説明

リチウムイオン二次電池用負極活物質

【課題】リチウムイオン二次電池用負極活物質において、高い充放電容量と優れたサイクル特性とを兼ね備えた優れた性能を有する新規な負極活物質、及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】鱗状黒鉛、及び(002)面の面間隔が0.336nm以下の人造黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の黒鉛原料と、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末との混合物を、高速気流中で粉砕、造粒して得られる造粒体であって、
原料とする黒鉛の一部が粉砕されて、黒鉛原料及びその粉砕物が積層した構造となり、その表面及び内部に金属粉末が分散した状態の造粒体からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質、及びリチウムイオンン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコン等の電子機器用の電源として、リチウムイオン二次電池が普及している。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と負極とが対向し、正極と負極との間にセパレータを介在させた構成を有するものである。これらの正極、負極およびセパレータは金属容器内に収納され、この金属容器内に非水電解液が注入されている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池の高容量化に向けて、充放電容量(電気容量)の高い負極材料の開発が進められている。従来、負極活物質としては、主として黒鉛粉体などの炭素材料が使用されているが、黒鉛の理論電気容量は372mAh/gであり、より高い充放電容量を得るために、種々の開発が行なわれている。
【0004】
例えば、黒鉛等の炭素材料と、黒鉛より高い理論電気容量を有する他の材料とを組み合わせて使用することが試みられており、他の材料としては、充電の際に電気化学的にリチウムと合金化するシリコン、錫、アルミニウム等が検討されている。これらの材料の内で、シリコンは高い理論電気容量(4198mAh/g)を有するものであり、これを負極材料の一部に用いたリチウムイオン二次電池が報告されている。例えば、下記特許文献1には、黒鉛粒子の周りに、シリコン及び炭素を少なくとも含有する複合粒子が分散して配置された構造の炭素材料が開示されている。
【0005】
しかしながら、シリコンは、リチウムを吸収すると膨張する性質を有し、黒鉛などの他の材料と比較して著しく高い膨張率を有するものである。従って、シリコンをリチウムイオン二次電池の負極活物質の一部として用いた場合、充放電によってリチウムの吸蔵及び放出を繰り返すと、シリコン自体が膨張収縮を繰り返すことになる。その結果、膨張収縮に耐え切れずにシリコンが微細化して、炭素材料から脱離するという現象が生じる。この場合、シリコンは、それ自体は電子導電性が無いので、集電特性を悪化させたり、微粉化したシリコンと非水電解液とが反応して非水電解液を分解させたりするという不具合を起こす。このため、シリコンを含む負極材料は、充放電を繰り返すと充放電容量の低下が著しく、十分なサイクル特性が得られないという欠点がある。
【特許文献1】特開2002−255529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、リチウムイオン二次電池用負極活物質において、高い充放電容量と優れたサイクル特性とを兼ね備えた優れた性能を有する新規な負極活物質、及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、黒鉛原料とリチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末との混合物を原料として用い、これを高速気流中で衝突させて原料粉末を粉砕、造粒させる方法によれば、黒鉛原料の一部が粉砕されて、黒鉛原料及びその粉砕物が凝集して積層した構造の造粒体が形成され、金属粉末は、該造粒体の表面と内部に分散した構造となることを見出した。そして、斯かる構造を有することによって、金属粉末がリチウムを吸蔵及び放出することによって膨張収縮を繰り返し、微細化した場合であっても、金属粉末が該造粒体の内部に多量に存在することによって、造粒体内部の空隙部において膨張収縮が行われ、造粒体からの脱離が防止されることを見出した。その結果、高い充放電容量を維持することが可能となり、優れたサイクル特性を有するものとなることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のリチウムイオン二次電池用負極活物質、及び該活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供するものである。
1. 鱗状黒鉛、及び(002)面の面間隔が0.336nm以下の人造黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の黒鉛原料と、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末との混合物を、高速気流中で粉砕、造粒して得られる造粒体であって、
原料とする黒鉛の一部が粉砕されて、黒鉛原料及びその粉砕物が積層した構造となり、その表面及び内部に金属粉末が分散した状態の造粒体からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
2. 平均粒径が5〜150μmの黒鉛原料と、平均粒径が0.01〜2μmの金属粉末の混合物を原料として得られた造粒体からなる上記項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
3. 造粒体のタップ密度が、原料混合物のタップ密度と比較して10%以上高い値
である上記項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
4. 金属粉末としてシリコン粉末を用いて得られる造粒体からなる上記項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
5. 黒鉛原料として天然黒鉛を用いて得られる造粒体からなる上記項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
6. 黒鉛原料と金属粉末の合計量を100質量%として、金属粉末を0.3〜40質量%含む原料を用いて得られる造粒体からなる上記項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
7. 湿式又は乾式の予備混合を行った原料混合物を、高速気流中で粉砕、造粒して得られる造粒体からなる上記項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
8. 上記項1〜7のいずれかに記載された造粒体の表面が、炭素前駆体又はその炭素化物によって被覆されている造粒体からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
9. 上記項1〜8のいずれかに記載されたリチウムイオン二次電池用負極活物質を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0009】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質について、具体的に説明する。
【0010】
原料成分
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質では、原料としては、黒鉛原料とリチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末とを組み合わせて用いる。
【0011】
黒鉛原料としては、鱗状黒鉛、及び(002)面の面間隔が0.336nm以下の人造黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。尚、上記面間隔は、X回折法によって求めた値である。
【0012】
これらの黒鉛原料の内で、鱗状黒鉛は、鱗状あるいは葉状で薄い鱗片状黒鉛(フレーク状黒鉛)と、形状が塊状である鱗状黒鉛に分けられるが、本発明では、鱗片状黒鉛と塊状の鱗状黒鉛をいずれも用いることができる。特に、結晶性が高い鱗片状黒鉛からなる天然黒鉛は、素材が柔らかいために、造粒体を形成し易く、しかもリチウムの吸蔵及び放出能が良好で、電気容量が高く低電位で平坦の放電特性を有する点で好ましい。
【0013】
また、人造黒鉛としては、結晶面(002)面の面間隔が0.336nm以下の人造黒鉛を用いることができる。この様な人造黒鉛としては、例えば、ニードルコークスなどの易黒鉛化性炭素を3000℃前後の温度で熱処理して得られる黒鉛やキッシュ黒鉛を用いることができる。これらの人造黒鉛は、鱗状黒鉛に近い組織や構造を有するものである。
【0014】
黒鉛原料の平均粒径は、5〜150μm程度のものを用いることができるが、目標とする造粒体の粒径によって好ましい粒径が異なる。例えば、目標とする造粒体の平均粒径が7〜10μm程度であれば、5〜40μm程度が適当であり、7〜30μm程度であることが好ましく、10〜20μm程度であることがより好ましい。目標とする造粒体の平均粒径が20μmであれば、20〜120μm程度が適当である。
【0015】
尚、本願明細書では、平均粒径は、レーザー回折散乱法を用いて測定し、累積頻度50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0016】
また、黒鉛原料の比表面積は、0.5〜20m/g程度であることが好ましく、1〜10m/g程度であることがより好ましい。この場合の比表面積は、BET法によって測定した値である。
【0017】
金属粉末としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末であれば特に限定なく使用できる。この様な金属粉末の具体例としては、シリコン、ゲルマニウム、錫、鉛、アルミニウム、インジウム、チタン、これらを含む合金等を挙げることができる。該合金については、上記した金属成分の組み合わせからなる合金の他、リチウムイオンを吸蔵及び放出しない金属を含む合金であっても良い。この場合、合金中の上記金属成分の含有量は特に限定的ではないが、十分な容量を得るためには、50質量%程度以上であることが好ましい。
【0018】
特に、シリコンは、4198mAh/gという高い理論電気容量を有する点で好ましい。シリコンは多結晶体、単結晶体のいずれでもよい。
【0019】
金属粉末の平均粒径は、2μm程度以下であることが適当であり、1μm程度以下であることが好ましく、0.5μm程度以下であることがより好ましい。金属粉末の粒径が大きすぎる場合には、黒鉛によって形成される造粒体の空隙部分に対して粒径が大きくなるので、空隙部分に存在する金属粉末の量が減少して、サイクル特性を十分に向上させることができない。金属粉末の粒径の下限値については、特に限定的ではなく、粒径が小さいほうが好ましい。通常の粉砕方法では、平均粒径0.01μm程度までの微粉末を製造することが可能であり、この程度の粒径の金属粉末を有効に用いることができる。
【0020】
通常、ジェットミル、攪拌槽型攪拌ミル(ビーズミル等)等を用いて粉砕を行うことによって、上記した粒径の小さい金属粉末を得ることが可能である。例えば、攪拌槽型攪拌ミル(ビーズミル等)を用いて、イソプロピルアルコール、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類などの有機溶剤を媒体として湿式で粉砕することもできる。
【0021】
黒鉛原料と金属粉末の混合割合については、使用する金属粉末の密度や電気容量によって適切な混合割合が異なるので特に限定的ではないが、得られる造粒体の電気容量が黒鉛の理論容量である372mAh/gを上回る値となる割合とすることが好ましい。通常は、黒鉛原料と金属粉末の合計量を100質量%として、金属粉末の割合を0.3〜40質量%程度とすることが好ましく、1.0〜20質量%程度とすることがより好ましい。金属粉末の割合がこれを下回ると、ほとんどの場合372mAh/g以上の放電容量を得ることが困難であり、上記範囲を上回るとリチウムを吸蔵及び放出する際の負極活物質の膨張及び収縮が大きくなりすぎて、サイクル特性が劣化するので好ましくない。例えば、金属粉末としてシリコン粉末を用いる場合には、シリコン粉末の割合は0.5〜25質量%程度とすることが好ましい。
【0022】
負極活物質の製造方法
本発明では、上記した黒鉛原料と金属粉末の混合物を高速気流中で衝突させる方法によって、黒鉛原料の一部が粉砕されて、黒鉛原料及びその粉砕物が積層した構造を形成し、その表面及び内部に金属粉末が分散した状態の造粒体を得ることができる。
【0023】
具体的な製造方法としては、例えば、特開平6−210152号公報に記載されている高速気流中衝突法を採用することができる。以下、この方法について図1及び図2を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1及び図2は、本発明の造粒体を製造するために使用できる造粒装置の一例を示す概念的な説明図である。図1及び図2において、1は該装置のケーシング、2はその後カバー、3はその前カバー、4はケーシング1の中にあって高速回転するローター、5はローター4の外周に所定の間隔を置いて放射状に周設された複数の衝撃ピンであり、これは一般にハンマー型またはブレード型のものである。6はローター4をケーシング1内に回転可能に軸支持する回転軸、7は衝撃ピン5の最外周軌道面に沿い、かつそれに対して一定の空間を置いて周設された衝突リングであり、該衝突リング7は、各種形状の凹凸型または円周平面型のものを用いることができる。装置の大きさによっても異なるが、衝撃ピン5の最外周軌道面と衝突リング7のギャップは0.5〜0mmであることが望ましい。8は衝突リング7の一部を切り欠いて設けた造粒体排出口に密接に嵌合する開閉弁、9は開閉弁8の弁軸、10は弁軸9を介して開閉弁8を操作するアクチュエーター、19は制御器、11は一端が衝突リング7の内壁の一部に開口し、他端がローター4の中心部に位置する前カバー3に開口して閉回路を形成する循環回路、12は原料ホッパー、13は原料ホッパー12と循環回路11とを連結する原料供給用のシュート、14は該シュートの途中に設けられた開閉弁である。15はローター4の外周と衝突リング7との間に設けられた衝撃室、16は衝突リング7の内壁の一部に開口する循環回路11への循環口、17は造粒体の排出管を各々示す。尚、本装置は完全回分式装置であるため、該装置内の雰囲気温度は時間と共に上昇する場合もある。上記衝突リング7はジャケット構造18になっているので、このような場合はそこに冷却水を流して、衝撃室15、循環回路11内の雰囲気温度を一定に制御することもできる。
【0025】
上記した装置を用いて造粒体を製造するには、まず、原料供給用のシュートの途中に設けられた開閉弁14を閉の状態にし、造粒体排出口の開閉弁8を閉鎖した状態にしておき、駆動手段(図示せず)によって回転軸6を駆動し、ローター4を回転させる。この際、衝撃ピン5の回転に伴って、急激な空気の流れが生じ、この気流の遠心力に基づくファン効果によって、衝突リング7の内壁の一部に開口する循環口16から、循環回路11を巡って前カバー3の中心部の開口部から衝撃室15に戻る気流の循環流れ、すなわち完全な自己循環の流れが形成される。この際発生する単位時間当りの循環風量は、衝撃室と循環系の全容積に較べ著しく多量であるため、短時間のうちに莫大な回数の空気流循環サイクルが形成される。循環風量は、ローターの外周速度に比例するので、単位時間当りの空気循環サイクルもローター外周速度が早くなるにつれて多くなる。
【0026】
ローターの回転は、外周速度30〜150m/s程度が好ましく、更に好ましくは50〜100m/s程度で回転させる。この際、ブレードの回転に伴って、急激な空気の流れが生じ、この気流の遠心力に基づくファン効果によって、循環口から循環経路を巡ってローター内に戻る気流の循環流れが形成される。例えば、700〜800回/分前後程度の空気循環サイクルが行なわれる
次に開閉弁14を開き、黒鉛原料と金属粉末との混合粉体を、原料ホッパー12に投入すると、該混合粉体は、原料ホッパー12からシュート13を通り衝撃室15に入る。原料ホッパー12中に該混合粉体が残っていないことを確認した後、開閉弁14を閉じる。
【0027】
上記混合粉体は、衝撃室15内で高速回転するローター4の多数の衝撃ピン5によって瞬間的に打撃作用を受け、更に周辺の衝突リング7に衝突する。更に、黒鉛原料同士の衝突も加わって、衝撃、圧縮、せん断力を受ける。そして前記気流の循環流れに同伴して、循環回路11を巡って再び衝撃室15に戻り、再度同様の作用を受ける。このように、同じ作用を繰り返し受けることにより、数分間の処理で、順次角の部分を落とされた黒鉛粒子が、粉砕された小粒子を捕捉しながら厚みを増して塊状となり、その表面及び内部に金属粉末が分散した状態の造粒体が形成される。
【0028】
上記操作が終了した後は、開閉弁14を開くと共に、造粒体排出口の開閉弁8を鎖線で示す位置に移動させて開き、得られた造粒体を排出する。
【0029】
本発明負極活物質
上記した方法によって得られる造粒体では、ジェット気流同士が衝突する衝突域において、原料とする黒鉛原料が衝突して、その一部、特に、黒鉛原料の角の部分が粉砕される。そして、角の部分を落とされた黒鉛原料が、粉砕された小粒子を捕捉し、更に、黒鉛粒子同士が積層することによって、厚みを増して塊状となり、黒鉛の造粒体が形成される。形成される造粒体は、原料とする黒鉛と比較すると、球形に近い形状を有するものとなり、造粒体の内部には、積層した黒鉛の間に空隙部分が形成される。金属粉末は、この様な造粒体の製造工程において、黒鉛と均一に混合され、得られる造粒体の表面と内部に分散した状態となる。
【0030】
得られる造粒体は、原料とした黒鉛と比較して球状に近くなっており、原料混合物と比較してタップ密度が高くなる。通常、上記した方法で得られた造粒体のタップ密度は、原料混合物のタップ密度と比較して10%程度以上高い値であることが好ましく、25%程度以上高い値であることがより好ましい。尚、本明細書では、タップ密度は、市販のタップ密度計((株)セイシン企業製 TAPDENSER KYT−4000)を用いて100ccのメスシリンダに検体である粉体を入れ、容器に打撃を与え、粉体のかさ密度の変化がなくなり、一定となった時点での密度である。
【0031】
得られる造粒体は、平均粒径が5〜30μm程度であることが好ましく、7〜20μm程度であることがより好ましい。特に、高速充放電を要する高出力タイプのリチウムイオン二次電池で用いる負極活物質では、平均粒径が7〜12μm程度であることが好ましい。
【0032】
上記した方法によって得られる造粒体は、図3に示すように、黒鉛粒子22が重ね合わさるように様々な方向に向いた状態で積層している。このように、黒鉛22が様々な方向に積層して配されることにより、造粒体の内部から表面23にかけて空隙24や凹凸が生じた構造となる。また、角の部分が欠け落ちた状態の鱗状黒鉛が積み重なっていることにより、該造粒体は、球形に近い形状となっている。このため、負極活物質として使用する場合に、リチウムLiがあらゆる方向から負極活物質の内部に侵入できることとなり、リチウムLiが侵入/離脱できる面積を広く取ることができ、高いリチウム吸蔵容量が得られる。
【0033】
また、図3に示すように、金属粉末21は、該造粒体の表面23だけでなく、空隙部24に多量に存在している。このため、リチウムを吸蔵/放出することによって、金属粉末が膨張収縮を繰り返し、この膨張収縮の繰り返しにより該金属粉末が微細化した場合であっても、空隙部24の内部において膨張収縮が行われ、微細化した金属粉末が黒鉛からなる造粒体から脱離することが抑制される。その結果、該金属粉末が膨張収縮を繰り返して微細化しても、電池性能の劣化は少なく、該金属粉末を添加したことによって得られる高い充放電容量を長期間維持することができる。
【0034】
更に、表面23に存在する金属粉末が脱落しても、金属粉末全体に対する割合が少ないので、そのことにより負極活物質の伝導性を損なうことが非常に少ない。
【0035】
従って、上記した造粒体は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合に、黒鉛とリチウムイオンの吸蔵及び放出能を有する金属粉末とを組合せて用いることによって、黒鉛を単独で用いる場合と比較して高い充放電容量を有するものとなり、更に、上記した特定構造の造粒体であることによって、充放電を繰り返した場合にも、充放電容量の低下が少なく、優れたサイクル特性を有するものとなる。
【0036】
予備混合工程
本発明では、上記した方法によって、黒鉛原料と金属粉末の造粒体を製造する前に、予備混合工程として、乾式又は湿式によって黒鉛原料と金属粉末を予め混合してもよい。
【0037】
乾式で予備混合を行う場合には、例えば、せん断粗砕機やボールミルなどを用いることができる。せん断粗砕機は、ブレードが高速回転することによりせん断力をかけながら材料を混合するものである。この場合、混合時間は数分〜30分程度が好ましい。
【0038】
また、ボールミルでは、ゴム製のボールを用いて材料の混合を行うことが好ましく、この場合、金属粉末がより均一に分散される。この場合、混合時間は30分〜60分程度が好ましい。
【0039】
また、金属粉末を湿式で予備混合することもできる。すなわち金属粉末と黒鉛原料とをアルコール等に分散させ、撹拌混合させ、その後、蒸発器や乾燥機を用いて有機溶剤を蒸発させることによって予備混合を行うことができる。
【0040】
尚、アルコール等の溶媒を蒸発させた後、金属粉末と黒鉛がやや固まった状態となることがある。この場合には、ボールミル等を用いて固まった状態を十分にほぐすことが好ましい。この場合、ボールミルの他に、圧縮破砕機、せん断粗砕機、ローラーミル、衝撃せん断ミル、撹拌ミル、ジェットミル、ライカイ機、乳鉢、臼等を用いることができる。
【0041】
この様な方法で予備混合された粉末を用いて、上記した方法で黒鉛原料と金属粉末との造粒体を製造することによって、より均一に金属粉末が分散した造粒体を得ることができる。
【0042】
表面被覆処理
前述した高速気流中衝撃法によって得られる造粒体は、更に、その表面を炭素前駆体又はその炭素化物によって被覆してもよい。表面を被覆することによって、黒鉛の活性点を覆うと共に、比表面積を低減させることができ、電解液との反応性を低下させて、電解液の分解を抑制することができる。更に、表面を被覆することによって、金属粉末の膨張及び収縮を抑制することができ、該造粒体からの金属粉末の脱離も抑制できる。
【0043】
炭素前駆体としては、石炭系又は石油系のピッチやタールの他に、各種セルロース、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールの各種の合成樹脂を用いることができる。ピッチは等方性ピッチであっても異方性ピッチであってもよい。これらの炭素前駆体は、二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0044】
上記した炭素前駆体によって造粒体の表面を被覆する方法については、特に限定的ではないが、例えば、炭素前駆体と造粒体とを常温で混合したものを炭素前駆体の軟化点以上の温度にする方法、炭素前駆体と造粒体とを炭素前駆体の軟化点以上の温度で混合する方法、液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液中に造粒体を浸漬する方法などを適用できる。
【0045】
炭素前駆体と造粒体を混合する方法については、特に限定はなく、例えば、ナウターミキサ、リボンミキサー、V型ミキサー、ロッキングミキサー、スクリュー型ニーダー、万能ミキサーなどを使用して混合すればよい。
【0046】
炭素前駆体と造粒体とを炭素前駆体の軟化点以上の温度で混合する方法の場合、炭素前駆体と造粒体との混合操作は、使用する炭素前駆体の軟化点以上の温度で行う。温度の上限については特に限定は無いが、炭素前駆体による被覆を目的とする場合には、該炭素前駆体の炭素化温度以下の温度とすればよい。撹拌時の圧力は、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0047】
造粒体に対する炭素前駆体の割合は、電解液の分解を抑制するなどの効果が得られる割合であればよい。炭素前駆体を過剰に加えると、造粒体同士が過度に凝集して固着しやすくなるので好ましくない。通常、造粒体100質量部に対して、炭素前駆体量を0.1〜50質量部程度とすることが好ましく、1〜20質量部程度とすることがより好ましく、2〜15質量部程度とすることが更に好ましい。
【0048】
液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液中に造粒体を浸漬する方法では、例えば、ピッチやタールを使用する場合には、加熱して粘度を低下させるか、或いは、有機溶媒と混合して粘度を調整すればよい。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キノリン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン、メチルナフタレン、アルコール類、石炭系油、石油系油等を用いることができる。
【0049】
合成樹脂は、通常、有機溶媒に溶解して用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キノリン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン、メチルナフタレン、アルコール類等から適宜選択される。
【0050】
撹拌方法としては、特に限定されないが、例えば、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、万能ミキサーなどを使用することができる。撹拌条件は、混合物の粘度、使用する有機溶媒などに応じて適宜選択されるが、通常、液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液の粘度が500Pa・s以下になる条件とすることが好ましい。通常、処理温度は、10〜200℃程度の範囲とすればよく、撹拌時の圧力は、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0051】
液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液中に造粒体を浸漬した後、炭素前体で被覆された造粒体を液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液から分離する。分離方法としては、遠心分離、圧搾濾過、重力沈降分離などの方法を適宜適用すればよい。分離する際の温度は、特に限定されていないが、通常10〜200℃程度の範囲とすればよい。
【0052】
分離された造粒体を乾燥することによって、炭素前駆体で表面被覆された造粒体が得られる。乾燥温度は特に限定的ではないが、通常、100〜300℃程度とすればよい。尚、炭素前駆体として熱硬化性の合成樹脂を使用する場合には、合成樹脂の硬化温度より高い温度範囲で乾燥を行うことにより、樹脂成分を残したまま硬化させることができる。また、乾燥後に合成樹脂の硬化温度〜300℃の温度範囲で別途熱処理を行い、被覆成分である合成樹脂を樹脂成分を残したまま硬化させることも可能である。
【0053】
液状の炭素前駆体又は炭素前駆体の溶液中に造粒体を浸漬する方法では、炭素前駆体による被覆量は、該造粒体と炭素前駆体を混合する場合と同様に、造粒体100質量部に対して、炭素前駆体量を0.1〜50質量部程度とすることが好ましく、1〜20質量部程度とすることがより好ましく、2〜15質量部程度とすることが更に好ましい。炭素前駆体による被覆量は、例えば、炭素前駆体を含む溶液の濃度を変化させることによって、適宜調整することができる。
【0054】
上記した方法で炭素前駆体によって造粒体の表面を被覆した後、該炭素前駆体を炭素化してもよい。炭素化処理は、炭素前駆体によって表面を被覆された造粒体を、窒素等の不活性ガス気流中、還元雰囲気中などの非酸化性雰囲気中等で熱処理すればよい。熱処理温度は、800〜1200℃程度とすることが好ましい。尚、窒素ガス雰囲気で炭素化する場合には、金属粉末と窒素が反応しないように、1000℃以下の炭素化温度とすることが好ましい。最高到達温度での保持時間は特に限定されず、例えば数分〜2時間程度とすることができる。昇温速度は、あまり速いと造粒体同士の凝集が発生しやすくなるので、凝集の発生を抑えることを考慮しつつ経済的な昇温速度を選択すれば良い。例えば、10〜200℃/時間程度とすることができる。尚、凝集が発生しても、殆どの場合は軽いせん断力をかけることによって容易に解砕することができる。
【0055】
上記した炭素化によって、造粒体を被覆した炭素前駆体の1〜60質量%程度が炭素化物として残留する。例えば、炭素前駆体がピッチである場合には、炭素化による残留率は50質量%程度となる。また、炭素前駆体がフェノール樹脂の場合には、炭素化による残留率は50質量%程度、ポリビニルアルコールの場合には、5質量%程度以下となる。
【0056】
尚、炭素前駆体又はその炭素化物による被覆方法は、上記した方法に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素を熱分解し、熱分解炭素層を析出させる化学蒸着法によっても被覆処理を行うことができる。
【0057】
リチウムイオン二次電池
上記した黒鉛原料と金属粉末からなる造粒体は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として有用である。該負極活物質を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の方法により製造することができる。すなわち、負極活物質として、上記した造粒体を使用し、正極活物質としては、MnO2、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-yCoyO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFeO2などの公知の正極活物質を使用できる。電解液としては、例えば、エチレンカーボネートなどの有機溶媒や、該有機溶媒とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシメタン、エトキシメトキシエタンなどの低沸点溶媒との混合溶媒に、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4、LiCF3SO3などの電解液溶質を溶解した溶液等を用いることができる。更にその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てることができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の負極活物質は、黒鉛とリチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末を有効成分として含むものであり、黒鉛を単独で用いる場合と比較して高い充放電容量を有するものである。
【0059】
更に、黒鉛原料及びその粉砕物が積層した構造を形成し、その表面及び内部に金属粉末が分散していることによって、該金属粉末が膨張収縮を繰り返して微細化しても、電池性能の劣化は少なく、該金属粉末を添加したことによって得られる高い充放電容量を長期間維持することができる。
【0060】
更に、表面に存在する金属粉末が脱落しても、金属粉末全体に対する割合が少ないので、そのことにより負極活物質の伝導性を損なうことが非常に少ない。
【0061】
従って、本発明の負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、高い充放電容量と優れたサイクル特性を備えたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0063】
実施例1
平均粒径1μmの多結晶のシリコン粉末を市販のビーズミルを用いて粉砕したシリコン粉末(平均粒径0.2μm)5gと天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径10μm、真比重2.25、比表面積8.8m/g)95gを原料として用いた。造粒体の製造装置として、図1に示す構造を有する装置((株)奈良機械製作所製、ハイブリダイゼーション・システムNHS-1型)を用い、この装置に上記原料を投入して、8000rpm(外周速度96m/s)で3分間混合した。この操作を5回繰り返して行い、造粒体500gを得た。
【0064】
得られた造粒体の平均粒径は7.2μmであり、タップ密度は0.77g/ccであった。尚、造粒前の天然黒鉛とシリコン粉末の混合物について、前述した方法に従って均一に混合した後測定したタップ密度は0.57g/ccであった。
【0065】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、ロッキングミキサーを用いて1時間混合した。その後、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。
【0066】
上記方法で得られた負極活物質のシリコン含有率は、4.7質量%であり、平均粒径は7.5μm、比表面積は6.7m/gであった。
【0067】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、以下の方法でリチウムイオン二次電池の電池特性の評価を行なった。
【0068】
まず、上記負極活物質にバインダとして水分散系のスチレンーブタジエンゴム(SBR)、カルポキシメチルセルロース(CMC)および水を適量加えて攪拌することによって、負極活物質を含むスラリーを調製した。
【0069】
次いで、このスラリーを、50x200(mm)の銅箔上に約100〜110μmの厚さに塗布し、乾燥させた後、ロールプレス機で活物質の密度が1.5〜1.6g/ccになるようにプレスして負極板を製造した。この負極板を1cmの大きさに裁断分割して乾燥させて、負極を製造した。
【0070】
次に、この負極を用いて、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で、電極セルの組み立てを行った。この際、1MのLiPFをエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=1/2(体積比)の混合溶媒に溶解した非水電解液を用いて、負極が完全に浸かる量まで該電解液を注入した。
【0071】
次いで、電極セルをグローブボックスから25℃の恒温槽内に移し、リチウム対極、負極、及びリファレンス極端子に充放電装置接続コードを繋いで評価測定を行った。本測定では、電流密度1.0mA/cmで定電流で充電後、電圧10mVで定電圧の充電に切り代えて12時間充電を行った。放電条件は、1.0mA/cmの定電流放電とし、カットオフ電圧を1.2Vとした。
【0072】
以上の電池特性評価の結果、放電容量は464mAh/gであり、初期効率は86%であった。
【0073】
実施例2
実施例1と同様にして粉砕したシリコン粉末(平均粒径0.2μm)10gと天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径10μm、真比重2.25)90gを用い、実施例1と同じ造粒体の製造装置を用いて、実施例1と同様の方法で造粒体500gを得た。
【0074】
得られた造粒体の平均粒径は6.6μmであり、タップ密度は0.80g/ccであった。尚、造粒前の天然黒鉛とシリコン粉末の混合物について、前述した方法に従って均一に混合した後測定したタップ密度は0.59g/ccであった。
【0075】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、実施例1と同様の条件で混合した後、実施例1と同様の条件で加熱して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。
【0076】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は7.0μmであり、比表面積は8.9m/gであった。
【0077】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は465mAh/gであり、初期効率は87%であった。
【0078】
次いで、電解液を、1MのLiPFをエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1(体積比)の混合溶媒に溶解した非水電解液に変更して、同様の方法でサイクル特性の評価試験を行った。その結果、1サイクル目の放電容量は604mAh/gであり、2サイクル目の放電容量を1サイクル目における放電容量で除した値(パーセント容量比)は、96%であった。
【0079】
実施例3
実施例1と同様にして粉砕したシリコン粉末(平均粒径0.2μm)15gと天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径10μm、真比重2.25)85gを用い、実施例1と同じ造粒体の製造装置を用いて、実施例1と同様の方法で造粒体500gを得た。
【0080】
得られた造粒体の平均粒径は7.2μmであり、タップ密度は0.88g/ccであった。尚、造粒前の天然黒鉛とシリコン粉末の混合物について、前述した方法に従って均一に混合した後測定したタップ密度は0.61g/ccであった。
【0081】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、実施例1と同様の条件で混合した後、実施例1と同様の条件で加熱して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は14.0質量%であった。
【0082】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は7.5μmであり、比表面積は8.4m/gであった。
【0083】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は578mAh/gであり、初期効率は85%であった。
【0084】
次いで、電解液を、1MのLiPFをエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1(体積比)の混合溶媒に溶解した非水電解液に変更して、同様の方法でサイクル特性の評価試験を行った。その結果、1サイクル目の放電容量は648mAh/gであり、2サイクル目の放電容量を1サイクル目における放電容量で除した値(パーセント容量比)は、96%であった。
【0085】
実施例4
せん断粗砕機を用いて実施例1と同様の黒鉛95質量部と、実施例1と同様のシリコン粉末5質量部とを予め混合した。この混合物のタップ密度は0.57g/ccであった。
【0086】
得られた混合物を100g採取し、実施例1と同じ造粒体の製造装置を用いて、実施例1と同様の方法で造粒体500gを得た。造粒体の平均粒径は7.5μmであり、タップ密度は0.78g/ccであった。
【0087】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、実施例1と同様の条件で混合した後、実施例1と同様の条件で加熱して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は4.7質量%であった。
【0088】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は7.7μm、比表面積は6.8m/gであった。
【0089】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は577mAh/gであり、初期効率は85%であった。
【0090】
実施例5
黒鉛90質量部とシリコン粉末10質量部を原料として用いる以外は、実施例4と同様にして、造粒体500gを得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.59g/ccであった。造粒体の平均粒径は6.8μmであり、タップ密度は0.80g/ccであった。
【0091】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、実施例1と同様の条件で混合した後、実施例1と同様の条件で加熱して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は9.3質量%であった。
【0092】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は7.0μmであり、比表面積は8.5m/gであった。
【0093】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は620mAh/gであり、初期効率は85%であった。
【0094】
実施例6
黒鉛85質量部とシリコン粉末15質量部を原料として用いる以外は、実施例4と同様にして、造粒体500gを得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.61g/ccであった。造粒体の平均粒径は6.2μmであり、タップ密度は0.85g/ccであった。
【0095】
次いで、上記した方法で得た造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加え、実施例1と同様の条件で混合した後、実施例1と同様の条件で加熱して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は14.0質量%であった。
【0096】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は6.8μmであり、比表面積は8.9m/gであった。
【0097】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は670mAh/gであり、初期効率は84%であった。
【0098】
実施例7
平均粒径1μmのシリコン粉末を、ビーズミルを用いてイソプロピールアルコールを媒体として粉砕し、平均粒径0.2μmのシリコン粉末とした。得られた粉砕物は、アルコール中に平均粒径0.2μmのシリコン粉末が分散した状態であった。この分散液に、シリコン010質量部に対して90質量部の天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径20μm、真比重2.25、比表面積4.5m/g)を加えて撹拌混合した。その後、蒸発器を用いてアルコールを蒸発させた。
【0099】
次いで、上記した方法で得られたシリコン粉末と天然黒鉛の混合物をゴム製のボールとともにボールミルに入れて更に混合した。
【0100】
上記した方法で得られた混合物を90g採取し、実施例1と同一の造粒体の製造装置を用いて8000rpmで3分間混合して、造粒体を得た。この操作を95回繰り返して行い、造粒体8.5kgを得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.60g/ccであった。造粒体の平均粒径は16.1μmであり、タップ密度は0.93g/ccであった。
【0101】
次いで、得られた造粒体100質量部に対して等方性ピッチを30質量部加え、ナウターミキサを用いて1時間混合した。その後、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は8.7質量%であった。
【0102】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は16.5μmであり、比表面積は4.3m/gであった。
【0103】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用い、電解液として、1MのLiPFをエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1(体積比)の混合溶媒に溶解した非水電解液を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。
【0104】
その結果、1サイクル目の放電容量は565mAh/gであり、初期効率は90%であった。また、2サイクル目の放電容量を1サイクル目における放電容量で除した値(パーセント容量比)は、98%であり、10サイクル目の放電容量を1サイクル目における放電容量で除した値は90%であり、良好なサイクル特性を示した。
【0105】
実施例8
平均粒径1μmのシリコン粉末を、ビーズミルを用いてイソプロピールアルコールを媒体として粉砕し、平均粒径0.2μmのシリコン粉末とした。得られた粉砕物は、アルコール中に平均粒径0.2μmのシリコン粉末が分散した状態であった。この分散液に、シリコン15質量部に対して85質量部の天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径20μm、真比重2.25)を加えて撹拌混合した。その後、蒸発器を用いてアルコールを蒸発させた。
【0106】
次いで、上記した方法で得られたシリコン粉末と天然黒鉛の混合物をゴム製のボールとともにボールミルに入れて更に混合した。
【0107】
上記した方法で得られた混合物を80g採取し、実施例1と同一の造粒体の製造装置を用いて8000rpmで3分間混合して、造粒体を得た。この操作を96回繰り返して行い、造粒体7.6kgを得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.62g/ccであった。造粒体の平均粒径は9.0μmであり、タップ密度は0.88g/ccであった。
【0108】
得られた造粒体100質量部に対して等方性ピッチを15質量部加えてナウターミキサを用いて1時間混合した。その後、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆した。次いで、ピッチ炭素化物で被覆された造粒体100質量部に対して、更に、等方性ピッチを15質量部加えてナウターミキサを用いて1時間混合し、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。得られた負極活物質では、シリコン量は12.9質量%であった。
【0109】
上記方法で得られた負極活物質の平均粒径は9.3μmであり、比表面積は7.2m/gであった。
【0110】
図4に、実施例8で得られた負極活物質について、その断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(a)と同一視野におけるエネルギー分散型蛍光X線分析(EDS)によるシリコンの面分析(b)とを示す。観察用のサンプルは、負極活物質をエポキシ樹脂に埋め込み、研磨することによって得られたものであり、その切断面を4000倍の倍率で観察した。
【0111】
シリコンの面分析(b)により、シリコンが内部に分散して存在していることが分かった。尚、最も明るい白色の領域はシリコンの濃度が、約35質量%であり、暗くなるに従ってシリコンの濃度が低くなっている。
【0112】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は633mAh/gであり、初期効率は82%であった。
【0113】
実施例9
平均粒径1μmのシリコン粉末を、ビーズミルを用いてイソプロピールアルコールを媒体として粉砕し、平均粒径0.2μmのシリコン粉末とした。得られた粉砕物は、アルコール中に平均粒径0.2μmのシリコン粉末が分散した状態であった。この分散液に、シリコン1質量部に対して99質量部の天然黒鉛(鱗片状黒鉛)(平均粒径20μm、真比重2.25)を加えて撹拌混合した。その後、蒸発器を用いてアルコールを蒸発させた。
【0114】
次いで、上記した方法で得られたシリコン粉末と天然黒鉛の混合物をゴム製のボールとともにボールミルに入れて更に混合した。
【0115】
上記した方法で得られた混合物を90g採取し、実施例1と同一の造粒体の製造装置を用いて8000rpmで3分間混合して、造粒体を得た。この操作を20回繰り返して行い、造粒体1.8kgを得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.56g/ccであった。造粒体の平均粒径は9.8μmであり、タップ密度は0.90g/ccであった。
【0116】
次いで、得られた造粒体100質量部に対して等方性ピッチを20質量部加え、ナウターミキサを用いて1時間混合した。その後、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該造粒体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。
【0117】
得られた負極活物質では、シリコン量は0.9質量%であった。負極活物質の平均粒径は10.0μmであり、比表面積は4.8m/gであった。
【0118】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は392mAh/gであり、初期効率は88%であった。
【0119】
実施例10
シリコン2質量部に対して天然黒鉛(鱗片状黒鉛)98質量部を用いる以外は、実施例9と同様にして、造粒体を得た。
【0120】
得られた造粒体について、実施例9と同様にして表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.57g/ccであった。造粒体の平均粒径は9.2μmであり、タップ密度は0.87g/ccであった。
【0121】
得られた負極活物質では、シリコン量は1.8質量%であった。負極活物質の平均粒径は9.5μmであり、比表面積は4.2m/gであった。
【0122】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は404mAh/gであり、初期効率は88%であった。
【0123】
実施例11
シリコン3質量部に対して天然黒鉛(鱗片状黒鉛)97質量部を用いる以外は、実施例9と同様にして、造粒体を得た。
【0124】
得られた造粒体について、実施例9と同様にして表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。造粒処理前の混合物のタップ密度は0.58g/ccであった。造粒体の平均粒径は9.0μmであり、タップ密度は0.83g/ccであった。
【0125】
得られた負極活物質では、シリコン量は2.7質量%であった。負極活物質の平均粒径は9.2μmであり、比表面積は4.6m/gであった。
【0126】
電池特性の評価
上記した方法で得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で電池特性の評価試験を行った。その結果、放電容量は421mAh/gであり、初期効率は88%であった。
【0127】
比較例1
市販の球形化黒鉛(天然の鱗片状黒鉛を球形化させたもの。平均粒径15μm)13.5kgと、平均粒径1μmの多結晶のシリコン粉末を市販のビーズミルを用いて粉砕したシリコン粉末(平均粒径0.2μm)1.5kgとをナウターミキサに投入し1時間混合した。
【0128】
得られた混合体100質量部に対して等方性ピッチを10質量部加えてナウターミキサを用いて1時間混合した。その後、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該混合体の表面をピッチ炭素化物により被覆した。次いで、ピッチ炭素化物で被覆された混合体100質量部に対して、更に、等方性ピッチを15質量部加えてナウターミキサを用いて1時間混合し、窒素ガス雰囲気中で900℃まで15時間かけて昇温し、900℃で2時間保持して、該混合体の表面をピッチ炭素化物により被覆して、負極活物質を得た。
【0129】
得られた負極活物質では、シリコン量は8.9質量%であった。負極活物質の平均粒径は16.4μmであり、比表面積は4.4m/gであった。
実施例1と同様の方法で電池特性評価を行った結果、放電容量は467mAh/gであり、初期効率は86%であった。また、6サイクル目の放電容量を1サイクル目における放電容量で除した値(パーセント容量比)は、75%であった。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の負極活物質の製造装置の概念的な説明図である。
【図2】図1の装置の側断面説明図である。
【図3】本発明の負極活物質の概略構成を示す概念図である。
【図4】実施例8で得た造粒体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(a)と同一視野におけるエネルギー分散型蛍光X線分析(EDS)によるシリコンの面分析(b)である。
【符号の説明】
【0131】
1 造粒装置のケーシング、
2 後カバー、
3 前カバー、
4 ローター、
5 衝撃ピン
6 回転軸、
7 衝突リング
8 開閉弁、
9 開閉弁の弁軸、
10 アクチュエーター、
11 循環回路、
12 原料ホッパー、
13 原料供給用シュート、
14 開閉弁、
15 衝撃室、
16 循環回路への循環口、
17 造粒体の排出管
18 ジャケット
19 制御器
21 金属粉末
22 黒鉛粒子
23 造粒体の表面
24 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗状黒鉛、及び(002)面の面間隔が0.336nm以下の人造黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の黒鉛原料と、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属粉末との混合物を、高速気流中で粉砕、造粒して得られる造粒体であって、
原料とする黒鉛の一部が粉砕されて、黒鉛原料及びその粉砕物が積層した構造となり、その表面及び内部に金属粉末が分散した状態の造粒体からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
平均粒径が5〜150μmの黒鉛原料と、平均粒径が0.01〜2μmの金属粉末の混合物を原料として得られた造粒体からなる請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
造粒体のタップ密度が、原料混合物のタップ密度と比較して10%以上高い値である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項4】
金属粉末としてシリコン粉末を用いて得られる造粒体からなる請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項5】
黒鉛原料として天然黒鉛を用いて得られる造粒体からなる請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項6】
黒鉛原料と金属粉末の合計量を100質量%として、金属粉末を0.3〜40質量%含む原料を用いて得られる造粒体からなる請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項7】
湿式又は乾式の予備混合を行った原料混合物を、高速気流中で粉砕、造粒して得られる造粒体からなる請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された造粒体の表面が、炭素前駆体又はその炭素化物によって被覆されている造粒体からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載されたリチウムイオン二次電池用負極活物質を構成要素とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−27897(P2008−27897A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112871(P2007−112871)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】