説明

ラマン測定用光学系

【課題】レーザビームの強度分布特性とカセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡の形態に由来する中央遮蔽効果により、ラマン分析における試料への実効的なレーザ照射量が低下し、ラマン散乱光を観測する上で感度上のデメリットが生じるのを防止する。
【解決手段】(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、(2)発振されたレーザ光の光束径を拡大するビームエキスパンダ、(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、を備えたラマン測定用光学系であって、レーザ発振器とカセグレン型反射対物鏡との間にレーザ光の光強度分布を平坦に均一化する強度分布変換用光学素子を挿入し、カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱分光測定に用いられる光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光測定においては、特に微小領域の分析を行なう際に、励起光レーザを適当な集光光学系により、ビームを小さな光束径に収束させて試料上の1点に照射することが多い。
【0003】
可視光レーザを励起光とした場合には、集光光学系として硝材をベースにした屈折系レンズを用いるのが一般的だが、紫外域や近赤外域のレーザを励起光とした場合には、屈折系レンズに特有の色収差に起因する諸問題を解消するなどの目的で、反射系の集光光学系を用いることがある。
【0004】
反射系集光光学系としては、単純な1枚の凹面鏡(球面鏡、放物面鏡、軸外し放物面鏡、楕円面鏡など)が使われる他、大口径の凹面鏡(以下、主鏡と表記)と小さな凸面鏡(以下、副鏡と表記)で構成された、いわゆるカセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡(図1)を使う例がある。
【0005】
ところで、一般的なレーザ発振器からの出力ビーム(TEM00モードのレーザ光)は、その断面において、中心軸の光強度が最も強く、中心から離れるにつれて光強度が弱まっていくようなガウス型の光強度分布を持っており(図2)、コリメーション光学系を用いて平行ビームに整形したり、ビームエキスパンダなどを用いてビーム径を大きくしたりしても、その光強度分布は変わらない。
【0006】
そのため、ビーム径をいったん大きくしたレーザ光をカセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡を用いて試料表面に集光させた場合、レーザビーム断面で中心付近の最もエネルギー密度の高い部分の光束が反射対物鏡の副鏡で遮られてしまう(図3)ため、試料への実効的なレーザ照射量が激減するという問題がある。
【0007】
このような損失を補う目的で、高出力レーザを光源として採用すれば、試料への照射光量を増やすことが可能だが、ラマン測定に有効なバンドパスフィルタ(励起光から余計な波長の光を除去し、光源の単色性を高めるためのフィルタで、レーザ発振器のビーム出射口直後に配置することが多い)を用いなければならないような場合には、高強度のレーザ光によるフィルタ劣化のリスクが高くなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−206448号公報
【特許文献2】特許第3003708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、レーザビームの強度分布特性とカセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡の形態に由来する中央遮蔽効果により、ラマン分析における試料への実効的なレーザ照射量が低下し、ラマン散乱光を観測する上で感度上のデメリットが生じてしまうという問題の解消を主目的とする。
【0010】
具体的には、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡にレーザビームを導入する手前の光学系にガウス型の光強度分布を他の型の光強度分布に変換する光学素子を加えて、ビーム断面で中心部以外の部分における光量を高めるようにすることで、反射対物鏡の中央遮蔽の影響を軽減し、試料へのレーザ光照射効率を上げようとするものである。
【0011】
レーザが持つガウス型の光強度分布を他の型の光強度分布に変換する光学素子としては、例えば光強度分布を均一化する機能を有するホモジナイザ(http://www.sei.co.jp/seiworld/2003/01/5b.html)あるいはGaussian-to-Top Hat Converter(http://www.limo.de/index.php?id=65&L=1)と呼ばれるものがあり、レーザ加工装置等で実際に利用されている。それを用いることにより、図4に示したような光強度分布のレーザビームを作ることができる。すなわち、そのような光学素子は、ビーム断面で中央付近の高強度部分を均し、周辺部分へ光を振り分けるような働きを持つため、ビーム断面における周辺光量を上げることができる。
【0012】
これにより、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡を用いた場合に、レーザ光照射効率の向上が図られ、光源レーザの出力が低くても、感度良くラマン測定が行なえるという効果が得られる。また、元レーザの出力を抑えることにより、ラマン測定に必要な光学フィルタ類の劣化リスクが少なくなるというメリットがある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するため、本発明にかかるラマン測定用光学系は、
(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光の光束径を拡大するビームエキスパンダ、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ発振器と前記カセグレン型反射対物鏡との間にレーザ光の光強度分布を平坦に均一化する強度分布変換用光学素子を挿入し、前記カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたことを特徴としている。
【0014】
また、前記レーザ強度分布変換用光学素子はホモジナイザまたはGaussian-to-Top Hat Converterであることを特徴としている。
【0015】
また、(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光を伝達する光ファイバー、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記光ファイバーにより伝達された前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ光の光強度分布をビーム中心軸近傍の光量を減少させ、中心軸から離れた周辺領域の光量を増加させるように前記光ファイバーで変換することにより、カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたことを特徴としている。
【0016】
また、前記光ファイバーは、内部コア屈折率分布の特性により、レーザ光のビーム中心軸近傍の光量を減少させ、中心軸から離れた周辺領域の光量を増加させるように作用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のラマン測定用光学系によれば、
(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光の光束径を拡大するビームエキスパンダ、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ発振器と前記カセグレン型反射対物鏡との間にレーザ光の光強度分布を平坦に均一化する強度分布変換用光学素子を挿入し、前記カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたので、
前記反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽損失が少なくなり、試料表面に集光されるレーザ光の光量が増加するようになった。
【0018】
また、(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光を伝達する光ファイバー、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記光ファイバーにより伝達された前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ光の光強度分布をビーム中心軸近傍の光量を減少させ、中心軸から離れた周辺領域の光量を増加させるように前記光ファイバーで変換することにより、カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたので、
前記反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽損失が少なくなり、試料表面に集光されるレーザ光の光量が増加するようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来のカセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡の一例を示す図である。
【図2】従来のレーザ光強度分布の一例を示す図である。
【図3】カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡の副鏡でレーザ光の一部が遮られる様子の一例を示す図である。
【図4】ホモジナイザを通過したレーザ光の均一化された光強度分布の一例を示す図である。
【図5】本発明にかかるラマン測定用光学系の一実施例を示す図である。
【図6】本発明にかかるラマン測定用光学系の別の実施例を示す図である。
【図7】特殊な光ファイバーを通過したレーザ光の周辺光量が増加した光強度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例のハードウェアは、レーザ発振器、ビームエキスパンダ、レーザ強度分布変換用光学素子、リレーレンズ等の付加光学系、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡から成る。ビームエキスパンダには、レーザ光を平行光にするためのコリメーション光学系を具備した形態を含む。また、レーザ光強度分布変換用光学素子には、レーザ光強度分布を平坦にするホモジナイザなどがある。図5に一例を示す。尚、各光学素子の順番や組み合わせは図5の形態に限定されず、さまざまな変形があり得る。例えばビームエキスパンダとホモジナイザは、逆の順番であっても良い。
【0022】
本実施例は以下のように動作する。まず、レーザ発振器から出力されたガウス型の強度分布を持つ光は、レーザホモジナイザ等の光学素子を通されることにより、その強度分布が平坦に均一化される。
【0023】
次に、強度分布が均一化されたレーザ光は、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡に入る。そのとき、ホモジナイザなどのレーザ光強度分布変換用光学素子を用いない場合と較べて、中心軸から離れた領域、すなわち周辺光量が増加している。そのため、反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽損失が少なくなり、試料表面に集光されるレーザ光の光量が増加する。
【実施例2】
【0024】
本実施例のハードウェアは、レーザ発振器、特殊な光ファイバー、リレーレンズ等の付加光学系、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡から成る。レーザ光強度分布変換用光学素子に相当するものとして、本実施例では特殊な光ファイバーを用いている。図6に一例を示す。
【0025】
本実施例は以下のように動作する。まず、レーザ発振器から出力されたガウス型の強度分布を持つ光は、適当な集光光学系を介して光ファイバーに導かれる。光ファイバーとしては、通過後の出力光が図4に示すような光強度分布と類似した形に均一化される特性、あるいはビーム中心軸近傍の光量が少なくなり、その代わりに中心軸から離れた領域、すなわち周辺光量が増加するような特性(図7)を示すような内部コア屈折率分布を持つものを用いる。このような特性の光ファイバーは、特開2000−111753号公報や特開平5−88039号公報に開示されている。
【0026】
光ファイバーを通過したレーザ光は、カセグレン型(あるいはシュヴァルツシルト型)反射対物鏡に入る。そのとき、特殊な光ファイバーを用いない場合と較べて、周辺光量が増加しているため、反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽損失が少なくなり、試料表面に集光されるレーザ光の光量が増加する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
レーザーラマン分光装置に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光の光束径を拡大するビームエキスパンダ、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ発振器と前記カセグレン型反射対物鏡との間にレーザ光の光強度分布を平坦に均一化する強度分布変換用光学素子を挿入し、前記カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたことを特徴とするラマン測定用光学系。
【請求項2】
前記レーザ強度分布変換用光学素子はホモジナイザまたはGaussian-to-Top Hat Converterであることを特徴とする請求項1記載のラマン測定用光学系。
【請求項3】
(1)レーザ光を発振するレーザ発振器、
(2)発振されたレーザ光を伝達する光ファイバー、
(3)主鏡と副鏡によって構成され、前記光ファイバーにより伝達された前記レーザ光を試料上の1点に集光するカセグレン型反射対物鏡、
を備えたラマン測定用光学系であって、
前記レーザ光の光強度分布をビーム中心軸近傍の光量を減少させ、中心軸から離れた周辺領域の光量を増加させるように前記光ファイバーで変換することにより、カセグレン型反射対物鏡の副鏡による中央遮蔽に伴うレーザ光照射効率の低減現象を軽減するようにしたことを特徴とするラマン測定用光学系。
【請求項4】
前記光ファイバーは、内部コア屈折率分布の特性により、レーザ光のビーム中心軸近傍の光量を減少させ、中心軸から離れた周辺領域の光量を増加させるように作用することを特徴とする請求項3記載のラマン測定用光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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