説明

リチウムイオン二次電池用負極活物質、および、その負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池

【課題】リチウムシリケートの生成を抑制して不可逆容量を低減できるリチウムイオン二次電池用負極活物質を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用負極活物質を、SiO(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物からなる粒状体と、該粒状体の表面を被覆する炭化ケイ素被膜と、で構成する。粒状体の表面を、リチウムに対する反応性が極めて低い炭化ケイ素被膜で覆ったことで、リチウムシリケートの生成を抑制でき、不可逆容量を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質、および、その負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型で大容量であるため、携帯電話やノートパソコン等の二次電池として広く用いられている。近年では、電気自動車やハイブリッド自動車等のバッテリとしての用途も提案されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入および脱離できる活物質を正極と負極とに持つ。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの両極間の移動によって動作する。
【0004】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、主として、多層構造を有する炭素材料が用いられている。この種の炭素材料を負極活物質として用いることで、充放電を繰り返した後の充放電容量の低下を抑制でき、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上し得る。しかし負極活物質をこれらの炭素材料のみで構成したリチウムイオン二次電池は、初期容量(エネルギー密度)に劣る問題がある。
【0005】
リチウムイオン二次電池の初期容量を高めるために、Liと合金可能であり、かつ炭素材料よりも理論容量の大きな元素を負極活物質として用いることが提案されている。Liと合金可能な元素であるケイ素(Si)は、炭素材料および他の元素(例えばスズやゲルマニウム)に比べて理論容量が大きいため、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として有用であると考えられている。すなわち、Siを負極活物質として用いることにより、炭素材料を用いるよりも高容量のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0006】
その一方で、Siは、充放電時のLiの吸蔵・放出に伴って大きく体積変化する。この体積変化により、Siが微粉化して集電体から脱落または剥離し、電池の充放電サイクル寿命が短いという問題点がある。そこで酸化ケイ素を負極活物質として用いることにより、Siを負極活物質として用いる場合よりも、充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化を抑制することが出来る。
【0007】
例えば、負極活物質として、ケイ素酸化物(SiO:xは0.5≦x≦1.5程度)の使用が検討されている。SiOは熱処理されると、ケイ素(Si)と二酸化ケイ素(SiO)とに分解することが知られている。これは不均化反応といい、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素(SiO)であれば、固体の内部反応によりケイ素(Si)相と二酸化ケイ素(SiO)相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。また、Si相を覆うSiO相が電解液の分解を抑制する働きをもつ。したがって、SiとSiOとに分解したSiOからなる負極活物質を用いた二次電池は、サイクル特性に優れる。
【0008】
ところでSiOを負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池においては、初期充電時に、負極活物質表面でSiOとLiとが反応してリチウムシリケートが生成する。この反応は不可逆反応であるため、一旦リチウムシリケートが生成すると、充放電に利用可能なLi量が不足し、リチウムイオン二次電池の初期効率が低下する問題がある。SiやSiOの表面を炭素材料で覆う技術も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)が、これらの技術によると、SiO負極活物質に、炭素材料に由来する優れた導電性を付与することはできるが、リチウムシリケートの生成は抑制されず、初期効率低下は依然として改善されない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−42806号公報
【特許文献2】特開2004−47404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、SiOを負極活物質として用い、かつ、リチウムシリケートの生成を抑制し得るリチウムイオン二次電池用負極活物質を提供するとともに、その負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、
SiO(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物からなる粒状体と、該粒状体の表面を被覆する炭化ケイ素被膜と、からなることを特徴とする。
【0012】
また上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極活物質を含み形成されてなる負極を用いたことを特徴とする。
【0013】
なお、炭化ケイ素被膜は粒状体の表面全体を隈無く完全に被覆する場合に限らず、粒状体の表面において炭化ケイ素被膜に若干の隙間が生じている場合を含む。つまり、炭化ケイ素被膜は粒状体の表面に島状に形成されても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、SiO(0.3≦x≦1.6)で表されるSiOからなる粒状体と、該粒状体の表面を被覆する炭化ケイ素(SiC)被膜と、からなる。すなわち負極活物質である粒子の表面にLiに対する反応性の低いSiCの被膜が形成されているため、リチウムシリケートの生成が抑制される。したがって本発明のリチウムイオン二次電池によれば、負極の不可逆容量を低減することができ、初期効率が向上するとともにサイクル特性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る負極活物質を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例の負極活物質のXPSによる表面分析結果を表すグラフである。
【図3】比較例の負極活物質のXPSによる表面分析結果を表すグラフである。
【図4】参考例の負極活物質のXPSによる表面分析結果を表すグラフである。
【図5】実施例および比較例のリチウムイオン二次電池の充放電試験の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、SiO(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物からなる粒状体と、この粒状体の表面を被覆するSiC被膜と、からなる。このため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、被覆された粒状体が多数集合した粉末状をなす。
【0017】
この粒状体は、不均化反応によって微細なSiと、Siを覆うSiOとに分解したSiOからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0018】
一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO相および結晶性のSi相の二相を含むSiO粉末が得られる。
【0019】
粒状体は、平均粒径1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいとリチウムイオン二次電池の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいとSiC被膜を形成する際に凝集して粗大な粒子となる場合があるため、同様にリチウムイオン二次電池の充放電特性が低下する場合がある。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均粒子径を指す。
【0020】
SiC被膜の形成方法すなわち、粒状体を炭化珪素で被覆する方法は特に問わないが、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、CVD)法、物理気相成長(Physical Vapor Deposition、PVD)法等の既知の方法を用いれば良い。
【0021】
SiC被膜の膜厚、負極活物質のSiC被膜含有量等は特に限定しないが、SiC被膜量が過大であれば、粒状体の表面全体がSiC被膜で厚く覆われるため、Liが粒状体に到達できず、電池特性が悪化する可能性がある。また、負極全体に対する粒状体の量が低減して、電池特性が悪化する可能性もある。SiC被膜量が過小であれば、SiC被膜が負極活物質粒子の表面全体を被覆し難く、SiOの露出量が過大になって、リチウムシリケートが生成し易くなる可能性がある。リチウムシリケートの生成抑制を考慮すると、粒状体全体がSiC被膜で覆われるのが好ましい。なお、リチウムシリケートの化学式には特に限定はなく、一例として、LiSiO、LiSiO等のLiSi(x+4y−2z=0)で表されるリチウムシリケートが挙げられる。
【0022】
SiC被膜の好ましい含有量は、粒状体に対するSiCの量で規定できる。具体的には、粒状体に含まれるSiOと、SiC被膜に含まれるSiCと、に着目し、X線光電子分光分析(X−rayPhotoelectron Spectroscop、XPS)により測定された負極活物質表面のSi−Siピークの強度とSi−Cピークの強度との比で規定すれば良い。XPSは光電子を分光することで試料表面の物質の化学状態を分析する分析手法である。物質にX線を照射すると、物質内の内殻あるいはフェルミ準位にある電子が叩き出される。叩き出された電子は光電子と呼ばれる。光電子の持つエネルギーは、物質の原子の化学状態によって変化する。Si原子の場合、Si原子がSi原子と結合している場合には、99eV程度のエネルギーを持ち、Si原子がC原子と結合している場合には、101eV程度のエネルギーを持つ。このようにして叩き出された光電子を分光して得られるスペクトルがXPSの測定結果である。
【0023】
Si−SiピークはSiO中のSi粒子に起因するピークであり、Si−CピークはSiCに起因するピークである。なお、後述の図3において104eV程度の位置に現れるピーク(Si−Oピーク)は、Si原子とO原子の結合に起因するピークであると考えられ、SiOに起因するピークであると推測される。
【0024】
つまり、粒状体に含まれるSiO中に存在するSiはXPSのSi−Siピークに対応し、SiC被膜に含まれるSiCはXPSのSi−Cに対応する。そのため、Si−Siピークの強度とSi−Cピークの強度との比により、粒状体に対するSiCの量を規定できる。より具体的には、Si−Siピークの強度に対するSi−Cピークの強度の比(つまり、Si−Siピークの強度を1としたときのSi−Cピークの強度)が0.2を超え8.2未満であるのが良く、より好ましくは0.3以上8以下であるのが良く、さらに好ましくは0.5以上1.5以下であるのが良い。
【0025】
Si−Siピークの強度に対するSi−Cピークの強度の比が0.2以下であると、負極活物質におけるSiCの量が少なく、SiOの表面を覆うSiC被膜の量が少ないために、リチウムシリケートの生成の抑制効果が小さくなる可能性がある。このため、リチウムイオン二次電池の不可逆容量を大きく低減できない可能性がある。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極に用いられる他の構成要素は、特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極は、上述した負極活物質を含む。この負極は、集電体と、集電体上に結着された活物質層と、を有する。活物質層は、負極活物質の他に、導電助剤、バインダー樹脂等の負極材料を構成する既知の材料を含み得る。本発明のリチウムイオン二次電池における負極は、これらの材料に有機溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法で負極活物質上に塗布し、バインダー樹脂を硬化させることによって作製することができる。この活物質層中には、負極活物質としての粒状体およびSiC被膜が含まれている。
【0028】
集電体としては、箔、板等の形状を採用することが出来るが、目的に応じた形状であれば特に限定されない。集電体として、例えば銅箔やアルミニウム箔等を好適に用いることができる。
【0029】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて添加することが出来る。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、一般的には、負極活物質100質量部に対して、20〜100質量部程度とすることができる。なお、本発明の負極活物質に含まれるSiC被膜は、炭素を含有するために、比較的導電性に優れる。このため、場合によっては導電助剤を添加しなくても良い。また、上述したように、充放電に伴うSiの体積変化を考慮すると、Siの体積変化を緩衝し得る黒鉛を導電助剤として配合しても良い。
【0030】
バインダー樹脂は、負極活物質及び導電助剤を集電体に結着するための結着剤として用いられる。バインダー樹脂はなるべく少ない量で負極活物質等を結着させることが求められる。バインダー樹脂の配合量は、負極活物質、導電助剤、及びバインダー樹脂の合計量を100質量%としたときに、0.5〜50質量%であるのが好ましい。バインダー樹脂量が0.5質量%未満では電極の成形性が低下し、50質量%を超えると電極のエネルギー密度が低くなる。バインダー樹脂の種類は限定的ではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム、ポリイミド等のイミド系ポリマー、アルコキシルシリル基含有樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸などが例示される。
【0031】
上記した負極を用いる本発明のリチウムイオン二次電池は、特に限定されない公知の正極、電解液、セパレータを用いることが出来る。正極は、リチウムイオン二次電池で使用可能なものであれば良い。正極は、集電体と、集電体上に結着された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質と、バインダーとを含み、さらには導電助剤を含んでも良い。正極活物質、導電助材およびバインダーは、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池で使用可能なものであれば良い。
【0032】
正極活物質としては、金属リチウム、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO、Sなどが挙げられる。集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであれば良い。導電助剤は上記の負極で記載したものと同様のものが使用できる。
【0033】
電解液は、有機溶媒に電解質であるLi金属塩を溶解させたものである。電解液は、特に限定されない。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。また、溶解させる電解質としては、LiPF、LiBF、LiAsF、LiI、LiClO、LiCFSO等の有機溶媒に可溶なLi金属塩を用いることができる。
【0034】
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO等のLi金属塩を0.5mol/L〜1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を使用することが出来る。
【0035】
セパレータは、リチウムイオン二次電池に使用されることが出来るものであれば特に限定されない。セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池は、形状に特に限定はなく、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉して電池となる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
<リチウムイオン二次電池用負極の作製>
先ずSiO粉末(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製、平均粒径5μm)を900℃で2時間熱処理し、平均粒径5μmのSiO粉末を調製した。この熱処理によって、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体のSiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。
【0039】
すなわち得られたSiO粉末は、図1の(a)に示すSiO粒子(1)の集合体であり、このSiO粒子(1)は、SiO(10)のマトリックス中に微細なSi粒子(11)が分散した構造となっている。なお、このSiO粒子(1)は、本発明における粒状体に相当する。Si粒子(11)は本発明におけるSi相に相当し、SiO(10)は本発明におけるSiO相に相当する。
【0040】
次に、図1(b)に示すように、既知のCVD処理により、SiO粒子(1)の表面全体にSiC被膜(20)を形成した。この工程によって、図1(b)に示すように、SiO粒子(1)の表面がSiC被膜(20)で覆われた負極活物質(2)を得た。
【0041】
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリアミドイミド(PAI)を溶解させたものを準備した。このPAI溶液と上述した負極活物質とを混合しスラリーを調製した。スラリー中の各成分(固形分)の組成比は、負極活物質:PAI=85:15(質量部)であった。このスラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。
【0042】
その後、80℃で20分間乾燥し、負極活物質層から有機溶媒を揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、電極密度を調整した。これを200℃で2時間加熱硬化させて、負極活物質層の厚さが15μm程度の負極を形成した。なお、負極としてLiがドーピングされている負極を用いても良い。
【0043】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記の手順で作製した電極を評価極として用い、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。対極は、金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0044】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターおよびcelgard2400)を両者の間に挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解した非水電解質を注入し、電池ケースを密閉して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0045】
(比較例)
実施例で用いた粒状体と、上述したPAI溶液と、KBとを混合してスラリーを調製した。スラリー中の各成分(固形分)の組成比は、負極活物質:KB:PI=80:5:15(質量部)であった。得られたスラリーを用い、実施例と同じ方法で、負極を作製した。この負極を用い、実施例と同じ方法で、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
(参考例)
熱処理SiO粉末およびFeSi粉末(福田金属箔粉工業株式会社製)を準備した。熱処理SiO粉末は、非晶質SiO粉末を真空中において1100℃で5時間熱処理することで不均化させたものである。熱処理SiO粉末を31μm以下、FeSi粉末を15μm以下にそれぞれ分級した後、熱処理SiO粉末を3.67g、FeSi粉末を1.33g秤量し、熱処理SiO粉末とFeSi粉末とを7:1(モル比)で含む原料粉末を得た。原料粉末5gをZrO製でφ12mmのボールが100個入ったZrO製容器(容量45ml)に投入し、遊星型ボールミル(フリッチュ・ジャパン株式会社製 P−7)を用いてミリングして、複合粉末を得た。ミリングは、Arガス雰囲気において容器の回転数700rpmで10時間行った。ミリングして得られた複合粉末からなる負極活物質を用いた電極(負極)を作製した。詳しくは、複合粉末と、導電助剤としてのKBとを混合して混合粉末を得た。また、NMPに結着剤としてのPAIを溶解させた。この溶液と混合粉末(複合粉末とKBとの混合物)とを混合してスラリーを調製した。複合粉末、KBおよび結着剤(固形分)の配合比は、質量比で80.75:4.25:15であった。
【0047】
<XPSによる負極活物質の表面分析>
XPSにより、実施例、比較例および参考例の負極活物質の表面分析を行った。装置としては、島津社 AXIS ULTRAを用いた。X線源は単色AlKα線(15kV、10mA)であった。XPSにより測定された負極活物質表面の分析結果を図2〜4に示す。図2は実施例の負極活物質を分析した結果であり、図3は比較例の負極活物質を分析した結果であり、図4は参考例の負極活物質を分析した結果である。
【0048】
XPSで得た実測値を基に、ガウス関数で波形分離することで、各ピークのピーク強度を算出した。その結果、実施例の負極活物質については、Si−SiピークとSi−Cピークとの強度比は1:1.2であった。比較例の負極活物質については、Si−SiピークとSi−Cピークとの強度比は1:0.2であった。参考例の負極活物質については、Si−SiピークとSi−Cピークとの強度比は1:8.2であった。これらの結果から、実施例の負極活物質および参考例の負極活物質にはSiC被膜が形成されていることがわかる。なお比較例の負極活物質については、そのSi−Siピーク強度に対するSi−Cピーク強度の比が非常に小さいことから、比較例ではSiC被膜が殆ど形成されていないことがわかる。
【0049】
<リチウムイオン二次電池の充放電特性>
上述した実施例、比較例、および参考例のリチウムイオン二次電池について充放電試験を行った。充放電試験の結果を図5および表1に示す。なお充放電試験は、25℃の温度環境のもと、金属Li基準で放電終止電圧0.01Vまで0.05mAの定電流で充電を行った後、充電終止電圧2Vまで0.05mAの定電流で放電を行った。「充電」は評価極の活物質がLiを吸蔵する方向、「放電」は評価極の活物質がLiを放出する方向、である。図5は実施例と比較例のリチウムイオン二次電池の1サイクル目の充放電曲線である。
【0050】
図5を基に、初期放電容量、初期充電容量、不可逆容量、初期効率を算出した。このうち初期放電容量、初期充電容量、不可逆容量は、SiOxの単位質量あたりの容量(mAh/g)である。初期効率は、初期放電容量を初期充電容量で除した値の百分率であり、(初期放電容量/初期充電容量)×100で求められる値である。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例および参考例のリチウムイオン二次電池は、比較例のリチウムイオン二次電池に比べて不可逆容量が小さく、初期効率が高い。これは、比較例のリチウムイオン二次電池で負極に生成したリチウムシリケート量に比べ、実施例および参考例のリチウムイオン二次電池で負極に生成したリチウムシリケート量が少ない(またはリチウムシリケートが生成していない)ためと考えられる。この結果から、負極活物質であるSiOの表面をSiCで覆うことで、リチウムシリケートの生成を抑制でき、リチウムイオン二次電池の不可逆容量を低減できることがわかる。
【0053】
さらに、参考例のリチウムイオン二次電池は、実施例および比較例のリチウムイオン二次電池に比べて、初期放電容量および初期充電容量が小さい。これは、各負極活物質に含まれるSiC量の違いによるものと考えられる。すなわち、参考例のリチウムイオン二次電池における負極活物質は、実施例のリチウムイオン二次電池における負極活物質に比べて、SiC被膜が厚く形成されているため、リチウムイオンの移動が制限され、放電容量および充電容量が低下したと考えられる。この結果から、負極活物質におけるSiC被膜の量には最適な範囲が存在することがわかる。具体的には、X線光電子分光分析により測定されたSiーSiピークの強度に対するSi−Cピークの強度の比が0.2を超え8.2未満の範囲で、より好ましくは、0.3以上8以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5以上1.5以下となる範囲である。
【符号の説明】
【0054】
1:SiO粒子(粒状体) 2:負極活物質
10:SiO 11:Si 20:SiC被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物からなる粒状体と、該粒状体の表面を被覆する炭化ケイ素(SiC)被膜と、からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記粒状体は、二酸化ケイ素(SiO)相と、粒子状をなし該二酸化ケイ素相の内部に分散されているケイ素(Si)相と、を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
X線光電子分光分析により測定されたSi−Siピークの強度に対するSi−Cピークの強度の比は0.3以上8以下である請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記Si−Siピークの強度に対するSi−Cピークの強度の比は0.5以上1.5以下である請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含み形成されてなる負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−178269(P2012−178269A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40559(P2011−40559)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】