a)ES細胞コロニーが、密集した近均質の状態で提示される、
(b)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Stella遺伝子、Rex1遺伝子、FGF4遺伝子およびNanog遺伝子を発現する、
(c)アルカリフォスファターゼ活性が陽性である、
(d)胚様体を形成する能力を有する、
(e)SSEA(発生期特異的胚抗原:Stage-Specific Embryonic Antigen)−1、−3および−4を差次的に発現する、
(f)TRA(腫瘍拒絶抗原:Tumour Rejection Antigen)−1−60、−1−81を発現する、
(g)正常ヒツジ細胞が有するのと同じ数の染色体を有する、
(h)継代培養されてもなお未分化状態である、
(i)インビトロで多能性状態である、
(j)3つの胚性生殖系統の細胞に分化する潜在能を有する、
(k)インビトロでの奇形腫形成能力を有する、
(l)キメラヒツジを産生する能力を有する、そして
(m)ヒツジの生殖系列になり得る能力を有する。
【0162】
本発明は、上述した(a)〜(m)に示されるES細胞の性質のすべてを保持するヒツジES細胞を、初めて提供する。上述の特質(a)〜(m)は、樹立ヒツジES細胞がES細胞としての性質(すなわち、未分化状態を維持するES細胞としての性質)を保持することを以下の方法によって分析し得る。
【0163】
6.1)形態。
ヒツジES細胞は、顕微鏡法によって視覚化されるように、密集した近均質の状態のコロニーを維持した。(図15A〜D)
【0164】
6.2)未分化状態についての遺伝子マーカーの発現。
Oct3/4、Nanog、Stella、FGF4、Sox2およびRex−1などの代表的な未分化状態の遺伝子マーカーの発現の存在または不在は、ES細胞の特性である。ヒツジES細胞の未分化状態遺伝子マーカーの発現について、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析した(表I)。ハウスキーピング遺伝子(β−Actin)もまた用い、cDNAの完全性を評価した。市販のキットを製造者の使用説明書に従って用いて、試料からmRNAを抽出、そしてRT−PCR(TRIzol reagentおよびSuperScript III First Strand Synthesis System for RT-PCR、Invitrogen)によってcDNAの合成を行った。要するに、TRIzol抽出されたmRNAを、SuperScript III逆転写酵素によって、4μLの5×First Strand Buffer、1μLのDTT(0.1M)、1μLのdNTP(10mM)、1μLのランダムプライマー(10μM)、1μLのRNAインヒビター、1μLのSuperScript IIIおよび7.5μLのHOおよび3μLのmRNA試料を含む20μLのRT反応容量で、cDNAに変換した。対応するRT陰性(SuperScript IIIなし)もまた、ゲノム夾雑測定のために調製した。次いで、サーマルサイクラー(Perkin Elmer)で、以下のサイクルパラメータで、反応を進行させた:50℃で60分間および70℃で15分間。次いで、このcDNAを、未分化状態遺伝子マーカーのプライマー(表I)とともにPCRに用いた。2.5μLの10×PCRバッファー、1.5μLのMgCl(25mM)、0.5μLのdNTP(10mM)、1μLのフォワードプライマー(10μM)、1μLのリバースプライマー(10μM)、0.2μLの組換型TaqDNAポリメラーゼ、17.3μLのHOおよび1μLのRT試料を含む、標準的な25μLのPCR反応容量を用いた。次いで、反応試料を以下のパラメータを用いてサイクルさせた:94℃で5分間、(94℃で45秒、55℃で45秒、および72℃で45秒)のサイクルを35回、最後に72℃で5分間伸長させる。Oct3/4、NanogおよびSox2の発現を、上述の最終反応物の少量を2.5%のアガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色し、そしてUV照明の下で写真を撮ることによって視覚化した(図16)。
【0165】
6.3)アルカリフォスファターゼ活性。
未分化ヒツジES細胞は、アルカリフォスファターゼを大量に発現することが観察された。アルカリフォスファターゼの発現は、種々の市販のアルカリフォスファターゼ検出キットを用いて容易に測定し得る。本実施例では、ALP組織染色キット(Sigma)を、製造者の使用説明書に従って用いた。(図15B)
【0166】
6.4)胚様体を形成する能力。
フィーダー細胞なしの条件下で、コートされていない培養皿を用いてES細胞および/または凝集塊を培養することによる胚様体の形成。コートされていない培養皿の中で、3μMのCHIR99021、0.8μMのPD184352、2μMのSU5402(「3i」)なしのヒツジES細胞のための培養培地を用いて、約2日〜14日間にわたってヒツジES細胞を培養した後、細胞凝集によって形成された規則的なまたは不規則な球状体の出現を顕微鏡で観察することによって、胚様体形成を確認した。(図15Eおよび15F)。
【0167】
6.5)核または細胞表面抗原の発現。
ES細胞を含む幹細胞の未分化状態の同定で用いられる特性のうちの1つは核のOct3/4およびNanog、ならびに細胞表面抗原(SSEA(発生期特異的胚抗原:stage-specific embryonic antigen)−1、−3、−4;TRA(腫瘍拒絶抗原:Tumour Rejection Antigen)−1−60、−1−81)の検出であり、その発現量が、それらの分化に際して結果として特異的に変化する。細胞表面マーカーの発現は、ES Cell Characterization Kit(Millipore)を製造者の使用説明書に従って用い、免疫染色することによって評価した(データは示さず)。
【0168】
6.5)染色体数。
ヒツジ二倍体細胞の正常な期待される染色体数は、Gバンド法(例えば、Sumner, A. T., Cancer Genet Cytogenet. 6: 59-87 (1982))によって染色体数を分析することによって、樹立ヒツジES細胞が、その起源となるヒツジの染色体数(2n=54)を維持する正常ES細胞であることを確認し得る。
【0169】
6.6)未分化状態の維持。
樹立ES細胞は、継代培養されても未分化状態を維持し得、特徴的には、それを少なくとも30継代まで継代培養され得る。未分化状態の維持は、ヒツジES細胞の継代培養法(上述3)に従って継代培養を行うことで、そしてヒツジES細胞の上述(6)の提示を決定することで、確認し得る。
【0170】
6.7)多能性。
ES細胞は、フィーダー細胞なしの条件下で培養することによって、胚様体を経て種々の細胞に自発的に分化する。ES細胞のこの性質は、上述6.4)に記載の方法によって胚様体を形成し、次いで胚様体をゼラチンコートされた培養皿に移し、そして約7日から14日にわたって培養することによって観察され得る。神経細胞様細胞、脂肪細胞様細胞または上皮細胞様細胞などの出現を、各細胞の特徴的形態によって、確認し得る。
【0171】
6.8)血清の存在下での培養によるインビトロでの分化。
さらに、ES細胞は、血清20%の存在下での培養によって分化する性質を有する。好ましくは、ヒツジES細胞は、血清2〜20%の存在下での培養によって分化する。インビトロでのヒツジES細胞の分化を、アルカリフォスファターゼ活性の消失によって、またはOct3/4、NanogなどのES細胞未分化状態マーカー遺伝子の発現の消失によって、確認し得る(上述の6(a)〜(f))。
【0172】
6.9)3つの胚性生殖系統の細胞に分化する潜在能。
ES細胞は、3つの胚性生殖(内胚葉、中胚葉、外胚葉)系統の細胞に分化する潜在能を有する。ES細胞のこの性質は、胚様体(上述の6.4)からRNAを抽出し、そしてRT−PCRによって、外胚葉細胞(例えば、神経細胞)、中胚葉細胞(例えば、心筋細胞)および内胚葉細胞(例えば、肝細胞)の各マーカー遺伝子の発現を分析することによって、確認し得る。
【0173】
6.10)奇形腫形成能力。
同種の動物または先天的免疫不全の異種の動物へのES細胞の移植は、奇形腫形成を導き得る。奇形腫は、3つの胚性生殖(内胚葉、中胚葉および外胚葉)から誘導された種々の組織が腫瘍中にランダムに存在する混合腫瘍の名称である。奇形腫の形成は、同種の動物または原発性免疫不全の異種の動物の皮下などにヒツジES細胞を移植し、そして数ヵ月後に球状の増殖物の存在を肉眼観察することによって、確認し得る。形成された奇形腫が3つの胚性生殖構造物を有することは、摘出した奇形腫を切片化し、ヘマトキシリン/エオシンで染色し、そして組織および細胞の形態を顕微鏡で観察することによって、確認し得る。
【0174】
6.11)キメラヒツジ産生能力。
キメラヒツジは、ES細胞を同種または異種のヒツジに導入することによって産生し得る。キメラヒツジの産生は、例えば、以下の方法によって行われ得る。キメラヒツジの産生の確認を容易にするために、マーカー遺伝子(例えば、GFP、X−gal、ルシフェラーゼなど)を前もってヒツジES細胞に導入しても良い。具体的には、このようなマーカー遺伝子を含むベクターをES細胞染色体に組み込んだ組換えヒツジES細胞を、上述のベクターをエレクトロポレーション法などによってヒツジES細胞染色体に組み込ませ、その後薬剤を補充した培養培地で選択することによって、樹立する。組換えヒツジES細胞を、例えば、ヒツジ胚盤胞の胞胚腔に、あるいは桑実胚期または16細胞期の胚に、顕微鏡操作によって移植し、そして内部細胞塊とともにまたは内部細胞塊の一部として発生させる(マイクロインジェクション法:Gordon J. W.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 77: 7380-7384 (1980))。あるいは、2つの8細胞胚から透明帯を除去し、そしてこれらの胚を上述の組換えヒツジES細胞と共同培養し、凝集塊を形成させる。得られた凝集塊を培養すると、1つの胚盤胞が得られる(細胞凝集法:Dvorak P.ら, Int. J. Dev. Biol., 39: 645-652 (1995))。上記で得られる胚(移植のための卵)を、精管結紮処理後の雄ヒツジと自然交配させることによって調製された偽妊娠雌ヒツジの子宮に移植し、そして発生させ、このようにしてキメラヒツジを産生し得る。
【0175】
得られたキメラヒツジが、ES細胞から誘導された細胞および組織を有すること、または樹立ラットES細胞が、キメラヒツジ産生能力を有することは、例えば、テンプレートとしてキメラヒツジの種々の組織から抽出したゲノムDNAとマーカー遺伝子(ES細胞に導入されたマーカー遺伝子)特異的プライマーとを用いたゲノムPCRによって、確認し得る。さらに、ES細胞の各組織系統の細胞への分化は、例えば、キメラヒツジの各組織を切片化し、そして用いたマーカータンパク質の性質に基づくマーカー遺伝子発現産物(マーカータンパク質)の存在を検出することによって、確認し得る。
【0176】
【表2】

【0177】
【表3A】

【0178】
【表3B】

【0179】
実施例6
ウシ多能性細胞の誘導および特徴付け。
【0180】
目的
ウシES細胞の単離およびウシES細胞系の維持についての3i培地の有効性を評価すること。
【0181】
材料および方法
実験計画
ES細胞の単離を評価するために、インビトロで産生した7または8日目の胚盤胞(n=105)を、4つの処理の各々に無作為に割り当てた:
1.コントロール(N2B27)
2.3i培地(hLIFあり)
3.3i培地(hLIFなし)
4.Millipore-Chemicon ESGRO Complete
【0182】
推定ES細胞が増殖された場合、それらを継代し、そしてこの時点で遺伝子発現の特徴付けのために試料を収集した。培養30日後にES細胞培養および処理を評価し、ES細胞系を生じなかった処理は中止した。ES細胞系をさらに60日間、合計90日間にわたって培養した。胚派生物を形成した、および継代1、継代3および継代6にまで培養された、各々の処理における胚盤胞の割合を、処理を比較するために用いた。多能性遺伝子(すなわち、oct4、rex1、sox2、ssea1、アルカリフォスファターゼ、nanog)の形態および発現もまた、異なる処理におけるウシES細胞を比較するために用いた。すべてのプライマーは、培養されたウシES細胞で、これまで胚盤胞でのみバンドを生じたNanogを除いて、バンドを生じる。
【0183】
樹立ウシES細胞系の維持を評価するために、樹立系(n=3)を、ES細胞単離実験で用いたものと同じ4つの処理(すなわち、上記の培地1〜4)に継代した。これらの樹立細胞系を6継代まで培養した(約60日間)。多能性遺伝子(すなわち、oct4、rex1、nanog、ssea1)の形態および発現を、異なる処理で培養された、樹立ウシES細胞系を比較するために用いた。
【0184】
インビトロでの胚の産生
インビトロで4週間連続で胚盤胞を生じさせるために、卵母細胞を週に1度収集した。卵丘卵母細胞複合体(COC)を、食肉処理場から得た卵巣から吸引し、ウシ胚盤胞を、前述の方法(1、2)を用いてインビトロで産生させた。要するに、卵巣から吸引したCOCを、卵母細胞成熟を誘発するために、β−エストラジオール、黄体形成ホルモン、およびウシ胎仔血清を補充したTCM−199中で、24時間培養した。卵丘が膨張したCOCを、成熟卵母細胞を含有すると推測し、そしてヘパリン、ペニシラミン、エピネフリンおよびヒポタウリンを含有するIVF−TALP培地中でウシ精子とともに24時間共同培養した。次いで、推定受精卵を、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、クエン酸三ナトリウム無水物、ミオイノシトールおよびウシ血清アルブミンを補充したSOF培地(3)で6〜7日間にわたって培養した。配偶子を、空気中に5%COの加湿気体環境下で39℃にて培養し、そして胚を、5%CO/5%O/90%Nの加湿気体環境下で39℃にて培養した。胚盤胞の全セットから、いくつかの胚盤胞(n=15)を特徴付けのために処理し(RT−PCRのための陽性コントロール)そして残り(n=105)をES細胞単離のために用いた。
【0185】
ES細胞単離および培養
透明帯を胚盤胞から機械的に除去し、そして胚盤胞を、マイトマイシンC処理によって不活性化したマウス胚線維芽細胞(MEF)のフィーダー層上に押し付けた。研究の間MEFフィーダーの異なるバッチを用いたが、各バッチをすべての処理に用いた。MEF上に押し付けた胚盤胞を、血清、非必須アミノ酸および増殖因子(ヒトLIF、βFGF、EGF)を補充した複合培地(α−MEM)を用いて、空気中に5%COの加湿気体環境下で39℃にて培養した。7〜9日後、胚は、推定ウシES細胞を含む胚派生物を形成し、この推定ウシES細胞を初代培養から機械的に切り取り(継代0)、そして新たなフィーダー層に押し付けた(継代1)。推定ES細胞が増殖した場合(範囲:6〜26日間)、それらは新たなフィーダー層に継代される。継代の時に、推定ES細胞の試料を、溶解バッファー(500μl 溶解バッファー:458.5μl DEPC水、25μl DTT(0.1M)、4μl IPEGALおよび12.5μl RNAインヒビター)に入れ、そしてその後の多能性遺伝子転写物の分析のために−80℃で保存した。培養の間、培養培地を2〜3日ごとに交換した。本研究で単離された細胞系の継代数をいうために用いられる用語はPであり、ここで、x=本研究における継代の数である。
【0186】
樹立されたウシES細胞系(BES−1:P19、183日;BES−3:P18、206日;BES−4:P23、210日)を、4つの処理の各々に継代した。これらの樹立系を、上記のように培養した。本研究のために割り当てられた後の樹立細胞系の継代数をいうために用いられる用語はPx+yであり、ここで、x=本研究の前の継代数であり、y=本研究における継代の数である。
【0187】
遺伝子発現のRT−PCR分析
近年単離されまたは樹立ウシES細胞系由来の胚盤胞(陽性コントロール)および推定ウシES細胞を、多能性遺伝子oct4、rex1、sox2、ssea1、アルカリフォスファターゼ(AP)およびNanogの発現について、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析した。ハウスキーピング遺伝子(β−Actin)をcDNAの質の評価のために用いた。試料からmRNAを抽出するために市販のキットを用いた(Dynabeads(登録商標) mRNA DIRECTTM Micro Kit, Invitrogen)。製造者が推奨する標準的なプロトコールを用いてmRNAを抽出した。要するに、逆転写によってmRNAをcDNAに変換した。20μlRT系を用いた:4μlの5×First Strand Buffer、1μLのDTT(0.1M)、1μLのdNTP Mixture(10mM)、1μLのランダムプライマー(10μM)、1μLのRNAインヒビター、1μLのSuperScript IIIおよび7.5μLのHOおよび3μLの試料。対応するRT陰性(SuperScript IIIなし)を、ゲノム夾雑のチェックのために調製した。すべての試薬はInvitrogenから購入した。調製した溶液を、Mycycler Thermal Cycler (Bio-rad)で、以下のプログラムで処理した:50℃で60分間および70℃で15分間。cDNAの質を、β−Actinプライマーを用いてPCRによってチェックした。次いで、確認されたcDNAを、多能性マーカーのプライマーとともにPCRに用いた。標準的な25μlのPCR系を用いた:2.5μlの10×PCRバッファー、1.5μlのMgCl(25mM)、0.5μlのdNTP Mixture(10mM)、1μlのフォワードプライマー(10μM)、1μlのリバースプライマー(10μM)、0.2μlの組換型TaqDNAポリメラーゼ、17.3μlのHOおよび1μlの試料。すべての試薬はFisher Biotecから購入した。調製した溶液を、Mycycler Thermal Cycler (Bio-rad)で、以下のプログラムで処理した:94℃で5分間、(94℃で45秒、55℃で45秒、および72℃で45秒)のサイクルを35回、72℃で5分間。
【0188】
OCT4およびRex1についてのPCR産物を、配列決定によって確認した。SSEA1、Sox2、アルカリフォスファターゼおよびNanogについてのPCR産物は未だ配列決定していないが、産物のサイズは標的遺伝子と同じである。
【0189】
本研究に用いたプライマーは以下の通りである。
【0190】
【表4】

【0191】
インビトロでの分化
ウシES細胞コロニーから切り取った外植片を、ランダムな分化を促進する条件下(すなわち、接着力の低い培養容器、フィーダー層なし、LIFなし、増殖因子なし)に置き、そして空気中に5%COの加湿気体環境下で39℃にて培養した。培養の間、培養培地を3〜4日ごとに交換した。
【0192】
データ分析
連続データ(培養日数)を、算術平均±平均標準誤差(S.E.M)として報告する。これらのデータは限られたものであったので、統計学的に分析しなかった。カテゴリーデータを、分割表のカイ2乗分析によって分析した(4、5)。この分析がデータセットにおける有意差を回帰した場合(すなわちp≦0.05)、標準化残差および偏差率を用い、帰無仮説に基づいて、どの観察されたカイ2乗頻度が期待される頻度と最も異なるかを決定した(5)。これらの差異を、観察と処理との間の正または負の相関として報告する。
【0193】
結果
培養物中の増殖
ウシES細胞の単離および継代
胚派生物を形成した胚の割合は、処理間で有意に異なり(χ=12.49、p=0.0059)、そして培地2〜4で培養された胚の80%以上が派生物を形成した(図17)。派生物%とコントロール群との間には負の相関があり、コントロール培地で培養した場合、派生物を形成した胚はより少数であった。継代された胚派生物の割合は、処理間で有意に異なり(χ=9.96、p=0.0189)、そしてSCS1またはSCS2で培養された胚盤胞の65%以上が継代された(図17)。継代%と培地2(3i+hLIF)との間には正の相関があり、そして継代%とコントロール群との間には負の相関があった。継代3(χ=12.02、p=0.0073)および継代6(χ=13.81、p=0.0032)のウシES細胞系の割合は、処理間で有意に異なった(図18)。培地2および3(hLIFありまたはなしの3i)で培養された胚盤胞の60%より多くが継代3にまで継代され、そしてP3の細胞系%とコントロール群との間には負の相関があった。培地2または3で培養された胚盤胞の40%より多くが継代6にまで継代され、そしてP6の細胞系%と培地2および3群との間には正の相関があり、P6の細胞系%と培地4およびコントロール群との間には負の相関があった。継代0での単離の間、4つの培地のうちのいずれかで培養した場合、ES細胞コロニーは同様の速度で増殖した(図3)。培養50日後、培地2(52.8±0.56日間)または培地3(54.0±1.13日間)で単離したすべての細胞系がP6以降に進行していたのに対し、コントロール(n=2)または培地4(n=3)で単離したいくつかの細胞系は未だ継代6に継代されていなかった(すなわち、なお継代5にある)。
【0194】
樹立ウシES細胞系の培養
樹立ウシES細胞系のうちの1つ(BES−1)の増殖は、完全に不活性化されなかったMEFフィーダーによって遅延した(結果:培養物中の一般的な形態を参照)。この細胞系は、3継代にわたって処理で培養しただけであり、データは分析しなかったが、BES−1由来の外植片を、その処理で培養した後のそれらのインビトロでの分化の潜在能について試験した(下記参照)。他の2つの樹立ウシES細胞系(BES−3およびBES−4)は、4つの培地の各々で8継代にわたって培養した。外植片生存、支持された継代数、または8継代が完了する日数において、処理間あるいは細胞系間で明らかな差異はなかった(表3)。培地1〜4の各々を用いた培養の間、樹立ウシES細胞系由来のES細胞コロニーは同様の速度で増殖した(図20)。
【0195】
【表5】

【0196】
培養物中の一般的な形態
新たに単離したウシES細胞と樹立細胞系から形成されたものとの間で、コロニーの形態に明らかな差異はなかった。コントロール培地で培養されたウシES細胞コロニーは、長円状に丸くなっており、起伏した境界を有した(図21a、21b、22a)。これらのコロニーはほとんど平面状(すなわち、2次元)であり、垂直方向の起伏がほとんどなかった。推定幹細胞は、大部分がコロニーの中央に向かって集中し、そしてコロニーの外側領域は明らかなES細胞を含有しなかった。いくつかの領域では、ES細胞とフィーダーとの間に流体が堆積し、ES細胞層を浮き上がらせ、半球および球状構造物を形成した。培地2(3i+hLIF)(図21c、21d、22b)または培地3(hLIFなしの3i)(図21e、21f、22c)で培養されたES細胞コロニーは、長円状に丸くなっており、非常に明確な起伏した境界を有した。これらのコロニーは、コントロール培地で培養されたものと比較して、形状がより3次元であり、密集した中央部分を有し、多くの垂直方向の起伏がその中央から放射状に広がっていた。いくつかのコロニーの下に流体が堆積したため、それらは凸状であった。コロニーには、密集し隆起した線状構造物が存在し、中央から放射状に広がっていた。推定ES細胞は、それらがコロニーから持ち上がった、これらの線状構造物の基底部に集中した。推定ES細胞がより密集していない領域が、これらの構造物から離れて、大部分はコロニーの中央に向かって位置し、そしていくつかはコロニーの端近くに位置した。10日以上の培養の後、球状の流体で満たされた構造物(胚様体に似ている)が、隆起した線状構造物の近くに形成された。培地4で培養されたES細胞コロニーは、コントロール培地で培養されたコロニーと同様に、不規則な形状であり、起伏した明確な境界を有した(図21g、21h、22d)。これらのコロニーは3次元であり、細胞の密集領域が、コロニー中にわたって繊維状の起伏した網目構造を形成し、これには規則的なパターンがなかった。いくつかの領域では、ES細胞とフィーダーとの間に流体が堆積し、半球および球状構造物を形成した。コロニー中の細胞は、拡散しまばらであったが、コロニーの中央は、より密集し隆起していた。個々の細胞が非常に明確であり、そして推定ES細胞はコロニー中でまばらであったが、コロニーの端近くでは見られなかった。これらの異なる処理はコロニー形態に差異を引き起こしたが、推定ES細胞の形態の差異は促進しなかったようである(図23および24)。
【0197】
コントロール培地で培養されたMEFフィーダーのいくつかのバッチは代表的な形態を有し、それらは培養容器上に均一層を形成し、継代を通して比較的変化しないままであった。培地2〜4のいずれかで培養した場合、フィーダーの細胞は、継代3日目までに、丸くなって、フィーダー層から剥離し始めたが、この応答は培地4でより激しかった。MEFフィーダーの他のバッチは、コントロール培地で培養された場合に、代表的な様態で挙動せず、層中に濁った領域が現れ、そして細胞が増殖し続けているようであった。これらのMEFフィーダーは、継代約12日目までに、培養容器から剥離した。培地2または3で培養した場合、MEFのこれらのバッチは、非常に健常に見え、そしてコントロール培地で培養されたフィーダーに特有の形態であった。これらのMEFバッチを培地4で培養した場合、フィーダーの細胞は、継代6〜8日目までに丸くなってフィーダー層から剥離した。
【0198】
継代の間の外観および挙動
ウシES細胞のシート(外植片)を、コントロール培地で培養したコロニーから29Gニードルを用いて機械的に切り取るのはかなり容易であった。機械的に継代する間、ウシES細胞コロニー全体の動きはほとんどなかった。外植片を切り取るとき、ES細胞コロニーはMEFフィーダー層の上を覆うように増殖した細胞の単一層であるように見えた。培地2または3で培養されたES細胞コロニー由来の外植片は、ES細胞コロニーがより密集し、スポンジ状で柔軟であるように見えるため、切り取りがさらに困難であった。細胞のシートを切り開くためにニードルを用いると、コロニーの大部分が動いた。培地2または3で培養された外植片は、一般的に、コントロール培地で培養されたコロニー由来の外植片よりも、継代での新たなMEFフィーダープレートへの付着がより容易であった。培地4で培養されたES細胞コロニーは、培地2または培地3で培養されたコロニーと同様に、継代する間著しく動いた。培地4で培養されたコロニーの中央近くの推定ウシES細胞は、継代で非常に砕けやすく、より小さな凝集塊に容易に分散したので、継代のため外植片の切り取りが難しくなった。培地4の外植片は、外観上非常に屈折していた。
【0199】
多能性遺伝子の発現
Oct4は、4つの培地のいずれで単離されたウシES細胞でも頻繁かつよく発現し、そして他の遺伝子はoct4なしでは決して発現しなかった(図25および26)。Rex1およびssea1もまた、4つの培地のいずれで単離されたウシES細胞でも頻繁に発現し、そしてほとんど常に同時に発現した。rex1がssea1なしで発現することはあったが(図25および26:コントロールおよび培地3:示さず)、ssea1はrex1なしでは決して発現しなかった。Sox2およびAPはそれ程頻繁には発現せず、そして常にoct4、rex1、およびssea1と同時に発現した。Sox2およびAPは、4つの培地のいずれで単離されたウシES細胞でも発現したが、それらの発現は、より初期の継代において、そして3i培地(培地2または3)で単離されたウシES細胞において、より一般的であった。Nanogは、ごくたまにしか発現せず、そしてどちらの場合も(図26:コントロールおよび培地3)、oct4、rex1、およびssea1と同時に発現した。6個の多能性遺伝子のすべてを発現したことが分析された細胞の集団は、培地3(hLIFなしの3i)で単離された継代1のウシES細胞のみであった(図26)。
【0200】
4つの培地の各々で培養された樹立ES細胞系由来のウシES細胞の遺伝子発現は、2つの局面で異なった(図27)。第一に、rex1およびssea1がoct4の不在下で発現したことであり、そして第二に、最もよく発現した遺伝子は、oct4よりはむしろrex1およびssea1であったことである。培地2〜4で培養された多くの継代の後の樹立細胞系においては、より初期の継代では存在しなかったoct4を含む、より多くの遺伝子が発現した。
【0201】
インビトロで分化する能力
3日以内に、培地2または3で培養されたコロニーから切り取った樹立系の1つ(BES−1)の外植片は、インビトロでの分化を促進する条件に置かれた場合に、胚様体(EB)に特有の、流体で満たされた球状構造物および細胞凝集塊を形成した(図28a、28b)。これらのEBは、コントロール培地で培養されたコロニーから切り取った外植片によって形成されたものと同様の形状であった。培地2中の1つの外植片は、培養皿に付着した。3日以内に、培地4で培養されたコロニーから切り取った2つの外植片が、培養皿に付着した。個々の細胞が培養容器に付着し、そして分化し始め、それらは中心細胞体から伸長している多くの長い突起を有した(図28c、28d)。1つの外植片が、小胞が付着した細胞の凝集塊を形成した。BES−1由来のEB培養物は、培養10日後に細菌に汚染され始め、廃棄した。本研究で単離されたコロニー由来の外植片もまた、インビトロで分化を促進する条件に置かれた場合に、EBを形成し、コロニーを付着した。
【0202】
考察
顕微鏡観察および継代での挙動によって示されるように、異なる培地が、コロニー形態、細胞相互作用およびフィーダー層への付着の変動を誘発した。機械的に継代する間、コントロール培地で培養されたウシES細胞コロニーはほとんど動かず、これはウシES細胞がフィーダー層または培養容器に付着したことを示唆した。ヒトまたはマウスES細胞コロニーとは異なり、ウシES細胞コロニーは、フィーダー層の上を覆うように増殖した。3i培地で培養されたウシES細胞コロニーの密集したスポンジ状の柔軟な形状は、これらのコロニーが多層であり得ることを示す。機械的に継代する間、培地2〜4で培養されたウシES細胞コロニーは著しく動き、これはMEFまたは培養容器との結合がほとんどなかったことを示唆した。これは驚くべきことではなく、これらの3つの培地にはMEFフィーダー細胞に有害な効果があるため、これらを丸くさせ、フィーダーから剥離することとなった。培地4で培養されたコロニーでは、推定ウシES細胞領域中、個々の細胞が非常に明確であり、おそらく細胞間の結合がほとんどなかったと思われることを示した。コロニーの形態は培地間で大きく異なったが、細胞形態の差異はあまり見られなかった。コロニーの形態および継代での挙動は、新たに単離されたウシES細胞および樹立された細胞系の形状を形成したものについても同様であった。
【0203】
3i培地(培地2および3)はウシES細胞の単離により効率的であり、より多くの胚盤胞が胚派生物を形成しそして継代1に導かれた。これらの2つの培地はまた、ウシES細胞の増殖および維持に優れ、継代3および継代6の細胞系がより多く存在した。本研究の終了時、培地4およびコントロール培地で培養されたいくつかの細胞系がなお継代5での生存であったのに対し、3i培地(培地2および3)ではすべての細胞系が継代6以降であった。これは、ウシES細胞の増殖および発生が、3i培地でより速かったことを示唆する。本研究では、コントロール培地が、ウシES細胞の単離およびその後の維持について最も効率的でなく、派生物を形成して継代された胚がより少数であり、継代3および継代6の細胞系がより少数であった(すなわち、分析されたすべてのパラメータ)。
【0204】
本研究で用いられるいくつかのMEFフィーダー層に関して、それらが増殖し続け、おそらくはマイトマイシンC処理によって完全に不活性化されなかったという問題があった。培地2〜4がMEFフィーダーに有害であるように見え、そしていずれの非不活性化フィーダー細胞の増殖も遅らせたが、コントロール培地は、フィーダーの増殖に影響がなかったため、このことは、コントロール群に選択的に不都合であると思われた。しかし、本研究では4つの処理群のすべてでMEFフィーダーの同じバッチを用いたので、処理間の比較が有効である。4つの培地間で、樹立ウシES細胞系の増殖および発生における差異は見られなかった。
【0205】
OCT4、Rex1およびSSEA1は、ウシES細胞の強力で強固な多能性マーカーであり、これは、近年単離されたES細胞および樹立ウシES細胞系についても当てはまった。Oct4、Rex1およびssea1は、ウシES細胞系で通常発現し、そして本研究では、他の多能性遺伝子は、これらが不在では決して発現しなかった。新たに単離されたウシES細胞では、rex1およびssea1の発現は、oct4の発現に依存し、そしてssea1の発現は、rex1の発現に依存した。これらの3つの遺伝子の発現は、処理群からは独立していた。他の多能性遺伝子の発現は不規則であり散発的でありそして培養培地に関連し、そして3i培地での培養は他の多能性遺伝子の発現を誘導した。樹立ウシES細胞系では、本研究の初期継代でoct4を発現しないことが多く、それにもかかわらずrex1およびssea1を発現した。興味深いことに、oct4は、より初期の継代で検出されなかったとしても、培地2〜4での培養後の樹立ES細胞系では発現した。これは、この培地が、他の多能性遺伝子の発現を誘導したことを示唆し、このことは、新たに単離されたES細胞と同様である。本研究で用いられるOCT4プライマーは、胚盤胞およびインビボ胚に1つのはっきりしたバンドを生じ、しかしインビトロで単離されたES細胞では2つのバンドを生じる。小さな方のバンドを配列決定してOCT4であることを確認した。大きな方のバンドは、陰性コントロールがこのバンドの存在を示さなかったので、ゲノムDNAではない。発明者らのインビトロ培養系は、oct4の偽遺伝子またはアイソフォームが発現されることを誘導し得、そしてこれを確認するために、第2のバンドを配列決定する。
【0206】
培地2または3(3i培地)で培養されたウシES細胞に有意な差異はなかった。これらの培地の差は、培地2にhLIFが存在することだけであった。これは、hLIFにウシES細胞に対する付加効果がほとんどなかったことを示す。
【0207】
結論
試験を行った4つの培地では、2つの3i培地がウシES細胞の単離に最も効率的であった。ウシES細胞の増殖および発生ならびに多能性遺伝子の発現は、これらの2つの培地において優れていた。さらに、3i培地で単離されたウシES細胞は、インビトロで分化する潜在能を示した。増殖および発生におけるこのような著しい差異は、樹立ウシES細胞系では見られなかった。しかし、3i培地での培養後、より多くの多能性遺伝子が発現したので、これらの培地はウシES細胞系の多能性構成要素を強化すると思われる。
【0208】
参考文献
1. Lonergan P, O'Kearney-Flynn M, Boland, M. P. (1999) Effect of protein supplementation and presence of an antioxidant on the development of bovine zygotes in synthetic oviduct fluid medium under high or low oxygen tension. Theriogenology 51: 1565-1576
2. Holm P, Booth PJ, Schmidt MH, Greve T, Callesen H (1999) High bovine blastocyst development in a static in vitro production system using SOFaa medium supplemented with sodium citrate and myo-inositol with or without serum-proteins. Theriogenology 52: 683-700
3. Tervit HR, Whittingham, DG, Rowson LEA (1972) Successful culture in vitro of sheep and cattle ova. Journal of Reproduction and Fertility 30: 493-497
4. Zar JH (1999) Biostatistical Analysis. IE 4th edn, Prentice Hall, Upper Saddle River
5. Fowler J, Cohen L, Jarvis P (1998) Practical Statistics for Field Biology. 2nd Edn, John Wiley and Sons, New York

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nanog、Oct4、FGF4およびSox−2のうち2つ以上を発現する多能性ラット細胞。
【請求項2】
Nanog、Oct4およびSox−2を発現する、請求項1に記載の多能性ラット細胞。
【請求項3】
さらにアルカリフォスファターゼを発現する、請求項1または2に記載の多能性ラット細胞。
【請求項4】
Rex1、Stella、FGF4およびSox−2を発現する、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項5】
前記多能性細胞がFGF5を発現しない、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項6】
前記多能性ラット細胞が、培養物中で形態的に未分化である、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項7】
前記多能性ラット細胞が、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得る、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項8】
前記多能性ラット細胞が、培養物中で約6ヶ月以上にわたって維持され得る、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項9】
前記多能性ラット細胞の子孫が、培養物中で維持された後に、原多能性ラット細胞の特性を保持する、請求項7または8に記載の多能性ラット細胞。
【請求項10】
前記多能性ラット細胞がキメラに寄与し得る、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項11】
前記キメラの全細胞がラット細胞である、請求項10に記載の多能性ラット細胞。
【請求項12】
前記多能性ラット細胞がキメラの生殖系列に寄与し得る、請求項10または11に記載の多能性ラット細胞。
【請求項13】
前記多能性細胞が、3つの胚葉のすべてから分化した細胞が存在する奇形腫または奇形癌を形成し得る、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項14】
前記細胞が、培養物中で単一細胞として増殖および/または繁殖し得る、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項15】
前記多能性ラット細胞が、アクチビンおよび/またはFGFの存在下で分化が誘導されるかまたは増殖しない、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項16】
前記多能性ラット細胞の分化が、アクチビンレセプター遮断によって誘導されない、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項17】
前記多能性ラット細胞の増殖および/または繁殖が、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在によって支持される、前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞。
【請求項18】
前記いずれかの請求項に記載の多能性ラット細胞の集団。
【請求項19】
細胞の少なくとも95%が多能性細胞の特性を保持する、多能性ラット細胞の集団。
【請求項20】
細胞の少なくとも95%がNanogおよび/またはOct4を発現する、請求項19に記載の多能性ラット細胞の集団。
【請求項21】
多能性ラット細胞とMEKインヒビターを含む培養培地とを含む、多能性ラット細胞の培養物。
【請求項22】
前記培地が、GSK3インヒビターおよび/またはFGFレセプターのアンタゴニストをさらに含む、請求項21に記載の培養物。
【請求項23】
Nanog、Oct4、FGF4およびSox−2のうち2つ以上を発現する、多能性マウス細胞以外の多能性哺乳動物細胞。
【請求項24】
Nanog、Oct4およびSox−2を発現する、請求項23に記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項25】
さらにアルカリフォスファターゼを発現する、請求項23または24に記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項26】
Rex1、Stella、FGF4およびSox−2を発現する、請求項23から25のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項27】
前記多能性細胞がFGF5を発現しない、請求項23から26のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項28】
前記多能性哺乳動物細胞が、培養物中で形態的に未分化である、請求項23から27のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項29】
前記多能性哺乳動物細胞が、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得る、請求項23から28のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項30】
前記多能性哺乳動物細胞が、培養物中で約6ヶ月以上にわたって維持され得る、請求項23から29のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項31】
前記多能性哺乳動物細胞の子孫が、培養物中で維持された後に、原多能性哺乳動物細胞の特性を保持する、請求項29または30に記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項32】
前記多能性哺乳動物細胞がキメラに寄与し得る、請求項23から31のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項33】
前記キメラの全細胞が、多能性哺乳動物細胞と同種の細胞である、請求項32に記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項34】
前記多能性哺乳動物細胞がキメラの生殖系列に寄与し得る、請求項32または33に記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項35】
前記多能性細胞が、3つの胚葉のすべてから分化した細胞が存在する奇形腫または奇形癌を形成し得る、請求項23から34のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項36】
前記細胞が培養物中で単一細胞として増殖および/または繁殖し得る、請求項23から35のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項37】
前記多能性哺乳動物細胞が、アクチビンおよび/またはFGFの存在下で分化が誘導されるかまたは増殖しない、請求項23から36のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項38】
前記多能性哺乳動物細胞の分化が、アクチビンレセプター遮断によって誘導されない、請求項23から37のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項39】
前記多能性哺乳動物細胞の増殖および/または繁殖が、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在によって支持される、請求項23から38のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞。
【請求項40】
請求項23から39のいずれかに記載の多能性ウシ細胞。
【請求項41】
請求項23から39のいずれかに記載の多能性ヒツジ細胞。
【請求項42】
請求項23から39のいずれかに記載の多能性ブタ細胞。
【請求項43】
請求項23から42のいずれかに記載の多能性哺乳動物細胞の集団。
【請求項44】
細胞の少なくとも95%が多能性細胞の特性を保持する、多能性哺乳動物細胞の集団。
【請求項45】
前記細胞の少なくとも95%がNanogおよび/またはOct4を発現する、請求項44に記載の多能性哺乳動物細胞の集団。
【請求項46】
多能性哺乳動物細胞とMEKインヒビターとを含む培養培地を含む、多能性哺乳動物細胞の培養物。
【請求項47】
前記培地が、GSK3インヒビターおよび/またはFGFレセプターのアンタゴニストをさらに含む、請求項46に記載の培養物。
【請求項48】
胚盤胞から多能性ラット細胞を誘導する方法であって、
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)MEKインヒビターおよびGSK3インヒビターの存在下で該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊の一次派生物を単離および解離する工程;
(4)該内部細胞塊の解離した一次派生物から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む、方法。
【請求項49】
胚盤胞から多能性哺乳動物細胞を誘導する方法であって、
(1)胚盤胞を得る工程;
(2)該胚盤胞を培養して、内部細胞塊を得る工程;
(3)該内部細胞塊を解離する工程;
(4)該解離した内部細胞塊から1または複数の細胞を単離する工程;および
(5)該単離した1または複数の細胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよびFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程、
を含む、方法。
【請求項50】
前記胚盤胞をLIF中で培養する工程を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記胚盤胞を、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在下で培養する工程を含む、請求項48から50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記胚盤胞がラット胚盤胞である、請求項49から51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記胚盤胞がウシ胚盤胞である、請求項49から51のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記胚盤胞がヒツジ胚盤胞である、請求項49から51のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記胚盤胞がブタ胚盤胞である、請求項49から51のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記胚盤胞が、ES細胞の誘導に対して非許容的であるマウス系統由来のマウス胚盤胞である、請求項49から51のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記工程(4)の前記1または複数の細胞が、前記内部細胞塊の解離した一次派生物から単離される、請求項49から56のいずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記多能性細胞が、Nanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのうち1つ以上を発現する、請求項48から57のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記多能性細胞が、Nanog、Oct4、FGF4、Sox−2およびアルカリフォスファターゼのうち任意の2つ以上を発現する、請求項48から58のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記多能性細胞が、Nanog、Oct4およびSox−2を発現する、請求項48から59のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記多能性細胞が、さらにアルカリフォスファターゼを発現する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記多能性細胞が、Rex1、Stella、FGF4およびSox−2を発現する、請求項48から61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記多能性細胞が、FGF5を発現しない、請求項48から62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記多能性細胞が、培養物中で形態的に未分化である、請求項48から63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
前記多能性細胞が、培養物中で約2週間以上にわたって維持され得る、請求項48から64のいずれかに記載の方法。
【請求項66】
前記多能性細胞が、培養物中で約6ヶ月以上にわたって維持され得る、請求項48から65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記多能性哺乳動物細胞の子孫が、培養物中で維持された後に、原多能性哺乳動物細胞の特性を保持する、請求項65または66に記載の方法。
【請求項68】
前記多能性細胞がキメラに寄与し得る、請求項48から67のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
前記キメラの全細胞が、多能性哺乳動物細胞と同種の細胞である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記多能性細胞がキメラの生殖系列に寄与し得る、請求項68または69に記載の方法。
【請求項71】
前記多能性細胞が、3つの胚葉のすべてから分化した細胞が存在する奇形腫または奇形癌を形成し得る、請求項48から70のいずれかに記載の方法。
【請求項72】
前記多能性細胞が、培養物中で単一細胞として増殖および/または繁殖し得る、請求項48から71のいずれかに記載の方法。
【請求項73】
前記多能性細胞が、アクチビンおよび/またはFGFの存在下で分化が誘導されるかまたは増殖しない、請求項48から72のいずれかに記載の方法。
【請求項74】
前記多能性哺乳動物細胞の分化が、アクチビンレセプター遮断によって誘導されない、請求項48から73のいずれかに記載の方法。
【請求項75】
前記多能性哺乳動物細胞の増殖および/または繁殖が、MEKインヒビター、GSK3インヒビターおよび必要に応じてFGFレセプターのアンタゴニストの存在によって支持される、請求項48から74のいずれかに記載の方法。
【請求項76】
請求項48から52または57から75のいずれかに記載の方法によって得られる、ラット多能性細胞。
【請求項77】
請求項48から51、53、または57から75のいずれかに記載の方法によって得られる、ウシ多能性細胞。
【請求項78】
請求項48から51、54、または57から75のいずれかに記載の方法によって得られる、ヒツジ多能性細胞。
【請求項79】
請求項48から51、55、または57から75のいずれかに記載の方法によって得られる、ブタ多能性細胞。
【請求項80】
請求項48から51または56から75のいずれかに記載の方法によって得られる、非許容的であるマウス系統由来のマウス多能性細胞。
【請求項81】
請求項76から80のいずれかに記載の多能性細胞の集団。
【請求項82】
前記1または複数の多能性細胞がES細胞である、請求項1から47または76から81のいずれかに記載の細胞、集団または培養物。
【請求項83】
前記1または複数の多能性細胞がES細胞である、請求項48から75のいずれかに記載の方法。
【請求項84】
遺伝子操作ラットを得る方法であって、ラット多能性細胞を遺伝子改変する工程および該多能性細胞をラット胚に導入して遺伝子改変ラットを産生する工程を含む、方法。
【請求項85】
マウス以外の遺伝子操作非ヒト哺乳動物を得る方法であって、哺乳動物多能性細胞を遺伝子改変する工程および該多能性細胞を非ヒト哺乳動物胚に導入して遺伝子改変哺乳動物を産生する工程を含む、方法。
【請求項86】
前記遺伝子操作哺乳動物が、目的の遺伝子についてのホモ接合性ヌルである、請求項84または85に記載の方法。
【請求項87】
前記遺伝子改変する工程が、ラットまたは非ヒト哺乳動物中の遺伝子の対応するヒト遺伝子への置換を含む、請求項84または85に記載の方法。
【請求項88】
前記遺伝子改変する工程が、1以上の目的の遺伝子のノックアウトを含む、請求項84から86のいずれかに記載の方法。
【請求項89】
前記遺伝子改変する工程が、目的の遺伝子の標的挿入を含む、請求項84から88のいずれかに記載の方法。
【請求項90】
請求項84から89のいずれかに記載の方法によって得られる、遺伝子操作ラット。
【請求項91】
請求項84から89のいずれかに記載の方法によって得られる、マウス以外の遺伝子操作非ヒト哺乳動物。
【請求項92】
1以上の目的の遺伝子の生理学的な役割の評価における、請求項90に記載の遺伝子操作ラットまたは請求項91に記載の遺伝子操作非ヒト哺乳動物の使用。
【請求項93】
創薬および/または試験における、請求項90に記載の遺伝子操作ラットまたは請求項91に記載の遺伝子操作非ヒト哺乳動物の使用。
【請求項94】
ヒトまたは動物疾患のモデルとしての、請求項90に記載の遺伝子操作ラットまたは請求項91に記載の遺伝子操作非ヒト哺乳動物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【図12e】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図14d1】
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【図14d2】
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【図14d3】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公表番号】特表2009−545302(P2009−545302A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522328(P2009−522328)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002913
【国際公開番号】WO2008/015418
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(500219618)ザ・ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・エディンバラ (21)
【氏名又は名称原語表記】The University Court of the University of Edinburgh
【Fターム(参考)】