説明

リチウムイオンのプレドープ方法およびリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法

【課題】積層型の電極を有するリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子における、新たなリチウムイオンのプレドープ方法およびこのプレドープ方法を用いたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】正極と負極とをセパレータを介して、電解液中に浸漬し、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子であって、正極が活物質として活性炭または非多孔性炭を含み、負極が活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を含み、電解液がリチウム塩を含む非プロトン性の有機溶媒であるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子において、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させるためのプレドープ方法であって、電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬し、正極と負極との間に電圧を印加して充電し、充電後、正極とリチウム金属電極との間で放電する工程を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐電圧、高エネルギー密度、および高入出力特性を有し、さらに高速充放電サイクル信頼性の優れた大容量のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子におけるリチウムイオンのプレドープ方法およびリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池と比べ入出力特性に優れ、サイクル信頼性が高い電気二重層キャパシタは、近年環境問題に関連し開発が盛んに進められている分野において、たとえば電気自動車の主電源や補助電源、もしくは太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの電力蓄積デバイスとして有望である。また、IT化に伴い需要が増大している無停電電源装置などにおいても短時間で大電流を取り出せるデバイスとして、活用が期待されている。このような電気二重層キャパシタは主に炭素材料で構成される1対もしくは複数対の分極性電極(正極・負極)を電解液中にセパレータを介して対向させたものであり、分極性電極と電解液との界面に形成される電気二重層に電荷を蓄積することを原理とするものである。
【0003】
一方、さらなるエネルギー密度の向上を目的として、電解液にリチウムイオンを含む電解液を用いたキャパシタのようないわゆる非対称型のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子が提案されている。このようなリチウムイオンを含むリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子は、正極と負極の材料もしくは機能が異なり、正極活物質に活性炭を、負極活物質にリチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離しやすい炭素材料を用いており、これら正極・負極をセパレータを介して、リチウム塩を含む電解液中に浸漬したものであり、さらに負極にリチウムイオンがあらかじめ吸蔵された状態で用いるものである。
【0004】
このリチウムイオンを含むリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の静電容量は、充電時には正極に電解液中のアニオンが吸着するとともに負極に電解液中のリチウムイオンが吸蔵され、放電時には正極に吸着したアニオンが脱着するとともに負極に吸蔵されたリチウムイオンが脱離することにより発現する。
【0005】
このリチウムイオンを含むリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子は、負極にあらかじめリチウムイオンが吸蔵されていることにより、負極電位が電解液電位より低く保たれている。このため、通常の電気二重層キャパシタと比べて耐電圧が向上し、さらにキャパシタ自体の静電容量も向上するため、大きなエネルギー密度を得ることができる。また、正極の電位が電解液電位以下になるまで深く放電することも可能であり、使用電圧範囲を広く取れるため、より高いエネルギー密度を実現することができる。
【0006】
一方、上記のようなリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子では、あらかじめリチウムイオンを負極にドープしない場合には、負極の電位が放電の後半で大きく上昇し、蓄電素子の容量は減少するので、あらかじめ、負極にリチウムイオンを吸蔵(ドープ)させておくことが必要になる。リチウムイオンのプレドープ法に関しては文献、特許に種々の報告がなされている。
【0007】
一つには、正極集電体及び負極集電体が、それぞれ表裏面を貫通する孔を備え、リチウム金属と負極の電気化学的接触により、電池内で負極にリチウムイオンを担持させるリチウムイオンのプレドープ法があげられる(国際公開WO2003/003395号)。
【0008】
他のプレドープ法としては、化学的方法が用いられている。この方法は、負側の電極とリチウム金属箔とを接触させた状態で非水系電解液とともに予め容器中に封入しておいて加温する方法である(特開平8−107048)。
【特許文献1】国際公開WO2003/003395号パフレット
【特許文献2】特開平8−107048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のようなリチウムイオンのプレドープ法のうち、電極表面にリチウム金属を貼り付けたり、負極にリチウム金属などを添加したものは、リチウム金属が残存することから、得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の安全性に問題がある。また、負極とリチウム金属の間に電流を通じて、電気化学的に所定量のリチウムを負極にドープする方法ではドープに長時間を要し、生産性の面で問題があった。さらに、現実に蓄電素子として使用されるような積層型の電極として構成した場合には、負極へのリチウムのドープが各電極毎に不均一となり、場合によっては、最外層の負極にリチウムが析出してしまうこともあり、信頼性に欠けるばかりか蓄電素子が得られないこともあり、積層型の電極を有するリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子への適用が困難であった。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決することを目的になされたものであり、積層型の電極を有するリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子における、新たなリチウムイオンのプレドープ方法およびこのプレドープ方法を用いたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、正極として非多孔性炭や活性炭を含む電極と、負極としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を含む電極とを組み合わせた、積層型のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子におけるリチウムイオンのプレドープ方法について種々検討し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、正極と負極とをセパレータを介して、電解液中に浸漬し、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子であって、正極が活物質として活性炭または非多孔性炭を含み、負極が活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を含み、電解液がリチウム塩を含む非プロトン性の有機溶媒であるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子において、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させるためのプレドープ方法であって、電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬し、正極と負極との間に電圧を印加して充電し、充電後、正極とリチウム金属電極との間で放電する工程を含むことを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法であり、さらに、前記の工程は複数回繰り返えして行うことが好ましいものである。
【0012】
また、本発明のリチウムイオンのプレドープ方法においては、正極と負極との間に印加する電圧が、3.0〜5.0Vであることが好ましく、正極と負極との間に印加する際の電流密度が、0.05〜0.8mA/cmであることが好ましいものである。また、正極とリチウム金属電極との間に印加する際の電流密度が、0.01〜0.1mA/cmであることが好ましく、正極とリチウム金属電極との電圧が、2.0〜3.0Vであることが好ましいものである。さらに、本発明のリチウムイオン・プレドープ方法は、正極活物質が非多孔性炭であることが好ましく、そして、含浸槽の電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬することにより行うことが好ましいものである。
【0013】
また、本発明は、上記のリチウムイオン・プレドープ方法により、リチウムイオンが負極にプレドープされる工程を含むリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法を包含する。
【0014】
なお、本発明でいう「リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子」とは、リチウムイオンを含むキャパシタ蓄電素子を意味するものであり、具体的には、電解質にリチウム塩を用い、これを非プロトン性の有機溶液に溶解した電解液を用い、負極にリチウムイオンが可逆的に吸蔵・脱離される電極を有するキャパシタ蓄電素子であって、充電時には正極に電解液中のアニオンが吸着するとともに負極に電解液中のリチウムイオンが吸蔵され、また逆に、放電時には正極に吸着したアニオンが脱着するとともに負極に吸蔵されたリチウムイオンが脱離するというメカニズムにより静電容量を発現するキャパシタ蓄電素子を意味している。このようなリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子では、一般に正極と負極の材料、もしくは機能が異なる非対称型(ハイブリッド型)の電極を備え、いわゆる非対称型キャパシタとも称されるものである。
【0015】
また、本発明でいう「吸蔵」とは、リチウムイオンが炭素層間や組織内に、ある一定の濃度で可逆的に保持されている状態を指し、ドープあるいは担持とも表現されるものである。なお、本発明でいう「脱離」は、その逆で保持されていたリチウムイオンが炭素層間や組織内から遊離してくる状態を指し、脱ドープとも表現されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のリチウムイオンのプレドープ方法によると、積層型の電極を用いた場合であっても、蓄電素子内にリチウム金属が残存したり、最外層の負極にリチウムが析出するようなことがなく、短時間のうちに十分な量のリチウムイオンをドープすることが可能となる。また、本発明のリチウムイオンのプレドープ方法は操作性および生産性にも優れ、このプレドープ方法を採用することにより信頼性の高いリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のリチウムイオンのプレドープ方法は、アニオンを可逆的に吸脱着可能な活物質を主体とする正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を主体とする負極と、リチウム塩を含む有機溶媒系の電解液とを有するリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子において、あらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵させるための方法であって、電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬し、正極と負極との間に電圧を印加して充電し、充電後、正極とリチウム金属電極との間で放電することを特徴とし、この操作を負極内に必要な量のリチウムイオンが吸蔵されるまで、繰り返して行うものである。
【0018】
このリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子に用いられる正極は、アニオンを可逆的に吸脱着可能な活物質を含むものであればよく、このような活物質としては、活性炭や、本発明者が提案し、特開2002−25867号公報などに記載されているような非多孔性炭があげられるが、得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子のエネルギー密度やパワー密度の点を考慮すると、活物質として非多孔性炭を用いることが好ましい。
【0019】
一方、負極としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を活物質として含むものであればよく、このような活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体(MCMB)、黒鉛化メソフェーズカーボン繊維(MCF)、黒鉛ウィスカ、黒鉛化炭素繊維、難黒鉛性カーボン、ポリアセン系有機半導体、カーボンナノチューブ、炭素質材料と黒鉛質材料との複合炭素材料、フルフリルアルコール樹脂の熱分解物、ノボラック樹脂の熱分解物、ピッチ、コークス等の縮合多環炭化水素化合物の熱分解物質があげられる。
【0020】
また、プレドープの際に用いる電解質や電解液は、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子として用いる電解質や電解液と同じものを用いてもよく、別途調製した異なる種類の電解質や電解液を用いてもよいが、同一の電解質や電解液を用いる方が、生産効率の面で好ましい。
【0021】
使用できる電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、CFSOLi、LiC(SOCF、LiAsF、LiSbF、LiI、LiCFCO、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(CF)などのようなリチウムを含む化合物があげられ、これらを1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
また、電解液の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルジオキソラン、スルホラン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、酢酸エチル、酢酸メチル、酪酸メチル、プロピオン酸エチルなど種々の有機溶剤があげられ、これらを単独で、あるいは2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0023】
電解質の濃度も特に制限はないが、リチウムイオンを負極に吸蔵させる際に電解液の電気伝導度がある程度高く維持されているのが好ましく、通常、0.1〜2.5mol/L、好ましくは0.5〜2.0mol/L、さらに好ましくは1.5〜2.0mol/L程度の濃度に設定される。なお、電解液の電気伝導度としては、25℃における電気伝導度が8mS/cm以上であることが必要であり、10mS/cm以上であることが好ましい。
【0024】
従来の蓄電素子におけるリチウムイオンのドーピングのように、陽極としてのリチウム金属と、負極としての黒鉛電極との間で定電流充電を行い、リチウム金属を酸化する方法によると、リチウム金属はリチウムイオンとなり電解液中に溶解し、このリチウムイオンは負極に吸蔵される。しかしながら、リチウムイオンは溶媒和された状態で拡散するので、拡散速度はカチオンの10倍程度遅くなり、特に、積層した電極の場合には、リチウムイオンは各層の負極まで拡散する速度が遅く、ドープのための時間は長くなる。
【0025】
リチウムイオンのプレドープは、後述するようにして製造される正極および負極をセパレータを介して複数枚積層したセルを構成する電極と、金属リチウムの電極とを電解液中に浸漬し、正極と負極に電圧を印加し充電を行い、次いで、正極とリチウム金属電極との間で放電を行い、この工程を繰り返すことにより達成される。
【0026】
図1に、本発明のリチウムイオンのプレドープ方法の原理を示す。まず、正極−負極間で例えば、4.5Vまで定電流低電圧で充電を行うと、電解液中のリチウムイオンは負極に吸蔵され、アニオンは正極に吸着ないしは吸蔵(非多孔性炭の場合は溶媒を伴って吸蔵される)(図1のA)。次いで、充電した状態から正極−リチウム金属電極(参照電極としても用いている)間で、例えば2.5Vまで定電流放電すると、正極ではアニオンが放出され、リチウム金属電極(参照電極)では酸化反応が起こりリチウムイオンとなって電解液中に放出されるが、負極に吸蔵されたリチウムイオンは充電時のままであり、電解液中に放出されることはない(図1のB)。次いで、この充電、放電を繰り返すことにより、負極中にリチウムイオンがさらに吸蔵されることになり、負極におけるリチウムイオンのプレドープが完了する。リチウムイオンの吸蔵により負極の電位は、電解液の自然電位である約3Vから0.1V(対Li/Li)程度に下がり、負極の電位を低く保つことができるとともに、充放電にともなう負極電位変化を抑えることができる。
【0027】
図2は、正極に後述するような非多孔性炭を用いて作製した電極を用いてプレドープを行った場合の充放電の状態を示したものであって、図2のAは1回目の充放電結果であり、図2のBは4回目の充放電結果であり、経過時間に対する、正極、負極、リチウム金属電極の電位および電流の関係を示したものである。
【0028】
まず、各電極を電解液中に浸漬し、正極と負極との間に予め設定した電位(4.5V)を印加し、一定電流密度(0.23mA/cm、印加電流は1A)で充電すると、電荷が蓄積するにしたがって電圧が上昇し、予め設定した電圧に達したら、その電圧が保持されることで定電圧モードとなり電流は減少していく(緩和充電)。図2では、充電時の正極および負極の電位は、リチウム金属電極を参照電極として使用し、Li/Liに対する電位として示してある。なお、1回目の充電の際(図2のA)に、正極電位に急激な立ち上がりの後の変曲点が認められるのは、非多孔性炭の特徴である、電圧がある閾値を超えると、アニオンが溶媒を伴って非多孔性炭の炭素組織の層間内に侵入(インターカレーション)し、その後に電気二重層が形成されるという特性を有するものであるためであり、この時の電圧の閾値が上記の変曲点に相当するものである。通常、この電圧を「インターカレーション開始電圧」と称しているものである。
【0029】
次いで、緩和充電に達した後、所定時間経過後に、正極とリチウム金属電極(簡便的に参照電極として使用しているリチウム金属電極を使用した)との間で放電を行う。放電は定電流密度(0.035mA/cm、印加電流は150mA)で行い、放電にともない正極の蓄積電荷は減少し、正極の電位は低下する。一方、リチウム金属電極では、リチウム金属が酸化されてリチウムイオンになり、リチウム金属電極の電位は一定に維持される。正極とリチウム金属電極との電位差が2.0Vとなった時、放電を終了し、次の充放電サイクルに移行する。図2では、正極の電位およびリチウム電極の電位は、負極を基準とした電位で示してあり、リチウム金属電極の電位はリチウムの酸化を目的とするため、負極より電位が高く設定されている。
【0030】
図2のBは、以上のようにして充放電を繰り返した際の、4回目の充放電結果を示したものである。図2のBでも、充電は正極と負極との間に4.5V、1Aを印加して行っているが、これに先立つ充放電の結果、負極にリチウムが吸蔵されていることから、負極の電位は、図2のAに比べてより低い電位となり、Li/Liに対してほぼ0Vを示すようになる。また、この充電の際に、正極の電位は徐々に上昇し、図2のAで見られるような変曲点が認められないのは、非多孔性炭が、一旦充電によりアニオンが炭素組織の層間内に吸蔵(インターカレーション)された後は、履歴効果により直ちに電気二重層が形成されるためであり、インターカレーション開始電圧というものが存在しないからである。
【0031】
次いで、同様に正極とリチウム金属電極(参照電極として使用したもの)との間で定電流放電(150mA)を行い、電極間の電位差が2.0Vとなった時、放電を終了した。リチウム金属電極の電位は、負極に対する電位で示されているため、負極の電位が低下していることにより、その分の見かけ上の低下が認められる。
【0032】
このような充放電サイクルの繰り返しという、簡便かつ効率的な手法により、短時間(5日程度)で、負極に十分な量のリチウムイオンを吸蔵させることができ、負極の電位をほぼ0Vと低下させることができ、高エネルギー密度、高パワー密度のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を製造することができるようになる。
【0033】
したがって、充電の際の、印加電圧は、3.0〜5.0V、電流密度は、0.2〜0.4mA/cmであることが好ましい。電圧が5.0V以上であると電解液分解の傾向があり、また、電流密度が0.4mA/cm以上であると含浸不足となる傾向がある。
【0034】
一方、放電の際の、最終電圧は、2.0V〜3.0V、電流密度は、0.03〜0.06mA/cmであることが好ましい。最終電圧が2.0V以下であると容量低下の傾向があり、また、電流密度が0.06mA/cm以上であるとLiが析出する傾向がある。
【0035】
図3は、上記のような充放電サイクルによりプレドープを行うための電解液に満たされた含浸槽における各電極の配置を例示したものであり、参照符号1、2、3、4、5はそれぞれ含浸槽、集電体から引き出された正極端子、負極端子、セル、リチウム金属電極を示す。なお、セル4は、正極および負極がセパレータを介して積層された電極であり、このセルを個々の容器に収納することにより、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子とすることができる。
【0036】
上述のように本発明のリチウムイオンのプレドープ方法では、正極がアニオンを可逆的に吸脱着可能なものであればよく、活物質として活性炭や非多孔性炭など種々の炭素材料を用いることができ正極の種類によらず実施することができるが、得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子のエネルギー密度やパワー密度が、活性炭を用いた場合に比べ格段に優れる非多孔性炭を用いた場合を例として、以下に、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法を説明する。
【0037】
本発明において、正極活物質として用いる非多孔性炭は、特開2002−25867号公報や特開2004−289130号公報に記載されているような、多層グラフェン層が発達した黒鉛類似の微結晶炭素を有する平均層間距離d002が0.350〜0.380nm程度であり、BET法による比表面積が270m/g、好ましくは100m/g以下の、各種電解質イオンや溶媒やNガスなどを取り込める程度の大きさの細孔がない非多孔性の炭素である。
【0038】
このような非多孔性炭は、石油コークスあるいは石炭コークスの一種として知られるニードルコークス、または不融化処理した石油系あるいは石炭系のピッチなどをか焼して得られる易黒鉛化炭を活性化処理して得られた活性化非多孔性炭であって、ニードルコークスや不融化処理したピッチなどの多層グラファイト微結晶が発達した易黒鉛化炭を650〜850℃で熱処理(か焼)して得られる炭素(か焼炭)を、例えばKOHのような苛性アルカリと共に800〜900℃で処理した後、加熱水蒸気により残存アルカリ成分を除き、必要に応じ、Ni、Fe、Coなどのような遷移金属触媒の存在下200℃〜850℃、2〜6時間、水素ガスなどの還元性雰囲気中で、あるいは触媒を用いることなしに500℃〜900℃、4〜6時間、水素などの還元性気流中で熱処理し、炭素表面に存在する活性酸化水素(例えば、COOH、CHO、OHなど)を除去することにより得ることができる。なお、非多孔性炭の平均層間距離d002は、原料の炭素材の種類により、また、水素などの還元性気流中での加熱処理の温度により変化し、この加熱処理温度を高くすることにより平均層間距離d002が小さい非多孔性炭が得られる。
【0039】
なお、炭素表面に存在する活性酸化水素が除去されたか否かの確認は、特開2002−25867号公報に記載されているような粉末炭素のパルスNMR法によるH 共鳴の観測で行うことができ、本発明で用いる非多孔性炭あるいは水素化された非多孔性炭(水素化非多孔性炭)は、炭素組織内の残存水素の結合状態の相違を示す、パルスNMR法によるH共鳴で観測されるT=20〜50μsec(Gauss型)の短緩和時間成分と、T=50〜400μsec(Lorentz型)の中緩和時間成分と、T=500〜2000μsec(Lorentz型)の長緩和時間成分とを求めたとき、長緩和時間成分が全く無く、短緩和時間成分に対する中緩和時間成分の比(以下、「緩和成分比」という)が1/3以下であることが好ましく、さらに1/5以下であることがより好ましいものである。このような活性酸化水素が少ない水素化された非多孔性炭を電極活物質として用いると、充放電時にガスの発生や非電気伝導性の皮膜が形成されることなく、経時により内部抵抗が増大しない安定したリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子が得られる点で特に望ましいものである。
【0040】
また、使用する非多孔性炭の粒子サイズとしては、5〜20μm程度に粒度を整えたものであることが好ましい。
【0041】
本発明で負極活物質として用いる炭素材料は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料であり、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる前述したような炭素材料があげられ、これらを単独であるいは併用して用いることができる。このような炭素材料のうち、BET法による比表面積が1〜1000m/gのものが好ましく用いられる。これらの炭素材料のうち、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体(MCMB)や黒鉛化メソフェーズカーボン繊維(MAG)、難黒鉛化カーボンが好ましいものである。
【0042】
本発明で用いられる電解液はリチウム塩を非プロトン性の有機溶媒に溶解したものである。電解液に含まれるリチウム塩としては、前述したようなリチウムを含む化合物があげられ、これら単独であるいは併用して用いることができる。これらのうち、LiPF、LiBF、LiClOが、イオン電導度などの点で好ましく、LiClOが、静電容量の点で特に好ましいものである。
【0043】
また、電解液としては、上記のリチウム塩を溶解した非水系有機電解液が好ましく、使用する有機溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が用いられ、電解質の溶解性、電極との反応性、粘性や使用温度範囲によって適宜選択される。これらの有機溶媒としては、前述した溶媒があげられ、これらを単独であるいは併用して混合溶媒として用いることができる。これらの有機溶媒のうちでも、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒が好ましく、その配合量は、重量比で1:1〜1:2程度が好ましい。
【0044】
なお、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子にあっては、電解液の電解質濃度は0.1モル/L以上とすることが好ましく、0.5〜2.0モル/Lの範囲とすることが更に好ましい。なお、電解液の電気伝導度は特に重要であって、25℃における電気伝導度が2mS/cm以上であることが必要であり、10mS/cm以上であることが好ましい。
【0045】
以上のような非多孔性炭、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料、および電解液を用いて、活性炭などを用いた従来の電気二重層キャパシタと同様な方法によりリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を組み立てることができる。
【0046】
正極および負極は、従来の活性炭や炭素材料を用いた場合と同様な方法により作製することができる。すなわち、本発明で得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の正極および負極は、バインダ(結着剤)を含ませずに、例えば板状ないしはシート状に成形してもよいが、通常、活物質である非多孔性炭や炭素材料とともに、形状付与剤としてのバインダを使用して成形することが好ましい。使用できるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などのフッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系樹脂、あるいはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系樹脂などがあげられ、なかでもフッ素系の樹脂が耐熱性や化学的安定性の点で好ましく、特に、正極ではPTFEが好ましく、負極ではPVdFが吸液性に優れた電極を作製しやすいという点で好ましいものである。
【0047】
電極質量中に占めるバインダの配合量は、正極で、5〜15質量%程度、好ましくは5〜10質量%程度、負極で、4〜30質量%程度、好ましくは4〜15質量%程度であることが好ましく、バインダの配合量がこの範囲よりも多いと、静電容量が小さくなる傾向があり、この範囲より少ないと、バインダとしての効果が弱くなり、集電体から電極が剥離し易くなる傾向がある。
【0048】
また、電極の電気伝導度を良くするために、正極および負極に導電材を含有させることができる。このような導電材としては、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛やそれらの混合物、もしくは金属粉末などを用いることができる。導電材の電極全質量中の含有量が、0.1〜20質量%程度であると、高容量かつ高導電性の電極が得られるという点で好ましいものとなる。
【0049】
なお、電極に取り付ける集電体としては、従来の電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池で使用されている材質のものを用いることができ、正極用の集電体には、アルミニウム、ステンレス、チタン、タンタル、ニオブなどが、また負極用の集電体には、ステンレス、銅、ニッケル、およびこれらの合金などを用いることができる。集電体の厚さとしては、10〜300μm程度のものであることが好ましい。集電体として特に好ましいものとしては、正極ではアルミニウムが、負極では銅があげられる。なお、集電体としては、上記のような金属の箔ばかりでなく、エッチングされている金属箔、あるいはエキスパンドメタル、パンチングメタル、網、発泡体などのように表裏面を貫通する孔を備えるものであっても良い。
【0050】
また、電気伝導性を高めるためには、集電体に導電材をあらかじめコートしておくことも好ましく、これは、細孔のある集電体に導電材をコートしてもよく、逆に導電材をコートした後に細孔を設けるようにしてもよい。なお、導電材としては、例えば、カーボン粒子や銀などの金属粒子を含む導電性接着剤やペーストなどがあげられる。
【0051】
正極および負極を分離するセパレータの構成は、特に限定されるものではないが、単層あるいは積層した構成のセパレータを用いることができる。材質としては、電解コンデンサ紙、クラフト紙などのセルロース系の基材、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどの多孔質フィルム基材、ガラス繊維基材などが例示され、例えば、ガラス繊維製のセパレータ、硬質紙でガラス繊維を挟んだ、いわゆるセルロース型のセパレータ、多孔質樹脂製のセパレータなどを用いることができる。
【0052】
正極および負極の製造方法を例示すると、それぞれ次のようなものとなる。
【0053】
正極は、5〜100μm、好ましくは5〜20μm程度に粒度を整えた非多孔性炭と、電気導電性を付与する例えばカーボンブラックのような導電材と、バインダとしてのPTFE、PVdFなどとを、そのまま混合し、混練りするか、もしくはN−メチルピロリドン(NMP)のような少量の有機溶媒中で混合し、充分に混練した後、シート状に成形し、得られたシートを集電体に導電性接着剤等により固定する方法や、あるいは、バインダとしてのPVdF、ポリアミドイミド、ポリイミドなどをNMPなどに溶解して得たワニスに、非多孔性炭と、導電材とを分散させてスラリーを調製し、次いでこのスラリーをドクターブレード法などにより集電体上に塗工、乾燥して電極を形成する方法などが利用できる。
【0054】
なお、スラリー調製の際に、バインダとなる樹脂またはその前駆体などを溶解させる溶媒は、溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、バインダの樹脂を容易に溶解し、入手も容易であることから、NMPが好ましいものとして例示できる。電極の作製に際して、非多孔性炭と導電材とバインダとの配合割合は、重量比で、一般に8.5:0.5〜1:0.5〜1程度であることが好ましい。
【0055】
また、正極の電極密度としては、0.8〜1.2g/cm程度の範囲に調製することが、静電容量と内部抵抗との観点から望ましいものであり、電極シートの厚さは、薄いほど内部抵抗の低下がはかれるものではあるが、電極のパッキング率(すなわち、セル全体に占める電極の割合)を勘案して決定される。電極の厚さは、通常、20〜300μm、好ましくは、50〜200μm程度のものである。
【0056】
一方、負極の場合も、正極で用いる非多孔性炭に代えて、5〜100μm、好ましくは5〜30μm程度に粒度を整えた炭素材料を用い、この炭素材料と、導電材と、バインダとを用いて、正極と同様な方法により調製することができる。この場合、炭素材料と導電材とバインダとの配合割合は、重量比で、一般に、8:1:1程度である。また、負極の電極密度としては、0.6〜1.5g/cm程度の範囲であり、電極シートの厚さは、20〜200μm、好ましくは30〜120μm程度のものである。
【0057】
次いで、以上のようにして得られた正極および負極をセパレータを介して重ね合わせ、セル、すなわち積層された電極を作製し、本発明のリチウムイオンのプレドープ方法によって、負極にリチウムイオンを吸蔵させ、このセルを電解液とともに容器の収納することにより、従来のキャパシタと同様な角型、円筒型、ボタン型など種々の型式のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を組み立てることができる。
【0058】
なお、活物質として非多孔性炭を用いた場合には、組立当初の電気二重層キャパシタには、電気二重層を形成している界面は実質的に無いため、定格電圧の10ないし20%高い電圧(通常、3.5〜3.75V程度)を印加し、充電することが必要であり、これにより、電解質イオンが溶媒とともに炭素組織内に侵入(共インターカレート)し、その後電気二重層を形成できる界面が発生し、静電容量を発生させるというものであった。しかしながら、本発明のリチウムイオンのプリドープ方法によって作製されたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子は、プリドープの段階で既に非多孔性炭へのアニオンの挿入が行われており、その結果、蓄電素子組立後に改めて充電を施す必要はなく、生産面でも効率がよいものとなる。
【0059】
また、非多孔性炭を用いて作製した電気二重層キャパシタは、電圧の印加時に電極体積が膨張する特性を示すものであるが、本発明のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子では電圧の印加時に10%程度の膨張が認められるにすぎないものであった。
【0060】
本発明で得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子は、単位重量(体積)当たりの単極静電容量が正極より負極の方が大きい。このため、例えば従来の電気二重層キャパシタと同様に、充放電時に正極と負極の電位変化量を等しくする場合、正極の活物質量に比べ負極活物質量を減らすことができ、従来のキャパシタに比べ、セルの単位重量(体積)当たりの静電容量を増やすことができる。
【0061】
さらに、上述したようにあらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵しておくことで、負極の電位を電解液の自然電位である約2.8V(対Li/Li)よりも低く保てるとともに、充放電に伴う負極電位変化を抑えることができる。これにより、キャパシタ全体の静電容量を正極の静電容量とほぼ等しくすることができ、従来の電気二重層キャパシタと比べ、最大で約2倍の静電容量が得られる。
【0062】
また、電気二重層キャパシタにおいて、耐電圧は主に電解液と電極によって制限され、正極に一般的な活性炭、電解液に有機溶媒系のものを用いた場合、耐電圧としては約2.7Vが限界であり、これ以上の電圧になると電解液の分解が生じる。すなわち、正極に活性炭を用いた場合、正極の耐電圧は対Li/Li電位で4.2V程度(対電解液で約1.4V)である。一方、非多孔性炭を用いた場合は、活性炭よりは耐電圧は高く、正極の耐電圧は対Li/Li電位で4.5V程度(対電解液で約1.7V)である。したがって、あらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵し、負極の電位を0V(対Li/Li)付近とすることにより、キャパシタ自体の耐電圧を約4.5Vまであげられることになり、大きなエネルギー密度が達成される。
【0063】
さらに、上述したように、あらかじめ負極にリチウムイオンを十分吸蔵させておくことにより、放電時に正極電位が電解液電位より低くなるまで深く放電を行えることになる。なおこの場合には、正極にリチウムイオンが取り込まれ、負極からリチウムイオンが放出される。このような深い放電によって使用電圧範囲を広げられるため、さらに大きなエネルギー密度が達成される。
【実施例】
【0064】
次に、本発明のリチウムイオンのプレドープ方法および当該方法により得られるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子について、実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
以下の実施例において、セルの作製、含浸−プレドープは、全て露点が−60℃以下のアルゴングローブボックス中で行い、定電流−定電圧で、4.5Vまで充電し、定電流で2.0Vまで放電することにより行った。
【0066】
得られたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の静電容量は、正極・負極と、参照電極にリチウム金属を用いた3極セルにて行い、25℃の恒温槽内で、定電流(10A、電流密度では2.38mA/cm)で充電・放電を行う工程を、印加電圧、緩和充電時間を段階的に増加させ、最大印加電圧(4.0V)を超えたら同じ工程を減少させながら充放・放電を行うようにプログラムした自動測定装置を用い、電放時の電圧と電流を積分して算出される放電エネルギーQが、Q=(1/2)CVで示されるものとして算出した。
【0067】
また、リチウムイオンの吸蔵量(ドープ量)は、充電容量(Ah)として算出した。
【0068】
正極に用いた非多孔性炭は、特開平2002−25867号公報、特開平2004−289130号公報に記載されている方法により調製したものを用いた。すなわち、平均50μm程度に粉砕した石油コークスを750℃、4時間、か焼した「か焼炭」を、2倍量のKOHとともに、800℃、2時間処理し、加熱水蒸気によりpH=7まで洗浄し、加熱真空乾燥し、平均粒度を10μm程度に調整した後、金属ニッケル触媒の存在下、700℃、4時間水素中で熱処理し、その後触媒を除去し、非多孔性炭を得た。得られた非多孔性炭の粉末X線回折XRD法(CuKα線、ターゲット:Cu、励起電圧:30kV)により求めた炭素微結晶の層間距離d002は、0.36nmであり、Nを吸着剤として用いたBET1点法(装置:ソープティ1750、アグネ技術センタ社製、加熱炉温度:110℃、層耐圧力範囲:0.05〜1.35)により求めた比表面積は、100m/gであり、特開平2002−25867号公報に記載されているHパルスNMR法により求めた緩和成分比(短緩和時間成分に対する中緩和時間成分の比)は、0.1以下であった。
【0069】
実施例1
(1)正極の調製
上記のようにして調製した非多孔性炭をアルミバットに回収し、加熱真空乾燥を200℃、0.1Torrまで約2〜4時間実施した後、乳鉢に移し、導電材としてカーボンブラック(商品名:デンカブラック、電気化学工業社製)、バインダとしてPTFEバインダ(三井・デュポンフロロケミカル社製)を加え、乳棒で混合混練り合わせを行った。非多孔性炭、カーボンブラック、PTFEバインダの重量比は、10:1:0.5である。次いで、混練り合わせをした非多孔性炭混合物をホットローラーにかけ、厚さ80μmのシート状に仕上げ、縦10cm、横10cmに切り出した。その後、この切り出したシートを炭素系の導電性接着剤により集電体のアルミ箔に接着し、乾燥、プレスすることで正極を作製した。正極の電極密度は、0.9g/cmであった。
【0070】
(2)負極の調製
負極活物質として、MCMB(大阪ガス社製)を用い、MCMB、アセチレンブラック(電気化学工業社製)およびPVdF(クレハ社製)を重量比で15:2:1の割合で、NMP中に添加し、混合分散し、スラリーを得た。このスラリーを集電体である銅箔の片面に塗布、乾燥、プレスして厚さ50μmのシートとし、縦10cm、横10cmに切り出し、負極を作製した。負極の電極密度は、0.9g/cmであった。
【0071】
(3)電解液とセルの作製
10cm×10cmのサイズに切り出した集電体付きの厚さ80μmの正極と、厚さ50μmの負極とを(2枚)30μm厚のセルロースセパレータを介して対向させ1対の電極を作製し、この電極を42対、正極同士、負極同士が互いに接するように積層し、正極にアルミ、負極にニッケルを熔接し、セルを得た。
【0072】
(4)含浸−ドープ
作製したセルをエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒(重量比で1:1)に1.5mol/Lの濃度でLiBFを溶解した電解液を含む含浸槽に浸漬し、前述した電圧、電流により充放電を4サイクル繰り返し、含浸−ドープを行った(図2のA、B)。負極へのドープ量と負極の電位を表1に示した。
【表1】

【0073】
(5)リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の組立
上記のようにして得られた負極にリチウムがドープされた積層電極であるセルを、含浸槽から取り出し、アルミのラミネートフィルムを外装体としてに真空封入し、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を作製した。
【0074】
(6)リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の評価
得られたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子について、60℃における耐久性試験を行った。
【0075】
1.高温フロート試験:
得られたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子を60℃の恒温槽内に入れ、10Cで24時間、4.0Vまで定電流−定電圧で連続充電した。次いで、恒温槽を25℃に設定し、セルの温度が25℃になったら、10Cで24時間、2.0Vまで定電流で放電し、静電容量を測定した。この工程を24時間毎に繰り返して充放電を行い、静電容量を測定した。、1000時間後の静電容量値をもとめ、1000時間後容量維持率として、表2に示した。なお、当初の静電容量は、2200Fであった。
【表2】

【0076】
2.高温サイクル試験:
60℃の恒温槽内で、定電流−定電圧で、900秒4.0Vまで充電し、次いで、定電流で、2.0Vまで放電し、10秒経過させた後、再び同条件で充放電を繰り返した。この充放電を1サイクルとし、これを1000サイクル繰り返した後のセルの静電容量を求め、1000サイクル後容量維持率として、表3に示した。なお、当初の静電容量は、2200Fである。
【表3】

【0077】
なお、セルの構成で、積層電極の外側を負極とした場合と、正極とした場合とを比較すると、1000サイクル後の容量維持率で前者(実施例1)が97%に対して後者が90%(当初の静電容量は、2070F)と若干の差が見られた。
【0078】
以上のように、本発明のリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子は、4.0Vから2.0Vまでという高い電圧範囲において60℃サイクル、フロート耐久性に優れており、かつ大きな容量が得られるものであり、本発明のリチウムプレドープ法およびこのプレドープ法を用いて作製したリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の特性が優れているものであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明のリチウムイオンのプレドープ法の原理を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明のリチウムイオンのプレドープ法において、充放電を行ったときの経過時間に対する、正極、負極、リチウム金属電極の電位および電流の関係を示したものである。図中(A)は1回目の充放電結果であり、(B)は4回目の充放電結果を示す。
【図3】図3は、本発明のプレドープを行うための電解液に満たされた含浸槽におけるを各電極の配置を例示した該略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 含浸槽
2 正極端子
3 負極端子
4 セル(積層型電極)
5 リチウム金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とをセパレータを介して、電解液中に浸漬し、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させたリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子であって、正極が活物質として活性炭または非多孔性炭を含み、負極が活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素材料を含み、電解液がリチウム塩を含む非プロトン性の有機溶媒であるリチウムイオン・キャパシタ蓄電素子において、負極にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させるためのプレドープ方法であって、電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬し、正極と負極との間に電圧を印加して充電し、充電後、正極とリチウム金属電極との間で放電する工程を含むことを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項2】
前記の工程を複数回繰り返す、請求項1に記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項3】
正極と負極との間に印加する電圧が、3.0〜5.0Vである請求項1または請求項2に記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項4】
正極と負極との間に印加する際の電流密度が、0.05〜0.8mA/cmである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項5】
正極とリチウム金属電極との間に印加する際の電流密度が、0.01〜0.1mA/cmである請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項6】
正極とリチウム金属電極との電圧が、2.0〜3.0Vである請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項7】
正極活物質が非多孔性炭である請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項8】
含浸槽の電解液中に、正極、負極およびリチウム金属電極を浸漬する請求項1〜7のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のリチウムイオンのプレドープ方法を含む工程を備える、リチウムイオン・キャパシタ蓄電素子の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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