説明

リチウムイオンキャパシタ

【課題】
負極にリチウムイオンを十分に吸蔵させることができるリチウムイオンキャパシタを提供する。電極群の負極金属構成部材と円筒状有底缶との接続部分からの液漏れを防止するリチウムイオンキャパシタを提供する。
【解決手段】
正極リード片が形成されたアルミニウム箔に活物質合剤が塗着された正極板と負極リード片が形成された銅箔に活物質合剤が塗着された負極板とをセパレータを介して捲回した電極群と、電極群の一側端面に対向して配置され正極リード片の先端部が接合された正極集電リングと、電極群の他側端面に対向して配置され負極リード片の先端部が接合された負極集電リングと、非水電解液と、円筒状容器と、を有し、負極集電リングと円筒状容器との間に、膨潤性・浸透性の少ないゴム又はシート状のシール部材を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオンキャパシタに係り、特に、長手方向に沿う一側にタブが形成された金属箔に活物質合剤が塗着された正極板と、長手方向に沿う一側にタブが形成された金属箔に活物質合剤が塗着された負極板とをセパレータを介して捲回した電極群を備えたリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題がクローズアップされる中、太陽光、風力発電等によるクリーンエネルギの蓄電システムや、自動車、ハイブリッド電気自動車等の移動体用の主電源ないし補助電源として蓄電デバイスが着目されている。この蓄電デバイスとしては、従来、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等が知られており、とりわけ、近時、リチウムイオン電池の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
また、最近では、リチウムイオン電池の利点と電気二重層キャパシタの利点とを組み合わせた大容量(例えば、500F以上)のリチウムイオンキャパシタないしハイブリッドキャパシタの研究開発も行われている(例えば、特許文献1、2参照)。リチウムイオンキャパシタは、一般に、正極活物質に活性炭、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材が用いられており、正負極を、セパレータを介して配置し、リチウム塩を含む非水電解液で浸潤した構成が採られている。
【0004】
リチウムイオンキャパシタは、予め負極にリチウムイオンが吸蔵ないしドープされていることにより、負極電位が通常の電気二重層キャパシタより、より低く保たれるため、使用電圧範囲を広くとることができ、また、正極充放電機構として、通常の電気二重層キャパシタで利用される陰イオンの吸着に加え、陽イオンの吸着も利用できるため、容量を原理的に倍取り出すことができる。また、リチウムイオン電池に比べ、容量は小さいものの、内部抵抗が小さく出力特性の点で優れるとともに、長寿命である、という利点がある。なお、本発明に関連する技術として、リチウムイオンを吸蔵ないしドープさせるための金属リチウムを電極群内に捲回配置したリチウムイオンキャパシタが開示されている(特許文献3参照)。
【0005】
また、セパレータを介して交互に積層された正極と負極とによって電極群が構成され、積層方向の最外部にはリチウム極が負極に対向するように配置された三極積層ユニットを用いたリチウムイオンキャパシタが開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−294539号公報
【特許文献2】特開2006−286841号公報
【特許文献3】特開2007−067105号公報
【特許文献4】特開2008−300667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は長手方向に沿う一側にタブが形成された金属箔に活物質合剤が塗着された正極板と、長手方向に沿う一側にタブが形成された金属箔に活物質合剤が塗着された負極板とをセパレータを介して捲回した電極群と、前記電極群の一側端面に対向して配置され前記正極板のタブの先端部が接合された正極集電部材と、前記電極群の他側端面に対向して配置され前記負極板のタブの先端部が接合された負極集電部材と、非水電解液と、上記各部材を収容する円筒状容器からなるリチウムイオンキャパシタの構造に関する。捲回した電極群は円筒状有底缶内に挿入され、挿入された電極群の負極集電部材が円筒状有底缶と接続され円筒状有底缶全体が負極の役割を果たす。
【0008】
挿入された電極群の負極集電部材と円筒状有底缶の接続にはスポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接、FSW等の溶接が用いられる。溶接時にチリ、カスが発生するとその後の電解液を注液する工程の後、チリ、カスは電解液により運ばれ、正極板、負極板間でマイクロショートを起こす又は短絡を引き起こす恐れがある。マイクロショートが起きるとリチウムイオンを負極活物質に吸蔵ないしドープさせる際に、リチウムイオンを十分に負極活物質に吸蔵させることができなくなるためリチウムイオンキャパシタの性能が低下するおそれがある。最悪の場合、セル短絡となるとセルとして機能を失う。
【0009】
さらに円筒状有底缶内には非水電解液が注入されるので、前記負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部は前記非水電解液にさらされる。注液を開始した時点からリチウムがイオン化し、負極の金属構成部材に析出すると、負極活物質への吸蔵ないしドープが不完全となり、リチウムイオンキャパシタの性能が低下するおそれがある。
【0010】
又、電極群の負極集電部材と円筒状有底缶の接続部分は電解液に浸漬され接続部分で液腐食が進行すると、接続部から円筒状容器に穴が開き、漏液するおそれがある。
【0011】
本発明は上記事案に鑑み、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵ないしドープさせる際に、リチウムが負極集電部材に析出するのを防ぎ、さらに電極群の負極金属構成部材と円筒状有底缶の接続で発生したチリ、カスが原因によるマイクロショートを防ぐことで予め負極にリチウムイオンを十分に吸蔵させることができるリチウムイオンキャパシタを提供すること又、電極群の負極集電部材と円筒状有底缶の接続部分が電解液に浸漬され接続部分で液腐食が進行し、接続部から円筒状容器に穴が開き、漏液することを防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
長手方向に沿う一側にタブが形成された第1の金属箔に活物質合剤が塗着された正極板と長手方向に沿う一側にタブが形成された第2の金属箔に活物質合剤が塗着された負極板とをセパレータを介して捲回した電極群と、電極群の一側端面に対向して配置され正極板のタブの先端部が接合された正極集電部材と、電極群の他側端面に対向して配置され負極板のタブの先端部が接合された負極集電部材と、非水電解液と、電極群、正極集電部材、負極集電部材および非水電解液を収容する円筒状容器と、を有し、負極集電部材と円筒状容器との間に、ゴム又はシート状のシール部材を配置するリチウムイオンキャパシタとする。
【0013】
その際、電極群は円筒状の軸芯を中心として、正極板および負極板がセパレータを介して捲回されたものであり、軸芯の周面に貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0014】
そして、容器は円筒状有底缶であり、容器が負極の極性を有する構造とすることも好ましい。
【0015】
また、薄板状の金属リチウムを金属箔で保持した積層体を、電極群内に負極板とは導通し正極板とは絶縁した状態で予め配置しておき、積層体は、金属リチウムが負極板の活物質合剤を構成する負極活物質に吸蔵されることで金属箔のみが残存配置されている構造とすることが好ましい。
【0016】
ゴム又はシート状のシール部材は、シリコーンゴム、フッ素ゴム、EPT、EPDM、EPM、合成ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、アクリルゴム、天然合成ゴム、スチレンブタジエンゴム、ハイパロンゴム、ウレタンゴム、二トリルゴムのうちのいずれか2種類以上の混合物であるとよい。
【0017】
またその混合物が、加熱されて溶融する性質を有する場合や、圧縮されて使用される場合がある。
【0018】
その際の混合物の圧縮率は、35%以上50%未満であると最適である。
【0019】
本発明では、電極群の負極集電部材と円筒状有底缶の接続部分はシール部材で覆われるため接続部分に電解液が浸入することがなく、負極集電部材の底部でリチウムの析出を抑制することができ、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵ないしドープさせる際に、リチウムイオンを十分に負極活物質に吸蔵させることができるとともに、遊離電解液の発生を防止することができる。
【0020】
さらに、シール状部材により負極集電部材と円筒状有底缶との溶接部に電解液が存在しないので負極集電部材と円筒状有底缶との溶接部は液による侵食がなく、液漏れ穴あきを防止することができる。又、負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部でチリ、カスが発生しても溶接部に電解液が存在しないためチリ、カスが電解液によって運ばれることがなく、電極群の負極集電部材と円筒状有底缶との接続で発生したチリ、カスが原因によるマイクロショートを防ぎ、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵ないしドープさせる際に、リチウムイオンを十分に負極活物質に吸蔵させることができるとともに、遊離電解液の発生を防止することができる。
【0021】
また、本発明において、薄板状の金属リチウムを金属箔で保持した積層体を電極群内に負極板と導通し正極板と絶縁した状態で予め配置しておき、積層体は、金属リチウムが負極板の活物質合剤を構成する負極活物質に吸蔵されることで金属箔のみが残存配置されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、負極集電部材と円筒状有底缶の特にシール部材で覆われた部分はシール部材により電解液が浸入することがないため、負極集電部材の底部でリチウムの析出を抑制する事ができ、かつ、負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部で溶接時のチリ、カスが原因となるマイクロショートを防ぎ、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵ないしドープさせる際に、リチウムイオンを十分に負極活物質に吸蔵させることができるとともに、遊離電解液の発生を防止することができるという効果を得ることができる。さらに、シール状部材により負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部に電解液が存在しないので負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部は液による侵食がなく、液漏れ穴あきを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオンキャパシタの断面図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
<組立>
図1に示すように、正極リード片2aを変形させ、その全てを、電極群7の軸芯1のほぼ延長線上にある正極集電リング5の周面付近に集合させ、接触させた後、正極リード片2aの先端部と周面とを超音波溶接して正極リード片2aを周面に接合する。一方、負極集電リング6と負極リード片3aとの接続操作も、正極集電リング5と正極リード片2aとの接合操作と同様に接合する。また、積層体20A、20Bのタブ20aの先端部も同様に負極集電リング6に接合する。なお、タブ20aおよび負極リード片3aの負極集電リング6への接合は同時に行われる。
【0026】
積層体20の負極板への電気的接続手段は、必ずしも上記に限定されず、タブ20aを設けずに、次のようにすることもできる。
(1)負極板3の捲回開始部分(捲回群の内側にあたる)に、積層体20を溶接またはリベット、または圧着して接続する。
(2)負極板3の捲回終り部分(捲回群の外側にあたる)に、積層体20を溶接またはリベット、または圧着して接続する。
(3)捲回途中で正負極板を切断し積層体20を溶接またはリベット、または圧着して負極板の端に接続する、さらに、捲回を続ける新たな負極板の端に、前記積層体20の反対端側を溶接またはリベット、または圧着して接続し、さらに捲回を行う。この操作中、セパレータは捲回終了まで切断しない。前記正負極板の切断は複数回行ってもよい。
(4)上記(1)から(3)の少なくとも一つ以上の操作を組み合わせる。
(5)捲回開始部分、捲回終り部分、捲回途中部分の少なくとも一箇所で、積層体20を負極板に直接接触するように配置する。正負極板、セパレータのいずれも途中で切断することはない。
(6)捲回開始部分、又は捲回終り部分、捲回途中部分の負極板に、活物質層非形成部(集電体剥き出しの部分)を予め形成しておき、該活物質層非形成部に積層体20を直接接触するように配置する。正負極板、セパレータのいずれも途中で切断することはない。
その後、正極集電リング5の周面全周に絶縁被覆を施す。すなわち、粘着テープを正極集電リング5の周面から電極群7外周面に亘って一重以上巻いて絶縁被覆とし、電極群7を容器8内に挿入する。絶縁被覆には、例えば、基材がポリイミドで、その片面にアクリレート系粘着剤を塗布した粘着テープを用いることができる。
【0027】
負極集電リング6と円筒状有底缶8の間にシール部材9を置いてと負極集電リング6と円筒状有底缶8を溶接により接合する。溶接はスポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接、アーク溶接、TIG溶接、ガス溶接、電子ビーム溶接、ろう溶接、爆発圧接、FSW等又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
負極集電リング6と円筒状有底缶8の間にシール部材9を配置する方法は次のようにすることもできる。
(1)シール部材9の形状を負極集電リング6に勘合するように設計し、シール部材9を負極集電リング6にはめこんだ状態で電極群7を円筒状有底缶8に挿入する。その後の封口工程にて捲回群が圧迫される時にシール部材が適正な圧縮度合いに圧縮されることで負極集電部材と円筒状有底缶の溶接部は密閉される。
(2)上記(1)、又は事前にシール部材9を負極集電リング6の下に置いた状態で円筒状有底缶8に外部から熱を加える事でシール部材9を溶融させ負極集電リング6と円筒状有底缶8を密着させることもできる。
一方、正極集電リング5には、正極リード板10を溶接しておき、正極リード板10の他端を、容器8を封口するための容器蓋12の下面(蓋ケース12aの外底面)に接合する。上述したように、容器蓋12は、蓋ケース12aと蓋キャップ12bとで構成されており、これらが積層されて蓋ケース12aの周縁をかしめることによって予め組立てられている。なお、蓋ケース12aには、何らかの異常でリチウムイオンキャパシタの内圧が上昇したときに、安全のために所定の内圧に達したときに開裂する開裂溝が形成されている。開裂溝の開裂により、リチウムイオンキャパシタの内圧が開放される。
【0029】
次に、軸芯1の内周を利用して非水電解液を所定量容器8内に注入する。このような注液は安全性を確保するため低温環境下がよい。上述したように、軸芯1には複数本のスリットが形成されているため、これらのスリットを介して電極群7は内側(軸芯1の外周面側)から非水電解液に浸潤される。その後、正極リード板10を折りたたむようにして容器蓋12で容器8に蓋をし、ガスケット13を介してかしめて密封することにより、キャパシタ30を作製する。
(負極活物質へのリチウムの吸蔵)
次に、本実施形態のキャパシタ30において、積層体20A、20Bの金属リチウムW5の負極活物質(非晶質炭素)への吸蔵方法について説明する。
本例では、所定温度(例えば、室温)に管理された貯蔵室に所定期間(例えば、2週間〜4週間)、キャパシタ30を放置することでリチウムイオンを負極活物質に吸蔵させる。積層体20A、20Bのタブ20aは負極リード片3aとともに負極集電リング6に接合されているため、負極電位とリチウム電位との電位差により、所定期間の放置することで、金属リチウムW5は溶解し、負極板3の負極活物質(非晶質炭素)に吸蔵される。これにより、積層体20A、20Bに挟持された金属リチウムW5は溶解し、積層体20A、20Bはそれぞれ2枚の銅箔W3のみが残存配置されることになる。
(作用等)
次に、本実施形態の積層体20ならびにキャパシタ30の作用等について説明する。
【0030】
まず、本実施形態の積層体20によれば、金属リチウムW5を両面から銅箔W3で挟持する場合、銅箔W3の金属リチウムW5への貼付作業性が、片面に貼付ける場合より向上する。すなわち、金属リチウムW5に銅箔W3を貼付ける工程をロール等で圧接する手法を用いて自動化する際に、片面だけに銅箔W3を貼付けようとすると、ロールに直接触れる金属リチウムW5はロール周面に貼付くため、ロール周面に金属リチウムW5の一部が残存しやすく、安定した作業に懸念がある。また、ロール周面に金属リチウムW5が貼付いたままになると、急激な酸化反応が起こりやすく危険である。これを避けるために紙等の副資材を用いて、金属リチウムW5とロール周面との直接接触を回避すると、圧接時の銅箔W3と紙の伸び率の差異から歪が生じて、しわの発生や、最悪の場合、金属リチウムW5や銅箔W3の切断が起こる。金属リチウムW5を両面から銅箔W3で挟持することにより、前記の懸念を回避でき、生産性が大幅に向上する。
【0031】
また、金属リチウムW5を両面から銅箔W3で挟持した積層体20は、取扱いが容易である。すなわち、金属リチウムW5の片面に銅箔W3を貼付けた場合に比べて、積層体20の折り曲げ強度が高いので、取り扱い中にしわ等が発生する懸念がない。また、切断強度が高いので切れにくい、金属リチウムW5に直接触れることがなくなるので安全である、取り扱い中に金属リチウムW5が剥れる心配がない等の利点がある。
【0032】
次に、本実施形態のキャパシタ30によれば、金属リチウムW5を備えた積層体20A、20Bを電極群7内に予め配置しておき、所定期間放置することで、金属リチウムが溶解して負極板3の負極活物質に吸蔵されることで、予め実施する吸蔵操作を容易に行うことができる。
【0033】
金属リチウムW5を両面から銅箔W3で挟持した積層体20は、両面の銅箔W3に負極へ接続するためのタブを設けることにより、同一面積の金属リチウムW5に対して銅箔W3に形成されたタブの密度が倍になる。金属リチウムW5の片面に銅箔W3を貼付けた場合に比べて、負極との接続抵抗が下がるので、リチウムイオンの負極への吸蔵が進みやすくなる。また、このとき、金属リチウムW5の銅箔W3からの滑落が防止され、実質的に全ての金属リチウムW5を負極への吸蔵に活用でき、吸蔵量の向上が可能である。金属リチウムW5の滑落による安全性低下(ショートを起こす懸念)の回避も可能である。負極へ吸蔵しきらず残存した金属リチウムW5があっても、銅箔W3に挟持されて滑落の心配がないので安全である。
【0034】
ところで、本実施形態のように、金属リチウムW5を負極に電気的に接触させて金属リチウムと負極の電位差だけでリチウムイオンの吸蔵を行う場合、負極の吸蔵深度が深くなるとその後の吸蔵がほとんど進まなくなる。そのため、容器8内に配置した金属リチウムW5が完全に負極に吸蔵され、容器8内に残らないようにするためには、理論量よりも少ない量を配置せざるを得ない場合が起こり得る。その一方で、キャパシタのフロート充電を例にとって考えると、長期間高温、高電圧でフロート充電した場合、電解液中のリチウムイオンと正極活物質および負極活物質との反応が進んで、負極から徐々にリチウムイオンが非可逆的に抜けてゆく。従って、予め負極に吸蔵させるリチウムイオンが多いほど(理論量に近いほど)キャパシタの信頼性は高くなる。
【0035】
その点、本実施形態の積層体20中の金属リチウムW5は、滑落する心配がなく容器8内に残存することになっても安全であり、いずれは負極に吸蔵されて容器8内から全て消失する。銅箔W3で金属リチウムW5を挟持した積層体20を容器8に配置することで、安全性を損なうことなくリチウムイオンの理論量を負極へ吸蔵できるので、キャパシタの信頼性を向上できる。
【0036】
さらに、積層体20A、20Bの銅箔W3の孔明き形成部には、貫通孔が略均等に形成されており、電極群7の内周部および外周部の両側に積層体20A、20Bが配置されているので、放置期間を短くすることができるとともに、負極活物質に均等にリチウムイオンを吸蔵させることができる。また、本実施形態のキャパシタ30では、積層体20A、20Bが、負極板3が挟まれた2枚のセパレータの2面間で負極板3の捲回延長線上に配置されるように捲回されており、積層体20A、20Bは負極板3と対向するため、放置期間の短縮と非晶質炭素へのリチウムイオンの均等吸蔵を助長することができる。
【0037】
また、本実施形態のキャパシタ30では、予め実施する吸蔵操作により、積層体20A、20Bに挟持された金属リチウムW5は溶解し、電極群7内に、積層体20A、20Bのうちそれぞれ銅箔W3のみ残存配置される。しかしながら、金属リチウムW5は薄い板状であり、銅箔W3が残存配置されるとともに、積層体20A、20Bはセパレータ4A、4Bの負極板4が挟まれた捲回延長線上に挿入捲回されており、負極板4は正極板5より長いので、金属リチウムを直接電極群7内に捲回する場合と比べ、電極群7の捲回構造を維持することができ、正極板2、負極板3からの活物質合剤の剥離離脱(滑落)を防止することができる。このため、長期使用をしても、初期の性能を維持することができる。さらに、セパレータ4A、4Bは途中で切断されることなく電極群7内で捲回されているので、この利点を助長することができる。
【0038】
さらに、本実施形態のキャパシタ30では、正極板2、負極板3、積層体20A、20Bのそれぞれを構成するアルミニウム箔W1および銅箔W3のリード片ないしタブに隣接する箇所に貫通孔未形成部が形成されているとともに、積層体20A、20Bでは、孔明き形成部の面積が金属リチウムW5の面積より大きく設定されている。このため、正極板2、負極板3、積層体20A、20Bをセパレータ4を介して捲回し電極群7を構成しても、正極板2、負極板3、積層体20A、20Bの捲回で、アルミニウム箔W1や銅箔W3に塗着されたり挟持された活物質合剤や金属リチウムにより、リード片ないしタブの基部が膨らんだり、エッジ状の突出部が形成されることなく、長期使用によっても、セパレータ4の破断や破断による内部短絡を防止することができる。従って、長寿命のキャパシタ30を得ることができる。なお、図3に示した活物質合剤の端部構造もこの利点を助長している。
【0039】
また、本実施形態のキャパシタ30では、正負極板のアルミニウム箔W1および銅箔W3の両面に活物質合剤が塗着されており、該活物質合剤は孔明き形成部を介して連通しているとともに、スラリ塗布時に塗工口がずらされた表裏面2つの塗工機でスラリの塗工が行われ、アルミニウム箔Wの垂直搬送が行われるので、貫通孔にエアが残留することを防止することができる。従って、キャパシタ30のエネルギ密度を高めることができるとともに、内部抵抗を低減させることができる。とりわけ、本実施形態では、貫通孔の各面積が8×10−7以下の1.3×10−7(=0.2mm×0.2mm×π)で略均等に設定され、貫通孔の開口率が20%に設定されているので、量産工程において金属箔への活物質合剤の塗着が容易で、かつ、キャパシタ全体の内部抵抗を小さくすることができる。換言すれば、貫通孔の各面積が8×10−7を超えるとスラリの均一塗工(活物質合剤の集電体への均一塗着)が難しくなり(特に、貫通孔への活物質合剤の充填および凸凹の発生)、また、電極群を構成したときに正負極板の強度の弱化を招く。なお、貫通孔の各面積が小さい場合には、リチウムイオンの移動距離を短くし内部抵抗の増加を避けるために、アルミニウム箔W1および銅箔W3にリチウムイオンが通過可能なように単位面積あたりの貫通孔を多く形成することが好ましい。
【0040】
また、本実施形態のキャパシタ30では、容器8の内底面から負極集電リング6の上部まで樹脂製材11により詰め物がなされている。このため、金属リチウムW5からのリチウムイオンが負極活物質に吸蔵されずに、他の負極を構成する部材に析出してセパレータ4の破断等を招くことを防止するとともに、論理総充填量に近い金属リチウムW5の総充填量を設定でき、金属リチウムW5の厚さを極力薄くすることが可能となり、電極群7の捲回構成の脆弱化を防止することができる。さらに、容器8の内底面から負極集電リング6の上部まで樹脂製材11を配することにより、遊離電解液をなくすことができる。また、容器8の内周面がポリアミドイミドで被覆されているので、容器8の内周面にリチウムが析出しない。
【0041】
なお、本実施形態では、積層体20を電極群7の内周側と外周側との2箇所に挿入捲回した例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、図12に示すように、積層体20を電極群7内の1箇所に挿入捲回するようにしてもよい。このような形態では、負極板は2つに分割され、積層体は、2つの負極板の間に捲回されるとともに、負極板が挟まれた2枚のセパレータ4A、4B間で負極板の捲回延長線上に配置されるように捲回される。この態様では、積層体20を捲回の中央(例えば、捲回開始から捲回終わりまでの長さの中間)に配置することが好ましい。正極板は負極板と対向するように2つに分割するようにしてもよい。この態様でも、セパレータ4A、4Bは、本実施形態と同様に、途中で切断されることなく電極群7内で捲回されていることが好ましい。積層体は、必ずしも上記のように負極板の捲回延長線上に配置されなくてもよく、正極板と絶縁した状態で、負極板と直接またはセパレータを介して対向させるように配置してもよい。
【0042】
また、本実施形態では、積層体20A、20Bがそれぞれ1周捲回された例を示したが、本発明はこれに制約されることなく、複数周捲回するようにしてもよい。この場合には、金属リチウムの溶解による電極群7の脆弱化を防止するために、金属箔(銅箔)を負極板3の銅箔より厚いものにするようにしてもよい。逆に、1周を超えて捲回すると重なり部分が厚くなって不都合が生じる場合には、1周以下で捲回し、1周以下で捲回された箇所が複数箇所あってもよい。この態様の方が電極群7の脆弱化を防止しやすいと考えられる。
【0043】
また、本実施形態では電極群7の中心に軸芯1を配置した例を示したが、本発明はこれに限らず、軸芯のない電極群を用いたリチウムイオンキャパシタにも適用可能である。
【0044】
また、本実施形態では、両面に活物質合剤が塗着された極板を例示したが、本発明はこれに限ることなく、片面のみに活物質合剤が塗着された極板にも適用が可能である。さらに、本実施形態では、正負極板および積層体の孔明き形成部に円形の貫通孔を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。すなわち、貫通孔の形状は、例えば、三角形、四角形等の多角形、星形、台形等の任意の形状を採ることができる。また、正負極板および積層体の孔明き形成部の貫通孔の開口率に20%のものを例示したが、これについても本発明を制限するものはない。開口率としては、例えば、5%〜55%、好ましくは、10%〜40%、より好ましくは、10%〜25%とすることができる。
【0045】
またさらに、本実施形態では、2枚のセパレータ4A、4Bを使用する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。すわなち、1枚のセパレータを折り返して使用すれば2枚のセパレータと同じく使用でき、1枚のセパレータに代えて、薄いセパレータを例えば2枚ないし3枚ずつ重ねて使用することができる。従って、本発明者らは、このような態様も本発明の「2枚のセパレータ」と同じ意味であるかまたは均等のものと考えている。
【0046】
さらに、本実施形態では、セパレータ4A、4Bの捲回開始端を軸芯1に粘着することにより固定する例を示したが、本発明はこれに制約されず、例えば、溶着でセパレータ4A、4Bの捲回開始端を軸芯1に固定するようにしてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、金属リチウムW5に矩形板状のものを例示したが、本発明は金属リチウムW5の形状に制限されるものではない。例えば、円形板状のものや台形板状のものを用いるようにしてもよい。また、容器8の形状についても、円筒状に限らず、断面が楕円状、小判状、矩形状のものも使用可能である。円筒状とは、横断面形状が円形のほか、楕円状、小判状、矩形状のものも、均等物として含む。
【0048】
また、本実施形態では、理解が容易なように、例として種々の数値を挙げて説明したが、特許請求の範囲で定義された数値でない限り、本発明がこれらに制限されるものでないことは云うまでもない。さらに、本実施形態では、リチウムイオンキャパシタを作製するための部材について具体的に例示したが、これらについても、特許請求の範囲で言及のない限り、本発明を制限するものではない。従って、本願出願時点で公知の部材や材料を用いることができる。
【0049】
例えば、負極活物質には、天然黒鉛、人造黒鉛、MCMB(メゾフェーズカーボンマイクロビーズ)、MCF(メゾフェーズカーボンファイバ)、コークス、VGCF(気相成長炭素繊維)、難黒鉛化性炭素、ポリアセチレン系有機半導体、カーボンナノチューブ、これらの混合物、さらにこれらまたはこれらの混合物にホウ素、珪素、窒素などを導入したものを用いることができ、比表面積も例示したものに限られるものではない。また、正極活物質には、材料表面近傍に存在する電気二重層へのリチウムイオンおよび陰イオンの吸脱着を充放電に利用できるものであれば特に制限はなく、代表的な物質として活性炭が選択される。さらに、正負活物質の粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に本発明が制限されるものではない。
【0050】
また、負極活物質の結着剤には、エチレンアクリル酸系バインダ、ポリアクリル酸系バインダ、SBR系バインダ、NBR系バインダ、PVDF系バインダ、PVA系バインダおよびこれらの混合物等を用いるようにしてもよく、これらの水分散エマルジョンを用いることもできる。バインダに水分散エマルジョンを用いる場合は、好ましくはカルボキシメチルセルロースやPVA等の、高粘度の分散剤を添加する。
【0051】
正極活物質の結着剤には、エチレンアクリル酸系バインダ、ポリアクリル酸系バインダ、SBR系バインダ、NBR系バインダ、PVDF系バインダ、PVA系バインダ、PTFE系バインダおよびこれらの混合物等を用いるようにしてもよく、これらの水分散エマルジョンを用いることもできる。バインダに水分散のエマルジョンを用いる場合は、好ましくはカルボキシメチルセルロースやPVA等の、高粘度の分散剤を添加する。正極活物質のバインダが水分散バインダであると、キャパシタの特性上特に好ましい。
【0052】
さらにまた、導電助材には、アセチレンブラックやケッチェンブラック、微粉砕した黒鉛粉末等の導電性炭素粉末を用いることもできる。
【0053】
さらに、非水電解液には、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用してもよく、リチウム塩や有機溶媒にも特に制限されるものではない。例えば、電解質としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、(CSONLi、(CFSONLi等やこれらの混合物を用いることができる。さらにまた、非水電解液の有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等又はこれら2種類以上の混合溶媒を用いるようにしてもよい。
【0054】
さらにまた、セパレータとしては、多孔質基材が用いられ、例えば、クラフト紙等のセルロース系の多孔質基材、ポリエチレン、ポリプロポレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等の多孔質フィルム基材や、ガラス繊維からなる多孔質基材あるいはこれらを重ねて用いるようにしてもよい。
【0055】
そして、本実施形態では、積層体20の金属箔に銅箔を例示したが、本発明はこれに限ることなく、コスト等を考慮し、例えば、銅合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔を用いるようにしてもよい。
【0056】
膨潤性・浸透性の少ないゴム又はシート状のシールの材質はシリコーンゴム、フッ素ゴム、EPT、EPDM、EPM、合成ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、アクリルゴム、天然合成ゴム、スチレンブタンジエンゴム、ハイパロンゴム、ウレタンゴム、二トリルゴム等、これら2種類以上の混合物を用いるようにする。又、架橋により強度をあげてもよい。
【0057】
実施例を表1に示す。

【0058】
実施例のフッ素系樹脂としてはPTFE、PFA、FEP、ETFE、PVDF、PCTFE、ECTFE等があげられる。
【0059】
EPDMはエチレンとプロピレンの共重合に第三成分としてジエン系モノマーを配合したもの。代表的な第3成分としてエチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、ジシクロペンタジエン(DCP)などがある。ゴムの圧縮率は、40%が最適。30〜35%程度では密閉不足。50%以上ではゴム弾性が失われやすい。
【符号の説明】
【0060】
1…軸心、2…正極板、2a…正極リード片(タブ)、3…負極板、3a…負極リード片、4…セパレータ、5…正極集電リング(正極集電部材)、6…負極集電リング(負極集電部材)、7…電極群、8…円筒形容器、9…シール部材、12…蓋ケース、13…負極集電部材と円筒状有底缶との溶接部、20…積層体、30…リチウムイオンキャパシタ、W1…アルミニウム箔(金属箔)、W3…銅箔(金属箔)、W5…金属リチウム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿う一側にタブが形成された第1の金属箔に活物質合剤が塗着された正極板と長手方向に沿う一側にタブが形成された第2の金属箔に活物質合剤が塗着された負極板とをセパレータを介して捲回した電極群と、
前記電極群の一側端面に対向して配置され前記正極板のタブの先端部が接合された正極集電部材と、
前記電極群の他側端面に対向して配置され前記負極板のタブの先端部が接合された負極集電部材と、
非水電解液と、
前記電極群、前記正極集電部材、前記負極集電部材および前記非水電解液を収容する円筒状容器と、
を有するリチウムイオンキャパシタであって、
前記負極集電部材と前記円筒状容器との間に、ゴム又はシート状のシール部材を配置することを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記電極群は円筒状の軸芯を中心として、前記正極板および前記負極板が前記セパレータを介して捲回されたものであり、前記軸芯の周面に貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記容器は円筒状有底缶であり、前記容器が負極の極性を有することを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
薄板状の金属リチウムを金属箔で保持した積層体を、前記電極群内に前記負極板とは導通し前記正極板とは絶縁した状態で予め配置しておき、前記積層体は、前記金属リチウムが前記負極板の活物質合剤を構成する負極活物質に吸蔵されることで前記金属箔のみが残存配置されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
前記ゴム又はシート状のシール部材が、シリコーンゴム、フッ素ゴム、EPT、EPDM、EPM、合成ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、アクリルゴム、天然合成ゴム、スチレンブタジエンゴム、ハイパロンゴム、ウレタンゴム、二トリルゴムのうちのいずれか2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
前記混合物が、加熱されて溶融する性質を有することを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項7】
前記混合物が、圧縮されて使用されることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項8】
前記混合物の圧縮率が、35%以上50%未満であることを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオンキャパシタ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−9716(P2012−9716A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145676(P2010−145676)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】