説明

ランゲルハンス島の膵ベータ細胞に特異的なタンパク質およびその適用

【課題】ランゲルハンス島の膵ベータ細胞において特異的に発現されるマーカータンパク質及び、それに対する抗体を提供する。
【解決手段】ランゲルハンス島の膵ベータ細胞において特異的に発現されるZnT-8タンパク質、および該タンパク質をエンコードするポリヌクレオチド。また、該タンパク質に対する抗体、ならびにベータ細胞の選別および研究、および糖尿病および高インシュリン症に作用する医薬のスクリーニングのためのその適用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnT-8とよばれ、ランゲルハンス島の膵ベータ細胞で特異的に発現されるタンパク質、インシュリンの成熟およびエキソサイトーシスに関わる該タンパク質をエンコードするポリヌクレオチド、ならびに特にベータ細胞を選別し、研究するため、および糖尿病および高インシュリン症に作用する医薬品のスクリーニングのためのそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は最も一般的な疾患の一つであり、先進国では人口の5%に影響し、世界の全ての国において絶えず増加している(予測:2025年には3億人、フランスでの240万人を含む)。糖尿病の種々の形のうち、I型糖尿病、またはインシュリン依存性糖尿病は、アメリカで約500,000〜1,000,000人およびフランスで150,000人、すなわち人口の0.2〜0.4%に影響している。特徴的な症状は、血液および尿中の高レベルの糖、かなりの利尿、激しい空腹および口渇、ならびに体重減少を含む。
【0003】
インシュリン非依存性II型糖尿病(NIDD)は、「脂肪(fat)」糖尿病または晩発性(late-onset)糖尿病とも呼ばれ、約50歳あたりでしばしば発生する。これは、数年の進行の後に食餌、経口医薬品の摂取およびインシュリンにより処置される。今日では、200万人のフランス人が抗糖尿病性医薬品および/またはインシュリンで処置されている。
糖尿病は、インシュリン注射および制御された糖類の摂取で調節することができるが、この病理に関連する合併症は、最近、その予防、治療および診断の点で新規なアプローチを必要とする。
【0004】
膵臓は、形態学的および生理学的にともに異なる2つの構造を含む。
- 消化に関する酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)および重炭酸ナトリウムを産生する外分泌膵臓;
- 血糖の調節に関するホルモン(インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチンおよび膵臓ポリペプチド)を産生する内分泌膵臓。
【0005】
内分泌膵臓の細胞は、微小器官(microorgan)が膵臓内に島(ランゲルハンス島または膵島)の形で分散されるように組織される。各膵島は、4種の細胞からなる:アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞およびPP細胞である。アルファ細胞は、島の末梢に位置し、グルカゴンを分泌する。ベータ細胞は、島の中心で見られ、グルコースに応答してインシュリンを分泌できる唯一の細胞である。デルタ細胞は、末梢にあり、ソマトスタチンを分泌する。PP細胞の機能は、より議論されるところである(膵臓ポリペプチドの合成)。
【0006】
ベータ細胞を研究するための細胞モデルの不足、およびこの種類の細胞に適する信頼性のある効果的な細胞選別手段の不足により、その機能の研究、ひいてはI型およびII型糖尿病の新規な治療方法の開発が妨げられている。
【0007】
糖尿病の治療のうち、インシュリンの定期的な投与に加えて、糖血の生理学的制御および糖尿病患者の糖血の正常化のためのアプローチの一つは、インシュリン分泌をインビボにおいて細胞から回復させることである。この関係において、いくつかの解決法が提案されている。
- 異物移植を行うための、動物のインシュリン産生細胞の取得;
- 免疫の問題および患者の免疫抑制治療の必要性を回避するための、再移植[1]を目的とした、インビトロでの、単離幹細胞を用いるインシュリン分泌細胞への分化。しかしながら、低コストでのインシュリンを産生する細胞の、幹細胞の分化による大量生産は、特に、分化した細胞の表現型決定(phenotyping)および精製に有用な新規な生体分子ツールを
必要とする。
【0008】
- 膵島の移植;多くの研究の主題は、最近、治療目的のための膵島またはベータ細胞の製造である。移植の第一工程は、脳死が宣言されたドナーからの膵臓の回収である。島の単離は、コラゲナーゼ溶液による膵臓の酵素消化で始まる。全ての移植片において、消化された島が精製されることが必要ではない。しかしながら、今日ではほとんどの研究者が、島の精製が同種移植に必要であることで一致している[2]。次いで、充分な塊(最小3000 IEQ/kg)で門脈内(intraportal)注射により島を移植する(IEQ:島当量)。
しかしながら、膵島またはベータ細胞の単離は、ベータ細胞を選択し、かつ同定するための特異的で信頼性のある手段を必要とする。
【0009】
これまでの研究は、ベータ細胞を標識する方法を開発することを試みている。例えば:- 細胞の蛍光標識を許容するGFP (緑色蛍光タンパク質)での標識化。この技術の主な欠点は、外来遺伝子または導入遺伝子を細胞に導入することが必要であり、さらにウイルスベクター(アデノウイルス)を用いて導入することが必要であることである[1];
- ベータ細胞のかなりの自己蛍光に基づく技術[2]。しかし、この技術は細胞の種類に関する特異性を欠いている;
【0010】
- 細胞と、亜鉛特異的フルオロクロム:ニューポートグリーン[3]またはジチゾン[4]とのインキュベーション。この技術は、ベータ細胞のかなりの亜鉛含量に基づく。亜鉛は、インシュリン分泌顆粒の実質的な構成要素であり、加えて、この分泌の制御の役割を担う[5]。しかしながら、これらの技術は多くの欠点を有する:化学物質の使用、ベータ細胞についての毒性の危険性、細胞の種類に関する特異性の欠如。さらに、ジチゾンは迅速な光分解の問題を有する[6];
- T細胞クローンによる(WO 91/17186号)認識による、ベータ細胞により発現された抗原の間接的証明。この抗体についての初期の研究は、ペプチド配列の特徴付けの点、または島だけでなく膵臓あるいは生物の他の種類の細胞に対するベータ細胞の選択性の点において結果を示さなかった。同じ著者による、より最近の研究は、この抗原のより広い分布を示し、結果としてこれはベータ細胞に特異的ではない[7]。
結果として、膵ランゲルハンス島のベータ細胞のための特異的でかつ信頼性のあるマーカーが欠如している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的の1つは、このようなマーカーを提供することである。
【0012】
ランゲルハンス島は、非常に多量の亜鉛を蓄積するので、この亜鉛を分泌小胞に蓄積するために、非常に効果的でかつ非常に特別な輸送体を必要とする[8]。膵ベータ細胞で産生され貯蔵されるインシュリンは、グルコース濃度の増加のような外部刺激に応答したエキソサイトーシスにより、細胞外媒体(medium)に放出される。このグルコースの増加は、ATP/ADP比の修飾、カリウムチャネルの閉鎖、およびエキソサイトーシスを引き起こすカルシウムチャネルの開放を引き起こす[9]。
【0013】
亜鉛の存在下では、インシュリンは、インシュリン:亜鉛の比がそれぞれ4:1および6:2で亜鉛と結合するテトラマーおよびヘキサマーを形成できることが知られている。インシュリンは、分泌顆粒中に、ヘキサマーがヘキサマー当たり2つの亜鉛原子に結合してつくられた固体の形で貯蔵される。小胞は、インシュリン-亜鉛ヘキサマーを形成するのに必要な量の1〜1.5倍過剰の亜鉛を含む。インシュリンのエキソサイトーシス中、インシュリンに富む小胞は、ベータ細胞の原形質膜と融合して、インシュリンだけでなく亜鉛も血流中に放出する。放出された亜鉛は、負のフィードバックの環としてカリウムチャネルに作用して、その活性化およびエキソサイトーシスの阻止を引き起こす。
【0014】
哺乳動物細胞において、亜鉛輸送機能を有し、ZnT-1、-2、-3、-4、-5、-6および-7とよばれる7つの相同タンパク質がクローニングされ、特徴付けされている。これらのタンパク質の一次構造の解析は、6つの膜貫通ドメインおよび1つのヒスチジンリッチな細胞内ループからつくられる共通の構造単位を規定することを可能にしている。ZnT-1は、原形質膜に位置する偏在する輸送体であり、亜鉛の細胞外への流出を確実にする[11]。ZnT-2は、培地中での過剰の亜鉛に細胞が耐えることを許容し、よってそれを酸性細胞質内小胞に局在化させることにより亜鉛耐性を与え、正常をかなり超える細胞内の亜鉛の蓄積を確実にする[12]。ヒトにおいてクローニングされているZnT-3およびZnT-4は、ZnT-2に類似の機能を有する。ZnT-3は、ある組織に特異的であり、脳、亜鉛リッチシナプス小胞膜、海馬苔状線維および精巣において強く発現される。ZnT-4は、偏在的に発現されるが、脳および上皮細胞において高いレベルで見出される。この輸送体は、乳房の上皮において必須であり、ここでこれは母乳の亜鉛含量の制御に参加する。ZnT-5およびZnT-6も、ゴルジ体に位置する偏在的な輸送体である。ZnT-7は、特異的に小胞体細胞に位置する偏在的な輸送体である。
【0015】
以前の研究は、膵ベータ細胞での亜鉛代謝に関わる遺伝子を探索する試みについて記載している。これらの研究は、特定のタンパク質または輸送体の証明には至らなかった[10]。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ランゲルハンス島、より特異的にはインシュリン分泌細胞またはベータ細胞において特異的に発現されたmRNAに対応するcDNAを表す1110塩基対のポリヌクレオチド(配列番号1)を単離している。
本発明のポリヌクレオチドは、ZnT-8 (配列番号2)とよばれるタンパク質をエンコードし、40.8 KDaの推定分子質量に相当するこの369アミノ酸のタンパク質は、ZnTファミリーのタンパク質の一次構造と相同な一次構造を有する。該タンパク質をエンコードする遺伝子を、ZnT-8という。
【0017】
完全ZnT-8タンパク質の膜内外電位差の研究は、これが6つの膜貫通ドメインを有することを示し(アミノ酸74〜95、107〜126、141〜163、177〜196、216〜240および246〜267)、N-末端およびC-末端の端は、細胞質内に位置する。この研究は、このタンパク質の二次構造が3つの細胞外アミノ酸ループ(アミノ酸96〜106、164〜176および241〜245)を有することも示す。
【0018】
さらに、インシュリン分泌小胞内および原形質膜上にZnT-8が位置することは、これがインシュリン含有小胞での亜鉛蓄積に関係し、よって膵ランゲルハンス島のベータ細胞におけるインシュリンの成熟およびエキソサイトーシスにおいて役割を演じることを示す。
【0019】
ZnT-8タンパク質および対応するポリヌクレオチドは、初めて、膵ランゲルハンス島のベータ細胞の特異的で信頼性のあるマーカーを構成する。このマーカーの使用は、特に次のとおりである。
- 細胞の選別:該マーカーは、ベータ細胞の選択的選別および検出の構想を、該細胞の化学的または生物学的修飾をせずに、特に該タンパク質に指向された抗体を用いて可能にする。
- インビトロ研究モデル:該マーカーは、インビトロで (i) モデル細胞株(例えばINS-1ラットインシュリノーマ)での輸送体(ZnT-8)の過剰発現、およびグルコースでの刺激に応答したインシュリン分泌への影響、(ii) 酸化ストレスまたは亜鉛濃度が低いかもしくは高い状態により誘導される細胞死(アポトーシス)への細胞の感受性、ならびに(iii) 幹細胞の、インシュリン分泌細胞への種々の外因性刺激(成長因子、膵エキス)に応答した分化の工程を研究するのに用いることができる。
- 医薬品のスクリーニング:該マーカーは、ZnT-8遺伝子の発現および/またはZnT-8タンパク質の活性を調節し得る物質のスクリーニングのための有用な薬理学的標的も示し、これは糖尿病および高インシュリン症の治療用に用いることができる可能性がある。
- 糖尿病診断:該ポリヌクレオチドは、特にそれが観察できる変異をZnT-8遺伝子中に検出すること、および通常行われる検査を減らすかまたはそれどころかなくすことを可能にするので、危険な家系の糖尿病の早期診断において有利に用いることもできる。
【0020】
よって、本発明の主題は、膵臓ランゲルハンス島のベータ細胞の特異的マーカーとしての、
- 次の配列:(a) 配列番号1の配列、(b) 少なくとも15個連続するヌクレオチド、好ましくは20のヌクレオチド、より好ましくは25〜30のヌクレオチドの配列番号1の配列の断片、(c) 最適アラインメントの後に、(a)または(b)で規定される配列の1つと少なくとも80%のパーセンテージ同一性(identity)を示す配列、および(d) (a)、(b)または(c)で規定される配列の1つに相補的なセンスまたはアンチセンス配列の1つを含むか(comprising)または有する(having)ポリヌクレオチド、ならびに
- 次の配列:(e) 配列番号2の配列、(f) 少なくとも15個連続するアミノ酸の配列番号2の配列の断片、(g) 最適アラインメントの後に、(e)または(f)で規定される配列の1つと少なくとも60%のパーセンテージ同一性、または少なくとも65%の類似性(similarity)、好ましくは80%の同一性もしくは少なくとも90%の類似性、より好ましくは90%の同一性もしくは少なくとも95%の類似性を示す配列の1つを含むかまたは有する上記の(a)、(b)、(c)または(d)で規定されるポリヌクレオチドによりエンコードされるタンパク質
から選択される少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドまたは対応するタンパク質の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、偏在的アクチンメッセンジャー(B)の発現との比較により、ZnT-8タンパク質(A)をエンコードするメッセンジャーRNAの組織発現のRT-PCR分析を示す。
【図2】図2は、ラットのインシュリノーマ株(INS-1、レーン1)、胎児(レーン2)および成体(レーン3)のヒト膵島におけるZnT-8タンパク質をエンコードするメッセンジャーRNAの発現のRT-PCR分析を、上皮細胞株(Hela株)との比較により示す。
【図3】図3は、ZnT-8-GFP融合タンパク質の局在化の、トランスフェクションされた上皮細胞(Hela株)での蛍光顕微鏡分析を示す。
【図4】図4は、ZnT-8-GFP融合タンパク質の局在化の、トランスフェクションされたラットのインシュリノーマ細胞(INS-1株)での蛍光顕微鏡分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ZnT-8タンパク質および上記で規定される対応するポリヌクレオチドの使用を包含する。
上記で規定されるポリヌクレオチドは、ランゲルハンス細胞または細胞性DNAライブラリ、特に膵臓細胞DNAライブラリ、さらにヒト膵臓細胞DNAライブラリから単離することができる。好ましくは、用いられる細胞はランゲルハンス島細胞である。
上記で規定されるポリヌクレオチドは、ランゲルハンス細胞の全DNAについて行われるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるか、膵ランゲルハンス島のベータ細胞の全RNAについて行われるRT-PCRによるか、または化学合成により得ることもできる。
【0023】
本発明の目的のために、以下の定義を適用する。
「ポリヌクレオチド」の用語は、修飾または非修飾ヌクレオチドの、非天然ヌクレオチドを含み得る精密な連続を意味することを意図する。よって、この用語は、ZnT-8タンパク質または該タンパク質の断片をエンコードするいずれの配列(ゲノムDNA、mRNA、cDNA)だけでなく、対応するセンスまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび対応する小型干渉RNA (small interfering RNAs (siRNAs))も包含する。
【0024】
「最適アラインメントの後に、参照配列とパーセンテージ同一性を示す核酸またはタンパク質」の表現は、参照配列に対して、特に欠失、短縮(truncation)、伸長、キメラ融合および/または置換、特に点置換のようなある修飾を示す核酸またはタンパク質を意味することを意図し、それに対して、最適化アラインメントの後に、参照のヌクレオチドまたはアミノ酸配列に対してヌクレオチド配列が少なくとも80%の同一性を示し、アミノ酸配列が少なくとも65%の同一性を示す。
【0025】
2つの配列(核酸またはタンパク質の配列)の間の「パーセンテージ同一性」の用語は、最適アラインメントの後に得られる、比較される2つの配列の間で同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセンテージを意味することを意図し、このパーセンテージは、純粋に統計的であり、2つの配列の間の違いはランダムにかつそれらの全長にわたって分布する。
「最良アラインメント(best alignment)」または「最適アラインメント(optimal alignment)」の用語は、本明細書において記載されるようにして決定されるパーセンテージ同一性が最も高いアラインメントを意味することを意図する。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の比較は、通常、これらの配列を最適に整列させた後にこれらを比較することにより行われ、該比較は、区分(segment)によるかもしくは配列類似性の局所領域を同定し比較するように「比較のウィンドウ(window of comparison)」により行われる。比較のための配列の最適アラインメントは、次のアルゴリズムの1つを特に用いて行うことができる:SmithおよびWaterman (1981)の局所相同性アルゴリズム(local homology algorithm)、NeddlemanおよびWunsch (1970)の局所相同性アルゴリズム、PearsonおよびLipman (1988)の類似性探索方法、これらのアルゴリズムを用いるコンピュータープログラム(Wisconsin Genetics Software Package (Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)のGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、BLASTX、TBLASTX、FASTAおよびTFASTA、または特にNational Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov)、EMBL (http://www.embl.org)およびEnsemblプロジェクト(http://www.ensembl.org)のインターネットサービスでのもの)。
最適アラインメントを得るために、BLASTプログラムをBLOSUM 62マトリックスとともに用いるのが好ましい。PAMまたはPAM250マトリックスは、ヌクレオチド配列の単位行列(identity matrix)であり得るので、これらも用いることができる。
【0026】
「特異的ハイブリダイゼーション」を得るために、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件、すなわち相補的ポリヌクレオチドの間の特異的かつ選択的ハイブリダイゼーションを維持するのを許容するように選択される温度およびイオン強度の条件を用いるのが好ましい。
例として、上記のポリヌクレオチドを規定する目的のためのハイブリダイゼーション工程における高度にストリンジェントな条件は、有利には次のとおりである。DNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーションを2工程で行う:(1) 42℃で3時間の、5×SSC (1×SSCは、0.15 M NaCl + 0.015 Mクエン酸ナトリウムに相当)、ホルムアミド50%、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) 7%、10×Denhardt's、硫酸デキストラン5%およびサケ精子DNA 1%を含むリン酸バッファー (20 mM、pH 7.5)中でのプレハイブリダイゼーション;(2) 20時間の、プローブの長さに応じた温度(例えば:100ヌクレオチドより長いプローブについて42℃)での本質的なハイブリダイゼーション、続いて20分間、20℃で2×SSC + 2% SDS中に2回洗浄、20分間、20℃で0.1×SSC + 0.1% SDS中に1回洗浄。最後の洗浄は、0.1×SSC + 0.1% SDS中に30分間、60℃で、100ヌクレオチドより長いプローブについて行う。規定された長さのプローブについての上記の高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、より長いかまたはより短いプローブについて、当業者により調整され得る。
【0027】
「適切な技術または方法」の表現は、本明細書において、当業者により通常用いられ、特にMolecular Cloning. A Laboratory Manual (Sambrook J, Russell DW. (2000) Cold Spring Harbor Laboratory Press) [13]と題するもののような多くの著作で開示されている公知の技術または方法のことをいう。
【0028】
c)で規定されるポリヌクレオチドは、最適アラインメントの後に、a)またはb)で規定される配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%のパーセンテージ同一性を示す。c)で規定されるポリヌクレオチドは、配列番号1の配列の異型(variant)であるポリヌクレオチド、すなわち対立遺伝子変異体(allelic variant)、すなわち配列番号1の配列の個々の変動に相当する全てのポリヌクレオチドを含む。
これらの天然の異型の配列は、哺乳動物、特にヒトに存在する多型性、特に病原性、例えばランゲルハンス島の細胞死および糖尿病の発生に導き得る多型性に相当する。
【0029】
「異型ポリヌクレオチド」の用語は、そのmRNAが相補DNAとして配列番号1の配列のポリヌクレオチドを有するゲノム配列の突然変異および/またはスプライス部位での変動に起因するいずれのRNAまたはcDNAを意味することも意図する。
【0030】
参照タンパク質に対するタンパク質の類似性は、2つの配列をそれらの間の最大の一致を得るように整列させたときに、一致するかまたは同類置換により異なるアミノ酸残基のパーセンテージに従って評価される。本発明の目的のために、「同類置換」の用語は、アミノ酸の、類似の化学的特性(サイズ、電荷または極性)を有し、通常はタンパク質の機能的特性を修飾しない別のアミノ酸との置換を意味することを意図する。
参照配列と少なくともX%の類似性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質は、本発明において、参照配列の100アミノ酸当たり100-Xまでの非保存的変化(non-conservative alterations)を含み得る配列のタンパク質として規定される。本発明の目的のために、「非保存的変化」の用語は、参照配列中の欠失、非保存的置換、または連続もしくは分散されたアミノ酸の挿入を含む。
【0031】
(g)で規定されるタンパク質に含まれるものは、配列番号2の配列の異型であるタンパク質、すなわち上記で規定される異型ポリヌクレオチドによりエンコードされる変異体タンパク質、特にそのアミノ酸配列が、特に配列番号2の配列に対して少なくとも1つのアミノ酸残基の短縮、欠失、置換および/または付加に相当する少なくとも1つの突然変異を有するタンパク質である。
好ましくは、異型タンパク質は糖尿病または高インシュリン症に関連する突然変異を有する。
【0032】
本発明による使用の有利な実施形態によると、(c)で規定される該単離ポリヌクレオチドは、配列番号1の配列によりエンコードされるタンパク質のアミノ酸配列の修飾をもたらす突然変異を含む配列番号1の配列の異型であるポリヌクレオチドである。
本発明の使用の他の有利な実施形態によると、(b)または(d)で規定される該単離ポリヌクレオチドは、プライマー対である配列番号3および配列番号4、ならびにプライマー対である配列番号5および配列番号6から選択される。
【0033】
本発明による使用のさらに他の有利な実施形態によると、該単離ポリヌクレオチドは、上記で規定されるプライマー対を用いる増幅により得ることができる。
本発明による使用のさらに他の有利な実施形態によると、(d)で規定される該ポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドに対応するmRNAとの相互作用により、その分解を引き起こす小型干渉RNA (siRNA)である。
【0034】
本発明による使用のさらに他の有利な実施形態によると、(g)で規定される該タンパク質は、糖尿病または高インシュリン症に関連する突然変異を有する、配列番号2の配列の異型である。
本発明による使用のさらに他の有利な実施形態によると、(f)で規定される該断片は、配列番号7、配列番号8、配列番号9および配列番号10の配列から選択される配列を有する。
【0035】
本発明の主題は、
- NCBI データベースの受理番号No. AX526723、No. AX526725およびNo. AX526727を有する配列に含まれる少なくとも15個連続するヌクレオチドの断片、
- GenBankデータベースにおいて、受理番号BM565129、BM310003、BM875526、BG655918、BQ417284、BQ267316、BU072134、BQ267526、BQ270198、BU581447、BU070173、BQ631692およびBU949895を有するEST、ならびにNCBIデータベースにおいて、受理番号AX526723、AX526725およびAX526727を有する配列
を除く、上記で規定されるポリヌクレオチドでもある。
【0036】
本発明による断片は、他の生物において本発明によるポリヌクレオチドに対応するポリヌクレオチド(RNAまたはゲノムDNA)を検出/増幅するためのプローブまたはプライマーとして特に用いることができる。
好ましくは、本発明により用い得るプライマー対は、配列番号3および配列番号4の配列、ならびに配列番号5および配列番号6の配列により規定される対に対応するものである。
【0037】
本発明の主題は、上記で規定されるプライマーを用いる増幅により得ることができるポリヌクレオチドでもある。
本発明によりポリヌクレオチドの有利な実施形態によると、これは、30ヌクレオチド未満の長さ、好ましくは20〜23ヌクレオチドの間の長さの上記で規定されるポリヌクレオチドに対応する小型干渉RNAであり、これは該ポリヌクレオチドに対応するmRNAとの相互作用により、その分解を引き起こす。これらのsiRNAは、当業者に公知のいずれの方法、例えば化学合成またはベクターからの発現により得ることができる。
【0038】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドに対応するセンスオリゴヌクレオチドを包含し、これは、本発明のポリヌクレオチドの発現の制御に関するタンパク質との相互作用により、この発現の阻害または活性化のいずれかを誘導する。
【0039】
本発明によるプローブおよびプライマーは、放射活性または非放射活性の化合物を用いて、当業者に公知の方法により、検出可能および/または定量可能なシグナルを得るために直接的または間接的に標識化することができる。
本発明によるプライマーまたはプローブの標識化は、放射活性元素または非放射活性分子を用いて行われる。用いられる放射活性同位体のうち、32P、33P、35S、3Hまたは125I
を挙げることができる。非放射活性物質は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンまたはジゴキシゲニンのようなリガンド、ハプテン、色素および放射線発光性、化学発光性、生物発光性、蛍光またはリン光性の試薬のような発光性試薬から選択される。
【0040】
よって本発明によるポリヌクレオチドは、プライマーおよび/またはプローブとして、特にPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)技術 (米国特許第4,683,202号)を用いる方法において用いることができる。標的核酸を増幅するその他の技術を、PCRの代わりに有利に用いることができる。この増幅について現在、多数の方法、例えばSDA (ストランドディスプレースメントアンプリフィケーション(strand displacement amplification))法、TAS (トランスクリプションベースドアンプリフィケーションシステム(transcription-based amplification system))法、3SR (セルフサステインドシークエンスレプリケーション(self-sustained sequence replication))法、NASBA (ヌクレイックアシッドベースドアンプリフィケーション(nucleic acid sequence based amplification))法、TMA (トランスクリプションメディエーテッドアンプリフィケーション(transcription mediated amplification))法、LCR (リガーゼ連鎖反応(ligase chan reaction))法、RCR (リペアチェインリアクション(repair chain reaction))法、CPR (サイクリングプローブリアクション(cycling probe reaction))法、およびQ-ベータ-レプリカーゼ増幅法が存在する。点突然変異を検出可能とするPCR-SSCPも挙げることができる。
これらの技術は、もちろん当業者に完全に知られている。
【0041】
プローブまたはプライマーとして、本発明の種々のポリヌクレオチドは、対応する遺伝子の転写プロフィールもしくは生体試料中のこのプロフィールのいずれの可能な変更(alteration)を測定する(determine)か、または対応する遺伝子、この遺伝子の対立遺伝子変異体、または該遺伝子の少なくとも1つのエキソン中の1つ以上のヌクレオチドの突然変異(挿入、欠失または置換)に起因する、この遺伝子のいずれの可能な機能的変更(該遺伝子によりエンコードされるタンパク質の活性における実質的な変化)を証明するかのいずれかを可能にする。このような突然変異は、特にタンパク質の生物活性に必須なドメイン中に位置するアミノ酸残基に対応するコドン中の欠失、挿入または非同類置換を含む。
【0042】
よって、本発明の主題は、生体試料から全RNAを得ることにある第一工程、該RNAを、本発明によるポリヌクレオチドからなる標識プローブと、該RNAと該プローブとの間のハイブリダイゼーションに適する条件下で接触させることにある第二工程、および形成されたハイブリッドを、いずれの適切な手段により明らかにすることからなる第三工程を含む、生体試料において、本発明によるポリヌクレオチドに対応する遺伝子の転写プロフィール、あるいは該プロフィールの変更を測定する方法である。
該方法のある実施形態によると第二工程は、上記のようなプライマー対を用いて行う逆転写および/または転写産物の増幅からなる工程であることができ、第三工程はいずれの適切な手段により、形成された増幅核酸を明らかにすることにある工程であり得る。
【0043】
遺伝子の転写プロフィールを測定するための該方法は、遺伝子の転写レベルを、予め選択された対照サンプルとの比較により評価し、任意に、検出可能な表現型、例えば成熟インシュリンへ変換されたプロインシュリンの量、細胞のインシュリン含量、グルコースでの刺激に応答して分泌されるインシュリンの量、細胞内または小胞内の亜鉛濃度、または細胞表面で発現されるタンパク質(遺伝子産物)の量とのその相関関係を研究することにある工程も含み得る。該対照サンプルは、例えば本発明のポリヌクレオチドに対応する遺伝子の正常または変更された転写を示す生体試料からなることができ、これに対して遺伝子の転写プロフィールを測定する該方法を同じ条件下で適用する。
【0044】
本発明の主題は、いずれの適切な手段により、生体試料からDNAを得ることにある第一工程、該DNAを、本発明によるポリヌクレオチドからなる標識プローブと、該DNAと該プローブとの間の特異的ハイブリダイゼーションに適する条件下で接触させることにある第二工程、および形成されたハイブリッドを、いずれの適切な手段により明らかにすることからなる第三工程を含む、生体試料において、本発明のポリヌクレオチドに対応する遺伝子または該遺伝子の対立遺伝子変異体または該遺伝子の機能的変更を証明する方法でもある。
該方法の有利な実施形態によると、第二工程は上記のようなプライマー対を用いて行われる増幅工程であることができ、第三工程は、いずれの適切な手段により、形成された増幅核酸を明らかにすることにある工程であることができる。該方法は、任意に、証明された核酸を単離して配列決定することにある第四工程を含み得る。
【0045】
後者の方法は、本発明のポリヌクレオチドに対応する遺伝子の、検出可能な表現型、例えば食後の血糖の変動、インシュリン分泌の有無、循環グルコースのレベル、またはグルコースでの刺激に応答して分泌されるインシュリンの量、および一般にI型またはII型糖尿病のような病理もしくは亜鉛代謝異常に関連する対立遺伝子を単離することも可能にする。インシュリンの放出の間に排出される亜鉛は、カルシウムチャネルを介するこのエキソサイトーシスを担うカリウムチャネルに作用する。よって、ここにはフィードバックループが存在する[14]。本発明のポリペプチドは、インシュリンを含有する小胞における亜鉛蓄積に関係し、エキソサイトーシス中に原形質膜上でも見出されている。よって、タンパク質の突然変異体は、小胞中に存在する亜鉛の量、または細胞周囲の亜鉛濃度のいずれかを修飾することができ、よってカリウムチャネルの開放の状態を修飾し、結果として、突然変異の影響に応じて、インシュリン排出の減少または増加をもたらす(I型糖尿病または高インシュリン症)。この特定の方法において、生体試料は上記の検出可能な表現型を発現している個体由来の試料であろう。
【0046】
これらの方法、特に遺伝子内の突然変異の探索に基づくものは、糖尿病に対する素因の予防的証明、または糖尿病もしくは糖尿病に関連するいずれの疾患の診断、または分子もしくは投与量の点での抗糖尿病治療の適応を許容し得る。
【0047】
本発明の主題は、
a) 少なくとも1つの本発明によるプローブまたは1つのプライマー対;
b) 該プローブおよび/またはプライマーと、試験される生体試料の核酸との間のハイブリダイゼーション反応を行うのに必要な試薬;
c) 増幅反応を行うのに必要な試薬;
d) 該プローブと生体試料の核酸との間に形成されたハイブリッド、もしくは形成された増幅核酸を検出および/またはアッセイするのに必要な試薬
を含む、上記の方法を行うための試薬キットでもある。
このようなキットは、得られる結果の質を確実にするために、陽性または陰性の対照も含み得る。また、生体試料から核酸を調整するために必要な試薬も含み得る。
【0048】
本発明の別の主題は、少なくとも1つの本発明によるポリヌクレオチドを含むDNAチップである。
【0049】
本発明のさらに別の主題は、上記で規定されるポリヌクレオチドの、DNAチップを製造するための使用である。当業者は、選択される支持体に応じて、例えばガラスまたはナイロンの支持体へのオリゴヌクレオチドの沈積によるか、またはオリゴヌクレオチドの化学的もしくは電気化学的なグラフトによるこのようなチップを製造するための適切な製造技術を選択することができる。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドは、インビトロにおいて、
a) モデル細胞株(例えばINS-1ラットインシュリノーマ)での輸送体(ZnT-8)の過剰発現、およびグルコースでの刺激に応答したインシュリン分泌の影響;
b) 酸化ストレスまたは亜鉛濃度が低いかもしくは高い状態により誘導される細胞死(アポトーシス)への細胞の感受性;
c) 幹細胞の、インシュリン分泌細胞への種々の外因性刺激(成長因子、膵エキス)に応答した分化の工程
を研究するための手段として用い得る。
【0051】
本発明は、本発明によるポリヌクレオチドによりエンコードされるタンパク質にも関する。
本発明の目的のために、「タンパク質」の用語は、非天然アミノ酸をあるいは含む修飾または非修飾アミノ酸の精密な連続を意味することを意図する。
本発明によるタンパク質は、ベータ細胞から、または化学合成、もしくは組換えDNA技術のいずれかにより、特に上記で規定されるポリヌクレオチドからなる挿入を含む発現ベクターを用いて得られる。
【0052】
本発明は、上記で規定されるポリヌクレオチドの、上記で規定されるZnT-8タンパク質を製造するための使用にも関する。
本発明によるタンパク質は、化学合成で得られる場合、多くの既知のペプチド合成経路の一つ、例えば固相を用いる技術または部分固相(partial solid phase)を用いる技術によるか、断片の縮合によるか、あるいは通常の溶液での合成により得ることができる。この場合、タンパク質の配列は、特に水性溶媒へのその溶解性を向上するために修飾することができる。このような修飾は、当業者に公知であり、例えば疎水性ドメインの欠失または疎水性アミノ酸の親水性アミノ酸での置換である。
好ましくは、本発明によるタンパク質は、配列番号2 (ZnT-8遺伝子によりエンコードされるタンパク質に相当する)の配列を含むかまたは有するタンパク質である。
【0053】
本発明の主題は、配列番号7、配列番号8、配列番号9および配列番号10の配列からなる群より選択されることを特徴とする、上記で定義されるようなタンパク質の断片でもある。
本発明の別の主題は、上記で規定されるタンパク質またはタンパク質断片を含むタンパク質チップである。
本発明のさらに別の主題は、上記で規定されるタンパク質またはタンパク質断片の、タンパク質チップを製造するための使用である。DNAチップについては、当業者が、選択される支持体に応じて、このようなチップを製造するための適切な製造技術を選択することができる。
上記で規定されるタンパク質、タンパク質断片またはタンパク質チップは、個体の血清中の該タンパク質に指向された抗体の存在を検出するために用いることができる。
【0054】
本発明は、上記で規定されるタンパク質またはタンパク質断片の、免疫化学的および免疫酵素学的方法による測定のため、そして本発明によるタンパク質に指向された自己抗体を探索するための使用にも関する。
【0055】
本発明の主題は、本発明のポリヌクレオチドが挿入されたクローニングおよび/または発現ベクターでもある。
このようなベクターは、発現、および任意に宿主細胞中でのタンパク質の分泌に必要な要素を含み得る。
このようなベクターは、好ましくは、プロモーター、翻訳の開始および終結シグナル、ならびに転写のための適切な調節領域も含む。細胞中においてこれらを安定に保持することが可能であるべきであり、これらは翻訳されたタンパク質の分泌を明示する特定のシグナルをエンコードする配列、例えば高度に偏在性のプロモーター、または特定の細胞および/または組織の種類、例えば膵臓に選択的なプロモーターを任意に含み得る。これらの種々の制御配列は、用いられる細胞宿主によって選択される。
【0056】
本発明によるポリヌクレオチドは、選択された宿主内で自律複製するベクター、または選択された宿主に組み込まれるベクターに挿入できる。
自律複製系のうち、宿主細胞に応じて、プラスミドまたはウイルスのタイプを好ましく用いることができる。ウイルスベクターは、特にアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルスまたはヘルペスウイルスであり得る。当業者は、これらの系のそれぞれに用い得る技術について認識している。
【0057】
配列を宿主細胞の染色体に組み込むことが望ましい場合、例えばプラスミドまたはウイルスタイプの系を用いることができ、このようなウイルスは、レトロウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
非ウイルスベクターのうち、裸のDNAまたはRNA、細菌人工染色体(BAC)、酵母内での発現のための酵母人工染色体(YAC)、マウス細胞内での発現のためのマウス人工染色体(MAC)、および好ましくはヒト細胞内での発現のためのヒト人工染色体(HAC)のような裸のポリヌクレオチドが好ましい。
このようなベクターは、当業者により通常用いられている方法に従って製造され、それから得られる組換えベクターは、標準的な方法、例えばリポフェクション、エレクトロポレーション、熱ショック、化学的な膜透過化の後の形質転換、細胞融合により適切な宿主に導入される。
【0058】
本発明の主題は、少なくとも1つの本発明によるポリヌクレオチド、または少なくとも1つの本発明のベクターがその中に導入された修飾宿主細胞、特に真核および原核細胞でもある。
本発明の目的のために用い得る細胞のうち、細菌細胞、酵母細胞、動物細胞、特に哺乳動物細胞、または植物細胞を挙げることができる。昆虫細胞も挙げることができ、その方法においてはバキュロウイルスの構築(implementing)を用いることができる。
【0059】
本発明の主題は、その全てまたはいくつかの細胞が、本発明によるポリヌクレオチド、または本発明によるベクターを、遊離もしくは組み込まれた形で含むトランスジェニック動物または植物のようなヒト以外のトランスジェニック生物でもある。
本発明によると、好ましくは、ヒト以外のトランスジェニック生物は、機能的でないか、または突然変異を有する本発明のポリヌクレオチドを含む細胞を有するものである。
本発明によると、トランスジェニック動物は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはげっ歯動物、特にマウス、ラットまたはウサギ、およびイノシシ科、特にブタである。
【0060】
トランスジェニック動物は、当業者に公知のいずれの通常の方法、例えば胚性幹細胞での相同的組換え、これらの幹細胞の胚への移送、生殖株で生育するキメラの選択および該キメラの生育により得ることができる。
よって本発明による細胞、またはトランスジェニック動物もしくは植物は、本発明によるタンパク質をエンコードする遺伝子、またはそれらの相同遺伝子を発現するかまたは過剰発現するか、あるいは突然変異が導入された該遺伝子を発現することができる。
【0061】
トランスジェニック動物は、例えば糖尿病の病因を研究するためのモデルとして用いることができる。
本発明によるトランスジェニック生物は、本発明によるタンパク質を産生するために用いることができる。
【0062】
本発明によるタンパク質は、当業者に公知の技術に従って精製することができる。つまり、タンパク質は、細胞溶解産物および抽出物、または培養上清から、分画、クロマトグラフィー法、特異的モノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いる免疫親和性技術などのような個別にまたは組み合わせで用いる方法により精製することができる。好ましくは、本発明によるタンパク質は、遠心分離による膜タンパク質の分離からなる第一工程、続いてT.C. Thomas、M.G. McNamee (Methods in Enzymology, Guide to Protein Purification, M.P. Deutscher編、第182巻、Academic Press, New York, 1990のPurification of membrane proteins. 第IXセクション、pp 499〜520)により記載された方法による免疫親和性による精製からなる第二工程を含む方法により精製される。
【0063】
本発明の主題は、本発明の修飾細胞、特に哺乳動物細胞、または本発明によるヒト以外のトランスジェニック生物由来の細胞を、該タンパク質の発現を許容する条件下に培養し、そして該組換えタンパク質を精製することを含むことを特徴とする組換えZnT-8タンパク質を製造する方法でもある。
【0064】
本発明の主題は、上記の製造方法のいずれか1つにより得ることができることを特徴とするタンパク質でもある。
上記のようにして得られるタンパク質は、グリコシル化されているかまたはグリコシル化されていない形の両方にあることができ、天然タンパク質の三次構造を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0065】
本発明者らは、膜内外電位差の研究により、本発明のタンパク質の二次構造が3つの細胞外アミノ酸ループ(アミノ酸96〜106、164〜176および241〜245)を有することを示し、これらに指向されたモノクローナルまたはポリクローナル抗体が製造可能である。
よって本発明の主題は、本発明によるタンパク質を特異的に認識できることを特徴とするモノクローナルまたはポリクローナル抗体でもある。
【0066】
好ましくは、該抗体は、配列番号2の配列のタンパク質、その断片、または上記で規定される該タンパク質の異型を特異的に認識する。
好ましくは、本発明による抗体は、配列番号7、配列番号8および配列番号10 (PEP1、PEP2およびPEP4)に対応する本発明によるタンパク質の細胞外ループ、および/または配列番号9 (PEP3)に対応する本発明によるタンパク質の細胞内ループを特異的に認識する。
【0067】
本発明による抗体は、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはFabもしくはF(ab')2フラグメントである。これらは、検出可能および/または定量可能なシグナルを得るためにイムノコンジュゲート、または標識化抗体の形であることもできる。
該抗体は、ヒト血清から、または本発明によるタンパク質、特に遺伝子組み換えによるかもしくはペプチド合成により産生されたもので免疫された動物の血清から直接得ることができる。
特異的ポリクローナル抗体は、通常の手法により得ることができる。特異的モノクローナル抗体は、通常のハイブリドーマ培養法により得ることができる。
【0068】
本発明の別の主題は、本発明による少なくとも1つの抗体を含むタンパク質チップである。
本発明は、本発明による抗体の、該抗体を含むタンパク質チップを製造するための使用にも関する。当業者は、選択された支持体に応じて、このようなチップを製造するための適切な製造技術を選択することができる。
【0069】
本発明の主題は、本発明による抗体または抗体チップの、本発明によるタンパク質、好ましくは該タンパク質の細胞内または細胞外ループ、好ましくは配列番号7〜配列番号10に相当する配列の検出および/または精製するための使用でもある。
一般に、本発明の抗体は、本発明の通常または突然変異タンパク質の発現が観察されなければならないいずれの状況において有利に用い得る。
【0070】
特に、モノクローナル抗体は、生体試料中のこれらのタンパク質を検出するのに用い得る。よって、これらは、本発明によるタンパク質、特に配列番号2のタンパク質、またはその異型の一つの、特定の組織切片における発現の免疫細胞化学的または免疫組織化学的な分析を構成する。一般に、このような分析については、用いられる抗体は、例えば免疫蛍光化合物を用いるか、金標識によるか、または酵素的イムノコンジュゲートの形で検出可能とするために標識化される。
これらは特に、生体組織または試料中のこれらのタンパク質の異常発現を証明するのを可能にすることができる。
【0071】
本発明の主題は、生体試料を本発明の抗体と接触させることにある第一の工程、およびいずれの適切な手段により、形成された抗原-抗体複合体を証明することにある第二工程を含む、生体試料中のZnT-8タンパク質を検出する方法でもある。
【0072】
本発明の主題は、
a) 少なくとも1つの本発明のモノクローナルまたはポリクローナル抗体;
b) 免疫反応中に生成された抗原-抗体複合体を検出するための試薬
を含む、上記の方法を行うためのキットでもある。
本発明の具体的な実施形態によると、該キットは免疫反応を許容する媒体(medium)を構成する試薬を任意に含み得る。
【0073】
本発明の抗体は、ランゲルハンス島、好ましくはベータ細胞を、ヒトまたは動物の膵臓、特にマウス、ラット、ウサギおよびブタの膵臓を用いて検出および/または選別するために用いることもできる。この選別は、単離細胞に関するフローサイトメトリー(FACS)装置を用いて行うことができる。島について、その標識化は、現在の分離方法:フィコール、ユーロ-フィコールまたはフィコール-ジアトリゾエートナトリウムを用いる密度勾配による分離、または細胞セパレータでのアルブミン勾配である特別の方法を改良することができる。
【0074】
よって、本発明の主題は、ランゲルハンス島および/またはベータ細胞を含みやすい生体試料の細胞を、本発明による抗体と接触させることにある第一工程、いずれの適切な手段により、抗体で標識された細胞を証明することにある第二工程、ならびにいずれの適切な手段により、標識された細胞を単離することにある第三工程を含む、ランゲルハンス島のベータ細胞を選択する方法である。
【0075】
本発明による抗体は、幹細胞の、特にヒトまたは動物の細胞であるランゲルハンス島のベータ細胞への分化の過程を追跡し、そしてZnT-8タンパク質、特に配列番号2の配列のタンパク質を発現するこれらの細胞を分化の後に選別するために用いることができる。
【0076】
つまり、本発明の主題は、分化を受ける幹細胞を含みやすい生体試料の細胞を、本発明による抗体と接触させることにある工程、いずれの適切な手段により、抗体で標識された細胞を証明することにある第二工程、ならびにいずれの適切な手段により、標識された細胞を視覚化することにある第三工程を含む、幹細胞の膵臓島細胞またはベータ細胞への分化の過程を追跡する方法である。
該方法は、いずれの適切な手段により、標識された細胞を単離することにあるさらなる工程も含み得る。
【0077】
本発明によるポリヌクレオチド、細胞、トランスジェニック生物またはDNAチップは、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるポリヌクレオチドと直接的または間接的に相互作用できるか、および/または該ポリヌクレオチドの発現を調節できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングするために用いることができる。
【0078】
よって、本発明の主題は、候補の化学的または生化学的化合物を、本発明によるポリヌクレオチド、細胞、ヒト以外のトランスジェニック生物、またはDNAチップと接触させることにある第一工程、および候補の化学的または生化学的化合物と、本発明の該ポリヌクレオチド、該細胞、該ヒト以外のトランスジェニック生物または該DNAチップとの間で形成された複合体を検出することにある第二工程を含むことを特徴とする、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるポリヌクレオチドと直接的または間接的に相互作用できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングする方法である。
【0079】
本発明の主題は、候補の化学的または生化学的化合物を、本発明によるポリヌクレオチド、細胞、ヒト以外のトランスジェニック生物、またはDNAチップと接触させることにある第一工程、およびいずれの適切な手段により、該ポリヌクレオチドの発現を測定することにある第二工程を含むことを特徴とする、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるポリヌクレオチドの発現を直接的または間接的に調節できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングする方法でもある。
【0080】
本発明によるタンパク質、細胞、トランスジェニック動物またはタンパク質チップは、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるタンパク質と直接的または間接的に相互作用できるか、および/または該タンパク質の発現または活性を調節できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングするのに用い得る。
【0081】
よって、本発明の主題は、候補の化学的または生化学的化合物を、本発明によるタンパク質、細胞、ヒト以外のトランスジェニック生物、またはタンパク質チップと接触させることにある第一工程、および候補の化学的または生化学的化合物と、本発明の該タンパク質、該細胞、該ヒト以外のトランスジェニック生物または該タンパク質チップとの間で形成された複合体を検出することにある第二工程を含むことを特徴とする、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるタンパク質と直接的または間接的に相互作用できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングする方法である。
【0082】
本発明の主題は、候補の化学的または生化学的化合物を、本発明によるタンパク質、細胞、ヒト以外のトランスジェニック生物、またはタンパク質チップと接触させることにある第一工程、およびいずれの適切な手段により、該タンパク質の発現および/または活性を測定することにある第二工程を含むことを特徴とする、インビトロまたはインビボにおいて、本発明によるタンパク質の発現および/または活性を直接的または間接的に調節できる化学的または生化学的化合物をスクリーニングする方法でもある。
【0083】
本発明の主題は、医薬品としての本発明のポリヌクレオチド、タンパク質、抗体、ベクターまたは形質転換細胞でもある。
本発明によるポリヌクレオチド、タンパク質、抗体、ベクターまたは形質転換細胞は、特に配列番号1に対応する遺伝子の少なくとも1つの突然変異の存在、および/または配列番号2に対応するタンパク質の異常発現に関連する糖尿病の予防および/または治療を意図するか、あるいはインシュリン遺伝子についての異常な発現、成熟もしくは分泌が観察される場合の高インシュリン症の予防および/または治療を意図するか、あるいはベータ細胞および/またはインシュリン分泌のために修飾されることとなる細胞におけるインシュリンの成熟および分泌の調節を意図するか、あるいはベータ細胞アポトーシス現象の調節を意図する医薬品の製造において用い得る。
【0084】
異常発現とは、過剰発現、過少発現、または突然変異タンパク質の発現を意味する。異常成熟とは、プロインシュリンからインシュリンへのタンパク質溶解がないか、または不充分なものであるか、あるいは細胞内分泌小胞においてインシュリンおよび亜鉛の共結晶化(cocrystalization)がないか、不充分な共結晶化であるか、または共結晶化が過剰であることを意味する。
【0085】
本発明の主題は、本発明によるポリヌクレオチド、タンパク質または抗体の、対立遺伝子変異、突然変異、欠失、異型接合性の喪失、または本発明によるタンパク質をエンコードする遺伝子のいずれの遺伝子の異常(anomaly)を測定するための使用でもある。ZnT-8遺伝子の配列中の突然変異を、核酸および本発明による配列(ゲノムDNA、RNAまたはcDNA)の分析によるだけでなく、本発明によるタンパク質により直接検出することが可能である。特に、突然変異を有するエピトープを認識する本発明による抗体の使用は、「正常な」タンパク質を「病原性に関連する」タンパク質から差別化することを可能にする。
【0086】
当業者は、例えばmRNAの分析により、特に本発明のプローブまたはプライマーを用いるRT-PCRによるノザンブロッティングによるか、あるいは発現タンパク質の分析により、特に本発明による抗体を用いるウェスタンブロッティングによる遺伝子の発現における変更を研究する技法をどのように行うかも知っている。
【0087】
上記の規定の他にも、本発明は、本発明の実行の例および添付の図面に言及する次の記載から明らかになるであろう他の規定も含む。添付の図面では:
- 図1は、偏在的アクチンメッセンジャー(B)の発現との比較により、ZnT-8タンパク質(A)をエンコードするメッセンジャーRNAの組織発現のRT-PCR分析を示す。1:脳、2:心臓、3:腎臓、4:脾臓、5:肝臓、6:結腸、7:肺、8:小腸、9:筋肉、10:胃、11:精巣、12:胎盤、13:唾液腺、14:甲状腺、15:副腎、16:膵臓、17:卵巣、18:子宮、19:前立腺、20:皮膚、21:白血球、22:骨髄、23:胎児の脳、24:胎児の肝臓。該mRNAの発現は、膵臓でのみ検出されている(レーン16)。
【0088】
- 図2は、ラットのインシュリノーマ株(INS-1、レーン1)、胎児(レーン2)および成体(レーン3)のヒト膵島におけるZnT-8タンパク質をエンコードするメッセンジャーRNAの発現のRT-PCR分析を、上皮細胞株(Hela株)との比較により示す。mRNAは、ラットインシュリノーマ株、ならびに成体および胎児の膵島で検出されるが、上皮細胞(Hela株)では転写産物は検出されていない。アクチンメッセンジャーを対照として用いている。
【0089】
- 図3は、ZnT-8-GFP融合タンパク質の局在化の、トランスフェクションされた上皮細胞(Hela株)での蛍光顕微鏡分析を示す。蛍光は、細胞質内の小胞と、原形質膜にも局在化している。
- 図4は、ZnT-8-GFP融合タンパク質の局在化の、トランスフェクションされたラットのインシュリノーマ細胞(INS-1株)での蛍光顕微鏡分析を示す。蛍光は、分泌小胞内に局在化し、ZnT-8のインシュリンの成熟化およびエキソサイトーシスにおける役割を示唆している。
【実施例】
【0090】
以下の実施例は、本発明の説明であり、これをいずれの方法により限定するものではない。
実施例1:ZnT-8タンパク質をエンコードするcDNAのクローニング
ZnT-8遺伝子とよばれるZnT-8タンパク質をエンコードする遺伝子を、バイオインフォーマティクスにより、ZnTファミリーの遺伝子と相同な遺伝子を、入手可能なヒトゲノム配列を用いて探索することにより同定した。ゲノム配列の分析は、ZnT-8遺伝子のイントロン/エキソン機構を限定し(localize)、そして規定することを可能にした。
【0091】
ZnT-8をエンコードするcDNAを、RT-PCRにより、T. Kenmochiら(Pancreas、2000、20、2、184〜90)に記載の技法により調製したヒト膵島のmRNAから、ZnT-8遺伝子の配列から規定したプライマー対(配列番号5:5'-ACTCTAGAATGGAGTTTCTTGAAAGAACGT Aおよび配列番号6:5'-AATCTA GAGTCACAGGGGTCTTCACAGA)を用いて増幅した。
より明確には、全RNAを島からRNA抽出キット(Roche)を製造業者の使用説明書に従って用いて抽出した。このようにして得られたRNAを、250 nmの吸光度で測定することによりアッセイし、-80℃で保存した。
【0092】
増幅を、TitanワンチューブRT-PCRキット(Roche)を用いて、製造業者の使用説明書に従って、配列番号5および配列番号6のプライマー対を用いて行った。逆転写を52℃で30分間行い、合成されたcDNAを30サイクル(94℃で30秒、53℃で30秒、72℃で1分)および72℃で5分間の最後の伸長により増幅した。増幅産物をエチジウムブロマイドの存在下にアガロースゲル電気泳動(1.5%)により分離し、配列番号1の配列を有するcDNA配列を含む1123塩基対の増幅産物を、核酸精製キット(QIAGEN)を製造業者の使用説明書に従って用いて精製した。
【0093】
実施例2:ZnT-8タンパク質をエンコードするメッセンジャーRNAの組織発現の分析
ZnT-8タンパク質をエンコードするメッセンジャーRNAの発現を、種々のヒトの組織から調製された市販のcDNAについて、次のプライマー:配列番号3:5'-GAT GCT GCC CAC CTC TTA ATT GACおよび配列番号4:5'-TCA TCT TTT CCA TCC TGG TCT TGGを用いてPCRにより分析した。プライマー(配列番号3および配列番号4)は、ゲノム配列の増幅を避けるために2つの異なるエキソンにおいて選択した。試験した組織は:1:脳、2:心臓、3:腎臓、4:脾臓、5肝臓、6:結腸、7:肺、8:小腸、9:筋肉、10:胃、11:精巣、12:胎盤、13:唾液腺、14:甲状腺、15:副腎皮質、16:膵臓、17:卵巣、18:子宮、19:前立腺、20:皮膚、21:血液の白血球、22:骨髄、23:胎児の脳、24:胎児の肝臓である。
【0094】
より明確には、cDNA 2μlを、2種の特定のプライマー(1μMの最終濃度)および通常のPCRミクスチャー(Taq DNAポリメラーゼ1ユニット、1.5 mMマグネシウムを含むバッファー、10 mM dNTP)と混合した。増幅を30サイクル(94℃で30秒、53℃で30秒、72℃で1分)および72℃で5分の最後の伸長により行った。次いで産物を、エチジウムブロマイドの存在下にアガロースゲル電気泳動(1.5%)により分析した。
【0095】
図1に示す結果は、対照として用いたアクチンメッセンジャーとの比較により(図1B)、本発明のポリヌクレオチドに対応するmRNAが、膵臓細胞においてのみ発現され(図1Aのレーン16)、分析した他の23種の組織の細胞では発現されていない(図1Aのレーン1〜15および17〜24)ことを示す。
【0096】
実施例3:本発明のポリヌクレオチドに対応するメッセンジャーRNAの、胎児および成体の膵臓細胞およびラットのインシュリノーマ株(INS-1)における発現
ZnT-8タンパク質をエンコードするメッセンジャーRNAの発現の分析を、RT-PCRにより、種々のヒトの組織:成体および胎児のヒト膵島、ラットのインシュリノーマ株(INS-1;Asfari M.ら、Endocrinology、1992、130、1、167〜78)からのRNAを用いて、対象としてヒト上皮細胞株(Hela)を用いる比較により行った。106細胞を、リン酸バッファー(PBS)で2回洗浄し、次いで3分間、2000 gで遠心分離する。全RNAを、実施例1で記載のようにして抽出し、RNA濃度をZnT-8について1 ng/μlに、またはβ-アクチン対照については1 pg/μlに調整する。転写産物は増幅され、増幅産物を、次いで実施例2に記載のようにして分析する。
図2に示す結果は、ZnT-8タンパク質をエンコードするmRNAが、胎児および成体のヒト膵島ならびにラットインシュリノーマ株(INS-1)において発現されているが、上皮細胞株(Hela株)において発現されていないことを示す。
【0097】
実施例4:ZnT-8/GFP融合タンパク質の発現
タンパク質は、配列番号1の配列に対応するcDNAによりエンコードされるヒトタンパク質(ZnT-8)である。実施例1により得られた1123塩基対のPCR産物を、XbaI制限酵素により消化し、次いでベクターpcDNA3.1-CT-GFP (Invitrogen)にクローニングして、pZnT-8-GFPとよばれるベクターを得て、これを配列決定により確かめた。
ベクターpZnT-8-GFPを、一時的に(transiently)上皮細胞株(Hela)にトランスフェクションし、そしてラットインシュリノーマ株(INS-1)に安定的にトランスフェクションした。
【0098】
Hela上皮細胞(ATCC 番号CCL-2)を、5%の補体除去(decomplemented)仔ウシ血清および2mMのグルタミンを補ったOpti-MEM培地(改変イーグル培地、Life Technologies)で培養する。細胞を37℃で、5% CO2を供給する加湿環境においてインキュベートする。
INS-1細胞を、ウシ胎児血清(10%)、2-メルカプトエタン-1-オール(50μM)、ピルビン酸ナトリウム(1 mM)、HEPES (10 mM)、L-グルタミン(2 mM)、100 U/ml ペニシリンおよびストレプトマイシン(100 μg/ml)を補ったRPMI培地(Life Technologies)で培養する。
【0099】
35 mmのペトリ皿で培養された細胞を、ベクターpZnT-8-GFP (106細胞当たり1μgのDNA)で、Exgen500 (Euromedex)試薬を製造業者の使用説明書に従って用いてトランスフェクションする。ベクターZnT-8-GFPでのトランスフェクション後、INS-1細胞を選択し、G418 400 μg/mlを補った前記と同じ培地においてクローニングし、次いでクローンの蛍光を倒立蛍光顕微鏡(Axiovert、Zeiss)で、次のパラメータ:励起波長:450〜490 nm;蛍光波長:520 nmを用いて観察する。
Hela細胞でのZnT-8-GFP融合タンパク質の発現を、トランスフェクション後48時間で、安定的にトランスフェクションされたINS-1細胞クローンについて、上記で詳述したようにして蛍光を観察することにより分析する。
【0100】
図3に示す結果(Hela株)は、ZnT-8タンパク質が細胞質内小胞内および原形質膜上にも局在化されていることを示す。この局在化は、ZnT-8タンパク質が細胞外排出経路をとり、そして細胞の表面にあることを示す。
図4に示す結果(INS-1株)は、ZnT-8タンパク質がインシュリン分泌小胞内に局在化されていることを示す。この局在化は、ZnT-8がインシュリンの成熟に関することを示す。さらに、この実験は基礎的なレベル(グルコースでの刺激なしで)行っているので、グルコースでの刺激の後には、タンパク質はインシュリンエキソサイトーシスの間に原形質膜上にも存在するだろう。
【0101】
実施例5:ZnT-8タンパク質の配列の分析
ZnT-8の一次配列の分析および膜貫通ドメインの予測をTMpred(http://www.ch.embnet.org/ software/TMPRED_form.html)およびSOSUI (http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuimenu0.html)プログラムを用いて行った。
完全ZnT-8タンパク質は、6つの推定膜貫通ドメイン(アミノ酸74〜95、107〜126、141〜163、177〜196、216〜240および246〜267)を有し、N-末端およびC-末端の端は細胞質に位置している。
【0102】
実施例6:ZnT-8の細胞外ループ(PEP1、PEP2およびPEP4)と細胞内ループ(PEP3)に指向されたポリクローナル抗体の製造
配列番号7:PEP1:HIAGSLAVVTDAAHLL;配列番号8:PEP2:CERLLYPDYQIQATV;配列番号9:PEP3:CLGHNHKEVQANASVRおよび配列番号10:PEP4:YFKPEYKIADPICの配列を有するエピトープに対応するペプチドを、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc.、1964、85:2149〜) (1946)により初めに記載された方法に従って固相合成し、精製してキャリアタンパク質(例えばアルブミン)とコンジュゲートさせた。コンジュゲートペプチドを、次の免疫化プロトコルに従ってウサギに注入した。
D0:第1回免疫;D14:第2回免疫;D28:第3回免疫;D38:特異性の確認;D56:第4回免疫;D66およびD80:血清の採取。血清は、直接または酸性媒体での溶出を用いるプロテインAカラムでの精製の後に用いることができる。これらの操作は、ベルギーのEurogentec SA社により依頼人の材料および要求を用いて行われた。
【0103】
実施例7:実施例6で得られる抗体の蛍光標識
抗体をプロテインGカラム(Pharmacia)での親和性クロマトグラフィーにより精製する。
0.15 M NaClを含む10 mMリン酸ナトリウムバッファー、pH 7.4で平衡化したカラム(1 ml)に、血清5 mlをのせ、同じバッファー20 mlで、結合しなかったタンパク質を溶出するために洗浄する。次いで抗体を0.1M グリシン-HCl溶液、pH 2.5ではずし、次いで2M Tris-HClバッファー、pH 10.0 40μlで中和する。
【0104】
抗体2 mgを、リン酸バッファー、pH 8.0 1 ml中に希釈する。NHS-FITCの溶液 (SIGMA;DMSO中に1 mg/ml)をその場で調製する。NHS-FITC溶液75μlを抗体溶液と混合し、次いで周囲温度で45分間インキュベートする。標識抗体をPD-10カラム(PHARMACIA)で、次の様式で精製する:カラムをPBS 30 ml で洗浄し、精製されることとなる標識抗体の溶液1 ml、次いでPBS 5 mlをのせて、続いて2 mlのフラクションを回収する。標識抗体を含有する2
番目のフラクションを保存する。
【0105】
参考文献
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【0106】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7、配列番号8、配列番号9および配列番号10からなる群より選択されるエピトープを特異的に認識することを特徴とするモノクローナルまたはポリクローナル抗体。
【請求項2】
キメラ抗体、ヒト化抗体またはFabもしくはF(ab')2フラグメントである請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
標識されている請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体を少なくとも1つ含むタンパク質チップ。
【請求項5】
タンパク質チップを製造するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体の使用。
【請求項6】
配列番号7、配列番号8、配列番号9および配列番号10からなる群より選択される配列を含むタンパク質を検出および/または精製するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体または請求項4に記載のタンパク質チップの使用。
【請求項7】
生体試料中の配列番号2のタンパク質を検出するための請求項6に記載の使用。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体と生体試料を接触させる第一の工程と、
形成された抗原−抗体複合体を検出する第二の工程と
を含む、生体試料中のZnT-8タンパク質を検出する方法。
【請求項9】
a) 請求項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのモノクローナルまたはポリクローナル抗体と、
b) 免疫反応中に生成された抗原−抗体複合体を検出するための試薬と
を含むキット。
【請求項10】
ヒトの膵臓、マウスの膵臓、ラットの膵臓、ウサギの膵臓およびブタの膵臓からなる群より選択される組織の生体試料中のランゲルハンス島および/またはランゲルハンス島のベータ細胞を検出および/または選別するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体の使用。
【請求項11】
ランゲルハンス島および/またはベータ細胞を含みやすい生体試料の細胞を、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体と接触させる第一の工程と、
前記抗体で標識された細胞を検出する第二の工程と、
標識された細胞を単離する第三の工程と
を含む、ランゲルハンス島のベータ細胞を選択する方法。
【請求項12】
ランゲルハンス島のベータ細胞への幹細胞の分化の過程を追跡するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体の使用。
【請求項13】
分化を受ける幹細胞を含みやすい生体試料の細胞を、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体と接触させる第一の工程と、
前記抗体で標識された細胞を検出する第二の工程と、
標識された細胞を視覚化する第三の工程と
を含む、膵島細胞またはランゲルハンス島のベータ細胞への幹細胞の分化の過程を追跡する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−150262(P2010−150262A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5852(P2010−5852)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【分割の表示】特願2004−552811(P2004−552811)の分割
【原出願日】平成15年11月18日(2003.11.18)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Batiment (Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(505181011)ユニベルシテ ジョセフ フーリエ (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE JOSEPH FOURIER
【住所又は居所原語表記】Domaine Universitaire de Saint−Martin d’Heres,F−38041 GRENOBLE,FRANCE
【Fターム(参考)】