説明

リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末及びその製造方法

【課題】優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、高容量及び高入出力を有するリチウムイオン二次電池の負極材を提供する。
【解決手段】ケイ素の含有量がケイ素原子換算で1〜30重量%、電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dnが150〜1000nm、揮発分Vmが5.0%以下、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstに対するその半値幅ΔDstの比(半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst)が0.40〜1.10、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)が0.370nm以下の炭素微小球であるリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量及び高入出力を有するリチウムイオン二次電池の負極材として用いられる炭素材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解二次電池としてリチウム塩の有機電解質を用いたリチウムイオン二次電池は、軽量でエネルギー密度が高く、携帯用小型電子機器の電源をはじめ、近年ではハイブリッドカーや電気自動車などの動力用電源として期待されている。
【0003】
近年の携帯用小型機器、例えば、携帯電話、携帯オーディオ機器、携帯ビデオカメラやデジタルカメラ等の高性能化に伴い、それらの消費電力は増加の一途であり、それらの電源として用いられるリチウムイオン二次電池には、更なる高容量化が求められている。その一方で、ハイブリッドカーや電気自動車などの電源には、高入出力特性、すなわち、急速充放電特性に優れることや、高寿命、すなわち、サイクル特性に優れることが求められている。このように、リチウムイオン二次電池には、多種に渡る特徴を持つリチウムイオン二次電池用の負極材が求められている。
【0004】
高容量化の手段の一つとして金属リチウムを負極材として用いることが考えられる。しかし、金属リチウムは、充電時にリチウムイオンが、デンドライト状に析出し、成長し、安全性に問題があることから、取扱が困難である。
【0005】
黒鉛材はリチウムイオンの吸脱着に優れていることから、充放電の効率が高く、更に、放電時の電位も金属リチウムとほぼ等しく、高電圧の電池が得られるなどの利点を有する。しかし、黒鉛材を用いた場合の理論容量は372mAh/gであり、近年の黒鉛材は、その値にほぼ近づいていることから、黒鉛単体では高容量化に限界が生じている。
【0006】
そこで、合金系の負極材の開発が行われており、金属としては、ケイ素、スズ、ビスマス、アルミニウム、アンチモンなどが代表的である。その中で、ケイ素は、リチウムを取り込む配位数が多く、その理論容量は4000mAh/gである。しかし、その一方で体積膨張が大きく、ケイ素の微粉化が進行し、繰り返し使用できない。そこで、ケイ素にケイ素酸化物や黒鉛、炭素を複合させることで、その体積膨張を抑えつつ、既存の黒鉛の容量をはるかに超える材料となる。
【0007】
上記のような、ケイ素を用いる複合材料では、ケイ素の粒子径は小さいほうが好ましく、数nmというレベルで存在させることにより、繰り返しの使用が可能となる。
【0008】
ケイ素を含む炭素との複合材料としては、例えば、特開平7−315822号公報(特許文献1)には、原料の炭素源としてベンゼンなどの液体と、四塩化ケイ素、ジメチルジシクロシランなどの液体を、それぞれ高純度なアルゴンガスなどのキャリアーを用いて、熱分解炉に挿入し、200〜1100℃の温度範囲で熱分解し、1〜5時間持続させて堆積物を得る、化学蒸着法(CVD法)により得られた炭素質挿入化合物が開示されている。
【0009】
また、特開2004−47404号公報(特許文献2)には、酸化ケイ素をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900〜1400℃で熱処理して不均化してなるケイ素化合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化ケイ素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又はケイ素及びこの部分酸化物もしくは窒化物を不活性ガス気流下800〜1400℃で加熱したものを、800〜1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理することにより得られる、ケイ素の微結晶がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる導電性ケイ素複合体が開示されている。
【0010】
また、特開平7−302588号公報(特許文献3)には、反応容器内にLi原料含有ガス、Si原料含有ガス及びC原料含有ガスを導入し、プラズマ反応により容器内の基板上にLi−Si−C系の合成物膜を形成することにより、Li、Si及びCを含有するリチウム二次電池用負極が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平7−315822号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−47404号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−302588号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の炭素質挿入化合物は、CVD法で生成しているので、バルク体が形成されていると考えられ、その大きさも1μm以上であると推測される。そのため、Liイオンの入出力特性が劣るという問題があった。また、特許文献1には、効率的に炭素質挿入化合物を量産することが困難であること、取扱が困難であること、原料の挿入が不安定であること等の問題もあった。
【0013】
また、特許文献2では、Si微結晶粒子を二酸化ケイ素中に分散させ、二酸化ケイ素表面にブラファイト構造を有する炭素をコーティングしているが、その炭素量は好ましくは10〜30wt%と記載されており、ナノ構造を有する純粋な炭素材に比べて、導電性は確保できない。よって、集電性の低下は避けられず、Liイオンの電極内の移動が妨げられ、高入出力特性が劣るという問題があった。
【0014】
また、特許文献3では、膜厚が5〜20μmと厚く、高入出力特性が劣るという問題があった。
【0015】
従って、本発明の課題は、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、高容量及び高入出力を有するリチウムイオン二次電池の負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ケイ素源となる化合物及び炭素源となる化合物を、不活性ガスで希釈して、特定の温度の外熱式反応炉に導入して、特定の線速度で該外熱式反応炉内を通過させることにより、炭素源となる化合物が分解し炭化して、球状の炭素微小球になり、その際に、ケイ素源となる化合物の分解により生じたケイ素が該炭素微小球中に取り込まれるので、微細なケイ素を内包する炭素微小球が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明(1)は、ケイ素の含有量がケイ素原子換算で1〜30重量%、電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dnが150〜1000nm、揮発分Vmが5.0%以下、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstに対するその半値幅ΔDstの比(半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst)が0.40〜1.10、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)が0.370nm以下の炭素微小球であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、有機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈されており且つ該有機ケイ素化合物の濃度が10〜50体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、有機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており且つ該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が10〜50体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており、該炭化水素の濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈されており、該有機ケイ素化合物の濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており、該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、高容量及び高入出力を有するリチウムイオン二次電池の負極材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法は、原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得るリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法である。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を実施するための装置の全体構成を示す説明図である。なお、図1に示す該装置は、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を実施するための装置の形態例であり、これに限定されるものではない。図1中、9は液体のケイ素化合物が貯蔵されている液体ケイ素化合物用タンク、10は気体のケイ素化合物が充填されている気体ケイ素化合物用ボンベ、11は気体の炭化水素が充填されている気体炭化水素ボンベ、12は不活性ガスボンベ、14は液体の炭化水素が貯蔵されている液体炭化水素用タンク、17は外熱式反応炉である。また、15は該液体ケイ素化合物用タンク9又は該液体炭化水素用タンク14を予熱するための予熱ヒーターであり、液体ケイ素化合物又は液体炭化水素を気化させるためのヒーターである。13は原料含有ガスの各原料の導入量を測定するための流量計である。そして、該液体ケイ素化合物用タンク9、該気体ケイ素化合物用ボンベ10、該気体炭化水素用ボンベ11及び該液体炭化水素用タンク14は、原料含有ガス導入管8に繋がっているので、所定の原料が混合され不活性ガスで希釈された原料含有ガスを、該原料含有ガス導入管8から、該外熱式反応炉17に導入できるようになっている。
【0026】
また、図1中、18は該外熱式反応炉17を加熱するためのヒーター、21は該外熱式反応炉17で生成した熱分解物及び不活性ガスを冷却するための冷却管、24は該熱分解物を捕集するための捕集室、25は該原料含有ガスの熱分解によって生成する酸性ガスを中和するための中和槽、26は該原料含有ガスの熱分解によって生成する分解ガスを完全燃焼させるための排ガス燃焼装置である。該中和槽25内には、例えば、水酸化ナトリウム等の塩基性液体が入れられている。20は該外熱式反応炉の温度を調節するための温度調節器であり、23は該外熱式反応炉内を予め脱酸素するための真空ポンプである。また、該捕集室24及び該真空ポンプ23に繋がる配管には、バルブ22が付設されている。
【0027】
また、図1中、19は該外熱式反応炉17の後段に、該原料含有ガスを導入するための後段側原料含有ガス導入管である。該液体ケイ素化合物用タンク9、該気体ケイ素化合物用ボンベ10、該気体炭化水素用ボンベ11及び該液体炭化水素用タンク14は、該後段側原料含有ガス導入管19にも繋がっているので、所定の原料が混合され不活性ガスで希釈された原料含有ガスを、該後段側原料含有ガス導入管19から、該外熱式反応炉17の後段部にも導入できるようになっている。
【0028】
該外熱式反応炉17は、該原料含有ガス中の原料を、熱分解及び炭化して、ケイ素が内包された炭素微小球に転換するための反応炉である。該外熱式反応炉17としては、例えば、内径145mm、長さ1500mmの不透明石英管が挙げられる。図1では、該外熱式反応炉17の外側には、該ヒーター18が設置されているが、本発明において、外熱方式としては、高周波誘導加熱方式、電熱加熱方式、燃焼ガスを流す方式等が適用可能である。
【0029】
該外熱式反応炉17は、該原料含有ガスの線流速を制御するために、管径が異なる耐熱性管を内挿できるようになっている。該耐熱性管は、例えば、ムライト製、炭化ケイ素製等である。
【0030】
該外熱式反応炉17内の温度は、熱電対又は放射温度計で該外熱式反応炉17内の温度を検出して、該温度調節器20で所定の温度に制御される。
【0031】
先ず、該液体ケイ素化合物用タンク9、該気体ケイ素化合物用ボンベ10、該気体炭化水素用ボンベ11及び該液体炭化水素用タンク14から原料を、該不活性ガスボンベ12から不活性ガスを、該原料含有ガス中の各原料の濃度が、所定の濃度となるように供給して、該原料含有ガス導入管8から、該原料含有ガスを、該外熱式反応炉17に導入する。そして、該原料含有ガスを、該外熱式反応炉17を通過させる。
【0032】
該外熱式反応炉17に導入された該原料含有ガス中の原料は、該外熱式反応炉17を通過することにより、熱分解及び炭化して、熱分解物になる。この時、該原料含有ガス中の原料は、炭化して、球状の炭素微小球になると共に、炭化の際に、内部に熱分解で生じたケイ素が内包される。そのため、該外熱式反応炉17を通過して外へ排出される該熱分解物は、ケイ素が内包されている炭素微小球である。
【0033】
次いで、該外熱式反応炉17から排出される該熱分解物及び該不活性ガスを、該冷却管21にて冷却し、次いで、該捕集室24で、該熱分解物を捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球を得る。また、該排出ガスは、該捕集室24の後段の該中和槽25に導入され、該排出ガス中の酸性分解物が除去された後、該排ガス燃焼装置26に導入され、該排ガス中の分解ガスを完全燃焼させ、外部へと排出される。
【0034】
図1に示す装置では、該原料含有ガス導入管8から該原料含有ガスを導入しつつ、該後段側原料含有ガス導入管19からも、該外熱式反応炉17の後段に、該原料含有ガスを導入することもできる。そして、該外熱式反応炉17の後段部に、該原料含有ガスを導入することにより、算術一次平均粒子径が450nmを超える炭素微小球を得易くなる。
【0035】
このようにして、図1に示す装置を用いて、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を行い、炭素微小球粉末を得る。
【0036】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法(以下、本発明の炭素微小球粉末の製造方法とも記載する。)は、該原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得るリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法である。
【0037】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、先ず、該原料含有ガスを、該外熱式反応炉に導入し、該外熱式反応炉を通過させる。なお、本発明では、該原料含有ガスを該外熱式反応炉に導入する部位を、前段原料含有ガス導入部位と呼び、後述する後段原料含有ガス導入部位と区別する。また、図1では、符号30で示される部位が、該前段原料含有ガス導入部位である。
【0038】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法は、該原料含有ガス中の原料の組合せとして、以下の5つの形態例:
(1)有機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈された原料含有ガス(以下、原料含有ガス(1)とも記載する。)、
(2)有機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス(以下、原料含有ガス(2)とも記載する。)、
(3)無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス(以下、原料含有ガス(3)とも記載する。)、
(4)有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈された原料含有ガス(以下、原料含有ガス(4)とも記載する。)、
(5)有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス(以下、原料含有ガス(5)とも記載する。)、
がある。
【0039】
該原料含有ガスに係る該有機ケイ素化合物は、分子内に炭素原子を有するケイ素化合物である。該有機ケイ素化合物としては、例えば、Si原子の4つの置換基のうちの少なくとも1つが、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、シクロアルキル基等の炭素源となる置換基であるシラン化合物;主鎖が−Si−O−の繰り返し単位であり側鎖に炭素源となる置換基を有する化合物;主鎖が−Si−の繰り返し単位であり側鎖に炭素源となる置換基を有する化合物;主鎖が−Si−C−の繰り返し単位であり側鎖に置換基を有する化合物などが挙げられ、具体的には、例えば、tert−ブチルジメチルシラン(t−C(CHSiH)、トリヘキシルシラン((CH(CHSiH)等のアルキル基を1〜4有するアルキルシラン化合物;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を1〜4有するアルコキシシラン化合物;側鎖に炭素源となる置換基を有するシリコーン類;側鎖に炭素源となる置換基を有するポリシラン化合物;ポリカルボシラン化合物等の有機ケイ素ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種であっても2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、常温で液体又は固体のものは、沸点以上に加熱され気化されて、該原料含有ガスに混合される。
【0040】
該原料含有ガスに係る該無機ケイ素化合物は、分子内に炭素原子を有さないケイ素化合物である。該無機ケイ素化合物としては、例えば、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、クロロシラン(SiCl4−n:nは1〜4の整数)、ブロモシラン(SiBr4−n:nは1〜4の整数)が挙げられる。これらは、1種であっても2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、常温で液体又は固体のものは、沸点以上に加熱され気化されて、該原料含有ガスに混合される。
【0041】
該原料含有ガスに係る該炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の単環式芳香族炭化水素;ナフタレン、アントラセン等の多環式芳香族炭化水素;天然ガス、都市ガス、液化天然ガスなどが挙げられる。これらは、1種であっても2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、常温で液体又は固体のものは、沸点以上に加熱され気化されて、該原料含有ガスに混合される。
【0042】
該原料含有ガスに係る該不活性ガスは、原料となる有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物又は炭化水素を希釈するためのガスであり、これらの原料を、該外熱式反応炉に運び、該外熱式反応炉を通過させ、該外熱式反応炉で生成する熱分解物を炉の外へ運び出すキャリアーガスとして機能する。該不活性ガスとしては、水素ガスを除く、該原料の熱分解の時に安定で反応しない不活性なガスであり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。
【0043】
水素ガスをキャリアーガスに用いると、該原料の熱分解反応が抑制されるので、収率が低くなり、生産効率が悪くなる。更に、水素ガスをキャリアーガスに用いると、炭素微小球の表面が常時水素雰囲気であるため、炭化過程で脱水素反応が妨げられ、その結果、凹凸の多い炭素微小球になり、また、タール状の炭素分が残留し易くなる。
【0044】
該原料含有ガスは、原料である該有機ケイ素化合物、該無機ケイ素化合物又は該炭化水素を含有するガスであり、該原料が不活性ガスで希釈されたガスである。
【0045】
該原料含有ガスが、該原料含有ガス(1)の場合、該原料含有ガス(1)中の該有機ケイ素化合物の濃度は、10〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、特に好ましくは15〜45体積%である。該原料含有ガス(1)中の該有機ケイ素化合物の濃度が、上記範囲未満だと、原料含有ガスの線速度を低くする必要があり、そのため、反応管壁への熱分解物の付着が顕著となり、一方、上記範囲を超えると、均一な反応が進み難くなり、シャープな粒子分布の炭素微小球が得られ難くなるうえ、反応管内の閉塞を招くこともある。
【0046】
該原料含有ガス(1)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比は、原子換算した時の炭素原子及びケイ素原子の合計に対するケイ素原子の重量比「Si/(C+Si)」で、好ましくは0.013〜0.37、特に好ましくは0.03〜0.32、更に好ましくは0.05〜0.30である。該原料含有ガス(1)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0047】
該原料含有ガスが、該原料含有ガス(2)の場合、該原料含有ガス(2)中の該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度は、10〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、特に好ましくは15〜45体積%である。該原料含有ガス(2)中の該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が、上記範囲未満だと、原料含有ガスの線速度を低くする必要があり、そのため、反応管壁への熱分解物の付着が顕著となり、一方、上記範囲を超えると、均一な反応が進み難くなり、シャープな粒子分布の炭素微小球が得られ難くなるうえ、反応管内の閉塞を招くこともある。
【0048】
該原料含有ガス(2)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比は、原子換算した時の炭素原子及びケイ素原子の合計に対するケイ素原子の重量比「Si/(C+Si)」で、好ましくは0.013〜0.37、特に好ましくは0.03〜0.32、更に好ましくは0.05〜0.30である。該原料含有ガス(2)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0049】
該原料含有ガスが、該原料含有ガス(3)の場合、該原料含有ガス(3)中の該炭化水素の濃度は、10〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、特に好ましくは10〜45体積%である。該原料含有ガス(3)中の該炭化水素の濃度が、上記範囲未満だと、原料含有ガスの線速度を低くする必要があり、そのため、反応管壁への熱分解物の付着が顕著となり、一方、上記範囲を超えると、均一な反応が進み難くなり、シャープな粒子分布の炭素微小球が得られ難くなるうえ、反応管内の閉塞を招くこともある。
【0050】
該原料含有ガス(3)中の該無機ケイ素化合物の濃度は、1〜30体積%、好ましくは1.2〜29.5体積%、特に好ましくは1.5〜29体積%である。該原料含有ガス(3)中の該無機ケイ素化合物の濃度が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0051】
該原料含有ガス(3)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比は、原子換算した時の炭素原子及びケイ素原子の合計に対するケイ素原子の重量比「Si/(C+Si)」で、好ましくは0.013〜0.37、特に好ましくは0.03〜0.32、更に好ましくは0.05〜0.30である。該原料含有ガス(3)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のSi原子の含有量を0.5〜30重量%とすることができるので、リチウムイオンの高い吸脱着速度、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0052】
該原料含有ガスが、該原料含有ガス(4)の場合、該原料含有ガス(4)中の該有機ケイ素化合物の濃度は、10〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、特に好ましくは15〜45体積%である。該原料含有ガス(4)中の該有機ケイ素化合物の濃度が、上記範囲未満だと、原料含有ガスの線速度を低くする必要があり、そのため、反応管壁への熱分解物の付着が顕著となり、一方、上記範囲を超えると、均一な反応が進み難くなり、シャープな粒子分布の炭素微小球が得られ難くなるうえ、反応管内の閉塞を招くこともある。
【0053】
該原料含有ガス(4)中の該無機ケイ素化合物の濃度は、1〜30体積%、好ましくは1.2〜29.5体積%、特に好ましくは1.5〜29体積%である。該原料含有ガス(4)中の該無機ケイ素化合物の濃度が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0054】
該原料含有ガス(4)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比は、原子換算した時の炭素原子及びケイ素原子の合計に対するケイ素原子の重量比「Si/(C+Si)」で、好ましくは0.013〜0.37、特に好ましくは0.03〜0.32、更に好ましくは0.05〜0.30である。該原料含有ガス(4)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0055】
該原料含有ガスが、該原料含有ガス(5)の場合、該原料含有ガス(5)中の該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度は、10〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、特に好ましくは15〜45体積%である。該原料含有ガス(5)中の該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が、上記範囲未満だと、原料含有ガスの線速度を低くする必要があり、そのため、反応管壁への熱分解物の付着が顕著となり、一方、上記範囲を超えると、均一な反応が進み難くなり、シャープな粒子分布の炭素微小球が得られ難くなるうえ、反応管内の閉塞を招くこともある。
【0056】
該原料含有ガス(5)中の該無機ケイ素化合物の濃度は、1〜30体積%、好ましくは1.2〜29.5体積%、特に好ましくは1.5〜29体積%である。該原料含有ガス(5)中の該無機ケイ素化合物の濃度が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を1〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0057】
該原料含有ガス(5)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比は、原子換算した時の炭素原子及びケイ素原子の合計に対するケイ素原子の重量比「Si/(C+Si)」で、好ましくは0.013〜0.37、特に好ましくは0.03〜0.32、更に好ましくは0.05〜0.30である。該原料含有ガス(5)に含有されている全原料中の炭素元素及びケイ素元素の比が、上記範囲内にあることにより、炭素微小球粉末中のケイ素原子の含有量を0.5〜30重量%とすることができるので、優れた急速充放電特性、優れた充放電サイクル特性及び高初期効率を維持したまま、容量及び入出力を高くすることができる。
【0058】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法において、該原料含有ガスを、該外熱式反応炉に導入し、該外熱式反応炉を通過させる際の該原料含有ガスの線速度は、0.02〜4.0m/秒、好ましくは0.04〜2.0m/秒である。該原料含有ガスの線速度が上記範囲未満だと、反応管壁への熱分解物が付着が顕著となり、経路閉塞を引き起こし易くなり、製造困難となる。一方、該原料含有ガスの線速度が上記範囲を超えると、該原料含有ガスの流れの均一性が低くなり、粒度分布が幅広くなるうえ、該原料含有ガスの充分な滞留時間が得られず、熱分解反応又は炭化反応が充分に進行しなくなる。
【0059】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法において、該外熱式反応炉内の温度は、1000〜1400℃、好ましくは1050〜1350℃である。該外熱式反応炉内の温度が上記範囲未満だと、原料が炭化せずに炉外に出てしまい、炭素微小球が得られない。一方、該外熱式反応炉内の温度が上記範囲を超えると、炭化反応が速くなるので微粒となり易く、シャープな粒子分布が得られ難くなり、また、熱分解反応が促進され過ぎて、中間生成粒子が相互衝突する機会が多くなり過ぎるので、粒子の凝集が進み、粒度分布がブロード化する。また、該外熱式反応炉内の温度は、リチウムイオンを吸脱着しないSiCの生成を抑制し易くなる点で、1000〜1200℃が好ましい。
【0060】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、該原料含有ガスを該前段原料含有ガス導入部位から導入しつつ、該原料含有ガスを後段原料含有ガス導入部位からも導入することができる。なお、図1中、符号31で示す部位が、該後段原料含有ガス導入部である。つまり、該原料含有ガスが、該前段原料含有ガス導入部位から導入され、該外熱式反応炉内を通過して、該外熱式反応炉から排出されるまでの間の該原料含有ガスの流れの途中に、更に該原料含有ガスを導入する。そして、本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、該原料含有ガスを該前段原料含有ガス導入部位から導入しつつ、該原料含有ガスを該後段原料含有ガス導入部位からも導入することにより、450nmを超える炭素微小球粉末を得易くなる。該前段原料含有ガス導入部から導入された該原料含有ガス中の該原料は、熱分解及び炭化により、算術平均一次粒子径が150〜450nmの炭素微小球粉末になり易く、且つ、該外熱式反応炉の後段部分では、炭素微小球の生成に伴い、該原料の濃度が希薄になるので、粒成長がし難い条件になっている。そこで、該原料の濃度が希薄となる後段部分に、該原料含有ガスを導入することで、粒成長をさせることができる。なお、本発明で、該後段原料含有ガス導入部位とは、該前段原料含有ガス導入部位から導入され、該外熱式反応炉内を通過して、該外熱式反応炉から排出されるまでの間の該原料含有ガスの流れの途中であり、該前段原料含有ガス導入部位より後ろであればよく、該後段原料含有ガス導入部位の位置は、該原料含有ガスの線速度、該原料含有ガス中の各原料の濃度、該外熱式反応炉内の温度等の条件により適宜選択される。例えば、該後段原料含有ガス導入部位の位置は、該外熱式反応炉の加熱帯の後半部分にあってもよい。また、該外熱式反応炉内の加熱帯よりも後段部分でも、該原料が熱分解及び炭化するのに充分な温度になっているので、該後段原料含有ガス導入部位の位置は、該外熱式反応炉内の加熱帯よりも後段部分であってもよい。
【0061】
該後段原料含有ガス導入部位から導入する該原料含有ガスは、該原料含有ガス(1)、該原料含有ガス(2)、該原料含有ガス(3)、該原料含有ガス(4)又は該原料含有ガス(5)であり、該前段原料含有ガス導入部位から導入する該原料含有ガスと同一であってもよく、あるいは、該前段原料含有ガス導入部位から導入する該原料含有ガスと原料の組合せ又は原料の濃度が異なっていてもよい。
【0062】
該後段原料含有ガス導入部位から導入する該原料含有ガスの導入量は、該前段原料含有ガス導入部位から導入する該原料含有ガスの導入量の50〜100体積%であり、炭素微小球粉末の一粒子径により、適宜選択される。
【0063】
そして、本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、該原料含有ガスを該外熱式反応炉を通過させることにより、該原料含有ガス中の該原料は、熱分解及び炭化して、該熱分解物となる。
【0064】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、次いで、生成した該熱分解物を、該不活性ガス及び分解ガスと共に、該外熱式反応炉の外へ排出して、該冷却領域に移送して、冷却する。該外熱式反応炉の外に移送された該熱分解物、該不活性ガス及び該分解ガスを、冷却する方法としては、特に制限されない。
【0065】
本発明の炭素微小球粉末の製造方法では、次いで、該熱分解物を捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得る。該熱分解物を捕集する方法としては、特に制限されない。
【0066】
このように、本発明の炭素微小球粉末の製造方法を行うことにより、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末、すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることができる。
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末(以下、本発明の炭素微小球粉末とも記載する。)は、ケイ素の含有量がケイ素原子換算で1〜30重量%、電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dnが150〜1000nm、揮発分Vmが5.0%以下、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstに対するその半値幅ΔDstの比(半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst)が0.40〜1.10、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)が0.370nm以下の炭素微小球であるリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末である。
【0068】
本発明の炭素微小球粉末中のケイ素の含有量は、ケイ素原子換算で1〜30重量%、好ましくは2〜28重量%、特に好ましくは3〜27重量%である。炭素微小球粉末中のケイ素の含有量が、上記範囲未満だと、電池容量が低くなり、一方、上記範囲を超えると、サイクル特性が悪くなる。
【0069】
本発明の炭素微小球粉末の電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dnは、150〜1000nm、好ましくは200〜900nmである。炭素微小球粉末の電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径が、上記範囲未満だと、比表面積が大き過ぎるため、電解液に対して活性になり、その結果電池の初期効率が低くなり、また、充放電のサイクルを繰り返すにつれて炭素六角網面の破壊が進み、サイクル特性が悪くなる、すなわち、繰り返し充放電した時の電池容量の維持率が低くなる。一方、炭素微小球粉末の電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径が、上記範囲を超えると、粒子径が大き過ぎるために、リチウムイオンの拡散パスが長くなり、リチウムイオンのドープ及びアンドープ速度が遅くなる、すなわち、急速充放電特性が得られなくなる。なお、該算術平均一次粒子径dnは、以下の操作で求められる。先ず、超音波分散器を用いて周波数28kHzで30秒間の条件で、炭素微小球の試料をクロロホルムに分散させ、次いで、分散試料をカーボン支持膜に固定する(例えば、「粉体物性図説」粉体工学研究会編、P68(C)、”水面膜法”に記載されている。)。これを、電子顕微鏡で直接倍率10000倍、総合倍率100000倍に撮影し、得られた写真から、ランダムに1000個の粒子直径を計測し、14nmごとに区分して作成したヒストグラムから、算術平均一次粒子径を求める。
【0070】
本発明の炭素微小球粉末の揮発分Vmは、5.0%以下、好ましくは4.5%以下である。炭素微小球の表面に存在するタール状物質や表面官能基は、表面の活性サイトを埋めることになるので、該タール状物質や該表面官能基はできるだけ少ないことが必要である。特に、原料の未分解物である該タール状物質はできるだけ排除されることが必要である。つまり、該タール状物質や該表面官能基が多過ぎると、炭素微小球表面の格子欠陥のような活性サイトが埋められ、リチウムイオンのドープ及びアンドープが阻止されるので、リチウムイオンの吸脱着速度が低くなる。そのため、該炭素微小球粉末の揮発分Vmを、上記範囲と規定する。なお、本発明において、炭素微小球粉末の揮発分Vmは、JIS K6221−1986「ゴム用カーボンブラックの試験方法」により測定される。
【0071】
本発明の炭素微小球粉末のディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstに対する該ストークスモード径Dstの半値幅ΔDstの比(ストークスモード径Dstの半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst)は、0.40〜1.10、好ましくは0.45〜1.05である。一次粒子凝集体の大きさの分布が広過ぎると、負極内を電流が流れる際に、局所的な電流集中が起こるので、一次粒子凝集体の大きさの分布が狭いことが必要となる。一方、一次粒子凝集体の大きさの分布が狭過ぎると、電極形成時の塗工性が低くなる。そのため、該ストークスモード径Dstに対するその半値幅ΔDstの比を、上記範囲と規定する。
【0072】
また、本発明の炭素微小球粉末のディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstは、150〜1500nmが好ましい。
【0073】
なお、本発明において、ストークスモード径Dst及びストークスモード径Dstの半値幅ΔDstは、以下の操作によって測定される。先ず、乾燥した炭素微小球を少量の界面活性剤を含む20容量%エタノール水溶液と混合して、炭素微小球が0.1kg/mの分散液を作成し、これを超音波で充分に分散させて炭素微小球分散液とする。次いで、ディスクセントリフュージ装置(英国JoyesLobel社製)を100s−1の回転数に設定し、スピン液(2重量%グリセリン水溶液、25℃)を0.015dm加えた後、0.001dmのバッファー液(20容量%エタノール水溶液、25℃)を注入する。次いで、温度25℃の炭素微小球分散液0.0005dmを注射器で加えた後、遠心沈降を開始し、同時に記録計を作動させて図2に示す分布曲線(横軸:炭素分散液試料を加えてからの経過時間、縦軸:炭素微小球分散液の遠心沈降に伴い変化した特定点で吸光度)を作成する。この分布曲線より、各時間Tでの各吸光度を読み取り、次式(数1):
【0074】
【数1】



【0075】
(数1において、ηはスピン液の粘度(0.935×10−3Pa・s)、Nはディスク回転スピード(100s−1)、rは分散液注入点の半径(0.0456m)、rは吸光度測定点までの半径(0.0482m)、ρCBは炭素微小球の密度(kg/m)、ρはスピン液の密度(1.00178kg/m)である。)
から、ストークス相当径Dst(nm)を求める。次いで、得られた該ストークス相当径Dstと吸光度の分布曲線(横軸:ストークス相当径Dst、縦軸:吸光度)を作成し(図3)、該分布曲線における最大頻度のストークス相当径をストークスモード径Dst(nm)とする。
【0076】
このようにして得られたストークス相当径と吸光度の分布曲線(図3)におけるストークスモード径Dstに対し50%の頻度が得られる大小2点のストークス相当径の差を、ストークスモード径Dstの半値幅ΔDst(nm)とする。
【0077】
本発明の炭素微小球粉末のX線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)は、0.370nm以下、好ましくは0.340〜0.368nmである。結晶子格子面間隔d(002)が0.370nmを超える結晶性状では、非晶質の度合が高いために、リチウムイオンがドープされるサイトが著しく低くなり、炭素六角網面層間にリチウムイオンを充分な量挿入することができなくなるので、電池容量が低くなる。なお、X線回折法による測定であるが、ターゲットをCu(Kα線)グラファイトモノクロメーター、スリットを発散スリット=1度、受光スリット=0.1mm、散乱スリット=1度の条件として、学振法により結晶子格子面間隔d(002)を求める。
【0078】
本発明の炭素微小球粉末は、球体相互の凝集が極めて少ない、実質的に単一球状形態を有し、粒度分布がシャープである。また、本発明の炭素微小球粉末は、急速充放電特性に優れるので、坂道発進等の短時間での高出力が要求されるハイブリッドカーや電気自動車などの動力用電源の負極材として好適に使用される。また、本発明の炭素微小球粉末は、黒鉛化度が低く、黒鉛結晶の六角網面構造がさほど発達していない難黒鉛化炭素材料であることから、サイクル特性に優れ、高寿命である。
【0079】
本発明の炭素微小球粉末をリチウムイオン二次電池の負極材として用いることにより、急速充放電特性に優れており、充放電サイクル特性に優れており、初期効率が高く、且つ、高容量及び高入出力であるリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0080】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0081】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
(炭素微小球の製造)
内径145mm、長さ1500mmの外熱式反応炉に、表1に示す原料含有ガスの線速度及び外熱式反応炉内の温度で、表1に示す原料及び濃度の原料含有ガスを導入し通過させて、該外熱式反応炉から排出される熱分解物を冷却し、捕集し、炭素微小球粉末を得た。得られた炭素微小球粉末について、ケイ素元素の原子換算の含有量、電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dn、揮発分Vm、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dst及びその半値幅ΔDst、半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)の測定結果を表1に示す。
・ケイ素元素の原子換算の含有量
炭素微小球5gを2600℃、1時間、アルゴンガス中で保持した後、その重量減少量から算出した。
【0082】
(性能評価)
<三極式のテストセル>
炭素微小球粉末に、N−メチル−2−ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加え、混練して炭素ペーストを作製し、この炭素ペーストを厚さ18μmの圧延銅箔に塗布し、乾燥した後、ロールプレスでプレスした。このシートから直径約16mmの円形に切り出して負極とし、金属リチウムを正極及び参照極とする三極式のテストセルを作製し、初期効率、可逆容量、レート特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
・初期効率
リチウム参照極に対して0.002Vまで一定電流で充電(リチウムイオンをドープ)した後、1.2Vまで一定電流で放電(リチウムイオンをアンドープ)させ、初回の充電電気量と放電電気量を測定して、次式:
初期効率(%)=(初回の放電電気量/初回の充電電気量)×100
から、初期効率を求めた。
【0084】
・可逆容量
更に、同条件で放充電を繰り返し、10サイクル目の放電できた電気量を、可逆容量(mAh/g)として求めた。
【0085】
・レート特性
二次電池としての充放電能力(放電容量が100mAh/gを下限として)を維持できる最少の充放電サイクル時間(分)でレート特性を評価した。レート特性は、充放電サイクルが短いほど、高入出力となる。
【0086】
<サイクル特性>
・負極の作製
炭素微小球粉末に、N−メチル−2−ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加え、混練して炭素ペーストを作製し、この炭素ペーストを厚さ18μmの圧延銅箔に塗布し、乾燥した後、ロールプレスでプレスした。このシートから直径約16mmの円形に切り出して負極電極とした。
・正極の作製
正極に、コバルト酸リチウムLiCoOを用い、コバルト酸リチウムLiCoO粉末にポリフッ化ビニリデン粉末を5重量%、導電剤ケッチェンブラックECを5重量%加え、N−メチルピロリドンを用いて混合してスラリーを調製し、アルミ箔の上に塗布、乾燥することにより電極シートを作成した。このシートから直径約16mmの円形に切り出すことにより、正極電極を作製した。
・電池の作製
前記した負極電極及び正極電極を用い、電解液としてエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1混合)に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解したものを用い、セパレーターにポリプロピレンの不織布を用いて、簡易型コイン形状電池を作製した。
・サイクル特性の測定
25℃の恒温下、端子電圧の放電下限電圧を3.0V、充電上限電圧を4.2Vとした電位範囲で0.5mA/cmの定電流下で充放電試験を行った。サイクル特性は、第1回目の炭素負極材料の単位重量当たりの放電容量に対する第500回目の炭素負極材料の単位重量当たりの放電容量の割合:
サイクル特性(%)=初期放電容量(mAh/g)/500サイクル目の放電容量(mAh/g)×100
として求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
有機シラン化合物:tert−ブチルジメチルシラン、トリヘキシルシラン、メチルジクロロシラン
炭化水素:プロパン
無機シラン化合物:モノシラン
不活性ガス:窒素
【0089】
実施例では、リチウムイオン二次電池の可逆容量が、ケイ素を含有しない比較例7と比べ、高くなっていた。また、実施例のサイクル特性、レート特性は、ケイ素を含有しない比較例7と比べ、良好であった。初期効率は、ケイ素を含有しない比較例7に比べ、同等な値で良好であった。
【0090】
比較例1及び2は、ケイ素の含有量が殆どないため、レート特性、初期効率、サイクル特性については、良好なレベルであるものの、リチウムイオン二次電池の可逆容量が、ケイ素を含有しない比較例7と比べ、大差がなかった。ケイ素の含有量が多い比較例3〜6では、サイクル特性が悪く、且つ、レート特性も悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法を実施するための装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】Dst測定時における、炭素微小球分散液を加えてからの経過時間、と炭素微小球分散液の遠心沈降に伴い変化した特定点での吸光度を示した分布曲線である。
【図3】Dst測定により得られたストークス相当径と吸光度の関係を示す分布曲線である。
【符号の説明】
【0092】
8 原料含有ガス導入管
9 液体ケイ素化合物用タンク
10 気体ケイ素化合物用ボンベ
11 気体炭化水素用ボンベ
12 不活性ガスボンベ
13 流量計
14 液体炭化水素タンク
15 予熱ヒーター
16 圧力計
17 外熱式反応炉
18 ヒーター
19 後段側原料含有ガス導入管
20 温度調節器
21 冷却管
22 バルブ
23 真空ポンプ
24 捕集室
25 中和槽
26 排ガス燃焼装置
30 前段原料含有ガス導入部位
31 後段原料含有ガス導入部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素の含有量がケイ素原子換算で1〜30重量%、電子顕微鏡により測定した算術平均一次粒子径dnが150〜1000nm、揮発分Vmが5.0%以下、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstに対するその半値幅ΔDstの比(半値幅ΔDst/ストークスモード径Dst)が0.40〜1.10、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔d(002)が0.370nm以下の炭素微小球であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末。
【請求項2】
有機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈されており且つ該有機ケイ素化合物の濃度が10〜50体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。
【請求項3】
有機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており且つ該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が10〜50体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。
【請求項4】
無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており、該炭化水素の濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。
【請求項5】
有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈されており、該有機ケイ素化合物の濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。
【請求項6】
有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈されており、該有機ケイ素化合物及び該炭化水素の合計濃度が10〜50体積%であり且つ該無機ケイ素化合物の濃度が1〜30体積%である原料含有ガスを、反応炉内の温度が1000〜1400℃の外熱式反応炉に導入し、0.02〜4.0m/秒の線流速で、該外熱式反応炉を通過させ、次いで、生成した熱分解物を、該外熱式反応炉から冷却領域に移送して冷却し、次いで、捕集して、リチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。
【請求項7】
前記外熱式反応炉の後段原料含有ガス導入部位からも、下記原料含有ガス(1)〜(5):
(1)有機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈された原料含有ガス、
(2)有機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス、
(3)無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス、
(4)有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物が不活性ガスで希釈された原料含有ガス、
(5)有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物及び炭化水素が不活性ガスで希釈された原料含有ガス、
のいずれかを導入することを特徴とする請求項2〜6いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池負極材用の炭素微小球粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−176603(P2009−176603A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15002(P2008−15002)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】