説明

ラマンレーザ装置

【課題】効率よく分子を励起することが容易なラマンレーザ装置を提供する。
【解決手段】励起光を放出可能な励起光源と、前記励起光が入射され、波長変換されたラマンレーザ光を放出可能なラマンセルと、前記ラマンレーザ光の一部を、フィードバックして前記ラマンセルに入射可能なフィードバック光学部と、を備えたことを特徴とするラマンレーザ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ラマンレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の分子をレーザ光を照射して励起する場合、その分子の吸収スペクトルに対応した波長のレーザ光を照射すると吸収の効率を高めることができる。
【0003】
すべての分子を励起するには、分子の光吸収断面積から決まる飽和エネルギー強度を照射する必要がある。しかし、照射したエネルギーがすべて吸収されるわけではなく、その一部は透過し分子に有効には吸収されない。
【0004】
所定量の分子数を励起するには、レーザ光源は吸収率の逆数が乗算されたエネルギーを放出することが要求される。気体ガスレーザを励起する場合は、特に、吸収率が低く、透過するレーザ光の量が多くなり、ロスが増加する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2511721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
効率よく分子を励起することが容易なラマンレーザ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、励起光を放出可能な励起光源と、前記励起光が入射され、波長変換れたラマンレーザ光を放出可能なラマンセルと、前記ラマンレーザ光の一部を、フィードバックして前記ラマンセルに入射可能なフィードバック光学部と、を備えたことを特徴とするラマンレーザ装置が提供される。
【0008】
また、他の実施形態によれば、第1の励起光を放出可能な第1の励起光源と、前記第1の励起光が入射され、波長変換された第1のラマンレーザ光を出射可能な第1のラマンセルと、第2の励起光を放出可能な第2の励起光源と、前記第1のラマンレーザ光の一部をシード光として、前記第2の励起光が波長変換された第2のラマンレーザ光を放出可能な第2のラマンセルと、を有する第1のレーザ増幅器と、を備えたことを特徴とするラマンレーザ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
【図2】図2(a)は比較例にかかるラマンレーザ装置の構成図、図2(b)は出力エネルギーの入力エネルギーに対する依存性を示すグラフ図である。
【図3】第2の実施形態にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
【図4】第2の実施形態の変形例にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
ラマンレーザ装置5は、高繰り返し炭酸ガスレーザなどからなる励起光源20、ラマンセル30、フィードバック光学部40、を有している。なお、シード光源10をさらに有するとより好ましい。
【0011】
ラマンセル30は、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)を利用して波長変換を行うことができる。すなわち、ラマンセル30は、一対の凹面鏡にレーザ光の注入孔32とレーザ光の出力孔34と、がそれぞれ設けられている。またその内部にはパラ水素が充填されている。
【0012】
ラマンセル30の筐体に、例えばステンレス材料などを用いると、気密構造が可能となり内部にパラ水素を確実に閉じ込めることができる。
【0013】
水素分子には、原子核の核スピンの配向により、オルトとパラの異性体が存在する。低温になるほどパラ水素の存在比が増し、絶対零度付近では、ほぼ100%近くがパラ水素となる。
【0014】
励起光源20からの10μm波長の励起光Geが注入孔32から入射され、一対の凹面鏡で反射を繰り返す間に、パラ水素のラマン効果により波長変換された16μm波長のラマンレーザ光Goが生成され、出力孔34から放出される。
【0015】
フィードバック光学部40は、シード光源10からのシード光Gsを透過するミラーM1、分子に吸収されなかった透過光Gtを反射するミラーM3、M4、M5、などを有する。なお、ミラーM5で反射された透過光Gtは、ミラーM1により反射され、注入孔32からラマンセル30に入射する。また、ミラーM2により反射された励起光Geは、注入孔32からラマンセル30に入射する。また、シード光源10を備えた場合、ミラーM2を透過したシード光Gsは、注入孔32からラマンセル30に入射する。すなわち、ミラーM2は、10μm波長の励起光Geを反射し、16μm波長の光を透過する波長選択性を有している。
【0016】
なお、フィードバック光学部40を構成するミラーM1、M3、M4、およびM5は、AuやCuなどの金属ミラーや多層膜誘電体ミラーなどを使用することができる。また、ミラーM2は、16μm波長の光を透過可能なZnSeやKClなどを基板材料に用いた多層膜誘電体ミラーを使用することができる。
【0017】
図2(a)は比較例にかかるラマンレーザ装置の構成図、図2(b)はラマンレーザ光の出力エネルギーの励起光の入力エネルギーに対する依存性を示すグラフ図である。
ラマンレーザ装置106は、高繰り返し炭酸ガスレーザなどからなる励起光源120、ラマンセル130、を有している。励起光源120から放出された10μm波長の励起光Geeは、ミラーM102により反射され、パラ水素が充填されたラマンセル130へ入射する。ラマンセル130内において、パラ水素のラマン効果により波長変換された16μm波長のラマンレーザ光が生成され、出力孔からラマンレーザ光Gooが出射する。
【0018】
図2(b)はシミュレーションの結果を示し、縦軸はラマンレーザ光の出力エネルギー(J)、横軸は励起光の入力エネルギー(J)である。
破線はシード光を用いない場合を示し、入力エネルギーを1J(ジュール)としたとき、出力エネルギーが略0.082Jである。他方、実線は、シード光源110から放出され、パルス幅が10ns、エネルギーが1μJの16μm波長のシード光Gssを、ミラーM102を透過させたのち、ラマンセル130へ入射した場合を示す。
【0019】
実線では、入力エネルギーを0.5Jとしたとき、出力エネルギーが略0.078Jである。このように、シード光をラマンセルに導入すると、ラマン閾値を低減し、効率を略2倍とできるので、より好ましい。比較例において、一旦出射したラマンレーザ光Gooが、再び誘導ラマン散乱に寄与することはないので、効率をより高めることは困難である。
【0020】
これに対して、第1の実施形態では、出力孔34から放出された16μm波長のラマンレーザ光Goは、反応セル50内を通過するガス状の分子を照射する。分子38に吸収されずに反応セル50を透過した透過光Gtは、フィードバック光学部40により、フィードバックされラマンセル30の注入孔32へ入射可能となる。また、分子38により吸収されずに反射した光をラマンセル30に戻してもよい。
【0021】
本実施形態では、ラマンレーザ光Goの反射光または透過光Gtをフィードバックするので、ラマンレーザ装置5は減衰した量に相当する分を生成すれば所定出力を維持できる。このため、飽和エネルギー強度に到達するのに必要な励起光Geの出力を低減可能である。また、一旦シード光Gsが立ち上がったのちは、シード光源10はシード光Gsを出射しなくともレーザ発振は継続される。すなわち、本実施形態により、定常動作時の消費電力が低減され、ラマンレーザ装置5の全体の効率が向上される。
【0022】
また、ラマンレーザ装置5において、ラマンレーザ光Goの発生開始時には励起光Geの高い強度が必要であるのでパルスレーザとすることが多い。励起光Geのパルス幅は、例えば1ns〜数百nsなどとされる。この場合、パルス励起光と、フィードバックされたパルスラマンレーザ光と、の立ち上がりのタイミングを合わせるが必要である。この制御は、例えばフィードバック光学部40の光路長を調整するか、またはラマンレーザ光Goとタイミングを合わせて励起光Geを励起するか、などにより行うことができる。
【0023】
さらに、反応セル50を有するラマンレーザ装置5は、分子励起レーザ装置7と呼ぶことができる。ラマンレーザ光Goは反応セル50内で、例えばガス状の分子38を照射する。この照射により、特定の分子を選択的に励起すると励起分子の物理化学的性質を変化させることができる。
【0024】
図3は、第2の実施形態にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
ラマンレーザ装置6は、高繰り返し炭酸ガスレーザなどからなる第1の励起光源20と、第1のラマンセル30と、第1のレーザ増幅器60と、を有している。なお、シード光源10をさらに有すると、より好ましい。
【0025】
第1のラマンセル30は、第1の励起光Geを波長変化し、シード光Gsの波長と同一の波長を有する第1のラマンレーザ光Goを出射する。第1のレーザ増幅器60は、第2の励起光Ge2を放出可能な第2の励起光源61と、第2の励起光Ge2を波長変換し、第1のラマンレーザ光Goの波長と同一の波長を有する第2のラマンレーザ光Go2を出射可能な第2のラマンセル62と、を有している。
【0026】
第1のラマンレーザ光Goは、反応セル50内の分子38を照射し、その一部が吸収され、残りが第1のレーザ増幅器60の第2のラマンセル62に入射する。第2の励起光Ge2も第2のラマンセル62へ入射され、波長変換されて第2のラマンレーザ光Go2が生成され、出力孔から出射する。第1のラマンレーザ光Goは、第1のレーザ増幅器60においてシード光となるので、第2のラマンレーザ光Go2の波長は、第1のラマンレーザ光Goの波長と同一にできる。第2のラマンレーザ光Go2は、第2の反応セル51内の分子38を照射し、その一部を励起できる。
【0027】
この場合、第1のレーザ増幅器60において、透過光Gtが導入される第2のラマンセル62は、その減衰した量に相当する分を生成すればよく、所定出力のラマンレーザ光Go2を第2の反応セル51へ向けて照射できる。すなわち、飽和エネルギー強度に到達するのに必要な励起光Ge2の出力を低減可能である。さらに、第1の増幅器60は、シード光源を必要としない。このため、ラマンレーザ装置8において、全体の効率を高めることができる。さらに、第2の反応セル51の透過光の一部を破線で表すGfのように、フィードバックしシード光として第1のラマンセル30へ入射することができる。
【0028】
また、本図のように、第2のレーザ増幅器63を設けてもよい。この場合、第2のレーザ増幅器63は、第3の励起光Ge3を放出可能な第3の励起光源64と、第3の励起光Ge3を波長変換し、第1のラマンレーザ光Goの波長と同一の波長を有する第3のラマンレーザ光Go3を出射可能な第3のラマンセル65と、を有している。
【0029】
第2のラマンレーザ光Go2が第2の反応セル51内の分子38を照射し、残りを第2のレーザ増幅器63へ入射する。この場合、第2のラマンレーザ光Go2の一部が、第2のレーザ増幅器63においてシード光として作用する。第3の反応セル52を設けると、さらに効率を高めることができる。すなわち、縦続に配置されるレーザ増幅器及び反応セルの数を増やすことができる。
【0030】
図4は、第2の実施形態の変形例にかかるラマンレーザ装置の構成図である。
第2の実施形態において、第1のラマンセル30の出射側に、第1のレーザ増幅器66、及び第2のレーザ増幅器67がさらに並列に配置されている。反応セル50を透過した透過光Gtは、ビームスプリッタBSやハーフプリズムなどにより2つに分岐される。第1及び第2のレーザ増幅器66、67は、励起光源61、64と、ラマンセル62、65と、をそれぞれ有している。透過光Gtは、第1及び第2のレーザ増幅器66、67において、それぞれシード光として作用し、ラマンレーザ光Go2、Go3を、それぞれ生成し出射する。
【0031】
分子励起レーザ装置8は、ラマンレーザ装置6と、反応セル50、53、54と、を有している。ラマンレーザ光Go2、Go3は、反応セル53、54内の分子38をそれぞれ照射し、その一部を励起する。
【0032】
この場合、第1のレーザ増幅器66において、透過光が導入される第2のラマンセル62は、その減衰した量に層とする分だけを生成すればよく、所定出力のラマンレーザ光Go2を第2の反応セル53へ向けて照射できる。また、 第2のレーザ増幅器67において、透過光が導入される第3のラマンセル65は、その減衰した量に相当する分だけを生成すれば、所定出力のラマンレーザ光Go3を第3の反応セル54へ向けて照射できる。すなわち、飽和エネルギー強度に到達するのに必要な励起光Ge2、Ge3の出力を低減可能である。さらに、第1のレーザ増幅器66および第2のレーザ増幅器67は、シード光源を必要としない。このため、分子励起レーザ装置8において、全体の効率を高めることができる。
【0033】
図4のように、レーザ増幅器を並列に配置すると、もし一方のレーザ増幅器の能力が低下した場合でも他方のレーザ増幅器によりバックアップができる。このため、分子へ向けて照射するラマンレーザ光の出力がゼロとなることはなく分子励起システムの信頼性を高めることが容易となる。なお、並列配置するレーザ増幅器の数は、3つ以上でもよい。
【0034】
第1及び第2の実施形態によれば、全体の効率を高めつつ分子を励起することが容易なラマンレーザ装置が提供される。また、定常状態における消費電力を低減することが容易となる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
5、6 ラマンレーザ装置、10 シード光源、20、61、64 励起光源、30、62、65 ラマンセル、38 分子、40 フィードバック光学部、50、51、52、53、54 反応セル、60、63、66、67 レーザ増幅器、Gs シード光、Ge、Ge2、Ge3 励起光、Go、Go2、Go3 ラマンレーザ光、Gt 透過光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を放出可能な励起光源と、
前記励起光が入射され、波長変換されたラマンレーザ光を放出可能なラマンセルと、
前記ラマンレーザ光の一部を、フィードバックして前記ラマンセルに入射可能なフィードバック光学部と、
を備えたことを特徴とするラマンレーザ装置。
【請求項2】
シード光を放出可能なシード光源をさらに備え、
前記ラマンレーザ光の波長は、前記シード光の波長と同一とされることを特徴とする請求項1記載のラマンレーザ装置。
【請求項3】
内部を分子が通過可能な反応セルをさらに備え、
前記ラマンレーザ光を前記反応セル内に向けて照射した場合、前記フィードバック光学部は、前記分子により吸収されない反射光の一部及び透過光の一部の少なくともいずれかをフィードバック可能とすることを特徴とする請求項1または2に記載のラマンレーザ装置。
【請求項4】
第1の励起光を放出可能な第1の励起光源と、
前記第1の励起光が入射され、波長変換された第1のラマンレーザ光を出射可能な第1のラマンセルと、
第2の励起光を放出可能な第2の励起光源と、
前記第1のラマンレーザ光の一部をシード光として、前記第2の励起光が波長変換された第2のラマンレーザ光を放出可能な第2のラマンセルと、を有する第1のレーザ増幅器と、
を備えたことを特徴とするラマンレーザ装置。
【請求項5】
前記第1のラマンレーザ光が照射され、内部に分子が通過可能な第1の反応セルと、
前記第2のラマンレーザ光が照射され、内部に前記分子が通過可能な第2の反応セルと、
をさらに備え、
前記第1の反応セル内の前記分子により吸収されない透過光の一部が前記シード光として前記第2のラマンセルに入射されることを特徴とする請求項4記載のラマンレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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