説明

リグニン系コンクリート混和剤

【課題】 本発明は、原料として使用するリグニンの種類が限定されず、かつ、従来のリグニンスルホン酸系のコンクリート用混和剤よりも高性能である、コンクリート用混和剤を得ることを目的とする。
【解決手段】 リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用混和剤に関する。具体的には、リグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、木材等の植物系バイオマスの主成分のうちの一つであり、セルロースに次ぐ、地上で2番目に多い有機高分子化合物といわれている。リグニンの具体的な構造としては、光合成(一次代謝)により同化された炭素化合物が更なる代謝(二次代謝)を受けることで合成されるフェニルプロパノイドのうち、p-クマリルアルコール・コニフェニルアルコール・シナピルアルコールという3種類の基本単位であるリグニンモノマーが、酵素(ラッカーゼ・ペルオキシダーゼ等)の触媒の元で一電子酸化されフェノキシラジカルとなり、これがランダムなラジカルカップリングで高度に重合することにより複雑な三次元網目構造を形成した、巨大な生体高分子である。
【0003】
リグニンは、由来植物の種類、例えば、木本植物か草本植物かによって基本単位の種類、その比率や結合形態が相違し、そのリグニン構造が相違する。さらに、木本植物であっても、針葉樹であるか広葉樹であるか、さらにはこれらの針葉樹であっても、スギであるかヒノキであるか等原料となるリグニンの樹種によっても、そのリグニン構造は相違している。
【0004】
リグニンは、その原料物質を化学処理することにより単離することができるが、その単離方法によっても得られるリグニン構造が変化する。
【0005】
上述のように、リグニンの分子構造は複雑であり、また、植物系バイオマスから単離する際の単離方法によりリグニンの分子的特性が大きく変化することから、リグニンのマテリアルとしての利用は限られている。さらに、リグニンは本質的には疎水性であり、水に溶解することが難しいことからも、その利用が限られている。
【0006】
リグニンの利用の一例として、従来より、リグニンスルホン酸塩を主成分とするコンクリート用混和剤(AE剤及び減水剤)が知られている。AE剤及び減水剤はいずれも界面活性剤の一種である。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤の4種類に分類されるが、AE剤及び減水剤としては、その性能上、アニオン性又は非イオン性界面活性剤が利用されている。
【0007】
リグニンスルホン酸塩は、スルホン酸基が水中で電離するイオン性(アニオン性)の界面活性剤であるが、疎水部であるリグニン部分の構造を制御することは難しく、コンクリート用混和剤としての性能には限界がある。また、リグニンスルホン酸は、サルファイト蒸解という紙パルプ化法より排出されるリグニン化合物であるが、サルファイト蒸解法は薬剤回収の点等で問題があるため、現在は淘汰されてきており、その結果、副産するリグニンスルホン酸の供給も十分とはいえない。
【0008】
近年、骨材事情の悪化やセメント技術の高度化・多様化に対応し、使用するセメントの材料や施工目的に応じた性能を有するコンクリート用混和剤を容易に得ることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008−514402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、原料として使用するリグニンの種類が限定されず、かつ、従来のリグニンスルホン酸系のコンクリート用混和剤よりも高性能である、コンクリート用混和剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らの種々の検討結果、疎水性のリグニンに親水性基を導入することにより得られた両親媒性のリグニン誘導体が、非イオン性界面活性剤の性質を示し、コンクリート用混和剤として優れた性能を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下を提供する。
(1)リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤。
(2)親水性化合物が、下記式(I):
−Cm2m−(Cn2nO)p−Cq2q−R (I)
[式中、R及びRは、独立して、水素原子、OH基、メチル基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基であり、mは0〜20であり、nは2〜4であり、pは1〜30であり、qは0〜20であり、アルキレン単位の炭素原子は各々、アルキル基、−OH基、−NH基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基から独立して選択される1又は2個の置換基を有していてもよい]
で表される化合物であり、この際混合アルコキシド単位が生じることがあるが、その場合アルコキシド単位の順序は任意である、
上記(1)に記載のコンクリート用混和剤。
(3)親水性化合物が、グリシジルエーテル系化合物又はグリコール系化合物である、上記(1)に記載のコンクリート用混和剤。
(4)親水性化合物が、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルである、上記(1)に記載のコンクリート用混和剤。
(5)親水性化合物がポリ(グリセリン)である、上記(1)に記載のコンクリート用混和剤。
(6)リグニンが、クラフトリグニン、酢酸リグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニン、アルカリリグニンである、上記(1)〜(5)のいずれか1項
に記載のコンクリート用混和剤。
(7)リグニンとグリシジルエーテル系化合物とをアルカリ条件下で反応させることを特徴とするリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤の製造方法。
(8)リグニンとグリコール系化合物とを酸性条件下で反応させることを特徴とするリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤の製造方法。
(9)リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするセメント減水剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高性能のコンクリート用混和剤を簡便に製造することが可能であり、工業的に有利である。また、本発明によれば、原料のリグニンの種類が限定されず、現在未利用のリグニンを有効に利用することができる点においても工業的に有利である。さらに、本発明によれば、任意の親水性化合物を原料物質として使用することにより、使用するセメントの材料や施工目的に応じた性能を有するコンクリート用混和剤を容易に得ることができる点においても工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、コンクリート用混和剤の添加量に対するコンクリートの流動性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(リグニン)
本発明におけるリグニンとしては、任意のリグニンを使用することができ、例えば、パルプ化処理により木材チップ等より単離される、クラフトリグニン、酢酸リグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン等;バイオマス変換技術で副産される、硫酸リグニン、アルカリリグニン等、が挙げられるが、これらに限定されない。また、任意の起源のリグニンを使用することができ、例えば、スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹リグニン;ブナ、ナラ等の広葉樹リグニン;稲わら、モミ、バガス等の草本系リグニンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本発明で使用されるリグニンは、当該技術分野で公知の方法、例えば、「リグニンの化学(中野準三編 ユニ出版)」に記載の方法を用いて原料物質より単離することにより得ることができる。
【0017】
リグニンの分子量は、その原料物質や単離方法に依存する。本発明で使用されるリグニンは、任意の分子量のリグニンを使用することができるが、例えば、平均分子量500〜100万のリグニン、好ましくは、平均分子量5千〜10万のリグニンを使用することができる。
【0018】
(親水性化合物)
本発明のリグニン誘導体の出発原料物質である親水性化合物としては、分子中に−OH、−O−、−NHなどの親水性基を少なくとも1つ含む化合物を意味する。好ましくは、親水性化合物は、以下の式(I):
−Cm2m−(Cn2nO)p−Cq2q−R (I)
[式中、R及びRは、独立して、水素原子、OH基、メチル基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基であり、mは0〜20であり、nは2〜4であり、pは1〜30であり、qは0〜20であり、アルキレン単位の炭素原子は各々、アルキル基、−OH基、−NH基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基から独立して選択される1又は2個の置換基を有していてもよい]
で表される化合物であり、この際混合アルコキシド単位が生じることがあるが、その場合アルコキシド単位の順序は任意である。
【0019】
本発明で使用される親水性化合物の例としては、例えば、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない:
エチレングリコール、ジエチレングリコール、各種分子量のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、各種分子量のポリプロピレングリコール、グリセリン、各種分子量のポリグリセリン等のグリコール系化合物;並びに
メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−モノエチル−グリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−モノメチル−グリシジルエーテル、ラウリルアルコール−ポリエチレンオキサイド−グリシジルエーテル等の単官能のグリシジルエーテル系化合物、
エチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(n’=1〜30、好ましくは9〜30)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(n’=1〜30、好ましくは9〜30)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,3−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールジグリシジルエーテル、ソルビトールジグリシジルエーテル等の二官能のグリシジルエーテル系化合物、
グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、3級カルボン酸グリシジルエステル、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタントリグリシジルエーテル、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、フロログルシノールトリグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、シアヌル酸トリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル等の多官能のグリシジルエーテル系化合物、および
これらのグリシジル基をメトキシ、エトキシなどのアルコキシドと反応させて、グリシジルエーテル基の官能度を低下させたグリシジルエーテル系化合物。
【0020】
これら親水性化合物は、市販のものを用いてもよいし、当該分野で公知の方法により調製したものを用いてもよい。これら親水性化合物は、上記式(I)の化合物に包含される。
【0021】
本発明のリグニン誘導体は、これら親水性化合物を任意に選択して調製することにより、得られるコンクリート用混和剤としての性能をコントロールすることができる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、エチレンオキサイドの繰り返し単位が1〜20のポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、エチレンオキサイドの繰り返し単位が5〜15のポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、エチレンオキサイドの繰り返し単位が13のポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0026】
本発明のより好ましい実施形態では、親水性化合物は、エチレンオキサイドの繰り返し単位が13のポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルを炭素数1〜3のアルコキシドにより単官能化したものである。
【0027】
本発明のより好ましい実施形態では、親水性化合物は、ポリ(エチレングリコール)モノエチル−グリシジルエーテルである。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、エチレンオキサイドの繰り返し単位が13のエトキシ−(2−ヒドロキシ)−プロポキシ−ポリエチレングリコールグリシジルエーテルである。
本発明の好ましい実施形態では、親水性化合物は、ポリグリセリンである。
【0029】
(リグニン誘導体)
リグニンと親水性化合物とを反応させて、疎水性のリグニンに親水性基を導入することにより、本発明の両親媒性のリグニン誘導体を得ることができる。リグニンに親水性基を導入する方法としては、リグニン中の水酸基に親水性化合物中の反応基を反応させるための公知の方法を用いることができる。
【0030】
本発明の反応において、リグニンに対し反応させる親水性化合物の量は、使用されるリグニン及び親水性化合物の種類、並びに目的とするコンクリート用混和剤の性能に依存して決定することができる。加える親水性化合物の量は、使用するリグニン中の水酸基の量、加える親水性化合物中のグリシジル基又は水酸基の量に基づき算出される。理論的には、リグニン中の全ての水酸基は親水性化合物中のグリシジル基又は水酸基と反応する可能性があり得る。親水性化合物の量は、限定されないが、通常、リグニン10重量部に対しグリシジル系化合物5〜100重量部、好ましくは、リグニン10重量部に対しグリシジル系化合物10〜60重量部、より好ましくは、リグニン10重量部に対しグリシジル系化合物30〜40重量部である。
【0031】
親水性化合物としてグリシジルエーテル系化合物を用いる場合、リグニンをアルカリ水溶液に溶解し、アルカリ性条件下で遊離したリグニン中の水酸基(リグニン−OH)をグリシジルエーテル系化合物中のグリシジル基と反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解した後に得られる黒液を、上記リグニンのアルカリ水溶液として用いることもできる。
【0032】
反応温度は、特に限定されないが、通常、50℃〜100℃、好ましくは70℃である。
【0033】
反応時間は、特に限定されないが、通常、30分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは、3時間〜6時間である。
【0034】
本発明の反応においては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウム等を使用してアルカリ性条件にすることができる。
【0035】
本反応において、リグニンとグリシジル系化合物との反応終了後、反応系に酸を添加して中和する。添加する酸としては、悪影響を及ぼさない限り何れの酸でもよく、例えば、塩酸、リン酸、硫酸等の無機酸、及びギ酸、酢酸等の有機酸を使用することができる。
【0036】
本反応は、疎水性のリグニンに親水性化合物が導入されたことにより、得られるリグニン誘導体が親水性になった時点で完了する。リグニンと親水性化合物との反応の完了は、例えば、反応中の溶液を一部サンプリングしたものに酸を加えてpHを下げた際、沈殿を生じるか否かで判定することができる。反応が不十分である場合、未反応のリグニンが沈殿として析出する。反応が完了した場合は沈殿が生じず、両親媒性リグニン誘導体が得られている。
【0037】
本発明の一実施形態において、リグニンを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、得られたリグニンのアルカリ水溶液を常圧下で約70℃に温め、所定量のグリシジルエーテル系化合物を加え、約3時間攪拌しながら反応させ、反応終了後、反応系に酸を加えて中和することにより、リグニン誘導体が得られる。
【0038】
親水性化合物としてグリコール系化合物を用いる場合、リグニンとグリコール系化合物との混合物に、酸触媒を添加して反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。
【0039】
酸触媒としては、塩酸、硫酸等を用いることができる。添加量は、通常、グリコール系化合物に対して0.1〜3.0重量%である。
【0040】
反応温度は、特に限定されないが、通常、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜160℃、より好ましくは140℃である。
【0041】
反応時間は、特に限定されないが、通常、30分〜180分、好ましくは60分〜120分、より好ましくは、90分である。
【0042】
本反応において、リグニンとグリコール系化合物との反応終了後、反応系に水を添加して、水不溶部を取り除くことが好ましい。
【0043】
上記反応により得られたリグニン誘導体は、そのままコンクリート用混和剤として使用することもできるし、必要に応じて、脱塩及び未反応の親水性化合物の除去のために、限外濾過に付すことができる。例えば、分子量3000以下を排除できる限外濾過装置を用いて濾過に付すことが好ましい。
【0044】
反応により得られたリグニン誘導体は、必要に応じて、凍結乾燥機等の従来使用されている乾燥方法により完全に乾燥させてもよい。
【0045】
親水性化合物としてエトキシ−(2−ヒドロキシ)−プロポキシ−ポリエチレングリコールグリシジルエーテルを用いた場合に得られるリグニン誘導体の模式図は、以下のとおりである。
【0046】
【化1】

【0047】
(コンクリート用混和剤)
コンクリート用混和剤とは、詳細には、AE剤、高性能減水剤、硬化促進剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤及び流動化剤を意味する(JIS A 6204:2006)。AE剤とは、表面張力の低下による気泡性及び界面に配向した分子膜の強さに関連する気泡安定性に優れた界面活性剤であって、コンクリート中に微細な独立気泡を一様に分布させ、コンクリートのワーカビリティ及び凍結融解に対する抵抗性を改善する。減水剤とは、分散又は湿潤作用に優れた界面活性剤であって、セメント粒子表面に吸着し、電気二重層をつくるかセメント粒子周囲に溶媒和層を形成してセメント粒子を分散させ、コンクリートのワーカビリティを著しく改善する。AE剤を伴う減水剤はAE減水剤と呼ばれる。
【0048】
本発明のリグニン誘導体をコンクリート用混和剤として使用する場合は、水溶液の形態で使用してもよいし、または、乾燥させたものを粉体化して使用してもよい。また、粉体化した本発明のコンクリート用混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウトなどに用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
【0049】
好ましくは、本発明のリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤は、水溶液の形態で使用する。水溶液の濃度は任意であるが、例えば、5〜50%であり、好ましくは、10〜30%程度である。
【0050】
セメントに添加する際の本発明のコンクリート用混和剤の配合量は、任意であるが、例えば、固形分換算で、セメントの質量に対して、0.01〜10.0質量%、好ましくは0.02〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。このような配合量により、通常の汎用セメントにおいては、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。特に、配合量が0.1質量%以上である場合は、流動性が著しく付与されるため、いわゆるセメント減水剤としての効果に優れ、好ましい。
【0051】
本発明のコンクリート用混和剤には、その性能を阻害しない範囲で、従来公知の添加剤を配合してもよい。従来公知の添加剤としては、例えば、消泡剤、空気連行剤、湿潤剤、防水剤、粘度調節剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明のコンクリート用混和剤は、セメント、石膏、プラスターなどのセメント組成物、それに細骨材(砂など)や粗骨材(砕石など)を含む、モルタル、コンクリートなどに用いることができる。すなわち、本発明のコンクリート用混和剤は、セメント減水剤としても用いることができる。
【0053】
セメント組成物に使用されるセメントは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)などが挙げられる。さらに、セメント組成物には、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末などの微粉体や石膏などを添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材など以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質などの耐火骨材を使用することができる。
【0054】
上記セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量および水/セメント比(質量比)は、単位水量が好ましくは100kg/m〜185kg/m、より好ましくは120kg/m〜175kg/m、使用セメント量が好ましくは200kg/m〜800kg/m、より好ましくは250kg/m〜800kg/mであり、水/セメント比(質量比)が好ましくは0.1〜0.7、より好ましくは0.2〜0.65であり、貧配合から富配合まで幅広く使用可能である。本発明のコンクリート用混和剤は、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)が0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリートや、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
(リグニン溶液の調製)
リグニンとして、スギチップをアルカリ蒸解して得られた蒸解黒液から精製したアルカリリグニンを用いた。なお、アルカリ蒸解はスギ材からバイオエタノール製造する際の前処理として採用される手法である。10gのアルカリリグニンを100mLの1Nの水酸化ナトリウム水溶液に常温で攪拌しながら溶解した。
【0057】
(グリシジルエーテル系化合物の調製)
エチレンオキサイドの繰り返し単位が13のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX−841)24gをアセトン20mLに加え、攪拌しながら50℃に加熱した。次に、ナトリウムエトキシド1.36gをエタノール12mLに溶解し、これを50℃に加熱した。50℃に加熱されたグリシジルエーテル系化合物アセトン溶液に、ナトリウムエトキシド溶液を20分かけて滴下し、さらに同温度で10分間攪拌した。溶液を酢酸で中和した後、ロータリエバポレーターで溶媒を除去し、デシケーター内で真空乾燥を24時間行い、エトキシにより単官能化されたグリシジルエーテル系化合物(エトキシ−(2−ヒドロキシ)−プロポキシ−ポリエチレングリコールグリシジルエーテル)を得た。
【0058】
(リグニンの誘導体化)
上記の10gアルカリリグニン1N水酸化ナトリウム水溶液に、上記の方法で調製した単官能のグリシジルエーテル系化合物を22g加えた。溶液を70℃に加熱し、3時間攪拌して反応させた。反応を、酢酸を加えてpHを4にすることで終了させた。分子量1000以下を排除する限外濾過膜を装着した限外濾過装置を用いて、溶液の濾過を行った。濾過後、残渣を集めて凍結乾燥し、約22gのリグニン誘導体を得た。
【0059】
実施例2
実施例1で用いたアルカリリグニンの代わりに、紙パルプ製造のクラフト蒸解の際に副産物として得られるリグニン(クラフトリグニン)を用いた以外は実施例1と同様にして、リグニン誘導体を調製した。クラフトリグニンはMeadWestvaco社の広葉樹のクラフトリグニンを用いた。
【0060】
実施例3
実施例1で用いたアルカリリグニンの代わりに、酢酸を蒸解液として用いたパルプ化の際に副産する酢酸リグニンを用いた以外は実施例1と同様にして、リグニン誘導体を調製した。酢酸パルプはシラカンバのチップを100Lの蒸解釜で酢酸蒸解して得られたものである。
【0061】
実施例4
実施例1で用いたグリシジルエーテル系化合物として、エチレンオキサイドの繰り返し単位が13のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX−841)を単官能化せず、そのまま2官能物として使用した。実施例1に示した10gアルカリリグニン1N水酸化ナトリウム溶液に、上記の2官能のグリシジル化合物を10g加えた。溶液を70℃に加熱し、3時間攪拌して反応させた。反応を、酢酸を加えてpHを4にすることで終了させた。分子量1000以下を排除する限外濾過膜を装着した限外濾過装置を使用して、溶液の濾過を行った。濾過後、残渣を集めて凍結乾燥し、約15gのリグニン誘導体を得た。
【0062】
実施例5
(グリコール系化合物での誘導体化)
平均分子量400のポリエチレングリコール50gに、濃硫酸を0.25g添加し、常温常圧下で、よく攪拌したものをグリコール系試薬とした。アルカリリグニン10gに対し、50gの上記のグリコール系試薬を添加し、常圧下で攪拌しながら、140℃に加熱した。90分間の加熱反応後、反応層を水で冷却した。冷却後、内容物をスポイトで吸い出し、スターラーで激しく攪拌した1リットルの蒸留水に滴下した。ポアサイズ16〜40μmのガラスフィルターで前記の蒸留水を濾過して、水不溶部を除いた。得られた水溶液は、分子量1000以下を排除する限外濾過装置を用いて濾過を行った。濾過後、残渣を集めて凍結乾燥し、約5gのリグニン誘導体を得た。
【0063】
得られたリグニン誘導体をコンクリート用混和剤として用いて、以下の性能評価を行った。
【0064】
試験例1:
流動試験による減水効果の確認
コンクリート用混和剤の性能試験で、セメントのフロー試験をJIS法(セメントの物理試験方法JIS-R5201)に準じて行った。混和剤の比較として、市販のリグニンスルホン酸系混和剤(ポゾリスNo8:BASFポゾリス株式会社)及び市販リグニンスルホン酸塩(サンエキス:日本製紙ケミカル株式会社)を用いた。本発明の混和剤、市販混和剤、市販リグニンスルホン酸をそれぞれ水に溶解し、20%溶液を調製した。セメントは住友大阪セメント(密度:3.15kg/cm3)を使用した。以下の試験は20℃に調節された試験室で行い、使用したセメントや水も20℃に調整した。
【0065】
セメント(976g)、水(341g)、セメントに対して混和剤が0.1〜1%になるように秤量した混和剤水溶液を加え、JIS法に従って機械練りを行った(低速(120秒)→(かき落とし20秒)→低速(120秒)→(かき落とし20秒))。練り混ぜたセメントペーストを、速やかにフロー試験に供した。
【0066】
フロー試験では相対面積フロー値を求めて混和剤の性能を調べた。ガラス板を水平に置き、フローコーンを中央に設置した。ペーストは2回詰めした。各層は突き棒の先端の1/2がその層に入るように15回突いた。2層目は不足分を補い表面をならす。フローコーンを鉛直に取り去り、垂直方向に2箇所直径を計測してその平均値を求めた。流動試験は同一条件について2回行い、その平均を求めた。
【0067】
【化2】

【0068】
図1に混和剤の添加量に対するセメントの流動試験の結果を示した。実施例1で調製したリグニン誘導体からなる混和剤は、比較として用いた2種の混和剤より優れた流動性を示した。通常用いられるこの種の混和剤の濃度が約0.25%の添加であることを考慮すると、本発明の混和剤は市販品より約2〜3倍の効力を持つことが示された。なお、市販品のリグニンスルホン酸系混和剤は、活性成分のリグニンスルホン酸塩に加え種々の混和剤を含んでいることを考慮すると、本発明のリグニン誘導体単独で上記性能を示すことは、驚くべきことである。
【0069】
実施例2及び3で調製したリグニン誘導体からなる混和剤もまた、市販品を凌駕する性能を示した。実施例4で調製したリグニン誘導体からなる混和剤は、市販品と同等の性能を示した。実施例5で調製したリグニン誘導体からなる混和剤は、市販品と同等の性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のリグニン誘導体は、コンクリート用混和剤として市販品のコンクリート用混和剤よりも優れた性能を示す。また、本発明のリグニン誘導体を製造する際の原料リグニンの種類が限定されない。紙パルプ化技術やバイオエタノール製造で副産されたような多種多様なリグニンを用いることができるので、バイオマス総合利用に寄与することができる。さらに、本発明によれば、任意の親水性化合物を原料物質として使用することにより、使用するセメントの材料や施工目的に応じた性能を有するコンクリート用混和剤を容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤。
【請求項2】
親水性化合物が、下記式(I):
−Cm2m−(Cn2nO)p−Cq2q−R (I)
[式中、R及びRは、独立して、水素原子、OH基、メチル基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基であり、mは0〜20であり、nは2〜4であり、pは1〜30であり、qは0〜20であり、アルキレン単位の炭素原子は各々、アルキル基、−OH基、−NH基、グリシジル基又はグリシジルエーテル基から独立して選択される1又は2個の置換基を有していてもよい]
で表される化合物であり、この際混合アルコキシド単位が生じることがあるが、その場合アルコキシド単位の順序は任意である、
請求項1に記載のコンクリート用混和剤。
【請求項3】
親水性化合物が、グリシジルエーテル系化合物又はグリコール系化合物である、請求項2に記載のコンクリート用混和剤。
【請求項4】
親水性化合物が、ポリ(エチレングリコール)モノエチル−グリシジルエーテルである、請求項1に記載のコンクリート用混和剤。
【請求項5】
リグニンが、クラフトリグニン、酢酸リグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニン、アルカリリグニンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート用混和剤。
【請求項6】
リグニンとグリシジルエーテル系化合物とをアルカリ条件下で反応させることを特徴とするリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤の製造方法。
【請求項7】
リグニンとグリコール系化合物とを酸性条件下で反応させることを特徴とするリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤の製造方法。
【請求項8】
リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするセメント減水剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184230(P2011−184230A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50595(P2010−50595)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省「バイオマス・マテリアル製造技術の開発」委託事業産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)