説明

リチウムイオン二次電池

【課題】Liが遷移金属サイトに配置されたLi含有遷移金属酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池において、高い充電電圧での充放電サイクルにおけるサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池において、正極活物質が、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)LiM1−rNb(0<x<1、0<xq+(1−x)r≦0.3、0≦q≦0.3、0≦r≦0.3、M:Ni、Co、Mnよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物であり、初回充電時に正極活物質から酸素が脱離することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liが遷移金属サイトに配置されたLi含有遷移金属酸化物(以下、「高Li含有遷移金属酸化物」という場合がある)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のモバイル機器の高性能化及び多機能化に伴い、モバイル機器の電源として使用されている二次電池の高容量化が望まれている。この要望に応える二次電池の1つとして、リチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池においては、一般に正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられている。
【0003】
しかしながら、モバイル機器のさらなる高性能化及び多機能化に伴い、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が期待されている。
【0004】
重量当たりの容量密度を増加することができる正極活物質として、Liが遷移金属サイトに配置された高Li含有遷移金属酸化物が注目されている。
【0005】
Li(LiMnNiCo)O(0<a≦0.34、0.35≦x<1、0<y≦0.30、0<z≦0.30、0.95≦a+x+y+z≦1.05)で表わされる高Li含有遷移金属酸化物は、Li[Li1/3Mn2/3]OとLi[NiCoMn]Oの固溶体である。非特許文献1に記載されているように、Li[Li1/3Mn2/3]O単独ではほとんど充放電しないが、Li[NiCoMn]Oなどと固溶体を作ることによって、比較的大きな可逆容量が得られ、初回充電時に活物質から酸素が脱離することが知られている。
【0006】
特許文献1においては、Li[Li1/3Mn2/3]OにNbをドープすることによって、Li[Li1/3Mn2/3]O単独での容量密度を高めることができることが記載されている。
【0007】
特許文献2においては、LiNiCoMn(ただし、1.00≦a≦1.20、0.20≦x<0.50、0.20<y≦0.45、0.20≦z≦0.50、0.0005≦p≦0.05、かつ、x+y+z+p=1である。Mは周期律表第4(4a)族、第5(5b)族のいずれかから選択される金属元素。)で表されるリチウム二次電池正極活物質用のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることによって、サイクル耐久性が向上することが記載されている。
【0008】
特許文献3〜8においては、LiNi(1−y−z−a)CoMn(MはFe、V、Cr、Ti、Mg、Al、Ca、Nb及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、x、y、及びzは各々1.0≦x≦1.10、0.4≦y+z≦0.7、0.2≦z≦0.5、0≦a≦0.02である)で表わされるリチウム含有遷移金属酸化物が開示されており、金属元素Mが添加されることにより、結晶構造が安定化することが記載されている。
【0009】
特許文献9においては、yLi[Li1/3Me2/3]O・(1−y)LiMe’Oで示される高Li含有遷移金属酸化物にMoやTiなどをドープすることによって、多様な酸化数を持つことができて電極の体積当りのエネルギー密度を増大させ得ることが記載されている。
【0010】
しかしながら、いずれの先行技術においても、高Li含有遷移金属酸化物であって、初回充電時に、酸素が脱離する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、高い充電電圧でのサイクル特性を向上させる方法については、何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−207997号
【特許文献2】特開2003−68298号
【特許文献3】特開2004−161526号
【特許文献4】特開2008−147068号
【特許文献5】特開2008−270086号
【特許文献6】特開2009−110942号
【特許文献7】特開2009−110943号
【特許文献8】特開2009−110949号
【特許文献9】特開2008−153214号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R. Armstrong et al., J. Am. Chem. Soc., 128, 8694-8698 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高Li含有遷移金属酸化物であって、初回充電時に酸素が脱離する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、高い充電電圧でのサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池において、正極活物質が、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)LiM1−rNb(0<x<1、0<xq+(1−x)r≦0.3、0≦q≦0.3、0≦r≦0.3、M:Ni、Co、Mnよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)で表わすことができる。また、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]Oで表わされるニオブを含むLi含有遷移金属であることを特徴としている。
【0015】
なお、上記Li含有遷移金属酸化物を表わす式において、Mは、Ni、Co、Mnよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素であるが、Mは、Ni、Co、Mn以外の不純物が含まれていてもよい。具体的には、Mには、Fe、Zrなどの遷移金属、Mg、Caなどのアルカリ土類金属がMの総量の0.1モル%以下の範囲において含まれていてもよい。
【0016】
上記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるMは、Ni、Co、Mnの3種類からなるものであることが好ましい。
【0017】
上記Li含有遷移金属酸化物は、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)Li(NiCo1−y−zMn1−rNb(0<x<1、0<xq+(1−x)r≦0.3、0≦q≦0.3、0≦r≦0.3、0.2≦y≦0.4、0.2≦z≦0.4)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物であることがより好ましい。その場合、より高い放電容量が得られるためである。
【0018】
また、上述のように、上記正極活物質は、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]Oの構造を有しているので、初回充電時に、正極活物質から酸素が脱離する。
【0019】
上記ニオブを含むLi含有遷移金属酸化物は、正極活物質が、Li(LiMnNiCoNb)O(0<a<0.34、0.35≦b<1、0<c≦0.30、0<d≦0.30、0<p≦0.30、0.95≦a+b+c+d+p≦1.05)で表わされるものであることが好ましい。この場合に、Li含有遷移金属酸化物におけるマンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の含有量は、それぞれ0.4≦b<0.67、0.05≦c<0.2、0.05≦d<0.3であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池の容量をさらに高めることができるためである。また、上記式において、0<a<0.33であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明によれば、高い充電電圧、例えば正極の電位がLi基準で4.5V以上である高い充電電圧で充放電させた場合におけるサイクル特性を向上させることができる。
【0021】
上記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるp及びxq+(1−x)rは、0.0025≦p≦0.02及び0.0025≦xq+(1−x)r≦0.02を満たすことが好ましい。
【0022】
また、上記Li含有遷移金属酸化物は、空間群C2/cまたはC2/mに帰属する構造を少なくとも含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い充電電圧でのサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に従う実施例において作製した試験セルを示す模式的断面図。
【図2】実施例1〜3及び比較例1で得られた正極活物質のXRDプロファイルを示す図。
【図3】単位格子のa軸長とNb含有量との関係を示す図。
【図4】実施例1〜3及び比較例1における初期充放電曲線を示す図。
【図5】実施例1〜3及び比較例1における3サイクル目から30サイクル目までの放電容量密度を示す図。
【図6】Nb含有量と、30サイクル目の放電容量密度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施した一実施形態のリチウムイオン二次電池を構成する正極、負極、及び非水電解質について詳細に説明する。
【0026】
(正極)
本実施形態における正極においては、正極活物質として、Li(LiMnNiCoNb)O(0<a≦0.34、0.35≦b<1、0<c≦0.30、0<d≦0.30、0<p≦0.30、0.95≦a+b+c+d+p≦1.05)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物を用いている。正極活物質は、Liが遷移金属サイトに配置される高Li含有遷移金属酸化物であり、高Li含有遷移金属酸化物にニオブを含有させることにより、高い充電電圧でのサイクルにおけるサイクル特性を向上させることができる。
【0027】
ニオブの含有量は、好ましくは0.05モル%以上10モル%以下(すなわち、0.0005≦p≦0.1)であることが好ましく、さらに好ましくは0.1モル以上2モル%以下(すなわち、0.001≦p≦0.02)であり、さらに好ましくは0.25モル%以上2モル%以下(すなわち、0.0025≦p≦0.02)であり、さらに好ましくは0.25モル%以上1モル%以下(すなわち、0.0025≦p≦0.01)である。
【0028】
正極活物質においては、初回充電時に正極活物質から酸素が脱離する。正極の満充電状態の電位が金属リチウム基準で4.5V以上である場合において、初回充電時に酸素を放出するLi含有遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0029】
Li含有遷移金属酸化物は、空間群C2/cまたはC2/mに帰属する構造を少なくとも含むことが好ましい。このような構造を含むことにより、結晶構造が安定であり、高容量でかつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0030】
Li含有遷移金属酸化物は、固相法など、遷移金属酸化物の合成に通常用いられる方法により製造することができる。例えば、Li含有遷移金属酸化物の原料に、酸化ニオブなどのニオブを含む化合物を添加し、これを700〜950℃の温度で焼成することにより合成することができる。
【0031】
これらの正極活物質は、アセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤と混練し、合剤として使用される。
【0032】
この正極をリチウムイオン二次電池に用いるにあたって、正極の満充電状態での電位が、金属リチウム基準で4.5V以上であることが好ましく、4.7V以上とすることでさらに高容量を示す。上限については特に定められるものではないが、高すぎると電解液の分解などを引き起こすため、5.0V以下が好ましい。
【0033】
(負極)
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な材料を用いるのが好ましく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素質物、金属化合物等を挙げることができる。またこれらの負極活物質を一種類で使用してもよく、また二種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0034】
上記リチウム合金としては、リチウムアルミニウム合金、リチウム珪素合金、リチウムスズ合金、リチウムマグネシウム合金などが挙げられる。
【0035】
リチウムを吸蔵、放出する炭素質物としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、気相成長炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素を挙げることができる。
【0036】
(非水電解質)
非水電解質としては、一般に、リチウムイオン二次電池で用いられる非水電解質を用いることができる。非水電解質の溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等を用いることができる。
【0037】
上記環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられ、また、これらの水素の一部または全部をフッ素化されているものも用いることが可能である。このようなものとしては、トリフルオロプロピレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネートなどが例示される。
【0038】
上記鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネートなどが挙げられ、これらの水素の一部または全部をフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0039】
上記エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0040】
上記環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテルなどが挙げられる。
【0041】
上記鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルなどが挙げられる。
【0042】
上記ニトリル類としては、アセトニトリル等、上記アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0043】
本発明においては、上記各種溶媒の中から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0044】
非水溶媒に加える電解質としては、従来のリチウムイオン二次電池において電解質として一般に使用されているリチウム塩を用いることができ、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,LiN(FSO,LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO)(l,mは1以上の整数),LiC(C2s+1SO)(C2t+1SO)(C2u+1SO)(s,t,uは1以上の整数),Li[B(C](ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム(LiBOB))、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]等が挙げられ、これらのリチウム塩は一種類で使用してもよく、また二種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
これらの電解質は、非水溶媒に0.1〜1.5モル/リットルの濃度で溶解して使用することが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5モル/リットルの濃度で使用される。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0047】
<実験1>
(実施例1)
〔正極の作製〕
正極活物質としては、Nbを0.25モル%含有させた高Li含有遷移金属酸化物を用いた。LiOHと共沈法により作製したMn0.67Ni0.17Co0.17(OH)と酸化ニオブ(Nb)を所望の化学量論比となるように混合し、ペレット成型し、空気中900℃で24時間焼成し、Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13Nb0.0025を得た。上述のように、この高Li含有遷移金属酸化物は、0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/31−rNb(0.6q+0.4r=0.0025)として表わすこともできる。
【0048】
この高Li含有遷移金属酸化物を90重量%、アセチレンブラックを5重量%、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5重量%の割合になるように混合し、さらにNMP(N−メチルピロリドン)を適量加え粘度調整し、所定の厚さになるようにコーターなどを用いてAl(アルミニウム)箔上に塗布した。これを2cm×2.5cmのサイズに切り取り、導電性が十分大きくなるようローラーを用いて圧延した。これにAlタブを取付け、110℃で真空乾燥させ、正極として用いた。
【0049】
〔負極の作製〕
負極には、所定の大きさにカットしたリチウム金属を用いた。また、リチウム金属を所定の大きさにカットし参照極を用意した。
【0050】
〔電解液の作製〕
鎖状炭酸エステルとしてのDEC(ジエチルカーボネート)と環状炭酸エステルとしてのEC(エチレンカーボネート)を、DEC:EC=70:30(体積%)となるよう混合した。該電解液溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0モル/リットルの濃度になるように添加した。
【0051】
〔セルの作製〕
不活性雰囲気下において、図1に示すように作用極に上記の正極2を使用し、対極となる負極1と、参照極3とにそれぞれリチウム金属を用い、ラミネート容器6内に上記の非水電解質5を注液させることにより、実施例1の試験セルを作製した。4はセパレータ、7はリード線である。
【0052】
〔充放電試験〕
46.8mA/gの電流密度で、参照極(Li金属)基準の作用極電位が4.8Vになるまで定電流充電し、その後4.8Vの定電圧で電流密度が11.7mA/gになるまで定電圧充電した。その後、11.7mA/gの電流密度で、Li金属参照極基準の作用極電位が2.0Vになるまで定電流放電した。これを2回繰り返し充放電試験し、1サイクル目、および2サイクル目とした。
【0053】
その後、充電条件は同じまま放電時の電流密度を46.8mA/gとし、これを9回繰り返し充放電試験し、3サイクル目から11サイクル目とした。
【0054】
続いて、充電条件は同じまま放電時の電流密度を11.7mA/gとし充放電試験し、12サイクル目とした。
【0055】
同様に、次の13サイクル目から21サイクル目については放電電流を46.8mA/gとし、22サイクル目については放電電流を11.7mA/g、23サイクル目から30サイクル目については放電電流を46.8mA/gとして、その他の条件は上記と同じにして充放電試験した。
【0056】
(実施例2)
正極活物質として、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/31−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、充放電試験を行った。
【0057】
(実施例3)
正極活物質として、Nbの含有量が2モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.52Ni0.13Co0.13Nb0.02(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/31−rNb(0.6q+0.4r=0.02))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、充放電試験を行った。
【0058】
(比較例1)
正極活物質として、Nbを含有していない高Li含有遷移金属酸化物であるLi1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13を用いた。LiOHと共沈法により作製したMn0.67Ni0.17Co0.17(OH)を所望の化学量論比となるように混合し、ペレット成型し、空気中900℃で24時間焼成し、Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13を得た。
【0059】
上記のNbを含有していない高Li含有遷移金属酸化物を正極活物質として用いる以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、充放電試験を行った。
【0060】
(比較例2)
正極活物質として、Moを0.5モル%含有した高Li含有遷移金属酸化物を用いた。LiOHと共沈法により作製したMn0.67Ni0.17Co0.17(OH)と酸化モリブデン(MoO)を所望の化学量論比となるように混合し、ペレット成型し、空気中900℃で24時間焼成し、Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13Mo0.005を得た。
【0061】
上記のMoを含有した高Li含有遷移金属酸化物を正極活物質として用いる以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、充放電試験を行った。
【0062】
(比較例3)
正極活物質として、Tiを0.5モル%含有した高Li含有遷移金属酸化物を用いた。LiOHと共沈法により作製したMn0.67Ni0.17Co0.17(OH)と酸化チタン(TiO)を所望の化学量論比となるように混合し、ペレット成型し、空気中900℃で24時間焼成し、Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13Ti0.005を得た。
【0063】
Tiを含有した上記の高Li含有遷移金属酸化物を正極活物質として用いる以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、充放電試験を行った。
【0064】
〔XRDプロファイル〕
図2は、実施例1〜3及び比較例1で得られた正極活物質のXRDプロファイルを示す図である。図2において、図面上から実施例3、実施例2、実施例1、及び比較例1の順で示している。
【0065】
図2に示すXRDプロファイルから、実施例1〜3及び比較例1で合成された正極活物質は、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することがわかる。
【0066】
図3は、図2に示すXRDプロファイルから空間群R―3mでフィッティングした場合の単位格子のa軸長を算出し、a軸長をNb含有量に対してプロットした図である。
【0067】
図3に示すように、Nb含有量が多くなるにつれて、単位格子のa軸長が大きくなっている。このことから、Nbが、高Li含有遷移金属酸化物におけるLi、Mn、Ni、Co、及びOのいずれかの構成元素と置換されていると考えられる。
【0068】
〔充放電特性〕
図4は、実施例1〜3と、比較例1の初期(1サイクル目)充放電曲線を示す図である。図面上方に示す曲線は、充電曲線であり、実施例1〜3は、互いにほぼ重なった曲線として示されている。図面の下方に示す曲線は、放電曲線である。これらの放電曲線から明らかなように、実施例1〜3の初期のサイクルにおける放電容量密度は、比較例1の初期のサイクルにおける放電容量密度よりも小さくなっている。
【0069】
また、実施例1〜3及び比較例1の充電曲線においては、Li基準で4.5Vにおいてフラットな領域が存在している。このフラットな領域において、初期充電時の酸素脱離が生じていると考えられる。
【0070】
図5は、実施例1〜3及び比較例1における3サイクル目を100%としたときの3サイクル目から30サイクル目までの放電容量密度を示す図である。
【0071】
図5に示すように、12サイクル目と22サイクル目において、放電容量密度が高くなっている。これは、12サイクル目と22サイクル目において、容量密度確認のために、低い電流密度(11.7mA/g、0.05It相当)で試験しているからである。その他のサイクルにおいては、46.8mA/g(0.2It相当)の電流密度で試験を行っている。
【0072】
図5に示すように、実施例1〜3においては、いずれのサイクルにおける放電密度も、比較例1に比べ高くなっている。このことから、Nbを高Li含有遷移金属酸化物に含有させることにより、サイクル試験時における放電容量密度の低下を抑制することができ、サイクル特性を向上できることがわかる。
【0073】
比較例2においては、Moを含有させており、比較例3においては、Tiを含有させている。しかしながら、Moを含有させた比較例2及びTiを含有させた比較例3においては、添加元素を含有させていない比較例1よりも低い放電容量密度をとなっており、サイクル特性改善の効果が認められていない。従って、Nbを含有させることによるサイクル特性改善の効果は、Mo及びTiなどでは認められず、Nb含有による特有の効果であることが明らかである。
【0074】
表1に実施例1〜3及び比較例1〜3の初期放電容量密度、放電容量維持率、及び30サイクル目の放電容量密度を示す。
【0075】
表1に示す放電容量維持率は、以下の式により算出した。
【0076】
放電容量維持率(%)=30サイクル目の放電容量密度/3サイクル目の放電容量密度×100
【0077】
【表1】

【0078】
表1から明らかなように、実施例1〜3の初期放電容量密度は、比較例1〜3に比べ低くなっているが、放電容量維持率において実施例1〜3は比較例1〜3よりも高いため、30サイクル目の放電容量密度においては、実施例1〜3の方が、比較例1〜3よりも高くなっている。
【0079】
図6は、高Li含有遷移金属酸化物に対するNb含有量と、30サイクル目の放電容量密度との関係を示す図である。
【0080】
図6に示す破線は、実施例1〜3における30サイクル目の放電容量密度を、最小二乗法で直線近似し、Nb含有量が15モル%となるところまで延長したものである。現在リチウムイオン二次電池において正極活物質として一般に使用されているLiCoOの放電容量密度は150mAh/g程度である。従って、30サイクル目において、LiCoOの放電容量密度である150mAh/gより高い放電容量密度を得るためには、Nb含有量が0.05モル%以上10モル%以下が好ましいことがわかる。さらに、180mAh/g以上の高い放電容量密度を維持するためには、Nb含有量が、0.1モル%以上2モル%以下であることが好ましい。さらに、185mAh/g以上の高い放電容量密度を維持するためには、Nb含有量が0.25モル%以上1モル%以下であることが好ましい。
【0081】
<実験2>
(実施例4)
正極活物質として、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.59Ni0.2Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni0.5Mn0.51−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0082】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0083】
(実施例5)
正極活物質として、上記実施例2と同じく、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/31−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0084】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0085】
(比較例4)
正極活物質として、Nbを含有していない高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.60Ni0.2(0.6Li[Li1/3Mn2/3]O・0.4Li(Ni0.5Mn0.5)O)を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0086】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0087】
(比較例5)
正極活物質として、Nbを含有していない高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13(0.6Li[Li1/3Mn2/3]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O)を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0088】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0089】
〔充放電サイクル試験〕
上記実施例4,5、比較例4,5の試験セルについて、100mA/gの電流密度で、参照極(Li金属)基準の作用極電位が4.8Vになるまで定電流放電し、さらに4.8Vの定電圧で電流密度が12.5mA/gになるまで定電圧充電した後、100mA/gの電流密度で、Li金属参照極基準の作用極電位が2.0Vになるまで定電流放電し、放電容量Q1を算出した。さらに、同じ条件での充放電を引き続き14回繰り返して行い、15サイクル目の放電容量Q2を求めると共に、サイクルによる容量維持率として、上記の容量Q1に対する容量Q2の比率(Q2/Q1)×100を求めた。測定結果を下記の表2に示す。なお、表2に示す容量維持率は、実施例4については比較例4を100としたときの相対値、実施例5については比較例5を100としたときの相対値である。
【0090】
【表2】

【0091】
表2から明らかなように、Nbを含有させた高Li含有遷移金属酸化物を用いた実施例4,5の試験セルは、比較例4,5の試験セルに比べ、高電圧でのサイクル特性に優れている。特に、実施例5のCoを含有する高Li含有遷移金属酸化物では、実施例4のCoを含有しない高Li含有遷移金属酸化物に比べて、Nbを含有させた際のサイクル特性向上効果が大きいことがわかる。この理由については明らかではないが、Nbを含有させて構成元素の一部をNbで置換させた場合に、Coを含有する高Li含有遷移金属酸化物では、Coまわりの電子状態が安定化されたものと考えられる。
【0092】
<実験3>
次に、高Li含有遷移金属酸化物におけるNi、Co、Mnの組成が、容量に及ぼす影響について検討した。
【0093】
(実施例6)
正極活物質として、上記実施例4と同じく、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.59Ni0.2Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni0.5Mn0.51−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0094】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0095】
(実施例7)
正極活物質として、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.55Ni0.16Co0.08Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni0.4Co0.2Mn0.41−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0096】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0097】
(実施例8)
正極活物質として、上記実施例2,5と同じく、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.53Ni0.13Co0.13Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni1/3Co1/3Mn1/31−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0098】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0099】
(実施例9)
正極活物質として、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.47Ni0.08Co0.24Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4Li(Ni0.2Co0.6Mn0.21−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0100】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0101】
(実施例10)
正極活物質として、Nbの含有量が1モル%である高Li含有遷移金属酸化物Li1.2Mn0.39Co0.4Nb0.01(0.6Li[Li1/3Mn2/3−qNb]O・0.4LiCo1−rNb(0.6q+0.4r=0.01))を用いた以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0102】
なおこの正極活物質は、XRD測定により、空間群R−3mに属する構造と、空間群C2/cまたはC2/mに属する構造とを有することを確認した。
【0103】
〔充放電特性〕
〔充放電試験〕
実施例6〜10の試験セルについて、50mA/gの電流密度で、参照極(Li金属)基準の作用極電位が4.6Vになるまで定電流放電し、その後4.6Vの定電圧で電流密度が12.5mA/gになるまで定電圧充電した。その後、25mA/gの電流密度で、Li金属参照極基準の作用極電位が2.0Vになるまで定電流放電し、放電容量を算出した。結果を下記の表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
表3から明らかなように、Li含有遷移金属酸化物Li(LiMnNiCoNb)Oにおけるマンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の含有量を、それぞれ0.4≦b<0.67、0.05≦c<0.2、0.05≦d<0.3とした実施例7〜9の試験セルは、実施例6,10の試験セルに比べて高い放電容量、初期充放電効率を示した。
【0106】
また、実施例7〜9の正極は、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)Li(NiCo1−y−zMn1−rNbと表わした場合のy及びzのそれぞれが0.2≦y≦0.4、0.2≦z≦0.4の範囲にある場合に、高い放電容量、初期充放電効率が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0107】
1…負極
2…正極
3…参照極
4…セパレータ
5…非水電解質
6…ラミネート容器
7…リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池において、
前記正極活物質が、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)LiM1−rNb(0<x<1、0<xq+(1−x)r≦0.3、0≦q≦0.3、0≦r≦0.3、M:Ni、Co、Mnよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるMが、Ni、Co及びMnの3種類の元素からなることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質が、xLi[Li1/3Mn2/3−qNb]O・(1−x)Li(NiCo1−y−zMn1−rNb(0<x<1、0<xq+(1−x)r≦0.3、0≦q≦0.3、0≦r≦0.3、0.2≦y≦0.4、0.2≦z≦0.4)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質が、初回充電時に酸素を放出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池において、
前記正極活物質が、Li(LiMnNiCoNb)O(0<a≦0.34、0.35≦b<1、0<c≦0.30、0<d≦0.30、0<p≦0.30、0.95≦a+b+c+d+p≦1.05)で表わされるニオブを含むLi含有遷移金属酸化物であり、初回充電時に前記正極活物質から酸素が脱離することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるb、c、dが、0.4≦b<0.67、0.05≦c<0.2、0.05≦d<0.3を満たすことを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項5において前記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるp、または請求項1において前記Li含有遷移金属酸化物を表わす式におけるxq+(1−x)rが、0.0025≦p≦0.02または0.0025≦xq+(1−x)r≦0.02を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記Li含有遷移金属酸化物が、空間群C2/cまたはC2/mに帰属する構造を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−71090(P2011−71090A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38332(P2010−38332)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】