説明

リグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法

【課題】 紙パルプ産業で利用されているアルカリ蒸解法を前処理法として利用して、大量に存在するリグノセルロース系バイオマス等の非可食性の植物からエタノールなどの液体燃料や工業製品を製造するための原料となり得る糖を大量に生産できる方法を提供する。
【解決手段】 リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解処理し、アルカリ蒸解処理物を酵素糖化反応により処理して糖を製造する方法であって、前記アルカリ蒸解処理は、リグノセルロース系バイオマスに対する活性アルカリ添加率を7〜13%とし、アルカリ蒸解処理物の収率を55〜80質量%の範囲に制御した蒸解処理であることを特徴とする、リグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法に関するものである。
より詳しくは、本発明は、リグノセルロース系バイオマスを厳密に制御された条件下でアルカリ蒸解し、得られるアルカリ蒸解処理物から糖化反応により糖を高収率で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石燃料からエネルギーや工業製品を製造する際に発生する炭酸ガスが地球環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。また、再生可能エネルギーの利用において、例えば、食料生産と競合する植物を原料にエネルギーや工業製品を生産することの問題点も顕在化している。このような状況において、非可食性の植物、特に、大量に存在するリグノセルロース系バイオマスから再生可能エネルギーや工業製品を製造する方法の開発が求められている。
【0003】
しかしながら、リグノセルロース系バイオマス中のセルロースやヘミセルロースなどの炭水化物はリグニンに覆われていて酵素が作用しにくいため、そのままでは糖を製造するのは困難である。そこで、あらかじめ適当な前処理を行なって、リグニンを除去するか、酵素が作用しやすい状態とすることが必要である。
【0004】
リグノセルロース系バイオマスに対して、リグニンを除去するか、酵素が作用しやすい状態とする前処理を施してから糖化反応により糖を製造する場合、リグノセルロース系バイオマスから得られる糖の収率は、前処理工程における処理物の収率と該前処理による処理物の糖化反応工程における糖の収率の積となる。したがって、前処理工程における処理物の収率が高収率であり、かつ、前処理物の糖化反応工程における糖収率も高くなるリグノセルロース系バイオマスからの糖の製造方法が求められている。
【0005】
リグノセルロース系バイオマスから糖を製造するためのリグノセルロース系バイオマスの前処理方法の1つとして、硫酸などの酸によるバイオマスの処理を行ってリグニンの分離とセルロースの加水分解を行う方法が知られている。しかし、酸による前処理方法の場合は、セルロース等の炭水化物にも一部分解が起こるため、前処理による処理物の収率が低くなる結果、リグノセルロース系バイオマスからの糖収率が低下することは避けられない。
さらに、この方法は、酸前処理に硫酸等の強酸を使用することから、前処理や処理液からの酸の回収に耐酸性処理槽が必要となるし、処理液中の酸を中和する場合に発生する石膏などの廃棄物の処理が課題となる、というような技術的、経済的な問題がある。
【0006】
リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解法で脱リグニンし、アルカリ蒸解したリグノセルロース系バイオマスを炭素源として糖化酵素生産菌を培養し、リグノセルロース系バイオマスの糖化に適した酵素を生産し、得られた糖化酵素を含有する培養液とエタノール発酵菌をアルカリ蒸解したリグノセルロース系バイオマスに添加して発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法が知られている(特許文献1)。この特許文献1に記載されているように、紙パルプ産業で利用されている蒸解法は、環境負荷が少なく、大量のバイオマス資源を処理できる信頼性の高い前処理技術であると考えられる。
【0007】
通常の製紙用のパルプ製造に用いられているアルカリ蒸解法の条件で脱リグニンを行なった場合、蒸解によりリグニンは概ね除去されるため、その後の酵素糖化反応は良好となり対パルプ糖収率は向上する。しかし、製紙用パルプの製造法の場合、リグノセルロース物質からリグニンを十分に除去することが目的とされているために蒸解条件が厳しく、蒸解条件下でセルロースやヘミセルロースなどの炭水化物も同時にピーリング反応などにより分解されることは避けられず、蒸解収率は50%程度にとどまるのが通常である。このような製紙用のパルプ製造に使用されるアルカリ蒸解法をそのままリグノセルロース系バイオマスから糖を製造するための方法におけるリグノセルロース系バイオマスの前処理方法として適用すると、前処理されたリグノセルロース系バイオマスの糖化反応工程における糖収率を高くする技術があっても、原料リグノセルロース系バイオマス当たりの糖の収率は、最大でも50%程度と低くなってしまい、リグノセルロース系バイオマスの有効利用が達成されないという問題がある。
【0008】
また、セルロース系原料を糖化する際に、粗粉砕し、アルカリ処理して湿式粉砕する前処理の方法が知られている(特許文献2)。ただし、木材チップのようなハードバイオマスに適用するには、該前処理方法は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−092910号公報
【特許文献2】特開昭59−091893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の状況に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、リグノセルロース系バイオマスを原料とした糖の製造法において、大量に入手できる未利用バイオマス資源よりアルカリ蒸解法を前処理として利用して、原料リグノセルロース系バイオマス当たりの糖の収率が高い糖の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題の解決を目指して、リグノセルロース系バイオマス、特に木材糖化の前処理としての蒸解条件について検討を重ねた結果、通常の製紙用のパルプ製造に用いられる条件よりも低いアルカリ添加率で蒸解を行って得られる蒸解パルプは、脱リグニンが不完全であると考えられるものではあるが、セルロース糖化酵素により容易に糖化される性質を有していることを見いだし、以下の発明を完成するに至った。
【0012】
(1)リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解処理し、アルカリ蒸解処理物を酵素糖化反応により処理して糖を製造する方法であって、前記アルカリ蒸解処理は、リグノセルロース系バイオマスに対する活性アルカリ添加率を7〜13%、好ましくは8〜12%とし、アルカリ蒸解処理物の収率を55〜80質量%の範囲に制御した蒸解処理であることを特徴とする、リグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【0013】
(2)前記アルカリ蒸解処理は、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液中のアルカリ含有量が2.5g/l以下となる蒸解処理であることを特徴とする(1)項記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(3)前記アルカリ蒸解処理は、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液のpHが7.0〜13.5の範囲となる蒸解処理であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(4)前記酵素糖化反応処理に先立って、前記アルカリ蒸解処理物をリファイナーにより処理することを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(5)前記アルカリ蒸解処理物のリファイナーによる処理は、ディスク型リファイナーによる摩砕処理であることを特徴とする(4)項記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【0014】
(6)リグノセルロース系バイオマスが広葉樹材であることを特徴とする(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(7)リグノセルロース系バイオマスがユーカリグロブラスであることを特徴とする(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(8)前記酵素糖化反応は、アルカリ蒸解処理したリグノセルロース系バイオマス中のセルロース分1gに対して100ユニット以下、好ましくは5〜75ユニットのセルラーゼ活性を含むように糖化酵素量を調整した糖化反応であることを特徴とする(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(9)前記酵素糖化反応を、pH4.0〜7.0、温度20〜60℃、好ましくは30〜55℃の範囲で行なうことを特徴とする(1)項〜(8)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
(10)前記糖化酵素反応を、エタノール発酵と同時に行なうことを特徴とする(1)項〜(9)項のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
非可食性の植物、特に、大量に存在する未利用リグノセルロース系バイオマスからエタノールなどの液体燃料や、工業製品を製造するための各種原料となり得る糖を高収率で、かつ、環境負荷が少ない方法で大量に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アルカリ蒸解処理における活性アルカリ添加率と蒸解処理物収率の関係を示す図である。
【図2】アルカリ蒸解処理における活性アルカリ添加率と対チップ糖収率の関係を示す図である。
【図3】アルカリ蒸解処理における蒸解処理物収率と対チップ糖収率の関係を示す図である。
【図4】アルカリ蒸解処理における蒸解廃液(黒液)のpHと対チップ糖収率の関係を示す図である。
【図5】アルカリ蒸解処理における蒸解廃液(黒液)の残アルカリ量と対チップ糖収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法において原料として用いるリグノセルロース系バイオマスとしては、木本植物、草本植物、それらの加工物及びそれらの廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、その種類は問わない。
該リグノセルロース系バイオマスは、アルカリ蒸解処理を効率的に行うために、予め適当な大きさに粉砕して用いることが好ましい。
【0018】
本発明における木本植物としては、スギ、ヒノキ、カラマツ、マツ、米マツ、米スギ、米ツガ、ポプラ、シラカバ、ヤナギ、ユーカリ、クヌギ、コナラ、カシ、シイ、ブナ、アカシア、タケ、ササ、アブラヤシ、サゴヤシなどを例示することができる。
また、樹皮、枝条、果房、果実殻なども使用することができる。また、これらを使った合板、繊維板、集成材のような加工材や、建築物に使用後、解体された部材も使用することができる。さらに、紙などリグノセルロース系バイオマスの加工物や古紙も使用することができる。
【0019】
本発明における草本植物としては、イネ、ムギ、サトウキビ、ヨシ、ススキ、トウモロコシなどを挙げることができる。
【0020】
本発明の方法で採用できるアルカリ蒸解処理法としては、ソーダ法又はクラフト法などを挙げることができる。
ソーダ法は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ薬品を使用し、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを除去する方法であり、添加剤として、キノン系蒸解助剤、酸素、過酸化水素、ポリサルファイドの使用が可能である。
【0021】
クラフト法は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ薬品と硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどのイオウを含む薬品を共用し、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを除去する方法であり、添加剤として、キノン系蒸解助剤、酸素、過酸化水素、ポリサルファイドの使用が可能である。
【0022】
本発明の方法で、アルカリ蒸解処理における活性アルカリ添加率は7〜13%であり、好ましくは8〜12%である。
「活性アルカリ」とは、蒸解液中のアルカリ度を示す尺度であり、クラフト法であればNaOとして表したNaOH+NaSを意味する。
本発明において、蒸解処理液の「活性アルカリ添加率」とは、下式で示すように、リグノセルロース系バイオマス(リグノセルロース材料)の絶乾質量に対する活性アルカリ質量の比率を百分率(%)で表したものを意味する。
〔活性アルカリ(NaOとして)質量/リグノセルロース材料の絶乾質量〕×100(%)
【0023】
また、キノン系蒸解助剤、酸素、過酸化水素、ポリサルファイドなどの添加剤は、原料リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグニンの性質、量に応じて適宜選択して使用することができる。リグノセルロース系バイオマス絶乾質量に対するこれらの添加剤の添加率は10%以下であることが好ましい。
【0024】
図1に示すように、アルカリ蒸解処理において、活性アルカリ添加率を調整することによりアルカリ蒸解処理物収率を制御することが可能である。そして、図2及び図3に示すように、活性アルカリ添加率7〜13%で、アルカリ蒸解物収率を55〜80質量%の範囲に制御することにより、高い対チップ糖収率が達成される。また、図4に示すように、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液のpHを7.0〜13.5の範囲に制御することや、図5に示すように、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液中のアルカリ残存量が2.5g/l以下となるようにアルカリ蒸解処理条件を制御することも、高い対チップ糖収率を達成するために好ましい。
【0025】
リグノセルロース系バイオマスは、アルカリ蒸解処理を進行しやすくするために、あらかじめ粉砕するか、チップ状に切削・破砕してからアルカリ蒸解処理することもできる。
アルカリ蒸解処理時のリグノセルロース系バイオマスのアルカリ蒸解処理液中の濃度は5〜50質量%の範囲で適宜設定される。
アルカリ蒸解処理温度は100〜200℃の範囲で設定されるが、140℃以上であることが好ましい。
アルカリ蒸解処理時の加熱時間は60〜500分の範囲とされるが、チップの形状・寸法及び含有するリグニンの性質、量等に応じて適宜設定することができる。
【0026】
本発明の方法におけるアルカリ蒸解処理は、活性アルカリ添加率の数値を、通常の製紙用パルプを製造するためのアルカリ蒸解処理の場合よりも小さい7〜13%の範囲として蒸解収率が高くなるように蒸解条件が設定されているので、このような蒸解条件下で活性アルカリを十分に機能させた結果として、蒸解処理後の黒液中に残存するアルカリ量は少なくなっていることが好ましい。蒸解処理終了時の蒸解黒液中のアルカリ含有量は2.5g/l以下となっていることが好ましい。
【0027】
アルカリ蒸解処理後は、高温蒸解処理物を水洗し、脱水を行う。水洗は、後の酵素糖化反応を阻害しないpHになるまで行われる。
回収される廃液中には、リグニンが混入しているのでリカバリーボイラで燃焼させ、熱を回収するとともにソーダ灰を回収して再利用することもできる。ここで得られる熱を製造工程における熱源として利用することにより低コスト化を図ることができる。
【0028】
本発明のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法において、酵素糖化反応に使用する糖化酵素としては、市販の酵素を使用してもよいし、オンサイトで製造したものを使用してもよい。また、酵素糖化反応液から酵素を回収し、再利用してもよい。
【0029】
糖化反応に使用する糖化酵素量は、原料基質となるアルカリ蒸解処理したリグノセルロース系バイオマス1gに対して100ユニット以下、好ましくは5〜75ユニットのセルラーゼ活性を含むように調整される。
【0030】
糖化酵素反応は、pH4.0〜7.0、温度20〜60℃の範囲で反応を行うことが好ましい。
また基質濃度は、1〜50%が望ましい。なお、酵素糖化反応は単独で行なってもよいし、エタノール醗酵など他の反応と同時に行なってもよい。エタノール醗酵を同時に行う場合は、温度30〜55℃の範囲で行うことが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
実施例1
風乾したユーカリグロブラスチップ(絶乾300g)に、水酸化ナトリウム23.2g(NaO換算18.0g)、硫化ナトリウム7.5g(NaO換算6.0g)を含む水溶液を加えて、チップに含まれる水分と合わせた水分量が1200mlとなるように蒸解処理液を調製した。蒸解処理液を20℃から160℃まで昇温した後、H−ファクターが400となるまで160℃に処理液の温度を保持して蒸解処理を行った。
蒸解処理が終了した処理チップから蒸解廃液を分離した後、蒸解処理したユーカリグロブラスチップに対して、12インチ常圧SDRにおけるクリアランスを0.5mmと0.1mmに設定して計2回リファイナー処理を行った。リファイナー処理後、得られるユーカリグロブラスパルプを十分に水洗し、水分が約70質量%となるまで遠心脱水した。
このときの蒸解収率、蒸解廃液のpH、蒸解廃液中の残アルカリ量を測定した。
【0033】
また、蒸解処理後に遠心脱水したユーカリグロブラスパルプを絶乾0.5g採取し、酵素(セルラーゼTP2、協和化成株式会社)36ユニットと0.1M酢酸バッファーを加えて、pHを5.0に調整した後、50℃にて18時間振とう培養により糖化反応させた。酵素糖化反応後、ろ過を行い、ろ液の糖濃度をフェノール・硫酸法により測定し、得られた糖量を基に対パルプ糖収率及び対チップ糖収率を求めた。
【0034】
<蒸解収率>
蒸解により得られるユーカリグロブラスパルプの水分を含む質量と固形分濃度を測定し、乾燥質量を算出した。この乾燥質量を、使用したユーカリグロブラスのチップ質量で除することで蒸解収率を算出した。
<残アルカリ量>
蒸解廃液10mlに純水80mlと1M塩化バリウム10mlを加えた後に、0.5M塩酸にてpH10.5付近の最初の変曲点まで滴定し、その滴定量から蒸解廃液中に残存する水酸化ナトリウム量を算出し、これを残アルカリ量とした。
<対パルプ糖収率及び対チップ糖収率>
前記酵素糖化反応後、ろ過を行い、ろ液の糖濃度をフェノール・硫酸法により測定して得られた糖量から、酵素糖化時の加水分解により付与された水の重さを計算により除去して、酵素糖化されたユーカリグロブラスパルプ量を算出し、反応に用いたパルプ量に対する割合を対パルプ糖収率とした。
また、蒸解収率と対パルプ糖収率の積を対チップ糖収率とした。結果を表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1の蒸解処理において、水酸化ナトリウムの添加量を34.8g(NaO換算27.0g)、硫化ナトリウムの添加量を11.3g(NaO換算9.0g)とした以外は、実施例1と同様の方法により糖を製造した。結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
実施例1アルカリ蒸解処理において、水酸化ナトリウムの添加量を46.5g(NaO換算36.0g)、硫化ナトリウムの添加量を15.1g(NaO換算12.0g)とした以外は、実施例1と同様の方法で糖を製造した。結果を表1に示す。
【0037】
比較例2
実施例1において、水酸化ナトリウム17.4g(NaO換算13.5g)、硫化ナトリウム5.7g(NaO換算4.5g)とした以外は、実施例1と同様の方法で糖を製造した。結果を表1に示す。
【0038】
比較例3
実施例1において、水酸化ナトリウム8.7g(NaO換算6.8g)、硫化ナトリウム2.8g(NaO換算2.3g)とした以外は、実施例1と同様の方法で糖を製造した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1では、対パルプ糖収率は75.2質量%と低めであったが、蒸解収率が74.8質量%と高いことにより、対チップ糖収率は56.2質量%であった。実施例2では、対パルプ糖収率は98.1質量%と高く、蒸解収率も57.1質量%と比較的高かったため、対チップ糖収率は56.0質量%であった。
これに対して、比較例1では対パルプ糖収率は96.6質量%と高かったが、蒸解収率が50.7質量%と低かったため、対チップ糖収率は49.0質量%であった。比較例2では、蒸解収率は82.4質量%と高かったが、対パルプ糖収率は60.1質量%と低かったため対チップ糖収率は49.5質量%であった。比較例3では、蒸解収率は90.0質量%と高かったが、対パルプ糖収率は37.1質量%と低かったため対チップ糖収率は33.4質量%であった。
【0041】
以上の実施例及び比較例の結果から、蒸解処理時のリグノセルロース系バイオマスに対する活性アルカリ添加率を、通常のチップ蒸解処理条件よりも低い状態である7〜13%の範囲に設定し(図1)、かつ、蒸解時処理物収率を55〜80質量%の範囲とする条件(図2)で蒸解した蒸解物を、酵素糖化反応に供することが、蒸解処理物をその後のセルロース成分の酵素糖化反応により処理して糖を製造する方法におけるリグノセルロース系バイオマス原料当たりの糖収率を最良の状態となす手段であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法によれば、非可食性の植物、特に、従来、利用価値が低く放置されていたり、廃棄処理乃至焼却処理されているような大量に存在するリグノセルロース系バイオマスから、再生可能エネルギーや工業製品を製造する原料物質として有用な糖を、蒸解処理前の原料リグノセルロース系バイオマス当たりの糖収率が高い方法で製造できるので、石油などの化石燃料の消費によって発生する炭酸ガスに起因する地球環境の悪化の防止等に多大の貢献を成すことが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解処理し、アルカリ蒸解処理物を酵素糖化反応により処理して糖を製造する方法であって、前記アルカリ蒸解処理は、リグノセルロース系バイオマスに対する活性アルカリ添加率を7〜13%とし、アルカリ蒸解処理物の収率を55〜80質量%の範囲に制御した蒸解処理であることを特徴とする、リグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項2】
前記アルカリ蒸解処理は、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液中のアルカリ含有量が2.5g/l以下となる蒸解処理であることを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項3】
前記アルカリ蒸解処理は、アルカリ蒸解処理終了時の蒸解黒液のpHが7.0〜13.5の範囲となる蒸解処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項4】
前記酵素糖化反応処理に先立って、前記アルカリ蒸解処理物をリファイナーにより処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項5】
リグノセルロース系バイオマスが広葉樹材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項6】
前記酵素糖化反応は、アルカリ蒸解処理したリグノセルロース系バイオマス中のセルロース分1gに対して100ユニット以下のセルラーゼ活性を含むように糖化酵素量を調整した糖化反応であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項7】
前記酵素糖化反応を、pH4.0〜7.0、温度20〜60℃の範囲で行なうことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。
【請求項8】
前記糖化酵素反応を、エタノール発酵と同時に行なうことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリグノセルロース系バイオマスから糖を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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