説明

リチウムイオン二次電池パック

【課題】リチウムイオン二次電池パックに関し、火炎がある場合に、気化した電解液が噴き出して引火することを防止できるようにする。
【解決手段】密閉容器の内部に電解液を有する複数のセル20と、複数のセル20それぞれに設置され、セル20の内部と外部との連通状態を切り換える電磁弁と、複数のセルをその内部空間に収納するケーシング12と、ケーシング12内の火炎、又は、ケーシング12を含有する所定の領域内の火炎を検出する火炎検出手段30と、火炎検出手段30により火炎が検出されると、セル20の内部と外部とが連通する状態となるように電磁弁を作動させる制御手段40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド車等に用いて好適の、リチウムイオン二次電池パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に搭載されるモータ駆動用のバッテリ(電池パック)のために、例えば、特許文献1に開示されているように、リチウムイオン二次電池が開発されている。
電気自動車のリチウムイオン二次電池からなるバッテリは、モータ駆動に必要な大きなパワーを取り出すために、多数の単電池(以下、セルという)が直列接続された組電池、又は、直列接続と並列接続とを併用して接続された組電池の構造で構成されている。
【0003】
各セルは、密閉容器の内部に電解液を閉じ込めて形成されており、密閉容器には、電解液の気化によりセル内の圧力が異常に高まったときに、気化した電解液をセル外に逃すための安全弁が取り付けられている。
【特許文献1】特開2000−12082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各セルの電解液には、可燃性の有機溶媒が使用されているが、火気のない場所であれば、電解液が発火することはない。しかし、駐車中に近距離で火災が発生した場合など、火気のある場所では、電解液に引火するおそれがある。また、可燃性の有機溶媒は、一般的に、液体の状態よりも気化した状態の方が燃焼性が強い(つまり、燃焼速度が速い)ということが知られている。火災の熱による温度上昇でセル内部において電解液が気化し、セル内圧力が異常に高まった状態で安全弁が開放されたとき、気化した電解液が一気にセル外部へ噴き出し、この気化した電解液に引火することが考えられる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、火災等により火炎がある場合に、気化した電解液が噴き出して引火することを防止できるようにした、リチウムイオン二次電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックは、密閉容器の内部に電解液を有する複数のセルと、該複数のセルそれぞれに設置され、該セルの内部と外部との連通状態を切り換える電磁弁と、該複数のセルをその内部空間に収納するケーシングと、該ケーシング内の火炎、又は、該ケーシングを含有する所定の領域内の火炎を検出する火炎検出手段と、該火炎検出手段により火炎が検出されると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように該電磁弁を作動させる制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックは、請求項1記載のリチウムイオン二次電池パックにおいて、該セルの内部の圧力を検出する圧力検出手段を備え、該制御手段は、該圧力検出手段により検出された該圧力が所定の圧力以上になると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように該電磁弁を作動させることを特徴としている。
請求項3記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックは、請求項1記載のリチウムイオン二次電池パックにおいて、該セルの内部の圧力が所定の圧力以上になると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように作動する安全弁を、該電磁弁と別体に備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックによれば、ケーシング内、又は、ケーシングを含有する所定の領域内の火炎を検出すると、セルの電磁弁を作動させるので、電解液が火炎の熱で気化して一気にセル外へ噴き出す前に電解液を液状態で放出することができ、気化した電解液が噴き出すのを防止することができる。
請求項2記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックによれば、電磁弁に、異常圧力で作動する従来の安全弁の機能と、火炎の存在で作動する新たな機能との2つの機能を持たせるので、電池パックの高性能の安全機構をコンパクトに形成することができる。
【0009】
請求項3記載の本発明のリチウムイオン二次電池パックによれば、火炎の存在で作動する電磁弁と別体に、異常圧力で作動する安全弁を備えるので、電池パックの安全性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図5は、本発明の一実施形態のリチウムイオン二次電池パックを示す図であって、図1はその模式的な断面図、図2はそのセルの模式的な側面図、図3はその電池パックの構成を示すブロック図、図4はその電磁弁の作動順序を示すフローチャート、図5はその電池パックを搭載した電気自動車の模式的な側面図である。
【0011】
<構成>
ここでは、図5に示すように、電気自動車(車両)1に、本発明のリチウムイオン二次電池パック(以下、単に電池パックともいう)10を適用した場合について説明する。
電池パック10は、電気自動車1のモータを駆動するためのバッテリとして使用されるものであって、図1に示すように、多数(例えば100個)のリチウムイオン二次電池(以下、単独のリチウムイオン二次電池をセルという)20が、直列接続された組電池、または、直列と並列とを併用して接続された組電池の状態で使用されている。
【0012】
そして、セル20は、複数個(例えば、ここでは4個)ずつまとめて小ケース11内に収納されてモジュール化され、さらに、複数の小ケース11が、小ケース11よりも容積が大きい大ケース(ケーシング)12内に並んで収納されている。つまり、電池パック10においては、セル20が小ケース11と大ケース12との二重ケース構造で収納されている。また、小ケース11と大ケース12とは、セル20の外装缶21(図2参照)に比べて、密閉の程度は低く形成されている。具体的には、小ケース11と大ケース12とには、配線等を挿通するための孔が開口される等しており、水が浸入しない程度にシールされてはいるが、その耐圧の程度は高くない。
【0013】
セル20自体の構造について詳述すると、セル20は、図2に示すように、外装缶21の内部に、可燃性の有機溶媒からなる電解液が密閉注入されて形成されている。外装缶21は、密閉容器であって、その耐圧の程度は極めて高く設計されている。また、セル20は、セル20内部の圧力(実圧力)Pを検出する公知の圧力センサ(圧力検出手段)22と、セル20内部の電解液を外部へ放出するように作動する電磁弁23とを備えている。
【0014】
圧力センサ22は、後述するコントローラ40へ、検出した実圧力Pを信号として送信するようになっている。電磁弁23は、セル20の内部と外部との連通状態を切り換えるものであって、通常時は閉じてセル20の内部と外部とを遮断するノーマルクローズの電磁弁である。そして、この電磁弁23の作動状態を切り換えることにより、電解液を気化した状態や液体の状態でセル20の外部へ放出することができるようになっている。また、電磁弁23は、コントローラ40によって、その作動を制御されるようになっている。
【0015】
さて、大ケース12の内部には、図1に示すように、複数の小ケース11が並んで配置されているとともに、大ケース12内の火炎の有無を検出する火炎センサ(火炎検出手段)30と、コントローラ(制御手段)40とが配設されている。
火炎センサ30は、公知のものであって、例えば、紫外線や赤外線等のスペクトルを検出可能に構成されている。そして、検出したスペクトルを信号としてコントローラ40へ送信するようになっている。また、火炎センサ30の検出エリアは、ここでは、大ケース12の内部空間となっている。
【0016】
コントローラ40は、図3に示すように、入力側に圧力センサ22及び火炎センサ30が接続され、出力側に電磁弁23が接続されるとともに、記憶部41と判断部42と制御部43とを有している。
記憶部41は、圧力センサ22で検出された実圧力Pとの比較のために、予め設定された所定の圧力(閾値)P0を記憶している。この所定の圧力P0は、セル20の外装缶21の耐圧よりも低いが、通常使用条件下で良好に電池パック10を連続使用し得るように、比較的高い圧力(例えば5気圧)に設定されている。
【0017】
また、記憶部41は、火炎センサ30で検出されたスペクトルの識別のために、特定スペクトルを記憶している。この特定スペクトルは、火炎から放射される赤外線や紫外線のスペクトルである。
判断部42は、圧力センサ22から送信された信号を受信して、受信した実圧力Pと記憶部41に記憶された所定の圧力P0とを比較し、実圧力Pが所定の圧力P0以上(P≧P0)になったときに、セル20内部の圧力Pが異常に高まったと判断するようになっている。そして、電磁弁23を作動させるべく、制御部43へ信号を送信するようになっている。
【0018】
また、判断部42は、火炎センサ30から送信された信号を受信して、受信したスペクトルが記憶部41に記憶された特定スペクトルを含むか否かを識別し、大ケース12内に火炎が在るか否かを判断するようになっている。そして、火炎が在ると判断すると、制御部43へ信号を送信するようになっている。
制御部43は、判断部42がセル20内部の圧力が異常に高まったと判断した場合、又は、大ケース12内に火炎が在ると判断した場合に、判断部42から信号を受信して、電磁弁23を作動させるべく電磁弁23へ信号を送信するようになっている。電磁弁23は、制御部43からの信号を受けて開弁作動し、セル20の内部と外部とを連通させて、セル20内部の電解液を放出するようになっている。
【0019】
<作用・効果>
本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池パックは上述のように構成されているので、以下のような作用・効果がある。
図4のフローチャートを用いて、その作用について説明すると、圧力センサ22及び火炎センサ30によって、セル20内部の圧力P及び大ケース12内部(電池パック10内部)の様子の監視を開始する(ステップS10)。このとき、まず、判断部42によって、火炎センサ30からの情報を識別し、例えば駐車中に近距離で火災が発生して、大ケース12内部にまで火炎が侵入したか否かを判断する(ステップS20)。そして、大ケース12内部に火炎が在ると判断されたら、制御部43によって全てのセル20の電磁弁23を作動させる(ステップS40)。一方、大ケース12内部に火炎はないと判断されたら、次に、再び判断部42によって、セル20内部の圧力Pが異常に高まっていないか(すなわち、所定の圧力P0以上であるか)否かを判断する(ステップS30)。そして、セル20内部の圧力Pが異常に高まっていると判断されたら、制御部43によって全てのセル20の電磁弁23を作動させる(ステップS40)。
【0020】
したがって、大ケース12内部に火炎がある場合には、電解液の気化が進む前に、セル20の内部と外部とを連通させ、電解液を液状のままセル20外へ積極的に放出することができる。このとき、引火性のある電解液がセル20外へ放出されることになるが、可燃性の有機溶媒は一般的に液体状態では気体状態よりも燃焼性が低い(つまり、燃焼速度が遅い)ので、液状の電解液に引火しても、穏やかな燃焼に抑えることができる。つまり、電解液は可燃性であるため、火災時には、電池パック10への引火は防止できないが、引火を電解液の液体状態時に行なうことで、燃焼を穏やかなものに抑制することができる。
【0021】
また、電磁弁23は、セル20内部の圧力Pが異常に高まったと判断された場合にも作動し、気化した電解液をセル20外へ放出することができる。つまり、火炎がない状況下では、電磁弁23はセル20内部の圧力Pが異常に高まるまで開かずに良好に連続使用することができ、一方、火炎が在る状況下では、セル20内部の圧力が低い状態であっても電解液を放出し、電池パック10の高い安全性を確保することができる。
【0022】
さらに、電磁弁23は、異常圧力で作動する従来の安全弁の機能と、火炎の存在で作動する機能といった2つの機能を有しているので、電池パック10の高性能の安全機構を簡素に構成することができる。
【0023】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0024】
例えば、上記実施形態において、電磁弁23を、従来の安全弁の機能と、火炎の存在で作動する新たな機能との2つの機能を有するように構成したが、電磁弁23を火炎の存在で作動する機能のみを有するように構成し、電磁弁23と別体に、セル20内部の圧力Pが所定の圧力P0以上になると、セル20内部の気化した電解液をセル20外へ放出するように作動する安全弁を備えても良い。このとき、安全弁の構成は特に限定されず、例えば、セル20の外装缶21の壁の一部分を他の部分よりも薄く形成し、セル20の圧力が異常に高まったときに、この薄壁部が積極的に壊れるように構成しても良い。
【0025】
また、上記実施形態では、火炎センサ30が、大ケース12内部の火炎を検出するように構成したが、火炎センサ30を車両1の大ケース12外部の適宜の箇所に設置し、大ケース12を含有する所定の領域内の火炎を検出するように構成しても良い。つまり、未だ電池パック10内部に到達していない、電池パック10外部で生じている火災等を検出するようにしても良く、火炎センサ30の監視エリアを、例えば、車両1全体としても良いし、電池パック10近傍の適宜の領域としても良い。
【0026】
また、上記実施形態では、火炎センサ30を、赤外線や紫外線のスペクトルを検出するように構成したが、火炎を検出することができれば、このような構成に限らない。また、判断部42についても、火炎の有無の判断方法を火炎センサ30の構成に併せて適宜変更可能である。さらに、火炎センサ30に判断部42の機能を持たせて、火炎センサ自体が火炎の有無を判断し、火炎があると判断されたときのみ、コントローラ40の制御部43へ信号を送信するようにしても良い。
【0027】
また、上記実施形態では、二重構造のケース11,12でセル20が収納されているが、一重のケース12でセル20が収納されていても良い。この場合は、火炎がケース12内部に侵入する前に、火炎の存在を検出するように構成することが好ましい。
さらに、上記実施形態では、本発明のリチウムイオン二次電池パックを電気自動車に適用した場合について説明したが、本発明のリチウムイオン二次電池パックは、大容量の電力を必要とする様々なシステムに適用し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池パックを示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池パックのセルを示す模式的な側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池パックの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池パックの電磁弁の作動順序を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池パックを搭載した電気自動車の模式的な側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 電気自動車(車両)
10 リチウムイオン二次電池パック(バッテリ)
11 小ケース(モジュールケース)
12 大ケース(ケーシング,パックケース)
20 リチウムイオン二次電池(セル)
21 外装缶
22 圧力センサ(圧力検出手段)
23 電磁弁
30 火炎センサ(火炎検出手段)
40 コントローラ(制御手段)
41 記憶部
42 判断部
43 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器の内部に電解液を有する複数のセルと、
該複数のセルそれぞれに設置され、該セルの内部と外部との連通状態を切り換える電磁弁と、
該複数のセルをその内部空間に収納するケーシングと、
該ケーシング内の火炎、又は、該ケーシングを含有する所定の領域内の火炎を検出する火炎検出手段と、
該火炎検出手段により火炎が検出されると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように該電磁弁を作動させる制御手段とを備えた
ことを特徴とする、リチウムイオン二次電池パック。
【請求項2】
該セルの内部の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
該制御手段は、該圧力検出手段により検出された該圧力が所定の圧力以上になると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように該電磁弁を作動させる
ことを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池パック。
【請求項3】
該セルの内部の圧力が所定の圧力以上になると、該セルの内部と外部とが連通する状態となるように作動する安全弁を、該電磁弁と別体に備えた
ことを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−269973(P2008−269973A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111815(P2007−111815)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】