説明

リアクトルおよび電気機器

【課題】コアの体積を削減し電力損失の低減が可能な、小型化のリアクトルを提供する。
【解決手段】第1の磁性体3と、互いに絶縁され、第1の磁性体と絶縁されるとともに、第1の磁性体を囲むように配置され、それぞれの一端間に入力された信号に応じて、正に結合する一対のコイル1,2と、を有し、第1の磁性体は、第1および第2の端部を有し、第1および第2の端部は、第1の磁性体が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、一対のコイルのそれぞれの一端間に入力された入力信号に基づいて、一対のコイルのそれぞれの他端間から出力信号を出力するリアクトルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電用等のパワーコンディッショナで使用されるリアクトル、電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電用等のパワーコンディッショナで使用されるリアクトルはパワーコンディッショナの普及と共に低コスト化、小型化が広く産業界から求められてきた。最近では省エネに対する対応からさらなる高効率化や省資源対応で材料削減したリアクトルの出現が望まれる。
【0003】
従来のリアクトルは特許文献1にあるような閉磁路磁性体構成とするのが一般的であった。図10は従来のリアクトル例である。リアクトルR4は第1のコイル101、第2のコイル102、第1の磁性体a(103)、第2の磁性体104、第3の磁性体105、第1の磁性体b(106)、従来リアクトルのボビン109a、109bを有する。図10において、第1の磁性体a(103)およびコイルとの絶縁を確保するための従来リアクトルのボビン109aに第1のコイル101が巻回されている。第1の磁性体b(106)およびコイルとの絶縁を確保するための従来リアクトルのボビン109bに第2のコイル102が巻回されている。ここで、従来リアクトルのボビン109a,109bはそれぞれ第1のコイル101と第2のコイル102が配置可能なように、Uの字状に形成されている。従来リアクトルのボビン109aは第1の磁性体a(103)の周囲に取り付けられており、従来リアクトルのボビン109bは第1の磁性体b(106)の周囲に取り付けられている。さらに第1のコイル101と第2のコイル102は各々別巻線により互いに絶縁された状態となっている。さらに第1の磁性体a(103)の一端と第1の磁性体b(106)の一端に第2の磁性体104が配置され、第1の磁性体1a(103)と第1の磁性体b(106)の他端に第3の磁性体105が配置されている。しかしながらこの構造では第1のコイル101と第2のコイル102を近接させる事が難しく第1のコイル101と第2のコイル102の結合度m=0.5程度が一般的であり、コイルの結合を十分大きくすることが出来なかった。また、漏れ磁束があるものの閉磁路構成を利用する為、コイルに流れる電流により発生する磁束が閉磁路を形成する磁性体内を通過することにより、磁性体による電力損失が発生していた。また、磁性体の飽和磁束を十分に得るには、磁性体を大型にする必要あり、その結果、リアクトルが大型化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−259971号(TDK株式会社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コアの体積を削減し電力損失の低減が可能な、小型のリアクトルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は、第1の磁性体と、互いに絶縁され、前記第1の磁性体と絶縁されるとともに、前記第1の磁性体を囲むように配置され、それぞれの一端間に入力された信号に応じて、正に結合する一対のコイルと、を有し、前記第1の磁性体は、第1および第2の端部を有し、前記第1および第2の端部は、前記第1の磁性体が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、前記一対のコイルのそれぞれの一端間に入力された入力信号に基づいて、前記一対のコイルのそれぞれの他端間から出力信号を出力するリアクトルとする。
【0007】
このリアクトルは電力損失の低減が可能となるように、第1の磁性体は、第1および第2の端部を有し、第1および第2の端部は、第1の磁性体が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、開磁路構成とするにより、磁性体の体積を削減し、第1の磁性体を囲むように一対のコイルを配置しているので小型のリアクトルとする事ができる効果が得られる。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記一対のコイルの一方が他方で被覆するリアクトルである。
【0009】
このリアクトルは前記一対のコイルの一方を巻回し、その上に他方のコイルを巻回するものでありコイルが巻き易い効果がある。また、一対のコイルが重なりあった構造となっているので、第1の磁性体の体積の更なる小型化が可能である。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記一対のコイルが前記第1の磁性体の中心線の方向で併設して配置するリアクトルとすることもできる。
【0011】
このリアクトルは前記一対のコイルが前記1の磁性体の中心線の方向で併設して配置することでコイル間の浮遊容量が少なくなること等により、一対のコイルにおけるインダクタンスの周波数特性が向上できる。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記一対のコイルはバイファイラ巻線とするリアクトルとすることもできる。
【0013】
このリアクトルはバイファイラ巻線とすることで巻線を容易にする効果がある。
【0014】
本発明の望ましい態様としては、前記第1の磁性体が、前記一対のコイルで囲まれた前記第1の磁性体に対する鍔部を有し、前記鍔部が前記一対のコイルと絶縁されたリアクトルとすることができる。
【0015】
このリアクトルは鍔部を設けることで一対のコイルのインダクタンスを増加させる効果がある。
【0016】
本発明の望ましい態様としては前記第1および第2の端部に対向して、前記第1の磁性体とは異なる材質の第2および第3の磁性体を配置し接続したリアクトルとすることができる。
【0017】
このリアクトルでは、一対のコイルのインダクタンスを調整することが可能である。
【0018】
本発明の望ましい態様としては、前記第2および第3の磁性体が、前記コイルで覆われた前記第1の磁性体に対する鍔部となり、前記鍔部が前記一対のコイルと絶縁されたリアクトルとすることができる。
【0019】
このリアクトルは鍔部を設けた第2および第3の磁性体により一対のコイルのインダクタンスを増加させる効果がある。
【0020】
本発明の望ましい態様としては、前記第1の磁性体の飽和磁束密度が前記第2および第3の磁性体の飽和磁束密度より大きく、前記第1の磁性体の透磁率が前記第2および第3の磁性体の透磁率より小さいリアクトルとすることができる。
【0021】
本リアクトルによれば、電流を大きくした場合でも、交流動作時の飽和磁束密度が高く(すなわち直流重畳特性が良い)、一対のコイルのインダクタンスの高いリアクトルとする効果がある。
【0022】
本発明の望ましい態様としては前記正に結合する一対のコイル間の結合度が0.8以上であるリアクトルとすることができる。
【0023】
結合度を高くすることにより正に結合した一対のコイルのインダクタンスを高くすることができる効果がある。
【0024】
本発明の望ましい態様としては、前記入力信号が複数の正、および、負のパルス信号であり、前記出力信号が交流信号であるリアクトルとすることができる。
【0025】
このリアクトルは前記入力信号が複数の正、および、負のパルス信号でありこのリアクトルにより前記出力信号を交流信号に変換する効果がある。
【0026】
本発明の望ましい態様としてはこのリアクトルを有する電気機器とすることができる。
【0027】
本リアクトルを有する回路としてスイッチング波形を平滑する回路等がある。また前記回路を有する機器としてパワーコンディショナやインバータ電源、DC-DCコンバータ等があり、様々な電気機器とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本リアクトルは第1の磁性体を囲むように一対のコイルを配置し、さらに開磁路構成により磁性体の体積を削減することで電力損失を削減し、小型のリアクトルとする事ができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示すリアクトルR1の断面図
【図2】本発明の他の実施形態を示すリアクトルR2の断面図
【図3】本発明の他の実施形態を示すリアクトルR3の断面図
【図4】第1の磁性体の他の形態例
【図5】第1の磁性体の他の形態例
【図6】第1の磁性体の他の形態例
【図7】第1の磁性体の他の形態例
【図8】第1の磁性体の他の形態例
【図9】第1の磁性体の他の形態例
【図10】従来のリアクトルR4の断面図
【図11】リアクトルの接続例
【図12】本実施形態のリアクトルと従来リアクトルの直流重畳特性
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図1から図9に基づいて説明する。図1は本実施形態のリアクトルR1の実施形態の断面図である。リアクトルR1は第1のコイル1、第2のコイル2、第1の磁性体3、第2の磁性体4、第3の磁性体5、仕切りを設けた分割コイル用ボビン7を有する。
【0031】
図1において、第1の磁性体3および、コイルとの絶縁を確保するための仕切りを設けた分割コイル用ボビン7に1対のコイル、すなわち、第1のコイル1及び第2のコイル2が巻回されている。ここで、仕切りを設けた分割コイル用ボビン7は第1のコイル1と第2のコイル2が配置可能なように、分割されたそれぞれのボビンがUの字状に形成され、さらに、一体になった構造となっており、第1のコイル1と第2のコイル2とが仕切りを設けた分割コイル用ボビン7によって、互いに絶縁された状態となっている。つまり、第1のコイル1、第1のコイル2が第1の磁性体3の中心線の方向で併設して配置されている。ここで、中心線とは、第1の磁性体3のコイルが巻かれる方向の中心である第1の磁性体3の線分およびその延長をを指す。また、仕切りを設けた分割コイル用ボビン7は、第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体3の周囲に取り付けられている。さらに第1の端部に第2の磁性体4を配置し、第2の端部には第3の磁性体5が配置されている。
【0032】
ここで、第2の磁性体4および第3の磁性体5とは、第1の磁性体3の第1の端部および第2の端部にそれぞれが接して配置されるとともに、第1の端部および第2の端部より、その最大となる幅が広く形成されている。従って、第2の磁性体4および第3の磁性体5とは、第1のコイル1および第2のコイル2とが配置されるコイルの中心線の長さ方向の領域を規定することになる。また、第2の磁性体4および第3の磁性体5の最大となる幅が第1の端部および第2の端部より広くなる領域は第1の磁性体3の全周囲方向の全方向であることが好ましい。
【0033】
但し、第2の磁性体4および第3の磁性体5を安定して固定配置するなどの要求に応じて、第2の磁性体4および第3の磁性体5とを多角形構造とする場合においては、少なくとも多角形構造を形成する平面の端部である直線部が第1の端部および第2の端部と接する構造としても良く、多角形構造を形成する平面内部に第1の端部、および第2の端部が存在するように形成されていても良い。すなわち、第2の磁性体4、および、第3の磁性体5が鍔部を形成しても良い。このように、第1の磁性体3が、コイルで囲まれた第1の磁性体3に対する鍔部を有し、鍔部が一対のコイルと絶縁されているので、一対のコイルのインダクタンスを増加させることが可能となっている。
【0034】
ここで、本実施形態のリアクトルR1においては、第1の磁性体3の両端部が、第1の磁性体3が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成されている。つまり、開磁路構成とするにより、閉磁路を形成する一般的なコア形状とは異なり、第1の磁性体3の体積が低減している。よって、一対のコイルに流れる電流により発生する磁界による第1の磁性体3による電力損失を従来よりも低減することが可能となっている。
【0035】
なお、本リアクトルR1においては、第1のコイル1、第2のコイル2が第1の磁性体3の中心線の方向で併設して配置されているので、第1のコイル1および第2のコイル2間の浮遊容量を低減することも可能となっている。ここで、中心線とは、第1の磁性体3のコイルが巻かれる方向の中心である第1の磁性体3の線分およびその延長をを指す。
【0036】
なお、本リアクトルR1においては、例えば第1の磁性体3として飽和磁束密度の高い圧粉材による磁性体(例えば、鉄粉による)を使用し、第2の磁性体4、および、第3の磁性体5として、第1の磁性体3よりも飽和磁束密度の低いものの透磁率が高く、第1の磁性体3よりも電力損失が少ないフェライトを使用することで、一対のコイルに流れる電流よって発生する磁束において、磁束が多いコイル内部に配置された第1の磁性体3の飽和磁束密度が高い特長を活かせるので、インダクタンスの直流重畳特性を良くし、電力損失を少なくすることが可能となる。さらに、第2の磁性体4、および、第3の磁性体5は、コイル内部に配置された第1の磁性体3よりも磁束が少ない為にコイル内部に配置された第1の磁性体3よりも飽和磁束密度が少なくても良いフェライトの特徴を活かすことができる。つまり、第1の磁性体3の両端部に対向して配置されるとともに、第1の磁性体3とは異なる材質の第2の磁性体4、および、第3の磁性体5は、第1の磁性体3より透磁率が高く、さらに第2の磁性体4、および、第3の磁性体5が鍔部を形成し、磁性体が磁束の流れる方向に伸びていることによる反磁場係数の低減により、インダクタンスを大きくすることができる。その結果、第1の磁性体の飽和磁束密度が第2および第3の磁性体の飽和磁束密度より大きく、電流を大きくした場合でも、交流動作時の飽和磁束密度が高く(すなわち直流重畳特性良い)、一対のコイルのインダクタンスの高いリアクトルとすることが可能となる。
【0037】
次に、リアクトルR1の動作について、説明する。一対のコイルのそれぞれの一端間には入力信号が入力され、この入力信号に基づいて、一対のコイルのそれぞれの他端間から出力信号を得ることが可能になっている。ここで、入力信号は連続的な交流信号、あるいは、矩形波を利用するパルス信号であってもよく、あるいは、矩形波を利用する場合は、正おおび負の矩形波の両方を入力信号としても良い。連続的な交流信号を入力信号とする場合、出力信号も連続的な交流信号とすることが可能である。また、矩形波を利用するパルス信号を入力信号とする場合は、一対の出力端の間にコンデンサを接続することにより、出力端間からの出力信号の高周波成分を低減した信号とすることが可能となっている。また、正および負の矩形波の両方を入力信号とする場合も、また、一対の出力端の間にコンデンサを接続することで、出力信号の高周波成分を低減することが可能となるので、適宜、コンデンサの値を調整することで、高周波成分(リップル、ノイズ成分)が低減された所望の出力信号を得ることが可能となっている。なお、所望の信号を出力できる場合、コンデンサを出力端間に接続しなくても良い。
【0038】
ここで、第1のコイル1と第2のコイル2の一対のコイルのそれぞれの入力端間に入力信号が入力され、一対のコイルのそれぞれの出力端間から出力信号を出力するに当たり、一対のコイルは正に結合するように構成されている。従って、一対のコイルのインダクタンスを上げることが可能となっている。
【0039】
ここで、第1のコイル1と第2のコイル2の一対のコイルのそれぞれの入力端間に入力信号が入力され一対のコイルのそれぞれの出力端間から出力信号を出力するとき、第1のコイル1と第2のコイル2に電流が流れる。この時流れる電流により第1のコイル1と第2のコイル2に磁束が発生するが、各々の磁束が強めあうよう状態が正に結合するという。すなわち第1のコイル1と第2のコイル2のインダクタンスがそれぞれL1=L2=Lであれば、第1のコイル1と第2のコイル2からなる一対のコイルの直列インダクタンスLs=L1+L2+2m√(L1・L2)となるように第1のコイル1と第2のコイル2が接続される。ここで、mは第1のコイル1と第2のコイル2の結合度である(mは0〜1)。
【0040】
本リアクトルによれば、第1の磁性体3と、互いに絶縁され、第1の磁性体3と絶縁されるとともに、第1の磁性体3を囲むように配置され、それぞれの一端間に入力された信号に応じて、正に結合する一対のコイルと、を有し、 第1の磁性体3は、第1および第2の端部を有し、第1および第2の端部は、第1の磁性体3が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、一対のコイルのそれぞれの一端間に入力された入力信号に基づいて、一対のコイルのそれぞれの他端間から出力信号を出力しているので、電力損失の低減が可能となるように、第1の磁性体3は、第1および第2の端部を有し、第1および第2の端部は、第1の磁性体3が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、第1の磁性体3を囲むように一対のコイルを配置しているので小型のリアクトルとする事ができる。
【0041】
また、第1の磁性体3が、コイルで囲まれた第1の磁性体3に対する鍔部を有し、鍔部が一対のコイルと絶縁されているので、一対のコイルのインダクタンスを増加させることが可能となっている。
【0042】
また、第1のコイル1、第2のコイル2が第1の磁性体の中心線の方向で併設して配置されているので、第1のコイル1および第2のコイル2間の浮遊容量を低減することも可能となっている。
【0043】
図2は本実施形態の他の実施形態であるリアクトルR2の断面図である。図1と異なるのは第1のコイル11、第2のコイル12、および、ボビン18の構造であるので、以下に説明する。なお、図1の構造と同等部分いついての記載は割愛する。リアクトルR2は第1のコイル11、第2のコイル12、第1の磁性体13、第2の磁性体14、第3の磁性体15、仕切りのないボビン18を有する。
【0044】
図2において、ボビン18にコイル11が巻回され、さらにその上にコイル12が巻回されている。第1のコイル11の巻回の後に、第1のコイル11と第2のコイル12との間の絶縁を強化する為に第1のコイル11と第2のコイル12の間に層間テープを巻回しても良い。ここで、ボビン18は巻回される第1のコイル11と第2のコイル12が配置可能なようにボビン18がUの字状に形成され、磁性体と一対のコイルとの絶縁が可能となっている。また、ボビン18は、第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体13の周囲に取り付けられている。さらに第1の端部に第2の磁性体14を配置し第2の端部には第3の磁性体15を配置する。
【0045】
このリアクトルは一対のコイルの一方を巻回し、その上に他方のコイルを巻回するものでありコイルが巻き易い効果がある。また、一対のコイルが重なりあった構造となっているので、第1の磁性体の体積の更なる小型化が可能となっている。
【0046】
図3は本実施形態の他の実施形態であるリアクトルR3の断面図である。なお、図1の構造と同等部分についての記載は割愛する。リアクトルR3は第1のコイル21、第2のコイル22、第1の磁性体23、第2の磁性体24、第3の磁性体25、仕切りのないボビン28を有する。
【0047】
図3において、ボビン28に第1のコイル21と第2のコイル22がバイファイラにて巻回されている。ここで、ボビン28はバイファイラにより巻回される第1のコイル21と第2のコイル22が配置可能なようにボビン28がUの字状に形成され、磁性体と一対のコイルの絶縁が可能となっている。また、ボビン28は、第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体23の周囲に取り付けられている。さらに第1の端部に第2の磁性体24を配置し第2の端部には第3の磁性体25を配置する。
【0048】
このリアクトルはバイファイラ巻線とすることで巻線を容易にする効果がある。
【0049】
ここで、リアクトルR1、リアクトルR2、リアクトルR3において、第1の磁性体は断面が円、楕円、正方形、長方形、多角形等製造上の便宜等から多様な形態がある。また、第2の磁性体、第3の磁性体も、また、円、楕円、正方形、長方形、多角形等の板状のものからブロック状のもの等様々な形態を取ることができる。ここで、第2の磁性体および第3の磁性体の最大となる幅が第1の磁性体の第1の端部および第2の端部より広くなる領域は第1の磁性体の全周囲方向の全方向であることが好ましい。さらに、第1の磁性体の第1の端部および第2の端部より広くなる領域の好ましい最大外周は一対のコイルの最大外周と同じであることであるが、異なっても良い。
【0050】
但し、第2の磁性体および第3の磁性体を安定して固定配置するなどの要求に応じて、第2の磁性体および第3の磁性体とを、正方形、長方形、多角形構造とする場合においては、少なくとも正方形、長方形、多角形構造を形成する平面の端部である直線部が第1の端部および第2の端部と接する構造としても良く、正方形、長方形、多角形構造を形成する平面内部に第1の端部、および第2の端部が存在するように形成されていても良い。
【0051】
図4〜図9は第1の磁性体の別の実施形態例である。図4は第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体において第1の端部に第2の磁性体34、第2の端部に第3の磁性体35が配置されて、さらに第1の磁性体の中央で、中心線と直交する平面で、第1の磁性体分割1a(33a)、第1の磁性体分割2b(33b)に2分割されている。なお、第1の磁性体は2分割以上に複数に分割することもできる。また、分割箇所は等分にしなくても良い。
【0052】
図5は第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体において第1の端部及び第2の端部が鍔部となり、さらにコイルが巻回された部分の磁性体の中央で、中心線と直交する平面で第1の磁性体分割a(43a)、第1の磁性体分割b(43b)に等しく分割された場合である。なお、分割箇所は特に限定されない。
【0053】
例えば、図6のように、分割は中央に限らず第1の磁性体3の中央で無い部分において、中心線と直交する平面で第1の磁性体分割a(53a)、第1の磁性体分割b(53b)に分割されても良い。
【0054】
さらに、第1の磁性体を使用したコイルでは磁性体の分割部に隙間を設けることで、コイルに大電流を使用する場合において、磁束の飽和が発生しないようにするために、インダクタンスを減少しかつインダクタンスの直流重畳特性を改善することができる。これを利用してインダクタンスやインダクタンスの直流重畳特性を調整することがあるが、上記構成においても分割部の隙間は調節可能である。また、図1〜4、図6の構成では、第1の磁性体と、第2の磁性体および/または第3の磁性体との間に隙間を設けても良い。
【0055】
図7は第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体63において第1の端部及び第2の端部が鍔部となり分割しないで一体としたものである。この場合にボビンを使用する場合はボビンはあらかじめ分割されていて、分割されたボビンが第1の磁性体63の周りに配置される事になる。
【0056】
図8は第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体73においてが第1の端部あるいは第2の端部のどちらか片側のみ鍔部を設けたものである。
【0057】
図9は第1の端部及び第2の端部を持つ第1の磁性体83において第1の端部及び第2の端部の両端部が鍔部をもたないものである。
【0058】
上記の通り、図1〜図9のように、様々な変形が考えられ、これらの変形をそれぞれ組み合わせても良い。
【0059】
なお、図1から図6の実施形態においては、第1および第2の端部に対向して、第1の磁性体とは異なる材質の第2および第3の磁性体を配置し接続したリアクトルとしてもよく、一対のコイルのインダクタンスを調整することが可能である。
【0060】
なお、図1〜7の実施形態では、第2および第3の磁性体が、コイルで覆われた第1の磁性体に対する鍔部となり、鍔部が前記一対のコイルと絶縁されたリアクトルとすることができるので、鍔部を設けた第2および第3の磁性体により一対のコイルのインダクタンスを増加させることが可能である。
(実施例1)
【0061】
以下、上記構成の動作を図1の構成例で説明する。最初に参考例として、図10のリアクトルの構成について説明する。ここで、図10は従来のリアクトルR4の実施形態の断面図である。
【0062】
図10において、第1の磁性体a(103)およびコイルとの絶縁を確保するための絶縁性を有するボビン109aに第1のコイル101が巻回されている。第1の磁性体b(106)およびコイルとの絶縁を確保するための絶縁性を有するボビン109bに第2のコイル102が巻回されている。ここで、ボビン109a,109bはそれぞれ第1のコイル101と第2のコイル102が配置可能なように、Uの字状に形成されている。絶縁性を有するボビン109aは第1の磁性体a(103)の周囲に取り付けられており、絶縁性を有するボビン109bは第1の磁性体b(106)の周囲に取り付けられている。さらに第1のコイル101と第2のコイル102は、各々空間的に異なる場所に別巻線により互いに絶縁された状態となっている。さらに第1の磁性体a(103)の一端と第1の磁性体b(106)の一端に第3の磁性体104が配置され、第1の磁性体a(103)と第1の磁性体b(106)の他端に第4の磁性体105が配置されている。
【0063】
第1のコイル101と、第2のコイル102はそれぞれの一端間に入力された信号に応じて正に結合する一対のコイルである。ここで、第1のコイル101と第2のコイル102のインダクタンスがそれぞれL1=L2=Lであれば、コイル同士が離れているため結合度が低い。結合度m=0.5の場合 一対のコイルの直列インダクタンスLs=L1+L2+2m√(L1・L2)=3Lとなる。
【0064】
本実施形態の図1における第1のコイル1と第2のコイル2もそれぞれの一端間に入力された信号に応じて正に結合する一対のコイルである。図11はリアクトルを使用した回路例である。
【0065】
太陽光発電用等パワーコンディッショナのインバータ部で生成された図11の例にあるようなスイッチング波形をリアクトルの第1のコイル1と第2のコイル2の一端間に入力し第1のコイル1と第2のコイル2の他端間に接続されたコンデンサを介して出力する。入力されるスイッチング波形とは、PWM変調(パルス幅変調)された矩形波の集合である。ここで、実際に入力するスイッチング波形は周波数15kHz、入力電圧380Vであり、第1のコイル1と第2のコイル2の入力端間に入力した。このときに第1のコイル1と第2のコイル2に流れる電流による磁束はお互いに強めあう正の結合となる。つまり、等価的には第1のコイル1と第2のコイル2を直列に接続することになる。本実施形態では一対のコイルすなわち第1のコイル1及び第2のコイル2が近接して巻回されているので第1のコイル1と第2のコイル2の結合度は大きくm=0.9程度になる。本実施形態ではm=0.9の場合Ls=3.8Lとなり同じ巻数の場合はインダクタンス比は3:3.8(約26.7%大きい)となる。
【0066】
本実施例では、前記正に結合する一対のコイル間の結合度が0.8以上であるリアクトルとすることができる。結合度m=0.8の場合 一対のコイルの直列インダクタンスLs=L1+L2+2m√(L1・L2)=3.6Lとなり同じ巻数の場合はインダクタンス比は3:3.6となる。結合度を高くすることにより正に結合した一対のコイルのインダクタンスを高くすることができる効果がある。
【0067】
一対のコイルの直列インダクタンスを同じとする場合は本実施形態の場合は巻数を少なくすることができる。そこで、以下のような構成を使用したリアクトルを作成した。本実施形態のリアクトル例は図2の構成と同等であり第1のコイル11は、52ターン(Φ1mm1層52ターン9層並列接続)、第2のコイル12は、52ターン(Φ1mm1層52ターン9層並列接続)である。また、コイル部内の第1の磁性体13はφ26mm長さ75mmの棒状の磁性体を三分割したもの(各々φ26mm長さ25mm)で初透磁率120、飽和磁束密度1290mTである。第2の磁性体14、及び第3の磁性体15は共に直方体で46mmx46mmx8mm、初透磁率2200、飽和磁束密度540mTである。ここで、第1の磁性体、第2の磁性体、第3の磁性体のそれぞれの端部同士を接触させて配置した。
【0068】
従来リアクトル例は図10の構成であり第1のコイル101は、52ターン(Φ1mm1層52ターン9層並列接続)、第2のコイル102は、52ターン(Φ1mm1層52ターン9層並列接続)である。また、コイル部内の第1の磁性体(103、106)はφ24mm長さ60mmの棒状の磁性体を三分割したもの(各々φ24mm長さ20mm)で初透磁率100、飽和磁束密度1600mTである。第2の磁性体104、及び第3の磁性体105は共に直方体で70mmx24mmx20mm、初透磁率100、飽和磁束密度1600mTである。
【0069】
図12は前記本実施形態の図2の構成を使用したリアクトルと従来リアクトルの直流重畳特性(電流―インダクタンス)の比較例である。本実施形態のリアクトルでは同じ巻数のコイルを使用しているにも関わらず、一対のコイルのインダクタンスが大きく、従来リアクトルでは電流の増加と共に一対のコイルのインダクタンスが徐々に低下しているが、本実施形態のリアクトル例では電流の増加に伴う一対のコイルのインダクタンスの低下が少ない。この時の使用した磁性体の体積は本実施形態のリアクトル例で121487立方mm、従来リアクトル例では78676立方mmであり、コアの体積を約40%削減できる。また、本実施形態のリアクトルにおけるリアクトルの効率は99.50%、従来リアクトルではリアクトルの効率は99.43%であり、本実施形態のリアクトルの効率が良い、すなわち電力損失が少ない。この結果コアの体積を削減し電力損失低減、リアクトルの小型化の可能となった。
【0070】
なお、第1の磁性体を3分割せずひとつの磁性体で形成された場合も同様の結果となった。なお、入力信号は図11に示された正、および、負のパルス信号を有する15kHzサイクルのPWM信号(パルス幅変調信号)で、出力信号は50Hzの正弦波信号(Sin信号)である。
【0071】
図2に開示された実施形態でも、前記正に結合する一対のコイル間の結合度が0.8以上であるリアクトルとすることができる。結合度m=0.8の場合 一対のコイルの直列インダクタンスLs=L1+L2+2m√(L1・L2)=3.6Lとなり同じ巻数の場合はインダクタンス比は3:3.6となる。結合度を高くすることにより正に結合した一対のコイルのインダクタンスを高くすることができる効果がある。
【0072】
また、電流を大きくした場合でも、交流動作時の飽和磁束密度が高く(すなわち直流重畳特性が良い)、一対のコイルのインダクタンスの高いリアクトルとすることが可能となった。
【0073】
図1のリアクトルに入力されたスイッチング波形により第1のコイル1及び第2のコイル2に電流が流れ、これによる磁束が第1のコイル1及び第2のコイル2の内側にある第1の磁性体を通り第1の端部に接続された第2の磁性体4より磁性体が存在しない空間を介して第3の磁性体5を経由して第2の端部から第1の磁性体に戻る。このとき磁性体が存在しない空間を介することで従来のリアクトルでは存在していた磁束が通過する磁性体の電力損失が発生しないために電力が軽減でき、磁性体が存在しない部分の磁性体を削減できる。つまり、このリアクトルは電力損失の低減が可能となるように、第1の磁性体は、第1および第2の端部を有し、第1および第2の端部は、第1の磁性体が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、磁性体の体積を削減し、第1の磁性体を囲むように一対のコイルを配置しているので、小型のリアクトルとする事ができる効果が得られる。これにより材料削減、小型化、高効率が可能となった。
【0074】
また、第1の磁性体の飽和磁束密度が第2および第3の磁性体の飽和磁束密度より大きく、第1の磁性体の透磁率が前記第2および第3の磁性体の透磁率より小さくすることで、電流を大きくした場合でも、交流動作時の飽和磁束密度が高く(すなわち直流重畳特性が良い)、一対のコイルのインダクタンスの高いリアクトルとすることが可能となった。
【0075】
本実施形態の構成例として磁性体とコイルの絶縁の為にボビンを有する場合を記載したがエポキシ樹脂等で磁性体を絶縁コーディングして使用することでボビンを使用しないこともできる。さらには巻線の絶縁被覆だけを用いて絶縁を取ることによりボビンも磁性体の絶縁コーティングも使用しないで構成することもできる。
【0076】
本実施形態の望ましい別の態様としてはこのリアクトルを有する電気機器とすることができる。本リアクトルを有する回路としてスイッチング波形を平滑する回路等がある。また前記回路を有する機器としてパワーコンディショナやインバータ電源、DC-DCコンバータ等があり、様々な電気機器とすることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 第1のコイル
2 第2のコイル
3 第1の磁性体
4 第2の磁性体
5 第3の磁性体
7 仕切りを設けた分割コイル用ボビン
11 第1のコイル
12 第2のコイル
13 第1の磁性体
14 第2の磁性体
15 第3の磁性体
18 仕切りの無いボビン
21 第1のコイル
22 第2のコイル
23 第1の磁性体
24 第2の磁性体
25 第3の磁性体
28 仕切りの無いボビン
33a 第1の磁性体分割a
33b 第1の磁性体分割b
34 第2の磁性体
35 第3の磁性体
43a 第1の磁性体分割a
43b 第1の磁性体分割b
53a 第1の磁性体分割a
53b 第1の磁性体分割b
63 第1の磁性体
73 第1の磁性体
83 第1の磁性体
101 第1のコイル
102 第2のコイル
103 第1の磁性体a
104 第2の磁性体
105 第3の磁性体
106 第1の磁性体b
109a 従来リアクトルのボビン
109b 従来リアクトルのボビン
R1 本実施形態のリアクトルR1
R2 本実施形態のリアクトルR2
R3 本実施形態のリアクトルR3
R4 従来のリアクトルR4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性体と、互いに絶縁され、前記第1の磁性体と絶縁されるとともに、前記第1の磁性体を囲むように配置され、それぞれの一端間に入力された信号に応じて、正に結合する一対のコイルと、を有し、 前記第1の磁性体は、第1および第2の端部を有し、前記第1および第2の端部は、前記第1の磁性体が存在しない空間を介して、互いに直接的に対向することなく形成され、前記一対のコイルのそれぞれの一端間に入力された入力信号に基づいて、前記一対のコイルのそれぞれの他端間から出力信号を出力するリアクトル。
【請求項2】
前記一対のコイルの一方が他方で被覆された請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記一対のコイルが前記第1の磁性体の中心線の方向で併設して配置された請求項1に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記一対のコイルはバイファイラ巻線である請求項1に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記第1の磁性体が、前記コイルで囲まれた前記第1の磁性体に対する鍔部を有し、前記鍔部が前記一対のコイルと絶縁された請求項1乃至4に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記第1および第2の端部に対向して、前記第1の磁性体とは異なる材質の第2および第3の磁性体を配置し接続した請求項1乃至5に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記第2および第3の磁性体が、前記コイルで覆われた前記第1の磁性体に対する鍔部となり、前記鍔部が前記一対のコイルと絶縁された請求項6にリアクトル。
【請求項8】
前記第1の磁性体の飽和磁束密度が前記第2および第3の磁性体の飽和磁束密度より大きく、前記第1の磁性体の透磁率が前記第2および第3の磁性体の透磁率より小さい請求項6または7に記載のリアクトル。
【請求項9】
前記入力信号が複数の正、および、負のパルス信号であり、前記出力信号が交流信号である請求項1乃至8に記載のリアクトル。
【請求項10】
前記正に結合する一対のコイル間の結合度が0.8以上である請求項1乃至9に記載のリアクトル。
【請求項11】
請求項1乃至10に記載のリアクトルを有する電気機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−51288(P2013−51288A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187709(P2011−187709)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】