説明

リグノセルロース材料の処理方法

本発明は、特に気相でシュウ酸誘導体、特にジアルキルエステル誘導体に材料を曝露する処理工程又は前処理工程を使用した繊維状リグノセルロース材料又は供給源からパルプを製造する新規の方法である。処理したら、材料を、いくつかのパルプ化法のうちの1つを使用して精製し、最終パルプ製品を製造することができる。この製品の製造により、パルプから作製した紙の強度が増し、パルプ作製におけるエネルギーが節約される。さらに、処理又は前処理により、さらなる製品開発のための可溶性炭水化物供給源及び他の成分(例えば、酢酸、他の木材成分)が製造される。或る特定の場合には、パルプ製品は製造されず、リグノセルロース中に存在する全炭水化物は、可溶性糖に変換される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年7月8日出願の米国特許仮出願第60/697,507号(その全体が本明細書中に参照によって援用される)の優先権を主張する。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
該当なし
【0003】
(発明の背景)
リグノセルロース材料は、種々の製品生成の供給源である。いくつかの製品は、木材チップ由来の機械パルプ繊維等のリグノセルロースの有意な構造成分を保持する。リグノセルロース中の炭水化物由来の糖等の他の化合物を、発酵又は化学的変換によって製品にする。リグノセルロースを、分子製品への一連の構造(structured)を示す製品にすることができる。一連の製品を、種々の物理的、化学的、生物学的、及び熱プロセスによって生成する。
【0004】
木材からの紙の製造において、木材を、最初に中間体段階に小さくする。この段階において木材中の繊維をその天然環境から分離し、パルプと呼ばれる粘性液体懸濁液に変換する。木材の一成分はリグノセルロースである。最も豊富なリグノセルロース成分は、セルロースポリマーである。これらは、最終パルプ製品中の最も望ましいポリマーである。第2の最も豊富なポリマー(リグノセルロースの最も望ましくないパルプ成分)はリグニンである。パルプ中のかなりの量のリグニンは、最終紙製品の滑らかさを低減し、光に曝露した場合に紙を変色させるおそれがあるため、リグニンは望ましくない。リグニンはまた、パルプ繊維を硬く且つ弱くすることがある。
【0005】
リグノセルロースの第3の主成分はヘミセルロースである。ヘミセルロースは、セルロースより不均一な糖のポリマーである。ヘミセルロースは、グルコースに加えて、アラビノース、ガラクトース、キシロース、及びマンノース由来のオリゴマーの糖から構成される。ヘミセルロース及びリグニンは、リグノセルロース中のセルロースと混合し、これらは、生物、酵素、又は化学物質による損傷からセルロースを保護するのに役立つ。ヘミセルロース及びリグニンの除去は、しばしば、リグノセルロース処理の一部である。
【0006】
いくつかのパルプ化技術のうちの1つを使用して、パルプを種々のリグノセルロースから生産することができる。これらの技術のうちで最も簡潔なものは、リファイナー機械パルプ化(refiner mechanical pulping:リファイナーメカニカルパルプ化)(RMP)法であり、この方法は、機械的製粉操作により、その繊維間で所望の濾水度(任意の水切れ程度)が達成されるまで水中で木材を粉砕又は研磨する。RMP法は収率が高く、典型的には、木材乾燥重量の約95%をパルプに変換する。しかし、RMP法ではまた、パルプ中の実質的に全てのリグニン及びヘミセルロースが残る。結果として、RMPパルプは、一般に、強度が低く、不透明な紙製品を提供する。一般に、これらの紙製品を使用して、新聞紙又は他の低品質の紙製品を製造する。
【0007】
他のパルプ化法には、熱機械パルプ化(thermo-mechanical pulping:サーモメカニカルパルプ化)(TMP)、熱機械パルプ化を用いた化学処理(CTMP)、化学機械パルプ化(chemi-mechanical pulping)(CMP)、及び化学パルプ化、硫酸塩(クラフト)又は亜硫酸塩プロセスが挙げられる。化学ベースの方法では、一般に、化学物質/水溶液を使用してリグニン及びヘミセルロースを溶解して繊維の分離を促進させる。同様に、リグニンがなければ、より強度が高く、且つ変色傾向の低い最終紙製品が製造される。これらの製品には、しばしば、紙袋、輸送箱、印刷用紙、筆記用紙、及び強度を必要とする他の製品が挙げられる。
【0008】
熱機械プロセス(例えば、TMP及びCTMP)では、精製時の繊維の分離に高温を使用する。これらのプロセスは、一般に、1つ又は複数の工程で実施される精製を必要とする。第1の工程は、通常、100℃を超える温度及びその直後にリグニンの軟化温度未満又は軟化温度で行う精製を使用した加圧工程である。この工程中、典型的には、RMP法を使用してパルプを機械的に処理する。その後の工程では、圧力及び温度を、通常、繊維間の所望の濾水状態を達成するように調整する。
【0009】
上記パルプ化技術を使用してパルプを製造するために、比較的高い総電力量又は大量のリグノセルロースの投入が必要である。特に、リグニンが豊富な木材から繊維を分離するために高いエネルギーを導入する必要があり、このため、木材は一般に、長時間の精製時間又は高い精製温度若しくは圧力を要する。最近の研究により、このような木材の熱軟化処理又は化学的軟化処理でさえもより低い総エネルギー消費が保証されないことが示唆されている。これは、熱処理又は化学処理によって軽度にしか分離されない未処理繊維が機械精製プロセス中にフィブリル化することが困難であるからである。
【0010】
フィブリル化は、繊維の可動性を増大させて品質の高い処理パルプに典型的な繊細な材料を得るのに必要とされる。実際、種々のTMP及びCTMPプロセスにおける確立されたレベルからのエネルギー消費の減少がパルプの一定の性質の低下(パルプ中の長繊維含有率の減少、引裂き強度及び引張り強度の低下、並びに高結束繊維含有率が含まれる)に関連していることが示唆されている(米国特許第5,853,534号(本明細書中に参照によって援用される)を参照のこと)。結果として、今日のパルプ化の実施には、一般に、TMP及びCTMPプロセスで高エネルギー消費が必要とされている。
【0011】
改良された方法は、エネルギー効率の良いパルプ製造に必要であり、性質が改良され、望ましくないプロセス副産物(特に、環境的に問題のある副産物)がより少なく、使用可能な高級な(high end)望ましい製品(例えば、ヘミセルロース糖)が多い紙を生産する。ヘミセルロース等の重要なリグノセルロース成分に影響を及ぼすことが示された方法は、リグノセルロースのパルプ化に有用であり、糖及びリグニンに全て分解するようにリグノセルロースを調製することができるはずである。
【発明の開示】
【0012】
(発明の要約)
簡潔に述べれば、本発明は、特に気相でシュウ酸誘導体、特にジアルキルエステル誘導体に材料を曝露する処理工程又は前処理工程を使用した繊維状リグノセルロース材料又は供給源からパルプを製造する新規の方法である。処理したら、材料を、いくつかのパルプ化法のうちの1つを使用して精製し、最終パルプ製品を製造することができる。この製品の製造により、パルプから作製した紙の強度が増し、パルプ作製におけるエネルギーが節約される。さらに、処理又は前処理により、さらなる製品開発のための可溶性炭水化物供給源が製造される。或る特定の場合には、パルプ製品は製造されず、リグノセルロース中に存在する全炭水化物は、可溶性糖に変換される。
【0013】
1つの実施の態様では、本方法は、シュウ酸誘導体の存在下で、適切には気相にて、材料をパルプに精製する前に繊維状リグノセルロース材料を約90℃〜170℃、より適切には130℃〜140℃の温度に加熱することを含む。使用したシュウ酸誘導体の乾燥重量は、繊維状リグノセルロース材料の乾燥重量の約6%未満、適切には約5%未満、より適切には約0.05%〜5%、最も適切には約1%〜3%であり得る。周囲圧力又はそれを超える圧力で、未処理材料と比較して低いエネルギー導入レベルで処理した製品をその後に精製するのに十分な時間(典型的には、約4時間未満)処理することができる。処理したら、次いで、処理した材料を精製してパルプを形成し、このパルプを使用して最終紙製品を製造することができ、そうでなければ、酵素又は酸によって可溶性炭水化物に加水分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施態様を詳細に説明する前に、本発明が、以下の説明に記載されているか又は図面に図解されている構造の詳細及び成分の配置に対する本発明の適用に制限されないことを理解されたい。本発明は、他の実施態様が可能であり、種々の方法で実施又は実行可能である。また、本明細書中で使用した表現及び専門用語が説明を目的とし、本発明を制限するとみなされるものではないと理解される。本明細書中の「挙げられる」、「有する」、及び「含む」の使用は、その後に列挙した事項及びその等価物並びにさらなる事項及びその等価物を包含することを意味する。
【0015】
本明細書中に引用した任意の数値には下の値から上の値までの全ての値が含まれることも理解される。例えば、温度範囲を100℃〜170℃と記述している場合、101℃〜110℃、102℃〜105℃等の値を本明細書中に明確に列挙していると意図される。これらは、何を特に意図しているかについての例示でしかなく、列挙された最小値と最大値との間の数値の全ての可能な組み合わせが本出願中に明確に記載されているとみなされるものとする。
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、シュウ酸又はシュウ酸誘導体に材料を曝露する処理工程又は前処理工程を使用して繊維状リグノセルロース材料からパルプ及び/又は糖を製造するためのリグノセルロース材料の処理方法である。一般に、工程は、シュウ酸誘導体と組み合わせて繊維状リグノセルロース材料(例えば、木材)の熱処理を含む。処理したら、繊維状材料を、いくつかのパルプ化方法のいずれか1つを使用して精製してパルプ製品を製造し、放出された糖を他の製品のために回収することができる。
【0017】
本発明の処理方法は、広葉樹及び針葉樹からヘミセルロースを除去する。本方法によってヘミセルロース糖が放出されるので、本方法を、ヘミセルロースが存在する系で使用することができ、ヘミセルロースは、回収のために利用可能な場合があり、材料から別の製品を作製するために除去しなければならないか、又は除去しなくてもよいことがある。したがって、広葉樹、針葉樹のチップ及び樹皮並びにパルプ製品及び農業残渣を使用することができる。これらの処理由来の水性抽出物は酵母の成長を支持し、エタノールを生産することができる。蒸発糖溶液を、阻害することなく酵母及び混合ルーメン微生物によって代謝させることができる。この処理から得られる残存木材チップを、未処理材料よりも良好にルーメン微生物によって気体に変換することができ、このことは、存在する炭水化物が微生物に接触可能であり、消化酵素にも接触可能であることを示す。このプロセスによるリグノセルロース材料の処理により、ヘミセルロースの加水分解物が直接得られるが、リグノセルロースの糖への糖化を、酵素又はさらなる酸加水分解によってさらに増強することができる。本方法により、パルプの製造における電力量も節約される。前処理したリグノセルロース材料により、パルプからより強い紙製品が得られる。トウヒ又はパイン等の針葉樹由来の紙製品は、光学的性質が改良され、輝度、不透明度、及び散乱が増大した。化学パルプ化について、対照チップと比較して前処理した木材チップの総収率及び選別収率(screened yield)が増大し、それに伴い、カッパー価、必要な活性アルカリ及び残存アルカリが減少する。このプロセスによって処理された材料からクラフト化されることができる製品の範囲には、紙製品及びボード製品、繊維、糖、及びオリゴ糖、食品プロセス、化学プロセス、又は発酵プロセスの前駆体、及びヘミセルロース及びセルロースポリマーの消化由来の成分が挙げられる。
【0018】
本発明に従って処理された繊維状リグノセルロース材料は、一般に、セルロースポリマー、ヘミセルロースポリマー、及びリグニンを含む材料が含まれると定義される。これらの材料には、典型的に、パルプへと加工されて紙製品を作製することができる材料が挙げられる。このような材料には、例えば、広葉樹(すなわち、広葉樹の種)及び針葉樹(すなわち、球果植物(conifer))が挙げられ得る。より詳細には、これらの材料には、サザンイエローパイン、トウヒ、アメリカツガ(Western Hemlock)、アスペン、及び他の直径が小さな木が含まれる。材料はまた、丸太(例えば、樹木のまま)、残渣(例えば、森林及び製材工場の操作から得られた木片)、又は再生紙に由来し得る。再生紙には、消費前再生紙(印刷物、カートン製造、又は最終消費者に届けられることなくパルプ作製のために再利用される他の変換プロセス由来のトリミング及び屑等)又は消費後再生紙(ダンボール箱、新聞紙、雑誌、及び事務用紙等)が挙げられ得る。
【0019】
シュウ酸誘導体(単数又は複数)(交換可能に使用される)は、本明細書中で使用される場合、広義で解釈されるものとする。まず第1の例では、シュウ酸のアルキル及びジアルキルモノエステル及びジエステルが意図される。エステルのアルキル部分は、一般に、約1〜約10個の炭素原子、好ましくは約1〜6個の炭素原子、最も好ましくは約1〜4個の炭素原子を有する。アルキル部分は、置換、非置換、環式、直鎖、分岐、又は非分岐であるが、主に炭化水素が最適である。1つの実施態様では、シュウ酸誘導体には、エステル以外のカルボン酸誘導体(例えば、アミド、酸ハライド、及び無水物)が挙げられ得る。本発明の実施において好ましいシュウ酸誘導体は、シュウ酸のメチル及びエチルジエステルである。一般に、本発明で使用することができるシュウ酸誘導体には、下記式(I)のシュウ酸誘導体が挙げられる。
【化1】

式中、R1及びR2は、独立して、水酸基、酸素、ハライド、置換若しくは非置換アミン、OR3、又は下記式(II)の側鎖であり、
【化2】

(ここで、R3及びR4は、独立して、1〜10個の炭素原子の分岐若しくは非分岐、環式若しくは直鎖、飽和若しくは不飽和、置換若しくは非置換アルキルである。)また、R1及びR2の両方が水酸基であることはない。
【0020】
一般に、前処理プロセスの開始前に、繊維状リグノセルロース材料を、最初にパルプ化に適切なサイズに小さくする。繊維状リグノセルロース材料をパルプ化に適切なサイズに小さくする方法は、当該技術分野で既知である。繊維状リグノセルロース材料のサイズを小さくすることにより、材料がシュウ酸誘導体で十分に処理されるのを補助する。1つの実施態様では、処理すべき材料を、木材チップにまで小さくする。木材チップの一般に許容されているサイズには、1mm〜100mmの長さのサイズ範囲のチップが含まれる。しかし、本発明の方法は木材チップにまで小さくされない材料(例えば、再生紙、木材残渣、又は丸太自体に由来する材料)を使用しても有効となり得ることが意図される。本発明の方法はパルプ自体を処理する上でも有効となり得ることが意図される。
【0021】
小さくした繊維状リグノセルロース材料を、次いで、一定量のシュウ酸誘導体で処理する。シュウ酸誘導体の使用レベルは、木材の種及び繊維の最終用途によって経験的に導かれる。機械パルプ及び熱機械パルプのために使用されるそれらに用いることができる濃度よりも高い濃度を使用して、化学パルプ又は総糖化(酵素加水分解又は第2の酸加水分解)を行う予定の木材チップからヘミセルロースを回収することができる。一般に、シュウ酸誘導体の使用量は、乾燥重量百分率で示した場合、繊維状リグノセルロース材料の乾燥重量の約6%未満、適切には約5%未満、より適切には約0.05%〜5%、より適切には約1%〜3%であり得る。
【0022】
1つの実施態様では、本方法は、いくらか水和した加熱した木材チップ、パルプ、又は任意のリグノセルロース供給源の存在下でシュウ酸ジメチル又はシュウ酸ジエチルを添加することを含む。適切には、木材チップを、蒸解釜(digester)から空気を排除するための直接大気蒸気噴射(direct atmospheric steam injection)を使用して蒸解釜中で最初に加熱し、チップを反応に必要な温度にする。次いで、蒸解釜を、蒸気噴射とジャケット圧力との組み合わせによって約30psiまで(しかし、0〜90psiの蒸気を使用することができる)の蒸気圧にする。安定な温度及び圧力が得られるまで、これを継続する。使用温度は、一般に、100℃超、典型的には130℃〜140℃である。上限は確立されておらず、170℃の温度を使用して糖を抽出したが、140℃を超える温度は、得られた熱機械パルプの光学的性質に悪影響をもたらすおそれがある。
【0023】
シュウ酸ジメチル又はシュウ酸ジエチルを、適切には二酸化炭素又は窒素を使用したガス圧によって蒸解釜に注入する。一般に、化学物質の気化によって反応の圧力はわずかに増大し、2〜3分以内に減少する。シュウ酸ジエチルエステル又はシュウ酸ジメチル、すなわちシュウ酸エステルは、急速に気化し、化学物質を木材チップに送達させる有意な蒸気圧を有する。気化した化学物質は、木材チップ内に存在する水と接触し、少なくとも1つのエステルが加水分解されて酸を遊離し、水を酸性化する。水を最小限に抑えるので、酸の濃度は高くなり、注入した化学物質の量に比例する。高温及び局在化した酸性度を組み合わせて、木材チップ中に存在するヘミセルロース糖を加水分解する。エステル化及びエステル交換等の他の反応も、このインキュベーション中に可能である。気相中の反応物の送達により、チップが水溶液で飽和する代わりにチップ中の水の表面層の酸濃度が高くなる。
【0024】
シュウ酸エステルにより、容器の容積及び化学物質の使用量に依存する化学物質の蒸気濃度が得られる。容器中のシュウ酸エステル濃度の増大により、所与の重量の木材チップから遊離する炭水化物の量が増大する。所定の設定時間及び温度下でのパイン及びトウヒ中のシュウ酸エステルの閾値が認められている。この閾値では、使用したシュウ酸エステルの増加と比較して、糖の遊離量の増大が減少する。この反応量の後のより多くのシュウ酸エステルの添加により、熱機械パルプ製造のための繊維に損傷が与えられるおそれがあるものの、プロセス由来のクラフト繊維の繊維長には影響が及ぼされない。この閾値は、アスペン及びカエデからのヘミセルロース糖の遊離については認められていない。1つの実施態様では、0〜100mlの範囲のシュウ酸ジエチルを、総体積21.4リットルを有する反応装置中でのアスペン、オーク、カエデ、サザンイエローパイン、アカマツ、及びトウヒの処理のために使用した。この実施態様では、木材チップの増加(1.25kg〜2.5kgの絶乾重量)により、木材チップから遊離したヘミセルロース糖の量が増大した。
【0025】
適切には、処置した木材チップを、定常温度に少なくとも30分間維持し、その後、蒸解釜から除去するが、5分〜2時間の任意の時間範囲を適切に使用することができる。蒸解釜中での木材チップのより長時間の維持により、より大量のヘミセルロース糖が放出される。反応温度又は化学物質の充填量の増大によってもより大量のヘミセルロース糖が放出される。
【0026】
糖及び他の木材加水分解産物を、当業者に利用可能な複数の抽出方法によって回収することができる。これらの方法には、種々の処理段階後の水抽出及び非水抽出が挙げられ得る。木材チップを、洗浄、直接平衡、向流、吸引、又は圧縮法によって抽出することができる。同様に、パルプ又は粉砕木材を、これらの同様の方法によって抽出することができる。
【0027】
糖、オリゴ糖、及び他の木材加水分解産物を、生物学的手段(生物による又は酵素を用いた方法による変換が含まれる)、化学的手段(電気化学的及び熱化学的手段が含まれる)、及び物理的手段(蒸発、結晶化、加熱及び圧縮が含まれる)によって所望の産物に変換することができる。これらの材料からエタノール及び有機酸を作製することができるが、当業者は、糖をこれら及び種々の産物に変換することが可能である。
【0028】
次いで、抽出し、洗浄した木材チップを、パルプ化のために調製する。多数のパルプ化方法(機械的及び化学パルプ化方法が含まれる)が本発明に適切である。機械パルプ化方法には、機械パルプ化、熱機械パルプ化(TMP)、熱機械パルプ化を用いた化学処理(CTMP)、及び化学機械パルプ化が挙げられる。化学パルプ化方法には、化学パルプ化、硫酸塩(クラフト)及び亜硫酸塩プロセスが挙げられる。適切には、熱機械パルプ生成のために木材チップを使用する。処理チップを使用した熱機械パルプ生成は、エネルギー節約量が25〜50%であることが示されている。過剰なシュウ酸ジエチルを使用した木材チップの処理により、エネルギー節約量は増大するが、得られたハンドシートの強度は低下する。抽出された木材チップも化学パルプ化に適切であり、このチップは、試験した化学物質レベルが最も高くても繊維長に悪影響を及ぼさなかった。機械パルプも作製し、この際、精製機のエネルギー節約量は熱機械パルプの電気エネルギー節約量に匹敵し、ハンドシートの強度は対照に類似するものであった。
【0029】
1つの実施態様では、処理した木材チップを機械パルプ化に供し、処理した材料に希釈水を添加し、材料を連続して逐次的に(a number of sequential passes)機械精製機に通過させる。処理した材料/パルプ混合物の通過数は、作製すべき特定の紙への適用に適切な濾水度に依存する。処理した材料/パルプ混合物を、所望の濾水度レベルを達成するまで精製機を介して繰り返し供給する。したがって、濾水度を、周期的にモニタリングして、紙に望ましい濾水度レベルへのパルプの進行度を決定することができる。パルプを、必要に応じて、通過の間に脱水することもできる。上記の手順を使用して処理したテーダマツは、シングル回転ディスク(直径300mm)の大気精製機(single rotating 300 mm disk atmospheric refiner)において100mlのCSF値を得るために約2〜6回の反復通過が必要である。
【0030】
プロセスの総エネルギー効率を、同一装置で未処理材料をパルプ化すると同時に精製ミル自体のエネルギー消費をモニタリングすることによって標準的プロセスと比較することができる。一般的に言えば、処理した材料は、得られたパルプ中の同レベルの濾水度を達成するために精製機によって有意に低いエネルギー導入量を必要とする。
【0031】
次いで、この手順によって作製されたパルプを、標準的な製紙技術を使用して、紙にすることができる。精製パルプを使用して作業することが知られている標準的技術(Technical Association of the Pulp and Paper Industry,TAPPIに記載)は、本明細書中に記載のプロセスによって作製されるタイプのパルプを使用して有効に働く。本発明に従って調製したパルプ(処理パルプ)から作製した紙を、未処理材料及び標準的なパルプ化方法を使用して作製した紙と、質、強度、及びテクスチャーを比較することができる。ここに、処理したパルプは、有意に増大した強度特性を示し、したがって、本発明のプロセスが非常に望ましいエネルギー節約量及び糖溶液を達成するために紙の質又は強度を犠牲にしないことを示す。実際、本発明により、エネルギー使用量の有意な減少と得られた紙の強度性質の増大とが独自に組み合わされる。
【0032】
上記で考察するように、本明細書中に開示のプロセスは、一般に、ヘミセルロース糖の遊離のための木材チップの処理及び紙製品のための木材チップのその後の使用を含む。プロセスの変量の変化により、おおよその糖を木材チップから遊離することができる。至適な糖の回収は、原料物質のタイプ及び製品の性質に依存する。熱機械パルプ及び機械パルプは、ヘミセルロースを含み、過剰量のヘミセルロースの除去は紙の強度及び収率に影響を及ぼす。化学パルプを、木材中のセルロース材料から作製し、より多くのヘミセルロース糖を、パルプ由来の紙の強度に影響を及ぼすことなく木材から回収することができる。総糖化により、リグノセルロース中の糖が発酵性炭水化物に変換され、リグニン残渣が遊離するであろう。
【0033】
二酸化硫黄以外によるパルプ化処理を、溶液中で行う。二酸化硫黄は、木材チップを前処理するのに有効であるが、繊維のセルロース成分に損傷を与える。パルプ化溶液を使用した木材チップの浸潤及び含浸は、ほとんどのパルプ化システム(亜硫酸パルプ化及びクラフトパルプ化が含まれる)の重要な特徴である。木材の性質は、所与の化学物質の浸透を制限し得る。針葉樹由来の仮導管中の有縁壁孔を吸引して、液体の浸透を制限することができる。例えば、1つの実施態様では、シュウ酸ジエチルによるパインの処理により、有縁壁孔の円環面が寸断されて、ヘミセルロース糖の抽出のためにより良好に化学的に浸透し、その後の木材チップへの液体の含浸を改良することが可能である。
【0034】
したがって、本発明は、1)化学反応及び発酵のための潜在的な糖供給源が得られ、2)機械パルプ及び熱機械パルプの生成においてエネルギーが節約され、3)化学パルプの製造のために木材チップが改良され、そして4)糖へのさらなる変換のためのセルロースの利用可能性が向上する。本発明の使用により、密集した森から除去する必要がある直径の小さい材料からの熱機械パルプ及び機械パルプの生産のための経済的側面が改良される可能性が高い。化学パルプ化のための前処理としてのこのプロセスの使用により、パルプ化に必要な化学物質が減少し、新規の製品の流れ(product stream)を得ることによって化学パルプ化の利点が高まる可能性が高いであろう。商品スケールの炭水化物の流れ(carbohydrate stream)を得ることにより、材料から燃料を開発し、国内の石油海外依存度を減少させることが可能であろう。
【0035】
本発明のプロセスが、産業界で登録済み米国特許第5,774,305号、同第6,165,317号、及び同第6,364,998号(その全てが本明細書中に参照によって援用される)、並びに米国特許出願公開第2001/0050151号及び同第2005/0011622号(共に本明細書中に参照によって援用される)に記載のRTS(場所、温度、及び速度(Residence,Temperature,and Speed))プロセスと呼ばれるプロセスで使用するために選択される可能性が高いことも留意すべきである。
【実施例】
【0036】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。実施例は、本発明の範囲を制限すると解釈されるものではない。
【0037】
実施例1
シュウ酸ジエチルで処理したサザンイエローパインの機械パルプ化
サザンイエローパイン(タエダマツ:Pinus taeda)の木材チップを、Bowater Inc,South Carolinaから得た。公称サイズが8〜18mmの木材チップを樽に入れ、凍結して夾雑微生物の成長を防止した。固体含有率は48%であった。
【0038】
Sigma-Aldrichのシュウ酸ジエチル(DEO)を、絶乾木材チップ1kg当たり10ml及び40mlの量で使用した。絶乾重量で2.5kgのチップを、据え置き型蒸解釜に入れ、蒸気を導入して空気を移動させ、チップを所定の温度(135〜140℃)にした。温度を記録するためのDickson HT100温度プローブをチップに含めた。挿入した熱電対及びRustrak Ranger IV 1600シリーズソフトウェアを使用してさらなる温度の測定を行った。この温度で蒸解釜の上部に取り付けた注入管によってDEOを導入し、二酸化炭素又は窒素ガス圧を使用して蒸解釜に押し込んだ。DEOの添加後、木材チップをこの温度で30分間処理した。対照に同一の加熱条件を適用したが、化学物質は添加しなかった。処理後、チップを逆浸透水に浸漬し、低温室に入れてヘミセルロース糖を抽出した。チップを40時間排水させ、精製まで低温に維持した。
【0039】
加工した木材チップを、Sprout−Bauer加圧式実験用精製機、モデル12−ICP(直径300mmのシングル回転ディスク)で精製した。44.8kW電動機の電源側に取り付けたOhio Semitronic Model WH 30−11195 Integrating Wattmeterを使用して、エネルギー消費を測定した。精製機を通過する供給量により、50HP〜60HPの電源負荷が得られた。エネルギーを、W・h/kgで報告した。精製機プレート設定は、0.010インチであった。
【0040】
パルプサンプルを、Sprout−Waldron Model D2202(直径300mmのシングル回転ディスクの大気精製機)でさらに精製した。44.8kW電動機の電源側に取り付けたOhio Semitronic Model WH 30−11195 Integrating Wattmeterを使用して、エネルギー消費を測定した。精製機を通過する供給量により、10kW〜15kWの電源負荷が得られた。エネルギーを、W・h/kgで報告した。精製機プレート設定は、0.025インチ、0.014インチ、0.010インチ、及び0.008インチであった。パルプを、熱水スラリーとして、各通路で回収した。通過の間に、パルプスラリーを、吸引によって多孔質バッグ中に約25%の固体になるまで脱水した。次いで、パルプを精製機に供給するにつれて、85℃の希釈水を毎回添加した。パルプサンプルを採取し、濾水度(CSF)について試験した。サンプルを精製し、100CSFをひとまとめとした(bracket)。ハンドシートを準備し、TAPPI標準試験方法を使用して試験した。
【0041】
エネルギー節約及びハンドシートの改良は、図1に示したデータから明らかである。エネルギー節約量の比較には、濾水度レベルが同一である必要がある。TMPに必要なエネルギーは、濾水度の関数として変化する。エネルギーのデータを、濾水度の関数としてプロットし、ラインをべき関数に合わせた。対照を100CSFに処理するのに必要なエネルギーは、乾燥木材を基本として2,452W・h/kgであった。10ml DEO/kg処理材料(乾燥重量に基づく)は、38.2%のエネルギー節約のために1,516W・h/kgが必要であり、40ml DEO/kg処理材料は、54.9%のエネルギー節約のために1,106W・h/kgが必要であった。
【0042】
エネルギー節約に加えて、紙の強度特性が改良される。比引裂き強度、比引張り強度、及び比破裂強度は全て、対照よりも改良される。紙の輝度、印刷不透明度、及び散乱係数も対照よりも増大した。機械パルプ化前の化学的前処理によって典型的には光学的性質が減少するため、これらの結果は驚くべきことである。
【0043】
DEOによる木材チップの処理によりTMPプロセスが多様に改良されることは驚くべきことである。ハンドシートの比強度は全て改良され、同時に有意なエネルギー節約が実現された。これに加えて、輝度も改良される。従来技術では、通常、不透明度及び散乱係数の減少によって輝度(漂白由来)を伴う改良を行う。本実施例では、全光学的性質が改良される。
【0044】
実施例2
シュウ酸ジエチルで処理したトウヒの機械パルプ化
Stora Enso North America (SENA),Biron Division,Wisconsin Rapids,Wisconsinによってトウヒの丸太が寄贈された。丸太の皮を手で剥ぎ、チップにし(19mm)、篩にかけて38mmより大きく6mmより小さい片を除去し、第2の篩(22mm)によって画分に分離し、バッグに入れ、使用するまで凍結して保存した。公称サイズが22mmの木材チップを使用した。固体含有率は55%であった。絶乾木材チップ1kg当たり10ml及び20mlの量でDEOを使用した。全ての他のDEO前処理条件は、実施例1に記載の通りである。チップの繊維化、パルプ精製、及びハンドシート生産を実施例1のように行った。
【0045】
エネルギー節約及びハンドシートの改良は、図2に示したデータから明らかである。エネルギー節約量の比較には、濾水度レベルが同一である必要がある。TMPに必要なエネルギーは、濾水度の関数として変化する。エネルギーのデータを、濾水度の関数としてプロットし、ラインをべき関数に合わせた。対照を100CSFに処理するのに必要なエネルギーは、2,972W・h/kgであった。10ml DEO/kg処理材料は、30.4%のエネルギー節約のために2,068W・h/kgが必要であり、20ml DEO/kg処理材料は、42.2%のエネルギー節約のために1,718W・h/kgが必要であった。
【0046】
エネルギー節約に加えて、紙の強度特性が改良される。比引裂き強度及び比破裂強度は、対照よりも改良される。紙の輝度、印刷不透明度、及び散乱係数も対照よりも増大した。
【0047】
上記の実施例1のようにDEOによるトウヒ木材チップの処理によってTMPプロセスが多様に改良されることは驚くべきことである。比引裂き強度が改良され、それと同時に有意なエネルギー節約が実現された。この輝度に加えて、不透明度及び散乱係数も改良された。
【0048】
エネルギー節約及びハンドシートの特性が2つの異なる針葉樹で改良されるため、全ての針葉樹に適用可能な処理特性である可能性が高い。
【0049】
実施例3
シュウ酸ジエチルで処理したアスペンの機械パルプ化
アスペンの丸太は、SENA,Biron Division,Wisconsin Rapids,Wisconsinから寄贈された。全てのチップ化及び篩は、実施例2に記載の通りである。固体含有率は48%であった。絶乾木材チップ1kg当たり10ml及び40mlの量でDEOを使用した。全ての他のDEO前処理条件は、実施例1に記載の通りである。チップの繊維化、パルプ精製、及びハンドシート生産を実施例1のように行った。
【0050】
エネルギー節約及びハンドシートの改良は、図3に示したデータから明らかである。エネルギー節約量の比較には、濾水度レベルが同一である必要がある。TMPに必要なエネルギーは、濾水度の関数として変化する。エネルギーのデータを、濾水度の関数としてプロットし、ラインをべき関数に合わせた。対照を100CSFに処理するのに必要なエネルギーは、3,715W・h/kgであった。10ml DEO/kg処理材料は、15%のエネルギー節約のために3,164W・h/kgが必要であり、40ml DEO/kg処理材料は、67%のエネルギー節約のために1,224W・h/kgが必要であった。
【0051】
エネルギー節約に加えて、比強度が改良されたことは明らかである。上記の実施例1及び実施例2のように、DEOによるアスペン木材チップの処理によってTMPプロセスが多様に改良されることは驚くべきことである。ハンドシートの比強度は全て改良され、それと同時に有意なエネルギー節約が実現された。
【0052】
実施例4
シュウ酸ジエチルで処理したカエデの機械パルプ化
カエデの丸太は、Weyerhaeuser,Rothschild,Wisconsinから提供された。全てのチップ化及び篩は、実施例2に記載の通りである。固体含有率は59%であった。絶乾木材チップ1kg当たり10ml及び40mlの量でDEOを使用した。全ての他のDEO前処理条件は、実施例1に記載の通りである。チップの繊維化、パルプ精製、及びハンドシート生産を実施例1のように行った。
【0053】
エネルギー節約及びハンドシートの改良は、図4に示したデータから明らかである。エネルギー節約量の比較には、濾水度レベルが同一である必要がある。TMPに必要なエネルギーは、濾水度の関数として変化する。エネルギーのデータを、濾水度の関数としてプロットし、ラインをべき関数に合わせた。対照を100CSFに処理するのに必要なエネルギーは、3,414W・h/kgであった。10ml DEO/kg処理材料は、43.1%のエネルギー節約のために1,941W・h/kgが必要であり、40ml DEO/kg処理材料は、74.6%のエネルギー節約のために866W・h/kgが必要であった。
【0054】
エネルギー節約に加えて、紙の強度特性が改良される。比引裂き強度、比引張り強度、及び比破裂強度は全て、対照よりも改良される。
【0055】
上記の実施例1〜実施例3のように、DEOによるカエデ木材チップの処理によってTMPプロセスが多様に改良されることは驚くべきことである。ハンドシートの比強度は全て改良され、それと同時に有意なエネルギー節約が実現された。エネルギー節約及びハンドシートの特性が2つの異なる広葉樹で改良されるため、全ての広葉樹に適用可能な処理特性である可能性が高い。
【0056】
実施例5
シュウ酸及びシュウ酸ジエチルで処理した木材の化学パルプ化
テーダマツ木材チップを、Bowater,Inc.(South Carolina)から得た。丸太の皮を剥ぎ、Bowaterで公称サイズが6〜14mmのチップにした。チップを樽に入れ、凍結して夾雑微生物の成長を防止した。固体含有率は43.0%であった。
【0057】
ユーカリ木材チップを、Melhoramentos Papeis(Sao Paulo,Brazil)から得た。到着時に木材チップをバッグに入れ、凍結して夾雑微生物の成長を防止した。固体含有率は51.0%であった。
【0058】
アスペン木材チップを、northen Wisconsinから得た。丸太の皮を剥ぎ、SENAで公称サイズが6〜14mmのチップにした。チップを樽に入れ、凍結して夾雑微生物の成長を防止した。固体含有率は48.3%であった。
【0059】
Sigma-Aldrichから購入したOA(シュウ酸)を、濃度0.33%の溶液として木材チップに含浸させた。木材チップを、バッチ式蒸解釜にて、所望の温度(130℃)及び持続時間(10分間)で前処理した。内部型Y熱電対で温度を測定した。前処理後、木材チップを水で一晩抽出し、クラフト加工プロセスによるその後の処理まで凍結させた。
【0060】
DEO(シュウ酸ジエチル)を、Sigma Aldrichから購入し、針葉樹については絶乾木材チップ1.0kg当たり40mlの量で使用し、広葉樹については絶乾木材チップ1.0kg当たり20mlの量で使用した。木材チップを、バッチ式蒸解釜にて、所望の温度(140℃)及び持続時間(30分間)で前処理した。内部型Y熱電対で温度を測定した。前処理後、木材チップを水で一晩抽出し、排水させ、クラフト加工プロセスによるその後の処理まで凍結した。
【0061】
図5は、各前処理のために使用したクラフトプロセスの条件を示す。
【0062】
図6は、OA及びDEO処理木材チップが化学パルプ化に有益であることを示す。処理チップ及び対照チップを加工し、カッパー価を決定した。同一の加工条件下で、カッパー価は、処理チップではいずれの場合にも低く、化学物質、漂白材、又はその両方が節約されるようになる。
【0063】
DEO及びOAによる前処理の両方及びその後のヘミセルロース抽出は、針葉樹及び広葉樹の両方について化学パルプ化プロセスに有益であった。これらの一連の実験で使用した化学的プロセスはクラフトプロセスであった。各木材種のカッパー価の減少が各処理で認められた。対照を超えるカッパー価の減少は、化学物質、漂白材、又は両方のコスト削減に有益である。
【0064】
化学加工前のこれらのOA及びDEOの前処理により、対照と同一条件下で加工した場合にカッパー価がより低くなることは驚くべきことである。上記実験は、全ての広葉樹及び針葉樹(又は2つの組み合わせである出発材料)が化学パルプ化の前のOA及びDEOの前処理の両方に関する利点を示すと結論づけるのに十分である。
【0065】
実施例6
シュウ酸ジエチルで処理した木材の糖化
サザンイエローパイン木材を実施例1のようにチップで準備し、トウヒ木材を実施例2のようにチップで準備し、アスペン木材を実施例3のようにチップで準備し、カエデ木材を実施例4のようにチップで準備した。DEOを、絶乾木材チップ1kg当たり0〜40mlの範囲で使用した。全ての他のDEO前処理条件は、実施例1に記載の通りである。
【0066】
実施例1〜実施例4に記載の抽出水を、総水存在量の測定及び水の炭水化物含有率の分析によって分析した。抽出物の糖含有率を、パルス化電流検出HPAEC/PADを使用した高速陰イオン交換クロマトグラフィによって決定した。単糖濃度を決定するために、抽出物を前処理することなく注入した。抽出物の総炭水化物含有率(単糖、多糖、及び酸不安定性部分を有する任意の炭水化物誘導体)を決定するために、抽出物を、4%(w/w)H2SO4に供し、120℃で1時間加水分解を行った(標準サンプルも分析した)。全ての場合で内部標準としてフコースを使用した。
【0067】
図7は、同一条件下での(140℃で30分間)DEO処理後の抽出時の4つの異なる木材種についての総放出炭水化物(グルコース+ガラクトース+マンノース+キシロース+アラビノース)の結果を示す。炭水化物の放出量は、添加したDEOの量に比例した。より多くの化学物質の添加によってチップからさらなる炭水化物が除去されることがグラフから明らかである。
【0068】
図7は、炭水化物が木材チップから放出され、放出がDEOの添加量に依存することを示す。2種の広葉樹及び2種の針葉樹についてのデータを示す。図7は、木材から放出される総炭水化物量を示す。炭水化物の重量に基づく約50%が、遊離糖(単糖)として存在する。
【0069】
以下に示す4種に加えて、オーク、混合広葉樹、及びアカマツ由来のDEO処理木材チップは、炭水化物を放出した。同一の処理温度及び処理時間での化学物質の充填量の増大により、炭水化物の放出量が増大した。
【0070】
列挙した4種はそれぞれ、化学処理剤の増加に伴って炭水化物の放出量の増大を示す。全ての炭水化物成分の放出が増大し、炭水化物の放出量及び放出タイプを、木材中のヘミセルロースの組成及びタイプと比較した。広葉樹については、主な放出炭水化物はキシロースであった。針葉樹については、主な放出炭水化物はマンノースであった。広葉樹及び針葉樹の両方をこれらの研究で使用したので、この処理はいずれのリグノセルロース供給源からも炭水化物を放出するように作用するであろう。処理によって炭水化物が放出されることは驚くべきことであった。木材チップからの酢酸の放出量は示していない。酢酸放出は、化学物質の充填量の増大に伴って増大し、類似の量によるアセチル含有率における対応する繊維は減少した。炭水化物放出と適用される化学物質の充填量との相関は、炭水化物の放出が予測可能であり、この放出がチップ内に堆積するシュウ酸と相関することを示す。
【0071】
実施例7
処理時間及び処理温度の程度(intensity)の増大に伴う炭水化物の放出
サザンイエローパインを、実施例1のようにチップで準備した。DEOを、絶乾木材チップ1kg当たり40mlで使用した。全ての他のDEO前処理条件は、時間及び温度が下記のように異なること以外は実施例1に記載の通りである。温度をモニタリングし、時間に対するその積分を計算した。
【0072】
図8は、温度/時間を増大させたときのDEOによる木材チップの処理の結果を示す。実施例6では、化学物質の充填量がチップからの糖の放出量に影響を及ぼすことを示した。ここで、データは、時間及び温度の増大もチップからの炭水化物放出に大きな影響を及ぼすことを示している。時間又は温度の増大につれて、放出される炭水化物は増加する。放出される炭水化物のタイプを、図8に示す。重要には、針葉樹ヘミセルロース中の主な糖はマンノースであり、これは最も多く増加する糖である。グルコースは増加し続けず、これはセルロースが分解されないことを示す。
【0073】
炭水化物放出の増大と同時に、試験した全木材種からの酢酸放出量も増大する。酢酸の放出量は、化学物質の充填量、木材の種(広葉樹は針葉樹より大量の酢酸を放出する)、処理時間、及び処理温度に依存する。酢酸を、この処理から販売可能な製品として回収することができる。
【0074】
これらの結果に加えて、DEO処理について、混合広葉樹由来の炭水化物量が時間及び温度の関数として増大することが示された。
【0075】
サザンイエローパインからの炭水化物の放出は、時間及び温度を伴う処理の度合の関数である。図8は、増大がセルロースではなくヘミセルロースの除去の増大に起因することを示す。これは、炭水化物除去後に利用可能な繊維を発酵性糖への変換よりも価値のある目的のために使用することができることを示す。
【0076】
実施例8
微生物による本発明の方法によって生産された炭水化物の使用
サザンイエローパインを実施例1のようにチップで準備し、トウヒ木材を実施例2のようにチップで準備し、アスペン木材を実施例3のようにチップで準備した。DEOを、絶乾木材チップ1kg当たり20〜40mlで使用した。全ての他のDEO前処理条件は、実施例1に記載の通りである。抽出水を、チップの篩によって回収した。完全酵母培養培地を作製するために、糖溶液を水酸化カリウムの添加によってpH7にし、酵母窒素塩基w/o炭水化物(Difco)を添加し、溶液を濾過滅菌した。10g/lバクト−トリプトン(Difco)及び5g/l酵母抽出物(Difco)の糖溶液への添加により、大腸菌の完全培地を作製した。
【0077】
図9は、40ml DEO/kgで処理したピキア・ステイピティス(Pichia stipitis)及びサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)による糖代謝のまとめである。両生物は、糖を阻害することなく迅速に代謝することができた。これらの生物はまた、トウヒ及びアスペン由来の糖を使用することができ、類似の結果を示した。P.ステイピティスによってペントースが十分に代謝され、P.ステイピティスによって存在する全ての糖がより多く代謝される。このデータは、存在する場合、抽出物中に存在する発酵阻害剤が限定されることを示す。
【0078】
酵母に加えて、炭水化物源としてアカマツ(トウヒについての実施例2と同様に処理)、トウヒ、及びサザンイエローパインの抽出物を使用して、組換え大腸菌を培養した。酢酸塩濃度を30mM未満に保持した場合、大腸菌は、糖をエタノールに発酵することができた。
【0079】
データは、種々の生物がDEO処理木材チップ由来の水抽出物中に存在する炭水化物を使用することができることを示す。これらの生物は、いくつかの木材加水分解に必要な大規模な馴化を行うことなく成長することができた。
【0080】
実施例9
総糖化における処理木材チップの使用
オーク及び混合広葉樹の木材チップを、実施例5に記載のように処理した。1.86%のOA溶液でのさらなる処理も含まれた。水抽出後、チップを粗い繊維に粉砕し、その後にin vitroルーメン試験で使用した。ルーメン微生物を、密封した嫌気性バイアル中で粗い繊維に曝露させた。圧力変換器を使用して、添加した基質から発生したガスを測定した。ルーメン流体からのガス生産のための対照を伴い、結果をこれらの値に対して補正して報告した。サンプル時間は24時間及び96時間であった。
【0081】
図10は、オーク及び混合広葉樹のOA及びDEOの処理によって木材チップ中のセルロース成分へのルーメン微生物の接触性が増大することを示す。木材チップ処理で使用した化学物質の量に伴いルーメン生物によって生産されたガスが明確に増大する。対照は、化学処理していない加熱したチップであった。カエデのDEOによる処理(示さず)も、ルーメン微生物によるガス生産を増大させた。
【0082】
対照と比較した処理材料からのガス生産の増大は、ルーメン微生物に対するセルロースの利用可能性の増大を示す。ルーメン微生物は、通常、基質として木材を使用して十分に成長しない。ガス生産の増大は、セルロースが対照よりも処理材料中で接触可能であることを示す。ヘミセルロースの除去は、セルロースからグルコースへの糖化を増大させる上で既知の因子である。これらのデータは、木材チップのDEO又はOAの処理によって微生物分解に対するセルロースの実施容易性が増大することを示す。ルーメン微生物は、表面接触によって基質材料と相互作用する。これは、同一の粘稠度(consistency)に粉砕した材料がガス生産の増大のために微生物により接触可能となる必要があることを示す。糖化研究で使用したセルロース分解酵素が微生物よりはるかに小さいので、これらのデータは、セルロース分解酵素への接触が増大することを示す。
【0083】
DEO又はOAの処理によって糖化酵素により接触可能となることは驚くべきことである。これらの結果は、以下の2つの事項を示す。1)処理木材チップを反芻動物の飼料として開発することができる。2)処理木材チップは、酵素変換によって全ての炭水化物の糖への糖化のために改良されるであろう。これによる結論は、DEO又はOAの処理が木材の酵素糖化に対する有用な前処理となり得ることである。
【0084】
本明細書中に記載の全ての特許、刊行物、及び引例は、完全に本明細書中に参照によって援用される。本開示と援用された特許、刊行物、及び引例とが矛盾する場合、本開示を規制するものとする。
【0085】
本発明をいくらか詳細にここに説明及び例示しているが、当業者は記載事項で作製することができる種々の変更態様(変形態様、付加態様、及び省略態様が含まれる)を理解するであろう。したがって、これらの変更態様も本発明に含まれ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に法的に許可され得る最も広い解釈によってのみ制限されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の方法によって処理されたサザンイエローパインの作製及びサザンイエローパインから作製した紙についてのデータを示す表である。
【図2】本発明の方法によって処理されたトウヒの作製及びサザンイエローパインから作製した紙についてのデータを示す表である。
【図3】本発明の方法によって処理されたアスペンの作製及びサザンイエローパインから作製した紙についてのデータを示す表である。
【図4】本発明の方法によって処理されたカエデの作製及びサザンイエローパインから作製した紙についてのデータを示す表である。
【図5】本発明の方法によって処理された木材の化学パルプ化条件を示す表である。
【図6】本発明の方法によって処理された木材から作製された化学パルプのカッパー価を示す表である。
【図7】本発明の方法によって処理された木材によって放出された炭水化物の量を示すチャートである。
【図8】時間及び温度の関数としての本発明の方法によって処理された木材由来の種々の化合物の放出量を示すチャートである。
【図9】本発明の方法による木材処理によって生産された糖の微生物糖代謝を示す表である。
【図10】処理した木材チップ中の残存セルロースがルーメン微生物によってガスへとより容易に変換されることを示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状リグノセルロース材料をパルプ化する方法であって、
(a)前記材料をシュウ酸誘導体の存在下で加熱する工程と、
(b)前記工程(a)で加熱した材料をパルプに加工する工程と
を含む、繊維状リグノセルロース材料をパルプ化する方法。
【請求項2】
前記シュウ酸誘導体は、下記式(I)の化合物である、請求項1記載の方法。
【化1】

[式中、R1及びR2は、独立して、水酸基、酸素、ハライド、置換若しくは非置換アミン、OR3、又は下記式(II)の側鎖であり、
【化2】

(ここで、R3及びR4は、独立して、1〜10個の炭素原子の分岐若しくは非分岐、環式若しくは直鎖、飽和若しくは不飽和、置換若しくは非置換アルキルである。)
ここで、R1及びR2の両方が水酸基であることはない。]
【請求項3】
1がOR3である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
2がOR3である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記シュウ酸誘導体がシュウ酸ジエチルである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記シュウ酸誘導体がシュウ酸ジメチルである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記材料が乾燥重量を有し、前記シュウ酸誘導体が、前記材料の乾燥重量の約6%未満の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記材料が乾燥重量を有し、前記シュウ酸誘導体が、前記材料の乾燥重量の約5%未満の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記材料が乾燥重量を有し、前記シュウ酸誘導体が、前記材料の乾燥重量の約0.05%〜約5%の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記材料が乾燥重量を有し、前記シュウ酸誘導体が、前記材料の乾燥重量の約1%〜約3%の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記材料を、工程(a)で90℃〜170℃の温度に加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記材料を、工程(a)で130℃〜140℃の温度に加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記工程(a)で加熱した材料をさらに加工して、該材料から糖を回収する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)におけるシュウ酸誘導体材料は気相にある、請求項1記載の方法。
【請求項15】
繊維状リグノセルロース材料からパルプを製造する方法であって、
(a)前記材料をパルプ化に適切なサイズに小さくする工程と、
(b)前記小さくした材料を気相のシュウ酸ジエチルの存在下で加熱する工程と、
(c)前記工程(b)で加熱した材料をパルプに機械的に精製する工程と
を含む、繊維状リグノセルロース材料からパルプを製造する方法。
【請求項16】
前記小さくした材料が乾燥重量を有し、前記シュウ酸ジエチルが、前記小さくした材料の乾燥重量の約6%未満の量で存在する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記材料を、工程(b)で90℃〜170℃の温度に加熱する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記工程(b)で加熱した材料をさらに加工して、該材料から糖を回収する、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記繊維状リグノセルロース材料が木材である、請求項15記載の方法。
【請求項20】
繊維状リグノセルロース材料を処理する方法であって、シュウ酸誘導体の存在下で該材料を加熱する工程を含む、繊維状リグノセルロース材料を処理する方法。
【請求項21】
前記シュウ酸誘導体の存在下で加熱した材料をさらに加工して、該材料から糖を回収する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記工程(b)の処理が化学パルププロセスである、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記工程(b)の処理が機械パルププロセスである、請求項1記載の方法。
【請求項24】
繊維状リグノセルロース材料からパルプを製造する方法であって、
(a)前記材料をシュウ酸の存在下で加熱する工程と、
(b)前記工程(b)で加熱した材料をパルプに化学パルプ化する工程と
を含む、繊維状リグノセルロース材料からパルプを製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2009−500537(P2009−500537A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520413(P2008−520413)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/026565
【国際公開番号】WO2007/008689
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【出願人】(508006425)バイオパルピング インターナショナル インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOPULPING INTERNATIONAL, INC.
【住所又は居所原語表記】2912 Syene Road Madison, Wisconsin 53713 United States of America
【Fターム(参考)】