説明

リチウム−二硫化鉄電気化学セルからの不純物の除去

リチウム電気化学セル及びそれを製造する方法を開示する。セルは、他の構成要素によってセルに取り込まれた不純物を除去するように特別に選択されたキレート剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイライトのようなバッテリのための電気化学活物質から溶解性不純物を除去する電解質溶液中のキレート剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
通例、あらゆるバッテリ内の電解質は、望ましい温度範囲にわたってセル放電要件を満たすのに十分な導電率を提供するように選択すべきである。Brousselyに付与された米国特許第4,129,691号明細書に示すように、リチウムバッテリ電解質中の溶質(すなわち、塩)濃度の増大は、その電解質の導電性及び有用性において対応する増大をもたらすことが予想され(少なくともある一定の点までは)、より高い導電性は望ましい属性と見なされる。しかし、特定の溶媒中の溶質の溶解度、リチウムベース電極上の適切な不動態化層の形成、及び/又はセル内の電気化学活物質又は他の材料と溶媒との適合性のような他の制限が、適切な電解質システムの選択を困難にする。制限されない例として、Bakosに付与された米国特許第4,804,595号明細書は、ある一定のエーテルがプロピレンカーボネートのような溶媒にいかに混合できないかを説明している。付加的な電解質の欠陥及び非適合性は、特に、それらがLiFeS2セル、並びに多くの液体、溶媒、及び一般的なポリマー密封材料とのリチウムの反応性に関連する時に、当業技術において公知であり文書化されている。
【0003】
エーテルは、それらの概略低粘性、良好な濡れ性、良好な低温放電性能、及び良好な高率放電特性のために、それらの極性が一部の他の一般溶媒に比べて相対的に低くてもリチウムバッテリ電解質溶媒として好ましい場合が多い。エーテルは、パイライトを用いるセルにおいて特に有用であり、これは、このセルが、電極表面の劣化又は溶媒との好ましくない反応(例えば、重合)が発生する場合があるエーテル内でのより高電圧のカソード材料と比較してより安定な傾向であるためである。LiFeS2セルに使用されてきたエーテルには、全てがWebberに付与された米国特許第5,514,491号明細書又は第6,218,054号明細書又は欧州特許第0 529 802 B1号明細書に教示されたように、1,2−ジメトキシエタン(DME)及び1,3−ジオキソラン(DIOX)がある。エーテルは、Gorkovenkoに付与された米国特許第7,316,867号明細書(DIOX及び5−6炭素の1,3−ジアルコキシアルカンの使用)、Marple他に付与された第4,952,330号明細書(設定された比率のDMEのような直鎖エーテル、DIOXのような環状エーテル、及びプロピレンカーボネートのようなアルキレンカーボネートの使用)、Kronenbergに付与された第3,996,069号明細書(3−メチル−2−オキサドリドンとDIOX及び/又はDMEとの使用)、並びにJiangの米国特許出願公開第200803182123号明細書(DIOX及び例えばTHFであるフランベースの溶媒の使用)、及びBowdenの第20080026296号明細書(スルホラン及びDMEの使用)によって提案されているような様々な溶媒配合物にも使用されている。
【0004】
Weberに付与された米国特許第5,229,227号明細書(ジグライムのような他のポリアルキレングリコールエーテルを伴う3−メチル−2−オキサゾリドンの使用)に開示されたようなDIOX又はDMEを具体的に含有していない他の溶媒も可能である場合がある。しかし、溶媒間の相互作用、並びにそれらの溶媒に対する溶質及び/又は電極材料の潜在的影響のために、機能する電気化学セル内の提案された配合物の実際の試験なしに、このセルの理想的な電解質溶媒配合物及び得られる放電性能を予測することは、多くの場合に困難である。
【0005】
適切な導電性を提供するために、様々な電解質溶質がリチウムベースセルに使用されてきており、ヨウ化リチウム(LiI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3又は「トリフラート」)、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CF3SO22N又は「イミド」)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロ砒酸リチウム(LiAsF6)などが挙げられる。リチウムトリフラートを含有する電解質は、セルのかなり良好な電気的特性及び放電特性を提供することができるが、この電解質は比較的低い導電率を有し、リチウムトリフラートは比較的高価である。Webberに付与された米国特許第5,514,491号明細書で説明しているように、コストの低減とセル電気性能の改善との両方のために、ヨウ化リチウム(LiI)がリチウムトリフラートの代替として使用されている。「Energizer Holdinds Inc.」によって販売されている1つの特定の銘柄のAA−サイズのFR06バッテリは、DIOX及びDMEを含有する溶媒混合物中に約0.75モル濃度のLiIを有する非水電解質を現在含んでいる。溶質及び溶質の組合せの更に他の例は、Issaevに付与された米国特許第7,479,348号明細書(LiBF4を含む混合塩の使用)、並びにIssaevの米国特許出願公開第20080088278号明細書(LiPF6の使用)及びBowdenの米国特許出願公開第20080088278号明細書(トリフラート及びイミドを含む混合塩の使用)に見出すことができる。
【0006】
セルのある一定の態様及び/又はその性能を改善するために、添加物を電解質内に使用することができる。例えば、Bolsterに付与された米国特許第5,691,083号明細書は、FeS2、MnO2、又はTiS2を含むカソード材料を有するセルにおける望ましい開路電圧を達成するための非常に低濃度のカリウム塩の使用を説明している。Jiangの米国特許出願公開第20080026290号明細書は、リチウム電極の表面上の不動態化被膜の成長を遅らせるためのアルミニウム添加物の使用を開示している。Jiangの米国特許出願公開第20080026290号明細書及びIssaevの米国特許出願公開第20080026290号明細書は、リチウム二硫化鉄セルの放電性能を改善することを意図した他のヨウ素又はヨウ化物含有添加剤の使用を開示している。これらの例の各々において、選択された添加物の利点は、あらゆる有害な反応又は影響(バッテリの放電特性、安全性、及び寿命に関する)に対して均衡が取られるべきである。
【0007】
溶質のより高い濃度は、電解質の導電性を高めると一般的に考えられるが、ただし、溶液の粘性のようなある一定の変数に基づくこの効果に対する限界が最後に存在することが理解される(すなわち、導電性は、溶質濃度が生成溶液の粘性を過大にするまではこの濃度と共に高まるが、粘性が過大となった濃度で導電性は大きく低下する)。更に、ある一定のシステム(一般的に、非カルコゲンポリスルフィドが好ましいカソード材料である充電式リチウム−硫黄バッテリシステムにおける)は、電極自体の一部分が電解質溶液中に溶解してイオン導電性を提供する「カソライト」を利用し、それによって塩の濃度は、バッテリの充電の状態に関するインジケータである。こうしたシステムにおいては、Mikhaylikに付与された米国特許第7,189,477号明細書によって教示しているように、存在しないまでの最小限のリチウムイオン濃度を完全に充電されたセルに性能を低下させることなく提供することができる。最後に、LiFeS2及び他のリチウム電気化学セルは、電解質中に殆ど一定の塩含量を維持し、電極から電解質にイオンを提供するこの性向を示さない。従って、カソライトシステムは、これに対してはLiFeS2システムへの関連性を有さず、かつより一般的には、所定の電気化学システムからの教示を別の異種のシステムに盲目的に適用することに関連する落とし穴が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,129,691号明細書
【特許文献2】米国特許第4,804,595号明細書
【特許文献3】米国特許第5,514,491号明細書
【特許文献4】米国特許第6,218,054号明細書
【特許文献5】欧州特許第0 529 802 B1号明細書
【特許文献6】米国特許第7,316,867号明細書
【特許文献7】米国特許第4,952,330号明細書
【特許文献8】米国特許第3,996,069号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第200803182123号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第20080026296号明細書
【特許文献11】米国特許第5,229,227号明細書
【特許文献12】米国特許第7,479,348号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第20080088278号明細書
【特許文献14】米国特許第5,691,083号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第20080026290号明細書
【特許文献16】米国特許第7,189,477号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第20090162754号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第20050244706号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第20060046152号明細書
【特許文献20】米国特許出願公開第20060046153号明細書
【特許文献21】米国特許出願公開第20090061293号明細書
【特許文献22】米国特許出願公開第20080226982号明細書
【特許文献23】米国特許出願公開第20070275298号明細書
【特許文献24】米国特許出願公開第20080254343号明細書
【特許文献25】米国特許出願公開第20080026288号明細書
【特許文献26】米国特許第5,290,414号明細書
【特許文献27】米国特許出願公開第20050112462号明細書
【特許文献28】米国特許出願公開第20080026293号明細書
【特許文献29】米国特許出願公開第20090104520号明細書
【特許文献30】米国特許出願公開第20050233214号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気化学セルにおける1つの特に困難な問題、かつリチウム二硫化鉄セル(そのカソードは鉱物等級のパイライトから製造され、これは、多くの場合5重量%程度の酸化珪素、金属、及び他の好ましくない及び/又は電気化学的に不活性の鉱物/材料のような不活物質を有する)においてより著しく困難な問題は、溶質、溶媒、電解質添加剤、及び/又は電気化学活物質自体における低レベルのそのような不純物であっても、セルの電解質中に溶解する場合があるという事実である。溶解した状態で、これらの不純物は、Cottonの米国特許出願公開第20090162754号明細書などに説明されて当業技術で公知の「ソフトショート」と呼ぶ現象を引き起こし、又はそれを助ける可能性があり、その場合に望ましくないデンドライト成長が電極間に形成される。リチウム二硫化鉄セルにおいて、これらのデンドライト成長は、電極への鍍金作用によって形成されると考えられ、最後にはセパレータを貫通する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
バッテリ内の溶媒、溶質、及び電気化学活物質に対して非反応性、かつ任意的に電解質に溶解性とすることができるキレート添加剤が考えられている。このキレート添加剤は、十分な安定性の配位錯体内に亜鉛のような金属イオンを封鎖し、電極の表面上のイオン化鍍金を防止することになる。エーテル溶媒に溶解するポリマー性又は非ポリマー性の有機キレート剤が好ましい。より詳細には、DIOXとDMEとの混合物に可溶であり、亜鉛及び第1鉄イオンに結合するキレート剤が好ましい。ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)及びジフェニルチオカルバゾン、並びにそれらの様々な誘導体が、そのようなキレート剤の具体的かつ非限定的な例である。
【0011】
好ましくは、一実施形態におけるセルは、リチウム又は1%未満のアルミニウムを含むリチウムのようなリチウム合金で製造されたアノードを有する。カソードは、集電体上に被覆された二硫化鉄を含むが、リチウムに対して2.8V未満又はそれに等しい最大電位を有するあらゆる材料を考慮することができる。セパレータが、2つの電極の間に配置される。好ましくは、セパレータは、12から25ミクロンの厚みを有するポリマーセパレータである。電極及びセパレータは、螺旋状に巻かれてジェリーロール電極アセンブリとすることができる。
【0012】
一実施形態では、電解質は、1,3−ジオキソランと、1,2−ジメトキシエタン又はジグライムのような少なくとも1つの非環式エーテルとを含む溶媒配合物に溶解されたヨウ化リチウムを含む。3,5−ジメチルイソオキサゾールのような付加的かつ任意的な共溶媒を使用することができる。電解質内のジオキソランの好ましい量は、60から70体積パーセントである。イミド及び/又はトリフラートのような他の溶質は、ヨウ化物に加えるか又はそれに替えて使用することができる。スルホラン及びテトラヒドロフランのような他の溶媒は、DIOX及び/又はDMEに替えて又はそれに加えて使用することができる。
【0013】
電気化学セルを製造する方法及び/又は電気化学セルの電気化学活物質から溶解性不純物を除去する方法も考えられている。亜鉛、第2鉄、及び第1鉄イオンの少なくとも1つを封鎖することができるキレート剤が識別される。キレート剤の適合性が、選択された電解質配合物(すなわち、溶媒及び溶質)に対して確認される。次に、電極アセンブリが、セル容器に提供され、キレート剤と電解質配合物が、個別又は一緒のいずれかで容器に提供される。代替的に、キレート剤は、所定の不純物に触れる可能性があるセルのあらゆる他の構成要素に提供され、結合され、又は塗付することができる。上述の実施形態において識別された材料のいずれかをこれらの方法に従って使用することができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、アノードと、リチウムに対する2.8ボルトより低い最大電位と1.5ボルト又はそれ未満の公称作動電圧とを有する活物質を含むカソードと、セル内部に存在する少なくとも1つの金属イオン不純物を封鎖することができるキレート剤を含む液体電解質とを含む電気化学セルが考えられている。更に別の実施形態は、下記の特徴のいずれか1つ又は組合せを含む。
・少なくとも1つの金属イオン不純物がキレート剤によって封鎖された後もキレート剤は液体電解質内に可溶のままであり、
・キレート剤が、ポリキレートゲンを含み、
・キレート剤が:ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)の誘導体、ジフェニルチオカルバゾン、ジフェニルチオカルバゾンの誘導体、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)、ポリ(n−ブチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチレン/アクリル酸)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、エチレンジアミン四酢酸、ジフェニルチオカルバゾン、フェノチアジン、及びカルボキシメチルセルロースから構成される群から選択され、
・金属イオン不純物が、亜鉛イオン、第2鉄イオン、第1鉄イオン、及び銅イオンから構成される群から選択され、かつ
・アノードが、基本的にリチウム又はリチウム合金から構成され、カソードが二硫化鉄を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるLiFeS2バッテリの断面図である。
【図2A】様々な種類のポリマー金属錯体の一般構造のカルボキシル型を示す図である。
【図2B】様々な種類のポリマー金属錯体の一般構造のアクリルアミド型を示す図である。
【図2C】様々な種類のポリマー金属錯体の一般構造のマレイルグリシン型を示す図である。
【図2D】様々な種類のポリマー金属錯体の一般構造のアミン型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用される時の下記の用語は、本発明の開示全体を通じて以下のように定められて使用される。
【0017】
周囲温度(又は室温)−約20℃から約25℃、別途明記されない限り、情報は周囲温度で提供される。
【0018】
アノード−負極、より具体的には、本発明の意義の範囲では、純リチウム又は99重量%よりも大きいリチウムを有するリチウム合金のような電気化学反応中に酸化することができる電気化学活物質を含み、それによって外部回路に電子を提供し、この電気化学活物質は、金属集電体の上に被覆することができ、1つ又はそれよりも多くの流動性のポリマー性及び/又は導電性添加物と混合することができる。
【0019】
カソード−正極、より具体的には、リチウム二硫化鉄セルにおいて、金属集電体基材の両側に少なくとも部分的に被覆された1次電気化的活物質(例えば、50%よりも大きく、より好ましくは80%から95%よりも大きく、最も好ましくは100%)としての二硫化鉄(及び/又はそのドープト誘導体)と、任意的に流動性のポリマー性及び/又は導電性添加物とを含むカソード混合物から基本的に構成され、この定義は、ペレットの形態にあるカソードを本質的に排除している。
【0020】
セルハウジング−完全に機能するバッテリを構成する電気化学活物質と、安全デバイスと、他の不活性成分とを物理的に包み込む構造体であって、容器(カップの形状に形成され、「缶」とも称される)と閉鎖部(容器の開口部に取り付けられ、電解質の流出及び水分/大気の流入を阻止するための排気及び密封機構から構成される)とから典型的に構成される。
【0021】
DIOX−ジオキソランベースの溶媒、典型的に1,3−ジオキソラン。
【0022】
DME−ジメトキシエタンベースの溶媒、典型的に1,2ジメトキシエタン。
【0023】
電解質−1つ又はそれよりも多くの液状の有機溶媒中に溶解された1つ又はそれよりも多くの溶質、この定義は、高温バッテリに使用される「溶融塩」(イオン液体とも称される)を包含しない
【0024】
ジェリーロール(又は螺旋巻)電極アセンブリ−アノード及びカソードのストリップが、適切なポリマーセパレータと共にそれらの長さ又は幅に沿った例えばマンドレル又は中心コアの周りの巻き付けによって結合されてアセンブリとされたもの。
【0025】
公称−その特性又は性能に対して予想することができるものを表す製造業者によって指定された値。
【0026】
塩−電解質の一部としてのイオン性化合物であり、リチウム又は周期表の1族及び2族からの1つ又はそれよりも多くの金属を典型的に含み、1つ又はそれよりも多くの液状有機溶媒に溶解される。
【0027】
本発明は、実施することができる特定のセル設計を示す図1を参照してより良く理解することができる。セル10は、好ましくはFR6型円筒形LiFeS2バッテリセルであるが、本発明は、他のサイズ(例えば、FR03)又は本明細書で考えられた種類の非水性電解質を必要とする他のセル化学反応に同等な適用性を有するはずである。そこで、好ましい実施形態は、1.5ボルトの公称作動電圧を有するセルを含む。セル10は、密封底部とセルカバー14及びガスケット16で密封される開放上端とを有する缶12の形態での容器を含むハウジングを有する。缶12は、ガスケット16及びカバー14を支持するために上端付近のビード又は縮小直径ステップを有する。ガスケット16は、缶12とカバー14の間に圧縮され、アノード又は負極18、カソード又は正極20及び電解質がセル10内部に密封される。
【0028】
アノード18、カソード20、及びセパレータ26は、電極アセンブリ内に一緒に螺旋状に巻かれる。カソード20は、電極アセンブリの上端から延びて接触バネ24を用いてカバー14の内面に接続される金属集電体22を有する。代替的に、集電体22は、カバー14又はバネ24にリードを通じて溶接することができ、集電体自体は、カソード20上又はその中に一体的に形成することができる。アノード18は、金属リード(又はタブ)36によって缶12の内面に電気的に接続される。リード36はアノード18に固定され、電極アセンブリの底部から延び、この底部にわたって折り畳まれ、かつ電極アセンブリの側面に沿って上昇する。リード36は、缶12の側壁の内面に加圧接触する。電極アセンブリが巻かれた後、これは、製造工程内のツーリングによって挿入前に一緒に保持することができ、又は材料(例えば、セパレータ又はポリマーフィルム外側ラップ38)の外端は、例えば、ヒートシール、接着、又はテーピングによって留めることができる。代替的に、リードは、アノード上のその配置に対して位置を変えることができ(ジェリーロールの底部の周りでリードを折り畳む必要性を排除するため)、端子カバー40と接触して溶接され及び/又は取付けることができる。
【0029】
電極アセンブリの側部と缶の側壁の間に配置された電極リード36の端子部分は、缶の側壁との電気的接触を容易にし、缶側壁の方向にリードを付勢するためにバネ様の力を提供する好ましくは非平面の缶内への電極アセンブリの挿入よりも前の形状を有することができる。セル製造中に、リードの成形された端子部分は、例えば、電極アセンブリの側部の方向に変形することができ、缶内へのその挿入が容易にされ、それに続いてリードの端子部分はその初期の非平面形状の方向に部分的にはね返るが、少なくとも部分的に圧縮されたままとなって缶の側壁の内面に力が印加され、それによって缶との良好な物理的及び電気的接触が行われる。
【0030】
絶縁コーン46が電極アセンブリの上部の周囲部分の周りに設けられてカソード集電体22の缶12への接触が防止され、カソード20の底縁と缶12の底部との接触は、内側に折り畳まれたセパレータ26の延長部と缶12の底部に配置された電気絶縁性底部ディスク44とによって防止される。代替的に、缶12は正の極性を有することができ、それによってカソード又はカソード集電体と缶自体の間の直接接触が可能とされる。
【0031】
セル10は、分離した正端子カバー40を有し、これは、缶12の内側にクリンプした上縁とガスケット16とによって所定の位置に保持され、1つ又はそれよりも多くのベント開口(図示せず)を有する。缶12は、負接触端子として機能する。接着ラベル48のような絶縁性ジャケットを缶12の側壁に付加することができる。
【0032】
端子カバー40の周囲フランジとセルカバー14の間には、不正な電気状態の下で電流の流れを実質的に制限する正温度係数(PTC)デバイス42が配置される。セル10は、圧力除去ベントも含む。セルカバー14は、ウェル28の底部にベント孔30を有する内向き突出の中央ベントウェル28を含む開口を有する。開口は、ベントボール32と、ベントウェル28の垂直壁とベントボール32の周囲の間に圧縮される薄壁熱可塑性ブッシング34とによって密封される。セル内部圧力が所定のレベルよりも大きい時に、ベントボール32、又はベントボール32及びブッシング34の両方が開口から押し出され、セル10から加圧ガスを放出する。別の実施形態では、圧力除去ベントは、米国特許出願公開第20050244706号明細書に開示するような破裂メンブランによって閉じられた開口とすることができ、又は引き裂き又は他の方法で破断することができ、密封プレート又は容器壁のようなセルの一部分内にベント開口を形成する鋳造溝のような比較的薄い区域とすることができる。
【0033】
電解質
汚染物質として非常に少量(例えば、使用された電解質塩の重量基準で約500ppmよりも多くない)のみの水を含有する非水電解質が、製造中にセル内に配置される。電解質はLiFeS2セル内のイオン移動の主要媒体であるので、適切な溶質及び溶媒の組合せの選択は、セルの性能を最適化するのに重要である。更に、電解質のように選択された溶質と溶媒とは、製造及び得られたセルの使用目的での適切な混和性及び粘性を有し、一方でバッテリによって潜在的に受け取る温度の全体範囲(すなわち、−40℃から60℃)にわたって適切な放電性能を更に送出しなければならない。更に、電解質は、特に、本発明によって考えられるキレート添加剤を考慮して、非反応性又は不揮発性(又は従来型のポリマーの閉鎖及び密封機構によって実用的に保持されるのに十分低い沸点を少なくとも有する)でなければならない。
【0034】
溶媒及び電解質の混和性及び粘性は、バッテリの製造及び作動の態様に対して重要である。配合物に使用される全ての溶媒は、均質な溶液を保証するように混和可能でなくてはならない。同様に、大量生産の要求に適切であるために、溶媒は迅速に流れ、かつ分配されるのに十分低い粘性を有するべきである。
【0035】
加えて、溶媒及び電解質は、バッテリが恐らく露出されかつ保管されると考えられる温度範囲(すなわち、−40℃から60℃)に適切な沸点を有するべきである。より具体的には、溶媒は、この示された温度範囲でのバッテリの安全な貯蔵及び作動を可能にするように十分に不揮発性でなければならない。同様に、溶媒及び電解質は、電極を劣化させ又は放電でのバッテリの性能に悪影響を及ぼすように電極材料と反応してはならない。
【0036】
LiFeS2セルに使用された又は使用される可能な適切な有機溶媒は、以下もの、すなわち、1,3ジオキソラン;1,3ジオキソラン−ベースのエーテル(例えば、2−メチル−1,3−ジオキソラン又は4−メチル−1,3−ジオキソランなどのようなアルキル−及びアルコキシ−置換DIOX);1,2−ジメトキシエタン;1,2−ジメトキシエタン−ベースのエーテル(例えば、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、エチルグライムなど);エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;1,2−ブチレンカーボネート;2,3−ブチレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ギ酸メチル;γ−ブチロラクトン;スルホラン;アセトニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド;N,N−ジメチルプロピレン尿素;1,1,3,3−テトラメチル尿素;β−アミノエノン;β−アミノケトン;メチルテトラヒドロフルフリルエーテル;ジエチルエーテル;テトラヒドロフラン(THF);2−メチルテトラヒドロフラン;2−メトキシテトラヒドロフラン;2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン;3,5−ジメチルイソキサゾール(DMI);1,2−ジメトキシプロパン(DMP);及び1,2−ジメトキシプロパン−ベースの化合物(例えば、置換DMPなど)のうちの1つ又はそれよりも多くを含む。
【0037】
塩は、選択された溶媒にほぼ又は完全に可溶でなければならず、かつ上述の溶媒の説明と同様に、あらゆる劣化又は悪影響があってはならない。LiFeS2セルに使用される代表的な塩の例としては、LiI(ヨウ化リチウム)、LiCF3SO3(リチウムトリフラート)、LiClO4(過塩素酸リチウム)、Li(CF3SO22N(「リチウムイミド」)、Li(CF3CF2SO22N、LiBF4、及びLi(CF3SO23Cが挙げられる。他の可能な候補は、リチウムビス(オキサラト)ボラート、臭化リチウム、ヘキサフルオロ燐酸リチウム、ヘキサフルオロ砒酸カリウム、及びヘキサフルオロ砒酸リチウムである。塩選択の2つの重要な態様は、それらがハウジング、電極、密封材料、又は溶媒と反応しないこと、及びバッテリが露出されると考えられる典型的に予期される条件(例えば、温度、電気的負荷など)の下でそれらが劣化又は電解質から沈殿しないことである。
【0038】
性能のある一定の態様を最大に引き出すために、1つよりも多い溶質を用いることができる。関連した米国特許出願公開第20060046154号明細書に説明されているように、改善した低温放電特性を提供するためにヨウ化リチウム及びリチウムトリフラート塩が組み合わせて使用される。LiFeS2円筒形セルに適切な電解質配合物(すなわち、塩と溶媒との組合せ)の更に別の例は、米国特許出願公開第20060046152号明細書、第20060046153号明細書、第20090061293号明細書に又は上述の電解質溶媒、溶質、及び添加剤の文献のいずれかに見出すことができる。
【0039】
明白にそうでないと言及されない限り、本明細書に説明する時の溶媒に対する溶質の濃度は、溶液のキログラム当たりの溶質のモル数(重量モル濃度)として最も良好に表現される。溶液の重量モル濃度は、温度及び圧力のような物理条件に関係なく一定に保たれ、それに対していくつかの溶媒の容積は典型的には温度と共に増大し、従って、容積モル濃度(すなわち、リットル当たりのモル数)における低下がもたらされる。溶質の濃度の増大は、より高レートでの性能を改善することができ、濃度の低下は低温作動中での利点を引き起こすことができる。
【0040】
他のセル構成要素
セル容器は、多くの場合に金属缶であり、図1での缶のように密封底部を有する。缶材料は、セル内に使用される活物質と電解質とにある程度依存することになる。一般的な材料の種類は鋼である。例えば、缶は鋼で製造され、缶の外側を腐食から保護するために少なくとも外側がニッケルで鍍金される。鍍金の種類は、様々な程度の耐食性を提供し又は望ましい外観を提供するように変えることができる。鋼の種類は、容器が形成される方式にある程度依存することになる。絞り缶のためには、拡散焼鈍された低炭素のアルミニウムキルドSAE 1006又は同等の鋼とすることができ、ASTM9から11の粒径及び等軸から僅かに細長い粒形を有する。ステンレス鋼のような他の鋼は、特別な要求を満たすために使用することができる。例えば、缶がカソードと電気的に接触している場合には、ステンレス鋼は、カソード及び電解質による腐食に対する改善した耐性のために使用することができる。
【0041】
セルカバーは、金属とすることができる。ニッケル鍍金鋼を使用することができるが、特に、カバーがカソードに電気的に接触している時は、ステンレス鋼が多くの場合に望ましい。カバー形状の複雑さも材料選択におけるファクタであることになる。セルカバーは、厚い平坦円板のような単純な形状を有することができ、又はこれは、図1に示すカバーのようなより複雑な形状を有することができる。カバーが図1におけるものと類似した複雑な形状を有する時に、ASTM8−9粒径を有する304型軟焼鈍ステンレス鋼を使用することができ、望ましい耐食性及び金属成形の容易さを提供する。成形されたカバーは、例えば、ニッケルで鍍金することができる。
【0042】
端子カバーは、周囲環境内の水による腐食に対する良好な耐性、良好な導電性、及び消費者向けバッテリ上で見る時の見栄えのする外観を有するべきである。端子カバーは、多くの場合、ニッケル鍍金された冷間圧延鋼から製造され、又はカバーが成形された後にニッケル鍍金される鋼から製造される。端子が圧力除去ベントの上に設けられる時に、端子カバーは、セルの排気を容易にするために1つ又はそれよりも多くの孔を一般的に有する。
【0043】
ガスケットは、望ましい密封特性を提供するあらゆる適切な熱可塑性材料で製造される。材料選択は、電解質組成にある程度依存する。適切な材料の例としては、ポリフタルアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、テトラフルオリド−パーフルオロアルキルビニルエーテル・コポリマー、ポリブチレンテレフタレート、及びその組合せが挙げられる。好ましいガスケット材料としては、ポリプロピレン(例えば、米国デラウェア州ウィルミントン所在の「Basell Polyolefins」が提供するPRO−FAX(登録商標)等級)及びポリフタルアミド(例えば、テキサス州ヒューストン所在の「Solvay Advanced Polymers」が提供するAMODEL(登録商標)等級)が挙げられる。少量の他のポリマー、強化のための無機充填剤、及び/又は有機化合物もガスケットの主レジンに添加することができる。
【0044】
ガスケットは、最良の密封を提供するためにシーラントで被覆することができる。エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)が適切なシーラント材料であるが、他の適切な材料を使用することもできる。
【0045】
ボールベントが使用される時に、ベントブッシングは、高温での(例えば、75℃)コールドフローに抵抗性のある熱可塑性材料で製造される。熱可塑性材料は、エチレン−テトラフルオロエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、エチレン−クロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ−アルコキシアルカン、フッ素化パーフルオロエチレン・ポリプロピレン、及びポリエーテルエーテルケトンのような主レジンを含む。エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。レジンは、高温での望ましい密封及び排気特性を有するベントブッシングを提供するために熱安定化充填剤の添加によって改質することができる。ブッシングは、熱可塑性材料から注入形成することができる。細断ガラス充填剤を含むFTFEレジンのTEFZEL(登録商標)等級及び米国テキサス州ザ・ウッドランズ所在の「Chevron Phillips」が提供するポリフェニリンスルフィド(例えば、XTEL(登録商標)等級)が、好ましい熱可塑性ブッシング材料である。
【0046】
あらゆるポリマー又は金属構成要素は、それらが電解質で腐食しない又は電解質と反応しないことを保証するためにその電解質を用いて試験すべきである。米国特許出願公開第20080226982号明細書に開示されているように、ポリマー及び電解質の適切な選択に基づく更に別の利点が有効になる場合がある。
【0047】
ベントボール自体は、セル内容物と接触して安定であって望ましい密封及び排気特性を提供するあらゆる適切な材料で製造することができる。ガラス又はステンレス鋼のような金属を使用することができる。上述のベントボールアセンブリに代えてホイルベントが利用される場合は(例えば、米国特許出願公開第20050244706号明細書に従って)、上記で参照した材料で依然として適切に代用することができる。
【0048】
電極
アノードは、リチウム金属のストリップを含み、リチウムホイルとも称される。リチウムの組成は変えることができるが、バッテリ等級のリチウムに対しては、純度は常に高い。リチウムは、望ましいセルの電気性能又は取扱いの容易さを提供するために、アルミニウムのような他の金属との合金とすることができるが、それにも関わらずあらゆる合金内のリチウムの量は最大化すべきであり、高温適用(すなわち、純リチウムの融点よりも大きい)のように設計された合金は考えられていない。適切なバッテリ等級のリチウム−アルミニウムホイルは、0.5重量パーセントのアルミニウムを含有し、米国ノースカロライナ州キングスマウンテン所在の「Chemetall Foote Corp.」から市販されている。
【0049】
共アノード、合金材料、又は個別の単一電極のいずれかとしてナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、及びアルミニウムを含む他のアノード材料が可能性を有する。結局、適切なアノード材料の選択は、そのアノードと、選択された電解質溶媒及び塩(例えば、LiI)、カソード、及び/又はエーテルとの適合性に依存することになる。リチウムは、その優れた電気化学的性質のために好ましい。
【0050】
図1のセルにおけるように、リチウムは、高い導電率を有するので、個別の集電体(すなわち、その上にアノードが溶接又は被覆される金属ホイル又はアノードの長さに沿って延びる導電性ストリップのような導電性部材)は、アノードに対して必要ではない。そのような集電体を用いないことにより、より多くの空間が容器内で活物質のような他の構成要素のために利用可能である。アノード集電体は、銅及び/又はそれらがセルの他の内部構成要素(例えば、電解質)に露出された時に安定である限り、他の高導電性金属で製造することができる。
【0051】
電極の各々とハウジングに近接し又はこれと一体化した反対端子との間には電気接続が維持されるべきである。電気リード36は、セル端子のうちの1つへのアノード又は負極を接続する薄い金属ストリップで製造することができる(図1に示されているFR6の場合における缶)。アノードがこうしたリードを含む時に、それは、実質的にジェリーロール電極アセンブリの縦軸に沿って配向され、かつアノードの幅に沿って部分的に延びる。これは、リードの端部をアノードの一部分内に埋め込むか又はリードの端部のような一部分をリチウムホイルの表面上に単にプレスすることによって達成される。リチウム又はリチウム合金は粘着性を有し、リードと電極の間の一般的に少なくとも僅かで十分な圧力又は接触が構成要素を一緒に溶接することになる。負極は、ジェリーロール構造に巻かれる前にリードを提供することができる。リードは、適切な溶接によって接続することができる。
【0052】
リード36を含む金属ストリップは、リードを通過して流れる電流の十分な伝達を可能にし、セルの耐用期間への影響が極めて少ないか又はないようにするために、十分に低い抵抗率を有するニッケル又はニッケル鍍金鋼で多くの場合に製造され、15mΩ/cm未満及び好ましくは4.5mΩ/cm未満を有するリードが理想的である。好ましい材料は、304ステンレス鋼である。他の適切な負極リード材料の例としては、それらに制限されないが、銅、例えば、銅合金7025(約3%のニッケル、約0.65%のシリコン、及び0.15%のマグネシウムを含み、残りが銅及び少量の不純物である銅、ニッケル合金)、及び銅合金110である銅合金、及びステンレス鋼が挙げられる。材料は、この非水電解質が添加された後であってもセル内で安定した状態を保たなくてはならない。一般的に回避すべきであるが比較的少量の不純物として存在する可能な金属の例は、アルミニウム、鉄、及び亜鉛である。
【0053】
カソードは、集電体と1つ又はそれよりも多くの電気化学活物質を典型的に微粒子形態で含む混合物とを含むストリップの形態である。二硫化鉄が好ましい活物質であるが、本発明は、LiIに対して安定であり、かつ2.8V未満である対Li電位を有する大部分のカソード材料に適用することができ、それらには、CuO、CuO2、及びビスマスの全ての酸化物(例えば、Bi23など)が含まれる。MnO2は、LiIに比較して高すぎる電位を有し、かつMnO2は(大部分の2次カソード材料と同様に)1.5ボルトをかなり超える公称作動電圧を有するので、MnO2は特に不適切である。
【0054】
好ましくは、Li/FeS2セルカソードのための活物質は、少なくとも約95重量パーセントのFeS2を含み、かつFeS2が単独のカソード活物質であることが最も好ましい。少なくとも95重量パーセントの純度レベル(すなわち、「バッテリ等級」)を有するパイライトは、米国マサチューセッツ州ノースグラフトン所在の「Washington Mills」、オーストリア国ウィーン所在の「Chemical GmbH」、及び米国バージニア州ディルウィン所在の「Kyanite Mining Corp.」から市販されている。ここで注意すべきは、FeS2の「純度」のこの説明は、パイライトが特定の好ましい鉱物形態のパイライトであると認識していることである。しかし、パイライトは、多くの場合に低レベルの不純物(例えば、酸化珪素)を有し、かつFeS2のみがパイライト中で電気化学的に活性であるので、FeS2のパーセント純度への言及は、セルに提供される不純物を含むパイライトの全量に対して行うことができる。更に、パイライトは、見出された硫黄と鉄との化学量論的な量に関し、及び/又はある一定のドーパントの自然な又は意図的な導入(例えば、パイライトの構造内部に好ましくは統合された比較的少量の金属)に関して本質的に変動する場合がある。従って、パイライトとFeS2という両方の用語は、これらの自然な又は合成的な変動も総称的に網羅することが理解すべきであり、あらゆる解析的評価又は電気化学的計算/反応の目的に対して、電気化学活物質の全体をFeS2として扱うことが適切である。
【0055】
集電体は、カソード表面内に配置され、又はその中に組み込むことができ、又はカソード混合物を薄い金属ストリップの一面又は両面上に被覆することができる。アルミニウムが、通例使用される材料である。集電体は、カソード混合物を含むカソードの部分を超えて延びることができる。集電体のこの延長部分は、正端子に接続した電気リードに接触するための有利な領域を提供することができる。集電体の延長部分の容積を最小に保つことは、活物質及び電解質のために利用することができるセルの内部容積をそれに応じて大きくするのに望ましい。
【0056】
カソードは、セルの正端子に電気的に接続される。これは、多くの場合に図1に示すように薄い金属ストリップ又はバネの形態にある電気リードを用いて達成されるが、溶接接続も可能である。リードは、多くの場合、ニッケル鍍金されたステンレス鋼で製造される。他の接続は、米国特許出願公開第20070275298号明細書、第20080254343号明細書、及び第20080026288号明細書に開示されている。特に、セル設計がこれらの代替の電気接続/電流制限デバイスの1つを利用することができる範囲でPTCの使用を回避することができる。標準PTCのような任意的な電流制限デバイスが、セルの暴走放電/加熱を防止するための安全機構として利用される場合には、適切なPTCは、米国カリフォルニア州メンロパーク所在の「Tyco Electronics」によって販売されている。他の代替品を使用することもできる。
【0057】
セパレータ
セパレータは、イオン透過性で電気非導電性である薄い微孔性メンブランである。セパレータの微孔隙内部に少なくとも一部の電解質をセパレータが保持することができる。セパレータは、アノードとカソードとの隣接する表面の間に配置され、この電極を互いから電気的に分離する。セパレータの一部分は、内部短絡を防止するためにセル端子と電気的に接触する他の構成要素も絶縁することができる。セパレータの縁部は、多くの場合に、少なくとも1つの電極の縁部から延び、アノードとカソードが、それらが完全に互いに整列していなくても電気的に接触しないことを保証する。しかし、電極を超えて延びるセパレータの量を最小にすることが望ましい。
【0058】
良好な高電力放電性能を提供するために、セパレータは、米国特許第5,290,414号明細書に開示された特性(少なくとも0.005μmの最小寸法及び5μmよりも大きくない最大寸法の直径を有する微孔隙、30から70パーセントの範囲の空隙率、2から15オーム−cm2の面積比抵抗、及び2.5未満の屈曲度)を電解質との組合せで有することが望ましい。
【0059】
適切なセパレータ材料は、セル製造工程、並びにセル放電中にセパレータに加わる圧力に対して、内部短絡を引き起こす可能な裂け、割れ、孔、又は他の間隙の発現なしに持ちこたえるのに十分強くなければならない。セル内の全体のセパレータ容積をできるだけ小さくするために、セパレータはできるだけ薄くなければならず、好ましくは25μm未満の厚み、より好ましくは20μm又は16μmのような22μmよりも大きくない厚みである。好ましくは少なくとも800、より好ましくは少なくとも1000キログラム力/平方センチメートル(kgf/cm2)である高い引張応力が望ましい。FR6型セルに対しては、好ましい引張応力は、縦方向において少なくとも1500kgf/cm2、横方向において少なくとも1200kgf/cm2であり、FR03型セルに対しては、好ましい引張強度は、縦及び横方向においてそれぞれ1300及び1000kgf/cm2である。好ましくは、平均降伏電圧は、少なくとも2000ボルト、より好ましくは少なくとも2200ボルト、最も好ましくは2400ボルトであることになる。好ましい最大有効孔径は、0.08μmから0.40μm、より好ましくは0.20μmよりも大きくない。好ましくは、BET比表面積は、40m2/gよりも大きくなく、より好ましくは少なくとも15m2/g、最も好ましくは少なくとも25m2/gである。好ましくは、面積比抵抗は、4.3オーム−cm2よりも大きくなく、より好ましくは4.0オーム−cm2よりも大きくなく、最も好ましくは3.5オーム−cm2よりも大きくない。これらの特性は、米国特許出願公開第20050112462号明細書により詳細に説明されている。
【0060】
リチウムバッテリに使用されるセパレータメンブランは、多くの場合、ポリプロピレン、ポリエチレン、又は超高分子量ポリエチレンで製造され、ポリエチレンが好ましい。セパレータは、二軸配向微孔性メンブランの単層とすることができ、又は2つ又はそれよりも多くの層を直交方向における望ましい引張強度を提供するように一緒に張り合わせることができる。コストをできるだけ小さくするためには単層が好ましい。適切な微孔性セパレータは、「Tonen Chemical Corp.」、米国ニューヨーク州マセドニア所在の「EXXON Mobile Chemical Co.」、及び米国オレゴン州レバノン所在の「Entek Membranes」から市販されている。
【0061】
セル構成及び製造
アノード、カソード、及びセパレータストリップは、電極アセンブリ内で互いに結合される。電極アセンブリは、図1に示すような螺旋巻設計とすることができ、カソード、セパレータ、アノード、及びセパレータの交互のストリップをマンドレルの周りに巻くことによって製造され、巻き付けが終了した時にマンドレルは電極アセンブリから引き抜かれる。セパレータの少なくとも1つの層及び/又は電気絶縁フィルム(例えば、ポリプロピレン)の少なくとも1つの層が、電極アセンブリの周りに一般的に巻き付けられる。これは、いくつかの目的に役立ち、すなわち、これは、アセンブリが互いに保持されることを助け、かつアセンブリの幅又は直径を望ましい寸法に調節するために使用することができる。セパレータ又は他の外側フィルム層の最も外側の端部は、一片の接着テープを用いて又はヒートシールによって押さえることができる。図1に示すように、アノードを最も外側の電極とすることができ、又は米国特許出願公開第20080026293号明細書に開示されているように、カソードを最も外側の電極とすることができる。いずれの電極もセル容器と電気的に接触することができるが、最も外側の電極が、缶と電気的に接触することを意図されたものと同じ電極である時は、最も外側の電極と容器の側壁の間の内部短絡を回避することができる。
【0062】
セルは、あらゆる適切な処理を用いて閉鎖かつ密封することができる。この処理としては、以下に制限されるものではないが、クリンピング、リドローイング、コレッティング、及びその組合せが挙げられる。例えば、図1のセルに対しては、電極と誘電体コーンが挿入された後に、缶内にビードが形成され、ガスケット及びカバーアセンブリ(セルカバー、接触バネ、及びベントブッシング)が、缶の開放端内に置かれる。ガスケット及びカバーアセンブリがビードの方向に下方に押される時に、セルは、ビードで支持される。ビードの上の缶の上部の直径は、セグメント化コレットを用いて縮小され、ガスケット及びカバーアセンブリがセル内の所定の位置に保持される。ベントブッシング及びカバー内の開口を通過して電解質がセル内に分注された後に、ベントボールがブッシング内に挿入され、セルカバー内の開口が密封される。PTCデバイス及び端子カバーがセルカバーを覆ってセルの上に置かれ、缶の先端がクリンピングダイを用いて内側に曲げられ、ガスケット、カバーアセンブリ、PTCデバイス、及び端子カバーが維持かつ保持され、ガスケットによる缶の開放端の密封が終わる。
【0063】
カソードに関しては、カソードは、一般的に、18から20μmの厚みを有するアルミニウムホイルである金属ホイル集電体上にいくつかの材料を含有する混合物として被覆され、これは、コーティングの加工性、導電性、及び全体の効率を均衡させるように注意深く選択すべきである。このコーティングは、主として二硫化鉄(及びその不純物)、微粒子材料を互いに保持してこの混合物を集電体に付加させるのに一般的に使用される結合剤、この混合物に改善した導電率を提供するために添加される金属、導体の量が活物質及び結合剤の導電率、集電体上のこの混合物の厚み、及び集電体設計によって定まるグラファイト及びカーボンブラック粉末のような1つ又はそれよりも多くの導電性材料、及びコーティング方法、使用される溶媒及び/又は混合方法自体によって定まる様々な加工及び流動助剤から構成される。
【0064】
以下は、カソード混合物調製に利用することができる代表的な材料及び処理である:パイライト(少なくとも95%純度)、導体(イリノイ州シカゴ所在の「Superior Graphite」が提供する「Pure Black 205−110」及び/又はオハイオ州ウエストレーク所在のTimcalが提供するMX15)、及び結合剤/加工助剤(テキサス州ヒューストン所在の「Kraton Polymers」が提供するg1651のようなスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー)。少量の不純物は、上述の材料のいずれにも自然に存在する場合があるが、カソード内部に存在するFeS2の量をできるだけ多くするために入手可能である最高純度のパイライト源を利用するように注意すべきである。カソードのための1つの好ましい調製、並びにそれに関する基本的セル設計原理は、米国特許出願公開第20090104520号明細書に見出すことができる。
【0065】
セパレータに穴をあける危険性をできるだけ小さくするために、小さい粒径を有するカソード材料を使用することも望ましい。例えば、好ましくは、FeS2は、使用前に230メッシュ(62μm)スクリーンを通過して篩分され、又はFeS2は、米国特許出願公開第20050233214号明細書に説明するように粉砕又は加工することができる。他のカソード混合物成分は、化学的適合性/反応性に向けた観点、かつ類似の粒径に基づく機械的破損問題を回避するように注意深く選択すべきである。
【0066】
カソード混合物は、スリーロールリバース、コンマコーティング、又はスロットダイコーティングのようないくつかの適切な処理を用いてホイル集電体に付加される。コーティングの方法は、米国特許出願公開第20080026288号明細書及び第20080026293号明細書に説明されている。FeS2カソードを製造する1つの好ましい方法は、高揮発性有機溶媒(例えば、トリクロロエチレン)内の活物質混合物材料のスラリをアルミニウムシートの両側の上に圧延被覆し、コーティングを乾燥して溶媒を除去し、被覆されたホイルをカレンダー加工してコーティングを圧密化し、被覆されたホイルを望ましい幅で縦に切り、かつ縦に切られたカソード材料のストリップを切断することである。揮発性溶媒の使用は、こうした溶媒の回収効率を最大にするが、上述のカソード混合物を圧延被覆するために、炭化水素、鉱物油、水性組成物、及びそれらの混合物を含む他の溶媒を利用することも可能である。
【0067】
あらゆる不要な溶媒を除去するための乾燥の後又はそれと同時に、得られたカソードストリップは、カレンダリングなどによって緻密化され、正極全体が更に圧密化される。このストリップが、次に、セパレータ及び類似(しかし、必ずしも同じとは限らない)寸法のアノードと共に螺旋状に巻かれてジェリーロール電極アセンブリを形成することになる事実を考慮すれば、この緻密化は、ジェリーロール電極アセンブリ内の電気化学物質の装填量を最大にする。しかし、ある程度の内部カソード空隙は、放電時の二硫化鉄の膨張と有機電解質による二硫化鉄の濡れとを可能にするために、並びにコーティングの不要な延び及び/又は層間剥離を回避するのに必要であるので、カソードを過度に緻密化することはできない。
【0068】
キレート添加剤
上述のように、キレート添加剤は、バッテリ内の電解質溶媒に溶解性であり、かつこの溶媒、溶質、及び電気化学活物質と非反応性でなければならない。キレート剤は、十分に安定な配位錯体内に金属イオンを封鎖するように作用し、それらが金属イオンと反応することを防止する。これらの望ましくない金属イオンは、カソードコーティング及び/又は他の内部セル構成要素に存在する不純物から電解質内に溶解する。特に、金属イオンを原位置で封鎖するキレート剤の機能は、本明細書で用いられるキレート剤と、電気化学セル内の添加物としての化合物の使用よりも前にこの化合物内に意図的に加えられた1つ又はそれよりも多くのイオンとリガンドが配位結合している遷移金属錯体を有する添加剤とを区別することである。
【0069】
キレート処理は、遠距離吸引静電相互作用を有する分子との金属イオンの相互作用に関わっている。イオンが分子と相互作用した状態で、イオンは、その分子のリガンド又は別の分子のリガンドにより、それぞれ鎖内及び鎖間相互作用を通じて所定位置に固定される。イオンとの鎖内分子相互作用を通じて機能するキレート剤は、より高い化学及び熱安定性を典型的に示している。キレート剤がポリマーを含む範囲で、図2は、ポリマー金属錯体の4つの好ましい型の一般構造を示している。図2Aでは、カルボキシル基がポリマー構造内に含まれ、酸素原子とイオンとによる/それらの間の配位結合を可能にする。同様に、図2B及び図2Cは、それぞれアクリルアミド及びマレイルグリシン基内の酸素原子及び窒素原子による配位結合を示している。図2Dは、アミン内の窒素原子による配位結合を示している。
【0070】
特に、これらの官能基のうちの1つ又はそれよりも多くは、キレート剤内に組み込むことができ、殆どの金属イオンが1つよりも多いリガンドと配位結合するような鎖内配位結合及び/又は鎖間分子架橋が形成される。一部の場合には、配位結合は、そうでなければ良好な溶媒の溶媒和力にまさるのに十分強い可能性があり、それによって溶液からの錯体の析出が引き起こされる。それが電気化学セルの性能を阻害する場合がある範囲で、不純物の析出は望ましくない。それにも関わらず、配位錯体の析出又はゲル生成は、特に、析出又はゲル生成が望ましい電気化学反応の進行を許すことを継続する範囲で、一部のセル設計において許容可能である場合がある。好ましい実施形態では、リチウム二硫化鉄セルのためのキレート剤は、液体形態のままでなければならない(すなわち、ゲル化又は析出してはならない)。
【0071】
ポリキレートゲンは、配位結合を生成することができるリガンドを有するポリマーである。配位結合された金属カチオンがアノードと反応することを防ぐための十分な安定性が要求される。ポリキレートゲンは、電解質への直接添加により、ドライ又は湿潤のカソード配合物との混合により(特に、結合剤として)、又はセパレータへの結合により、セルに導入することができる。どの場合でも、セルが構成された状態で、存在する可能性があるあらゆる金属イオンは、ポリキレートゲンによって配位結合され、あらゆる悪影響が防止される。好ましい実施形態では、ポリキレートゲンは、液体電解質によってセルに導入される。
【0072】
エーテル溶媒中に溶解するポリマー性又は非ポリマー性の有機キレート剤が好ましい。本明細書で用いられる時に、ポリマーとは、小さい反復する官能性単位を有する分子を意味し、従って、それ自体固体又はフィルムにのみ制限されると解釈すべきではない。ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)及びジフェニルチオカルバゾン、並びにそれらの様々な誘導体が、こうしたキレート剤の特定の例である。他の例としては:ポリアクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)、ポリ(n−ブチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチレン/アクリル酸)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジフェニルチオカルバゾン(DPTC)、フェノチアジン(PTZ)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。どの場合でも、ポリマー材料のコモノマー比は、95:5を超えるものから30:70未満までのいずれにも変えることができる。他の比も可能である。DIOXとDMEの溶媒混合物に可溶であり、かつ亜鉛、第2鉄、及び第1鉄イオンに結合するキレート剤が好ましい。本発明の他の実施形態に適切な溶媒は、本明細書の他の部分でも特定されている。
【0073】
最初に、セルに使用される原材料に存在すると見込まれる不純物が分析され、所定の電解質中に可溶化されていることが既知な不純物に特別な注意が与えられる。所定のシステムにおけるアノードでの鍍金によってソフトショートが発生すると考えられる範囲で、これらの見込まれる不純物は、電極へのそれらの影響に関して次に検査される。例えば、電解質は、不純物を模倣する化学物質で人為的に汚染することができ、次に、電極に対するそのスパイクされた電解質の影響を観察することができる。セル又はサンプルがこのスパイクされた電解質を用いて構成され、主要測定項目(例えば、目視検査、新規セルのOCV電圧、高ドレーンレート適用でのサービス、保管寿命、虐待試験など)が解析される。リチウム二硫化鉄電解質において、DIOX及びDMEの混合物は、パイライト中の最も共通の可溶性不純物と考えられる亜鉛、鉄、及び/又は銅の硫酸塩でスパイクされる場合がある。カソード又はこうしたセルに使用される他の材料又は構成要素のいずれかに由来する他の可溶性不純物を識別することができる。
【0074】
キレート剤は、セルに存在すると考えられるカチオン不純物に結合できなければならない。速度論の観点から、キレート剤は、レジンではなく可溶性のままであるべきであり、レジンの場合、金属イオンの吸収及び拡散がキレート剤の効果を許容できないレベルまで遅くする場合がある。ポリマー及び非ポリマーキレート剤は、既知の電解質溶液中のそれらの溶解性に関する既知の物質のリストのスクリーニングによって識別することができる。セルの内部構成要素(例えば、ガスケット、ベント機構、リード、容器材料など)との適合性に関する付加的な検査も行うことができる。例えば、リチウム二硫化鉄セルにおいて、カルボン酸リガンドは、亜鉛、鉄、及び銅カチオンと良好に結合することが予期されると考えられる。上述の速度論的考慮にも関わらず、一部のキレート剤は、電解質に溶解性である必要がない場合があり、代わりに、電極の調製に提供することができ、又は内部構成要素(例えば、セパレータ、密封材料、容器、集電体など)のうちの1つ又はそれよりも多くのポリマー材料に結合され/それと一体化することができる。
【0075】
最後に、ソフトショートを防止し及び/又は電池性能を改善する配位錯体の有効性が確立される。ここで、スパイクされた電解質サンプルは、所定のキレート剤と、カチオンに対するリガンドの適切な当量比で組み合わされる。遭遇する可能性が高い不純物の濃度及び溶解性に対して更に別の考慮も与えられるべきである。上述のように、主要測定項目が、次に解析される。望ましいキレート剤は、完成バッテリの性能又は安全性へのいかなる悪影響も持たないことになり、及び/又はこれら測定項目の一部又は全てを改善することができる。
【0076】
上述の原理を考慮して、電気化学セルを製造する方法が可能である。ここで、原材料及び内部構成要素のいずれか及び/又は全てから溶解性不純物が識別される。この不純物と配位結合し、かつ限定ではないが電解質を含む構成要素及び材料と適合するキレート剤が、次に識別される。次に、キレート剤は、電解質への溶解又は添加により、1つ又はそれよりも多くの内部構成要素(セパレータ、集電体、及び/又は容器を制限でなく含む)への結合により、又は構成要素の一部としてキレート剤を形成することにより(キレート剤のポリマーレジン又は添加剤としての使用を制限でなく含む)セル内に導入される。
【実施例1】
【0077】
リチウム二硫化鉄セルのための公知のキレート剤のリストは、表1に示すようにまとめられている。ポリマー材料は、ペンシルベニア州ウォリントン所在の「Polysciences,Inc.」から購入されたものである。エチレンジアミン四酢酸は、ミズーリ州セントルイス所在の「Sigma Aldrich Corp.」から購入されたものである。PTZ及びDPTCは、ペンシルベニア州ピッツバーグ所在の「Fisher Scientific」から購入されたものである。
【0078】
(表1)

【0079】
表1に識別された各キレート剤の約0.5gが、65:35DIOX:DME(容積基準)中に溶解された0.75mのLiIを含有する好ましい電解質の5mLサンプルに個別に提供された。各サンプルは、24時間周囲温度で撹拌され、目視検査で固体のないことが確認された。すなわち、これらのキレート剤の各々に関する溶解度が少なくとも0.1g/mLであった範囲で、キレート剤1、2、3、及び4が更に別の考察のために選択された。
【実施例2】
【0080】
二硫化鉄中に存在することが公知である典型的な不純物の影響が、次に模擬された。亜鉛、鉄、及び銅の硫酸塩が、実施例1からの所定の電解質中にそれらの溶解度の約40%で溶解された。次に、リチウムの小ストリップが、この溶液に加えられ、リチウムと電解質の両方に関する影響が観察され、不純物がスパイクされていない電解質である「対照」サンプルに対して比較された。硫酸銅でスパイクされた電解質は、対照と同様に挙動した(すなわち、リチウム又は電解質に対して10分、1時間、及び7時間の間隔で変化が観察されなかった)のに対して、硫酸鉄及び硫酸亜鉛でスパイクされた電解質は、リチウム上に黒いスポットを生成させ、かつそれぞれ黄色の電解質を1時間後に茶色がかった赤に色濃くし、電解質を殆ど無色の溶液に透明化し、灰白色の沈殿をリチウムの近くに形成した。すなわち、鉄及び亜鉛カチオンに配位結合することができるキレート剤を必要とすることが判断された。
【実施例3】
【0081】
実施例2において識別されたカチオンに結合する実施例1からの様々な可溶性キレート剤の機能が、次に試験された。表2に示すように、実施例1からの所定のキレート剤がキレートリガンド:金属イオン濃度の3:1当量比で提供された。電解質は、65:35DIOX:DIOX(容積基準)において約0.75mのLiIであった。
【0082】
(表2)

【0083】
リチウムの小ストリップが、実施例2に従った手順と同様に表2における溶液に個別に加えられた。キレート剤1及びキレート剤3は、リチウムへの影響を持たないことが観察され、それによって本発明によるそれらの潜在的有効性が示された。リチウムの黒ずみ又は電解質中の析出を引き起こすキレート剤とスパイクされた電解質との組合せは、有効でないキレート剤を示すものと考えられる。
【0084】
特に、表2でのキレート剤は、実施例1において識別された溶解性キレート剤に制限されているが、キレート剤5(CMC)は、カソード結合剤材料として機能することができ、その場合、あらゆる電解質における溶解度は無関係であると考えられる。それにも関わらず、所定のスパイクされた電解質において、CMCは、リチウムの黒ずみを防止しないと判断された。
【実施例4】
【0085】
一連のFR6セルは、それぞれ、0.94%及び1.52%(W/W)の濃度で電解質に添加されたキレート剤1及びキレート剤3を用いて機械巻き付けされた。ヨウ化リチウムを含む電解質は、DIOXとDMEの配合物中に溶解された。比較的薄いセパレータ(16ミクロンポリエチレンフィルム)が、ソフトショートの可能性を目立たせるために利用された。対照ロットは、あらゆるキレート剤の添加なしに構成された。
【0086】
長期保存を模擬するために、セルは、71℃で8週の期間にわたって保存され、OCVが周期的にモニタされた。この期間にわたるOCVの低下は、好ましくない第1鉄又は他の金属不純物の存在によって恐らく引き起こされるソフトショートの形成を示すことになる。結果は、表示の範囲にOCVを有するセルの数に関して表3に示され、「C」は対照セルを表し、「1」はキレート剤1を用いたセルを表し、「3」はキレート剤3を用いたセルを表している。
【0087】
(表3)

【0088】
従って、キレート剤1及び3を利用するセルは、対照と比較して優れたOCV維持性を示し、それによってこのキレート剤が、そうでなければOCV不安定性及び/又はソフトショートの原因になる場合がある金属イオンを有効に封鎖していることが示されている。更に、キレート剤は、全体のセルインピーダンスに僅かのみの増大を示すが、それでも室温での有効なサービスを提供した。
【0089】
上述の実施例は、本発明の特定の実施形態を示しているが、この手法は、リチウム二硫化鉄セルのためのいずれの数の他の電解質配合物に適用することができる(例えば、様々な溶質、様々な溶媒、様々な濃度、様々な容積比、様々なポリマー及び非ポリマーキレート剤など)。更に、この手法は、様々な電気化学システムのためのキレート剤を識別するために使用することができる。最後に、本発明は、調査の方法、並びに電気化学セルを製造して作動させるために適用される方法を含むことを理解すべきである。すなわち、これらの原理は、あらゆる公知のバッテリシステム、並びにその製造工程及び使用/作動の方法に対して電気化学セルからの望ましくない不純物を封鎖かつ除去するために適用することができる。可能なキレート剤が、OCV、ANSIデジタルスチルカメラサービス、保存寿命/安定性、低から中程度ドレーンサービス試験、及び虐待試験などに対して有する場合がある影響の付加的な試験も、上述の手順の下で許容されるとして別途識別されたキレート剤の全体的な有効性に関連すると考えられる。
【0090】
今日、広範囲の温度にわたって機能するバッテリの機能に対してより大きい注目が置かれている範囲で、他の広く利用することができる消費者向けサイズのセル(例えば、アルカリ、炭素亜鉛)と異なり、LiFeS2は、高電力用途で優れたサービスを提供し、一方で氷点のはるか下の温度で容量を提供する機能を保持するので、LiFeS2バッテリは特に魅力的である。その結果、重点がこのセル化学反応に対して与えられた。しかし、本発明の原理は、他のリチウム化学反応に対して、特に、それらが1次バッテリに関する時に組み込まれることが可能である場合がある。
【0091】
本発明の特徴及びその利点は、特に、本明細書に提供した実施例、図、表、及び他の情報と、本発明を更に良好に理解するのに必要であって本明細書にその程度まで組み込まれた上述のあらゆる特許文献とを参照して本発明を実施する人々によって更に良く理解されるであろう。本明細書に特定した全ての特許及び特許出願公開、及び特に本発明の「発明を実施するための形態」の節に上述したものは、引用によって組み込まれている。同様に、開示した概念の意図を逸脱することなく本発明に対して様々な修正及び改良を行うことができることは、本発明の実施者、並びに当業者によって理解されるであろう。与えられる保護の範囲は、特許請求の範囲、並びに法的に許容される解釈の幅によって判断されることになる。
【符号の説明】
【0092】
10 セル
14 セルカバー
16 ガスケット
18 アノード又は負極
20 カソード又は正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次電気化学セルであって、
アノードと、
2.8ボルト未満であるリチウムに対する最大電位及び1.5ボルト又はそれ未満の公称作動電圧を有する活物質を含むカソードと、
セル内に存在する少なくとも1つの金属イオン不純物を封鎖することができるキレート剤を含む液体電解質と、
を含むことを特徴とするセル。
【請求項2】
前記キレート剤は、前記少なくとも1つの金属イオン不純物が該キレート剤によって封鎖された後に前記液体電解質に溶解性のままであることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記キレート剤は、ポリキレートゲンを含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記キレート剤は、ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)の誘導体、ジフェニルチオカルバゾン、ジフェニルチオカルバゾンの誘導体、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)、ポリ(n−ブチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチレン/アクリル酸)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、エチレンジアミン四酢酸、ジフェニルチオカルバゾン、フェノチアジン、及びカルボキシメチルセルロースから構成される群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記金属イオン不純物は、亜鉛イオン、第2鉄イオン、第1鉄イオン、及び銅イオンから構成されるものから選択されることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記アノードは、リチウム又はリチウム合金から基本的に構成され、前記カソードは、二硫化鉄を有することを特徴とする請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記アノードは、リチウム又はリチウム合金から基本的に構成され、前記カソードは、二硫化鉄を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記キレート剤は、ポリキレートゲンを含むことを特徴とする請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記キレート剤は、ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチルアクリレート/アクリル酸)の誘導体、ジフェニルチオカルバゾン、ジフェニルチオカルバゾンの誘導体、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)、ポリ(n−ブチルアクリレート/アクリル酸)、ポリ(エチレン/アクリル酸)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、エチレンジアミン四酢酸、ジフェニルチオカルバゾン、フェノチアジン、及びカルボキシメチルセルロースから構成される群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記キレート剤は、前記少なくとも1つの金属イオン不純物が該キレート剤によって封鎖された後に前記液体電解質に溶解性のままであることを特徴とする請求項7に記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【公表番号】特表2012−532418(P2012−532418A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517848(P2012−517848)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/040317
【国際公開番号】WO2011/002739
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(397043422)エバレデイ バツテリ カンパニー インコーポレーテツド (123)
【Fターム(参考)】