説明

ラブストリップを機械加工する工具およびラブストリップを機械加工する方法

【課題】ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保する効率的なシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】ファンケース42のラブストリップ46を現場で機械加工する工具50を、ファンを取り外した後のガスタービンエンジンのLPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lに、機械加工工具がシャフトアッセンブリの回転と共にエンジン回転軸Aを中心として回転可能となるように取付け、機械加工工具は、コアエンジンからのファンケースの分解を行なうことなく、ガスタービンエンジンのファンケース内のラブストリップを機械加工することができる。機械加工工具がシャフトアッセンブリに取付けられると、工具ビットがエンジン回転軸に対して正確に配置可能である。その結果、ラブストリップは、ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保するように、均一かつ正確にエンジン軸と同心に機械加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン構成要素を現場で機械加工することに関し、さらに詳細には、エンジンからケースを大幅に分解することなく、ファンナセルのラブストリップを現場で機械加工することに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンは、その前端に、高容量ファンを備える。このファンは、軸流圧縮機、燃焼器、およびタービンを通るコア流路と、コア流路を迂回し、直接的な推力をもたらすファン流路とに、大気を送り込むためのものである。このファンは、エンジンの前方区域に位置し、異物との衝撃による損傷の危険性が最も大きい回転要素である。ファンの損傷の例として、極端な場合、ファンの破片の脱落が挙げられる。
【0003】
このような破片を封じ込むために、ブレード破片閉じ込め構造は、典型的には、このような破片をエンジンから飛び出す前に捕獲するために、ファンブレードの先端を包囲する高強度材料の環状帯を備える。このブレード破片閉じ込め構造は、ファンブレード先端を越える空気の漏れを最小限に抑えるシール領域をもたらすために、ファンブレード先端が密に嵌合するラブストリップを備える。ラブストリップは、可能な限り密な先端シールが得られるように、ファンブレード先端によって滑らかに磨耗する材料から作製される。
【0004】
ガスタービンエンジンの初期の組立および試験中、ラブストリップとファンブレード先端との間の界面は、適切に設定されないことがある。さらに、試験中、ラブストリップが不均一に磨耗し、これによって、偏心をもたらし、その結果、不適切な試験結果が生じる可能性がある。いずれにしても、コアエンジンは、該界面を再生するかまたは該偏心を修正する目的でラブストリップを取り換えるかまたは機械加工するために、ファンケースおよびファンナセルから取り外されねばならない。このような分解および再組立は、かなりの時間を必要とすると共に、コストを高め、エンジン整備の複雑さを増す可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保する効率的なシステムおよび方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具は、ガスタービンエンジンのファンロータシャフトアッセンブリに取付けられる。機械加工工具は、一般的に、マウントプレートと、マウントプレートに取付けられたビームと、ビームに取付けられた切削工具アッセンブリおよび平衡錘とを備える。この工具は、ファンブレードが取り外された後のエンジンファンロータシャフトアッセンブリのファンハブに、工具がロータシャフトアッセンブリの回転と共にエンジン回転軸を中心に回転可能となるように、取付け可能である。
【0007】
この機械加工工具は、これまでは必要とされたコアエンジンからのファンナセルの取り外しを行なうことなく、ガスタービンエンジンのファンナセル内のラブストリップを機械加工することができる。機械加工工具がロータシャフトアッセンブリに取付けられると、工具ビットは、エンジン回転軸に対して正確に配置可能である。
【0008】
加工作業では、ラブストリップとファンブレード先端との間の界面が不適切であるという測定の後、またはファンラブストリップの取換えの後、ファンブレードをファンロータシャフトアッセンブリから取り外す。ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具を、ロータシャフトアッセンブリに取付け、工具モータを複合フライス盤に対して位置決めし、これによって、工具ビットをエンジン回転軸に対して位置決めする。次いで、工具モータを始動させ、機械加工工具をロータシャフトアッセンブリと共にエンジン回転軸を中心として回転させ、これによって、ラブストリップの内径を機械加工する。機械加工工具は、ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保するように、ラブストリップが均一かつ正確にエンジン軸と同心に機械加工されるように、手動で回転させてもよい。
【0009】
従って、本発明は、ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保する効率的なシステムおよび方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、亜音速運転用に設計された航空機エンジンの例として示される、エンジンパイロン12から懸垂されたガスターボファンエンジン10の一部の概観図である。エンジン10は、好ましくは、高バイパスターボファン航空機エンジンである。エンジン10は、典型的には、直列に連通している、低圧圧縮機によって駆動されるファンアッセンブリ14と、高圧圧縮機16と、環状燃焼器18と、高圧タービン20Hと、低圧タービン20Lとを備える。運転中に、空気が、圧縮機内で加圧され、次いで、燃焼器内で燃料と混合され、高温燃焼ガスを生成する。この燃焼ガスは、高圧タービンおよび低圧タービン内を流れ、これらのタービンが、燃焼ガスからエネルギを抽出する。高圧タービン20Hは、HPT/HPCシャフトアッセンブリ22Hを介して、高圧圧縮機に動力を供給し、低圧タービン20Lは、LPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lを介して、低圧圧縮機およびファンアッセンブリ14に動力を供給する。シャフトアッセンブリ22は、共通回転配置または逆回転配置で同軸に回転する種々のシャフトを備えてもよいことが理解されるべきである。
【0011】
例示的なターボファンエンジン10は、ナセルアッセンブリ24内に取付けられた高バイパス比の形態にある。ここでは、ファンアッセンブリ14によって加圧された空気の殆どは、推進力を生成するために、コアエンジンを迂回する。ファン空気Fは、コアナセル30とファンナセル32との間に半径方向に画定されたファンノズル部28を通って、エンジン10から吐出される。コア排気ガスCは、コアナセル30と中心プラグ36との間に画定されたコア排気ノズル34を通って、コアエンジンから吐出される。ここで、中心プラグ36は、コアナセル30内において、エンジン10およびナセルのエンジン長手方向中心軸Aを中心として、同軸に配置されている。
【0012】
ファンアッセンブリ14は、チタン合金のような高強度、低重量材料から作製され得る複数の周方向に離間されたファンブレード38を備える。環状のブレード閉じ込め構造40が、誤って離脱したブレード破片を受け、これらの破片をファンジェットエンジン10の外に飛び出さないように保持するために、典型的には、ブレード38の経路を直接的に包囲して、ファンケース42内に配置されている。
【0013】
ラブストリップ46が、閉じ込め構造40内に配置されている。このラブストリップ46に対して、ファンブレード38のブレード先端44が、ブレード先端44を越えて漏れる空気の量を減少させるシール領域をもたらすために、密に嵌合している。ラブストリップ46は、運転中に、ブレード38の先端44と間欠的に接触することを考慮した材料から作製される。
【0014】
図2を参照すると、本発明によるファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具50が、LPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lに取付けられた状態で示されている。この工具50は、一般的に、マウント52と、マウント52に取付けられたビーム54と、ビーム54に取付けられた切削工具アッセンブリ56および平衡錘58と、を備える。機械加工工具50は、これまで必要とされたコアエンジンからのファンケース42およびファンナセル32の分解を行なうことなく、ラブストリップ46を機械加工することができる。
【0015】
マウント52は、好ましくは、ファンブレード38が取り外された後のLPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lのファンハブ60に、機械加工工具50がLPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lの回転と共に軸Aを中心として回転可能となるように、取付けられるのに適するように作製される。すなわち、ファンアッセンブリ14を取付けるスピンナ用ボルトサークル構造62(図3)を利用して、ファンブレード38の代わりに、機械加工工具50が、ロータシャフトアッセンブリ22Lに取付けられる。
【0016】
ビーム54は、好ましくは、矩形の断面を有する環状部材である。ビーム54は、マウント52に固定され、好ましくは、ファンケース42の直径よりもわずかに短い長さを有する。ビーム54は、(図4にも示される)一端部で、切削工具アッセンブリ56を支持すると共に、(図5にも示される)他端部で、切削工具アッセンブリ56と釣り合う平衡錘58を支持する。
【0017】
図4を参照すると、切削工具アッセンブリ56は、一般的に、ビーム54に取付けられた複合フライス盤60と、複合フライス盤60に取付けられたドリルモータのような工具モータ62とを備える。工具モータ62は、水平フライスのような工具ビット64を正確な個所に位置決めするように、複合フライス盤60に対して移動可能である。工具50がロータシャフトアッセンブリ22Lに取付けられると、工具ビット64がエンジン軸Aに対して正確に配置可能である。複合フライス盤60は、ビーム54、従って、軸Aに対する工具ビット64の位置を調整するために、複合フライス盤60に対する工具モータ62の調整を複数の自由度で行うことができる。工具ビット64は、ファンブレード38のブレード先端44をラブストリップ46に具体的に適合させるどのような形状であってもよいことが理解されるべきである。
【0018】
加工作業では、ラブストリップ46とファンブレード先端44との間の界面が不適切であるという測定の後、またはファンラブストリップ46の取換えの後、ファンブレード38をLPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lから取り外す。次いで、ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具50を、LPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lに取付ける。工具モータ62を複合フライス盤60に対して位置決めし、これによって、工具ビット64を軸Aに対して位置決めする。次いで、工具モータ62を始動させ、機械加工工具50をLPT/ファンロータシャフトアッセンブリ22Lと共に軸Aを中心として回転させる。機械加工工具50は、ファンブレード先端とラブストリップとの間に適切な界面を確保するように、ラブストリップ46が均一かつ正確に軸Aと同心に機械加工されるように、手動(手で)回転させてもよい。代替的に、工具50は、モータ駆動システムなどによって機械的に回転させてもよい。
【0019】
特定の工程手順を図示し、説明し、かつ特許請求したが、工程は、特に明記しない限り、任意の順序で、別々にまたは組み合わせて実施されてもよく、その場合でも本発明から利得が得られることが理解されるべきである。
【0020】
前述の説明は、制限によって確定されるものではなく、単なる例示にすぎない。本発明の多くの修正および変更が、上記の示唆に照らして可能である。本発明の好ましい実施形態を開示したが、当業者であれば、いくつかの修正が、本発明の範囲内においてなされ得ることを認めるだろう。従って、添付の特許請求の範囲内において、本発明は、具体的に述べたのと異なる形態で実施されてもよいことが理解されるべきである。この理由から、本発明の真の範囲および内容を決定するには、特許請求の範囲が検討されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明と共に用いられる例示的なガスタービンエンジンの全体的な概略図である。
【図2】ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具が取付けられた例示的なガスタービンエンジンの全体的な長手方向の断面図である。
【図3】ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具のマウントの拡大図である。
【図4】ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具の切削工具アッセンブリの拡大図である。
【図5】ファンケースのラブストリップを現場で機械加工する工具の平衡錘の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転軸を中心に回転するLPT/ファンロータシャフトアッセンブリに取付け可能なマウントと、
前記マウントに取付けられたビームと、
前記ビームの一部に取付けられた切削工具アッセンブリと、
を備えるファンケースのラブストリップを機械加工する工具。
【請求項2】
前記切削工具アッセンブリの重量を少なくとも部分的に相殺するために、前記ビームに取付けられた平衡錘をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記切削工具アッセンブリが、前記ビームに取付けられた複合フライス盤と、該複合フライス盤に取付けられた工具モータとを備え、該工具モータは、該工具モータの工具ビットを位置決めするように、前記複合フライス盤に対して移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項4】
前記工具モータが、ドリルモータを含むことを特徴とする請求項3に記載の工具。
【請求項5】
前記工具ビットが、水平フライスビットを含むことを特徴とする請求項3に記載の工具。
【請求項6】
エンジンファンケース内のラブストリップを機械加工する方法であって、
(A)ファンケースのラブストリップを機械加工する工具をエンジン回転軸に対して取付けるステップと、
(B)前記機械加工工具を、該機械加工工具がエンジンファンケースに取付けられたラブストリップの内径を機械加工するように、前記エンジン回転軸を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記ステップ(A)が、
(a)前記機械加工工具を、前記エンジン回転軸を中心として画定されたLPT/ファンロータシャフトアッセンブリに取付けること、
をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(B)が、
(a)前記機械加工工具を前記エンジン回転軸を中心として手動で回転させること、
をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(A)が、
(a)切削工具アッセンブリを前記エンジン回転軸に対して位置決めすること、
をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(a)が、
(i)工具モータを、前記機械加工工具のビームに取付けられた複合フライス盤に取付けること、
をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(C)前記ステップ(A),(B)中に、前記エンジンファンケースをコアエンジンに取付けられた関係で維持するステップ、
をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−111433(P2008−111433A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270826(P2007−270826)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】