説明

リアプロジェクション用布帛、リアプロジェクションスクリーンおよびリアプロジェクションシステム

【課題】最大180°の視野角が達成可能であり、かつ、画像再生品質または画像解像度が高いリアプロジェクション用布帛、リアプロジェクションスクリーン、リアプロジェクションシステムおよびこれらの使用方法を提供する。
【解決手段】リアプロジェクション用布帛はリアプロジェクションスクリーン10に使用されるものであり、最大直径が0.06ミリメートル未満である複数の糸21,23,31,33から構成され、1ミリメートル当たり7本よりも大きい糸密度を有し、さらに、拡散層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアプロジェクション用布帛、リアプロジェクションスクリーン、リアプロジェクションシステムおよびこれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアプロジェクションスクリーン(背面投影型スクリーン)は、後方からポジ画像が投影されることが可能なリアプロジェクション平面体を有する。プロジェクタおよびリアプロジェクションスクリーンは、広い表面領域を均一に照明できるように構成される必要があり、このため、リアプロジェクション平面体は、特定のパラメータ要件を満たさなければならない。その一方で、リアプロジェクション平面体は、縁部まで均一に照らし出されるがホットスポットを全く形成しない、鮮明かつ高解像度の画像を提供する必要がある。ホットスポットという用語は、比較的遠い距離に位置する点光源として一般に使用されるプロジェクタ光源が、リアプロジェクション平面体を通って見えることをいう。
【0003】
このため、映写用途には、既にかなり早い時期から、現在の標準からすれば比較的分厚いスクリーンである特別な背面投影用スクリーン(例えば、特許文献1に記載された種類のもの)が要求されてきた。それ以前では、スクリーンは、酢酸セルロースから作製されたものもあり(例えば、特許文献2に記載)、流体が、大きいガラス板に吹き付けられ、乾燥後に取り外された。後には、スクリーンは、ナイロン、ペルロンまたはガラス繊維からも作製された(例えば、特許文献3に記載)。
【0004】
さらに、映写用途として、特許文献4が、緩く織られた糸が膨張している布帛を材料に含む光学リアプロジェクション平面体を開示する。この構成では、糸同士の間が実質的に閉じられている。この布帛には、透明または透光性の不揮発性物質が含浸される。この時代から知られている含浸用物質としては、さらに、明度を向上させる蛍光添加剤(特許文献5に記載されているものなど)、または半透明度もしくは透過特性を向上させたり変化させたりする添加剤(特許文献6または特許文献7に記載されているものなど)や反射特性を向上させる添加剤(特許文献8に記載されているように)などの他の添加剤がある。
【0005】
特許文献9は、無声映画の時代からのフロントプロジェクションスクリーン(正面投影型スクリーン)を開示しており、このフロントプロジェクションスクリーンは、基布を補強するために織り込まれた帯材またはウェブを有し、また、音の伝達を可能にするために実質上音響透過性である、織込みの間の開口部を有する。このマルチフィラメントのフロントプロジェクション用布帛は、後方から投影された画像を表示するのには適していない。その理由は、上記音用の開口部および上記幅広の補強帯材によって画像が妨げられるからである。
【0006】
これらのような、映写用途で用いられる旧式の比較的分厚いリアプロジェクションスクリーン(一般的にリネン布帛または膨張した糸で形成されている)は、最大5,000ワットの白熱光の極めて強力な映写用ランプまたは最大10,000ワットのカーボンアーク灯の使用を必要とする。したがって、例えば、通常の映写用プロジェクタでは、これらのスクリーンを用いた背面投影にはあまり役に立たない。その理由は、通常の映写用プロジェクタは、必要とされる完璧な画像安定性を有しておらず、また、映写においてフリッカー現象を減少させたり光強度を軽減させたりする三枚羽根シャッタを備えていないからである。
【0007】
レーザやデータプロジェクタなどの現代のプロジェクタは、新しい可能性を切り開くとともに、新たな要件をもたらしている。つまり、現代のリアプロジェクションスクリーンは、スクリーンの拡散性と透過性の両方を併せ持つことが必要とされている。リアプロジェクションスクリーンのリアプロジェクション平面体がより明るくなるにつれて、すなわち、透過性が増加するにつれて、縁部における光の減少が大きくなる。したがって、前述のリアプロジェクション用布帛は、現代のリアプロジェクションシステムにおいて使用するには分厚すぎる。
【0008】
特許文献10は、液晶ディスプレイ(LCD)光源と組み合わされる、光拡散体としてのみ適した布帛または編布を開示する。これは、面光源と拡散体との間の距離が極めて短い面光源に用いるものである。
【0009】
特許文献11は、散乱光を抑え、映写用スクリーンに取り付けられる反射性スクリーンを開示し、この反射性スクリーンは、比較的細い糸で製作され、0.8〜2.0mmの貫通孔開口が設けられている。
【0010】
陰極線管を前方から直接見た際の健康リスクを軽減する、その他の反射性スクリーンが特許文献12に開示され、この反射性スクリーンは、比較的細い黒色の金属製フィラメントを使用する。つまり、この反射性スクリーンは布帛を有しない。この反射性スクリーンは、面光源に直接取り付けられて光を吸収するように構成されている。
【0011】
これらおよび類似の反射性スクリーンは、特許文献10および特許文献11の上述した布帛と同様に、散乱作用を防止し、テレビのスクリーンおよび/または映写用スクリーンなどで用いられる平坦な放射体に直接取り付けられる吸収フィルタとして使用できるように、暗色に構成されるのが好ましい。しかし、点光源と組み合わされて広い表面領域にわたって使用されるには、これらの反射性スクリーンは、リアプロジェクション用布帛よりも適しているとはいえない。
【0012】
現代の光源、特には点光源(例えば、データプロジェクタ、レーザ、発光ダイオード(LED)または液晶ディスプレイ(LCD)など)を用いたリアプロジェクションスクリーンについての基本的な原理を以下に示す。
【0013】
リアプロジェクションスクリーンは、その裏側の各像点に入射するように導かれた光ビームを、表面上の散乱、または材料の層内部での多重散乱によって散乱させる。これにより、視聴者側において、画像面からの拡がるビームクラスタとして像点が拡散状態で伝達されることが可能になる。表面における光散乱またはリアプロジェクションスクリーン内部の材料内での散乱により、光がさらに前方に導かれるだけでなく、リアプロジェクション平面体からの光の後方散乱もある程度生じるので、この光伝達は損失によって常に弱められる。現代のプロジェクタおよび投影技法に関する上記課題の概要は、特許文献13で見られる。しかし、この文献に開示されているホログラフィックスクリーンは、取扱いにおいてあまり融通が利かず、また、製造およびマーケティングの観点からみても比較的高価である。
【0014】
リアプロジェクション平面体から比較的遠い距離に位置する点光源を用いた現代の背面投影技法および用途(特に、映画館外の日常的用途において)に関する、取り扱い易さの点のみでなく、画像品質、画像解像度、明度、コントラストおよび視野(もしくは視野角)にも関係する上述の課題は、今までにないほど重大であり、背面投影のリアプロジェクション平面体の特別な形態が必要とされ、さらに、特定用途向けのパラメータも必要とされる場合もあることは明らかである。
【0015】
特許文献14は、照明されていない状態において比較的高い透過性(すなわち、開口メッシュ)が付与されることにより、正面投影と背面投影との同時投影に適したプロジェクションスクリーンを開示する。このため、特許文献14のフロント・リアプロジェクションスクリーンは、比較的大きい開口密度を持つ、合成マルチフィラメントが編成された構造体を有する。したがって、少なくとも2つの不透明繊維が織り込まれた0.3mmの太さの糸が1.2mmの間隔を有し、それぞれ少なくとも約0.65mm以上の寸法を有するメッシュ開口を形成する。これは、最大180°の視角にわたって均一な明度を達成するためのものと思われる。しかし、高い透過性に依存するリアプロジェクションスクリーンとしては、比較的厚い布帛では実現化不可能であるか、または極めて不十分にしか実現されることができず、いずれにせよ、画像品質または画像解像度は損なわれてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】英国特許第188111号明細書
【特許文献2】英国特許第401700号明細書
【特許文献3】英国特許第494003号明細書
【特許文献4】英国特許第511578号明細書
【特許文献5】米国特許第5045706号明細書
【特許文献6】英国特許第427062号明細書
【特許文献7】英国特許第401700号明細書
【特許文献8】英国特許第494003号明細書
【特許文献9】英国特許第540009号明細書
【特許文献10】特開2005−189583号明細書
【特許文献11】特開平6−175228号明細書
【特許文献12】米国特許第4864190号明細書
【特許文献13】独国公開公報第19703592号明細書
【特許文献14】米国出願公開公報第2006/0187544号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
リアプロジェクション専用に構成され、リアプロジェクションとしての特性が大幅に向上されている布帛が望まれる。
【0018】
これが本発明の基礎である。そして、本発明は、最大180°の視野角が達成可能であり、従来技術、特にリアプロジェクションに係る従来技術と比べて視野角が向上された、リアプロジェクション用布帛、リアプロジェクションスクリーン、リアプロジェクションシステムおよびこれらの使用方法を提供することを目的とする。詳細には、比較的高品質の画像再生が一層確実になり、つまり、例えば、画像再生品質または画像解像度が高いにもかかわらず、投影用布帛、特にリアプロジェクション用布帛の明度および/またはコントラストおよび/または拡散特性が向上される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のリアプロジェクション用布帛は、リアプロジェクションスクリーンに使用されるものであり、最大直径が0.06ミリメートル(mm)(60マイクロメートル(μm))未満である複数の糸から構成されて、1ミリメートル当たり7本を超える糸密度を有することで、上記目的を達成する。
【0020】
リアプロジェクション用布帛は、背面投影(リアプロジェクション)専用に提供および構成された布帛のことを指す。繊維は、糸(ヤーンと同義であるスレッド)の一部分のことを指す。布帛は、複数の糸から生成される。ここで、糸とは、織物構造物における線状の構成要素に対する総称として理解される。したがって、糸は、1つ以上の繊維を含む細長い形状である。布帛は、一般的に、複数の糸を備える長方形平面形状である。縦方向における糸は、縦糸と称され、横方向の糸は、横糸と称される。つまり、布帛とは、好ましくは直角に交錯する、少なくとも2つの織り合わされた糸を備える織物の平面形状体であると理解される。糸密度すなわち打ち込み数は、1ミリメートル当たりの糸の本数を表し、打ち込み数公差は、名目数値に対する算術平均値の一般的に許容可能なずれを表す。本発明の例では、打ち込み数公差は、1ミリメートル当たり2本未満、好ましくは1ミリメートル当たり1本未満、より好ましくは、1センチメートルあたり約5本以下である。本発明の例では、糸すなわちヤーンの直径は、ヤーンの織り込まれた状態での直径としても、または織り込まれていない状態の直径としても理解されてよく、好ましくは、ヤーンの織り込まれていない状態での直径として理解される。
【0021】
本発明は、リアプロジェクション用布帛の厚みが大きく形成されるほど、十分な明度およびコントラスト比を可能にするため、布帛の開口をより大きくして製作する必要があるという考えに基づいたものである。布帛の厚みが大きいほど、背面投影されるスクリーンに対する視野角は小さくなり、極端な場合には、背面投影された画像は、その垂線を中心として(すなわち、投影方向から)数度拡がった狭い角度範囲のみで前方に散乱されることになってしまう。また、特許文献14に記載されているような、布帛の開口メッシュの過剰な度合いは、小さい視野角を部分的に補償することはできるが、同時に、投影された画像のディテールまたは解像度の精度を低下させてしまう。つまり、画像の再生品質の2つの重要な側面が、不都合に減少されてしまう。
【0022】
上記考えに基づいて、本発明は、リアプロジェクション用構造体が、布帛であっても予想外に有利に構成可能であることを第一に認識している。その結果、実質的により均一な散乱特性および拡散特性を実現し、結局のところ、編物と比べて向上された画像品質が背面投影時に可能となる。
【0023】
さらに、本発明は、格別に細い糸を用いて特に高い糸密度で製作されるリアプロジェクション用布帛を提供する。
【0024】
本発明によると、この布帛は、1ミリメートル当たり7本を超える糸密度で織られており、糸の最大直径は60μm未満である。
【0025】
本発明によれば、この高い糸密度と、これに加えて比較的細い糸であることにより、画像再生において格別に高水準のディテール精度が達成され、さらに、明度、コントラストおよび布帛の透過性などの他の画像再生パラメータについても十分な高品質が保証される。従来技術と比較して、本発明のリアプロジェクション用布帛は、極めて多数の散乱中心(したがって、極めて多数の像点)を有する。これに加えて、布帛形態であることにより、比較的均一な画像再生が可能となる。布帛を構成する糸が細いため、布帛の裏側に当たる光ビームは、実質最大180°までの拡大された角度範囲で前方に散乱されることが可能になる。これによって、従来技術と比べて拡大された視野角が可能になる。
【0026】
したがって、本発明の概念に基づく組合せでは、特に正確にきめ細かい画像再生を達成することができ、それにもかかわらず、背面投影時に最大180°の視野角を達成することもできる。糸密度が増加するにつれてディテール精度が向上するが、1ミリメートル当たり7本よりも小さい糸密度では、特に好適な光強度を得ようとすると、比較的不適切な結果がしばしば生じたり、特には、過度の透光性およびホットスポット問題が生じたりする。さらに、60μm未満の直径を有する比較的細い糸によって、最大180°の視野角を特に効果的に得られることができるが、太い糸では、視野角の制限が度々生じる。
【0027】
さらに、拡散層により、背面投影される画像の向上された均一性が得られ、光学的アーチファクトが防止される。これと同時に、この拡散層は、リアプロジェクション用布帛の機械的特性、特には、弾性および耐弛緩性を向上させるように、相乗効果的に作用する。
【0028】
本発明は、さらに、本発明の概念またはその改良によるリアプロジェクション用布帛から形成されたリアプロジェクション平面体を有するリアプロジェクションスクリーンに関する。好ましくは、このリアプロジェクションスクリーンは、リアプロジェクション平面体を包囲するスリーブ、および固着手段を備える。
【0029】
本発明は、さらに、本発明の概念またはその改良によるリアプロジェクションスクリーンと、リアプロジェクションスクリーンの裏側に画像を投影するプロジェクタとを備えるリアプロジェクションシステムに関する。
【0030】
本発明は、さらに、リアプロジェクション用布帛を、静止画像または動画像の背面投影に使用する方法に関する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態は、特許請求の範囲に記載の従属請求項から理解されるものであり、提起された上記課題に関して上述した概念を実施するための有利な可能性を詳細に提示し、また、さらなる利点に関しても提示する。
【0032】
原則として、リアプロジェクション用布帛は、様々な形態の糸を用いて製作されることができる。糸がモノフィラメント糸の形態で製作されているリアプロジェクション用布帛が、特に好ましい。その画像のきめ細かい精度は、特に優れている。このような良好な光学特性に加えて、本発明の概念による糸密度および糸の直径を有するモノフィラメント布帛は、引張特性にとって重要な、極めて高い弾性率で特徴付けられ、このようなモノフィラメント布帛のリラクセーション値は有利なことに小さい。これにより、このモノフィラメント布帛が他の布帛よりも本質的に安定であり続けるという格別の利点に結びつく。さらに、わずかに引っ張られた状態(張力状態)でも、比較的滑らかな表面が達成され、つまり、うねりが事実上全く形成されない。引っ張られた状態で長時間使用された後であっても、モノフィラメント布帛の実質上無視できる程度の弛緩しか見られない。リアプロジェクション用布帛の実際用途、特に、会議室などにおける長い保持時間でのプレゼンテーション利用で重要となる、モノフィラメント布帛の上記機械的特性により、本発明のモノフィラメント布帛は格別に相応しいといえる。このモノフィラメント布帛は、高い弾性率によって、特に可撓性を有する。
【0033】
最後に、モノフィラメント布帛は、さらに、他の種類の布帛よりも重量において利点を有する。拡散層を含めずに、おおよそ10〜100g/mの有利な重量(目付け)が得られる。
【0034】
別の実施形態では、糸は、少なくとも2つの繊維を含むマルチフィラメント糸である。この実施形態は、モノフィラメント布帛には劣るものの、光学的かつ機械的に特に有利である。しかし、例えば、画像再生については、モノフィラメント布帛に比べて特に均一である。
【0035】
原則として、本発明の概念によると、1ミリメートル当たりの糸の本数を増やして製作されたリアプロジェクション用布帛は、画像のディテール精度を向上させるのには有利である。しかし、リアプロジェクション用布帛が十分に透過的であることを保証するためには、糸密度は特定の数値を超えないほうがよい。(この特定の数値は、糸の最大直径にも依存する。)1ミリメートル当たり20本までの糸密度は、容易に製作される。
【0036】
本発明の実施形態によれば、糸密度が1ミリメートル当たり12本を超える(好ましくは1ミリメートル当たり35本未満、さらに好ましくは1ミリメートル当たり25本未満)リアプロジェクション用布帛が、特に有利である。糸密度が1ミリメートル当たり15〜20、好ましくは1ミリメートル当たり約18本であるリアプロジェクション用布帛が、特に有利な特性を有することが比較上判明している。
【0037】
さらに、本発明の好ましい実施形態は、0.05mm未満の糸の直径(好ましくは0.01mmを超える糸の直径)を提供する。好ましくは0.02〜0.04mm、さらに好ましくは約0.03mmの糸の直径が特に好ましい。
【0038】
高い糸密度と、これに加えて比較的細い糸を用いることに基づいた、上述した本発明の概念は、糸の直径に対する糸密度の比率による「性能指数」として特に良く理解されることができる。本発明のさらなる実施形態によると、糸の直径に対する糸密度の比率(糸の密度を糸の直径で除算したもの)は、116 1/mmから3500 1/mm、好ましくは200 1/mmから2000 1/mm、さらに好ましくは400 1/mmから1500 1/mm、さらに好ましくは500 1/mmから900 1/mm、さらに好ましくは550 1/mmから850 1/mmである。
【0039】
例えば電子画像解析システムを用いた場合に、リアプロジェクション用布帛の決定可能なさらなるパラメータは、リアプロジェクション用布帛のメッシュ寸法および開口率である。原則として、メッシュ寸法は、2つの隣り合う縦糸または横糸の間の空間であるとして理解される。本発明の特に好ましい実施形態によると、リアプロジェクション用布帛は、0.15mm未満、好ましくは0.1mm未満、さらに好ましくは0.05〜0.07mm、さらに好ましくは約0.055mmのメッシュ寸法を有する。
【0040】
開口率(一般的にαと表記される)は、布帛のフィルタ面全体に対する全開口領域の百分率を指すものである。これは、一般的に、メッシュ寸法の平均値と、有効糸幅(すなわち、織り込まれた状態での糸の最大直径(例外では、必要ならば、織り込まれていない状態での糸の最大直径))の平均値とから算出される。対応する計算式は、次のように示される。
【0041】
開口率αは、以下の式で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
ただし、有効糸幅dは、以下の式で表される。
【0044】
【数2】

【0045】
ただし、wはメッシュ寸法であり、nは1センチメートルあたりの打ち込み数である。
【0046】
好ましい実施形態によれば、5〜40%の開口率、好ましくは7〜25%の開口率、さらに好ましくは9〜20%の開口率が特に有利である。これは、部分的に、繊維の材料(例えば、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維など)に左右される。例示的な数値は、1ミリメートル当たり12本の糸数および31μmの糸の直径での35%の開口率、1ミリメートル当たり18本の糸数および30μmの糸の直径での19.5%の開口率、または1ミリメートル当たり20本の糸数および30μmの糸の直径での10%の開口率である。これらの開口率は、布帛の特に好ましい実施形態の範囲内である。
【0047】
糸の直径に対する糸密度の比率が600 1/mm(好ましくは約30μmの糸の直径で1ミリメートル当たり18本の糸数)、733 1/mm(好ましくは約30μmの糸の直径での1ミリメートル当たり22本の糸数)、または814 1/mm(好ましくは約27μmの糸の直径での1ミリメートル当たり22本の糸数)であるのも、特に有利である。
【0048】
好ましくは、糸は、1つ以上の不透明繊維、または透明繊維もしくは透光性繊維から形成される。透明または透光性により、リアプロジェクション用布帛の明度の大部分が保証される。
【0049】
原則として、リアプロジェクション用布帛の糸は、多数の適切な糸から構成されるものであってもよい。糸が1つ以上の合成繊維から構成されるものであると特に有利である。合成高分子繊維、天然高分子繊維またはこれらの繊維混合物は、特に有利である。
【0050】
例えば、縮合重合による繊維を有する糸、特には、ポリエステル(PET)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、アラミドまたはこれらの組合せを含むグループから選択される材料の繊維を有する糸が適する。
【0051】
さらに、重合による繊維を有する糸、特には、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、またはこれらの組合せを含むグループから選択される材料の繊維を有する糸が有利であることもさらに判明している。
【0052】
さらに、重付加による繊維を有する糸、特には、ポリウレタン(EL(エラスタン))の繊維を有する糸が、特に有利である。
【0053】
均一性に関する、リアプロジェクション用布帛の散乱特性を向上させるために、拡散層が、本発明の概念に従って設けられる。これは、布帛に含浸させても、および/または布帛に塗布されてもよい。詳細には、拡散層は、布帛のメッシュ開口を充填し、かつ/または覆う役割を果たす。不透明の被覆物および/または不透明の含浸物、特には、リアプロジェクション用布帛上および/もしくはリアプロジェクション用布帛内における、プラスチック材料の不透明の被覆物ならびに/またはプラスチック材料の不透明の含浸物が、拡散層として特に有利である。布帛の含浸は、例えば、エマルションなどでメッシュ開口を充填することにより達成される。同様に、これに加えて、または代わりに、布帛は、そのエマルションで塗布により被覆されてもよい。
【0054】
好ましくは、布帛と拡散材料が緊密に結合するように布帛に拡散材料を含浸させる。例えば、これは、布帛にエマルションを適切に適用することにより(有利には、布帛はエマルションによって完全に湿潤され、かつ/またはエマルションに浸漬されることにより)達成される。その結果、エマルションが含浸され、硬化後は不透明になり(すなわち、部分的に透過性である)、布帛の支持特性および光学特性と、拡散層の光学特性とが相乗効果的に互いに協働する、極めて薄い平面形状構造体が得られる。
【0055】
本発明の特に好ましい実施形態では、モノフィラメント糸を形成するのに、不透明繊維、透明繊維または半透明繊維が使用され、これらは特には織物用繊維である。これは、特に、光ビームが布帛の糸を通過する際のレンズ効果により、リアプロジェクション用布帛の明度および散乱特性を向上させる。この特に好ましい実施形態では、極めて細い糸が、50μm未満で25μmを超える太さで製作されている。特に好ましい実施形態での糸密度は、1ミリメートル当たり12本よりも大きく、1ミリメートル当たり20本よりも小さい。この特に好ましい実施形態では、布帛の拡散効果を達成するために、布帛の不透明の被覆物および/または不透明の含浸物が設けられている。
【0056】
本発明の概念によれば、リアプロジェクション用布帛は拡散層を備える。これには、リアプロジェクション時に再生される画像の均一性が明らかに向上されるという利点がある。詳細には、いわゆるレインボー効果、または光回折もしくは光屈折により引き起こされる他のアーチファクト(例えば、レインボー効果またはスペクトル的に異なる光屈折に顕著なスペクトラルシフトなど)が防止される。さらに、布帛中に浸透する層および/または布帛に塗布される層のいずれの層であっても(いずれの層も本発明に含まれる)、拡散層の適用は、相乗効果に結びつく。この相乗効果は、光学画像品質の向上に加えて、さらに、リアプロジェクション用布帛を、その機械的特性に関して向上させる。詳細には、この機械的特性の向上は、布帛の弾性率および/またはリラクセーション値に適した拡散層に関係する。総じて、本発明の概念による拡散層により、最大180°の視野角において分光アーチファクトが全くない状態で良好に解像された均一な画像再生が達成され、リアプロジェクション用布帛の機械的特性は、長い間張力状態にあっても変形せず、十分に可撓性を有しながらも弛緩については効果的に抑えられる。これは、特に、本発明の範囲内の糸密度および糸の直径、ならびに拡散層を備えたモノフィラメントのリアプロジェクション用布帛に当てはまる。
【0057】
好ましくは、拡散層は、不透明の含浸物および/または不透明の被覆物として形成される。例えば、好ましくは、リアプロジェクション用布帛の含浸は、エマルションの利用により達成される。要件に応じて、エマルションは、メッシュ開口に塗布されても、かつ/または布帛上を被覆するものであってもよい。説明したように、拡散層は、特には、布帛の弾性率および/または布帛のリラクセーション値に適合したものでもよく、好ましくは、布帛の弾性率および/または布帛のリラクセーション値を改良するものでもよい。このように構成されたリアプロジェクション用布帛は十分に可撓性を有し、リアプロジェクションスクリーンにおいて適切なフレームまたは他のスリーブなどで引っ張ることできる。その一方、このようなリアプロジェクション用布帛の弛緩は、比較的長い間の引張時においても(例えば、会議室などでのプロジェクション画面など)、画像再生を悪くするうねりは発生せず、十分本質的に安定すなわち滑らかである。
【0058】
拡散層(具体的には含浸物および/または被覆物)が、エマルションとして適用されるのが特に好ましい。有利には、エマルションは、ポリビニルアルコールが水に溶解されて生成される。ポリビニルアルコールは、特に好ましい水溶性乳化剤であることが判明している。
【0059】
有利なことに、拡散層(具体的には含浸物および/または被覆物)は、湿潤剤および/または保存剤を有するエマルションを用いて生成されてもよい。有利なことに、湿潤剤は、糸で製作される布帛との接着性を向上させる。これは、モノフィラメント布帛にとって特に好都合である。有利なことに、保存剤は、カビの発育または細菌感染などの発生などを防止する役割を果たす。
【0060】
特に好ましい実施形態では、拡散層(具体的には含浸物および/または被覆物)を形成するために、エマルションは、軟化剤および/またはエラスタンを有する。説明したように、拡散層の機械的特性を、糸で製作される布帛の機械的特性に適合させるために、上記種類および他の種類の弾性剤が、要件に応じて選択されてもよい。この要件は、特に、布帛の弾性率およびリラクセーション値に関する。
【0061】
本発明の他の好ましい実施形態では、拡散層(具体的には含浸物および/または被覆物)が、スターチおよび/または発泡剤を有するのが好ましいエマルションで生成されると有利であることが分かっている。この種類および他の種類の不透明化剤が、拡散層の拡散特性、半透光特性および光拡散散乱特性を付与するのに特に好ましい。例えば、スターチは、拡散層の不透明性を強化または向上させることができる。さらに、十分な量の安定した泡も、拡散層の不透明性を強化または向上させることができる。適切な発泡剤は、例えば、ソープなどを含む。好ましくは、拡散層を可能な限り均一に形成するために、かつ、エマルションを適用した後には泡を安定化させるために、エマルションは整泡剤をさらに有する。
【0062】
好ましくは、布帛における拡散層(具体的には含浸物および/または被覆物)は、拡散層の耐水性を向上させる添加剤であって、好ましくはエマルション内に添加される添加剤を有する。
【0063】
好ましくは、この添加剤が、ホモポリマー分散液またはコポリマー分散液として用いられてもよい。このホモポリマー分散液またはコポリマー分散液は、アセテート(酢酸エステル)、エチレン、アクリルエステル、アクリレートエステル、アクリル酸エステルからなる群より選択されるモノマーを用いるのが好ましい。好ましくは、耐水性の強化は、これに加えて、または代わりに、アルデヒド樹脂、メラミン樹脂もしくはユリア樹脂を用いて達成されてもよい。
【0064】
好ましくは、拡散層を形成するために、エマルションは、硬化剤、特には、酸および/またはイソシアネートを有する。
【0065】
好ましくは、エマルションは、要件に応じて、光増幅剤、例えば、発光剤および/またはリン光剤なども有してもよい。詳細には、色の中立性は維持されてもよいし、必要に応じて、故意に色の中立性をくずしてもよい。
【0066】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明の概念によるリアプロジェクション用布帛はエマルションを用いて設けられた拡散層を備えており、このエマルションは、水および水溶性乳化剤で構成され、布帛の弾性率および/または布帛のリラクセーション値に適合させるために不透明化剤および弾性剤を有する。好ましくは、このエマルションは、さらに、耐水性を向上させる添加剤、硬化剤、および湿潤剤を有する。このように形成されたリアプロジェクション用布帛は、背面投影画像再生に対して相乗効果的に最適化された光学的特性と機械的特性とが互いに連係されるので、格別に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の特に好ましい実施形態によるリアプロジェクションスクリーンを示す図である。
【図2】リアプロジェクションスクリーンのリアプロジェクション平面体に用いられる、本発明の特に好ましい実施形態によるモノフィラメントのリアプロジェクション用布帛を示す図である。
【図3】リアプロジェクションスクリーンのリアプロジェクション平面体に用いられる、本発明の他の特に好ましい実施形態によるマルチフィラメントのリアプロジェクション用布帛を示す図である。
【図4】プロジェクタを有するリアプロジェクションシステムを示す図であって、さらに、リアプロジェクションスクリーンのリアプロジェクション平面体のリアプロジェクション用布帛を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら以下で説明する。これらの図面は、実施形態を必ずしも縮尺どおりに示したものではない。むしろ、説明用であるこれらの図面は、概略的に、および/または少し異なる形態で示されている。図面から直接導き出される教示に対する付加に関しては、関連する先行技術を参照すること。実施形態の形態および細部に係る数々の変更ならびに変形が、本発明の一般的概念から逸脱することなく実施可能であることは考慮されたい。明細書、図面および特許請求の範囲に開示される本発明の特徴は、本発明の実施形態単独でも、これらのいかなる組合せにおいても、有意義である。さらに、本発明の範囲は、明細書および/または図面および/または特許請求の範囲に開示される特徴の少なくとも2つのあらゆる組合せを含む。本発明の一般的概念は、図示され以下で説明される好ましい実施形態の正確な形態または詳細に限定されたり、特許請求の範囲で請求される主題と比べて狭い主題に限定されたりしない。寸法範囲が示されている場合、これらの範囲内にある数値は、限定値として開示されているものでもあり、必要に応じて使用されたり請求されたりしてもよい。
【0069】
本発明のさらなる理解のため、リアプロジェクション用布帛、リアプロジェクションスクリーン、リアプロジェクションシステムおよびこれらの使用を、図面の各図を参照しながら説明する。
【0070】
図1は、リアプロジェクションスクリーン10の特に好ましい一実施形態である。リアプロジェクションスクリーン10は、リアプロジェクション平面体11と、リアプロジェクション平面体11に固着されてリアプロジェクション平面体11の四方全周を包囲するスリーブ13とによって構成されている。さらに、スリーブ13に嵌合された補助部材が、リアプロジェクションスクリーン10が例えば棒状部材に(例えばストラップなどを用いて)嵌合されることを可能にする固定手段19の役割を果たす(この例では棒状部材は図示されない)。この実施形態において、スリーブは、さらに、補助部材の裏側に接着されている。他の実施形態は、スリーブを有さずに例えばクランプレールのみで保持される布帛を備える。リアプロジェクションスクリーン10は長方形状であり、同じく長方形状であるリアプロジェクション平面体11を有する。他の実施形態は、さらに別のあらゆる形状のリアプロジェクション平面体(特には、任意の多角形状)を有してもよい。
【0071】
図4でより詳細に説明されるリアプロジェクションスクリーン10は、後方からリアプロジェクション平面体に投影されるポジ画像41を受けるものであり、リアプロジェクションシステム40の一部として機能する。この画像は、同じく図4に示されたプロジェクタ43(この例ではデータプロジェクタ)によって高強度のビームクラスタ45として生成され、リアプロジェクション平面体11の裏側に表示される。
【0072】
図2は、本発明の第1の特に好ましい実施形態によるリアプロジェクション用布帛20の拡大された部位を示しており、この拡大された部位は、電子画像解析システムを用いて再生されることができる。図2に示されたリアプロジェクション用布帛20は、図示のように、モノフィラメント糸(垂直方向の縦糸21と、縦糸を通って案内される水平方向の横糸23)から製作されている。原則として、さまざまな布帛類がここでは使用されてもよい。この例では、上側および下側がほぼ同一の寸法で、縦糸21および横糸23が同様に構成された布帛20が使用される。この例では、布帛の糸21,23は、ポリアミド繊維から製作されている。図2に示された布帛20の特に好ましい実施形態では、モノフィラメント糸21,23は、平坦な(ほぼ楕円形状もしくはレンズ状)断面を有し、最大直径は27μmである。図2に示された布帛20の糸密度は、「水平」方向に1ミリメートル当たり20本の糸21、または「垂直」方向に1ミリメートル当たり20本の糸23である。図2は、最もきめ細かいモノフィラメント布帛20のうちの1つを示しており、この布帛20は、本発明の概念によれば、画像再生の点でかつて知られない水準のディテール精度と、最大180°の視野角とを可能にしている。このディテール精度は、高い糸密度によって主にもたらされ、大きい視野角は糸の小さい直径によって主にもたらされている。これら糸は、さらに、不透明に構成されており、これは、均一化画像の再生に関して説明した布帛の上述の有利な効果を促す。図示しない拡散層が、アーチファクトのない、均一な画像の再生を向上させる。このことは、図4を参照しながら後述する。
【0073】
図2に示された布帛20において、不透明のプラスチック材料であって図示しない拡散層が、メッシュ開口を隠すために、布帛20の裏側とは反対の視聴側にコーティングされる。リアプロジェクション用布帛のメッシュ開口では、照明された領域であっても実質上ヒトの目には視えないが、後方からの照明によってグレアの発生が極めて近い正面視から感知されてしまう。しかし、拡散層によって、ディテールの精度を損なうことなく、背面投影された画像の「粒状性」を軽減する。
【0074】
図3は、リアプロジェクション用布帛30の第2の特に好ましい実施形態の拡大された部位を示し、このリアプロジェクション用布帛30は、図2と同様に縦糸31および横糸33で構成されている。この拡大された部位は、電子画像解析システムを用いて再生されることができる。この例では、糸31,33は、マルチフィラメント31,33として製作されており、この例では、ポリエステルの3つの繊維(符号31.1,31.2,31.3、および33.1,33.2,33.3としてそれぞれ表記される)をそれぞれ有する。糸31,33はマルチフィラメント糸であり、リアプロジェクション用布帛30において、約40μmの糸の直径である。この例では、個々の繊維31.1,31.2,31.3および33.1,33.2,33.3は、それぞれ、約10μmの直径範囲である。図3のリアプロジェクション用布帛30での糸密度は、1ミリメートル当たり18本である。つまり、図3に示された布帛30は、最もきめ細かいマルチフィラメント布帛のうちの1つであることは確かである。図2に示された布帛20に比べて、糸31,33のマルチフィラメント構造により、布帛30は散乱特性の点で精度が劣るが、図3に示された布帛30では、比較的高密度の構造によって、比較的均一な画像の再生が可能になるという利点を有する。拡散層は図示されていないが、図2における拡散層と同様に、3つの実施例に関して以下に示される種々の方法で生成されることができる。
【実施例1】
【0075】
拡散層は、液体状態では耐水性を有さず水溶性の層として生成されるが、乾燥すると耐水性となる。
【0076】
対応するエマルションは、以下のものを含む。
・溶媒としての水
・添加剤を乳化するための乳化剤であるポリビニルアルコール
・発泡を抑える消泡剤
・布帛に対する接着性を向上させるための湿潤剤
・カビの生育(菌類増殖)または細菌感染の発生を防止する保存剤
・被覆物(拡散層)の不透明性調整のため、特には、過度の光屈折およびレインボー効果を防止するためのスターチ
・酢酸ビニル/エチレン/アクリル酸エステルを構成要素とする、乾燥後の耐水性を調整するためのコポリマー分散液
・被覆物に可撓性を付与し、かつ、耐衝撃性を向上させる軟化剤
・保護被膜として耐水性および耐洗浄性を向上させるアルデヒド樹脂、メラミン樹脂またはユリア樹脂
・乾燥した被覆物の化学的硬化に用いられる酸
【0077】
この被覆処理は水性条件下において実行され、被覆用機械は、湿潤状態の間は水で洗浄できる。これにより塗布時間を大幅に省くことができる。
【実施例2】
【0078】
拡散層は水性状態で処理可能な被覆物として生成され、化学的硬化が施される。
【0079】
対応するエマルションは、以下のものを含む。
・溶媒としての水
・水溶性の乳化剤としてのポリビニルアルコール
・乾燥膜における耐水性を作り出すための酢酸塩系もしくはアクリレート系ホモポリマーまたはコポリマーに基づく水性分散液
・均一な被覆物を生成するための消泡剤
・布帛に対する接着促進剤としての湿潤剤
・腐食を防止する保存剤
・硬化促進剤としてのソープ
・火炎抑制および弾性化のための可塑化剤
・水性媒体に対して用いられる、耐洗浄性を得るための硬化剤としてのイソシアネート
【0080】
この実施例では、不透明性は、被覆物が乾燥する際の発泡によって達成される。
【0081】
この被覆処理は水性条件下で実施される。しかし、被覆物が処理される塗布時間が考慮される。被覆用機械上の乾燥残渣は、機械的に取り除かれてもよい。
【実施例3】
【0082】
拡散層は水性状態で処理可能であって泡により不透明になる被覆材料として生成される。硬化は、その後、化学添加剤を利用して実行される。
【0083】
対応するエマルションは、以下のものを含む。
・溶媒としての水
・水性乳化剤としてのポリビニルアルコール
・耐水性を向上させる、アセテート、エチレン、アクリルエステルからなる群から選択されるモノマーを用いたホモポリマー分散液またはコポリマー分散液
・接着性を促す湿潤剤
・腐食を防止する保存剤
・不透明性を向上させるスターチ
・発泡して不透明性を調整するソープおよび空気
・耐火炎手段としての可塑化剤
・耐水性を向上させるアルデヒド樹脂、メラミン樹脂もしくはユリア樹脂
・耐洗浄性を得るために乾燥された被覆を順次硬化する酸
【0084】
この被覆処理は、実施例1と同様に処理されるものであるが、この実施例での不透明性は、安定した泡により達成される。さらなる処理工程が必要であるが、これは、良好な機械強度とともに優れた柔軟性を付与する。
【0085】
必要であれば、上記のいずれかの実施例によるエマルションは、さらに、光増幅剤、例えば、発光剤および/またはリン光剤を有してもよい。
【0086】
図4では、本発明による散乱効果の広角度が、モノフィラメント糸でもマルチフィラメント糸であっても、60μm未満の比較的小さい糸の直径範囲で達成されることが、図示されたモノフィラメント糸47の例を用いて説明される。本発明の小さい糸の直径にもかかわらず、個々の糸47に当たる背面投射された画像41は、糸47の表面全体に現れる。これは、不透明(または透明もしくは部分的透明)の糸47の裏側における歪んだ画像49’として、または糸47の表側における歪んだ画像49’’として概略図示されている。比較的薄い布帛(例えば、一例である図2および図3におけるそれぞれ布帛20,30として説明されているもの)によってのみ、前方に散乱される光ビーム53,55が、リアプロジェクション平面体11に対する垂線51を中心として広がる狭い角度範囲のみでなく(この場合、前方に散乱されている光ビーム53)、垂線51に対してほぼ90°の角度方向にも散乱される(この場合、光ビーム55)ことができる。つまり、本発明の概念によるリアプロジェクション用布帛を用いると、背面投影された画像41は、実質0〜180°の比較的大きい角度範囲で前方に散乱されることができる。このように0〜180°と広く開いた視野角が、本発明の薄い布帛(ただし、その糸密度は、1ミリメートル当たり7本よりも多く、垂線51に対して横切るように散乱される光ビーム55は糸47に隣り合う糸によって複数回反射されたり複数回散乱されたりすることがない)を用いてのみ達成可能であることは、明白である。このように光ビームが隣り合う糸によって反射されたり散乱されたりするのは、比較的分厚い編面構造(米国出願公開公報第2006/0187544 A1に記載のものなど)にはよくある。これらのような厚みが大きい編面構造を高い糸密度で製作した場合、多重散乱、後方多重散乱および多重反射が数多く発生し、その結果、プロジェクション表面体11に対する垂線51における純粋に前方方向の散乱または狭い角度範囲における散乱しか最終的に残らない。これらのような厚みが大きい編面構造には、本発明の概念と比べて不利なことに、垂線51を中心とする視野角を制限しないように総面積が大きい開口を設けることが必要である。しかし、これは、上述のように、背面投影された画像の精度詳細を損ない、さらに、光の比較的大量の損失につながる。
【0087】
つまり、有利なことに、図4のリアプロジェクションシステム40では、光出力の点で従来のデータプロジェクタの性能水準内に当てはまるリアプロジェクタ43を用いることができる。すなわち、本発明の概念によるリアプロジェクション用布帛20,30によって、消費者にとって手頃な価格で入手可能なリアプロジェクションシステム40(詳細には、映画館以外の商用目的のもの)用のリアプロジェクションスクリーン10を、初めて提供することが可能になる。
【0088】
結論として、本発明は、極めて広い角度で正確にきめ細かい背面投影を生成するのに高い糸密度を有する薄い布帛が極めて適しているという研究結果に基づき、本発明に従った方法で、最大直径が0.06mm未満である複数の糸を備えて1ミリメートル当たり7本を超える糸密度を有するリアプロジェクション用布帛20,30を提供するものである。拡散層は、アーチファクトを減少させ、背面投影された画像の均一性を向上させる。本発明は、このようなリアプロジェクション用布帛20,30を備え、極めて広い角度で特に正確できめ細かい背面投影画像41を提供できるリアプロジェクションスクリーン10に関する。詳細には、このようなリアプロジェクションスクリーンを用いることによって、従来の性能水準のプロジェクタ43(例えば、データプロジェクタまたはレーザ)を用いて構成できる比較的安価なリアプロジェクションシステム40を提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 リアプロジェクションスクリーン
11 リアプロジェクション平面体
20,30 リアプロジェクション用布帛
21,23,31,33 布帛の糸
40 リアプロジェクションシステム
41 画像
43 プロジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸(21,23,31,33)から構成された、リアプロジェクションスクリーン(10)に使用されるリアプロジェクション用布帛(20,30)であって、
1ミリメートル当たり7本よりも大きい糸密度を有し、
前記糸の最大直径が0.06ミリメートル未満であり、
拡散層を備えた、リアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項2】
請求項1において、前記糸がモノフィラメント糸(21,23)であるリアプロジェクション用布帛(20)。
【請求項3】
請求項1において、前記糸が、少なくとも2つの繊維(31.1,31.2,31.3,33.1,33.2,33.3)を有するマルチフィラメント糸(31,33)であるリアプロジェクション用布帛(30)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記糸密度が、1ミリメートル当たり12本よりも大きいリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、前記糸密度が、1ミリメートル当たり35本未満、好ましくは1ミリメートル当たり25本未満であるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、前記糸密度が、1ミリメートル当たり15〜20本、好ましくは1ミリメートル当たり約18本であるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、前記糸の直径が0.05ミリメートル未満であるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、前記糸の直径が0.01ミリメートルよりも大きいリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、前記糸の直径が0.02〜0.04ミリメートル、好ましくは約0.03ミリメートルであるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、前記糸の直径に対する前記糸密度の比率(1/mm)が、116から3500、好ましくは、200から2000、さらに好ましくは400から1500、さらに好ましくは500から900、さらに好ましくは550から850であるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、メッシュ寸法が、0.15mm未満、好ましくは0.1mm未満、さらに好ましくは0.05〜0.07mm、さらに好ましくは0.55mmであるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、開口率が、5〜40%、好ましくは7〜25%、さらに好ましくは9〜20%であるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、前記糸(21,23,31,33)が、不透明繊維、透明繊維または半透明繊維から、具体的には、織物用繊維から構成されているリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項14】
請求項13において、前記糸(21,23,31,33)が、合成繊維から、具体的には、合成高分子繊維もしくは天然高分子繊維またはこれらの繊維混合物を有する合成繊維から構成されているリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、前記糸(21,23,31,33)が、縮合重合による繊維で構成され、具体的には、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、アラミド、またはこれらの組合せを含むグループから選択される材料の繊維で構成されているリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項16】
請求項1において、前記糸(21,23,31,33)が、重合による繊維で構成され、具体的には、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、またはこれらの組合せを含むグループから選択される材料の繊維で構成されているリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項において、前記糸(21,23,31,33)が、重付加による繊維で構成され、具体的には、ポリウレタン(エラスタン)の繊維で構成されているリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項において、不透明な被覆物、具体的には、プラスチック材料の不透明な被覆物を備えたリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項において、布帛の特性に適合した、具体的には、布帛の弾性率とリラクセーション値のいずれか一方または両方に適合した、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方を備えたリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、エマルションの形態で適用され、具体的には、ポリビニルアルコールが水に添加されたエマルションの形態で適用されるリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、さらに、湿潤剤と保存剤のいずれか一方または両方を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、弾性剤、具体的には、軟化剤とエラスタンのいずれか一方または両方を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、発泡状態で添加されるのが好ましい不透明化剤、具体的には、スターチ、発泡剤および消泡剤のうちの任意の1つもしくは2つまたは全て、好ましくは発泡剤、具体的にはソープ、を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、耐水性を向上させる添加剤を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、水性分散液として、具体的には、ホモポリマー分散液またはコポリマー分散液として施され、具体的には、ホモポリマー分散液またはコポリマー分散液が、アセテート、エチレン、アクリルエステル、アクリレートエステルおよびアクリル酸エステルから選択された少なくとも一種を構成要素とするリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、アルデヒド樹脂、メラミン樹脂またはユリア樹脂を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか一項において、含浸物と被覆物のいずれか一方または両方が、具体的には、これらを適用するためのエマルションが、硬化剤、具体的には、酸とイソシアネートのいずれか一方または両方を含むリアプロジェクション用布帛(20,30)。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に記載のリアプロジェクション用布帛(20,30)により構成されるリアプロジェクション平面体(11)を備えたリアプロジェクションスクリーン(10)。
【請求項29】
請求項28において、前記リアプロジェクション平面体(11)を包囲するスリーブ(13)、および固定手段(19)を備えたリアプロジェクションスクリーン(10)。
【請求項30】
請求項28または29において、固定手段(19)が、前記リアプロジェクション平面体(11)を引っ張り固定するように構成されているリアプロジェクションスクリーン(10)。
【請求項31】
請求項28または29において、固定手段には、1つ以上のクランプレールが設けられ、具体的には、補助部材が、好ましくは接着剤を用いて設けられているリアプロジェクションスクリーン(10)。
【請求項32】
請求項29から31のいずれか一項において、前記リアプロジェクション平面体(11)が多角形状であるリアプロジェクションスクリーン(10)。
【請求項33】
請求項29から32のいずれか一項に記載のリアプロジェクションスクリーン(10)を備えるリアプロジェクションシステム(40)であって、さらに、
前記リアプロジェクションスクリーン(10)の裏側に画像(41)を投影するプロジェクタ(43)を備えたリアプロジェクションシステム(40)。
【請求項34】
請求項33において、前記プロジェクタ(43)が、データプロジェクタまたはレーザプロジェクタであるリアプロジェクションシステム(40)。
【請求項35】
請求項1から27のいずれか一項に記載のリアプロジェクション用布帛(20,30)または請求項28から32のいずれか一項に記載のリアプロジェクションスクリーンを、静止画像または動画像の背面投影に用いる、使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−506223(P2010−506223A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531773(P2009−531773)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008835
【国際公開番号】WO2008/043553
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(502369414)ゼファー・アクチエンゲゼルシャフト (7)
【氏名又は名称原語表記】SEFAR AG
【Fターム(参考)】