説明

リアクトル装置の振動測定方法および振動測定装置

【課題】リアクトル装置に対して通電して生じる振動の振動値を従来よりも短時間で測定することができるリアクトル装置の振動測定方法および振動測定装置を提供する。
【解決手段】リアクトル装置10の振動値を測定する振動測定方法において、ダストコアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、リアクトル装置10の温度を変化させる目的の温度範囲に対応してコイル13に流す交流電流Iacの電流周波数f(周波数)を変化させる周波数範囲(所定範囲)を決定する周波数範囲決定工程と、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲内で変化させてリアクトル装置10に生じる振動の振動値を測定する振動値測定工程とを有する構成とした。この構成によれば、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲で変化させるだけでよいので、短時間で振動値を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電時にリアクトル装置で発生する振動の振動値を測定するリアクトル装置の振動測定方法と、その振動測定方法を実現する振動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、放熱性に優れ、かつ、簡易にリアクトルの組付けができるリアクトル装置に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。このリアクトル装置は、成形ケースとリアクトルケースとを備え、成形ケースの外表面に突起を備える。
【0003】
上記リアクトル装置を含めて、一般的にリアクトル装置に対して所定の温度範囲における振動値を測定しようとすれば、測定対象となるリアクトル装置の温度を変化させる必要がある。この場合には、測定点となる温度に達するごと(例えば5度ごと等)に、リアクトル装置に通電して生じる振動の振動値を測定器で測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−003838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
設置環境に多少の影響を受けるものの、コイルへの通電に伴ってリアクトル装置の温度が変化する。しかし、目的とする範囲の温度を変化させるには、通電し続けなければならないので時間を要する。リアクトル装置の温度を速く変化させるには、コイルに通電する電流を大きくすればよい。ところが、コイルの損傷を防止するために定格電流を超える電流を流すことはできないので、温度を速く変化させるには限界があった。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、測定対象(「検査対象」とも呼ぶ。以下同じである。)となるリアクトル装置に対して通電し、測定範囲の温度(測定点となる複数の温度)において生じる振動の振動値を従来よりも短時間で測定することができるリアクトル装置の振動測定方法および振動測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、通電に伴って磁束を発生するコイルと、前記コイルが発生した磁束の磁路となるコアと、前記コイルと前記コアとを収容するケースとを有するリアクトル装置の振動値を測定するリアクトル装置の振動測定方法において、前記コアは、前記コアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応し、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲を決定する周波数範囲決定工程と、前記コイルに流す電流の周波数を前記所定範囲内で変化させ、前記リアクトル装置に生じる振動の振動値を測定する振動値測定工程とを有することを特徴とする。
【0008】
温度変化とともにヤング率が変化する特性を備えるコアは、例えば「ダストコア」に代表されるように、少なくとも磁性体(主に磁性粉末)や樹脂を用いて形成される。ヤング率は、樹脂のような弾性的性質を有する物質では温度によって変化することが知られている。そのため、温度変化に伴ってヤング率が変化すると、コア(ひいてはリアクトル装置)の共振周波数(「固有振動数」とも呼ぶ。)も変化する。
【0009】
一方、コアの温度を一定に維持しながら、コイルに電流(交流電流)の周波数を変化させると、コア(ひいてはリアクトル装置)の振動値も変化する。コアの温度を様々に変えて一定に維持しながら同様に電流の周波数を変化させると、上述したヤング率の変化に伴う共振周波数の変化と同等の変化をすることを発見した。言い換えると、電流の周波数をある一定の周波数を基準にすれば、コアの温度に対するコアの振動値の変化として捉えることができる。そこで、コアの温度に対応するヤング率を媒介として、電流の周波数に対応するコアの振動値を測定する、というのが本発明の原理である。
【0010】
この構成によれば、コイルに流す電流の周波数を所定範囲(すなわち測定目的の温度範囲に相当する周波数範囲)で変化させるだけで、リアクトル装置に生じる振動の大きさ(本明細書では単に「振動値」と呼ぶ。)を測定することができる。したがって、リアクトル装置の温度管理を行うことなく、短時間で振動値を測定することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記振動値測定工程は、前記所定範囲で電流の周波数を変化させて測定される振動のピーク値を、前記目的の温度範囲における振動のピーク値とすることを特徴とする。この構成によれば、所定範囲でコイルに流す電流の周波数を変化させて測定される振動値をピーク値とする。上述したようにヤング率を媒介として電流の周波数に対応する振動値を測定できるので、電流の周波数を所定範囲で変化させたときの振動値の最高値がそのままピーク値となる。したがって、振動のピーク値を簡単に特定できるので、規格品としての良否判定を容易に行える。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記振動値測定工程は、前記リアクトル装置の温度を所定温度で維持する環境下で、前記所定範囲内で前記コイルに流す電流の周波数を変化させることを特徴とする。この構成によれば、リアクトル装置の温度管理が行われるので、振動値をより正確に測定することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記周波数範囲決定工程は、前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応して、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる範囲を特定するための係数値を、前記リアクトル装置の状態に基づいて決定することを特徴とする。この構成によれば、リアクトル装置の状態に基づいて係数値を決定するので、コイルに流す電流の周波数にかかる所定範囲をより正確に特定することができる。したがって、振動値をより正確に測定することができる。なお「リアクトル装置の状態」には、例えばリアクトル装置(コイルやコア等)の形態(すなわち形状,材質,磁性体の含有率等)、リアクトル装置(具体的にはコア)の現在温度、コアのヤング率などのうちで一以上を含む。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記周波数範囲決定工程は、特定された前記係数値と、前記リアクトル装置の現在温度とに基づいて、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる範囲を特定することを特徴とする。この構成によれば、リアクトル装置の現在温度を考慮するので、コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲をより正確に特定することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、通電に伴って磁束を発生するコイルと、前記コイルが発生した磁束の磁路となるコアと、前記コイルと前記コアとを収容するケースとを有するリアクトル装置の振動値を測定するリアクトル装置の振動測定装置において、前記コアは、前記コアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応し、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲を決定する周波数範囲決定手段と、前記周波数範囲決定手段によって決定された前記所定範囲内で、前記周波数を変化させながら電流を前記コイルに流す交流電源と、前記電流が前記コイルに流れる際に、前記リアクトル装置に生じる振動の振動値を測定する振動値測定手段とを有することを特徴とする。この構成によれば、請求項1に記載の発明と同様に、リアクトル装置の温度管理を行うことなく、短時間で振動値を測定することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応させて前記コイルに流す電流の周波数を所定範囲で変化させ、測定される振動のピーク値を前記目的の温度範囲における振動のピーク値とすることを特徴とする。この構成によれば、請求項2に記載の発明と同様に、振動のピーク値を簡単に特定できるので、規格品としての良否判定を容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リアクトル装置の構成例を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示すII−II線矢視における縦断面図である。
【図3】振動測定装置の構成例を示す模式図である。
【図4】コア温度とヤング率との関係を説明するグラフ図である。
【図5】コア温度と共振周波数(固有振動数)との関係を説明するグラフ図である。
【図6】コア温度と電流の周波数との関係を説明するグラフ図である。
【図7】電流の周波数および温度に対する振動数の関係を説明するグラフ図である。
【図8】振動測定(検査)処理の手続き例を示すフローチャートである。
【図9】電流の周波数と振動数との関係を説明するグラフ図である。
【図10】リアクトル装置の使用例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「電流」という場合には交流電流を意味し、「接続する」という場合には電気的な接続を意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向は、図面の記載を基準とする。周波数について混乱を回避するため、交流電流の周波数は「電流周波数」と呼び、振動の周波数(振動数)は「振動周波数」と呼ぶことにする。
【0019】
まず、振動値の測定対象であるリアクトル装置の構成例について、図1と図2を参照しながら説明する。図1にはリアクトル装置の構成例を模式的に平面図で示す。図2には図1に示すII−II線で切断した縦断面図で示す。
【0020】
図1および図2に示すリアクトル装置10は、ケース11,ダストコア12,コイル13,端子部14,中芯(なかしん)15などを有する。ケース11の形状は、ダストコア12,コイル13,中芯15等を収容可能であれば任意の形状を適用できる。本形態のケース11では、一例として上方が開口する箱状の筐体(直方体形状の側面角部が丸められている)に形成する。またケース11の材質は、ダストコア12が硬化する硬化温度(例えば120〜170℃等)の耐熱性を有する任意の材質を適用できる。本形態のケース11には、一例として金型鋳造法によって製作されたアルミダイカストを用いる。
【0021】
ケース11は、収容部11a,締結穴11b,中芯15などを有する。収容部11aは内壁面と底面とで囲まれた空間であり、コイル13やダストコア12などを収容する。ケース11の底面には、締結部材19を用いて中芯15を固定するための締結穴11dが形成されている。締結穴11dは、締結部材19の頭頂面を底面とほぼ同じ位置にして段差を無くすための座ぐり(ザグリ)を有する。なお図示しないが、ケース11と中芯15とを一体形成してもよく(例えば鋳造法など)、この場合は締結部材19が不要になる。
【0022】
リアクトル装置10の振動値を測定するにあたって、温度センサ16,加振器17,振動センサ18などを所定位置(例えばケース11の外側面など)に取り付ける。温度センサ16は、リアクトル装置10の温度(主にダストコア12の温度)を測定する際に用いられ、例えばサーミスタや測温抵抗体などが該当する。加振器17は、リアクトル装置10に固有の振動数(すなわち共振周波数)を測定する際に用いられ、例えば打撃装置やバイブレータなどが該当する。打撃装置の一例は、ハンマー,モータ,制御部等を備え、後述する振動制御信号vcに従ってハンマーでケース11を打撃する機能を有する。「振動値測定手段」に相当する振動センサ18は、交流電流Iacを流すに伴って生じるリアクトル装置10の振動の大きさ(以下では「振動値」)を測定可能なセンサであれば任意である。例えば、加速度センサやレーザドップラー振動計などが該当する。
【0023】
ダストコア12は「コア」に相当する。このダストコア12は、ダストコア12自体の温度変化とともにヤング率が変化する特性を備えていれば材質(成分)を問わない。本形態のダストコア12には、磁性粉末と樹脂とを混合させて硬化(「固化」とも呼ぶ。)させた磁性粉末混合樹脂を用いる。磁性粉末は「磁性体」に相当し、磁性を有すれば材質を問わない。本形態では、例えばFe−Si系粉末を用いる。樹脂は、磁性粉末を混合して硬化可能であれば材質を問わない。本形態では、例えば熱硬化性樹脂の一種であるエポキシ樹脂(EP)を用いる。樹脂に磁性粉末を混合するのは、コイル13が発生した磁束の磁路となり、ケース11の外部に磁束が漏れてノイズ等となるのを防止するためである。
【0024】
コイル13は、端子部14(端子台を含む)に接続され、端子部14を通じて通電されると磁束を発生する。本形態のコイル13は、一例として多数回で捲回されたドーナツ状に形成されている。なお図2に示すように、端子部14はダストコア12の上面側に接続し易い位置に配置する。
【0025】
中芯15は、収容部11aの所定位置に配置され、その形状は任意に形成できる。所定位置は、中心位置、重心位置、偏心位置などいずれの位置を採用してもよい。本形態の中芯15は、ケース11の中心位置(中央部)に配置され、締結用穴15aを備えた円筒形を基本とし、側面が湾曲面(具体的には中心側に凹む一葉双曲面)をなす。このような形状で中芯15を形成することによって、加熱に伴ってダストコア12が硬化した後、当該ダストコア12がケース11から抜けるのを防止したり、ダストコア12が中芯15の軸方向(上下方向)に動くのを防止したりする機能などを担う。したがって、これらの機能を担う形状であれば、図2に示す形状には限られない。
【0026】
次に、上述したリアクトル装置10の振動値を測定する振動測定装置20の構成例について、図3を参照しながら説明する。図3に示す振動測定装置20は、交流電源21,振動制御手段22,係数決定手段23,記録媒体24,良否判別手段25,電源制御手段26,範囲決定手段27などを有する。これらの要素のうちで、二点鎖線で図示する振動制御手段22,係数決定手段23などの要素は必要に応じて備えればよい。以下では、各要素の機能や作用等について説明する。
【0027】
交流電源21は、リアクトル装置10の端子部14と接続され、コイル13に測定用信号を出力する電力源である。本形態では、測定用信号として交流電流Iacを用いる。この交流電流Iacの電流周波数fは、後述する電源制御手段26から伝達される周波数制御信号Icに従う。なお図1では、過電流保護用の回路素子(本形態では抵抗器R)を直列接続している。また測定用信号には、交流電流Iacに代えて交流電圧を用いてもよい。
【0028】
振動制御手段22は、各温度におけるリアクトル装置10の共振周波数fc(固有振動数)を特定するために用いられる。この振動制御手段22はケース11の外側面に取り付けられる加振器17に対して振動制御信号vcを伝達する。二点鎖線で図示する加振器17は、必要に応じてケース11の外側面に取り付ける。振動制御信号vcを受けた加振器17は、振動制御信号vcに含まれる振動用周波数に従ってリアクトル装置10(具体的にはケース11)を振動させる。
【0029】
上述したように本発明の原理は、ダストコア12の温度に対応するヤング率Eを媒介として、交流電流Iacの電流周波数fに対応する振動値を測定することである。これを実現するためには、まずダストコア12の温度を変化させたときにヤング率Eがどのように変化するのかをデータ収集して把握する必要がある。
【0030】
一般的には図4に示す特性線PL1のように、ダストコア12の温度(本明細書では「コア温度」と呼ぶ。)Tcが高くなるにつれて、ヤング率Eが低くなってゆく。下限温度TL(例えば−40[℃])から上限温度TU(例えば140[℃])までの温度範囲では、ヤング率Eの変化が線形性を示す。下限温度TLではヤング率ELになり、上限温度TUではヤング率EUになる。一方、上限温度TUよりも高いガラス転移温度Tg(例えば180[℃])を前後に、ヤング率Eが大きく変化(低下)する。これは、固体であったダストコア12が溶融してゴム状になることを意味する。したがって、下限温度TLから上限温度TUまでの温度範囲でデータ収集を行う。
【0031】
リアクトル装置10の温度T(すなわちコア温度Tc)を一定に維持可能な温度管理下(例えば恒温槽の中)において、ヤング率Eが異なる複数のリアクトル装置10を用いて、上記のデータ収集を行う。当該複数のリアクトル装置10は、製造品の中でもヤング率Eが高いグループと、同じくヤング率Eが低いグループとを用いるのが望ましい。このように大きく異なるヤング率Eにかかる変化に共通性があれば、どのようなヤング率Eのダストコア12でも適用可能であることになる。実際に上述した2つのグループに含まれる各リアクトル装置10について、複数のコア温度Tcごとに、当該コア温度Tcを維持しながら振動用周波数を変化させて加振器17を振動させ、コア温度Tcにおける共振周波数fcを求めた。共振周波数fcは、「α」を振動対象(本形態ではダストコア12)によって異なる係数値とし、「M」を振動対象の重量とすると、理論的には次に示す関数式(1)に従う。
【0032】
【数1】

【0033】
上述のように共振周波数fcを求めた結果の一例をグラフで示すと、図5のようになる。以下では、コア温度Tcと共振周波数fcとを一組とするデータを単に「関連データ」と呼ぶ。図5に実線で示す特性線PL2は、ヤング率Eが高いグループにかかる各リアクトル装置10を対象とした関連データ(記号「●」でプロット)に基づいて、最小二乗法によって得られる近似直線(一次関数)である。同じく一点鎖線で示す特性線PL3は、ヤング率Eが低いグループにかかる各リアクトル装置10を対象とした関連データ(記号「■」でプロット)に基づいて、最小二乗法によって得られる近似直線である。特性線PL2,PL3を精査してみると、ともにコア温度Tcが高くなるにつれて、共振周波数fcが低くなる。図示しないが、他のヤング率Eのグループについても同様の結果が得られた。図5に示す特性線PL2,PL3等によれば、その変化率はヤング率Eに依存せず、ほぼ一定値の係数K(=Δf/ΔT)であった。この係数Kは「係数値」に相当する。
【0034】
図3に戻り、係数決定手段23は、複数のリアクトル装置10について得られる関連データに基づいて、最小二乗法によって得られる近似直線の傾きから係数Kを決定する。リアクトル装置10の形態(すなわち形状,材質,磁性体の含有率等)が変わるごとに決定するのが望ましい。また、関連データの数が多いほど、係数Kの精度も向上する。こうして決定された係数Kは、交流電源21の周波数制御に用いるので、記録媒体24に係数情報24bとして記録しておく。なお自動化する場合には、複数のリアクトル装置10について、複数のコア温度Tcごとに当該コア温度Tcを維持しながら振動用周波数を変化させて加振器17を振動させ、コア温度Tcにおける共振周波数fcを求めて記録媒体24に一時的に関連データとして記録しておく処理を、上記係数Kの決定前に行うように制御すればよい。
【0035】
記録媒体24は、複数の関連データ(すなわちコア温度Tcと共振周波数fcとを一組とするデータ)や、係数情報24b(すなわち係数K)、後述する振動情報24aなどの各情報を記録可能な任意の媒体を用いることができる。例えば、フラッシュメモリ(SSDを含む)や、ハードディスク、光ディスク(光磁気ディスク等を含む)、フレキシブルディスク、RAMなどのうちで一以上が該当する。なお、電源遮断後も情報を保持可能な不揮発性メモリを用いるのが望ましい。
【0036】
良否判別手段25は、測定対象のリアクトル装置10が「正常品(合格品)」または「不良品(不合格品)」のいずれかを判別して報知する機能を担う。具体的には、温度センサ16によって測定された振動値viが振動規格値(振動許容値)vLを超えているか否かに従って判別を行う。報知方法は任意であり、例えばランプや表示器等で表示したり、スピーカやブザー等で鳴らすなどが該当する。
【0037】
電源制御手段26は、後述する範囲決定手段27から伝達される信号等に含まれる周波数範囲Fs(具体的には下限電流周波数fLから上限電流周波数fUまでの範囲;図6を参照)内において、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを制御する。周波数範囲Fsは「所定範囲」に相当する。電流周波数fの制御は、周波数範囲Fs内で連続的に変化させるのが望ましい。現実的には、短時間で良否判定を行う要請や、ダストコア12の温度上昇を抑えるためにコイル13に交流電流Iacを流す時間を短くする要請などの諸条件を満たす必要がある。そのため、周波数範囲Fs内の電流周波数fであって、離散的に選定した複数(例えば5点や10点等)の電流周波数fごとに変化させる。
【0038】
リアクトル装置10(特にコイル13)に交流電流Iacを流すと、コイル13を起因としてリアクトル装置10が振動することが知られている。振動がピークになる電流周波数fは、上述した共振周波数fcとほぼ同じである。このような性質と、上述した係数Kとを用いて、コア温度が「Tc」の時に、目的の温度「T」の振動値を得るために印加する電流周波数を「fm」として関係を表すと、図6に示すような近似直線(一次関数)になる。図6には、縦軸を電流周波数fとし、横軸をコア温度Tcとしている。電流周波数fは、振動周波数に相当する「相当周波数」である。図6に示す特性線PL4は、次に示す関数式(2)に従う近似直線である。式中「fm(T)」は測定範囲の電流周波数fを示す関数式表現であり、「fc」は基準となる動作周波数(以下では単に「基準周波数」と呼ぶ。例えば10[kHz])であり、「T」はリアクトル装置10(特にダストコア12)の温度(一定温度)である。
【0039】
【数2】

【0040】
範囲決定手段27は、測定したい温度範囲に対応する電流周波数fの範囲を求め、周波数範囲Fsとして電源制御手段26に伝達する。すなわち、下限電流周波数fLおよび上限電流周波数fUを周波数範囲Fsとして電源制御手段26に伝達する。下限温度TLに対応する下限電流周波数fLは、上記関数式(3)に従って求める。上限温度TUに対応する上限電流周波数fUは、上記関数式(4)に従って求める。
【0041】
一方、周波数範囲Fs(下限電流周波数fLから上限電流周波数fUまで)が分かっても、その間に振動値viがどのように変化するかが不明である。そこで、リアクトル装置10に対して複数のコア温度Tcごとに、当該コア温度Tcを維持しながら電流周波数fを変化させる試験を行い、電流周波数fの変化に伴う振動値viの変化を測定した。その測定結果の一例を図7に示す。
【0042】
図7(A)には、縦軸を振動値viとし、横軸を電流周波数fとする振動値viの変化を示す。図7(A)の例では、リアクトル装置10の温度(すなわちコア温度Tc)を、8点の温度Ta,Tb,Td,Te,Tf,Th,Ti,Tjについて、それぞれの温度管理下で電流周波数fを変化させている。温度の高低関係は、Ta>Tb>TU>Td>Te>Tf>Th>Ti>TL>Tjである。各温度のグラフの頂点(最大値,ピーク値)に対応する振動値viは、当該温度にかかるリアクトル装置10の固有振動数(共振周波数)である。
【0043】
図7(B)には、縦軸を振動値viとし、横軸をコア温度Tcとする特性線PL5cの変化を示す。図7(B)の例に示す特性線PL5cは、図7(A)に示す基準周波数fcにおける各温度の振動値viと、その振動値viが生じたコア温度Tcとの関係を示す。図4に示す特性線PL1で明らかなように、コア温度Tcが高くなるにつれてヤング率Eが低くなる。振動値viは、コア温度Tcに追従するように高くなってゆき、ある温度を境に逆に低くなってゆく。この境界を示す温度はガラス転移温度Tgであると考えられる。図7(A)において基準周波数fcよりも高い周波数fbに移行して同様に試験してみると、図7(B)の一点鎖線で示す特性線PL5bのように変化する。同様にして、基準周波数fcよりも高い周波数fdに移行して同様に試験してみると、図7(B)の二点鎖線で示す特性線PL5dのように変化する。特性線PL5b,PL5c,PL5dを比較してみると、変化性状はほとんど同じであるが、コア温度Tcが変化している。
【0044】
振動測定装置20でリアクトル装置10の振動値viを測定する手続きについて、図8を参照しながら説明する。図8には、一のリアクトル装置10について振動測定(検査)処理の手続き例をフローチャートで示す。この手続き例は、CPUを中心とするソフトウェアで実現してもよく、回路素子によるハードウェアロジックで実現してもよい。図中に二点鎖線で示すステップは、必要に応じて実行すればよい。なお、複数のリアクトル装置10について振動測定(検査)を行う場合には、図8の振動測定(検査)処理を対象数だけ繰り返し実行すればよい。また、リアクトル装置10(特にダストコア12)は、恒温槽等で設定される温度(例えば25[℃])を一定に維持するように温度管理がなされる。また、ステップS10〜S12は「周波数範囲決定工程」や「周波数範囲決定手段」に相当し、ステップS13〜S15,S17〜S19は「振動値測定工程」や「振動値測定手段」に相当し、ステップS16は良否判別手段25に相当し、ステップS16,S20〜S22は「検査手段」に相当する。
【0045】
図8の振動測定(検査)処理において、まずリアクトル装置10の温度T(コア温度Tcに相当する)を温度センサ16によって測定し〔ステップS10〕、図5に示すようにリアクトル装置10が共振する共振周波数fcとコア温度Tcとを一組とする関連データを取得し、当該取得できた複数の関連データに基づいて特性線PL2,PL3等の係数Kを求める〔ステップS11〕。求めた係数Kにかかる特性線PL4などに基づいて周波数範囲Fs(すなわち下限電流周波数fLと上限電流周波数fU)を決定する〔ステップS12〕。なお、ステップS12,S13は恒温槽等でリアクトル装置10が一定温度に維持されない場合など、必要に応じて実行すればよい。
【0046】
始めにリアクトル装置10のコイル13に流す交流電流Iacの周波数を下限電流周波数fLに設定する〔ステップS13〕。現在設定されている電流周波数fの交流電流Iacをコイル13に流す〔ステップS14〕、現在の電流周波数fで生じる振動の振動値viを振動センサ18によって測定した振動値viを取得(必要に応じて記録媒体24に振動情報24aとして記録)する〔ステップS15〕。取得した振動値viに基づいて測定対象のリアクトル装置10にかかる良否判別を行う〔ステップS16〕。すなわちステップS15で取得した振動値viが振動規格値vLを超えると(ステップS16でYES)、測定対象のリアクトル装置10を「不良品」とし〔ステップS22〕、後述するステップS21に進む。
【0047】
一方、ステップS15で取得した振動値viが振動規格値vL以下ならば(ステップS16でYES)、周波数範囲Fs内で電流周波数fを変化させて(例えば周波数Δfずつ高くして)、次に測定すべき電流周波数fを設定する〔ステップS17〕。周波数Δfは任意に設定可能であり、例えば0.2[kHz]などが該当する。交流電流Iacの電流周波数fが上限電流周波数fUに達するまで、上述したステップS14〜S17を繰り返し行い(ステップS19でYES)、ステップS17で設定した電流周波数fごとの振動値viをそれぞれ測定する。そして、交流電流Iacの電流周波数fが上限電流周波数fUを超えると(ステップS19でNO)、測定対象のリアクトル装置10を「正常品」として〔ステップS20〕、次に示すステップS21に進む。
【0048】
ステップS21では、他に測定や検査すべきリアクトル装置10があるか否かに基づいて分岐する。他に測定や検査すべきリアクトル装置10があれば(ステップS21でYES)、上述したステップS10〜ステップS20,S22を繰り返し実行する。一方、他に測定や検査すべきリアクトル装置10がなければ(ステップS21でNO)、振動測定(検査)処理をリターンする。
【0049】
上述した振動測定(検査)処理を実行すると、例えば図9に示すような結果を得ることができる。図9には、図7(B)と同様に縦軸を振動値viとし、横軸をコア温度Tcとし、周波数範囲Fs内で電流周波数fを変化させた際に得られた振動値viの変化を示す。図9の例では、3つのリアクトル装置10を測定(検査)した結果を、測定線ML1,ML2,ML3として示す。これらの測定線ML1,ML2,ML3の判別例について以下に説明する。なお二点鎖線で示す部分(線分)は測定していないが、実際に測定する場合に想定される振動値viの変化を示す。
【0050】
測定線ML1のリアクトル装置10は、電流周波数fm1のときに振動規格値vLに達するとともに、当該振動規格値vLを超える振動値viがあるので(ステップS16でYES)、「不良品」とされる〔ステップS22〕。測定線ML2のリアクトル装置10は、電流周波数fm2のときに最大値(ピーク値)となる振動値vm2を示すが、周波数範囲Fs内で振動値viが振動規格値vLを超えないので(ステップS16でNO)、「正常品」とされる〔ステップS20〕。測定線ML3のリアクトル装置10は、周波数範囲Fsの上限である上限電流周波数fUのときに最大値(ピーク値)となる振動値vm3を示すが、周波数範囲Fs内で振動値viが振動規格値vLを超えないので(ステップS16でNO)、「正常品」とされる〔ステップS20〕。なお測定線ML3は、二点鎖線で示す電流周波数fm3のときに振動規格値vLに達するとともに、当該振動規格値vLを超える振動値viがあるが、周波数範囲Fs外であるので「正常品」とされる。このように、測定対象のリアクトル装置10を振動センサ18によって測定する振動値viが周波数範囲Fs内で振動規格値vLを超えるか否かで、正常品であるか否かの検査を行う。
【0051】
正常品と判別されたリアクトル装置10は、例えば図10に示すコンバータ30の部品(すなわちリアクトルL30)として用いられる。コンバータ30は、いわゆるDC−DCコンバータであって、直流電源EdcからコンデンサC1を通じて供給される電力(電圧Ve)を昇圧して出力する昇圧機能を担う。このコンバータ30は、駆動回路Mu,Md、スイッチング素子Qu,Qd、ダイオードDu,Ddのほかに、上述したリアクトル装置10であるリアクトルL30などを有する。このリアクトルL30はスイッチング素子Qu,Qdのオンオフ制御によって逆起電力を発生させ、コンデンサC2で電圧Vdcが平滑されて出力される。
【0052】
上述した実施の形態によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、リアクトル装置10の振動値viを測定する振動測定方法において、ダストコア12はそれ自体の温度変化とともにヤング率Eが変化する特性を備え、リアクトル装置10の温度を変化させる目的の温度範囲に対応してコイル13に流す交流電流Iacの電流周波数f(周波数)を変化させる周波数範囲Fs(所定範囲)を決定する周波数範囲決定工程(図8のステップS10〜S12を参照)と、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲Fs内で変化させてリアクトル装置10に生じる振動の振動値viを測定する振動値測定工程(図8のステップS14〜S19を参照)とを有する構成とした(図1,図8,図9等を参照)。この構成によれば、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲Fs(下限電流周波数fLから上限電流周波数fUまでの範囲)で変化させるだけで、リアクトル装置10に生じる振動の振動値viを測定することができる。したがって、リアクトル装置10の温度管理を行うことなく、短時間で振動値viを測定することができる。
【0053】
請求項2に対応し、振動値測定工程は、周波数範囲Fsで交流電流Iacの電流周波数fを変化させて測定される振動値viのピーク値を、目的の温度範囲における振動のピーク値とする構成とした(図8のステップS19,図9を参照)。この構成によれば、周波数範囲Fs内でコイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを変化させて測定される振動値viの最大値をピーク値とする。したがって、振動のピーク値を簡単に特定できるので、規格品としての良否判定を容易に行える。
【0054】
請求項3に対応し、振動値測定工程は、リアクトル装置10の温度を所定温度(恒温槽に設定される温度、例えば25[℃])で維持する環境下で、周波数範囲Fs内でコイル13に流す電流の周波数を変化させる構成とした(図8,図9を参照)。この構成によれば、リアクトル装置10の温度管理が行われるので、振動値viをより正確に測定することができる。
【0055】
請求項4に対応し、周波数範囲決定工程は、リアクトル装置10の温度を変化させる目的の温度範囲に対応して、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを変化させる範囲を特定するための係数K(係数値)を、リアクトル装置10の状態(本形態ではダストコア12の温度を25[℃]で維持する形態)に基づいて決定する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、リアクトル装置10の状態に基づいて係数Kを決定するので、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲Fsをより正確に特定することができる。したがって、振動値viをより正確に測定することができる。
【0056】
請求項5に対応し、周波数範囲決定工程は、特定された係数Kとリアクトル装置10の現在温度(恒温槽の設定温度)とに基づいて、コイル13に流す交流電流Iacの周波数を変化させる範囲(すなわち周波数範囲Fs)を特定する構成とした(図8,図6,図9を参照)。この構成によれば、リアクトル装置10の現在温度を考慮するので、コイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを変化させる周波数範囲Fsをより正確に特定することができる。
【0057】
請求項6に対応し、振動測定装置20において、温度変化とともにヤング率Eが変化する特性を備えたダストコア12の温度に基づいて交流電流Iacの電流周波数fを変化させる周波数範囲Fsを決定する範囲決定手段27と、範囲決定手段27によって決定された周波数範囲Fs内で電流周波数fを変化させながら交流電流Iacをコイル13に流す交流電源21と、交流電流Iacがコイル13に流れる際にリアクトル装置10に生じる振動の振動値viを測定する振動センサ18(振動値測定手段)とを有する構成とした(図1,図3,図8,図9を参照)。この構成によれば、リアクトル装置10の温度管理を行うことなく、短時間で振動値viを測定することができる。
【0058】
請求項7に対応し、リアクトル装置10の温度を変化させる目的の温度範囲に対応させてコイル13に流す交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲Fs内で変化させ、測定される振動のピーク値を目的の温度範囲における振動のピーク値とする構成とした(図8のステップS19,図9を参照)。この構成によれば、振動のピーク値を簡単に特定できるので、規格品としての良否判定を容易に行える。
【0059】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0060】
上述した実施の形態では、コアには、磁性粉末(Fe−Si系粉末)と樹脂(エポキシ樹脂)とを混合させて硬化させた磁性粉末混合樹脂であるダストコア12を適用した(図1,図2等を参照)。この形態に代えて、温度変化とともにヤング率Eが変化する特性を備える他のコアを適用してもよい。具体的には、他の磁性粉末や他の樹脂を任意に組み合わせたダストコアを適用してもよい。他の磁性粉末は、例えば酸化鉄,酸化クロム,コバルト,フェライトなどが該当する。他の樹脂には、例えばフェノール樹脂 (PF),メラミン樹脂(MF),尿素樹脂(ユリア樹脂、UF),不飽和ポリエステル樹脂 (UP),アルキド樹脂,ポリウレタン(PUR),熱硬化性ポリイミド(PI)などが該当する。いずれにせよ、コアの温度変化に伴ってヤング率Eが変化するので、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
上述した実施の形態では、複数の温度Tについて各温度Tを維持しながらリアクトル装置10に生じる振動の共振周波数fcを求め、最小二乗法によって得られる近似直線にかかる係数K(係数値)を求めた(図5,図8のステップS11を参照)。この形態に代えて、他の近似法に基づいて近似(直線近似や曲線近似等)を行い、該当する近似線を特定する係数値を求めてもよい。係数値は一つの場合もあれば、二以上(例えば二次曲線や三次曲線等)の場合もある。例えば、一次関数以外の関数(例えば双曲線関数,逆双曲線関数,対数曲線等)を用いて近似線を求める。他には、分散分析に基づく近似、回帰分析に基づく近似、重回帰分析に基づく近似、ロジスティック回帰に基づく近似などのうちで一以上の近似法を用いて近似線を求める。いずれにせよ、ダストコア12のヤング率Eにかかわらず、コア温度Tcと共振周波数fcとの関係を示す近似線を規定することができればよい。よって、リアクトル装置10(特にダストコア12)の性質に適した近似線を求めることで、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
上述した実施の形態では、リアクトル装置10を恒温槽等でダストコア12の温度が一定に維持するように温度管理される条件下で、コイル13に交流電流Iacを周波数範囲Fs内で変化させて振動値viを測定する構成とした(図8のステップS13〜S19を参照)。この形態に代えて、リアクトル装置10を大気中(例えば机上)に置き、交流電流Iacや気温等の影響を受けて測定(検査)対象となるリアクトル装置10にかかるダストコア12のコア温度Tcが変化する場合には、その変化を補正する補正係数を用いて振動値viを測定する構成としてもよい。ダストコア12の温度変化に対応する補正係数を「Km」とすれば、上述した関数式(2)〜(4)を変形して、次に示す関数式(5)〜(7)のように表すことができる。補正係数の代わりに、コア温度Tcの変化を補正する補正関数(上述した近似法などで規定すればよい)を適用してもよい。
【0063】
【数3】

【0064】
この場合は、まず図1に例示するように温度センサ16をリアクトル装置10に取り付ける。図8に示すフローチャートでは、二点鎖線で示すステップS18において現在のリアクトル装置10(具体的にはダストコア12)のコア温度Tcを取得し、ステップS16では上記関数式(5)で求めた周波数「fm(Tc)」の交流電流Iacをコイル13に流して振動センサ18による振動値viを測定すればよい。周波数範囲Fsもまた上記関数式(6)によって下限電流周波数fLが求められ、上記関数式(7)によって上限電流周波数fUが求められる。こうすれば、リアクトル装置10の温度管理を行うことなく、交流電流Iacの電流周波数fを周波数範囲Fs内で変化させて、目的の温度範囲に対応する振動値viを測定することができる。したがって、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
〔他の発明の態様〕
以上では発明の実施の形態について説明したが、当該実施の形態には特許請求の範囲に記載した発明の態様のみならず他の発明の態様を含む。この発明の態様を以下に列挙するとともに、必要に応じて関連説明を行う。
【0066】
〔態様1〕通電に伴って磁束を発生するコイルと、前記コイルが発生した磁束の磁路となるコアと、前記コイルと前記コアとを収容するケースと、を有するリアクトル装置の振動値に基づいてリアクトル装置の検査を行うリアクトル装置の振動検査装置において、
前記コアは、前記コアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、
前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応し、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲を決定する周波数範囲決定手段と、
前記周波数範囲決定手段によって決定された前記所定範囲内で、前記周波数を変化させながら電流を前記コイルに流す交流電源と、
前記電流が前記コイルに流れる際に、前記リアクトル装置に生じる振動の振動値を測定する振動値測定手段と、
前記振動値測定手段によって測定された前記振動値に基づいて、前記リアクトル装置が規格品(正常品)であるか否かを検査する検査手段と、
を有することを特徴とするリアクトル装置の振動検査装置。
【0067】
〔態様1の関連説明〕
態様1の構成によれば、周波数範囲決定手段(図8のステップ12)で決定された所定範囲内で周波数を変化させながら電流をコイルに流して生じる振動値に基づいて(図8のステップS13〜S15,S17〜S19)、リアクトル装置10が規格品(正常品)であるか否かを検査することができる(図8のステップS16,S20〜S22)。したがって、温度管理を行うことなく検査対象のリアクトル装置10の検査ができる。
【符号の説明】
【0068】
10 リアクトル装置
12 ダストコア(コア,磁性粉末混合樹脂)
13 コイル
16 温度センサ
17 加振器
18 振動センサ(加速度センサ)
20 振動測定装置
21 交流電源
22 振動制御手段
23 係数決定手段
24 記録媒体
24a 振動情報
24b 係数情報
25 良否判別手段
26 電源制御手段
27 範囲決定手段
Iac 交流電流
K 係数(係数値)
vi 振動値
T 温度
Tc コア温度(リアクトル装置の温度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電に伴って磁束を発生するコイルと、前記コイルが発生した磁束の磁路となるコアと、前記コイルと前記コアとを収容するケースと、を有するリアクトル装置の振動値を測定するリアクトル装置の振動測定方法において、
前記コアは、前記コアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、
前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応し、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲を決定する周波数範囲決定工程と、
前記コイルに流す電流の周波数を前記所定範囲内で変化させ、前記リアクトル装置に生じる振動の振動値を測定する振動値測定工程と、
を有することを特徴とするリアクトル装置の振動測定方法。
【請求項2】
前記振動値測定工程は、前記所定範囲で電流の周波数を変化させて測定される振動のピーク値を、前記目的の温度範囲における振動のピーク値とすることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル装置の振動測定方法。
【請求項3】
前記振動値測定工程は、前記リアクトル装置の温度を所定温度で維持する環境下で、前記所定範囲内で前記コイルに流す電流の周波数を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のリアクトル装置の振動測定方法。
【請求項4】
前記周波数範囲決定工程は、前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応して、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる範囲を特定するための係数値を、前記リアクトル装置の状態に基づいて決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリアクトル装置の振動測定方法。
【請求項5】
前記周波数範囲決定工程は、特定された前記係数値と、前記リアクトル装置の現在温度とに基づいて、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる範囲を特定することを特徴とする請求項4に記載のリアクトル装置の振動測定方法。
【請求項6】
通電に伴って磁束を発生するコイルと、前記コイルが発生した磁束の磁路となるコアと、前記コイルと前記コアとを収容するケースと、を有するリアクトル装置の振動値を測定するリアクトル装置の振動測定装置において、
前記コアは、前記コアの温度変化とともにヤング率が変化する特性を備え、
前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応し、前記コイルに流す電流の周波数を変化させる所定範囲を決定する周波数範囲決定手段と、
前記周波数範囲決定手段によって決定された前記所定範囲内で、前記周波数を変化させながら電流を前記コイルに流す交流電源と、
前記電流が前記コイルに流れる際に、前記リアクトル装置に生じる振動の振動値を測定する振動値測定手段と、
を有することを特徴とするリアクトル装置の振動測定装置。
【請求項7】
前記リアクトル装置の温度を変化させる目的の温度範囲に対応させて前記コイルに流す電流の周波数を所定範囲で変化させ、測定される振動のピーク値を前記目的の温度範囲における振動のピーク値とすることを特徴とする請求項6に記載のリアクトル装置の振動測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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