説明

リチウムイオン電池

【課題】ハイレート放電に対する耐久性がより効果的に改善されたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明に係るリチウムイオン電池10は、リチウム(Li)イオンを吸蔵および放出可能な活物質を備えた正負の電極シート32,34がセパレータ35を介して捲回された電極体30を備える。その電極体30には、支持電解質としてのLi化合物が非水溶媒に溶解した非水電解液が含浸されている。電極体30の少なくとも捲回軸方向の中央部には、該中央部に位置する電解液のLi濃度が低下した場合に該電解液にLiイオンを供給するLi供給手段40が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池に関し、詳しくは、ハイレート放電の繰り返しに対する耐久性が高められたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極と負極との間をリチウムイオンが行き来することによって充電および放電するリチウムイオン電池は、軽量で高出力が得られることから、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末の電源等として今後益々の需要増大が見込まれている。リチウムイオン電池に関する従来技術文献として特許文献1および2が例示される。特許文献3は、リチウムイオンを含む電解質溶液を内包し、固体電解質の形成等の用途に利用可能なマイクロカプセルに関する従来技術文献である。
【0003】
【特許文献1】特開2002−231316号公報
【特許文献2】特開2001−185219号公報
【特許文献3】特開2003−272707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン電池の用途のなかには、ハイレートでの放電(急速放電)を繰り返す態様で使用されることが想定されるものがある。車両の動力源として用いられるリチウムイオン電池(例えば、動力源としてリチウムイオン電池と内燃機関等のように作動原理の異なる他の動力源とを併用するハイブリッド車両に搭載されるリチウムイオン電池)は、このような使用態様が想定されるリチウムイオン電池の代表例である。しかし、従来の一般的なリチウムイオン電池は、ローレートでの充放電サイクルに対しては比較的高い耐久性を示すものであっても、ハイレート放電を繰り返す充放電パターンでは性能劣化(内部抵抗の上昇等)を起こしやすいことが知られていた。
【0005】
特許文献1には、特定構造の炭素材料に導電材を添加した組成の負極と所定濃度の電解液とを用いることによって充放電サイクル経過による内部抵抗の上昇を抑える技術が記載されている。しかしながら、かかる技術によってもハイレート放電(例えば、車両動力源用のリチウムイオン電池等において求められるレベルの急速放電)を繰り返す充放電パターンに対する耐久性を十分に向上させることはできなかった。
そこで本発明は、ハイレート放電に対する耐久性がより効果的に改善されたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、捲回型の電極体を備える従来のリチウムイオン電池では、車両動力源用のリチウムイオン電池において想定されるようなハイレートで短時間(パルス状)の放電と充電とを連続して繰り返すと内部抵抗が顕著に上昇する、という特有の事象がみられることに着目した。そこで、かかるハイレートパルス放電の繰り返しがリチウムイオン電池に及ぼす影響を詳細に解析した。その結果、ハイレートパルス放電を繰り返したリチウムイオン電池では、捲回電極体に浸透した電解液のリチウム塩濃度に場所による偏りが生じること、典型的な現象としては捲回電極体の軸方向中央部のリチウム塩濃度が両端部に比べて低くなる(初期状態に比べてリチウム塩濃度がより大きく低下する)ことを新たに見出した。このようなリチウム塩濃度(リチウムイオン濃度としても把握され得る。以下「Li濃度」と表記する。)の偏りが存在すると、Li濃度が相対的に低い部分では電池反応が相対的に遅くなることから、電池全体としてのハイレート放電性能が低下する。また、Li濃度の高い部分に電池反応が集中するため当該部分の劣化が促進される。これらの事象は、いずれもハイレート放電を繰り返す充放電パターン(ハイレート充放電サイクル)に対するリチウムイオン電池の耐久性を低下させる(性能を劣化させる)要因となり得る。
本発明は、かかる知見に基づいて、上記Li濃度の偏り(ムラ)を解消または緩和する対策を講ずるという新たなアプローチによってハイレート充放電サイクルに対するリチウムイオン電池の耐久性を向上させるものである。
【0007】
本発明により提供されるリチウムイオン電池は、支持電解質としてのリチウム化合物が非水溶媒に溶解した非水電解液を備え、該電解液が電極体とともに容器に収容された構成を有する。前記電極体は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質を備えた正負の電極シートを備え、それらの電極シートがセパレータを介して捲回された形態の電極体(捲回電極体)であって、該電極体には前記電解液が含浸されている。そして、前記電極体の少なくとも捲回軸方向の中央部には、該中央部に位置する前記電解液のリチウムイオン濃度が低下した場合に該電解液にリチウムイオンを供給(補給)するリチウムイオン供給手段(以下、「Li供給手段」と表記することもある。)が配置されている。
【0008】
上述のように、捲回電極体を備える従来のリチウムイオン電池では、該電極体の場所によって、ハイレート充放電サイクルを与えたときのLi濃度の変動幅に差異が生じやすかった。例えば、電極体の捲回軸方向の両端部に比べて中央部ではLi濃度が大きく変動(低下)しやすかった。上記構成を有する本発明のリチウムイオン電池によると、電極体のうち少なくとも捲回軸方向の中央部に配置されたLi供給手段によって、該中央部におけるLi濃度の低下を解消または緩和することができる。したがって、上記中央部と両端部とのLi濃度変動幅の差異(ひいては該変動後におけるLi濃度の差異、すなわちLi濃度の偏り)を解消または緩和することができる。このことによってハイレート充放電サイクルに対するリチウムイオン電池の耐久性を向上させることができる。すなわち、上記構成のリチウムイオン電池によると、ハイレート放電を繰り返す使用態様においても電池性能の劣化(例えば内部抵抗の上昇)を抑制することができる。ここに開示されるいずれかのリチウムイオン電池は、ハイレート放電に対する耐久性が求められる用途その他の各種用途に好ましく使用され得る。特に、自動車等の車両(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両)の動力源としての用途に好適である。
【0009】
前記Li供給手段としては、リチウムイオンを含む溶液(リチウム溶液)を貯留する貯留部を備え、該リチウム溶液と電解液とのLi濃度の差によって上記リチウム溶液中のリチウムイオンが上記電解液に供給され得るように構成されたものを好ましく用いることができる。例えば、リチウムイオン伝導性を示す膜によって上記リチウム溶液と上記電解液とを隔て、該膜の両側でのLi濃度の差により発生する浸透圧によって上記リチウム溶液から上記電解液にリチウムイオンが供給される(電解液のLi濃度を補う)構成とすることができる。上記リチウム溶液としては、リチウム化合物(典型的にはリチウム塩)が溶媒に溶解された溶液を好ましく使用することができる。
【0010】
ここに開示されるリチウムイオン電池の好ましい一態様では、上記Li供給手段が、リチウム化合物が溶媒に溶解されたリチウム溶液を内包したマイクロカプセルである。例えば、前記電解液が前記容器に収容された当初における該電解液(すなわち、電池構築時における電解液)のリチウムイオン濃度と実質的に同一のリチウムイオン濃度を有するリチウム溶液を内包したマイクロカプセルを、上記Li供給手段として好ましく採用し得る。また、前記電解液が前記容器に収容された当初における該電解液と実質的に同組成のリチウム溶液を内包したマイクロカプセルが好ましい。
【0011】
前記マイクロカプセル(Liイオン供給手段)は、前記セパレータに保持された形態で配置されていることが好ましい。かかる構成によると、電極体の少なくとも捲回軸方向の中央部にLiイオン供給手段が配置された電池を容易に構築することができる。本発明は、他の側面として、リチウムイオン電池(好ましくは、捲回電極体を備えるリチウムイオン電池)用のセパレータであって、前記マイクロカプセルが保持されていることを特徴とするセパレータを提供する。かかるセパレータ(典型的にはシート状)は、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン電池の構成要素(部品)として好適に使用され得る。
【0012】
ここに開示されるいずれかのリチウムイオン電池は、車両に搭載される電池として適した性能(例えば軽量で高出力が得られること)を備え、特にハイレート充放電に対する耐久性に優れたものであり得る。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン電池を備えた車両が提供される。特に、かかるリチウムイオン電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が好ましい。
【0013】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、50A以上(例えば50A〜250A)、さらには100A以上(例えば100A〜200A)のハイレート放電を含む充放電サイクルで使用され得ることが想定されるリチウムイオン電池;理論容量が1Ah以上(さらには3Ah以上)の大容量タイプであって10C以上(例えば10C〜50C)さらには20C以上(例えば20C〜40C)のハイレート放電を含む充放電サイクルで使用されることが想定されるリチウムイオン電池;等が例示される。
【0014】
また、ここに開示される技術の好ましい適用対象として、長尺シート状の集電体上に活物質層を有する正負の電極シートが長尺シート状のセパレータを介して長手方向に捲回された捲回電極体であって、該電極体を捲回軸の側方からみたときに、捲回コア部(前記正負の電極シートの活物質層と前記セパレータとが重なって捲回された部分をいう。)の投影面のサイズが捲回軸方向(図3の横方向)について5cm以上(典型的には5cm〜25cm、例えば7cm〜20cm)であるリチウムイオン電池が挙げられる。このように捲回コア部の軸長が比較的長い(大型の)リチウムイオン電池では、従来の構成によってはハイレート充放電に起因するLi濃度の偏りが生じやすいことから、本発明を適用することが特に有益である。
【0015】
また、ここに開示される技術は、正負の電極シートとセパレータとが扁平に捲回された電極体を備えるリチウムイオン電池に好ましく適用され得る。例えば、上記扁平面の法線方向から(捲回軸の横方向)からみて、捲回コア部の投影面のサイズが捲回軸方向について5cm以上(典型的には5cm〜25cm、例えば7cm〜20cm)であり、且つ高さ方向(図3の縦方向)について5cm以上(典型的には5cm〜25cm、例えば7cm〜20cm)であるリチウムイオン電池に好ましく適用され得る。このように捲回コア部の軸長が比較的長く且つ高さの大きい(大型の)リチウムイオン電池では、従来の構成によってはハイレート充放電に起因するLi濃度の偏りが生じやすいことから、本発明を適用することが特に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
本発明に係るリチウムイオン電池は、特に自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、例えば図7に模式的に示すように、かかる電池10(当該電池10を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車等のように電動機を備える自動車)1を提供する。
【0018】
特に限定することを意図したものではないが、以下では扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを扁平な箱型(直方体形状)の容器に収容した形態のリチウムイオン電池を例として本発明を詳細に説明する。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0019】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池の概略構成を図1〜3に示す。このリチウムイオン電池10は、長尺状の正極シート32および負極シート34が長尺シート状のセパレータ(セパレータシート)35を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)30が、図示しない非水電解液とともに、該電極体30を収容し得る形状(扁平な箱型)の容器11に収容された構成を有する。
【0020】
上記非水電解液としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。
また、上記支持塩としては、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0021】
上記電解液は、上記支持塩を例えば凡そ0.5〜5mol/リットルの濃度で含有するものであり得る。通常は、上記支持塩を凡そ0.6〜3mol/リットルの濃度で含む電解液の使用が好ましく、より好ましくは0.7〜2mol/リットル、さらに好ましくは8〜1.5mol/リットルである。例えば、ECとDMCとEMCとを30.94:25.15:31.75の質量比で含む混合溶媒に支持塩としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液を好ましく用いることができる。
【0022】
容器11は、一端に開口部を有する有底四角筒状の筐体12と、その開口部に取り付けられて該開口部を塞ぐ蓋体13とを備える。容器11を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる。あるいは、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる容器11であってもよい。例えば、筐体12および蓋体13がいずれもアルミニウム製である容器11を好ましく使用することができる。
【0023】
本実施形態に係る扁平形状の捲回電極体30は、後述のようにマイクロカプセル(Li供給手段)が保持されたセパレータを用いて構築されている点を除いては通常のリチウムイオン電池の捲回電極体と同様に、長尺シート状の正極シート32と負極シート34とを二枚のセパレータシート35とともに積層して長手方向に捲回(典型的には略円形に捲回)し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製され得る。このようにシートの積層物を捲回した後に扁平に押しつぶす態様に代えて、例えば上記積層物を当初から扁平な形状(略長円形、楕円形等)に捲回してもよい。
【0024】
正極シート32および負極シート34は、それぞれ、長尺シート状の集電体上に活物質層が形成された構成を有する。該活物質層は、集電体の幅方向の一端(長手方向に沿う一方の端部)を除いた帯状の領域に形成されている。すなわち、上記幅方向の一端は上記活物質層が形成されない部分(活物質層非形成部分)となっている。正負の電極シート32,34とセパレータシート35とは、両電極シートの活物質層が重ね合わさり且つ正極シートの活物質層非形成部分と負極シートの活物質層非形成部分とがセパレータの幅方向の一端および他端からそれぞれはみ出すように、正負の電極シート32,34が幅方向に位置をややずらして積層された状態で捲回されている。その結果として、捲回電極体30の捲回軸方向の一端および他端には、正極シート32の活物質層非形成部分が捲回コア部分31(すなわち両電極シート32,34の活物質層とセパレータとが密に捲回された部分)から外方にはみ出した部分32Aと、負極シート34の活物質層非形成部分が捲回コア部分31から外方にはみ出した部分34Aとがそれぞれ形成されている。該はみ出し部分32A,34Aに外部接続用の正極端子14および負極端子16の一端が接続されている。電極端子14,16の他端は容器11(蓋体13)の外部に引き出されている。
【0025】
正極シート32および負極シート34を構成する材料および部材自体は、従来のリチウムイオン電池に備えられる電極体と同様のものを用いることができる。
例えば、正極集電体としては、導電性の良い金属からなる長尺シート状の部材(金属箔)が好ましく用いられる。特に、アルミニウム(Al)やアルミニウム合金(Alを主成分とする合金)等のアルミニウム材料を用いて構成された正極集電体が好ましい。例えば、厚さ5μm〜30μm(好ましくは10μm〜30μm、例えば15μm)程度のアルミニウム箔を正極集電体として好ましく用いることができる。一例として、上記厚みを有する長さ2m〜4m(例えば2.7m)、幅8cm〜15cm(例えば12cm)程度のアルミニウム箔を集電体として好ましく使用することができる。
【0026】
正極活物質(典型的には粒子状)としては、一般的なリチウムイオン電池に用いられる層状構造の酸化物系正極活物質、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。かかる正極活物質の代表例として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質(実質的にリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質であり得る。)が挙げられる。
【0027】
ここで「リチウムニッケル酸化物」とは、LiとNiとを構成金属元素とする酸化物のほか、LiおよびNi以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiおよびNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)をNiよりも少ない割合(原子数換算)で含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Co,Al,Mn,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。リチウムコバルト酸化物およびリチウムマンガン酸化物についても同様である。
【0028】
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μm(典型的には凡そ2μm〜15μm)の範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を、ここに開示される技術における正極活物質として好ましく採用することができる。
【0029】
正極活物質層は、好ましくは該正極活物質のほかに導電材を含有する。該導電材としてはカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末を用いてもよい。これらのうち一種のみを用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうちアセチレンブラックを好ましく採用することができる。例えば、構成粒子(典型的には一次粒子)の平均粒径が凡そ10nm〜200nm(例えば凡そ20nm〜100nm)の範囲にある粒状導電材(例えば、アセチレンブラック等の粒状カーボン材料)の使用が好ましい。
【0030】
その他、正極活物質層には、一般的なリチウムイオン電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、上記構成成分の結着材(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。
【0031】
特に限定するものではないが、正極活物質層全体に占める正極活物質の割合(典型的には、正極活物質組成物の固形分に占める正極活物質の割合と概ね一致する。)は凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、凡そ75〜90質量%であることがより好ましい。導電材を含む組成の正極活物質層では、該活物質層に占める導電材の割合を例えば凡そ3〜25質量%とすることができ、凡そ3〜15質量%とすることが好ましい。この場合において、該活物質層に占める正極活物質の割合は凡そ80〜95質量%(例えば85〜95質量%)とすることが適当である。
また、正極活物質および導電材以外の正極活物質層形成成分(例えばポリマー材料)を含有する組成物では、それら任意成分の合計含有割合(正極活物質層形成成分全体に占める割合)を凡そ7質量%以下とすることが好ましく、凡そ5質量%以下(例えば凡そ1〜5質量%)とすることがより好ましい。上記任意成分の合計含有割合が凡そ3質量%以下(例えば凡そ1〜3質量%)であってもよい。
【0032】
正極活物質層の形成方法としては、正極活物質(典型的には粒子状)その他の正極活物質層構成成分が適当な溶媒(好ましくは水系溶媒)に分散した組成物(正極活物質組成物)を正極集電体の片面または両面(ここでは両面)に帯状に塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。特に限定するものではないが、正極活物質組成物の固形分濃度(不揮発分、すなわち活物質層形成成分の割合)は、例えば凡そ40〜60質量%程度であり得る。正極活物質組成物の乾燥後、必要に応じて適当なプレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極活物質層35の厚みや密度等を適宜調整することができる。
【0033】
負極集電体としては、導電性の良い金属からなる長尺シート状の部材(金属箔)が好ましく用いられる。特に、銅や銅合金(銅を主成分とする合金)等の銅材料製の正極集電体が好ましい。例えば、厚さ5μm〜30μm(好ましくは10μm〜30μm、例えば15μm)程度の銅箔を負極集電体として好ましく用いることができる。一例として、上記厚みを有する長さ2m〜4m(例えば2.9m)、幅8cm〜15cm(例えば12cm)程度の銅箔を負極集電体として好ましく用いることができる。
【0034】
負極活物質としては、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む炭素材料を好適に使用することができる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもの等のいずれの炭素材料も使用可能である。例えば、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)等を用いることができる。上記負極活物質としては、例えば平均粒径が凡そ5μm〜50μmの粒子状炭素材料(黒鉛粒子等)を好ましく使用することができる。
【0035】
負極活物質層は、上記負極活物質のほかに、一般的なリチウムイオン電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、上記構成成分の結着材(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。また、正極側と同様の導電材を含む負極活物質層であってもよい。
【0036】
特に限定するものではないが、負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は、例えば凡そ60質量%以上(典型的には凡そ60〜99.5質量%)とすることができ、凡そ70〜99質量%とすることが好ましく、凡そ80〜98質量%とすることがより好ましい。上述のようにポリマー材料を含有する組成の負極活物質層では、該活物質層全体に占めるポリマー材料の割合を例えば凡そ0.5〜10質量%とすることができ、凡そ2〜7質量%とすることが好ましい。
【0037】
負極活物質層の形成方法としては、負極活物質(典型的には粒子状)その他の負極活物質層構成成分が適当な溶媒(好ましくは水系溶媒)に分散した負極活物質組成物を負極集電体の片面または両面(ここでは両面)に帯状に塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。特に限定するものではないが、負極活物質組成物の固形分濃度は、例えば凡そ40〜60質量%程度とすることができる。乾燥後、必要に応じて適当なプレス処理を施すことによって、負極活物質層の厚みや密度等を適宜調整することができる。
【0038】
本実施形態に係るリチウムイオン電池10では、これら正極シート32および負極シート34と重ね合わされて電極体30を構成するセパレータシート35として、リチウム溶液を内包するマイクロカプセルがセパレータ基材に保持されたものを使用する。
上記セパレータ基材としては、捲回電極体を備える従来のリチウムイオン電池のセパレータと同様の各種多孔質シートを用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PP層の両面にPE層が積層された三層構造)であってもよい。例えば、長さ2m〜4m(例えば3.1m)、幅8cm〜12cm(例えば10cm)、厚さ5μm〜30μm(例えば20μm)程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン等のポリオレフィン製)の多孔質樹脂シートを、上記セパレータ基材として好ましく使用することができる。特に限定するものではないが、セパレータ基材として用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気孔率(空隙率)は、例えば凡そ20〜90体積%(好ましくは30〜80体積%)程度であり得る。
【0039】
かかるセパレータ基材に保持されるマイクロカプセルは、リチウムイオン伝導性を示す外殻を備えることが好ましい。そのような外殻を構成し得る材料として、ポリエーテル鎖を含む構造のポリマーが例示される。該ポリエーテル鎖は、例えば、ポリエチレンオキサイド鎖、ポリプロピレンオキサイド鎖等のポリアルキレンオキサイド鎖であり得る。特に限定するものではないが、活性水素(例えば水酸基)を有するポリエーテル化合物と多価イソシアネートとを重合してなる外殻を備えたマイクロカプセルを、ここに開示される技術におけるマイクロカプセルとして好ましく使用することができる。イオン伝導性を示す外殻を備えたマイクロカプセルおよびその製造方法自体は、例えば特許文献3(特開2003−272707号公報)等の公知文献に記載されており、特に本発明を特徴づけるものではないので、これ以上の詳細な説明は省略する。なお、特許文献3は、カプセルの壁膜を加熱融着させて固体電解質を得ることを目的としたものであり、この文献中には本発明のようにカプセル外の電解液にリチウムイオンを供給する手段としてマイクロカプセルを利用することで該電解液におけるLi濃度の偏りを緩和するという思想は全くない。
【0040】
上記マイクロカプセルには、リチウム化合物が溶媒に溶解したリチウム溶液が内包されている。溶媒としては、例えば、電解液の構成成分として例示した各種の非水溶媒を好ましく採用し得る。上記溶媒の他の例として、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等)が挙げられる。かかる溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、このマイクロカプセルを用いて構築されるリチウムイオン電池の電解液と実質的に同組成の非水溶媒が、上記リチウム溶液の溶媒として好ましく用いられる。あるいは、上記電解液が二種以上の非水溶媒の混合物である場合、上記リチウム溶液の溶媒として、それらの非水溶媒のいずれかを単独で用いてもよく、二種以上の非水溶媒を任意の組成比(電解液とは異なる組成比であり得る。)で用いてもよい。
【0041】
マイクロカプセルに内包されるリチウム溶液を構成するリチウム化合物の好適例としては、電解液の支持塩として例示した各種のリチウム塩が挙げられる。マイクロカプセル内のリチウム溶液を構成するリチウム化合物の他の例として、塩化リチウム、塩化パラジウムリチウム、炭酸リチウム、臭化リチウム、水酸化リチウム、亜硝酸リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム等が挙げられる。かかるリチウム化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、このマイクロカプセルを用いて構築されるリチウムイオン電池の支持塩と実質的に同組成のリチウム化合物が好ましく用いられる。
【0042】
マイクロカプセルに内包されるリチウム溶液のLi濃度は、このマイクロカプセルを有するリチウムイオン電池の構築に使用される電解液(初期電解液)のLi濃度と同等またはより高くすることが好ましい。例えば、電解液のLi濃度をc[mol/リットル]として、上記リチウム溶液のLi濃度を0.9c〜2c程度とすることができ、通常は1c〜1.5c(例えば1c〜1.2c)程度とすることが適当である。上記リチウム溶液のLi濃度が高すぎると、電解液の溶媒がマイクロカプセルに浸入して該カプセルが膨張等の変形を起こすことがあり得る。上記リチウム溶液のLi濃度が低すぎると、電解液のLi濃度が低下したときに該電解液にリチウムイオンを供給する機能が適切に果たせなくなる場合がある。
【0043】
マイクロカプセルの形状(外形)は特に限定されない。リチウム溶液を内包する体積効率、強度、製造容易性等の観点から、通常は、略球形のマイクロカプセルを好ましく使用し得る。また、マイクロカプセルのサイズ(粒径)は、セパレータ基材の厚みと同程度またはより小さいことが好ましい。例えば、平均粒径が凡そ5μm以下のマイクロカプセルの使用が好ましく、より好ましくは凡そ1μm以下であり、凡そ0.5μm以下であってもよい。マイクロカプセルの粒径が大きすぎると、該カプセルが邪魔になって電極体の構成要素に局部的な応力が加わりやすくなることがある。一方、マイクロカプセルの粒径が小さすぎると、使用量の割に内包されるリチウム溶液の量が少なくなって非効率であるため、通常は、平均粒径が凡そ0.05μm以上(例えば凡そ0.1μm以上)のマイクロカプセルを用いることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るリチウムイオン電池10の電極体30は、このようなマイクロカプセルがセパレータ基材に保持されたセパレータシート35を備える。例えば図4に示すように、PP層54の両面に第一PE層51および第二PE層52が積層された三層構造の多孔質樹脂シートからなるセパレータ基材50を備え、該樹脂シートの層間にマイクロカプセル40が挟み込まれた構成のセパレータシート35を好ましく使用することができる。かかる構成によると、電解液とマイクロカプセル40とを十分によく接触させることができる。また、マイクロカプセル40はセパレータ35の内部に配置(内臓)されているので、該カプセル40がセパレータシート35から脱落したり、重力や加速度によってセパレータシート35の面方向に変位したりする事象を抑制することができる。なお、図4に示す例では第一PE層51とPP層54との間および第二PE層52とPP層54との間のいずれの箇所にもマイクロカプセル40が配置されているが、いずれか一方のみにマイクロカプセル40を配置した構成としてもよい。
【0045】
セパレータシート35の他の好ましい構成例として、セパレータ基材として多孔質シート(単層でも複層でもよい。)を用い、該多孔質シートの細孔にマイクロカプセルが引っ掛かることで該カプセルがセパレータシートに保持された構成が挙げられる。例えば、多孔質シートを弾性的に引き伸ばした状態(細孔を広げた状態)で該シートにマイクロカプセルを供給し(例えばシート上にマイクロカプセルを散布し)、次いで上記引き伸ばしを解除して多孔質シートを元の形状に収縮させることにより、該シートの細孔にマイクロカプセルが保持された構成を簡単に実現することができる。
なお、マイクロカプセルの粒径は、セパレータシートを構成する多孔質シートの細孔径と同程度か、該細孔径よりも大きいことが好ましい。このことによって、接着や融着等の手段を特に用いなくても、セパレータシートからマイクロカプセルが脱落する事象を適切に防止することができる。
【0046】
かかる構成の捲回電極体30を筐体12に収容し、その筐体12内に適当な非水電解液を配置(注液)する。筐体12の開口部を当該筐体とそれに対応する蓋体13との溶接等により封止して、本実施形態に係るリチウムイオン電池10の構築(組み立て)が完成する。なお、筐体12の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウムイオン電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができ、本発明を特徴付けるものではない。その後、該電池のコンディショニング(初期充放電)を行う。必要に応じてガス抜きや品質検査等の工程を行ってもよい。
【0047】
本実施形態に係るリチウムイオン電池10の機能につき、図5を参照しつつ説明する。
図5は、電極体30の捲回軸方向の中央部を拡大して示す模式的断面図である。図示するように、正極集電体322上に正極活物質層324を有する正極シート32と、負極集電体342上に負極活物質層344を有する負極シート34との間に、マイクロカプセル40を内蔵するセパレータシート35が配置されている。図中の符号324Aは正極活物質を、符号344Aは負極活物質を示している。両活物質層324,344およびセパレータシート35には所定のLi濃度(例えば1mol/リットル)を有する図示しない電解液が含浸されており、この電解液を介してリチウムイオンが両極間を行き来し得るように構成されている。また、マイクロカプセル40には、上記電解液と同じLi濃度のリチウム溶液が内包されている。
【0048】
かかる構成の電池10において、厳しい条件で行われるハイレート充放電サイクル(例えば、後述する比較例におけるような100A以上および/または20C以上のハイレート放電を繰り返す充放電パターン)等によって電極体30の軸方向中央部における電解液のLi濃度が低下(例えば、0.6mol/リットルに低下)すると、マイクロカプセル40の内部と外部とのLi濃度の差を緩和しようとする作用が働き、図5に矢印で示すように、カプセル40内にあるリチウムイオンが電解液中に供給される。これにより電解液のLi濃度が補われ、該電解液のLi濃度の低下幅を小さくすることができる。このことによって、電極体の中央部と両端部とのLi濃度の差が解消されるか、少なくとも上記Li濃度の差を緩和することができる。したがって、本実施形態に係るリチウムイオン電池10によると、ハイレート充放電に対する優れた耐久性が実現され得る。
【0049】
なお、上述のように、ハイレート充放電サイクルによるLi濃度の偏りは、典型的には電極体30の軸方向両端部に比べて中央部のLi濃度が低くなるという形態であらわれる。したがって、電極体30のうち少なくとも軸方向中央部にマイクロカプセル40を配置することにより、該中央部に位置する電解液に必要に応じて(換言すれば、該中央部の電解液のLi濃度が低下した場合に)カプセル40からリチウムイオンを補給することにより、上記Li濃度の偏りを解消することができる。したがって、例えば、長尺状のセパレータシート35の幅方向の中央部(すなわち、電極体30の軸方向中央部に位置する部分)のみにマイクロカプセル40を保持させてもよく、あるいは幅方向の両端部に比べて中央部により多くのマイクロカプセル40を保持させてもよい。かかる構成のセパレータシート35によると、リチウムイオンの補給が必要とされる可能性の高い部位に集中してマイクロカプセル40が配置されるので、該カプセル40の利用効率を高めることができる。このことは、コスト面や体積当たりの電池容量(容量密度)の観点から有利である。また、捲回軸方向に対するLi濃度の偏り(図6参照)を適切に緩和し得るように、両端部から中央部に向けてマイクロカプセル40の保持量を徐々に多くしてもよい。
【0050】
もっとも、マイクロカプセル40から電解液へのリチウムイオンの供給は、該カプセル40の周囲にある電解液のLi濃度とカプセル40に内包されるリチウム溶液のLi濃度との差異に基づいて行われるため、セパレータシート30の幅方向の全体に亘ってほぼ同量のマイクロカプセル40を保持させてもよい。この場合にも、電解液のLi濃度が低下することによりリチウムイオンを補給する必要が生じた部分でのみカプセル40から電解液にリチウムイオンが供給されるので、電極体30の各部におけるLi濃度の偏りを緩和することができる。このようにセパレータシート35の全体にカプセル40がほぼ均一に保持された構成によると、電極体30の中央部以外の部位において予想外のLi濃度低下が生じた場合にも、これによるLi濃度の偏りを緩和することができる。
【0051】
なお、マイクロカプセルの使用量は特に限定されないが、かかるマイクロカプセルの保持(担持)によりセパレータの透気度が低くなりすぎると、電池の出力が低下しやすくなる。したがって、通常は、セパレータシート35の透気度が30秒/100cc以上となるようにマイクロカプセル量を制御することが好ましい。また、本発明におけるマイクロカプセルは、該カプセルによって連続膜が形成されるような密度で配置されるものではなく、各カプセルが基本的には他のカプセルから独立した状態となる程度の密度で配置される。
【0052】
上記実施形態では、リチウム溶液内包マイクロカプセル(Li供給手段)40を保持したセパレータシート35を用いることにより電極体30内にカプセル40が配置された構成のリチウムイオン電池10について説明したが、電極体30内にマイクロカプセル40を配置する態様はこれに限定されない。例えば、正極シートおよび/または負極シートにマイクロカプセルが保持された構成としてもよい。かかる構成の正極シート32は、例えば、上述した正極活物質組成物にマイクロカプセルを添加することにより作製することができる。かかる正極活物質組成物を正極集電体に塗布して乾燥させることにより、マイクロカプセルを含む正極活物質層が形成される。同様にして、マイクロカプセルが保持された負極シートを作製することできる。あるいは、正極シートおよび/または負極シートとセパレータシートとの間にマイクロカプセルが挟まれた構成の電極体としてもよい。かかる構成の電極体は、例えば、負極シートの上にマイクロカプセルを散布し、その上にセパレータシートを積層することにより、負極シートとセパレータシートとの間にマイクロカプセルを配置することができる。これらの態様のうち、マイクロカプセルを所望の位置に安定して保持できることおよび電池反応に対する阻害要因となりにくいことから、上記実施形態の如くマイクロカプセルをセパレータシートに保持させた態様を好ましく採用することができる。電極体を構成する二枚のセパレータシートのうち一枚にのみマイクロカプセルを保持させてもよく、二枚ともに保持させてもよい。
【0053】
本発明に係る構成を採用することの技術的意義をより明確に示すために、比較例として、Li供給手段としてのマイクロカプセルを有しないリチウムイオン電池を作製した。この比較例に係るリチウムイオン電池に対し、通常よりも厳しいハイレート充放電パターンでサイクル試験(ハイレート劣化促進試験)を行った後、これにより該電池に生じた変化を調べた。得られた結果を参照しつつ、かかる充放電パターンがリチウムイオン電池に及ぼす影響(変化)を具体的に説明する。
【0054】
上記比較例に係るリチウムイオン電池を以下のようにして作製した。
すなわち、LiNiOで表されるニッケル酸リチウム粉末(正極活物質)と平均粒径48nmのアセチレンブラック(導電材)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比が87:10:3となり且つ固形分濃度が約45質量%となるようにイオン交換水と混合して、水系の活物質組成物(正極活物質組成物)を調製した。正極集電体32としては、長さ4469mm、幅86.8mm、厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔を使用した。この正極集電体32のうち幅方向の一端を残し(正極はみ出し部32A)、それ以外の領域には両面に上記正極活物質組成物を幅70.9mm(捲回コア部の軸長に対応する。)の帯状に塗布し、熱風乾燥機により乾燥させた。正極活物質組成物の塗布量は、両面合わせて約11.9mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、正極活物質層の密度が約2.5となるようにプレスした。
【0055】
また、天然黒鉛(粉末)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とCMCとを、これら材料の質量比が98:1:1であり且つ固形分濃度が45質量%となるようにイオン交換水と混合して、水系の活物質組成物(負極活物質組成物)を調製した。負極集電体34としては、長さ4652mm、幅91.5mm、厚さ10μmの長尺状の銅箔を使用した。この負極集電体34のうち幅方向の一端を残し(負極はみ出し部34A)、それ以外の領域には両面に上記負極活物質組成物を幅76.2cmの帯状に塗布し、熱風乾燥機により乾燥させた。負極活物質組成物の塗布量は、両面合わせて約8mg/cm(固形分基準)となるように調節した。上記負極活物質組成物を乾燥させたままの状態(未圧縮状態)において、負極活物質層の密度は約1.2g/cmであった。これを負極活物質層の密度が約1.3g/cmとなるようにプレスした。
【0056】
セパレータシートとしては、長さ4929mm、幅82.5mm、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンシートを二枚使用した。これらのセパレータシートと上記で得られた正極シート32および負極シート34とを、はみ出し部32A,34Aがそれぞれの幅方向の両側からはみ出すように積層して長手方向に捲回し(捲回の回数:約33回)、その捲回体を側方から押しつぶして扁平形状の捲回電極体30を得た。該電極体30の捲回コア部31の軸長は上述のように9cmであり、捲回コア部31の高さは10cmであった。
この電極体30の扁平方向の一端において、該電極体12の捲回軸方向の一端では正極はみ出し部32Aを構成する正極シート32を径方向に寄せ集めてアルミニウム製の正極端子14を溶接し、該電極体30の捲回軸方向の他端では負極はみ出し部34Aを構成する負極シート34を径方向に寄せ集めて銅製の負極端子16を溶接した。
【0057】
容器11としては、高さ9.2cm、幅11cm、厚さ1.35cmの扁平な箱型の外形を有する容器を使用した。該容器11は、有底四角筒状の筐体12と、その開口部に取り付けられて該開口部を塞ぐ蓋体13とを備える。筐体12および蓋体13はいずれもアルミニウム製である。図2に示すように容器11の内部に捲回電極体30を収容し、ECとDMCとEMCとを30.94:25.15:31.75の質量比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液を注入した後、筐体12と蓋体13との合わせ目を溶接することにより容器11を気密に封止した。このようにして比較例に係るリチウムイオン電池10を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って比較例に係るリチウムイオン電池を得た。なお、このリチウムイオン電池の理論容量は5Ahである。
【0058】
このようにして得られたリチウムイオン電池に対し、150A(放電時間率30Cに相当する。)で10秒間のハイレートパルス放電を繰り返す厳しい充放電パターンを付与し、これによりリチウムイオン電池に生じた変化を解析した。より具体的には、室温(約25℃)環境下において比較例に係るリチウムイオン電池を1CのレートでSOC(state of charge)60%まで充電した後、以下の(1)〜(4)の充放電パターンを2500回連続して繰り返した。
【0059】
[充放電サイクル条件]
(1)150Aで10秒間放電。
(2)5秒間休止。
(3)40Aで120秒間CC−CV充電(40Aで3.72Vまで定電流充電後、合計充電時間が120秒となるまで定電圧充電)。
(4)5秒間休止。
【0060】
上記充放電サイクルの終了後、速やかに容器を切断して捲回電極体を取り出し、図3に示すように、この電極体30の捲回コア部31を互いの軸長が同等となるように一端側(負極端子側)部分311、中央部分312および他端側(正極端子側)部分313の三つの部分に分割した。そして、負極端子側部分311の軸長の中心において、捲回電極体30の約20ターン目における上部(図3に示すU1)、中部(同M1)および下部(同L1)に位置する正極シート32、負極シート34およびセパレータシート35からそれぞれ直径1cmのサンプルを切り取った。また、中央部分312の軸長の中心における上、中、下部(U2、M2,L2)および正極端子側部分313の軸長の中心における上、中、下部(U3、M3,L3)からも同様にサンプルを切り取った。
【0061】
負極端子側部分311の上、中、下部から採取した正極シート片(計3枚のサンプル)を集め、それらのサンプルに含まれる電解液をγ−ブチロラクトンで抽出した。該抽出物中のECをGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置)により、またLi(LiPF)を19F−NMR分析により定量し、その結果から上記3枚のサンプルに含まれる電解液の合計量[mg]および該電解液のLi濃度[mol/リットル]を算出した。負極端子側部分311から採取した負極シート片とセパレータシート片、さらに中央部分312および正極端子側部分313から採取した正極シート片、負極シート片およびセパレータシート片についても同様にして電解液量(サンプル3枚の合計量)およびLi濃度を求めた。その結果を表1および表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
これらの結果からわかるように、正極シート32、負極シート34およびセパレータシート35のいずれについても、中央部分312から採取されたサンプルのLi濃度は、負極端子側部分311および正極端子側部分313のいずれよりも顕著に低くなっていた。このことは、電極体の中央部にLi供給手段(例えば、リチウム溶液を内包したマイクロカプセル)を配置することによって、上記比較例においてみられたLi濃度の偏りを効果的に緩和または解消し得ることを示唆するものである。
【0065】
図6は、本発明の理解を容易にするために、上記ハイレート充放電サイクル後における捲回コア部31の軸方向に対するLi濃度の偏りを模式的に示したものである。ただし、この図6においてLi濃度を表す線は、各部におけるLi濃度を正確に反映することを意図したものではなく、大まかな傾向をわかりやすく示すことを意図している。従来のリチウムイオン電池では、上記のような厳しいハイレート充放電サイクルを実施すると、電極体30の中央部分312のLi濃度が両端部分311,313に比べて大きく低下する。上記実施形態に係るリチウムイオン電池によると、例えば図中に二点鎖線で示すように、捲回軸方向に対するLi濃度の偏りを解消することができる。
【0066】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】一実施形態に係るリチウムイオン電池を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】一実施形態に係るリチウムイオン電池の電極体を模式的に示す平面図である。
【図4】一実施形態に係るリチウムイオン電池のセパレータを模式的に示す断面図である。
【図5】一実施形態に係るリチウムイオン電池の機能を模式的に示す説明図である。
【図6】電極体の軸方向位置とLi濃度との関係を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明のリチウムイオン電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0068】
1:車両(自動車)
10:リチウムイオン電池
14:正極端子
16:負極端子
30:捲回電極体
32:正極シート
322:正極集電体
324:正極活物質層
34:負極シート
342:負極集電体
344:負極活物質層
35:セパレータシート(セパレータ)
40:マイクロカプセル(Li供給手段)
50:セパレータ基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持電解質としてのリチウム化合物が非水溶媒に溶解した非水電解液が電極体とともに容器に収容されたリチウムイオン電池であって、
前記電極体は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質を備えた正負の電極シートがセパレータを介して捲回された捲回電極体であって、該電極体には前記電解液が含浸されており、
前記電極体の少なくとも捲回軸方向の中央部には、該中央部に位置する前記電解液のリチウムイオン濃度が低下した場合に該電解液にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給手段が配置されている、リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン供給手段は、リチウム化合物が溶媒に溶解されたリチウム溶液を内包したマイクロカプセルである、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記リチウム溶液は、前記電解液が前記容器に収容された当初における該電解液のリチウムイオン濃度と実質的に同一のリチウムイオン濃度を有する、請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記リチウム溶液は、前記電解液が前記容器に収容された当初における該電解液と実質的に同組成である、請求項2または3に記載の電池。
【請求項5】
前記マイクロカプセルは前記セパレータに保持されている、請求項2から4のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
車両の動力源として用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−86728(P2010−86728A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253009(P2008−253009)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】