説明

リチウムイオン二次電池用正極集電体、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法

【課題】集電体の電解液への溶出を防止して集電体と活物質の界面における抵抗の増大を抑制することで電池寿命を延長させることができるリチウムイオン二次電池用正極集電体、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法を提供する。
【解決手段】純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の片面または両面に形成された表面層と、を備えるリチウムイオン二次電池用正極集電体であって、前記表面層は、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなる金属から構成されるとともに、前記表面層の表面に酸化処理が施されることにより前記表面層の少なくとも最表面が酸化されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極集電体、正極および正極集電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の小型化や高性能化によって、当該携帯機器に搭載される二次電池のエネルギー密度(充放電容量)に対する要求は益々高まっている。その中でもリチウムイオン二次電池(以下、適宜二次電池と略す)は、ニッケルカドミウム二次電池やニッケル水素二次電池等と比べて高い電圧と高いエネルギー密度を示すため、携帯機器の電源として広く使用されている。また、環境意識の高まりとともに、現在の化石燃料を用いる自動車からCO排出量の少ない電気自動車、あるいはハイブリッド自動車への移行が望まれており、これらに搭載される電池としてリチウムイオン二次電池への期待が高まっている。
【0003】
電気自動車、ハイブリッド自動車等に搭載される二次電池に求められる特性としては、エネルギー密度が高いこと(一充電当たりの走行距離の延長、充電必要回数の減少)、充放電速度が高速であること(最大出力=加速性能の向上、充電時間の短縮、回生ブレーキの効率化)、電池寿命が長いこと、等が挙げられる。ここで、電池寿命が長いとは、充放電のサイクルを繰り返した場合であっても、二次電池が劣化せず、充放電容量・電池出力等の電池性能が低下しない性質のことを指す。
【0004】
リチウムイオン二次電池の充放電速度(充放電容量・電池出力等の電池性能)を決定する要因としては、電池としての内部抵抗が挙げられる。そして、電池の内部抵抗は、電池に使用される部材自身の抵抗と、部材同士の間で生じる界面抵抗からなる。なお、リチウムイオン二次電池に使用される部材としては、集電体、活物質、導電助剤、電解液などが挙げられる。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池の電池寿命を決定する要因としては、集電体と活物質層の界面における密着性が挙げられる。現在市販されているリチウムイオン二次電池の大部分は、集電体となるアルミニウム箔上に、活物質となるLiCoO等のLiを吸蔵するセラミックの粉末と、導電助剤(導電材)となるアセチレンブラック等の微粉炭素と、バインダとなるPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ化物と、を溶媒中で混合したスラリーを塗布し、これを乾燥することにより作製した正極を使用している。
【0006】
このようにして作製される正極の集電体表面には、リチウムイオン二次電池の高い電圧の影響により電解液と反応を起こすことで高抵抗のフッ化アルミニウムの層が形成されている。通常、フッ化アルミニウムは高い耐食性を示す。しかしながら、リチウムイオン二次電池に使用される正極においては集電体と活物質層とが界面において点接触の状態となっているため、電荷の移動部位の面積が小さく、電流密度が部分的に高くなり、集電体が電解液へと溶出し易い。そして、このように集電体が電解液へと溶出すると、点接触状態となっている集電体と活物質層の界面における接触面積がさらに減少し、両者の密着性が低下する。従って、充放電に関与できる活物質の量が必然的に減少し、充放電容量が減少することになる。
【0007】
また、集電体と活物質層との接触面積が減少すると、集電体と活物質層の界面における電気抵抗(内部抵抗)も増大するため、放電時に大電流を放電すると、二次電池内部における電圧降下が増大して電池出力が低下する。さらに、充電時においても、充電速度が低下することになる。
【0008】
さらに、集電体表面に形成されるフッ化アルミニウムの電子伝導性は非常に低いため、集電体表面がフッ化物となることで集電体と活物質層の間において電子の伝導を阻害してしまい、電池の内部抵抗を増大させる原因となる。
【0009】
ここで、二次電池内部における電気抵抗が大きいと、放電時におけるジュール熱が増加するため、エネルギー損失の増加を招くとともに、発生した熱によって電池の温度が上昇し、活物質や電解液の分解、あるいは、発火・熱暴走等を引き起こすこともあり、安全性に重大な影響を与えることになる。
【0010】
そこで、特許文献1では、アルミニウム等の導電材料からなる箔にカーボンまたは導電材料よりも貴な金属からなる中間層を耐食層として設け、その上に活物質層を被覆する電極の製造方法が開示されている。このような方法で製造することで、導電材料の電解液への溶出を防止して集電体と活物質層の界面における密着性の向上を図っている。
【0011】
また、特許文献2および特許文献3では、集電体箔の表面にニッケル、チタン、ステンレス、鉄、クロムなどからなる金属の耐食層を基材の金属Alに直接接触させて積層することにより、箔表面のフッ化および酸化を防ぐ方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−164466号公報
【特許文献2】特開2007−42413号公報
【特許文献3】特開2009−259634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜3に係る金属等の耐食層は、通常、大気中の酸素の影響により、最表面にごく薄い酸化皮膜が形成され、この自然酸化皮膜が耐食性を担っている。しかし、大気による酸化によって得られる酸化皮膜にはピンホールが多く、耐食層に未酸化部が残っていたり、下地のアルミニウムが剥き出しになっていたりするため、リチウムイオン二次電池の使用環境において非常に高い電位に曝された際に、電気化学的な溶出・変質反応が起こり易い。さらに、正極から溶出した金属は、多くの場合、負極側で析出し正負極を絶縁しているセパレータを突き破って短絡させ、電池の破裂・発火等の原因となる可能性があり、安全性に重大な懸念を生じさせてしまう。また、下地のアルミニウムが電解液と反応することにより、フッ化アルミニウムが形成されると、集電体と活物質との間の電子伝導が阻害されることにより、電池の内部抵抗が上昇してしまう。
【0014】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、集電体および金属層の電解液への溶出・集電体変質を防止することで電池寿命を延長させることができるリチウムイオン二次電池用正極集電体、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した課題を解決するために本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の片面または両面に形成された表面層と、を備えるリチウムイオン二次電池用正極集電体であって、前記表面層は、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなる金属から構成されるとともに、前記表面層の表面に酸化処理が施されることにより前記表面層の少なくとも最表面が酸化されていることを特徴とする。
【0016】
このような構成からなるリチウムイオン二次電池用正極集電体は、アルミニウム箔の表面に設けた表面層として、所定の金属を成膜(金属層)し、次いで、例えば、表面層の表面に酸素プラズマを照射することにより、表面層の少なくとも最表面を酸化させて、耐食性に優れた緻密な酸化膜(酸化物層)を形成させている。その結果、基材であるアルミニウム箔と電解液との副反応を防ぐことができるため、充放電を繰り返しても電池の内部抵抗が増大せず、電池の性能が長時間持続する。
【0017】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体は、前記表面層の厚さを2〜50nmとすることが好ましい。
【0018】
このような構成からなるリチウムイオン二次電池用正極集電体は、表面層の厚さを所定範囲内とすることで、電池の内部抵抗を上昇させることなく集電体の耐食性を高め、生産性に優れたものとすることができる。
【0019】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体は、さらに、前記アルミニウム箔と前記表面層との間に、厚さ1〜10nmのアルミニウム酸化物からなる層が存在することが好ましい。
【0020】
このような構成からなるリチウムイオン二次電池用正極集電体は、所定厚さのアルミニウム酸化物層をさらに設けることで、集電体の抵抗を増大させることなく、アルミニウム箔上に形成する表面層が緻密なものになるため、当該表面層が薄くても集電体を耐食性に優れたものとすることができる。
【0021】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極は、前記したリチウムイオン二次電池用正極集電体と、前記リチウムイオン二次電池用正極集電体の表面層を覆う正極活物質層と、を備えることを特徴とする。
【0022】
このような構成からなるリチウムイオン二次電池用正極は、前記した集電体によってアルミニウム箔の電解液への溶出、および集電体と電解液の反応が防止される。従って、集電体と活物質層の界面における抵抗の増大を防ぐことができ、電池の寿命を延長させることができる。
【0023】
さらに、本発明には、前記したリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法であって、前記アルミニウム箔の表面に、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなるスパッタリングターゲットを用いて前記表面層を形成させた後、前記表面層の表面に酸素プラズマを照射することにより、前記表面層の少なくとも最表面を酸化させる工程を含むことを特徴とする正極集電体の製造方法も包含される。
【0024】
このような構成からなるリチウムイオン二次電池正極集電体の製造方法は、前記したような電池の性能を長時間持続させることができる集電体を容易かつ確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体および当該集電体を用いたリチウムイオン二次電池用正極によれば、アルミニウム箔の少なくとも片面側に、Ta、W、Mo、V、Cr、Nb、からなる金属から構成される表面層が形成されているとともに、前記表面層の最表面が酸化していることから、集電体の電解液への溶出や、集電体と電解液との反応を防止し、集電体と活物質層の界面における抵抗の増大を抑制することができる。その結果、従来よりも電池寿命・安全性が向上した集電体および正極を提供することができる。
さらに、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法によれば、前記した特性を有する集電体を容易かつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体を備える正極を示す概略図である。
【図2】実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体およびこれを備えるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を示す概略図であり、(a)は、アルミニウム箔製造工程により製造した基材の概略図、(b)は、表面層形成工程により製造した集電体の概略図、(c)は、正極活物質層形成工程により製造した正極の概略図、である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体(以下、適宜集電体と略す)および当該集電体を備えるリチウムイオン二次電池用正極(以下、適宜正極と略す)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各図に示した構成の寸法・縮尺は、説明の便宜上誇張して示している。
【0028】
まず、リチウムイオン二次電池とは、電解液中のリチウムイオンが電荷の伝導を担う二次電池のことをいう。そして、リチウムイオン二次電池は、電極である正極および負極のそれぞれに、リチウムイオンを吸蔵・放出することができる活物質層を形成し、電解液内をリチウムイオンが移動することによって動作する。
なお、リチウムイオン二次電池の詳細な構成については、後記する。
【0029】
(集電体)
集電体30は、図1に示すように、後記する正極100の基材であり、電気を取り出すための端子である。そして、集電体30は、基材10と、基材10の表面に形成された表面層20と、から構成される。
【0030】
基材10は、導電性に優れていること、二次電池内部で安定に存在すること、加工が容易であること、等の要件を満たしている必要がある。そこで、本実施形態においては、これらの要件を満たすアルミニウム板を圧延したアルミニウム箔(以下、適宜Al箔という)1を基材10として用いている。
【0031】
Al箔1は、集電体30の主要部材である。Al箔1は、箔への加工が容易であるという理由から、純アルミニウム箔で構成されることが好ましい。但し、強度および耐食性等の観点から、種々の合金元素を添加したアルミニウム合金箔を用いることも可能である。なお、Al箔1の面積は、二次電池の使用用途に応じて適宜変更される。
【0032】
Al箔1の厚さとしては、1〜100μmとすることが好ましい。Al箔1の厚さが1μm未満の場合、箔の強度が弱いため、表面層20の形成時、または後記する正極活物質層40の形成時、さらには二次電池の製造段階において、箔の破断が生じる可能性がある。一方、Al箔1を厚くすることで箔の強度を上げることができるが、Al箔1の厚さが100μmを超える場合、集電体30が二次電池全体に占める体積が大きくなり、二次電池のエネルギー密度が低下してしまう可能性がある。
【0033】
表面層20は、図1に示すように、Al箔1の表面(基材10の表面)に形成された層である。また、表面層20は、基材10と後記する正極活物質層40との中間に形成された中間層でもある。そして、表面層20は、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなる金属層21と、前記金属層21の酸化物である酸化物層22と、からなる。
【0034】
表面層20を構成する上記金属は、PB比(Pilling−Bedworth ratio:単位モル当りの金属酸化物の体積÷単位モル当りの当該金属の体積)が1より大きい、つまり、酸化する際に体積膨張を起こす金属として選択されたものであり、金属層21の成膜後に不可避的に存在するピンホールを、酸化して体積膨張を起こすことにより封止する効果が期待できる。また、これらの金属酸化物自身に優れた耐食性があるため、表面層20が腐食したり、それによって基材10のアルミニウムが腐食したりすることがない。
【0035】
表面層20を構成する金属は、上記のようにPB比が1を超えることで酸化時の体積膨張によりピンホールを封孔する効果があるが、PB比が1に近いものではピンホール封孔効果が小さいため、酸化時の体積膨張が特に大きいPB比が2以上のものが好ましい。かかる観点から、本発明では、上記金属のうちTa、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上を用いることとした。
なお、表面層20には、Al、O等、その他不可避的不純物を本発明の効果を妨げない範囲で含有していてもよいが、前記のような効果を発揮するためには、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上が表面層20中に占める割合は90原子%以上であることが好ましい。
【0036】
ここで、表面層20は、金属層21の最表面が酸化され、酸化物層22を形成していることを特徴とする。表面層20として選ばれた元素は、上述のように酸素との結合によって大きな体積膨張を起こす金属であり、酸素プラズマ処理によって酸化させることで起こる体積膨張により、ピンホールを封孔し膜(表面層20)の緻密性を向上させることができる。また、表面層20として選択した元素は、酸化物となることでより耐食性が高まるものである。これによって、表面層20の耐食性は良好になり、Al箔1が電解液と反応するのを防ぐことができる。
なお、表面層20の最表面とは、詳細には、集電体30の表面であり、金属層21の表面のうち基材10が存在する側(界面)とは反対側の表面である。
【0037】
また、表面層20の厚さは、2〜50nmであることが望ましい。
表面層20の厚さが2nm未満であると、表面層20の全体が酸化した場合でもピンホールが生じ易く、下地のAl箔1と電解液とが直接接触してしまい、耐食性が不十分になる。表面層の厚さが概ね5nmを超えると、表面層20の全体は酸化されず、表面のみが酸化層22となり、残りが金属層21となった状態となるが、この場合にも、酸化していない金属層21の導電性は充分であり、かつ最表面が耐食性に優れる緻密な酸化物層22で覆われているために問題は生じない。
一方、表面層20の厚さが50nmを超えると、耐食性への効果は飽和するにもかかわらず製造に時間がかかることになり、生産性の観点から問題が生じる。
表面層20の厚さとしては、望ましくは2.5〜45nm、さらに望ましくは3〜40nmである。
【0038】
そして、酸化物層22の厚さは、酸化物層22がピンホール等の穴が存在せず表面層20の最表面全体に形成されていれば特に限定されないが、2〜20nmであることが好ましい。
なお、表面層20の「少なくとも最表面」が酸化されているとは、表面層20(金属層21)の最表面が酸化処理により酸化されていれば、本発明の効果を発揮するという意図であり、金属層21の最表面だけでなく金属層21内部も酸化されていてもよい。したがって、金属層21全体が酸化されて酸化物層22となり、表面層20が酸化物層22のみで構成されていてもよい。
【0039】
また、基材10のAl箔1と表面層20との間に、厚さ1〜10nmのアルミニウム酸化物層(以下、適宜Al酸化物層という)2が存在することがさらに望ましい。
ここで、表面層20の形成にはスパッタリング等の気相成膜法を用いるが、Al酸化物層2の存在しないAl箔1上に直接表面層20を形成しても、得られる表面層20が緻密なものとなり難いため、表面層20の膜厚を厚くすることにより集電体30の耐食性を確保する必要がある。一方、Al酸化物層2上に表面層20を形成する場合、気相成膜時にAl酸化物層2上の核形成密度が高いことから得られる膜(表面層20)は緻密なものとなり、表面層20が比較的薄くても、得られる集電体30は充分な耐食性を発揮する。
ここで、Al酸化物層2の厚さが1nm未満であると、Al箔1の表面を均一に覆っていないために、表面層20を緻密化させる効果が少ない。一方、Al酸化物層2の厚さが10nmを超えると、基材10であるAl箔1と正極活物質層40の間の電子伝導を阻害し、電池の内部抵抗が増大するため望ましくない。よって、Al酸化物層2の厚さは、1〜10nm、さらに望ましくは、2〜7nmである。
【0040】
このように、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体30は、表面層20の金属元素種を所定のものとするとともに、表面に酸化処理を施すことによって少なくとも最表面が酸化している形態とすることで、集電体30の耐食性を高めることができる。
【0041】
表面層20、酸化物層22及びAl酸化物層2の各膜厚は、X線光電子分光分析(XPS)を行って測定した。試料の表面について、全自動走行型X線光電子分光分析装置(Physical Electronics社製Quantera SXM)を用いて、表面層20に含有される金属元素、基材10に含有されるAl、酸化物層22に含有されるO(酸素)の各濃度を、表面から深さ方向へ測定した。試料表面から、酸化物層22に含まれる酸素の濃度が最高濃度の1/2まで減少した深さまでを貴金属膜(酸化物層22)の膜厚とし、さらに前記深さから、表面層20に含有される金属元素の濃度が最高濃度の1/2まで減少した深さまでを金属層21の膜厚とし、さらに前記深さから、Al酸化物層2に含まれる酸素の濃度が最高濃度の1/2まで減少した深さまでをAl酸化物層2の厚さとした。
【0042】
表面層20は、図1に示すようなAl箔1の片面のみではなく、Al箔1の両面に形成してもよい。このように、表面層20をAl箔1の両面に形成することで、正極活物質層40を両面に形成する場合であっても、Al箔1の電解液への溶出を効果的に防止することができる。
【0043】
なお、表面層20は、スパッタリング等の気相成膜法によって金属層21を形成した後、酸素プラズマ処理を施すことによって形成することができるが、その詳しい形成方法については後記する。
【0044】
(正極)
正極100は、二次電池を構成する主要部材の一つであり、対となる負極とともに電極として機能するものである。また、正極100は、電解液を介してリチウムイオンを吸蔵あるいは放出することで、二次電池の充放電反応を担っている。
そして、正極100は、図1に示すように、前記した集電体30と、集電体30の表面に形成された正極活物質層40と、で構成されている。
【0045】
正極活物質層40は、リチウムイオンを吸蔵・放出する物質を有する層であり、リチウムイオン二次電池における充放電反応の中心的役割を担うものである。そして、正極活物質層40は、リチウムイオンを吸蔵・放出する活物質であるLiCoO、LiMn、LiNiO等で構成されるが、特に、LiCoOで構成することが好ましい。
【0046】
正極活物質層40は、前記した活物質を導電助剤およびバインダとともに溶媒中で混合し、当該混合物を表面層20上を覆うように塗布し、乾燥することで形成する。ここで、導電助剤としては例えばアセチレンブラックを、バインダとしては例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を、溶媒としては例えばN−メチルピロリドン等を用いることができ、これらの成分の配合比は特に限定されない。なお、正極活物質層40の厚さは、二次電池の体積容量の観点から0.1〜100μmとすることが好ましい。
【0047】
このように、実施形態に係る集電体30および正極100は、Al箔1の表面に表面層20として、酸化によって体積膨張を起こす元素であるTa、W、Mo、V、Cr、Nbからなる所定の膜厚の金属層21を成膜するとともに、成膜後に酸素プラズマを照射することによって少なくとも最表面を酸化させて酸化物層22を形成することによって、耐食性に優れた緻密な膜が表面層20として形成され、正極集電体基材であるアルミニウムと電解液との副反応を防ぐことができ、充放電を繰り返しても電池の内部抵抗が増大せず、電池の性能を長時間持続させることができる。
【0048】
(集電体の製造方法)
以下、実施形態に係る集電体30の製造方法について、図2を参照しながら説明する。実施形態に係る集電体30の製造方法は、表面層形成工程を行うことを特徴としている。また、その前提としてアルミニウム箔製造工程を行う。
【0049】
(1)アルミニウム箔製造工程
本工程は、図2(a)に示すように、アルミニウム板を圧延して所定厚さおよび所定面積を有するAl箔1を製造する工程である。ここで、アルミニウム板から製造するAl箔1の最終的な厚さは、箔強度および二次電池の体積容量の観点から、1〜100μmとすることが好ましい。
【0050】
(2)表面層形成工程
本工程は、図2(b)に示すように、Al箔1上の片面または両面に表面層20を形成する工程である。本工程では、気相成膜法を用いてAl箔1上の片面または両面に成膜元素であるTa、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなる金属を堆積させて金属層21を形成し、その後、酸素プラズマを照射することによって金属層21の少なくとも最表面を酸化させることにより酸化物層22を形成する。なお、気相成膜法とは、気相中で基材表面に原子を析出堆積させて固体の薄膜を形成する成膜法のことをいう。
【0051】
気相成膜法の具体例としては、例えば、スパッタリングや真空蒸着等が挙げられる。ここで、スパッタリングとは、ターゲットにイオンをスパッタリングしてその原子を叩き出すことで基材上(表面)に原子を堆積させる方法であり、真空蒸着とは、ターゲットを高温に加熱して蒸発気化させることで、基材上に原子を堆積させる方法である。ここで、表面層20と基材10との結合が弱いと、表面層20が剥離するおそれがあるため、本工程で用いる気相成膜法としては、真空蒸着よりも結合力の強い薄膜を形成することができるスパッタリングを用いることが好ましい。
【0052】
スパッタリングの条件としては、図示しないスパッタリング装置のチャンバ内にAl箔1、表面層20の構成元素に対応するTa、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上の金属からなるターゲット、をそれぞれ収容し、内部圧力を1×10−3Pa以下としてスパッタリングガス(Arガス)を導入し、成膜圧力を0.2〜0.3Paに維持しながら各ターゲットの表面をスパッタリングすることが好ましい。また、スパッタリングパワーは、1〜2kWとすることが好ましい。
【0053】
なお、通常、大気中で保管したAl箔1の表面には5nm程度の自然酸化皮膜が存在するため、一般的に前記した気相成膜を行う場合、基材と、得られる膜との間の密着性を高める目的により、基材の表面に形成された酸化膜を除去する工程を行うことが多いが、本発明においては自然酸化皮膜が残留した状態で行ってもよい。
しかし、自然酸化膜がAl箔1の表面に形成されている場合、箔の保存環境等によって自然酸化皮膜の厚さが変わり膜の均一性が悪く、箔の面内で性能に差がでる虞がある。したがって、所定金属のスパッタリング成膜前(表面層形成工程前)に、チャンバ内の圧力を調整しAl箔1に直流電圧(出力100W)を3分間印加して自然酸化皮膜を除去した後、RF(高周波)スパッタリングによりアルミナ(Al)ターゲットをAl箔1の表面に堆積させることにより均一な酸化皮膜をAl酸化物層2として形成することがより望ましい。
なお、Al酸化物層2の厚さは、後述する表面層の緻密性と、箔の電子伝導性の観点から1〜10nmとすることが望ましい。
【0054】
金属層21の酸化による酸化物層22の形成は、前記の方法により形成した金属層21の表面に酸素プラズマを照射することによって行うことができる。酸素プラズマ処理を施すことによって、金属層21の表面に強固な酸化物層22が形成されるため、電池環境中においても耐食性に優れた膜となる。
酸素プラズマ処理の条件としては、O:1〜30sccm、チャンバ内圧力:0.1〜5torr、印加出力RF:50〜1000Wとすることが好ましい。
【0055】
これらの工程を経ることによって製造された集電体30は、図2(b)に示すように、Al箔1上に、所定厚さの表面層20が形成されており、表面層20の少なくとも最表面は酸化物層21となっている。
【0056】
(正極の製造方法)
また、前記したアルミニウム箔製造工程と、表面層形成工程と、を行った後に、正極活物質層形成工程を行うことで、集電体30を備える正極100を製造することができる。
【0057】
(3)正極活物質層形成工程
本工程は、図2(c)に示すように、表面層20上に正極活物質層40を形成する工程である。本工程では、活物質を導電助剤とバインダとともに溶媒中で混合し、当該混合物を表面層20上に塗布し、乾燥して正極活物質層40を形成する。ここで、活物質としては例えばLiCoOを、導電助剤としては例えばアセチレンブラックを、バインダとしては例えばポリフッ化ビニリデンを、溶媒としては例えば1−メチルー2−ピロリドン等を用いることができ、これらの成分の配合比は特に限定されない。また、乾燥温度は、例えば100〜150℃とする。なお、正極活物質層40の厚さは、二次電池の体積容量の観点から0.1〜100μmとすることが好ましい。
【0058】
これらの工程を経ることによって製造された正極100は、図2(c)に示すように、Al箔1と、Al箔1の片面に形成された表面層20と、表面層20上に形成された正極活物質層40と、を備えている。また、表面層20は、Ta、W、Mo、V、Cr、Nbからなるとともに、表面層20の少なくとも最表面が、酸化物層22となっている。
【0059】
従って、表面層形成工程において、Al箔1の表面に、酸化することによって体積膨張を起こし、電池環境中での耐食性に優れる緻密な酸化膜を形成する所定金属を形成させているとともに、この少なくとも最表面を表面層形成工程の後工程で酸化させているため、Al箔1が電解液へ溶出したり、Al箔1が電解液と反応したりすることを防止することができる。これにより、充放電に関与できる活物質の量を維持することができ、従来よりも二次電池の電池寿命を向上させることができる。さらに、表面層20の厚さを所定範囲内とすることで、Al箔1の耐食性を高めることができる。
また、Al箔1と表面層20との間に厚さ1〜10nmのAl酸化物層2を形成させることにより、表面層20をより緻密に形成することができる。
【0060】
(リチウムイオン二次電池)
実施形態に係る正極100は、当該正極100と図示しない負極との間にセパレータを挟んでこれらを巻回し、電解液が充填された円筒状・角型・ラミネート型ケースに密閉収納することで、二次電池を構成することができる。以下、正極100以外の二次電池の構成について、簡単に説明する。
【0061】
負極は、正極100と同様に、二次電池を構成する主要部材の一つであり、対となる正極100とともに電極として機能するものである。負極は、電解液を介してリチウムイオンを吸蔵あるいは放出することで、二次電池の充放電反応を担っている。また負極は、アルミニウム箔または銅箔からなる集電体と、集電体の上に形成された、グラファイト、Si、Ge、Ag、In、Sn、チタン酸リチウム等からなる負極活物質層とで構成されている。
【0062】
セパレータは、正極100と負極との間に挟んで配置される多孔膜であり、内部短絡を防止するとともに、電解液を保持するための部材である。セパレータは、二次電池内部で微小短絡が起きて温度が上昇すると、多孔膜を構成する各微小孔を閉じて内部のインピーダンスを増大させることで、リチウムイオンが運ぶ電荷の移動を阻止する機能を有している。セパレータとしては、リチウムイオンが移動できる多孔質の絶縁膜であって、例えば、ポリプロピレンやポリオレフィン系の多孔膜を用いることができる。
【0063】
電解液は、二次電池のケース内に充填される液体であり、リチウムイオンが電荷を運ぶための媒質である。二次電池では、リチウムイオンの量が多ければ多いほど電荷を多く取り出せるため、電解液にもリチウムの溶液を用いることが好ましい。すなわち、電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状エステルにジメチルカーボネート等の低級鎖状炭酸エステルと、フッ化リン酸リチウム塩を加えた混合有機溶液を用いることが好ましい。
【0064】
(リチウムイオン二次電池の動作)
以下、実施形態に係る正極100を備える二次電池の充放電時における動作について、正極100が奏する作用を踏まえながら説明する。
【0065】
二次電池が充電を行なうと、正極100側のリチウムイオンが電解液を介して負極側に移動し、負極活物質層に吸蔵される。一方、二次電池が放電を行なうと、負極活物質層に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、電解液を介して再度正極100側に吸蔵される。そしてこのような充放電を繰り返すことにより、従来であれば、正極100の基材10が電解液に溶出するおそれがある。しかし、実施形態に係る正極100を備える二次電池は、正極100の基材10と正極活物質層40との間に所定の表面層20が形成されているため、基材10の電解液への溶出が防止される。
【0066】
加えて、従来であれば、表面層の耐食性が不十分で、電池環境中で集電体と電解液が反応して、高抵抗の層を形成する可能性があった。しかし、実施形態における二次電池は、表面層20として、酸化することによって体積膨張を起こして緻密化するとともに、電池環境中での耐食性に優れる緻密な酸化膜を形成する所定の金属層21を形成させている。加えて、この金属層21の少なくとも最表面を後工程で酸化させることにより酸化物層22を形成させているため、基材10が電解液へ溶出したり、電解液と反応したりすることを防止することができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の要件を満たす正極と本発明の要件を満たさない正極について、集電体の電池環境における耐食性を比較した実施例を示す。まず、本実施例で用いた正極について、製造工程に沿って説明する。
【0068】
(1)アルミニウム箔製造工程
アルミニウム箔製造工程は、実施例1〜12(No.1〜12)と比較例1〜11(No.13〜23)とで同様の処理を行った。すなわち、アルミニウム板を圧延して縦50mm×横50mm×厚さ15μmのアルミニウム箔を製造した。
【0069】
(2)表面層形成工程
表面層形成工程は、比較例1、2を除いて、いずれも同様の方法にて実施した。すなわち、アルミニウム箔上にスパッタリングによってTa、W、Mo、V、Cr、Nb、Mg、Ni、Zr、または、Hfからなる金属層を形成した。スパッタリングターゲットにそれぞれTa、W、Mo、V、Cr、Nb、Mg、Ni、Zr、または、Hfの金属ターゲットを使用し、Ta、W、Mo、V、Cr、Nb、Mg、Ni、Zr、または、Hfからなる金属層を形成した。なお、スパッタリング時にターゲットに与えるエネルギーと成膜時間の値を変えることで、金属層の膜厚を制御した。
【0070】
スパッタリングの条件としては、スパッタリング装置のチャンバ内にアルミニウム箔、Ta、W、Mo、V、Cr、NbおよびMg、Ni、Zr、Hfの金属ターゲット(φ100mm×厚さ5mm)、を収容し、内部圧力を1×10−3Pa以下としてスパッタリングガス(Arガス)を導入し、成膜圧力を0.26Paに維持しながら各ターゲットの表面をスパッタリングした。また、スパッタリングパワーは、1.5kWとした。
【0071】
実施例1〜12および比較例2〜6については、金属層の成膜後、同一チャンバ内にてサンプル表面に酸素プラズマを照射することにより、金属層の少なくとも最表面を酸化させる処理を実施した。酸素プラズマ処理の条件としては、O流量10sccm、チャンバ内圧力1torr、印加出力RF500Wとした。
また、比較例2については、金属層の成膜を実施せずに同様の酸素プラズマ処理を実施した。
【0072】
(3)表面層の組成の測定
前記した表面層形成工程の直後に、各層の成分と深さをXPSを用いて前記方法により測定した。
【0073】
(4)電極作製
前記のように作製した集電体上に活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池用の正極を作製した。活物質であるLiCoO、導電助材となるアセチレンブラック、バインダとなるPVdF(ポリフッ化ビニリデン)と、溶媒となるNMP(N−メチルピロリドン)を所定の割合で混合してスラリーとしたものを集電体上に塗布し、120℃の大気中で乾燥させることにより、活物質層(片面の厚さ:約75μm)を形成した。
【0074】
(5)電池セル組立
上記と同様の方法により、Cu箔上(厚さ:約15μm)にグラファイトを活物質とするスラリーを塗布・乾燥(グラファイト層の片面の厚さ:約50μm)してリチウムイオン二次電池用の負極を作製し、正極と組み合わせることによって内部抵抗測定用の電池セルを作製した。
【0075】
(6)初期およびサイクル試験後内部抵抗の測定と評価
作製した電池セルについて、所定のコンディショニング(調整)充放電処理を行った後、電池の初期内部抵抗を測定した。内部抵抗測定には、Solartron社製の周波数応答アナライザ(FRA)1255Bを用いて周波数1MHz〜0.1Hzまでの交流インピーダンス測定を行った。
また、作製した電極の耐食性を評価するため、30サイクルの充放電試験を行い、その後、再度交流インピーダンス測定によって電池の内部抵抗を測定した。
初期内部抵抗について、150Ω以下と小さいものを『○』、未処理箔と同等(150Ωを越えて300Ω以下)のものを『△』、未処理箔よりも抵抗が大きい(300Ωを超える)ものを『×』と判定した。
また、サイクル試験後、内部抵抗の増加が100Ω以下のものを耐食性が良好であるとして『○』、100Ωを超えるものを『△』とした。
そして、初期およびサイクル試験後の両方で『○』と判定できるものを合格(総合判定が『○』)とした。なお、初期およびサイクル試験後の判定のうち、一つでも『△』があれば総合判定を『△』(不合格)、一つでも『×』があれば総合判定を『×』(不合格)とした。
【0076】
実施例と比較例における表面層の金属元素とそのPB比および膜厚、酸素プラズマ処理の有無(酸化物層の有無)、インピーダンス(電池内部抵抗)の関係を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、実施例1〜12は、表面層に含有される金属元素が本発明で規定したものであるとともに、表面層の膜厚が所定範囲内であり、かつ、酸素プラズマ処理を行っていたことから、初期およびサイクル試験後にも電池の内部抵抗は低く抑えられるという結果となった。
【0079】
一方、比較例1は、なんら表面層を設けていないアルミニウム箔であるため、初期のコンディショニング(調整)充放電の段階で集電体表面が腐食し、電池の内部抵抗が大きい上、充放電サイクルによっても継続的に腐食が起こっていることからサイクル試験後の抵抗の増加も大きかった。
また、比較例2は、表面層を設けていないアルミニウム箔の表面に酸素プラズマ処理を行ったものであるが、箔表面の変質を抑制する耐食層が設けられていないために、充放電によって箔の変質が起こり、サイクル試験後の抵抗が増大する結果となった。
また、比較例3〜6については、表面層に含有される金属元素が、本発明に規定したものとは異なるものであり、酸化による体積膨張が小さいものであるため、膜にピンホールが存在し、アルミニウム箔の腐食を抑制する充分な効果がなかった。
また、比較例7〜11については、金属層の成膜後に酸素プラズマ処理を実施していないため、表面の酸化皮膜にピンホールが多く存在し、充分な耐食性を発揮できなかった。
【0080】
以上の結果から、集電体および正極において、アルミニウム箔の表面に設けた表面層として、酸化によって大きな体積膨張を起こす元素であるTa、W、Mo、V、Cr、Nbの金属層を所定の膜厚で成膜し、成膜後に酸素プラズマ処理によって金属層の少なくとも最表面を酸化させることによって、基材であるアルミニウムと電解液との副反応を防ぐことができることがわかった。その結果、充放電を繰り返しても電池の内部抵抗が増大せず、電池の性能を長時間持続できることがわかった。
【0081】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体は、前記表面層の厚さを2nm〜50nmとすることで、効果的に耐食性を向上させることができることがわかった。
【0082】
なお、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体はさらに、前記アルミニウム箔と表面層との間に、厚さ1〜10nmのアルミニウム酸化物からなる層(Al酸化物層)が存在することで、耐食性を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極集電体、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0084】
1 Al箔(アルミニウム箔)
2 Al酸化物層(アルミニウム酸化物層)
10 基材
20 表面層
21 金属層(Ta、W、Mo、V、Cr、Nb)
22 金属酸化物層
30 リチウムイオン二次電池用正極集電体(集電体)
40 正極活物質層
100 リチウムイオン二次電池用正極(正極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の片面または両面に形成された表面層と、を備えるリチウムイオン二次電池用正極集電体であって、
前記表面層は、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなる金属から構成されるとともに、前記表面層の表面に酸化処理が施されることにより前記表面層の少なくとも最表面が酸化されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極集電体。
【請求項2】
前記表面層は、厚さが2〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極集電体。
【請求項3】
前記アルミニウム箔と前記表面層との間に、厚さ1〜10nmのアルミニウム酸化物からなる層が存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極集電体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極集電体と、
前記リチウムイオン二次電池用正極集電体の前記表面層を覆う正極活物質層と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法であって、
前記アルミニウム箔の表面に、Ta、W、Mo、V、Cr、およびNbよりなる群から選択される1種以上からなるスパッタリングターゲットを用いて前記表面層を形成させた後、前記表面層の表面に酸素プラズマを照射することにより、前記表面層の少なくとも最表面を酸化させる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極集電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−26041(P2013−26041A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160210(P2011−160210)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】