説明

ラマンスペクトル検出方法及びラマンスペクトル検出装置

【課題】検出面の増強電場の増強度によらず、被検体の量や試料中の濃度を定量的に検出することができるラマンスペクトル検出方法を提供することにある。
【解決手段】被検体から生じるラマンスペクトルのとは異なるを1つ以上持つラマンスペクトルが既知のリファレンス物質と被検体とを混合した液体試料を検出面に接触させる液体試料接触ステップと、液体試料が接した検出面に励起光を照射し、液体試料から発生するラマン散乱光を検出する散乱光検出ステップと、散乱光検出ステップで検出したラマン散乱光のスペクトルから、リファレンス物質のラマンスペクトルと被検体のラマンスペクトルとを抽出し、リファレンス物質のラマンスペクトルに基づいて被検体のラマンスペクトルを規格化する規格化ステップとを有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体を載置した検出面に励起光を照射し、検出面に増強場を発生させた状態で被検体のラマン散乱光を検出するラマンスペクトル検出方法及びラマンスペクトル検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法は、物質に単波長の光を照射して得られるラマン散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトルを得る方法であり、物質の同定等に利用されている。ラマン分光法は、生体サンプルなどの測定(例えば、同定)に用いることができる。
また、特許文献1のラマン分光法による基質の定量分析方法に記載されているように、測定物質の濃度とラマン散乱光の強度との間には、相関関係があるため、ラマン散乱光の強度から被検体の濃度や量を検出することもできる。
【0003】
ここで、通常、物質(つまり被検体)から得られるラマン散乱光は信号が微弱であるため高感度で検出することが困難である。
これに対して、特許文献2に記載されている局在プラズモン共鳴を誘起し得る大きさの金属微粒子を多数配置され、光が照射されることで増強電場を形成し、ラマン散乱光を増幅させる検出面が形成された金属ナノ構造体(または微細構造体)を用いる方法がある。
このように検出面に増強電場を発生させてラマン散乱光の信号強度を大きくするSERS(表面増強ラマン)方式を用いることで、低濃度等により検出面上の被検体が少なくても被検体の検出が可能になる。
【0004】
また、特許文献3には、SERS方式で被検体を検出する方法であって、被検体のラマン散乱光の信号を抽出するために、検出した全体の信号から、被検体のラマン散乱光以外の信号(第2の信号)を除去する方法が記載されている。なお、第2の信号は、処理装置に記憶させているデータであり、被検体を載置していない状態で、ラマン散乱光を検出することにより検出すると記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、被測定物質に、被測定物質とは異なるラマン散乱光を射出する液状物質を付着させ、その後、被測定物質に光を照射してラマン散乱光を測定する方法が記載されている。この方法では、光を被測定物質内で多重反射の効果が生じ、強度の大きなラマンスペクトルを検出することができると記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−258346号公報
【特許文献2】特開2005−172569号公報
【特許文献3】米国特許第6888629号明細書
【特許文献4】特開2003−98090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、生体分子の測定等では、被検体の量、濃度を測定する場合があるが、金属ナノ構造で発生させた増強電場でラマン散乱光を増強するSERS方式は、金属ナノ構造により信号の増強度が決まるため、金属ナノ構造に構造のバラツキが多いと、信号のバラツキも大きくなる。つまり、測定に用いる金属ナノ構造体毎に増強電場の強度が異なったり、1つの金属ナノ構造体の位置(または領域)毎に増強電場の強度が異なったりすると増強されるラマン散乱光の信号もばらついてしまう。
このように信号がばらついてしまうと、定量的に被検体の量、濃度を測定することが困難となる。
このため、金属ナノ構造を均一に作製するための多くの手法が提案されているが、完全に均一な金属ナノ構造を作製することは不可能であり、信号強度の均一性には限界があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の方法は、被検体のラマンスペクトルのみを検出するための方法であるため、被検体の定量的に測定することは記載されていないが、処置装置に記憶させたデータを用いる場合も、金属ナノ構造体毎に検出値が変化するため、同様に被検体を定量的に測定することは困難である。
また、仮に、被検体以外の物質に起因するラマンスペクトルは取り除くことはできても増強電場による増強度を検出することはできない。したがって、この点においても被検体を定量的に測定することは困難である。
【0009】
また、特許文献4は、金属ナノ構造体を用いずに、強度の小さい入射光でラマン分光している装置であり、SERS活性な金属ナノ構造体の不均一性が原因となる信号強度のばらつきを抑制することはできない。
また、特許文献4に記載のように液体により多重散乱をさせる方法は、SERS方式で測定する方法よりもラマンスペクトルの増強効果が低いため、測定感度が低くなるという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、検出面の増強電場の増強度によらず、被検体の量や試料中の濃度を定量的に検出することができるラマンスペクトル検出方法及びラマンスペクトル検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、被検体を検出面に接触させ、または前記検出面の近傍に位置させ、前記検出面に励起光を照射し、前記被検体から生じるラマン散乱光を増強させ、増強させた前記ラマン散乱光をラマンスペクトルの信号として検出するラマンスペクトル検出方法であって、前記被検体から生じるラマンスペクトルのピークと異なるピークを1つ以上持つ既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質と前記被検体とを混合した液体試料を前記検出面に接触させる液体試料接触ステップと、前記液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出する散乱光検出ステップと、前記散乱光検出ステップで検出した前記ラマンスペクトルの信号から、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号および前記被検体のラマンスペクトルの信号を抽出し、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号強度から前記被検体のラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化ステップとを有することを特徴とするラマンスペクトル検出方法を提供するものである。
ここで、本発明において、ラマンスペクトルには、波形の全体のみならず、いずれかのピークのみのスペクトル分布も含む。
【0012】
ここで、前記規格化ステップは、前記散乱光検出ステップで同一領域から検出したラマンスペクトルの信号に基づいて規格化することが好ましい。
また、前記規格化ステップは、前記散乱光検出ステップで同時に同一領域から検出したラマンスペクトルの信号に基づいて規格化することが好ましい。
さらに、液体試料が接触している前記検出面を乾燥させる乾燥ステップを有し、前記散乱光検出ステップは、前記液体試料を接触させた後、乾燥させた前記検出面に励起光を照射し、乾燥した液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出することが好ましい。
また、前記リファレンス物質は、前記被検体から生じる前記ラマンスペクトルの半値幅と異なる半値幅を持つ前記ラマンスペクトルを生じる物質であることが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明は、被検体を検出面に接触させ、または前記検出面の近傍に位置させ、前記検出面に励起光を照射し、前記被検体から生じるラマン散乱光を増強させ、増強させた前記ラマン散乱光をラマンスペクトルの信号として検出するラマンスペクトル検出方法であって、既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質を含有する第1液体試料を前記検出面に接触させる第1液体試料接触ステップと、前記第1液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記検出面およびその近傍から生じる第1ラマン散乱光を、前記第1ラマンスペクトルの信号として検出する第1散乱光検出ステップと、前記被検体を含有する第2液体試料を前記検出面に接触させる第2液体試料接触ステップと、前記第2液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記検出面の前記第1散乱光を検出した領域と同一領域およびその近傍前記第2液体試料から生じる第2ラマン散乱光を、前記第2ラマンスペクトルの信号として検出する第2散乱光検出ステップと、前記第1散乱光検出ステップで検出した前記リファレンス物質の前記第1ラマンスペクトルの信号強度に基づいて前記第2散乱光検出ステップで検出した前記被検体の前記第2ラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化ステップとを有することを特徴とするラマンスペクトル検出方法を提供するものである。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明は、励起光が照射されることで増強場を発生させる検出面が形成された基体と、この基体の前記検出面に、被検体、およびこの被検体から生じるラマンスペクトルのピークと異なるピークを1つ以上持つ既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質を含有する液体試料を接触させる液体試料接触手段と、前記液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射する光照射手段と、前記励起光が照射された前記液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出する散乱光検出手段と、前記散乱光検出ステップで検出した前記ラマンスペクトルの信号から、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号および前記被検体のラマンスペクトルの信号を抽出し、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号強度から前記被検体のラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化手段とを有することを特徴とするラマンスペクトル検出装置を提供するものである。
ここで、前記規格化手段は、さらに、規格化した前記被検体のラマンスペクトルの信号強度から前記被検体を同定し、前記被検体の量および前記液体試料中の濃度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面増強ラマンにより、高い感度で被検体のラマンスペクトルを検出することができ、かつ、微細構造体の検出面に発生する増強電場の強度によらず、信号強度を規格化した被検体のラマンスペクトルの信号を検出することができる。これにより、高い精度で正確に被検体を同定し、さらに被検体の量及び濃度を検出することができる。
また、微細構造体の検出面に発生する増強電場の強度のよらず、高い精度で信号強度を規格化した被検体のラマンスペクトルの信号を検出できることで、微細構造体の製造誤差の許容範囲を大きくすることができ、歩留まりを高くし、かつ製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るにラマンスペクトル検出方法及びラマンスペクトル検出装置について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0017】
図1は、の概略構成を示す正面図であり、図2は、図1に示した微細構造体の概略構成を示す斜視図である。
【0018】
図1は、本発明のラマンスペクトル検出方法を用いる本発明のラマンスペクトル検出装置本発明の一実施形態であるラマンスペクトル検出装置10の概略構成を示す正面図であり、図2は、図1に示したラマンスペクトル検出装置10の微細構造体12の概略構成を示す上面図である。
【0019】
図1に示すように、ラマンスペクトル検出装置10は、微細構造体12と、微細構造体12に光を照射する光照射手段14と、微細構造体12で反射された反射光を検出する光検出手段16と、微細構造体12を支持するチップ支持手段18と、被検体60を一定量のリファレンス物質(参照物質ともいう。)62とを含有する液体試料Sを微細構造体12に滴下する液体試料滴下手段20と、光検出手段16の検出結果から被検体60のラマンスペクトルの信号及び参照物質62のラマンスペクトルの信号を抽出し、規格化する算出手段22と、算出手段22での算出結果を表示する表示手段24とを有する。
なお、図示しないが、ラマンスペクトル検出装置10は、微細構造体12、光照射手段14、光検出手段16等の各部を覆う筐体や、ラマンスペクトル検出装置10の内部で発生した迷光を除去するフィルタ等の各種の光学部材や、ラマンスペクトル検出装置10の動作を制御する制御部等のラマンスペクトル検出装置10に必要な各種の部材も有する。
【0020】
図2に示すように、微細構造体12は、誘電体基材32および誘電体基材32の一面に配置された導電体34で構成された基体30と、誘電体基材32の導電体34が配置された面とは反対側の面に配置された金属体36とを有する。
【0021】
基体30は、金属酸化物体(Al)で形成された誘電体基材32と、誘電体基材32の一面に設けられ、陽極酸化されていない金属(Al)で形成された導電体34とを有する。ここで、誘電体基材32と導電体34とは、一体で形成されている。
また、誘電体基材32には、導電体34が配置される面とは反対側の面から導電体34側の面に向けて延びる略ストレートな形状(直管形状)の微細孔40が複数の開孔されている。
複数の微細孔40は、導電体34が配置される面とは反対側の面側の端部は、誘電体基材32の表面まで貫通して開口が形成され、導電体34側の端部は、誘電体基材32の表面まで貫通していない。つまり、微細孔40は、導電体34までは到達していない孔となる。また、複数の微細孔40は、励起光の波長より小さい径及びピッチで略規則的に配列されている。
ここで、励起光として可視光を用いる場合は、微細孔40の配置ピッチを200nm以下とすることが好ましい。
【0022】
金属体36は、誘電体基材32の微細孔40内に充填されている充填部45と、微細孔40上に誘電体基材32の表面より突出して形成され、充填部45の外径よりも大きい外径を有し、局在プラズモンを誘起し得る大きさの突出部(つまり凸部)46とからなる複数の棒部44で構成されている。ここで、金属体36を形成する材料としては、局在プラズモンを発生させる種々の金属を使用でき、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金等が挙げられる。また、金属体36は、これらの金属を2種以上含むもので形成してもよい。また、電場増強効果をより高くすることができるため、金属体36は、Au、Ag等を用いて形成することがより好ましい。
また、金属体36の複数の棒部44は、突出部46と隣接する突出部46との離間距離を、数10nm以下とすることが好ましい。
また、突出部46同士の間隔を数10nm以下とすることで、励起光の照射時に、突出部46同士が近接している領域で、非常に増強された電場を形成することができる。なお、この突出部46同士の間隔が数10nm以下で、非常に増強された電場が形成される領域をホットスポットという。
微細構造体12は、以上のような構成であり、金属体36の複数の棒部44の突出部46が配置される面が、液体試料Sが接触する面、つまり、検出面12aとなる。
【0023】
ここで、微細構造体12の作製方法について説明する。
図3(A)〜(C)は、それぞれ微細構造体12の作製方法の一例を示す工程図である。
まず、図3(A)に示すような直方体形状の被陽極酸化金属体48に陽極酸化処理を行う。具体的には、被陽極酸化金属体48を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで陽極酸化する。
ここで、陰極としては、カーボンやアルミニウム等が使用される。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
なお、本実施形態では、被陽極酸化金属体48を直方体形状としたが、その形状は制限されず、種々の形状とすることができる。また、支持体の上に被陽極酸化金属体48が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることできる。
【0024】
被陽極酸化金属体48を陽極酸化すると、図3(B)に示すように、被陽極酸化金属体の表面から該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、誘電体基材32となる金属酸化物体(Al)が生成される。陽極酸化により生成される金属酸化物体(つまり、誘電体基材32)は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体42が隙間なく配列した構造を有するものとなる。
また、各微細柱状体42は、底面が丸みを帯びた形状となり、さらに、略中心部には、表面から深さ方向(つまり、微細柱状体42の軸方向)に略ストレートに延びる微細孔40が開孔される。陽極酸化により生成される金属酸化物体の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0025】
また、規則配列構造の金属酸化物体を生成する場合の好適な陽極酸化条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温14〜16℃、印加電圧40〜40±0.5V等が挙げられる。この条件で生成される微細孔40は例えば、径が約30nm、ピッチが約100nmである。
【0026】
次に、誘電体基材32の微細孔40に電気メッキ処理を施すことにより、図3(C)に示すように、充填部45と突出部46とからなる棒部44を形成する。
ここで、電気メッキを行うと、導電体34が電極として機能し、電場が強い微細孔40の底部から優先的に金属が析出する。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、微細孔12内に金属が充填されて棒部44の充填部45が形成される。充填部45が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、微細孔40から充填金属が溢れるが、微細孔40付近の電場が強いことから、微細孔40周辺に継続して金属が析出していき、充填部45上に誘電体基材32の表面より突出し、充填部45の径よりも大きい径を有する突出部46が形成される。
【0027】
なお、本実施形態の微細構造体12は、陽極酸化を利用して製造されたものであるので、誘電体基材32の微細孔40及び金属体36の突出部46が略規則配列された微細構造体12を簡易に製造できる。また、これら微細孔の配列をランダム配列にすることもできる。
【0028】
また、本実施形態では、誘電体基材32の製造に用いる被陽極酸化金属体48の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能で生成される金属酸化物であれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Ti、Ta、Hf、Zr、Si、In、Zn等が使用できる。被陽極酸化金属体48は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。
微細構造体12は以上のようにして作製される。
【0029】
次に、光照射手段14は、レーザ光源等の光源と光源から出射される励起光Leを導光する導光系とからなり、特定波長の光(励起光)Leを射出し、射出した励起光Leを微細構造体12の検出面に照射する。
【0030】
光検出手段(つまり分光手段)16は分光検出器等からなり、光照射手段14から励起光が照射されることにより微細構造体12の検出面で発生する散乱光が入射する位置に配置されている。
光検出手段16は、微細構造体12の検出面12aで発生する散乱光を分光し、ラマン散乱光をラマンスペクトルの信号として検出する。
【0031】
支持手段18は、台座等であり、微細構造体12を導電体34側から支持し、所定位置に固定する。また、支持手段18は、微細構造体12に液体が滴下された場合に、液体が微細構造体12上からこぼれないように、微細構造体12の側面の外周を覆う囲いを有する。
【0032】
液体試料滴下手段20は、被検体60を含有する液体試料Sを貯留する貯留部20aと、貯留部20aに貯留されている液体試料Sを微細構造体12に滴下する滴下部20bと、貯留部20aに参照物質62を一定量混入させる参照物質混入部20cとで構成され、微細構造体12の検出面に対向して配置されている。
【0033】
貯留部20aは、被検体60を含有する液体試料Sを貯留する容器である。この貯留部20aは、一定量の液体試料Sを貯留している。
ここで、被検体60が液体に含有されていない物質である場合は、被検体60を溶媒に分散させて液体試料Sを作製すればよい。なお、被検体を分散する溶媒としては、種々の溶媒を用いることができ、例えば、水、エタノールや、種々の物質を溶解させた水溶液(例えば、クエン酸水溶液)等が挙げられる。ここで、本実施形態の場合は、溶媒として、揮発性の溶媒を用いることが好ましく、具体的には、エタノールを用いることが好ましい。
滴下部20bは、貯留部20aに貯留されている液体試料Sを一定量微細構造体12に滴下する。ここで、滴下部20bとしては、スポイト等を用いることができる。
参照物質混入部20cは、物性が既知の参照物質62を保持しており、一定量の参照物質62を貯留部20aに混入する。なお、参照物質混入部20cは、参照物質を固体の状態で保持していても、液体の状態で保持していてもよい。
ここで、参照物質62は、ラマンスペクトルが既知の物質であり、また被検体60(より正確には、被検体60として検出されうる物質)のラマンスペクトルのピークとは異なるピークを1つ以上持つラマンスペクトルを射出する物質である。つまり、参照物質は、被検体60からは、射出されない波数のラマン散乱光を射出する物質である。参照物質としては、ラマン散乱光を発生させる種々の物質を用いることができ、例えば、PBS、HBS、キーバンド670cm−1のジメチルスルホキシド(DMSO)、キーバンド680cm−1のDMSO、キーバンド1360cm−1のR6G等を用いることができる。
液体試料滴下手段20は、以上のような構成であり、貯留部20aに貯留されている液体試料Sに一定量の参照物質を混入した後、滴下部20bにより所定量の液体試料Sを微細構造体12の検出面12a上に滴下する。
【0034】
算出手段22は、光検出手段16から送られたデータを演算処理する演算部26と、光検出手段16から送られたデータや、演算部26での演算結果、参照物質毎のラマンスペクトル等を記憶する記憶部28とを有し、光検出手段16で検出したラマンスペクトルの信号から被検体のラマンスペクトルの信号を抽出しかつ規格化し、規格化した結果から、被検体を同定し、被検体の量または濃度を算出する。
【0035】
表示手段24は、液晶ディスプレイ等の画像を表示する装置であり、算出手段22から送られた算出結果、ラマンスペクトル等の情報を表示する。
ラマンスペクトル検出装置10は、基本的に以上のような構成である。
【0036】
以下、ラマンスペクトル検出装置10の作用について説明することで、本発明のラマンスペクトル検出装置および被検体検出方法についてより詳細に説明する。
ここで、図4(A)〜(C)は、それぞれ本発明の被検体検出方法の一実施形態を示す工程図である。
【0037】
まず、微細構造体12を支持手段18の所定位置に載置し、所定位置に固定する。
また、液体試料滴下手段20は、貯留部20aに貯留されている一定量の液体試料Sに参照物質混入部20cから一定量の参照物質62を投入する。これにより、貯留部20a内に物性(具体的にはラマンスペクトル)が既知の参照物質62が既知の濃度で混合され、かつ、検出対象である被検体60を含有する液体試料Sが作製される。
次に、図4(A)に示すような微細構造体12の検出面12a上に、液体試料滴下手段20から液体試料Sを微細構造体12の検出面12a上に滴下する。
これにより、液体試料Sを微細構造体12と支持手段18とで貯留し保持している状態となり、図4(B)に示すように、微細構造体12の検出面12aに被検体60と参照物質62を含有する液体試料Sが接触している状態となる。
【0038】
次に、検出面12aを乾燥させて、接触している液体試料の液体成分(溶媒)を除去する。これにより、図4(C)に示すように、突出部46の周りに被検体60及び参照物質62が付着した状態となる。
【0039】
次に、光照射手段14から励起光Leを射出し、被検体60及び参照物質62が付着している検出面12aを照明する。
【0040】
微細構造体12の検出面12aは、光照射手段14から射出された光で照明されることで、金属体36の突出部46の表面で局在プラズモンが発生し、増強された電場が形成される。
さらに、微細構造体12では、金属体36の突出部46の表面で電場をより増強させる局在プラズモン共鳴も効果的に発生する。ここで、局在プラズモン共鳴は、局在プラズモンにより局在的に集団運動している金属の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで電場がより増強される現象である。微細構造体の凹凸形状である突出部46(つまり凸部)では、入射した光の波長と凹凸形状の大きさとが一致した領域で、突出部46の自由電子が光の電場に共鳴して振動し、入射された光が高い効率で電場に変化され、突出部46の周辺の電場がより増強される。
このように、微細構造体では、検出面で電場増強効果を得ることができ、増強された電場が形成される。なお、微細構造体は、電場をより強くすることができるため、突出部で局在プラズモン共鳴が発生するように励起光の波長、突出部の大きさを設計、調整することが好ましいが、少なくとも突出部に局在プラズモンが発生すればよい。
【0041】
また、検出面12aの被検体60及び参照物質62は、特定波長の励起光が入射されることによりそれぞれラマン散乱光を発生させる。被検体60及び参照物質62によりそれぞれ発生されたラマン散乱光は、局在プラズモンに起因して発生された増強電場によって増強される。つまり、ラマン散乱光は、ラマン増強効果により増強される。ここで、被検体60から射出されるラマン散乱光は、検出する被検体の種類によってスペクトルが変化する。
【0042】
光検出手段16は、微細構造体12の検出面12aの散乱光を分光し、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)の信号を検出する。その後、検出したラマンスペクトルの信号を算出手段22に送る。
【0043】
ここで、図5は、算出手段22による被検体の量または濃度を算出する工程を示すフロー図である。
算出手段22は、まず、演算部26が、参照物質混入部20aで混入した参照物質62の情報に基づいて、記憶部28から参照物質62のラマンスペクトル(の波形形状)を読み出す(ステップS10)。
【0044】
次に、検出されたラマンスペクトルの信号から、読み出した参照物質62に起因するラマンスペクトルの信号を取り除き、被検体60に起因するラマンスペクトルの信号を抽出する(ステップS12)。具体的には、検出されたラマンスペクトルの信号と、読み出した参照物質62に起因するラマンスペクトルのピークや、スペクトル分布に基づいてマッチングさせ、その結果重複した波長領域のラマンスペクトルの信号を検出されたラマンスペクトルの信号から取り除くことで被検体60に起因するラマンスペクトルの信号を抽出する。
【0045】
次に、検出されたラマンスペクトルの信号と読み出した参照物質62のラマンスペクトルの信号とをマッチングした結果に基づいて、被検体60に起因するラマンスペクトルの信号を規格化する(ステップS14)。具体的には、検出したラマンスペクトルの信号に含まれる参照物質のラマンスペクトルの信号の信号強度と参照物質の既知の濃度との関係に基づいて、検出したラマンスペクトルの信号から抽出した被検体60に起因するラマンスペクトルの信号の信号強度を規格化する。
【0046】
次に、規格化した被検体60に起因するラマンスペクトルの信号と、記憶部28に記憶されている種々の物質のラマンスペクトルとを比較して被検体の種類を検出し、さらに、規格化されたラマンスペクトルの信号に基づいて、被検体の量、濃度を算出する(ステップS16)。なお、濃度は、さらに、液体試料滴下手段20から滴下された液体試料の量を加味することで算出することができる。
【0047】
算出手段22で算出した被検体の種類および被検体の量、濃度を表示手段24で表示する。
ラマンスペクトル検出装置10は、以上のようにして被検体を同定し、量及び濃度を算出する。
【0048】
このように、ラマンスペクトル検出装置10は、液体試料Sに、ラマンスペクトルが既知の参照物質62を一定量混在させることで、参照物質62のラマンスペクトルの信号強度に基づいて被検体60のラマンスペクトルの信号強度を規格化することができる。
これにより、微細構造体の検出面に形成される突出部にバラツキがあり、検出面に形成される増強電場が微細構造体毎に不均一となり、SARSによるラマン散乱光の増強度が不均一となっても、高い精度で定量的に被検体を検出することができる。
また、参照物質62として被検体60のラマンスペクトルのピークとは異なるピークを1つ以上持つラマンスペクトルを生じる物質を用いることで、参照物質62のラマンスペクトルと被検体60とラマンスペクトルを混在させることなく、検出したラマンスペクトルの信号から両方のラマンスペクトルの信号を抽出することができる。
また、微細構造体の検出面での増強電場が不均一であっても高い精度で定量的に被検体を検出できることで、検出面で発生させる増強電場が不均一な微細構造体も、つまり、異なる強度の増強電場を発生させる微細構造体も用いることができる。これにより、利用できる微細構造体の許容範囲を大きくすることができ、歩留まりを高くすることができ、製造コストを抑制することができる。
【0049】
以下、具体的実施例とともに本発明についてより詳細に説明する。
ここで、本具体例では、被検体としてキーバンドが730cm−1のアデニンを用い、キーバンド680cm−1のDMSOを参照物質とした。なお、本具体例では、濃度既知のDMSOが液体試料Sの溶媒としての役割も有する。また、液体試料は、アデニンの濃度を100μMとした。
また、微細構造体として、上述した図2に示す構造の微細構造体12を用い、光照射手段14として、出力2mW、励起波長633nmの半導体レーザを用い、光検出手段16として、顕微ラマン分光装置(堀場ジョバンイボン社製、LabLAM HR−800)を用いた。
ここで、本具体例では、1つの検出面において、測定点1〜9の9つの測定点で730cm−1と680cm−1の信号強度を測定した。つまり、被検体と参照物質の濃度が同一の液体試料について、9つの測定点で測定を行った。
さらに、算出した730cm−1と680cm−1の信号強度を用いて、測定点毎に、730cm−1の信号強度を680cm−1の信号強度で規格化した値を算出した。
また、9つの測定点における730cm−1の信号強度の平均値と、730cm−1の信号強度のみで算出した標準偏差と、730cm−1の信号強度を680cm−1の信号強度で規格化した値の平均値と、標準偏差を算出した。
測定結果及び算出結果を下記表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、アデニン(被検体)の信号強度(730cm−1の信号強度)をDMSO(参照物質)の信号強度(680cm−1の信号強度)で規格化することで、被検体の信号強度の強さによらず、被検体を定量的に算出することができる。つまり、濃度既知の参照物質を基準とすることで、信号強度が大きい場合も小さい場合も定量的な測定が可能となる。つまり、微細構造体によるラマン散乱光の増強度によらず、被検体を定量的に検出することができる。
具体的には、同一濃度の被検体を測定しても、増強度によって、測定点7の場合は、信号強度が452となり、測定点3の場合は、1416となる。これに対して、参照物質の信号強度で規格化することで、測定点7の場合は、1.245となり、測定点3の場合は、2.360となる。このように、単に被検体の信号強度を測定した場合よりも差を小さくすることができる。
以上より、規格化することで、微細構造体の増強度により信号強度がばらついた場合も、濃度既知の参照物質により微細構造体の増強度を加味することができ、定量的な測定を行うことができることがわかる。
また、参照物質で規格化することで、バラツキを低減することもできる。具体的には、標準偏差のバラツキを0.399から0.266に小さくすることができる。
以上より本発明の効果は明らかである。
【0052】
ここで、参照物質62は、被検体60とラマンスペクトルの半値幅も異なる物質であることが好ましい。参照物質62を被検体60のラマンスペクトルのピークと異なるピークを1つ以上持ち、かつ半値幅も異なるラマンスペクトルのピークを生じる物質とすることで、光検出手段16で検出したラマンスペクトルの信号から参照物質62に起因するラマンスペクトルの信号と被検体60に起因するラマンスペクトルの信号とをより正確に抽出することができる。
また、参照物質62は、ラマンスペクトルの波数が、被検体60から生じるラマンスペクトルのピークと半値幅の2倍以上異なることが好ましい。両物質からそれぞれ生じるラマンスペクトルのピークが半値幅の2倍以上ことなることで、さらに的確に各ラマンスペクトルを抽出することができる。
【0053】
さらに、参照物質62には、被検体60と同程度の強度のラマンスペクトルを射出する物質を用いることが好ましい。参照物質62と被検体60とから射出されるラマンスペクトルを同程度とすることで、被検体60のラマンスペクトルの信号強度をより正確に規格化することができる。
【0054】
また、参照物質混入部20cは、複数の参照物質62を有することが好ましく、被検体60(または被検体60と想定される物質)の種類(スペクトル強度、波数)に応じて、液体試料Sに混入する参照物質62を選択することが好ましい。
このように、参照物質を選択することで、より適切に被検体のラマンスペクトルの信号を抽出し規格化することができ、被検体を高い精度で定量的に検出することができる。
なお、参照物質を混入していない状態で、被検体のラマンスペクトルの信号を検出し、その検出値に応じて、最適な参照物質を特定してもよい。これにより、より適切な参照物質を選択することができる。
【0055】
ここで、ラマンスペクトル検出装置10は、微細構造体12の突出部46に特異的結合物質を固定することが好ましい。
微細構造体の突出部に特異的結合物質を配置することで、微細構造体の突出部と特定の被検体(つまり、特異的結合物質と結合する特性を有する被検体)とを結合させることができる。
なお、この場合は、被検体と特異的に結合する特異的に結合する特異的結合物質と、参照物質と特異的に結合する特異的結合物質の2種類の特異的結合物質を設けることが好ましい。被検体と参照物質に対して別々の特異的結合物質を設けることで、一方の物質により他方の物質が結合できず、検出値と実際の値がずれることを防止できる。
また、1種類の特異的結合物質に被検体60と参照物質62を結合させる場合は、特異的結合物質に被検体60と参照物質62とを同程度付着させるために、被検体60と参照物質62とは、一方の物質が他方の物質よりも特異的結合物質に対する結合力が過剰に強くないこと(つまり、結合力の比率が一定範囲内にあること)が好ましい。
【0056】
特異的結合物質としては、以下のような物質を用いることができる。
被検体が蛋白質、ペプチド、及びアミノ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である場合、被検体とイオン結合する特異的結合物質としては、被検体と反対荷電を有する表面修飾基を用いることができ、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、第4級アンモニウム基、イミダゾール基、グアニジニウム基、及びこれらの誘導体基等の表面修飾基が挙げられる。また、突出部は、これらの表面修飾基を2種以上有していてもよい。
また、被検体が蛋白質、ペプチド、及びアミノ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である場合、被検体と共有結合する特異的結合物質としては、N−ヒドロキシスクニンイミジルエステル等の反応性エステル基、カルボジイミド基、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール基、ヒドラジド基、チオール基(スルファニル基)、反応性ジスルフィド基、マレイミド基、アルデヒド基、エポキシド基(エポキシ基)、(メタ)アクリレート基、ヒドロキシル基(ヒドロキシ基)、イソシアネート基、イソチオシアネート基、及びこれらの誘導体基等の表面修飾基が挙げられる。また、突出部は、これらの表面修飾基を2種以上有していてもよい。
ここで、特異的結合物質としては、例示した表面修飾基の中でも、反応性エステル基、ヒドラジド基、チオール基、及び反応性ジスルフィド基等を用いることが好ましい。
なお、上記記載中、「反応性」とは被検体と反応性を有することを意味する。
【0057】
さらに、突出部には、被検体とイオン結合する特異的結合物質及び共有結合する特異的結合物質の両方を固定することが特に好ましい。
この場合、突出部に対して、被検体とイオン結合する特異的結合物質と、被検体と共有結合する特異的結合物質とを同時に固定してもよいし、これらの特異的結合物質を順次固定してもよい。また、これらの特異的結合物質の表面修飾位置は特に制限されず、これらの特異的結合物質同士が互いに結合していてもよいし、これらの特異的結合物質が互いに独立して突出部に結合していてもよい。
【0058】
また、突出部に対して、被検体とイオン結合する特異的結合物質を固定し、さらにこの特異的結合物質を、被検体と共有結合する特異的結合物質で活性化することも特に好ましい。
例えば、はじめに突出部に被検体とイオン結合するカルボキシ基を導入し、さらに導入したカルボキシ基を反応性エステル基、ヒドラジド基、チオール基、及び反応性ジスルフィド基等の被検体と共有結合する官能基の形態に誘導して、活性化することが好ましい。
被検体とイオン結合する特異的結合物質と、被検体と共有結合する特異的結合物質とが互いに近接するため、1つ1つの被検体がイオン結合及び共有結合によって突出部の表面に対して強固に吸着させることができる。
【0059】
ここで、被検体とイオン結合する表面修飾基と、被検体と共有結合する表面修飾基とを両方備えた特異的結合物質としては、4,4−ジチオジブチル酸(DDA)、10−カルボキシ−1−デカンチオール、11−アミノ−1−ウンデカンチオール、7−カルボキシ−1−へプタンチオール、16−メルカプトヘキサデカン酸、11,11’−チオジウンデカン酸等の自己組織化膜を形成する分子;アガロース、デキストラン、カラゲナン、アルギン酸、デンプン、及びセルロース等のヒドロゲル、又はこれらの誘導体(例えばカルボキシメチル誘導体);ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリエチレングリコール等の水膨潤性有機ポリマー等が挙げられる。
例えば、被検体がアデニンの場合、被検体とイオン結合する表面修飾基と、被検体と共有結合する表面修飾基とを両方備えた特異的結合物質としては、4,4−ジチオジブチル酸(DDA)、及びカルボキシメチルデキストラン(CMD)等が好ましく用いられる。
【0060】
ここで、微細構造体12の検出面12aに液体試料Sを接触させた後、検出面12aを乾燥させる手段としては、種々の手段を用いることができ、滴下後、一定時間経過させることで自然乾燥させても、検出面を加熱する加熱機構を設け、積極的に溶媒を蒸発させてもよい。
【0061】
また、ラマンスペクトル検出装置10では、必ずしもラマン散乱光の検出時に検出面12aを乾燥させる必要はなく、検出面12aが濡れた状態、つまり液体試料Sの溶媒成分が検出面12aに接触している状態でラマン散乱光を検出してもよい。
特に、乾燥された状態では、被検体と参照物質が反応し、別の物質となる場合は、液体試料Sの溶媒が検出面12aに接触している状態でラマン散乱光を検出することが好ましい。
【0062】
また、ラマンスペクトル検出装置10では、液体試料Sに参照物質62を混在させて、検出面の同一領域にある被検体と参照物質とのラマンスペクトルの信号を同時に検出したが、被検体のラマンスペクトルの信号と参照物質のラマンスペクトルの信号とを別々に検出してもよい。
例えば、検出面に一定濃度の参照物質を含有する液体を接触させて参照物質のラマンスペクトルの信号を検出し、その後、検出面に液体試料Sを接触させて被検体のラマンスペクトルの信号を検出してもよい。また逆に、検出面に液体試料Sを接触させて被検体のラマンスペクトルの信号を検出した後、検出面に一定濃度の参照物質を含有する液体を接触させて参照物質のラマンスペクトルの信号を検出してもよい。なお、この場合、ラマンスペクトル検出装置は、液体試料Sを貯留する貯留部と、参照物質を含有する液体を保持する貯留部とを別々に有する必要がある。
この場合も、被検体のラマンスペクトルの信号を検出した領域の検出面の増強電場の強度を、参照物質のラマンスペクトルの信号に基づいて、規格化することができる。したがって、参照物質のラマンスペクトルに基づいて、被検体のラマンスペクトルを規格化することで、被検体を高い精度で定量的に検出することができる。
【0063】
ここで、被検体と参照物質のラマンスペクトルの信号を別々に検出する場合は、後で検出する物質の方が先に検出する物質よりも、突出部または特異的吸着物質と結合する結合力が高いことが好ましい。これにより、後で検出する物質の検出時に、先に検出する物質が検出面の表面に残っていても、後で検出する物質により置換することができ、後で検出する物質をより正確に検出することができる。
また、先に検出する物質を含有する液体が検出面に残っている状態で、後で検出する物質を含有する液体を滴下しても、後で検出する物質のラマンスペクトルの信号を適切に検出することができる。
【0064】
また、微細構造体の形状は、微細構造体12の形状に限定されず、基体上に局在プラズモンを誘起し得る大きさの凸部が形成されていればよく、種々の形状とすることができる。
【0065】
図6(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、図6(B)は、図6(A)の上面図である。
図6(A)及び図6(B)に示す微細構造体80は、基体82と基体82上に配置された多数の金属微粒子84とで構成されている。
基体82は、板状の基板である。基体82は、金属微粒子84を電気的に絶縁して支持可能な材料で形成すればよく、材料としては、例えば、シリコン、ガラス、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、サファイヤ、およびシリコンカーバイド等が挙げられる。
【0066】
多数の金属微粒子84は、局在プラズモンを誘起し得る大きさの微粒子であり、基体82の一面上に分散された状態で固定されている。
ここで、金属微粒子84は、上述した金属体36で例示した各種金属で形成することができる。また、金属微粒子84は、上述した金属微粒子62と同様の金属微粒子でも異なる金属微粒子でもよい。また、金属微粒子の形状は特に限定されず、例えば、丸型で、直方体型でもよい。
このような構成の微細構造体80も金属微粒子が配置された検出面に励起光が照射されることで、金属微粒子の周りに局在プラズモンを発生させ、増強電場を発生させる。
【0067】
次に、図7は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す上面図である。
図7に示す微細構造体90は、基体92と基体92上に配置された多数の金属ナノロッド94とで構成されている。
ここで、基体92は、上述した基体82と同様の構成であるのでその詳細な説明は省略する。
【0068】
金属ナノロッド94は、局在プラズモンを誘起し得る大きさであり、短軸長さと長軸長さが異なる棒状の金属ナノ粒子であり、基体92の一面に、分散された状態で固定されている。金属ナノロッド94は、その短軸長さが3nm〜50nm程度、長軸長さが25nm〜1000nm程度であり、長軸長さは励起光の波長よりも小さいサイズのものである。金属ナノロッド94は、上述した金属微粒子と同様の金属で作製することができる。なお、金属ナノロッドの詳細な構成については、例えば、特開2007−139612号公報に記載されている。
ここで、微細構造体90は、上述した微細構造体80と同様の方法で作製することができる。
このような構成の微細構造体90も金属ナノロッドが配置された検出面に励起光が照射されることで、金属ナノロットの周囲に局在プラズモンを発生させ、増強電場を発生させる。
以上のような構成の微細構造体90を用いた場合も、微細構造体12及び微細構造体80と同様に、微細構造体を作製することができ、さらに、被検体を高い感度で検出することができる。
【0069】
次に、図8(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、図8(B)は、図8(A)の断面図である。
図8に示す微細構造体100は、基体102と基体102上に配置された多数の金属細線104とで構成されている。
ここで、基体102は、上述した基体82と同様の構成であるのでその詳細な説明は省略する。
【0070】
金属細線104は、局在プラズモンを誘起し得る線幅の線状部材であり、基体102の一面に格子状に配置されている。金属細線104は、上述した金属微粒子、金属体と同様の金属で作製することができる。また、金属細線104の作製方法は、特に限定されず、蒸着、メッキ等、金属配線を作製する種々の方法で作製することができる。
ここで、金属細線104の線幅は、具体的には50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。また、金属細線104の配置パターンは、特に限定されない。例えば、複数の金属細線を交差させずに、互いに平行に配置してもよい。また、金属細線の形状も直線に限定されず、曲線としてもよい。
【0071】
このような構成の微細構造体100も金属細線が配置された検出面に励起光が照射されることで、金属細線の周囲に局在プラズモンを発生させ、増強電場を発生させる。
以上のような構成の微細構造体100を用いた場合も、微細構造体12、微細構造体80及び微細構造体90と同様に、微細構造体を作製することができ、さらに、被検体を高い感度で検出することができる。
【0072】
また、微細構造体は、上述した微細構造体12、微細構造体80、微細構造体90及び微細構造体100にも限定されず、ぞれぞれの局在プラズモンを誘起し得る凸部を組み合わせた構成としてもよい。
また、基体に蒸着して金属微粒子を形成する場合は、基体上への蒸着を種々の方向から行うようにしてもよい。
ここで、微細構造体は、基体上に金属微粒子を配置してから、基体上へ、金属膜を蒸着し、凸部を形成することが好ましい。このように金属微粒子配置してから、金属膜を蒸着することで、金属微粒子の間に金属膜(微細な金属微粒子)を形成することができ、金属微粒子と金属膜とを近接させることができるため、微細構造体の検出面のホットスポットをより多くすることができる。
【0073】
また、上記実施形態では、液体試料滴下手段により液体試料を微細構造体の検出面に滴下したが、本発明はこれに限定されず、微細構造体の表面に液体試料を供給する流路を形成し、この流路に液体試料を流すことで、検出面に液体試料を供給してもよい(つまり、検出面に液体試料を接触させてもよい)。
【0074】
以上、本発明に係るラマンスペクトル検出方法及びラマンスペクトル検出装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0075】
例えば、上記実施形態では、ラマンスペクトルのピークとして、波数分布におけるピークを検出したが、分布の中の輝線(突出部)を検出できればよく、波長分布におけるピークで検出してもよい。さらに、上記実施形態では、ラマンスペクトルとして全体波形を検出したが、本発明はこれに限定されず、ラマンスペクトルとして、ピーク部分の波形のみを検出するようにしてもよい。つまり、ラマンスペクトルには、波形全体を用いることに限定されず、ピーク部分のみを用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のラマンスペクトル検出方法を用いるラマンスペクトル検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すラマンスペクトル検出装置の微細構造体の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図3】(A)〜(C)は、それぞれ微細構造体の作製方法を示す工程図である。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれ本発明のラマンスペクトル検出方法の一実施形態を示す工程図である。
【図5】算出手段による被検体の量または濃度を算出する工程を示すフロー図である。
【図6】(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、(B)は、(A)の部分上面図である。
【図7】微細構造体の他の一例の概略構成を示す上面図である。
【図8】(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、(B)は、(A)の断面図である。
【符号の説明】
【0077】
10 ラマンスペクトル検出装置
12、80、90、100 微細構造体
14 光照射手段
16 光検出手段
18 支持手段
20 液体試料滴下手段
20a 貯留部
20b 滴下部
20c 参照物質混入部
22 算出手段
24 表示手段
26 演算部
28 記憶部
30、82、92、102 基体
32 誘電体基材
34 導電体
36 金属体
40 微細孔
42 微細柱状体
44 棒部
45 充填部
46 突出部
48 被陽極酸化金属体
60 被検体
62 参照物質
94 金属ナノロッド
104 金属細線
S 液体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を検出面に接触させ、または前記検出面の近傍に位置させ、前記検出面に励起光を照射し、前記被検体から生じるラマン散乱光を増強させ、増強させた前記ラマン散乱光をラマンスペクトルの信号として検出するラマンスペクトル検出方法であって、
前記被検体から生じるラマンスペクトルのピークと異なるピークを1つ以上持つ既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質と前記被検体とを混合した液体試料を前記検出面に接触させる液体試料接触ステップと、
前記液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出する散乱光検出ステップと、
前記散乱光検出ステップで検出した前記ラマンスペクトルの信号から、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号および前記被検体のラマンスペクトルの信号を抽出し、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号強度から前記被検体のラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化ステップとを有することを特徴とするラマンスペクトル検出方法。
【請求項2】
前記規格化ステップは、前記散乱光検出ステップで同一領域から検出したラマンスペクトルの信号に基づいて規格化する請求項1に記載のラマンスペクトル検出方法。
【請求項3】
前記規格化ステップは、前記散乱光検出ステップで同時に同一領域から検出したラマンスペクトルの信号に基づいて規格化する請求項1に記載のラマンスペクトル検出方法。
【請求項4】
さらに、液体試料が接触している前記検出面を乾燥させる乾燥ステップを有し、
前記散乱光検出ステップは、前記液体試料を接触させた後、乾燥させた前記検出面に励起光を照射し、乾燥した液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出する請求項1〜3のいずれかに記載のラマンスペクトル検出方法。
【請求項5】
前記リファレンス物質は、前記被検体から生じる前記ラマンスペクトルの半値幅と異なる半値幅を持つ前記ラマンスペクトルを生じる物質である請求項1〜4のいずれかに記載のラマンスペクトル検出方法。
【請求項6】
被検体を検出面に接触させ、または前記検出面の近傍に位置させ、前記検出面に励起光を照射し、前記被検体から生じるラマン散乱光を増強させ、増強させた前記ラマン散乱光をラマンスペクトルの信号として検出するラマンスペクトル検出方法であって、
既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質を含有する第1液体試料を前記検出面に接触させる第1液体試料接触ステップと、
前記第1液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記第1液体試料から生じる第1ラマン散乱光を、前記第1ラマンスペクトルの信号として検出する第1散乱光検出ステップと、
前記被検体を含有する第2液体試料を前記検出面に接触させる第2液体試料接触ステップと、
前記第2液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射し、前記検出面の前記第1散乱光を検出した領域と同一領域およびその近傍の前記第2液体試料から生じる第2ラマン散乱光を、前記第2ラマンスペクトルの信号として検出する第2散乱光検出ステップと、
前記第1散乱光検出ステップで検出した前記リファレンス物質の前記第1ラマンスペクトルの信号強度に基づいて前記第2散乱光検出ステップで検出した前記被検体の前記第2ラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化ステップとを有することを特徴とするラマンスペクトル検出方法。
【請求項7】
励起光が照射されることで増強場を発生させる検出面が形成された基体と、
この基体の前記検出面に、被検体、およびこの被検体から生じるラマンスペクトルのピークと異なるピークを1つ以上持つ既知のラマンスペクトルを生じるリファレンス物質を含有する液体試料を接触させる液体試料接触手段と、
前記液体試料が接触している前記検出面に前記励起光を照射する光照射手段と、
前記励起光が照射された前記液体試料から生じる前記ラマン散乱光を、前記ラマンスペクトルの信号として検出する散乱光検出手段と、
前記散乱光検出ステップで検出した前記ラマンスペクトルの信号から、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号および前記被検体のラマンスペクトルの信号を抽出し、前記リファレンス物質の前記ラマンスペクトルの信号強度から前記被検体のラマンスペクトルの信号強度を規格化する規格化手段とを有することを特徴とするラマンスペクトル検出装置。
【請求項8】
前記規格化手段は、さらに、規格化した前記被検体のラマンスペクトルの信号強度から前記被検体を同定し、前記被検体の量および前記液体試料中の濃度を算出する請求項7に記載のラマンスペクトル検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−270852(P2009−270852A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119531(P2008−119531)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】