説明

リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法

【課題】 粒子の形状・構造や配向性をよりいっそう良好に制御することができる、リチウム二次電池の正極活物質板状粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法は、以下の工程を含む。(1)スリットダイコーターを用いて、原料粒子を含むスラリーを所定の基体上にシート状に成膜する。(2)成膜工程によって基体上に形成されたシート状のスラリー膜を乾燥する。(3)乾燥工程を経て得られたシート状のスラリー乾燥膜を基体上から剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子(以下、単に「正極活物質板状粒子」と称する。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池と称されることもある)の正極活物質板状粒子において、電池特性の向上のため、粒子の形状・構造や配向性を制御する試みが、従来から種々為されている(例えば、特開平9−22693号公報、国際公開第2010/074298号、同074299号、同074302号、同074303号、同074304号、同074313号、同074314号、等参照。)。
【発明の概要】
【0003】
上述の国際公開第2010/074298号等に記載されているように、粒子の形状・構造や配向性を良好に制御するためには、焼成前のグリーン成形体(具体的にはシート状あるいは膜状のスラリー成形体)における、厚さ方向の寸法制御が重要となる。すなわち、例えば、所定の配向性等を得るための狙いの厚さよりもグリーン成形体の厚さが大きすぎると、当該配向性等が損なわれてしまう可能性が高くなる。一方、上記の狙いの厚さよりもグリーン成形体の厚さが小さすぎると、焼成以降の工程にて不用意に割れ等が生じて収率が悪くなるおそれがある。
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、粒子の形状・構造や配向性をよりいっそう良好に制御することができる、リチウム二次電池の正極活物質板状粒子の製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明の特徴は、リチウム二次電池の正極活物質板状粒子の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)が、以下の工程を含むことにある。
・スリットダイコーターを用いて、原料粒子を含むスラリーを所定の基体上にシート状に成膜する、成膜工程
・前記成膜工程によって前記基体上に形成されたシート状のスラリー膜を乾燥する、乾燥工程
・前記乾燥工程を経て得られたシート状のスラリー乾燥膜を前記基体上から剥離する、剥離工程
【0006】
なお、前記乾燥工程は、前記スラリー膜に赤外線を照射することで、当該スラリー膜を乾燥する工程であってもよい。
【0007】
本製造方法においては、前記成膜工程にて、前記スリットダイコーターが用いられる。これにより、前記スラリー膜が、可及的に均一な厚さで(且つ比較的高速で)形成される。このため、前記成膜工程並びにこれに引き続く前記乾燥工程及び前記剥離工程を経て得られた、シート状あるいは膜状のグリーン成形体の厚さ制御が、極めて良好に行われる。したがって、かかるグリーン成形体を焼成(及び必要に応じて解砕・分級)することで、所望の特性の前記正極活物質板状粒子が、良好に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法に用いられるスリットダイコーターの概略構成図である。
【図2】本発明及び比較例の製造方法で製膜されたスラリー乾燥膜の形状測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0010】
<製造方法の概略>
本実施形態の製造方法は、以下の手順により、正極活物質板状粒子を製造するものである。
(工程1:スラリー調製工程)
所望の組成の正極活物質板状粒子を得るための原料粒子(遷移金属化合物粒子)を含むスラリーを調製する。
(工程2:成膜工程)
スリットダイコーターを用いて、上述のスラリーを、所定の基体上にシート状に成膜する。
(工程3:乾燥工程)
基体上に形成されたシート状のスラリー膜に赤外線を照射することで、当該スラリー膜を乾燥する。
(工程4:剥離工程)
上述の乾燥工程を経て得られたシート状のスラリー乾燥膜を、基体上から剥離することで、シート状あるいは膜状のグリーン成形体を得る。
(工程5:焼成工程)
得られたグリーン成形体を焼成する。
(工程6:解砕工程)
得られた焼成体を解砕する。
(工程7:分級工程)
解砕後の粉体を分級することで、所望の粒径範囲の板状粒子を回収する。
【0011】
図1は、本発明の製造方法に用いられるスリットダイコーター10の概略構成図である。図1における(i)を参照すると、このスリットダイコーター10は、ステージ11と、口金12と、スラリー貯留部13と、スラリー送出ポンプ14と、スラリー送出管15と、を備えている。ステージ11には、基体BPが着脱可能に支持されている。口金12は、ステージ11に固定された基体BPに対して所定の送り方向(図中矢印参照)に沿って相対移動可能なように、ステージ11に支持されている。
【0012】
口金12は、スラリー送出管15を介して、スラリー貯留部13と接続されている。スラリー貯留部13内には、調製済みのスラリーSが貯留されている。スラリー送出ポンプ14は、スラリー貯留部13内に貯留されたスラリーSを口金12に向けて送出するように、スラリー送出管15に介装されている。
【0013】
図1における(ii)は、同(i)に示されている口金12の概略構成を示す斜視図である。この図に示されているように、口金12の先端部(基体BPと対向する位置)には、スリット121が形成されている。すなわち、図1に示されているスリットダイコーター10は、口金12と基体BPとを当該基体BPの表面に沿って相対移動させつつスリット121からスラリーSを吐出させることで、基体BP上にスラリー膜SFを形成するように構成されている。かかるスリットダイコーター10は周知のものであるので、これ以上の詳細な説明は省略する(必要であれば、特開平8−173878号公報、特開2000−189877号公報、特開2004−230361号公報、等参照。)。
【0014】
<実施例>
以下、本実施形態の製造方法の具体例について、その評価結果とともに説明する。
【0015】
まず、炭酸リチウム、酸化コバルト、等の原料粒子の粉末を含むスラリーを調製する。なお、本例においては、スラリーは、純水を溶媒として、固形分80wt%、粘度40000cPに調製した。
【0016】
次に、このスラリーを、スリット幅1000μmの口金を有するスリットダイコーターによって、基体としての金属基板上に、50μm狙いで、シート状に製膜した。この成膜条件は、以下の通りである。
塗工面積:300mm×300mm
口金と金属基板とのギャップ:120μm
塗工速度(口金の相対移動速度):190mm/s
【0017】
その後、金属基板上のスラリー膜に赤外線(中波長赤外線:出力32kW/m)を30秒間照射することで、スラリー乾燥膜を得た。図2における(i)は、上述のようにして金属基板上に製膜したスラリー乾燥膜の形状測定結果を示す図である。ここで、形状測定は、塗工方向(口金の相対移動方向)と直交する「幅方向」について、表面粗さ計を用いて行った。この図に示されているように、本具体例によって得られたスラリー乾燥膜においては、非常に良好な膜厚精度(具体的には50μm狙いでプラスマイナス2.5μmの精度)が実現された。なお、塗工方向についても、同様の膜厚精度となることを確認した。
【0018】
なお、図2における(ii)は、比較例として、スクリーン印刷機を用いた場合のスラリー乾燥膜の形状測定結果を示す図である。この場合の形状測定も、塗工方向(スキージの移動方向)と直交する「幅方向」について、表面粗さ計を用いて行った。スクリーン印刷機における成膜条件は、以下の通りである。
塗工面積:200mm×100mm
製版:メタルマスク
メタル厚み:50μm
クリアランス:0mm
塗工速度(スキージの移動速度):30mm/s
スキージ角度:70度
スキージ種類:メタルスキージ
スキージ印圧:1.8kg/cm
【0019】
比較例のスラリー乾燥膜は、スリットダイコーターよりも塗工面積が小さく且つ塗工速度が遅いにもかかわらず、図2における(ii)に示されているように、膜厚のばらつきが非常に大きくなった(具体的には50μm狙いでプラスマイナス6.5μmの精度)。以上の具体例及び比較例をまとめたものを、表1に示す。
【表1】

【0020】
表1の結果から明らかなように、スリットダイコーターを用いることで、大面積且つ高速で、しかも高い膜厚精度で、スラリーを製膜することができた。なお、他の粘度(固形分30wt%・1000cP)で、25μm狙い(スリット幅500μ・塗工速度170mm/s)の成膜を行ったところ、同様に良好な膜厚精度が実現されることを確認した。
【0021】
以上のようにして金属基板上に形成されたスラリー乾燥膜を金属製のブレードで剥離したもの(グリーン成形体)を焼成し、焼成後のものを平均開口径100μmのポリエステル製のふるい(メッシュ)に載せてヘラで軽く押し付けながらメッシュを通過させることで解砕した。その後、解砕後のものを、平均開口径5μmのポリエステル製メッシュを用いてふるいにかけ、メッシュ上に残った粉末を回収することで、粒子径5μm以下の微粒子を除去した。これにより、リチウム二次電池の正極活物質板状粒子が得られた。
【0022】
スリットダイコーターを用いた場合の塗工速度は、テープ成形(5mm/s程度)よりも非常に高速である。また、スリットダイコーターは、テープ成形機等よりも装置サイズがコンパクトである。よって、本実施形態の製造方法によれば、良好な膜厚精度のグリーン成形体を、低コストで形成することができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、正極活物質板状粒子の形状・構造や配向性をよりいっそう良好に制御することができるとともに、製造時の歩留まりをよりいっそう向上することができる。
【0023】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態や具体例は、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0024】
以下、変形例について幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、本変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0025】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0026】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0027】
本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された構成や製造方法に何ら限定されない。例えば、スリットダイコーター10の構成は、図1に示されているものに限定されない。また、乾燥工程においては、赤外線照射に代えて、あるいはこれとともに、熱風乾燥が用いられ得る。
【0028】
焼成工程の後に、焼成体にリチウムを導入するためのリチウム導入工程が行われてもよい。この場合、リチウム導入工程は、解砕工程の前に行われてもよいし、後に行われてもよい。
【0029】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0030】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0031】
10…スリットダイコーター
11…ステージ 12…口金 121…スリット
13…スラリー貯留部 14…スラリー送出ポンプ 15…スラリー送出管
BP…基体 S…スラリー SF…スラリー膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開平9−22693号公報
【特許文献2】国際公開第2010/074298号
【特許文献3】国際公開第2010/074299号
【特許文献4】国際公開第2010/074302号
【特許文献5】国際公開第2010/074303号
【特許文献6】国際公開第2010/074304号
【特許文献7】国際公開第2010/074313号
【特許文献8】国際公開第2010/074314号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法であって、
スリットダイコーターを用いて、原料粒子を含むスラリーを所定の基体上にシート状に成膜する、成膜工程と、
前記成膜工程によって前記基体上に形成されたシート状のスラリー膜を乾燥する、乾燥工程と、
前記乾燥工程を経て得られたシート状のスラリー乾燥膜を前記基体上から剥離する、剥離工程と、
を含むことを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法であって、
前記乾燥工程は、前記スラリー膜に赤外線を照射することで、当該スラリー膜を乾燥する工程であることを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−199056(P2012−199056A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62102(P2011−62102)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】