説明

ラン用培地及びこれを用いたラン鑑賞システム

【課題】 本発明の1つの課題は、水やり等の管理が一切必要なく長期間花を楽しむことのできるラン観賞システムを提供することである。本発明の別の課題は、蓋に通気孔を設けて容器内外の気圧差が生じないようにし、また、通気孔内には殺菌剤を含んだ通気性充填材を配置することにより、雑菌の侵入を極力抑制して長期間無菌状態を保持することのできるラン観賞システムを提供することである。
【解決手段】 本発明によるラン栽培用培地では、Vacin−Went標準培地において、少なくとも全窒素、リン及びカリウム濃度を低下させたことを特徴とする。また、本発明によるラン鑑賞システムでは、密閉可能な透明容器と、該容器底部に載置した請求項3記載のラン栽培用培地と、該培地に植栽したラン個体と、密閉蓋とからなり、該密閉蓋は前記容器内外の気圧を同じに保持する程度の通気性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラン、とりわけシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)に適した培地、及びこれを用いた長期間管理の必要のないラン鑑賞システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラン科植物は育成が難しく、特に花成を得るには厳密な管理が必要であり、一般の人が手軽に楽しめるものではなかった。
【0003】
ラン用の培地としては、Vacin−Went培地がよく知られており、種々のランの育成に用いられている。この培地には、硫酸アンモニウム500.00mg/L、リン酸3カルシウム200.00mg/L、EDTA−2ナトリウム37.26mg/L、硫酸第一鉄7水和物27.80mg/L、硫酸マグネシウム122.10mg/L、硫酸マンガン1水和物5.09mg/L、硝酸カリウム525.00mg/L、リン酸1カリウム250.00mg/L及び塩酸チアミン0.40mg/Lなど、多量栄養素および微量栄養素がバランス良く配合されている。しかし、ランの中でも背丈が小さいことで知られるシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)にこの培地を使用しても、思うように花穂が得られなかった。
【0004】
また、ラン等の植物の育成鑑賞システムとしては、特許文献1に開示されるように、容器内の密閉度が高く、外部の雑菌が侵入せず、十分な保湿性を保ち、光合成に必要な光線を取り入れることができる構造を有するサギソウの種子繁殖に適した栽培容器が提案されている。この文献は観賞用装置ではなく種子繁殖用装置に関するものであるが、駄温浅鉢内に用土を入れ、水で湿らせてからラン菌根菌を接種し、ビニール袋で覆うかまたはガラス板により蓋をする。容器に対する意図的な通気口の記述見あたらない。
【0005】
別の従来技術として特許文献2には、観賞用植物育成装置が開示されている。この装置の構成としては、透明材で形成される上ケースと、この上ケースと連結され培地を収納する収納部を備える下ケースと、これらのケース間に介在するパッキンとからなる保護ケースと、この保護ケースを支持する器台とを有し、培地に植物が植え付けられ、培地は3層からなることが記載されている。またこの装置の対象植物としては、ハエトリグサ、モウセンゴケ、ミミカキグサ等が示されている。保護ケースは雑菌の侵入を防止して無菌状態を保つと共に適度な温度を湿度を保つようになされている。培地は、それぞれの層に適応した微量栄養素等が寒天で固められた状態にされている旨の記述もある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−107799号公報
【特許文献2】特許第3118698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した既存のVacin−Went培地は、シグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の生育には一定の効果が見られるが、花穂の形成は他の条件を良くしても1年に1回程度であった。従って、本発明の1つの課題は、相応な環境に保管することにより年間を通して平均月に1回程度開花させられる培地を提供することである。
【0008】
また、特許文献1は観賞用ではなく種子繁殖用容器であり、用土を使用しているため水やりが必須となる。本発明のもう1つの課題は、水やり等の管理が一切必要なく長期間花を楽しむことのできるラン観賞システムを提供することである。
【0009】
さらに、特許文献2においては、パッキンを用いて上ケースと下ケースを密封しているが、通気孔等がないため容器内外で気圧差が生じる可能性がある。また、構成が複雑なため、育成装置自体の作成が高価となる欠点がある。本発明の別の課題は、蓋に通気孔を設けて容器内外の気圧差が生じないようにし、また、通気孔内には殺菌剤を含んだ通気性充填材を配置することにより、雑菌の侵入を極力抑制して長期間無菌状態を保持することのできるラン観賞システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明によるラン栽培用培地では、Vacin−Went標準培地において、少なくとも全窒素、リン及びカリウム濃度を低下させたことを特徴とする。特に、Vacin−Went標準培地に含まれる栄養素のうち、少なくとも前記全窒素、リン及びカリウム濃度が、標準濃度に対して30〜70%であることが好適である。また、前記培地は半固体ゲル状であることが望ましい。本発明によるラン栽培用培地は、特にシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の花穂生成に効果がある。
【0011】
上記の別の課題を解決するため本発明によるラン鑑賞システムでは、密閉可能な透明容器と、該容器底部に載置した請求項3記載のラン栽培用培地と、該培地に植栽したラン個体と、密閉蓋とからなり、該密閉蓋は前記容器内外の気圧を同じに保持する程度の通気性を有することを特徴とする。
【0012】
上記ラン鑑賞システムにおいては、密閉蓋が少なくとも1個の貫通孔を有し、該貫通孔内に通気性充填材を配置することが望ましい。また、通気性充填材は綿状物であることが好適である。充填材内に殺菌剤を充填すればさらに効果的である。このような本発明によるラン鑑賞システムは、特にシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)に適している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるラン栽培用培地は、ラン植物、特にシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の育成に適しているばかりでなく、花穂生成に特別の効果があり、相応の環境に保持することによりほぼ毎月花穂を形成させることが可能となる。
【0014】
また、本発明によるラン鑑賞システムでは、透明容器を使用することにより内部のランを明瞭に観賞することができ、また密閉に近い状態に保つことにより雑菌の侵入を抑制し、長期間ランの生育環境を良好に保持することができる。また、半個体状培地を使用することにより容器を倒しても培地が移動することがないため、ランの根に対する負荷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。ラン栽培用培地としてVacin−Went培地を標準(比較例1)とし、この標準培地に対して全窒素量、リンおよびカリウム濃度を減少させた培地を調製し、シグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)を栽培してその育成状況及び花穂生成回数について調査した。その結果を表1に示す。Vacin−Went培地(比較例1)は多くのランの生育に有効であるが、花穂の形成のために必要な栄養素は種により大きく異なってくる。表1からわかるように、発明者は研究の結果、全窒素、リン及びカリウムの量がVacin−Went培地に対して30〜70%の濃度の場合に、シグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の花穂形成が最も顕著になることを確認した。
【0016】
【表1】

【0017】
次に、上記の培地を用いた本発明によるラン鑑賞システムについて説明する。図1は本発明によるラン鑑賞システムの一実施例を示す。瓶型の透明容器3内に、上記本発明による組成の栄養素を寒天等により半固体ゲル状に固めた培地2を入れ、そこに0.5cm程度に生育したシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)1の個体を植栽する。容器3の開口部はコルク等の密閉蓋4により封止する。この密閉蓋4には少なくとも1つの貫通孔5が設けられており、この孔を通して空気が流通できる。ただし、雑菌が容器内部に侵入することを防止するため、貫通孔5内には殺菌剤をしみこませた脱脂綿等の充填材6を充填してある。
【0018】
上記の構成により、半密閉型のラン鑑賞システムが提供でき、このシステムによれば、栄養素をゲル状に固めた培地にランが植栽されていて、培地はゲル状のため水分の蒸発が極めて少ないので、水やり等の手入れをすることなく6か月から1年以上ランを観賞することができる。また、これに使用する培地は本発明によるものであり、特にシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の花穂形成に有効な成分となっているため、適切な環境に置けばほぼ毎月新しい花穂の形成が楽しめる。
【0019】
上記ラン鑑賞システムにおいては、容器は少なくとも容器の主要部が透明であればよいので、底部や開口部付近など鑑賞の邪魔にならない部分は必ずしも透明である必要はない。また、密閉蓋はゴム製が好適であるが、これに限定されるものではなく、プラスチックやコルクなど他の材質を用いることももちろん可能である。さらに、貫通孔内への充填材についても、脱脂綿に限定されるものではなく、他の材料を用いることができる。殺菌剤については、直接ランに接触するわけではないので、薬局等で入手できる一般的な殺菌剤を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
上述のように、本発明のラン栽培用培地は、ラン植物、特にシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)の育成に適しているばかりでなく、花穂生成に特別の効果があり、相応の環境に保持することによりほぼ毎月花穂を形成させることが可能となる。また、本発明によるラン鑑賞システムでは、透明容器を使用することにより内部のランを明瞭に観賞することができ、また密閉に近い状態に保つことにより雑菌の侵入を抑制し、長期間ランの生育環境を良好に保持することができる。従って、手間をかけずに長期間ランの開花を楽しむことが可能となるため、園芸鑑賞システムとして極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるラン鑑賞システムの実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ラン個体
2 ゲル状培地
3 透明容器
4 密閉蓋
5 貫通孔
6 通気性充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Vacin−Went標準培地において、少なくとも全窒素、リン及びカリウム濃度を低下させたことを特徴とするラン栽培用培地。
【請求項2】
Vacin−Went標準培地に含まれる栄養素のうち、少なくとも前記全窒素、リン及びカリウム濃度が、標準濃度に対して30〜70%であることを特徴とする請求項1記載のラン栽培用培地。
【請求項3】
前記培地が半固体ゲル状であることを特徴とする請求項1または2記載のラン栽培用培地。
【請求項4】
前記ランがシグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のラン栽培用培地。
【請求項5】
密閉可能な透明容器と、該容器底部に載置した請求項3記載のラン栽培用培地と、該培地に植栽したラン個体と、密閉蓋とからなり、該密閉蓋は前記容器内外の気圧を同じに保持する程度の通気性を有することを特徴とするラン鑑賞システム。
【請求項6】
前記密閉蓋が少なくとも1個の貫通孔を有し、該貫通孔内に通気性充填材を配置したことを特徴とする請求項5記載のラン鑑賞システム。
【請求項7】
前記通気性充填材が綿状物であることを特徴とする請求項6記載のラン鑑賞システム。
【請求項8】
前記充填材内に殺菌剤を充填してあることを特徴とする請求項6または7記載のラン鑑賞システム。
【請求項9】
前記ラン個体が、シグモルキス・プシラ(Psygmorchis Pusilla)であることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載のラン鑑賞システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−35546(P2010−35546A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229049(P2008−229049)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(508268702)
【Fターム(参考)】