説明

ラミネート式電池の外装材の製造方法

【課題】従来のラミネート式電池の外装材の製造方法では、潤滑油を供給しながら絞り加工を行うので、当該絞り加工により製造した外装材を用いてラミネート式電池を構成した場合に、電池内部に潤滑油が混入する可能性がある。
【解決手段】本発明によるラミネート式電池の外装材の製造方法は、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層30が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜31が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔32を素材とし、熱可塑性樹脂層30が設けられた面がパンチ42に対向するようにステンレス鋼箔32を配置し、パンチ42の肩部42cが接触するステンレス鋼箔32の環状領域32aを20℃以下とするとともに、環状領域32aの外部領域32bを40℃以上かつ100℃以下の温度とした状態で、潤滑油を使用せずにステンレス鋼箔32に対して絞り加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネート式電池の外装材の製造方法に関し、特に、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔を素材とし、この素材に適した温度条件にて潤滑油を使用せずに絞り加工を行うようにすることで、電池の大容量化に対応できるとともに、ラミネート式電池の内部に不純物が混入する可能性を低減できるようにするための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばリチウム電池等の二次電池の形態の1つとして、外装材(ラミネートシート)により電池要素を封止するラミネート式電池が注目されている。下記の特許文献1には、オーステナイト系のステンレス鋼箔を素材とし、常温のステンレス鋼箔に対して絞り加工を施すことで、電池要素を収容するための張出部が形成された外装材を製造することが開示されている。このように、ステンレス鋼箔を素材とする外装材を用いることで、軽量かつ高強度のラミネート式電池を構成できる。
【0003】
このようなラミネート式電池は、電気自動車等に適用されるものであり、電気自動車の航続距離を長くする等の目的のために大容量であることが望まれる。ラミネート式電池の容量を大きくするためには、より大きな電池要素を収容できる空間を確保する必要があるが、上記のような構成では、常温のステンレス鋼箔に対して絞り加工を施すようにしているので、深い張出部を形成しようとすると、割れ等の成形不良が発生してしまう。
【0004】
下記の特許文献2には、オーステナイト系のステンレス鋼板に絞り加工を施す際に、パンチに接触するステンレス鋼箔の領域を冷却するとともに、その外部領域を加熱し、潤滑油を供給しながらパンチをステンレス鋼箔に押し込む温間加工を行うことで、深絞りを実現する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−52100号公報
【特許文献2】特開2009−113058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、特許文献1に記載されたようなラミネート式電池の外装材を製造するに当り、特許文献2に記載されたような絞り加工を適用することを検討したが、以下の課題が生じることが判明した。すなわち、上記の特許文献2に記載された方法では、潤滑油を供給しながら絞り加工を行うので、絞り加工後に脱脂洗浄を行う必要があるが、当該絞り加工により製造した外装材を用いてラミネート式電池を構成した場合に、電池内部に潤滑油や潤滑油に付着した埃等が混入する可能性があり、不具合の原因になってしまう。一方で、単純に潤滑油を使用しないようにしても、材料をスムーズに移動させることができなくなり、深絞りが実現できない。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電池の大容量化に対応できるとともに、ラミネート式電池の内部に不純物が混入する可能性を低減できるラミネート式電池の外装材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るラミネート式電池の外装材の製造方法は、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔を素材とし、熱可塑性樹脂層が設けられた面がパンチに対向するようにステンレス鋼箔を配置し、パンチの肩部が接触するステンレス鋼箔の環状領域を20℃以下とするとともに、環状領域の外部領域を40℃以上かつ100℃以下の温度とした状態で、潤滑油を使用せずにステンレス鋼箔に対して絞り加工を施すことで、電池要素を収容するための張出部が形成されたラミネート式電池の外装材を製造するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラミネート式電池の外装材の製造方法によれば、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔を素材とし、この素材に適した温度条件にて潤滑油を使用せずに絞り加工を行うので、加熱により軟化された熱可塑性樹脂層及び潤滑皮膜が従来の潤滑油の機能を果たすことにより、潤滑油を使用せずに深絞りを実現できる。これにより、電池の大容量化に対応できるとともに、ラミネート式電池の内部に不純物が混入する可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1によるラミネート式電池を示す斜視図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う断面図である。
【図3】図2の第1及び第2外装材の断面図である。
【図4】図2の第2外装材を製造するためのラミネート式電池の外装材の製造方法の実施に用いられる金型を示す構成図である。
【図5】本実施の形態のラミネート式電池の外装材の製造方法を適用した場合の絞り加工性を示す説明図である。
【図6】潤滑油を用いた場合の絞り加工性を示す説明図である。
【図7】本実施の形態のラミネート式電池の外装材の製造方法を省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔に適用した場合の絞り加工性を示す説明図である。
【図8】省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔に対して潤滑油を用いた場合の絞り加工性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるラミネート式電池を示す斜視図である。図において、電池ケース2の内部には電池要素1が格納されている。周知のように、電池要素1は、正電極、負電極、及びセパレータの積層体であり、電解液に浸されているものである。電池要素1には、一対のタブ3(正電極及び負電極の引出端子)が接続されている。タブ3は、電池ケース2の外部へと引き出されており、図示しない外部電源又は外部負荷に接続される。電池ケース2には、複数の取付孔2aが設けられている。取付孔2aは、例えば電気自動車等の取付対象にラミネート式電池を取付けるためのものである。
【0012】
次に、図2は、図1の線II−IIに沿う断面図である。図に示すように、電池ケース2は、平板状の第1外装材20と、張出部21aが設けられた第2外装材21とが含まれている。電池要素1は、第2外装材21の張出部21aと第1外装材20とによって形成された収容空間22に収容されている。すなわち、張出部21aは、電池要素1を収容するためのものである。なお、後に図を用いて詳しく説明するが、張出部21aは絞り加工により形成されるものである。
【0013】
次に、図3は、図2の第1及び第2外装材20,21の断面図である。図に示すように、第1及び第2外装材20,21は、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層30(ラミネート層)が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜31が設けられたステンレス鋼箔32を素材としている。
【0014】
熱可塑性樹脂層30は、120〜200℃程度まで熱せられると溶融する樹脂により構成された60μm程度の樹脂層である。第1及び第2外装材20,21の熱可塑性樹脂層30が互いに重ね合わされた状態で、第1及び第2外装材20,21を押さえつつ第1及び第2外装材20,21に熱が加えられて、第1及び第2外装材20,21の熱可塑性樹脂層30が互いに熱融着される(ヒートシールされる)ことで、図1に示す電池ケース2が形成される。この熱可塑性樹脂層30としては、例えば、熱融着絶縁性フィルムであるポリエチレンフィルム若しくはポリプロピレンフィルムなどを単独で用いてもよいし、又はステンレス鋼箔32の接合部分にポリエチレンテレフタレートフィルムを接合し、このフィルム上にポリエチレンフィルム若しくはポリプロピレンフィルム等の熱融着絶縁性フィルムを積層して形成してもよい。
【0015】
潤滑皮膜31は、優れた成形性や耐薬品性を外装材20,21に付与するために設けられた2μm程度の層である。この潤滑皮膜31としては、例えば本出願人が特開2008−307092号公報にて開示する樹脂皮膜、すなわち、ポリビニルアルコール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂から選ばれた一種又は二種以上から成膜された樹脂皮膜あって、当該樹脂の総分子量に占めるOH基の分子量の割合が0.2以上であるもの等を用いることができる。
【0016】
ステンレス鋼箔32としては、10〜400μm程度のオーステナイト系のステンレス鋼板が用いられる。オーステナイト系ステンレス鋼は、常温でひずみが加わるとオーステナイトが不安定な鋼種ほどオーステナイトがマルテンサイト変態しやすいため、加工硬化と合わせて変態硬化により著しく硬質化する性質を有している。このため、後述のパンチ42(図4参照)の肩部42dが接触するステンレス鋼箔32の環状領域を冷却して高強度を維持しつつ、その外部領域を加熱してマルテンサイト変態による硬質化を抑止するようにすることで、絞り加工性を大幅に向上できる。
【0017】
次に、図4は、図2の第2外装材21を製造するためのラミネート式電池の外装材の製造方法の実施に用いられる金型4を示す構成図である。図に示すように、金型4には、ステンレス鋼箔32を挟むように配置された下型40及び上型45が設けられている。下型40には、ベッド41と、ベッド41に固定されたパンチ42と、パンチ42の外周位置に配置されるとともにクッションピン43を介してベッド41に連結されたブランクホルダ44とが設けられている。上型45には、スライド46と、ブランクホルダ44の上方に配置されるとともに、スペーサ47を介してスライド46に固定されたダイ48とが設けられている。
【0018】
スライド46には、図示しないサーボモータが接続されている。スライド46、スペーサ47、及びダイ48、すなわち上型45は、サーボモータからの駆動力により、下型40に対して近づく方向及び離れる方向に一体に駆動される。上型45が下型40に対して近づく方向に変位されることで、パンチ42がステンレス鋼箔32とともにダイ48の内側に押し込まれ、絞り加工が実施される。
【0019】
パンチ42には、図示しない外部冷媒系に接続された導入路42aと、導入路42aを通して冷媒が導入される冷却室42bと、冷却室42bからの冷媒を排出する排出路42cとが設けられている。すなわち、パンチ42は、冷却室42bへの冷媒の導入により冷却可能とされている。この冷却されたパンチ42がステンレス鋼箔32に接触されることにより、パンチ42の肩部42dが接触するステンレス鋼箔32の環状領域32aが冷却される。なお、ステンレス鋼箔32の冷却範囲は、少なくとも環状領域32aが冷却されればよく、環状領域32aだけでなく環状領域32aの内側領域を含めて冷却してもよい。本実施の形態では、パンチ42によりステンレス鋼箔32を冷却するように構成しているため、環状領域32aだけではなく、環状領域32aの内部領域まで冷却される。
【0020】
なお、図示していないが、スプリング等を介してスライドに連結されたカウンターパンチをパンチに対向する位置に配置するとともに、冷媒が導入される冷却室をカウンターパンチに設けることで、ステンレス鋼板32の冷却効果をより高めることができる。
【0021】
ブランクホルダ44及びダイ48には、これらブランクホルダ44及びダイ48を加熱するためのヒータ44a,48aが内蔵されている。これらの加熱されたブランクホルダ44及びダイ48によってステンレス鋼箔32が挟持されることにより、環状領域32aの外部領域32bが加熱される。
【0022】
次に、図4の金型4を用いてのラミネート式電池の外装材の製造方法について説明する。図2に示す張出部21aを有する第2外装材21を製造する場合、上型45が下型40から離間されている状態のときに、熱可塑性樹脂相30が設けられた面がパンチ42に対向するようにステンレス鋼箔32をパンチ42及びブランクホルダ44の上に載置して、その後にブランクホルダ44及びダイ48によりステンレス鋼箔32が挟持される位置まで上型45を降下させる。ステンレス鋼箔32の載置方向を、熱可塑性樹脂相30が設けられた面がパンチ42に対向する方向とするのは、図2に示すように、第1外装材20と第2外装材21とを熱可塑性樹脂相30により熱融着するためである。なお、パンチ42を上方に配置するとともに、ダイ48を下方に配置している場合には、ステンレス鋼箔32はダイ48上に載置される。
【0023】
このとき、パンチ42を冷却するとともにブランクホルダ44及びダイ48を加熱することで、ステンレス鋼箔32の環状領域32aを20℃以下かつ0℃以上にするとともに、ステンレス鋼箔32の外部領域32bを40℃以上かつ100℃以下、好ましくは60℃以上かつ100℃以下、より好ましくは60℃以上かつ80℃以下とする。
【0024】
環状領域32aを20℃以下としているのは、20℃よりも高くすると、マルテンサイト変態によるパンチ部の破断強度の上昇が十分に得られなくなるためである。また、環状領域32aを0℃以上としているのは、環状領域を0℃未満にすると、パンチ42や環状領域に霜が付着して成型品の形状性を損なうためであるとともに、離型時に温度収縮により成型品が潰れるおそれがあるである。
【0025】
外部領域32bを40℃以上としているのは、外部領域32bの温度を40℃未満にすると、マルテンサイト変態による硬質化を抑止する効果が十分に得られないためである。また、外部領域32bを100℃以下としているのは、外部領域の温度を100℃よりも高くすると、熱可塑性樹脂層30が溶融してしまうおそれがあるためである。熱可塑性樹脂層30の溶融を回避することで、第1外装材20と第2外装材21とのヒートシール性能を維持できる。さらに、外部領域の温度を40℃以上かつ100℃以下とすることで、熱可塑性樹脂層30を溶融させることなく軟化させた状態とすることができるためである。このように熱可塑性樹脂層30を軟化させることで、熱可塑性樹脂層30の潤滑性を引き出している。
【0026】
環状領域32a及び外部領域32bの温度を上述のような温度とした後に、上型45をさらに降下させる。これにより、パンチ42がステンレス鋼箔32とともにダイ48の内側に押し込まれ、絞り加工が実施されて、張出部21aを有する第2外装材21が製造される。このような絞り加工の全体を通して、潤滑油は使用しない。
【0027】
次に、図5は、本実施の形態のラミネート式電池の外装材の製造方法を適用した場合の絞り加工性を示す説明図である。本出願人は、図4に示す構成で円形状の金型4を用いてφ40の張出部21aを有する外装材21の製造を種々の絞り比(素材の直径/加工品の直径)の条件で試みた。なお、熱可塑性樹脂層30としては、60μmのポリプロピレンフィルム(酸変性ポリプロピレン(厚み30μm、融点120℃)+単独重合ポリプロピレン(厚み30μm、融点160℃))を用い、潤滑皮膜31としては、ワックスを10%添加した2μmの水系ウレタン樹脂膜を用い、ステンレス鋼箔32としては、板厚100μmのオーステナイト系のステンレス鋼箔(SUS304)を用いた。また、パンチ42の直径を40.0mmとし、パンチ肩部Rを2.5mmとし、ダイ48の穴径を40.4mmとし、ダイ肩Rを2.0mmとした。
【0028】
このような条件の下、環状領域32a(パンチ42)の温度を10℃とし、外部領域32b(ブランクホルダ44及びダイ48)の温度を常温(25℃)から100℃まで変化させて絞り加工を行った。図5に示すように、常温では絞り比2.1の加工を行った場合でも成形不良が生じた。しかしながら、外部領域32bの温度を40℃以上かつ100℃以下の範囲とした場合には、より大きな絞り比の加工を行った場合でも、成形できた。この結果から、本実施の形態の温度条件を適用することにより、潤滑油を使用せずに深絞りを実現できることが分った。
【0029】
次に、図6は、潤滑油を用いた場合の絞り加工性を示す説明図である。本出願人は、比較例として、熱可塑性樹脂層30及び潤滑皮膜31が設けられていない板厚100μmのオーステナイト系のステンレス鋼箔(SUS304)に対して、従来技術のように潤滑油を供給しながら絞り加工を施した。図6に示すように、潤滑油を用いた場合には、本実施の形態の方法を適用した場合に比べて、成形できる絞り比の上限が低かった。これは、本実施の形態の温度範囲においては、加熱により軟化された熱可塑性樹脂層30及び潤滑皮膜31の方が、潤滑油よりも優れた潤滑性を有しているためと考えられる。この結果から、熱可塑性樹脂層30及び潤滑皮膜31が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔32を素材とし、この素材に対して温間加工を施すことの優位性が分った。
【0030】
次に、図7は、本実施の形態のラミネート式電池の外装材の製造方法を省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔に適用した場合の絞り加工性を示す説明図である。本出願人は、ステンレス鋼箔32として、板厚100μmの省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔(16Cr−2.5Ni−3Mn−3Cu)を用いた場合についても加工性を調査した。図7に示すように、常温では絞り比2.1の加工を行った場合でも成形不良が生じたが、外部領域32bの温度を40℃以上かつ100℃以下の範囲とした場合には、より大きな絞り比の加工を行った場合でも成形できた。この結果から、本実施の形態の温度条件を適用することにより、省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔であっても潤滑油を使用せずに深絞りを実現できることが分った。なお、図7で示す実施例の加工条件は、ステンレス鋼箔32の素材を除いて図5で示す実施例の加工条件と同じである。
【0031】
次に、図8は、省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔に対して潤滑油を用いた場合の絞り加工性を示す説明図である。図6の比較例と同様に、熱可塑性樹脂層30及び潤滑皮膜31が設けられていない板厚100μmの省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔に対して、従来技術のように潤滑油を供給しながら絞り加工を施した。図8に示すように、潤滑油を用いた場合には、本実施の形態の方法を適用した場合に比べて、成形できる絞り比の上限が低かった。これは、本実施の形態の温度範囲においては、加熱により軟化された熱可塑性樹脂層30及び潤滑皮膜31の方が、潤滑油よりも優れた潤滑性を有しているためと考えられる。この結果から、省Niオーステナイト系ステンレス鋼箔を素材とした場合でも、温間加工を施すことが優位であることが分った。
【0032】
このようなラミネート式電池の外装材の製造方法では、表裏一方の面に熱可塑性樹脂層30が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜31が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔32を素材とし、この素材に適した温度条件にて潤滑油を使用せずに絞り加工を行うようにすることで、電池の大容量化に対応できるとともに、ラミネート式電池の内部に不純物が混入する可能性を低減できる。また、十分な深さの張出部21aが設けられた外装材21を製造できるため、平板状の第1外装材20と貼り合わせても十分な収容空間22を確保できる。絞り加工を施すことにより外装材に歪みが生じるため、張出部を有する外装材同士を貼り合わせようとすると歪みにより貼合わせ不良が発生する場合もあるが、本実施の形態のように一方の外装材20を平板状とすることで、貼合わせ不良が発生する可能性を低減できる。
【0033】
なお、実施の形態では、パンチ42を冷却するとともにブランクホルダ44及びダイ48を加熱することで、ステンレス鋼箔32の環状領域32aを20℃以下かつ0℃以上にするとともに、ステンレス鋼箔32の外部領域32bを40℃以上かつ100℃以下とするように説明しているが、環状領域及び外部領域の温度を所定温度にする方法はこれに限定されず、例えば素材となるステンレス鋼箔全体を加熱した後に、パンチとは別の冷却体を環状領域に押し当てる等の方法も採りうる。
【符号の説明】
【0034】
1 電池要素
20,21 第1及び第2外装材
21a 張出部
30 熱可塑性樹脂層
31 潤滑皮膜
32 ステンレス鋼箔
32a 環状領域
32b 外部領域
42 パンチ
42d 肩部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏一方の面に熱可塑性樹脂層(30)が設けられるとともに表裏他方の面に潤滑皮膜(31)が設けられたオーステナイト系のステンレス鋼箔(32)を素材とし、前記熱可塑性樹脂層(30)が設けられた面がパンチ(42)に対向するように前記ステンレス鋼箔(32)を配置し、前記パンチ(42)の肩部(42d)が接触する前記ステンレス鋼箔(32)の環状領域(32a)を20℃以下とするとともに、前記環状領域(32a)の外部領域(32b)を40℃以上かつ100℃以下の温度とした状態で、潤滑油を使用せずに前記ステンレス鋼箔(32)に対して絞り加工を施すことで、電池要素(1)を収容するための張出部(21a)が形成されたラミネート式電池の外装材(21)を製造することを特徴とするラミネート式電池の外装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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