説明

ラテックス中のしょう液の回収方法、及びバイオマスエタノールの製造方法

【課題】ラテックス中のしょう液を効率よく分離し回収するための方法、及び分離したしょう液を用いてエタノールを製造する方法の提供。
【解決手段】ラテックスからしょう液を回収する方法であって、ラテックスに酸を添加して凝固させた後、凝固させたラテックスから液体成分を絞り出すことを特徴とする、ラテックスからのしょう液の回収方法、前記酸が蟻酸又は酢酸であることを特徴とする前記記載のラテックスからのしょう液の回収方法、凝固させたラテックスを細断する、又は圧搾することにより、しょう液を絞り出すことを特徴とする前記いずれか記載のラテックスからのしょう液の回収方法、前記のいずれか記載のラテックスからのしょう液の回収方法によりラテックスからしょう液を回収した後、しょう液を原料としてアルコール発酵を行うことにより、エタノールを製造することを特徴とするバイオマスエタノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス中のしょう液を効率よく分離し回収するための方法、及び分離したしょう液を用いてエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、弾性を有する高分子であり、ゴム製品の主原料として様々な用途において幅広く、かつ大量に用いられている。天然ゴムは、ゴムノキ等のラテックス産生植物が分泌するラテックスを採取し、これに所望の加工をすることにより製造される。このため、主にタイ・マレーシア・インドネシア等の熱帯諸国において、ラテックスを回収するためのゴムノキ、特にパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)が、商業的に植樹されている。
【0003】
ラテックスは、約35%のゴム分であり、残りの約60%が水分、約5%がタンパク質や糖等からなる。しょう液とは、ラテックスのゴム分以外のものを示す。天然ゴムを製造する際には、ラテックスからゴム分を回収し、残りのしょう液は、通常廃棄される。そして、近年、このしょう液の有効利用する方法の1つとして、しょう液をバイオマスエタノールの原料として用いる方法がいくつか開示されている。例えば、(1)しょう液にエタノール生産性酵母を加えて発酵させることにより、エタノールを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(2)(A)バクテリアを増殖させることによりセルロース群を含む樹液又はその素材部分を分解させる工程と、(B)前記増殖したバクテリアを栄養素として酵母又は酵素の発酵作用によりエタノール化を促進する工程と、を含むことを特徴とするエタノールの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。(2)の方法では、セルロース群を含む樹液として、天然ゴムの樹液を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263795号公報
【特許文献2】特開2009−34091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法では、ラテックスからしょう液を遠心分離法により回収している。しかしながら、遠心分離法は、高価な遠心分離装置を要する上に、大量のラテックスを処理する際には、上澄みとなるしょう液を回収しながら作業を行わなくてはならず、操作が煩雑であり、工業的にラテックスから効率よくしょう液を回収することは困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ラテックス中のしょう液を効率よく分離し回収するための方法、及び分離したしょう液を用いてエタノールを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
(1) ラテックスからしょう液を回収する方法であって、
ラテックスに酸を添加して凝固させた後、凝固させたラテックスから液体成分を絞り出すことを特徴とする、ラテックスからのしょう液の回収方法、
(2) 前記酸が蟻酸又は酢酸であることを特徴とする前記(1)記載のラテックスからのしょう液の回収方法、
(3) 凝固させたラテックスを細断する、又は圧搾することにより、しょう液を絞り出すことを特徴とする前記(1)又は(2)記載のラテックスからのしょう液の回収方法、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれか記載のラテックスからのしょう液の回収方法によりラテックスからしょう液を回収した後、しょう液を原料としてアルコール発酵を行うことにより、エタノールを製造することを特徴とするバイオマスエタノールの製造方法、
(5) 前記アルコール発酵を、酵母又は麹菌を用いて行うことを特徴とする前記(4)記載のバイオマスエタノールの製造方法、
を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラテックスからのしょう液の回収方法により、大量のラテックスから簡便に効率よくしょう液を回収することができる。このため、当該方法を利用してしょう液を回収することにより、これを原料とするバイオマスエタノールの工業的量産を、簡便かつ効率よく行うこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のラテックスからのしょう液の回収方法(以下、「しょう液の回収方法」ということがある。)に供されるラテックスは、ラテックス産生植物から回収されたラテックス(主にポリイソプレン)であれば、特に限定されるものではなく、ラテックス産生植物から回収された直後のものであってもよく、回収後一定期間保存されたものであってもよい。なお、ラテックス産生植物からのラテックスの回収は、常法により行うことができる。
【0010】
本発明のしょう液の回収方法に供されるラテックスを産生するラテックス産生植物は、ラテックス(主にポリイソプレン)を産生する植物であれば、特に限定されるものではなく、乳管を有しており、乳管中にラテックスが含まれている植物であってもよく、乳管細胞内ではなく細胞間隙中にラテックスが含まれている植物であってもよい。このようなラテックス産生植物として、例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Havea brasiliensis)、セアラゴムノキ(Manihot glaziovii)、クワ科のインドゴムノキ(Ficus elastica)、パナゴムノキ(Castilloa elastica)、ラゴスゴムノキ(Ficus lutea Vahl)、マメ科のアラビアゴムノキ(Accacia senegal)、トラガントゴムノキ(Astragalus gummifer)、キョウチクトウ科のクワガタノキ(Dyera costulata)、ザンジバルツルゴム(Landolphia kirkii)、フンツミアエラスチカ(Funtumia elastica)、ウルセオラ(Urceola elastica)、キク科のグアユールゴムノキ(Parthenium argentatum)、ゴムタンポポ(Taraxacum kok−saghyz)、アカテツ科のガタパーチャノキ(palaguium gatta)、バラタゴムノキ(Mimusops balata)、サポジラ(Achras zapota)、ガガイモ科のオオバナアサガオ(Cryptostegia grandiflora)、トチュウ科のトチュウ(Eucommia ulmoides)等が挙げられる。中でも、パラゴムノキ、セアラゴムノキ、ゴムタンポポ等であることが好ましく、工業用天然ゴム原料として汎用されているパラゴムノキであることがより好ましい。
【0011】
本発明のしょう液の回収方法は、ラテックスに酸を添加して凝固させた後、凝固させたラテックスから液体成分を絞り出すことを特徴とする。ゴム成分を、しょう液を含む状態で凝固させることにより、ゴム成分としょう液とを容易に分離することができる。得られた凝固物から絞り取られた液体成分がしょう液である。
【0012】
添加する酸は、特に限定されるものではなく、蟻酸や酢酸、クエン酸等の有機酸であってもよい。ラテックス中のゴム成分に対する影響が少ないことから、有機酸であることが好ましく、蟻酸又は酢酸であることがより好ましい。ラテックスに添加する酸の量は、ラテックスが凝固可能な量であれば特に限定されるものではなく、添加する酸の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、ラテックスのpHが4.5〜5.5となるように酸を添加することにより、凝固させることができる。
【0013】
凝固したラテックスから液体成分を絞り出す方法は、特に限定されるものではなく、凝固物から液体成分を絞り出す際に用いられる公知のいずれの手法で行ってもよい。例えば、凝固物を細断し、染み出てきた液体成分を回収することができる。染み出てきた液体成分は、目の粗いガーゼで濾したり、孔径1mm以下の篩を用いて濾すことにより回収することができる。また、ローラー等を用いて凝固物を圧搾することにより、液体成分を回収することができる。
【0014】
ラテックスを酸性下で凝固させた後、凝固しなかった液体成分のみを回収することにより、遠心分離処理によりゴム層以外の成分を回収した場合よりも、固形成分の混入量が少ない液体成分のみを回収することができる。ゴム成分は、ラテックス中に含まれている細胞成分や分子量の大きいタンパク質等の固形成分を含む状態で凝固するため、この凝固物から液体成分を絞り出すことにより、これらの固形成分も同時に液体成分と分離されるためである。本発明のしょう液の回収方法により、不純物が少なく、アルコール発酵の原料として好適なしょう液を得ることができる。
【0015】
液体成分を回収した後の固形成分は、主にゴム成分からなるため、この固形成分は、天然ゴムの原料としてもちいられる。すなわち、この固形成分から、常法によって天然ゴムを合成することができる。
【0016】
例えば、回収されたしょう液に、アルコール発酵を行う微生物を投入することにより、エタノールを製造することができる。このような微生物としては、特に限定されるものではなく、通常、アルコール発酵を行う際に用いられるいずれの微生物を用いてもよい。本発明においては、工業的に汎用されていることから、酵母や麹菌を用いることが好ましい。なお、しょう液に添加する微生物の量や、アルコール発酵の際の温度や攪拌条件等の反応条件は、添加される微生物の種類に応じて適宜設定することができる。その他、微生物に代えて、酵素を添加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のラテックスからのしょう液の回収方法により、大量のラテックスから簡便に効率よくしょう液を回収することができるため、本発明は、回収されたしょう液を利用したバイオマスエタノールの工業的製造の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックスからしょう液を回収する方法であって、
ラテックスに酸を添加して凝固させた後、凝固させたラテックスから液体成分を絞り出すことを特徴とする、ラテックスからのしょう液の回収方法。
【請求項2】
前記酸が蟻酸又は酢酸であることを特徴とする請求項1記載のラテックスからのしょう液の回収方法。
【請求項3】
凝固させたラテックスを細断する、又は圧搾することにより、しょう液を絞り出すことを特徴とする請求項1又は2記載のラテックスからのしょう液の回収方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のラテックスからのしょう液の回収方法によりラテックスからしょう液を回収した後、しょう液を原料としてアルコール発酵を行うことにより、エタノールを製造することを特徴とするバイオマスエタノールの製造方法。
【請求項5】
前記アルコール発酵を、酵母又は麹菌を用いて行うことを特徴とする請求項4記載のバイオマスエタノールの製造方法。

【公開番号】特開2011−57832(P2011−57832A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208487(P2009−208487)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】