説明

リグノフェノール誘導体の精製方法

【課題】リグノセルロース系原料をフェノール誘導体及び酸を用いてリグノフェノール誘導体を生成・回収する方法によって得られた粗リグノフェノール誘導体から、余剰のフェノール誘導体及び残留酸分を効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離にかけることによって回収される粗リグノフェノール誘導体を精製する方法であって、粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒で粗リグノフェノール誘導体を抽出し、抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系物質からリグノフェノール誘導体と糖とを分離回収することによって得られる粗リグノフェノール誘導体を精製する方法に関する。本発明によって得られる精製リグノフェノール誘導体は、その芳香環を持つ構造を生かして石油化学系代替の高分子素材としての利用が期待される。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては石油などの化石資源の利用は不可欠なものとなっているが、化石資源は再生産が不可能であり、近い将来資源の枯渇が懸念されており、化石資源に代わる資源の一つとしてバイオマス資源に対する関心が高まっている。中でも木質系及び草本系のバイオマス資源は、地球上に膨大に存在し、短期間で生産することが可能で、適切な維持管理によって持続的に供給することが可能な点で注目されており、且つ、資源として利用した後は、自然界で分解して新たなバイオマス資源として再生されるという点で、益々注目されるようになっている。しかしながら、木質系及び草本系のバイオマス資源(リグノセルロース系物質)の利用に関しては、これまで炭水化物(セルロース)をパルプとして分離回収したり、又はセルロース・ヘミセルロースを糖として回収する(液化)という利用方法が主であり、同じく木質系及び草本系のバイオマス資源に含まれるリグニンに関しては、残渣として殆どが未利用であった。セルロースをパルプとして回収する方法では、リグノセルロース系物質をアルカリで蒸解することでセルロース繊維質とリグニンとを分離するが、この際にリグニンは素材としての利用が困難なまでに分断される。一方、リグノセルロース系物質中のセルロース・ヘミセルロースを酸によって液化(糖化)する方法では、パルプ工業と比較してリグニン成分の変質が少ないと考えられるが、酸による攻撃を受けて分解したリグニンがその反応性の高さから再縮合して高分子素材として利用するには不適当なものになってしまう。
【0003】
リグノセルロース系物質中のリグニンの有効な利用を図るためには、まずリグノセルロース系物質をその構成成分、即ちリグニン系物質と、セルロース系物質及びヘミセルロース系物質とに分離することが必要である。この手法として、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させた後、酸を加えて、リグノセルロース系物質をリグノフェノール誘導体と糖(炭水化物)とに分離するという方法が提案された(特許文献1、非特許文献1、2)。提案されている方法によれば、木粉等のリグノセルロース系材料に、フェノール誘導体、例えばクレゾールを含浸させて溶媒和させた後、酸を添加してセルロース成分を溶解する。この際、酸と接触して生じたリグニンの高反応性サイトのカチオンがフェノール誘導体によって攻撃され、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が解裂することによってリグニンが低分子化される。これにより、リグニンが低分子化されると共に、基本構成単位のベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体が生成する。次に、反応系(ここでは、酸による反応液全体、即ち、リグノフェノール誘導体、糖(炭水化物)及び酸の混合液を指す)を過剰の水で希釈することにより酸反応を停止した後、不溶分を遠心分離によって集めてリグノフェノール誘導体を分離する。分離されたリグノフェノール誘導体を、脱酸・洗浄処理し、乾燥することによって粗リグノフェノール誘導体が得られる。
【0004】
上記の方法によって得られた粗リグノフェノール誘導体は、固液分離工程や脱酸・洗浄工程で分離除去しきれなかった余剰分の未反応フェノール誘導体や残留酸分或いは糖(炭水化物)などの高分子成分を不純物として含んでいるので、これらを除去する必要がある。粗リグノフェノール誘導体から、フェノール誘導体、酸、糖(炭水化物)などの不純物を除去する方法としては、例えば、粗リグノフェノール誘導体をアセトンやケトンなどのリグノフェノール誘導体を溶解する溶媒中に溶解(抽出)して、糖などの高分子成分を非溶解分として除去し、次に溶解分(抽出液)を、リグノフェノール誘導体は溶解しないがフェノール誘導体や酸分を溶解する精製溶媒、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどに滴下してリグノフェノール誘導体を再析出させて回収するという方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、その後の研究により、上記の方法で精製・回収したリグノフェノール誘導体は、未だ酸分などを不純物として含んでいることが判明した。この原因は明らかではないが、おそらくは、アセトンなどの溶媒に溶解したリグノフェノール誘導体をジエチルエーテルなどの精製溶媒に滴下して再析出(固体化)させる際に周囲に存在する酸などを取り込んで固体化するためであると考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開平2−233701号公報
【特許文献2】特開2005−15687号公報
【非特許文献1】「天然リグニンのフェノール誘導体−濃酸2相系処理法による機能性リグノフェノール誘導体の合成」、舩岡他、熱硬化性樹脂、vol.15, No.2 (1994), p.7-17
【非特許文献2】「相分離反応系を応用するフェノール系リグニン素材の誘導とその機能」、舩岡他、熱硬化性樹脂、vol.16, No.3 (1995), p.35-49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に説明した粗リグノフェノール誘導体の精製方法における、酸分などの不純物を完全に除去することができないという問題点を解決し、精製度の高いリグノフェノール誘導体製品を得ることを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するための手段として、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離にかけることによって回収される粗リグノフェノール誘導体を精製する方法であって、粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒で粗リグノフェノール誘導体を抽出し、抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることを特徴とする方法を提供する。
【0009】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸を反応させて得られる反応混合液(より具体的に表現すると、フェノール誘導体を収着させたリグノセルロース系物質を酸と反応させて得られる反応混合液)を固液分離にかけると、酸や生成した糖(炭水化物)などは液相側に移行し、固形分としてリグノフェノール誘導体が得られる。この固形分を脱酸洗浄し、乾燥することによってリグノフェノール誘導体が得られる。しかしながら、このようにして得られるリグノフェノール誘導体は、脱酸洗浄処理で除去しきれなかった余剰のフェノール誘導体、残留酸分、及び糖(炭水化物)などの高分子成分が不純物として含まれた粗リグノフェノール誘導体である。このような粗リグノフェノール誘導体を、粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒で抽出することにより、糖などの高分子成分を不溶分として分離除去することができる。リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒(抽出溶媒)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等や、メタノール、エタノール、エチレングリコール等を使用することができる。得られた抽出液(可溶分)には、リグノフェノール誘導体、残留酸分及び余剰のフェノール誘導体が含まれる。
【0010】
かかる抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることにより、酸が除去される。ここで用いる陰イオン交換樹脂は、イオン交換基がOH型のものであることが好ましい。例えば、抽出液中に含まれる酸が硫酸:HSOの場合には、硫酸のSO2−イオンが陰イオン交換樹脂のOHとイオン交換して水を生成する。これにより、抽出液中の酸分が除去される。陰イオン交換樹脂を用いて抽出液を脱酸処理することにより、例えば硫酸の濃度が0.5wt%の抽出液の酸濃度を0.0005wt%以下というように、1,000〜10,000分の1程度にまで抽出液中の酸分を除去することができる。
【0011】
イオン交換時に生成する水分は、リグノフェノール誘導体を固形分として回収する場合に回収率低下等の影響を与える可能性があるので、イオン交換樹脂処理後の抽出液にシリカゲルやモレキュラーシーブ、ゼオライト、活性アルミナ等の脱水剤により除去することが好ましい。
【0012】
陰イオン交換樹脂としては、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂のいずれを用いることもできるが、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いると、抽出液中に同様に含まれる余剰フェノール誘導体も同様にイオン交換作用によって除去することが可能である。したがって、フェノール誘導体の混入が望ましくない用途に精製リグノフェノール誘導体製品を使用する場合には、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。但し、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる場合、抽出溶媒としてアセトンを用いると、アセトンが強塩基性陰イオン交換樹脂と接触することによって縮合して樹脂の表面に付着して不可逆的汚染となって樹脂の性能を低下させるという問題を起こす場合がある。従って、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる場合には、このような縮合の問題を起こさないメタノール等の溶媒を抽出溶媒として使用することが好ましい。
【0013】
用いる陰イオン交換樹脂の量は、陰イオン交換樹脂の種類や抽出液中の酸の濃度などによって変動するが、一般に、抽出液1Lを陰イオン交換樹脂0.2〜1Lと接触させることが好ましい。また、抽出液と陰イオン交換樹脂との接触時間は、用いる陰イオン交換樹脂の種類及び量、抽出液中の酸の濃度などによって変動するが、一般に、0.5時間〜2時間の接触時間を確保することが好ましい。また、抽出液と陰イオン交換樹脂との接触操作は、例えば、抽出液を容器に入れ、陰イオン交換樹脂を投入して撹拌することによって行うことができる。
【0014】
なお、陰イオン交換樹脂によって抽出液を処理する際は、抽出液を所定量の陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通液する操作を行う。その際、抽出液と樹脂との接触時間を最適に調整して所定の脱酸能力を得るように通液流量やカラム充填量を決定する必要がある。採用する樹脂の交換容量や脱酸能力によって変動するが、一般にSV=1〜3h-1となるように選定する。カラム通過後の抽出液は、pHのモニターなどによって十分に脱酸が進行したことを確認し、能力の低下が見られようであれば、カラム内のイオン交換樹脂をアルカリで再生する操作を行い、再び脱酸能力を回復させる。
【0015】
また、本発明においては、上記に説明したように陰イオン交換樹脂によって処理された抽出液を、更に限外濾過膜によって処理することが好ましい。
リグノフェノール誘導体は、分子量で1,000〜50,000の範囲のものが熱流動性等で良好な特性を示すが、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒に抽出した抽出液中には、良好な特性を示す分子量範囲のリグノフェノール誘導体以外に、不純物として低分子量のリグノフェノール誘導体や未反応で余剰のフェノール誘導体並びに酸分を含有する。上記に説明した陰イオン交換樹脂による処理によって、酸分はほぼ完全に除去することができるが、低分子量のリグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体は抽出液中に残留する。上述したように、陰イオン交換樹脂として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた場合にはフェノール誘導体も合わせてイオン交換で除去することができるが、陰イオン交換樹脂として弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いた場合にはフェノール誘導体の有効な除去を行うことはできない。通常のリグノフェノール誘導体の用途では、これらの低分子量リグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体及びイオン交換樹時に生成した水分が不純物として存在することは問題とならない場合がある。しかしながら、これらの不純物の存在が問題となるような用途にリグノフェノール誘導体を使用する場合には、陰イオン交換樹脂で処理されたリグノフェノール誘導体を含む抽出液を更に限外濾過膜による精製処理にかけて、低分子量リグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体及びイオン交換樹時に生成した水分を除去することが好ましい。
【0016】
低分子量のリグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体を不純物として含むリグノフェノール誘導体抽出液から良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を精製回収するためには、抽出液からこれらの不純物を除去する必要がある。良好な特性を持つリグノフェノール誘導体の分子量分布が1,000〜50,000であることから、これ以外、すなわち分子量1,000以下である低分子区分や未反応で余剰のフェノール誘導体を抽出溶液から除去すればよい。本態様では、これら低分子量不純物の除去方法として、抽出液を限外濾過膜に通し、限外濾過膜の分子量分画作用を利用して、低分子成分及び余剰フェノール誘導体を分離・除去する。
【0017】
限外濾過膜として分画分子量が500〜1,000のものを使用することで、分子量が100以下の未反応の余剰フェノール誘導体や分子量1,000以下のリグノフェノール誘導体の低分子区分及びイオン交換樹時に生成した水分を限外濾過膜の透過液側に分離・除去する事ができる。良好な特性を示す分子量分布が1,000以上のリグノフェノール誘導体を含む抽出液は限外濾過膜を透過せずに濃縮液の形態で回収することができる。
【0018】
限外濾過膜による分離で濃縮された液を再び抽出時と同一の溶媒で希釈した後、再度限外濾過膜で分離する工程を複数回繰り返すことにより、分離の効率と回収率を向上することが可能である。例えば、分画分子量700の限外濾過膜を使用した1回目の分離で、抽出液を2倍に濃縮(初期濃縮)して、低分子の不純物を含む透過液を除去する。回収した濃縮液を、抽出液と同一の溶媒で2倍に希釈した後、再び分画分子量700の限外濾過膜で、2倍に濃縮し、低分子の不純物を含む透過液を除去する(図1参照)。この操作を10回繰り返すことで、抽出溶液中の低分子量の不純物を100分の1以下に削減することができた。
【0019】
その際、透過液中の抽出溶媒を回収して再利用すれば、限外濾過の繰り返し操作による不純物除去工程で使用する溶媒量を削減することも可能である。
また、限外濾過膜による透過液を、所謂カスケード的に使用して、使用する溶媒量を更に削減する事も可能である。ここでいう透過液のカスケード的使用とは、限外濾過膜を1回通した後の濃縮液を希釈する際に、前回ロット(バッチ)の処理で回収した透過液を用いることを示す。例えば、図2に示すように、限外濾過膜処理を10回繰り返す場合、n回目の希釈には、前回ロット(バッチ)のn+2回目の透過液を使用する。この方法により、限外濾過膜処理で使用する際の希釈溶媒量を5分の1程度に押さえることができる。
【0020】
また、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒に抽出する際に、粗リグノフェノール誘導体に水分が残留していると、残留する糖(炭水化物)などの高分子成分が抽出溶媒に可溶性となり、抽出液中にこれら高分子成分が含まれるようになる。通常、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒に抽出する際には、粗リグノフェノール誘導体の含水率を5%以下に高乾燥させるため、高分子区分は抽出溶媒に不溶となり、抽出後の固液分離で固形分残渣として分離除去されて、抽出液中には高分子成分は含まれない。
【0021】
しかしながら、粗リグノフェノール誘導体に水分が残留していると、有機溶媒への抽出の際に残留する糖(炭水化物)等の高分子成分が抽出溶媒に可溶性となり、抽出液中にこれら高分子成分と低分子量区分や未反応で余剰のフェノール誘導体及び残留酸分とが含まれるようになる。本発明の更に好ましい態様によれば、上記で説明した低分子成分に加えて、糖(炭水化物)などの高分子成分も限外濾過膜の分子量分画作用を利用して除去することができる。この態様により、粗リグノフェノール誘導体を抽出する際に粗リグノフェノールの含水率を5%以下に高乾燥させる必要が無く、プロセスの簡略化及びコスト低減が可能となる。かかる形態では、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒で抽出した抽出液を、まず、分画分子量が20,000〜50,000、例えば50,000程度の限外濾過膜で処理し、高分子成分を濃縮液側に分離・除去する。粗リグノフェノール誘導体は、低分子区分のリグノフェノール誘導体や未反応の余剰フェノール誘導体と共に透過液側に含まれる。次に、この透過液を、分画分子量が500〜1,000の限外濾過膜で処理し、低分子区分のリグノフェノール誘導体や未反応の余剰フェノール誘導体を透過液側として分離・除去する。これにより、分子量分布が1,000〜50,000の良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を、濃縮液側として精製・回収することができる。この態様によれば、例えば含水率30%程度に風乾された粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒による抽出処理にかけた抽出液を精製処理して、低分子区分のリグノフェノール誘導体、未反応の余剰フェノール誘導体、酸分、可溶化した糖(炭水化物)等の高分子成分を除去して、分子量分布が1,000〜50,000の良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を精製・回収することができる。
【0022】
なお、これら一連の膜処理による分離効率を向上させるためには、分画分子量50,000程度の限外濾過膜の濃縮液を、抽出溶媒と同一の溶媒で2倍程度に希釈した後、再び分画分子量50,000程度の限外濾過膜で処理する。この透過液を、分画分子量500〜1,000の限外濾過膜で処理した濃縮液の希釈液として利用して、再び分画分子量500〜1,000の限外濾過膜で処理する。この操作を複数回繰り返すことで、膜処理による分離効率を向上させることが可能である(図3参照)。例えば、この膜処理を10回繰り返すことで、初期の抽出液が含有する不純物濃度0.5%を0.005%程度まで100分の1に削減することが可能である。また、分画分子量500〜1,000の限外濾過膜の透過液を蒸留して抽出溶媒を回収・再利用すれば、限外濾過の繰り返し操作による不純物除去工程で使用する溶媒量を削減することも可能である。
【0023】
上記の態様において使用される限外濾過膜としては、当該技術において用いられている所定の分画分子量を有する任意の限外濾過膜を用いることができる。
本発明に係る粗リグノフェノール誘導体の精製方法は、例えば、本件出願人が出願した国際特許出願PCT/JP2004/016222号に記載されているリグノフェノール誘導体の製造方法によって得られる粗リグノフェノール誘導体の精製に適用することができる。上記国際特許出願に記載されているリグノフェノール誘導体の製造方法を以下に説明する。
【0024】
図4は、上記国際特許出願で開示されたリグノセルロース系物質から酸・糖混合液とリグノフェノール誘導体とを分離するプロセスの全体の概要を示すフロー図である。かかる方法によれば、木材、草本材などのリグノセルロース系物質に、まず粉砕、乾燥等の前処理を行い(1)、必要に応じて脱脂処理を行う(2)。次に、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を添加・含浸(収着)させる(3)。残留有機溶剤を乾燥させた後(4)、酸によって処理して、リグノセルロース系物質の細胞膜を酸で膨潤・破壊する(5)。これにより、リグノセルロース系物質の構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンは、酸による攻撃を受けて分解する。分解したリグニンは予め添加・含浸したフェノール誘導体と反応結合してリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物となって酸による更なる分解から保護される。一方、セルロース、ヘミセルロースについては、酸によって低分子化、液化(糖化)が進行する。以下の説明においては、このようなプロセスで得られた反応液を「リグノフェノール誘導体、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」と称する。このようにして得られた反応混合液を遠心分離等の固液分離にかけることによって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物と、セルロース、ヘミセルロースが液化(糖化)した酸溶液に分離する(6)。リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物は、脱酸・洗浄(7)によって残留する酸を洗浄・除去した後、固形分を回収して乾燥工程(8)にかけて、粗リグノフェノール誘導体(9)を得る。
【0025】
酸処理後の反応混合液の固液分離(6)によって液相として得られる酸・糖混合液は、種々の方法による処理にかけて糖を回収することができる。
以下、各工程に関して詳細に説明する。
【0026】
原料前処理工程(1)
本方法によって処理することのできるリグノセルロース系物質としては、例えば間伐材、林地残材、製材屑、端材、建設廃材、草本、モミ殻、稲ワラ、古紙等を挙げることができる。木質系のリグノセルロース物質としては、スギ等の林地残材・製材屑などを好適に用いることができ、また、草本系のリグノセルロース物質としては、最近注目されているケナフのコア(心材)を粉砕したものなどを好適に用いることができる。
【0027】
原料のリグノセルロース系物質を粉砕する。粉砕後、粒径を2mm以下に篩い分けることで、後段のフェノール誘導体の含浸効果を高め、反応性を向上させるという効果があるので好ましい。また、含水率を15〜20%程度に乾燥させると、篩い分け時に玉等の発生が少なく、原料粉の収率が向上するので好ましい。
【0028】
脱脂処理(2)
リグノセルロース系物質の種類によっては、樹脂分等を含む場合がある。これが後段の反応過程で阻害物質とならないように、フェノール誘導体を添加する前にリグノセルロース系物質の樹脂分を除去(脱脂)することが好ましい。脱脂方法としては、例えば、撹拌槽内にリグノセルロース系物質と有機溶剤とを投入し、十分に混合・撹拌することによって行うことができる。有機溶剤で脱脂を行うことにより、リグノセルロース系物質中の水分を除去するという効果も得られる。この目的で用いることのできる有機溶剤としてはアセトン、ヘキサンなどを用いることができ、使用量としてはリグノセルロース系物質の1〜10倍量が好ましい。なお、ここで規定する「倍量」とは、木粉1kgに対する有機溶剤の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、木粉1kgに対して有機溶剤10Lを加えることを意味する。また、有機溶剤を加えた後に1〜12時間撹拌することによって脱脂を十分に行うことが好ましい。なお、上記のように、本処理は必須の工程ではなく、処理対象のリグノセルロース系物質が樹脂分等を含んでいない場合などには行う必要はない。なお、本脱脂工程で用いる有機溶剤と、次段のフェノール誘導体含浸工程で用いる有機溶剤とが異なるものである場合には、次段のフェノール誘導体含浸を行う前に、リグノセルロース系物質を乾燥して、脱脂で用いた有機溶剤を除去することが好ましいが、両工程で用いる有機溶剤が同じものである場合にはこの乾燥・除去工程は省略可能である。
【0029】
フェノール誘導体含浸(3)
次に、フェノール誘導体を有機溶剤中に混合した溶液を、リグノセルロース系物質と混合して十分に撹拌することによって、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸(収着)させる。この目的で用いることのできるフェノール誘導体としては、p−クレゾール、m−クレゾール、o−クレゾール、これらの混合体並びにフェノールなどを挙げることができる。この含浸工程では、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を十分に分散して含浸させることが望ましく、そのためにはフェノール誘導体を有機溶剤に混合・溶解して溶剤中に十分に分散させた状態でリグノセルロース系物質と接触させることが好ましい。また、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を効率的にするためには、フェノール誘導体を有機溶剤中に溶解した溶液を、脱脂処理後のリグノセルロース系物質1kgに対して8L〜12Lの割合(ここでは、これを8〜12倍量とする)、好ましくは10倍量程度の量加えることにより、リグノセルロース系物質をフェノール誘導体溶液中に十分に浸した状態で含浸工程を行うことが好ましい。また、リグノセルロース系物質と溶液とを、室温、例えば10℃〜50℃において1〜24時間撹拌することによって、含浸を十分に進行させることが好ましく、撹拌中に約30℃の温度に維持することがより好ましい。フェノール誘導体を溶解するために用いることのできる有機溶剤としては、アセトン、ヘキサンなどを挙げることができ、上述の脱脂工程を行う場合には、脱脂工程と同じ有機溶剤を使用することができる。有機溶剤中でフェノール誘導体とリグノセルロース系物質とを混合・撹拌するために用いることのできる装置としては、円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)などを挙げることができる。本工程では、リグノセルロース系物質を入れた混合槽に、有機溶剤中に溶解したフェノール誘導体を加えることで混合を行うことができるが、その際、フェノール誘導体を加える前に、リグノセルロース系物質が入れられた混合槽内を減圧すると、リグノセルロース系物質粒子間隙へのフェノール誘導体の浸透性を高めたり、リグノセルロース系物質細胞壁へのフェノール誘導体の浸透性を高めることができるので好ましい。更には、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる方法として、木材への防腐剤注入などで利用されている加圧注入法を用いることができる。これは、リグノセルロース系物質が入れられた注入槽内を減圧にした後、フェノール誘導体を加圧注入するという方法であり、この方法によれば、リグノセルロース系物質の細胞膜レベルにまでフェノール誘導体を浸透させることができる。なお、本工程において、「リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸」とは、必ずしもリグノセルロース系物質の粒子の内部へフェノール誘導体を浸透させる必要はなく、リグノセルロース系物質粒子の表面にフェノール誘導体を極めて均等に分散して付着させるようにしてもほぼ同等の効果が得られる。本明細書においては、このような形態も「含浸」或いは「収着」に含めている。
【0030】
例えば、アセトンなどの有機溶剤に溶解させたフェノール誘導体を木粉などのリグノセルロース系物質を強攪拌しているところへ噴霧すると、フェノール誘導体を含んだ有機溶剤の液滴が木粉の表面上に分散した状態で付着する。この状態で有機溶剤を蒸発させると、フェノール誘導体がリグノセルロース系物質の表面上に均一に分散されて付着し、収着として充分な効果が得られる。
【0031】
乾燥(4)
フェノール誘導体が溶解された有機溶剤溶液とリグノセルロース系物質とを十分に撹拌して含浸を行わせた後、減圧して低温で残留有機溶剤を蒸発させることによって、フェノール誘導体が含浸したリグノセルロース系物質を乾燥させる。特に、フェノール誘導体を溶解するための有機溶剤としてアセトンを用いる場合、アセトンは後段の酸処理で生成するリグノフェノール誘導体を溶解するため、リグノフェノール誘導体と酸・糖混合液との固液分離を阻害するので、酸処理工程の前にアセトンを十分に除去する必要がある。
【0032】
酸処理(5)
次に、フェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質を酸で処理する。ここで用いる酸としては、濃度65%以上の濃硫酸を用いることが好ましく、反応性を維持・継続するためには72%以上の濃度の濃硫酸を用いることがより好ましい。添加する酸の量は、リグノセルロース系物質に対して1倍〜10倍量が好ましく、3倍〜5倍量がより好ましい。なお、ここでの酸の「倍量」とは、フェノール誘導体を含浸する前の(即ち、含浸されたフェノール誘導体の重量を含まない)木粉原料1kgに対する有機溶剤の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、含浸フェノール誘導体の重量を含まない木粉原料1kgに対して有機溶剤10Lを加えることを意味する。酸処理工程においては、反応槽内に予めリグノセルロース系物質を投入した後に、酸を添加すれば、反応の時間差をなくし、均一な酸処理が可能となるので好ましい。酸を添加した後は、均一に反応を進行させるためにむら無く十分に撹拌することが必要であるが、酸添加直後のフェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質は、粘度が非常に高く、撹拌することが容易ではない。酸処理工程において遊星撹拌式の混練機を用いると、初期の高粘度の状態においても確実な混合撹拌が可能であり、効率のよい酸処理を行うことができる。
【0033】
リグノセルロース系物質を酸によって加水分解する技術は、従来から、希酸法や濃酸法などがあるが、これらはいずれも糖を分離する目的で使用されており、リグニンの分離・回収には利用されていない。例えば、希酸法では、高温高圧の条件下でリグノセルロース系物質の酸処理を行うが、これでは、リグニンがスルホン化や炭化してしまい、有効利用が困難になってしまう。本方法においては、リグノセルロース系物質を酸によってリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分解する反応は、常温常圧下で進行する。生成するリグノフェノール誘導体の炭化、スルホン化を防ぎつつ、反応性を均一に維持・継続するためには、本方法における酸処理反応は、20℃〜40℃、好ましくは30℃前後の温度で行うことが好ましい。また、酸処理の反応時間は、酸によるリグノフェノール誘導体の変質を防止するために、10分〜2時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
【0034】
なお、酸処理の反応温度を一定に保つ制御方法としては、例えば、酸処理反応槽に、反応槽の外部に温水を通水する温水ジャケットと、反応槽内の反応物の温度を計測する装置とを取り付けることができる。酸処理反応にあたって、予め設定した反応温度の温水を温水ジャケットに通水して反応雰囲気である反応槽全体の温度を目的とする酸処理反応温度に保持する。反応槽内に原料を投入して酸処理反応を開始した後は、反応槽内に設けた温度計測装置によって反応液の温度をモニタしながら、温水ジャケットに通水する温水の温度及び通水量を調整することによって、反応熱による反応雰囲気の温度の変化を吸収することができる。
【0035】
固液分離(6)
上記のようにして得られたリグノフェノール誘導体、余剰のフェノール誘導体及び残留酸分の反応混合液を、固液分離工程にかけて、リグノフェノール誘導体を含む固相と、糖化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸の液相とに分離する。かかる固液分離工程には、遠心分離を利用することができる。この目的に用いることのできる遠心分離機としては、無孔式底部排出型遠心分離機を用いることができる。無孔式底部排出型遠心分離機を用いれば、粘着質のリグノフェノール誘導体固形分を閉塞なく酸・糖混合液から分離することが可能であるので好適である。この際、10〜60分間遠心分離を行うことが好ましい。遠心分離により、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形分と、セルロース、ヘミセルロースが糖化(液化)して溶解した酸溶液とが、その比重差によってそれぞれ遠心分離機のバスケット内で内側、外側の2相に分離する。遠心分離機の回転を止めると、外側の酸・糖溶液が自重で装置下部に設けられた排出口から排出される。酸・糖溶液が排出された後、バスケット内に残留するリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、掻き取り装置などを利用して下部排出口から排出する。
【0036】
また、この固液分離には、フィルタ等の膜分離を利用することもできる。この場合、酸処理後の反応混合液を、フィルタを布設した濾過槽に導入し、液の自重若しくは減圧又は加圧によって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、液化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸溶液から濾過分離する。この際、濾過槽は、適当な量の液を貯めた後に濾過を行うことができるように貯留が可能な構造を有することが好ましい。このような構造の濾過槽を用いることにより、粘着質のリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物の濾過ケーキの厚さを確保し、剥離・回収性を上げることができる。また、濾過の際に、減圧によって濾過・脱液した後、適当な時間加圧することで、固形分の脱液を向上させて、濾過ケーキの剥離性を向上することもできる。更に、平板状の濾布を使用することで、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分の剥離性を向上させて、濾布表面に残留する固形分を洗浄することも容易になる。濾布の洗浄水は、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分を後段で水分散する際の溶液として使用することができる。
【0037】
上述の固液分離処理によって得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物は、後述する脱酸・洗浄工程及び乾燥工程を経て、リグノフェノール誘導体として回収することができる。一方、液相として分離回収される液化(糖化)したセルロース、ヘミセルロースを含む糖・酸溶液は、当該技術において公知の方法などを用いて酸と糖とを分離回収することができる。分離回収された糖は例えば乳酸発酵による生分解性プラスチック製造用の原材料などとして利用することができ、また、酸は上段の酸処理工程(5)に再利用することができる。本方法によれば、従来技術のように酸処理後の反応混合液を多量の水で希釈するのではなく、そのまま希釈することなく固液分離にかけて固相と液相とを分離回収するので、濃度の高い糖・酸溶液が得られ、その後の糖及び酸の分離・回収処理を効率的に行うことができる。また、糖・酸溶液を分離することによって回収される酸は、水で希釈されていないので、濃縮等の精製が少ない負荷で可能であり、精製した濃酸は前段の酸処理に再利用することが可能である。
【0038】
脱酸・洗浄(7)
上記の固液分離処理(6)で得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物には、酸及び炭水化物の糖化物並びに未反応物が残留しているので、これを洗浄して残留物を除去する必要がある(脱酸・洗浄処理)。これは、従来行われているように、リグノフェノール誘導体を含む固形物を10倍量程度の水中に分散・撹拌させて、残留する酸等の成分を水側に移動させた後、静置して固形物を自然沈降させて、上澄み液を除去するという作業を適当回数繰り返すことによって行うことができる。固形物を水中に分散することによって、同時に、酸の濃度が希釈されて酸反応が停止する。
【0039】
乾燥(8)
リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄が終了したら、固形分を回収して乾燥する。リグノフェノール誘導体がアセトンに溶解する性質を利用して、回収されるリグノフェノール誘導体を含む固形物にアセトンを混合して、リグノフェノール誘導体のみを抽出し、抽出液を木材等の材料に含浸させて使用することが可能であるが、この場合、アセトンとの混合の際に水分が残留していると、リグノフェノール誘導体を含む固形物に残留する糖分が水分を介してアセトンに溶解し、純粋なリグノフェノール誘導体・アセトン溶液の生成が困難になる。したがって、リグノフェノール誘導体を含む固形物は、含水率5%以下程度にまで乾燥させることが好ましい。
【0040】
従来は、リグノフェノール誘導体を含む固形物の乾燥には、主として自然乾燥が用いられ、充分な乾燥を行うためには1週間〜数ヶ月の日数を要していた。本方法においては、乾燥に要する時間及びエネルギーを削減するため、まず、固形物を自然風乾燥又は温風送風乾燥することによって含水率50%以下に粗乾燥した後、含水率10%以下に高乾燥することが好ましい。粗乾燥の際のリグノフェノール誘導体の品温は60℃以下とすることが好ましく、リグノフェノール誘導体の品質向上の為には40℃以下とすることが好ましい。粗乾燥に際しては、固形物を吸水性物質の上に広げて、自然風又は温風乾燥を行うことが好ましい。高乾燥は、例えば、真空マイクロ波乾燥機を用いて、含水率50%以下に粗乾燥したリグノフェノール誘導体を含む固形分を、乾燥機の乾燥室内に投入し、室内を減圧して水の蒸発温度を40℃以下にした後、乾燥室内の固形物にマイクロ波を照射して含有水分に熱を与えて蒸発させることによって行うことができる。また、乾燥室内において、遠赤外線の照射を併用すると、更に乾燥効率を向上させることができる。
【0041】
上記のようにして得られた粗リグノフェノール誘導体は、余剰のフェノール誘導体、残留酸分、及び糖(炭水化物)などの高分子成分を不純物として含んでおり、この粗リグノフェノール誘導体を本発明による精製処理にかけることによって、不純物を除去し、精製したリグノフェノール誘導体を得ることができる。
【0042】
本発明方法によって得られる精製リグノフェノール誘導体は、石油代替の高分子素材として種々の分野で利用することが期待されている。具体的な用途しては、例えば、樹脂の可塑剤、塗料、段ボール強化用の含浸剤、パルプ用の含浸剤(強化剤、ケミカルウッド、パレット形成剤)などとしての利用が挙げられる。
【0043】
本発明方法によって得られる精製リグノフェノール誘導体は、抽出溶媒中の溶液の形態で得られる。リグノフェノール誘導体の用途によっては、このまま溶液の形態で供給することができる。例えば、アセトン溶媒中の溶液として得られる精製リグノフェノール誘導体は、溶液形態のまま、塗料、段ボール用の含浸剤、パルプ含浸剤などとして利用することができる。このようにして使用されたリグノフェノール誘導体は、使用後に再びアセトンなどの溶媒で抽出することによって再利用することが可能である。
【0044】
また、本発明による精製処理後、抽出液の溶媒を蒸発等の当該技術における通常の方法で除去することによって、固体の精製リグノフェノール誘導体を得ることができる。
以下の実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0045】
実施例1
乾燥木粉10kgあたり、3.4kgのp−クレゾールを収着した収着木粉を酸処理・水洗浄して得られた粗リグノフェノール誘導体から100gを採取し1Lのアセトンで溶解して不溶分を除去し、含有するリグノフェノール誘導体を抽出したリグノフェノール誘導体アセトン抽出液を調製した。
【0046】
100mLのビーカに上記アセトン抽出液を70mL採取し、陰イオン交換樹脂10gを投入した後、攪拌機で攪拌しながら脱酸の進行状況を観察した。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂と弱塩基性陰イオン交換樹脂とを使用した。
【0047】
使用した強塩基性イオン交換樹脂は、あらかじめイオン交換基をOH型に再生したものを用い、リグノフェノール誘導体アセトン抽出液中の残留酸分をイオン交換した際に水(HO)が生成されるようにした。弱塩基性イオン交換樹脂については、初期のイオン交換基がOH型で、イオン交換後に生成されるものが水であるため、そのまま使用した。強塩基性陰イオン交換樹脂及び弱塩基性陰イオン交換樹脂共にアセトン溶液中での使用となることから、OH型に再生した後、樹脂をアセトンに浸して、樹脂が保持する水分をアセトンに置換した後にアセトン抽出液に投入した。脱酸の進行状況を表1に示す。陰イオン交換樹脂による脱酸前の抽出液がpH=1(pH試験紙)であったものが、陰イオン交換樹脂による処理により、pH=5まで脱酸することができた。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2
100mLのバイアル瓶に、実施例1で用いたものと同じ弱塩基性陰イオン交換樹脂5.0gを入れ、実施例1で調製したものと同じリグノフェノール誘導体アセトン抽出液35mLを投入した後、瓶を密封し、振盪して陰イオン交換樹脂とアセトン溶液とを十分に接触させた。撹拌しながら脱酸の進行を確認した後、更に35mLのリグノフェノール誘導体アセトン抽出液を順次追加投入して撹拌を行い、最終的に70mLのリグノフェノール誘導体アセトン抽出液を処理する操作を行った。なお、脱酸の進行については、pH試験紙で系のpHを測定し、pHが4〜5となった時点で脱酸が十分に進行したものとした。攪拌の経過時間と脱酸の進行状況を表2に示す。ビーカによる攪拌試験と同様に、陰イオン交換樹脂による処理によって、pH=5まで脱酸することができた。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例3
100mLのバイアル瓶に、実施例1で用いたものと同じ弱塩基性陰イオン交換樹脂を5.0g入れ、実施例1で調製したものと同じリグノフェノール誘導体アセトン抽出液10mLを投入し、撹拌しながら実施例2と同様の手法で脱酸の進行を確認した後、更に10mLのリグノフェノール誘導体アセトン抽出液を順次追加投入して撹拌を行い、最終的に70mLのリグノフェノール誘導体アセトン抽出液を処理する操作を行った。処理液量と脱酸完了時間の結果を表3に示す。実施例2のように70mLを2回で投入した場合に比べて、早い時間で脱酸処理が可能であった。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例4
実施例1で調製したものと同じリグノフェノール誘導体アセトン抽出液1000Lに、実施例1で用いたものと同じ弱塩基性陰イオン交換樹脂を50g(75ml)を投入し、十分に攪拌して、リグノフェノール誘導体アセトン抽出液中に存在する残留酸分(硫酸イオン)を除去した。1時間の攪拌後、陰イオン交換樹脂による脱酸前の抽出液がpH=1(pH試験紙)であったものが、陰イオン交換樹脂による処理により、pH=5まで脱酸することができた。
【0054】
実施例5
実施例1で用いたものと同じ弱塩基性陰イオン交換樹脂10.0g(15mL)をカラムに充填し、カラム内をアセトンで十分に置換した後、カラム上部から実施例1で調製したものと同じリグノフェノール誘導体アセトン抽出液70mLを通液することで脱酸処理を行った。リグノフェノール誘導体アセトン抽出液の通液速度は、カラム出口のバルブで調整した。リグノフェノール誘導体アセトン抽出液70mLをカラムに3回通液した後、樹脂をアセトンとイオン交換水で通液洗浄し、5g/LのNaOH水溶液でイオン交換樹脂の再生を行った。再生後のイオン交換樹脂に、再度アセトン抽出液70mLを通液して脱酸の進行状況を確認した。カラムによる脱酸処理の結果、陰イオン交換樹脂による脱酸前の抽出液がpH=1(pH試験紙)であったものが、陰イオン交換樹脂処理により、pH=5まで脱酸することができた。良好な脱酸を実施するには、陰イオン交換樹脂でSV=3以下の通液速度が必要であった。また、再生処理後のイオン交換樹脂でも良好な脱酸処理が可能であった。
【0055】
実施例6
乾燥木粉10kg当たり、3.4kgのp−クレゾールを収着した収着木粉を酸処理・水洗浄して得られた粗リグノフェノール誘導体5.0gを50mLのメタノールで溶解して不溶分を除去し、リグノフェノール誘導体を抽出したリグノフェノール誘導体メタノール抽出液を調製した。このリグノフェノール誘導体メタノール抽出液に、実施例1で用いたものと同じ強塩基性陰イオン交換樹脂5.0g(3mL)を投入して、リグノフェノール誘導体メタノール抽出液中に存在する残留酸分(硫酸イオン)を除去した。使用する強塩基性イオン交換樹脂は、あらかじめ交換基をOH型に再生したものを用い、リグノフェノール誘導体メタノール抽出液中の残留酸分を交換した際に水(HO)が生成されるようにした。また、メタノール溶液中での使用となることから、OH型に再生した後、樹脂をメタノールに浸して、樹脂が保持する水分をメタノールに置換した後にメタノール抽出液に投入した。
【0056】
100mLのバイアル瓶に、強塩基性イオン交換樹脂5.0gを採取し、リグノフェノール誘導体メタノール抽出液50mLを投入した後、瓶を密封して振盪することによって陰イオン交換樹脂とメタノール抽出液とを十分に接触させた。15分の攪拌後、陰イオン交換樹脂による脱酸前の抽出液がpH=1(pH試験紙)であったものが、pH=5(pH試験紙)まで脱酸することができた。
【0057】
また、強塩基性陰イオン交換樹脂は、弱電離性のフェノール誘導体をイオン交換する性能も有しているため、リグノフェノール誘導体メタノール抽出液中に存在する未反応のフェノール誘導体(本実施例の場合p−クレゾール)もイオン交換作用によって除去することが可能であった。強塩基性陰イオン交換樹脂の処理前後でのリグノフェノール誘導体メタノール抽出液の分子量分布の比較を図5に示す。分子量分布は、メタノール溶液中のメタノールを乾燥除去し、固形分を回収した後、THF(テトラヒドロフラン)で溶解してGPCにて測定したものである。低分子域のp−クレゾールのピーク(40min付近)が強塩基性陰イオン交換樹脂処理により除去されており、本実施例による処理が未反応の余剰フェノール誘導体(本実施例の場合p−クレゾール)の除去にも有効であったことが分かる。
【0058】
実施例7
イオン交換樹脂による脱酸処理を行ったリグノフェノール誘導体アセトン抽出液中には、未反応のフェノール誘導体や低分子領域のリグノフェノール誘導体等の不純物が含有されているため、利用用途によっては、これら不純物を除去し、リグノフェノール誘導体を精製する必要がある。上記の不純物は、分子量が1,000以下であるため、リグノフェノール誘導体アセトン抽出液からこれらを除去する方法として、限外濾過膜による分子量分画性能を利用して、低分子領域に存在する未反応のフェノール誘導体や低分子領域のリグノフェノール誘導体等の不純物をリグノフェノール誘導体アセトン抽出液中から分離・除去した。アセトン抽出液を使用するため、適用する限外濾過膜は、耐溶剤性のある膜を選定した。また、使用した限外濾過膜の分画分子量は700であり、前述の不純物を分離・除去する膜としては適当であった。
【0059】
実施例4において、陰イオン交換樹脂による脱酸処理を行ったリグノフェノール誘導体アセトン抽出液300mLを、限外濾過膜の平膜試験器に投入し、密閉した後、同試験器内に窒素ガスを導入し、3MPaの加圧条件下で限外濾過膜処理を行った。限外濾過膜処理では、低分子量の不純物を含むアセトンが膜を透過し、アセトン抽出液中の分子量700以上のリグノフェノール誘導体は膜を透過せずに、膜上部でアセトン液中に濃縮された形で回収される。本実施例の限外濾過膜処理では、処理前のリグノフェノール誘導体アセトン抽出液300mLに対し、2倍濃縮量である150mLの濃縮液を回収した。この濃縮液にアセトン150mLを投入して2倍に希釈した後、再度限外濾過膜処理を行う操作を9回繰り返すことで、アセトン抽出液中の低分子域の不純物の除去性能を向上させるとともに不純物を含有しない精製されたリグノフェノール誘導体アセトン溶液として回収した。
【0060】
回収したリグノフェノール誘導体アセトン溶液と限外濾過膜処理前のアセトン抽出液中の分子量分布の比較を図6に示す。分子量分布は、アセトン溶液中のアセトンを乾燥させ固形分を回収した後、THF(テトラヒドロフラン)で溶解させてGPCにて測定したものである。低分子域の不純物のピークが膜処理により除去されており、本実施例による処理によって、リグノフェノール誘導体の良好な精製が可能であったことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の好ましい態様において行うことのできる限外濾過の繰り返し処理の概念を示す図である。
【図2】本発明の他の好ましい態様において行うことのできる限外濾過膜のカスケード的使用の概念を示す図である。
【図3】本発明の他の好ましい態様において行うことのできる限外濾過の繰り返し処理の概念を示す図である。
【図4】国際特許出願PCT/JP2004/016222号に記載されているリグノフェノール誘導体の製造プロセスの全体の概要を示すフロー図である。
【図5】実施例6で測定した強塩基性陰イオン交換樹脂の処理前後でのリグノフェノール誘導体メタノール抽出液の分子量分布を示すグラフである。
【図6】実施例7で測定した限外濾過膜による処理前後でのリグノフェノール誘導体アセトン抽出液の分子量分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離にかけることによって回収される粗リグノフェノール誘導体を精製する方法であって、粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒で粗リグノフェノール誘導体を抽出し、抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることを特徴とする方法。
【請求項2】
粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒として、アセトン、メタノール、エチレングリコール又はケトン類を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
陰イオン交換樹脂として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
陰イオン交換樹脂を接触させることによって処理された抽出液を、更に、限外濾過膜によって濾過処理する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
陰イオン交換樹脂を接触させることによって処理された抽出液を、分画分子量が500〜1,000の限外濾過膜で濾過処理することによって、リグノフェノール誘導体を精製回収する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
陰イオン交換樹脂を接触させることによって処理された抽出液を、分画分子量が20,000〜50,000の限外濾過膜で濾過処理し、得られた透過液を次に分画分子量が500〜1,000の限外濾過膜で濾過処理することによって、リグノフェノール誘導体を濃縮液側として回収する請求項4に記載の方法。
【請求項7】
限外濾過膜による濾過処理によって、分子量が1,000〜50,000のリグノフェノール誘導体を精製回収する請求項4〜6のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−70437(P2007−70437A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257740(P2005−257740)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(395018778)機能性木質新素材技術研究組合 (17)
【Fターム(参考)】