説明

リチウム二次電池用正極材料の製造方法及びリチウム二次電池用正極材料、並びにそれを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池

【課題】 まとわりつきやすい等の性質を有する焼成粉体についても、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能な、リチウム二次電池用正極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 原料を混合し、造粒し、焼成し、必要に応じて解砕して得られた焼成粉体を、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて、分級処理する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極材料の製造方法及びリチウム二次電池用正極材料、並びにそれを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。詳しくは、焼成粉体を高い処理速度で分級することが可能なリチウム二次電池用正極材料の製造方法と、それによって得られるリチウム二次電池用正極材料、並びにこのリチウム二次電池用正極材料を用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器、通信機器の小型化、軽量化に伴い、その電源として、また、自動車用動力源として、高出力、高エネルギー密度であるリチウム二次電池が注目されている。
【0003】
従来、リチウム二次電池の正極活物質としては、標準組成がLiCoO2、LiNiO2、LiMn24等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。更に、安全性や原料コストの観点から、LiCoO2やLiNiO2と同じ層状構造を有し、かつ遷移金属の一部をマンガン等で置換したリチウム遷移金属複合酸化物、具体的には、LiNiO2のNiサイトの一部をMnで置換したLiNi1-xMnx2、Niサイトの一部をMnとCoで置換したLiNi1-x-yMnxCoy2が注目されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−17052号公報
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry,Vol.6,1996年,p.1149
【非特許文献2】Journal of The Electrochemical Society,Vol.145,1998年,p.1113
【非特許文献3】第41回電池討論会予稿集,2000年,p.460
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法においては、焼成によって得られるリチウム遷移金属複合酸化物などの粉体(以下、適宜「焼成粉体」という。)を分級する際に、振動篩(併せてボールを用いる場合もある)、手篩いなどが用いられていた。
【0006】
しかしながら、特に粒子としてまとわり付きやすい性質がある場合等には、分級時に篩などが目詰まりしたり、塊状物が生じやすくなるという課題がある。この傾向は、特に、LiNi1-x-yMnxCoy2において、Ni:Mn:Coが(1−y−z):y:z(0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5)の付近となる組成のリチウム遷移金属複合酸化物粉体において顕著である。このような場合、分級処理に要する時間が長くなったり、場合によっては分級できなくなったりする等の課題があった。
【0007】
以上の背景から、リチウム二次電池用正極材料の製造において焼成粉体を分級する際に、焼成粉体がまとわりつきやすい性質を有する場合等でも、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能な技術が求められていた。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、まとわりつきやすい等の性質を有する焼成粉体についても、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能な、リチウム二次電池用正極材料の製造方法及びリチウム二次電池用正極材料、並びにそれを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、リチウム二次電池用正極材料の製造において、焼成粉体を分級処理する際に、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて分級処理を行なうことによって、まとわりつきやすい等の性質を有する焼成粉体についても、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能となり、効率よくリチウム二次電池用正極材料を製造できることを見出し、本発明の完成に到った。
【0010】
即ち、本発明の趣旨は、リチウム二次電池用正極材料を製造する方法であって、原料を混合し、造粒し、焼成し、必要に応じて解砕して得られた焼成粉体を、粉体を高速回転するブレードによりメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて、分級処理する工程を備えることを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料の製造方法に存する(請求項1)。
【0011】
ここで、前記焼成粉体が、下記測定法により測定した安息角が50度以上の粉体であることが好ましい(請求項2)。
[安息角の測定法]
(1)標準篩いを振動させ、ロートを通して円形テーブル上に粉体を供給する。但し、篩い振動数は3600回/分、篩い振動幅は2mm、篩い時間は4分間、ロート口径は8mmとする。
(2)粉体の安息角を測定する。但し、測定は半導体レーザー(波長670nm)の変位センサーによる角度計算方式(最小二乗法)を用いて行ない、最小読み取り分解能は0.1度とする。
【0012】
また、前記正極材料が、下記式(II)で表わされる組成を有することが好ましい(請求項3)。
【化1】

(式(II)中、Qは、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、Zn、Mg、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sc、Al、B、及びZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を表わし、xは、0.7≦x≦1.3の数を表わし、aは、0.2≦a≦0.8の数を表わし、bは、0.2≦b≦0.8の数を表わし、cは、0.15≦c≦0.4の数を表わし、dは、0≦d≦0.4の数を表わし、但し、a+b+c+d=1であり、δは、−0.1<δ<0.1の数を表わす。)
【0013】
また、該分級処理前の焼成粉体のタップ密度(1mm目通し後)をA、該分級処理後の正極材料のタップ密度をBとした場合に、(B/A)≧1.05であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
また、該分級処理前の焼成粉体のメジアン径(1mm目通し後)をC、該分級処理後の正極材料のメジアン径をDとした場合に、(D/C)≦0.8であることが好ましい(請求項5)。
【0015】
また、本発明の別の要旨は、リチウム二次電池用正極材料の製造方法により製造されることを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料に存する(請求項6)。
【0016】
また、本発明の別の要旨は、リチウム二次電池に用いられる正極であって、上述のリチウム二次電池用正極材料を含有することを特徴とする、リチウム二次電池用正極に存する(請求項7)。
【0017】
また、本発明の別の要旨は、リチウムを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、リチウム塩を電解質として含有する有機電解液を備えたリチウム二次電池であって、該正極が、上述のリチウム二次電池用正極であることを特徴とする、リチウム二次電池に存する(請求項8)。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリチウム二次電池用正極材料の製造方法によれば、まとわりつきやすい等の性質を有する焼成粉体についても、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能となり、リチウム二次電池用正極材料の生産効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
【0020】
以下の記載では、説明の便宜上、まず本発明のリチウム二次電池用正極材料の製造方法によって得られるリチウム二次電池用正極材料(これを適宜「本発明の正極材料」という。)について説明した後、本発明のリチウム二次電池用正極材料の製造方法(これを適宜「本発明の製造方法」という。)について説明する。
【0021】
[I.リチウム二次電池用正極材料]
〔組成〕
本発明の正極材料の組成は特に制限されず、リチウム二次電池の正極活物質として機能することが知られているものの中から、適宜選択することが可能であるが、リチウム遷移金属複合酸化物粉体が好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物粉体の好ましい例としては、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物等を原料とした遷移金属複合酸化物粉体が挙げられる。特に好ましくは、層状ニッケルマンガンコバルト複合酸化物粉体である。
【0022】
具体的に、本発明の正極材料は、下記式(I)で表わされる組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0023】
【化2】

前記式(I)中、xは、0.5≦x≦1.3の数を表わし、Mは、遷移金属から選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、δは、−0.1<δ<0.1の数を表わす。
【0024】
中でも、本発明の正極材料は、下記式(II)で表わされる組成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることがより好ましい。下記式(II)で表わされる組成を有する正極材料は、まとわり付きやすい性質を有する場合が多く、通常の方法では分級できないか、分級できても非常に時間がかかるため、本発明を適用することによって得られる効果も大きい。
【0025】
【化3】

(式(II)中、Qは、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、Zn、Mg、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sc、Al、B、及びZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を表わし、xは、0.7≦x≦1.3の数を表わし、aは、0.2≦a≦0.8の数を表わし、bは、0.2≦b≦0.8の数を表わし、cは、0.15≦c≦0.4の数を表わし、dは、0≦d≦0.4の数を表わし、但し、a+b+c+d=1であり、δは、−0.1<δ<0.1の数を表わす。)
【0026】
上記式(II)中、xは、リチウムの原子比を表わす数であり、その範囲は通常0.7≦x≦1.3の範囲、好ましくは0.9≦x≦1.2の範囲である。xが大きすぎると、得られるリチウム二次電池の電池容量の低下を招くおそれがある。
【0027】
上記式(II)中、aは、ニッケルの原子比を表わす数であり、その範囲は通常0.2≦a≦0.8の範囲、好ましくは0.2≦a≦0.4の範囲である。
【0028】
上記式(II)中、bは、マンガンの原子比を表わす数であり、その範囲は通常0.2≦b≦0.8の範囲、好ましくは0.2≦b≦0.4の範囲である。
【0029】
上記式(II)中、cは、コバルトの原子比を表わす数であり、その範囲は通常0.15≦c≦0.4の範囲、好ましくは0.2≦c≦0.4の範囲である。
【0030】
a、bの値がそれぞれ上記規定の範囲を上回ったり、cの値が上記規定の値を下回ったりして、相対的にコバルトの割合が小さくなると、単一相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が合成しにくくなり、レートの低下をまねく傾向がある。一方、a、bの値がそれぞれ上記規定の範囲を下回ったり、cの値が上記規定の値を上回ったりして、逆に相対的にコバルトの割合が大きくなると、全体のコストが上がってしまう。
【0031】
なお、ニッケル、マンガン、コバルトの原子比は、層状結晶構造が安定に存在し、また、電池特性を悪化させないという観点から、Ni、Mn、Coの三角図において、Ni/Mn/Co=1/1/1の周辺及びNi/Mn=1/1の線上及びその周辺に存在するものが好ましい。
【0032】
従って、上記式(II)において、aの値とbの値とを概ね同じ値とすることが好ましく、具体的には、a/bの値を、通常0.8以上、中でも0.9以上、更には0.93以上、特に0.95以上、また、通常1.2以下、中でも1.1以下、更には1.07以下、特に1.05以下の範囲とすることが好ましい。
【0033】
更には、上記式(II)において、a、b、cの値を概ね同じ数とすることが好ましく、具体的には、a/cの値を、通常0.8以上、中でも0.9以上、更には0.93以上、特に0.95以上、また、通常1.2以下、中でも1.1以下、更には1.07以下、特に1.05以下の範囲とするが好ましい。
【0034】
なお、正極材料の結晶構造の安定化や高容量化、安全性の向上、高温での電池特性の改良等の目的で、ニッケル、マンガン、コバルトサイトの一部を他の金属元素で置換したり、表面処理を行なったりすることも可能である。
【0035】
上記式(II)において、Qはこのような置換元素若しくは表面処理元素を表わし、具体的には、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、Zn、Mg、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sc、Al、B及びZrから選択される少なくとも1種の元素である。
【0036】
置換元素としては、先に例示した各種の元素を使用することができるが、中でもアルミニウム、マグネシウム、鉄等の金属元素が好ましく、更にはアルミニウム、マグネシウムがより好ましい。アルミニウム、マグネシウムは、層状リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物に容易に固溶して単一相を得ることができるという利点があり、更には、リチウム二次電池の正極活物質として高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行なった際の放電容量維持率について良好な性能を示すという利点がある。
【0037】
一方、表面処理元素としては、やはり先に例示した各種の元素を使用することができるが、好ましくはホウ素、ビスマス、ジルコニア、珪素などを挙げることができる。これらはリチウム遷移金属複合酸化物と容易に固溶せず、一次粒子の成長を促し、二次粒子内の一次粒子間の焼結強度を上げ、高活性な点を抑えることができるので、電池特性において長寿命化を図ることができる。
【0038】
なお、これらの置換元素・表面処理元素Qは、何れか一種を単独で使用してもよく、複数種を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
置換元素・表面処理元素Qの、ニッケル、マンガン、コバルトの合計に対する原子比dは、通常0以上であり、また、通常0.4以下、好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。この置換割合が大きすぎると正極活物質として使用した場合の容量の低下や抵抗の上昇をまねく傾向にある。
【0040】
上記式(II)の組成において、酸素量には多少の不定比性があってもよい。具体的に、上記式(II)中、δは、−0.1<δ<0.1を満たす数であるが、好ましくは−0.05<δ<0.05、より好ましくは−0.025<δ<0.025の範囲である。δが少なくても多くても結晶構造の安定化を乱し、得られるリチウム二次電池の電池容量の低下や電池寿命の悪化を招くおそれがあるので好ましくない。
【0041】
〔安息角〕
本発明の正極材料は、安息角が50度以上であることが好ましい。ここで「安息角」とは、粉体を上方から静かに落下させて生じる円錐状堆積層が、水平面との間に作る傾斜角である。安息角は粉体粒子間の付着力を表す指標であり、この安息角の値が大きい粉体粒子ほど、凝集性が強く流動性が悪い、即ち、まとわりつきやすい性質を有する。
【0042】
まとわりつきやすい性質を有する正極材料としては、例えば、前記式(II)で表わされる組成の正極材料が挙げられる。中でも、前記式(II)におけるa、b、cがそれぞれ0.2≦a≦0.4、0.2≦b≦0.4、0.2≦c≦0.4の範囲にある正極材料が、特にまとわりつきやすい性質を有する。
【0043】
具体的に、本発明の正極材料の安息角は、上述の様に通常50度以上であるが、中でも54度以上、更には58度以上の範囲であることが好ましい。安息角がこの範囲に満たないと、後述する本発明の製造方法における分級処理の効果が得られにくい。一方、その上限は通常84度以下、中でも80度以下、更には70度以下の範囲であることが好ましい。安息角がこの範囲を上回ると、分級できないおそれがある。
【0044】
本明細書において、正極材料の「安息角」は、以下の手法(注入法)により測定される値である。
[安息角の測定方法]
(1)標準篩いを振動させ、ロートを通してテーブル(通常は円形のテーブル)上に粉体を供給する。但し、篩い振動数は3600回/分、篩い振動幅は2mm、篩い時間は4分間、ロート口径は8mmとする。
(2)粉体の安息角を測定する。但し、測定は半導体レーザー(波長670nm)の変位センサーによる角度計算方式(最小二乗法)を用いて行ない、最小読み取り分解能は0.1度とする。
なお、測定装置としては、公知の任意の装置を用いることができる。例としては、ホソカワミクロン製パウダーテスター(PT−R)を挙げることができる。
【0045】
〔粒子形状〕
本発明の正極材料は、一次結晶粒子としても、一次結晶粒子が凝集して形成した二次粒子としても存在し得るが、本発明においては、一次結晶粒子が凝集して二次粒子を形成しているものが好ましい。
【0046】
〔タップ密度〕
本発明の正極材料のタップ密度(嵩密度)は、通常1.55g/cm3以上、好ましくは1.6g/cm3以上、更に好ましくは1.65g/cm3以上、最も好ましくは1.7g/cm3以上であり、組成比や含有する元素に応じて最適化することができる。
【0047】
正極材料の二次粒子が多くの点焼結を有し、葡萄の房状もしくは数珠状の三次粒子構造体を形性していると、タップ密度は低下する。正極材料のタップ密度が上記範囲を下回ると、塗料化時に必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されるおそれがある。
【0048】
タップ密度が高い正極材料としては、例えば一次粒子同士が密に焼結した二次粒子からなり、かつ、二次粒子の表面が比較的平滑な球状のものが挙げられる。正極活物質層は、通常その大部分がリチウム遷移金属複合酸化物粉体等の正極材料からなるため、タップ密度の高い正極材料を正極活物質として用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。
【0049】
但し、正極材料のタップ密度が大きすぎると、正極活物質層内における電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなることがあるため、本発明の正極材料の上限は通常2.4g/cm3以下、好ましくは2.2g/cm3以下である。
【0050】
本明細書において、正極材料の「タップ密度」とは、以下の手法により求められる値を言う。
例えば、セイシン企業製タップデンサー(KYT−4000)等を用いて、100mlメスシリンダーに正極材料を約70g投入し、ストローク長20mm、タップ回数3000回でタッピング操作を実施し、タッピング終了後、粉体の体積(V)とする。総重量からメスシリンダーの風袋重量を差し引き、粉体の正味の重量(W)を測定し、下記数式(A)で計算した値をタップ密度とする。
タップ密度(g/ml)=W(g)/V(ml) (A)
【0051】
〔メジアン径〕
本発明の正極材料のメジアン径は、通常3μm以上、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下の範囲である。下限を下回ると、タップ密度が上がりにくく、上限を上回ると、比表面積が小さくなり電解液との接触が悪くなりやすい。
【0052】
本明細書において、正極材料の「メジアン径」とは、JIS Z 8825−1に基づいて、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定される値である。測定の際の分散媒としては、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いる。測定時に使用する屈折率は、1.60a010i(実数部1.60、虚数部0.10)である。なお、正極材料は溶媒中で超音波発振器による分散処理を行なうと凝集が解かれるので、凝集の度合いの指標とするために、測定試料を分散媒に投入した後、超音波発振器による分散処理は行なわずに測定を行なう。
【0053】
〔最大粒径〕
本発明の正極材料の最大粒径は、通常40μm以下、好ましくは35μm以下である。最大粒径がこの上限を上回ると、塗膜作成時に筋ひきが発生しやすい。
【0054】
本明細書において、正極材料の「最大粒径」とは、上述の「メジアン径」の場合と同様、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される値である。測定の際の分散媒、測定時に使用する屈折率、超音波発振器による分散処理は行なわい点等も、上述の「メジアン径」の測定の場合と同様である。
【0055】
〔比表面積〕
本発明の正極材料のBET法における比表面積(二次粒子の比表面積)は、組成比や含有する元素によって大きく異なるが、通常0.5m2/g以上、好ましくは0.6m2/g以上、更に好ましくは0.7m2/g以上である。比表面積がこの下限より小さいことは、一次粒径が大きいことを意味し、即ちレート特性や容量が低下する傾向にあるので好ましくない。また、比表面積が大きすぎても塗料化時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極板への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されてしまうため、通常は1.5m2/g以下、好ましくは1.4m2/g以下、更に好ましくは1.3m2/g以下である。
【0056】
本明細書において、正極材料の「比表面積」とは、公知のBET式粉体比表面積測定装置によって測定される値を言う。具体的には、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを使用し、連続流動法によるBET1点法測定を行なう。まず、粉体試料を混合ガスにより450℃以下の温度で加熱脱気し、次いで液体窒素温度まで冷却して混合ガスを吸着させる。これを水により室温まで加温して吸着された窒素ガスを脱着させ、その量を熱伝導度検出器によって検出し、これから試料の比表面積を算出する。
【0057】
[II.リチウム二次電池用正極材料の製造方法]
本発明のリチウム二次電池用正極材料の製造方法は、原料を混合し、造粒し、焼成し、必要に応じて解砕して得られた焼成粉体を、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて、分級処理する工程を備えることを特徴とする。
【0058】
以下の説明では、正極材料としてリチウム遷移金属複合酸化物粉体を製造する場合を例として説明するが、本発明の製造方法はこの例に限定されるものではなく、上述の分級工程を含む製造方法であれば、任意の正極材料を製造する方法に対して適用可能である。
【0059】
〔リチウム遷移金属複合酸化物粉体の製造方法の概要〕
リチウム遷移金属複合酸化物粉体は、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物と同じ金属元素組成となるように、これらの金属元素を含有する原料化合物を混合し、この原料混合物を粒子状に成形(造粒)した後、焼成し、必要に応じて解砕、分級することによって製造することができる。
【0060】
なお、造粒の手法の例としては、これらの原料化合物を含有するスラリーを噴霧乾燥することにより粒子状物を得る方法(噴霧乾燥法)が挙げられる。以下の記載では、この噴霧乾燥法により造粒を行なう場合を例として説明を行なうが、本発明の製造方法は噴霧乾燥法を用いる場合に制限されるものではなく、その他の方法により造粒を行なう場合にも適用が可能である。
【0061】
〔原料化合物〕
原料化合物としては、リチウムを含有する化合物(以下、適宜「リチウム原料」という。)と、遷移金属を含有する化合物(以下、適宜「遷移金属化合物」という。)、並びに、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物の組成に応じて、上述のマンガン、ニッケル、コバルトの他の元素(以下適宜「置換元素」という。)を用いてもよい。
【0062】
・リチウム原料:
リチウム原料としては、Li2CO3、LiNO3などの無機リチウム塩;LiOH、LiOH・H2Oなどのリチウムの水酸化物;LiCl、LiIなどのリチウムハロゲン化物;Li2O等の無機リチウム化合物、アルキルリチウム、脂肪酸リチウム等の有機リチウム化合物等を挙げることができる。中でも好ましいのは、Li2CO3、LiNO3、LiOH、LiOH・H2O、酢酸Liである。また、湿式法により原料を混合する場合には、LiOH、LiOH・H2Oが好ましく用いられる。LiOH、LiOH・H2Oは水溶性であり、分散媒が水の場合には溶解して原料混合物の均一性が向上するだけでなく、窒素及び硫黄を含まないので、焼成の際に、NOx及びSOx等の有害物質を発生させない利点をも有する。リチウム原料は所望ならば2種以上を併用しても良い。
【0063】
なお、予め所望の金属比とした遷移金属化合物粉体に後からリチウム原料を混合し、焼成する場合には、リチウム原料としてLiOH、LiOH・H2Oを用いることが好ましい。この場合、噴霧乾燥で得られた乾燥物との混合性を上げるため、且つ、電池性能を向上させるために、リチウム原料の平均粒子径は、通常500μm以下、好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下、最も好ましくは20μm以下とする。一方、あまりに小さな粒子径のものは大気中での安定性が低いので、リチウム原料の平均粒子径は、通常0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、最も好ましくは0.5μm以上とする。混合手法に特に制限はないが、一般的に工業用として使用されている粉体混合装置を使用するのが好ましい。混合する粉体の混合組成比は、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物の組成等に応じて適宜選択される。
【0064】
・遷移金属化合物:
遷移金属化合物としては、マンガン、ニッケル、コバルト等の遷移金属を含有する化合物の中から、リチウム遷移金属複合酸化物の原料として用いうることが知られているものを適宜選択して用いることができる。例としては、マンガン、ニッケル、コバルト等の遷移金属の酸化物;水酸化物;ハロゲン化物;炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩;酢酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。以下の記載では、各々の遷移金属を含有する化合物を、その金属名を冠して「マンガン原料」「ニッケル原料」「コバルト原料」等と呼ぶものとする。
【0065】
ニッケル原料としては、Ni(OH)2、NiO、NiOOH、NiC24・2H2O、Ni(NO32・6H2O、NiSO4、NiSO4・6H2O、脂肪酸ニッケル、ニッケルハロゲン化物等を挙げることができる。中でも、Ni(OH)2、NiO、NiOOH、NiC24・2H2Oのような窒素及び硫黄を含まない化合物は、焼成工程においてNOx及びSOx等の有害物質を発生させないので好ましい。工業原料として安価に入手でき、かつ焼成を行なう際に反応性が高いという観点から、特に好ましいのはNi(OH)2、NiO、NiOOHである。ニッケル原料も所望ならば2種以上を併用しても良い。
【0066】
マンガン原料としては、Mn34、Mn23、MnO2、MnOOH、MnCO3、Mn(NO32、MnSO4、有機マンガン化合物、マンガン水酸化物、マンガンハロゲン化物等を挙げることができる。これらマンガン化合物の中でも、Mn23、MnO2、Mn34は、最終目的物である複合酸化物のマンガン酸化数に近い価数を有しているため好ましい。マンガン原料も所望ならば2種以上を併用しても良い。
【0067】
コバルト原料としては、CoO、Co23、Co34、Co(OH)2、CoOOH、Co(NO32・6H2O、CoSO4・7H2O、有機コバルト化合物、コバルトハロゲン化物等を挙げることができる。これらコバルト化合物の中でも、CoO、Co23、Co34、Co(OH)2、CoOOHが好ましい。コバルト原料も所望ならば2種以上を併用しても良い。
【0068】
また、前記一般式(II)において置換元素・表面処理元素Qを用いる場合、その原料化合物としては、この置換元素・表面処理元素Qの無機塩又は有機塩を用いればよい。
【0069】
・配合比:
これらの原料化合物の配合比は、原則として、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物の組成に応じて決定すればよい。但し、リチウム、ホウ素、ビスマス等は焼成中に揮散することがあるので、この場合には揮散量を考慮してリチウム原料、ホウ素原料、ビスマス原料等の配合量を決定する。
【0070】
〔造粒工程〕
まず、上述の原料化合物を混合する。混合の方法は特に限定されるものではなく、湿式でも乾式でも良い。例としては、ボールミル、振動ミル、ビーズミル等の装置を使用する方法が挙げられる。水酸化リチウム等の水溶性の原料は水溶液として他の固体の原料と混合しても良い。湿式混合は、より均一な混合が可能であり、且つ、後述の焼成工程において混合物の反応性を高めることができるので好ましい。
【0071】
混合の時間は、混合方法、スケールにより異なるが、原料が粒子レベルで均一に混合されていれば良く、例えばボールミル(湿式又は乾式)では通常1時間から2日間程度、ビーズミル(湿式連続法)では滞留時間が通常0.1時間から24時間程度である。
【0072】
粉砕の程度としては、粉砕後の原料粒子の粒径が指標となるが、平均粒子径として通常2μm以下、好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下とする。平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下する。また、湿式混合の場合には、後述する噴霧乾燥における乾燥粉体の球状度が低下し、最終的な粉体充填密度が低くなる傾向にある。この傾向は、平均粒子径で50μm以下の造粒粒子を製造しようとした場合に特に顕著になる。なお、必要以上に小粒子化することは、粉砕のコストアップに繋がるので、平均粒子径が通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.1μm以上となるように粉砕すればよい。
【0073】
湿式混合した場合には、次いで乾燥工程に供される。ここでは噴霧乾燥を用いる場合について説明しているが、噴霧乾燥によれば、生成する粒子状物の均一性や粉体流動性、粉体ハンドリング性能、二次粒子を効率よく形成できる等の観点から好ましい。噴霧乾燥は公知の方法により行なえばよい。例えば、ノズルの先端に気体流とスラリーとを流入させることによってノズルからスラリーを液滴として吐出させ、乾燥ガスと接触させて液滴を迅速に乾燥させる方法を用いることができる。
【0074】
粒子状物の平均粒子径は50μm以下、更に40μm以下となるようにするのが好ましい。ただし、あまりに小さな粒径は得にくい傾向にあるので、通常は4μm以上、好ましくは5μm以上である。噴霧乾燥法で粒子状物を製造する場合、その粒子径は、噴霧形式、加圧気体流供給速度、スラリー供給速度、乾燥温度等を適宜選定することによって制御することができる。
【0075】
なお、原料化合物を湿式混合するに際して、リチウム原料、ホウ素原料、ビスマス原料等は、他の原料化合物と一緒に湿式混合してもよく、また、他の原料化合物を湿式混合−噴霧乾燥したものに、これらを乾式で混合しても良い。
【0076】
例えば、リチウム原料以外の原料化合物を湿式混合し、次いで噴霧乾燥し粒子状物とした後に、これにリチウム原料を乾式混合し、焼成に供することによって目的とするリチウム遷移金属複合酸化物を得る、といったように、湿式混合処理時に加えなかった原料化合物を噴霧乾燥により得られた粒子状物と乾式混合して焼成に供することも可能である。
【0077】
即ち、リチウム原料、ホウ素原料、ビスマス原料等を他の原料化合物に混合する時機としては、例えば、
(1) 原料化合物の秤量時、
(2) 湿式混合時のスラリーへ、
(3) 湿式混合後のスラリーへ、
(4) 噴霧乾燥前のスラリーへ、
(5) 噴霧乾燥後の乾燥粉体へ、
(6) 焼成前の乾燥粉体へ、
などが考えられるが、上述のいずれの時機に混合してもよい。
【0078】
なお、リチウム原料、ホウ素原料、ビスマス原料等は、それぞれ他の原料化合物に対して同じ時機に一度に混合しても良く、複数に分けて異なる時機に混合してもよい。
【0079】
〔焼成工程〕
このようにして得られた粒子状物を次いで焼成することによって、焼成粉体を得ることができる。
【0080】
焼成には、例えば箱形炉、管状炉、トンネル炉、ロータリーキルン等を使用することができる。焼成は、通常、昇温・最高温度保持・降温の三部分に分けられる。また、二番目の最高温度保持部分は必ずしも一回とは限らず、目的に応じて二段階又はそれ以上の段階をふませてもよい。
【0081】
昇温部分では、通常1〜5℃/分の昇温速度で炉内を昇温させる。この昇温速度は過度に遅すぎても時間がかかって工業的に不利であるが、過度に速すぎても炉によっては炉内温度が設定温度に追従しなくなる。
【0082】
最高温度保持部分では、焼成温度は通常500℃以上、好ましくは600℃以上、より好ましくは800℃以上であり、通常1200℃以下、好ましくは1100℃以下である。温度が低すぎると、結晶性の良いリチウム遷移金属複合酸化物を得るために長時間の焼成時間を要する傾向にある反面、温度が高すぎると、リチウム遷移金属複合酸化物が激しく焼結して、焼成後の粉砕・解砕歩留まりが悪く工業的に不利となったり、あるいは酸素欠損等の欠陥が多いリチウム遷移金属複合酸化物を生成する結果となり、得られたリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池において、電池容量の低下や充放電による結晶構造の崩壊による劣化を招くおそれがある。
【0083】
最高温度保持部分での保持時間(焼成時間)は、通常1時間以上、100時間以下の広い範囲から選択される。焼成時間が短すぎると、結晶性の良いリチウム遷移金属複合酸化物粉体が得られにくい。
【0084】
降温部分では、通常0.1〜5℃/分の降温速度で炉内を降温させる。この降温速度は過度に遅すぎても時間がかかって工業的に不利な方向であり、過度に速すぎても目的物の均一性に欠けたり、容器の劣化を早める傾向にある。
【0085】
上記一般式(I)で表わされるリチウム遷移金属複合酸化物では、焼成雰囲気によって、得られる粉体のタップ密度などの嵩密度が変化するので、焼成時の雰囲気としては、酸素濃度が通常10体積%以上、中でも15体積%以上、また、通常80体積%以下、中でも50体積%以下の雰囲気が好ましい。酸素濃度が高すぎると、得られるリチウム遷移金属複合酸化物の嵩密度が低下するおそれがある。酸素濃度が低すぎると、酸素欠損等の欠陥が多いリチウム遷移金属複合酸化物を生成する結果となる。具体的には、空気雰囲気などが好ましい。
【0086】
〔予備解砕工程〕
上記焼成工程により、リチウム遷移金属複合酸化物粉体が得られる。このリチウム遷移金属複合酸化物粉体は、そのまま後述の分級工程に供してもよいが、必要に応じて、最適化された条件で解砕してから、後述の分級工程に供することもできる。この解砕を、後述の分級工程において行なわれる解砕と区別するために、「予備解砕」というものとする。
【0087】
予備解砕の方法は特に限定されないが、例えば、強すぎない最適化した解砕が可能な方法、具体的には、メッシュによる目通し、乳鉢解砕、タッピングボール入りの振動篩、ピンミル等を最適な条件下で使用することで達成できる。例えば、粒子の焼結強さに応じて、振動篩等の処理時間、回転数を調整することで、解砕の程度を制御することもできる。
【0088】
〔焼成粉体〕
本明細書において「焼成粉体」とは、焼成により得られたリチウム遷移金属複合酸化物粉体、又は、それに予備解砕を行なう場合には、予備解砕により得られた粉体のことをいう。言い換えれば、後述の分級工程に供される状態の粉体のことを指すものとする。
【0089】
焼成粉体は、リチウム遷移金属複合酸化物が、一次結晶粒子が凝集して形成した二次粒子になっていており、二次粒子がゆるやかな焼結(点焼結)でぶどうの房状、数珠つなぎ構造となった三次粒子になっているものを一部含むものである。
【0090】
・焼成粉体のタップ密度:
焼成粉体のタップ密度は、通常1g/cm3以上、好ましくは1.2g/cm3以上、より好ましくは1.4g/cm3以上、また、通常2g/cm3以下、好ましくは1.8g/cm3以下の範囲である。この下限を下回ると、塗料化時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されるおそれがある。タップ密度は大きければ大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなることがある。
【0091】
なお、焼成粉体のタップ密度の測定は、上述の[I.リチウム二次電池用正極材料]の欄において説明した、正極材料についてのタップ密度の測定法と同様にして行なう。但し、焼成粉体の場合には、そのタップ密度を正確に測定するために、1mmメッシュで目通しした後に、測定を行なうようにする。
【0092】
・焼成粉体のメジアン粒径:
焼成粉体のメジアン粒径は、通常3μm以上、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下の範囲である。焼成粉体のメジアン粒径がこの範囲を下回ると、得られる正極材料のタップ密度が上がりにくく、一方、この範囲を上回ると、得られる正極材料の比表面積が小さくなり、電解液との接触が悪くなりやすい。
【0093】
なお、焼成粉体のメジアン径の測定は、上述の[I.リチウム二次電池用正極材料]の欄において説明した、正極材料についてのメジアン径の測定法と同様にして行なう。但し、焼成粉体のメジアン径を正確に測定するために、1mmメッシュで目通しした後に測定を行なうようにする。
【0094】
・焼成粉体の安息角:
焼成粉体の安息角は、通常50度以上、好ましくは54度以上、更に好ましくは58度以上、また、通常84度以下、好ましくは80度以下、更に好ましくは70度以下の範囲である。焼成粉体の安息角がこの範囲に満たないと、後述する分級工程による効果が得られにくい。一方、焼成粉体の安息角がこの範囲を上回ると、分級できないおそれがある。
【0095】
なお、焼成粉体の安息角の測定は、上述の[I.リチウム二次電池用正極材料]の欄において説明した、正極材料についての安息角の測定法と同様にして行なう。但し、焼成粉体の安息角を正確に測定するために、1mmメッシュで目通しした後に測定を行なうようにする。
【0096】
・焼成粉体の比表面積:
焼成粉体のBET法における比表面積(二次粒子の比表面積)は、組成比や含有する元素によって大きく異なるが、通常0.5m2/g以上、好ましくは0.6m2/g以上の範囲である。比表面積がこの下限より小さいと、一次粒径が大きくなってしまい、レート特性や容量が低下する傾向にあるので好ましくない。一方、比表面積が大きすぎても、塗料化時に必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極板への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されてしまうため、その上限は通常1.5m2/g以下、好ましくは1.4m2/g以下の範囲である。焼成粉体の比表面積を正確に測定するためには、1mmメッシュで目通しした後に測定する。
【0097】
なお、焼成粉体の比表面積の測定は、上述の[I.リチウム二次電池用正極材料]の欄において説明した、正極材料についての比表面積の測定法と同様にして行なう。但し、焼成粉体の比表面積を正確に測定するために、1mmメッシュで目通しした後に測定を行なうようにする。
【0098】
〔分級工程〕
本発明の製造方法においては、この分級工程を、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて行なう。
【0099】
・分級機:
分級機の各種特性は、例えば以下の通りである。
【0100】
メッシュスクリーンのサイズは、その直径が通常50mm以上、750mm以下であり、その長さが通常100mm以上、500mm以下である。
【0101】
メッシュスクリーンの有効面積は、通常300cm2以上、10000cm2以下である。
【0102】
メッシュスクリーンのメッシュとしては、網の目開きが例えば45μm、38μm、30μm等のものを用いる。
【0103】
ロータの回転数(ブレードの回転数)は、通常100rpm以上、2000rpm以下である。
【0104】
粉体の供給速度は、通常100g/分以上、2kg/分以下である。
【0105】
本発明の製造方法に用いられる分級機の具体的な装置名としては、例えば、パウシフター(ツカサ工業製、型番PSF−25/50)、ターボスクリーナー(ターボ工業製TS125×200)等が挙げられる。
【0106】
・分級によるタップ密度の変化:
本発明の製造方法によれば、分級処理前の焼成粉体のタップ密度(1mm目通し後)をA、分級処理後の正極材料のタップ密度をBとした場合に、B/Aで表わされる比の値が、通常1.05以上、好ましくは1.07以上となる。
【0107】
B/Aの値が大きいことは、分級によって二次粒子が多くの点焼結を有し、葡萄の房状もしくは数珠状の三次粒子構造体を形成しているリチウム遷移金属複合酸化物粉体が、二次粒子レベルに還元されていくことを表わす。
【0108】
B/Aの値が上記範囲を下回ると、リチウム遷移金属複合酸化物粉体のタップ密度が低く、塗料化時に必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されるおそれがある。
【0109】
一方、B/Aの値は高いほど好ましいが、通常2以下である。
【0110】
なお、分級処理前の焼成粉体のタップ密度(1mm目通し後)A、及び、分級処理後の正極材料のタップ密度Bは、何れも上述した手法により測定できる。
【0111】
・分級による粒径の変化:
本発明の製造方法によれば、分級処理前の焼成粉体のメジアン径(1mm目通し後)をC、分級処理後の正極材料のメジアン径をDとした場合に、D/Cで表わされる比の値が通常0.8以下、好ましくは0.7以下となる。
【0112】
D/Cの値が小さいということは、分級により二次粒子が多くの点焼結を有し、葡萄の房状もしくは数珠状の三次粒子構造体を形成しているリチウム遷移金属複合酸化物粉体が、二次粒子レベルに還元されていくことを表わす。
【0113】
D/Cの値が上記範囲を上回ると、リチウム遷移金属複合酸化物粉体のタップ密度が低く、塗料化時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約されるおそれがある。
【0114】
一方、D/Cの値の下限は、本発明の効果が見られる限り特に制限されないが、通常0.3以上である。
【0115】
なお、分級処理前の焼成粉体のメジアン径(1mm目通し後)A、及び、分級処理後の正極材料のメジアン径Bは、何れも上述した手法により測定できる。
【0116】
・本発明の製造方法により上述の効果が得られる理由:
本発明の製造方法により、上述の効果(即ち、焼成粉体がまとわりつきやすい性質を有する場合等でも、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能になるという効果)が得られる理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0117】
即ち、本発明の製造方法において分級処理に用いられる分級機は、通常の分級処理に用いられる振動篩などと異なり、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分けるものであるため、焼成粉体の二次粒子を適度に解砕しながら分級を行なうことができ、その結果、焼成粉体がまとわりつきやすい性質を有する場合等でも、短時間で確実に分級処理を行なうことが可能になるものと推測される。
【0118】
[III.リチウム二次電池用正極]
本発明のリチウム二次電池用正極は、(以下適宜「本発明の正極」という。)は、上述した本発明の正極材料を含有することを特徴とする。
【0119】
本発明の正極は、正極活物質と結着剤と導電材とを含有する正極活物質層を集電体上に形成してなり、本発明の正極材料はこの正極活物質として用いられる。正極活物質としては、上述の本発明の正極材料を一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、一種又は二種以上の本発明の正極材料と、一種又は二種以上の他の公知の正極活物質とを組み合わせて用いてもよい。
【0120】
本発明の正極は、正極活物質と結着剤及び導電材、並びに必要に応じて増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を分散媒に溶解又は分散させてスラリー(塗布液)としてこれを正極集電体に塗布し、乾燥することによりシート状とし、正極活物質層を正極集電体上に形成させることにより製造される。ここで、塗布、乾燥により得られた正極活物質層は、電極材料の充填密度を高めるために、垂直プレス、ローラープレス等により圧密するのが好ましい。
【0121】
本発明の正極材料は、その特定の粉体特性により、塗膜化性能、即ち、結着剤及び導電材、その他の添加剤と共に適当な分散媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、これを正極集電体に塗布、乾燥して正極活物質層を形成した際、その塗布液の取り扱い性、塗布性能、形成された塗膜の平滑性、膜強度、薄膜成膜性、集電体との密度性に優れるものであることから、本発明の正極は、特にこのような塗布液の塗布、乾燥により、正極集電体上に正極活物質層を形成してなるものであることが好ましい。
【0122】
正極活物質層中の正極活物質の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。正極活物質が多すぎると正極の強度が不足する傾向があり、少なすぎると容量の面で不十分となるおそれがある。
【0123】
正極に使用される導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ニードルコークス、フラーレン、カーボンナノチューブ類等を挙げることができ、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
正極活物質層中の導電材の割合は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下である。導電材が多すぎると、相対的に正極活物質量が少なくなって容量の面で不十分となることがあり、少なすぎると電気導電性が不十分となることがある。
【0125】
正極に使用される結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0126】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。結着剤含有量が少ないと正極活物質を十分保持できず、正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまうことがある。逆に結着剤含有量が多すぎると、相対的に正極活物質量や導電材量が少なくなって、電池容量や導電性が低下することがある。
【0127】
また、正極活物質層を形成するためのスラリーを調製する際に用いる分散媒としては、活物質及び結着剤、並びに導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能なものであれば、その種類に特に制限はなく、水系媒体と有機系媒体のどちらを用いてもよい。水系媒体としては、例えば、水、アルコール等が挙げられる。有機系媒体としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジメチルエーテル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。特に水系媒体を用いる場合、増粘剤に併せて分散媒を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。なお、これらの分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0128】
正極集電体の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0129】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、通常は1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。集電体が薄いと集電体として必要な強度が不足することがある。逆に厚すぎると、取り扱いづらくなる。
【0130】
このような集電体上に形成される正極活物質層の厚さは通常10μm以上、200μm以下である。
【0131】
[IV.リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、リチウム塩を電解質として含有する有機電解液を備えたリチウム二次電池であって、正極が上述した本発明のリチウム二次電池用正極であることを特徴とする。
【0132】
負極は、負極活物質、結着剤及び必要に応じて導電材を含有する負極活物質層を集電体上に形成したものや、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金といったリチウム合金等の金属箔が用いられる。
【0133】
負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば任意であるが、通常は安全性の高さの面からリチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が用いられる。
【0134】
炭素材料としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)や、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物が挙げられる。有機物の熱分解物としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、石炭系又は石油系のピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。これらのうち、黒鉛、特に種々の原料から得た易黒鉛性ピッチに高温熱処理を施すことによって製造された人造黒鉛若しくは精製天然黒鉛又はこれらの黒鉛にピッチを含む黒鉛材料等であって種々の表面処理を施したものが好ましい。これらの炭素材料は、それぞれ1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0135】
黒鉛材料としては、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、通常0.335nm以上0.34nm以下、特に0.337nm以下であるものが好ましい。黒鉛材料の灰分は、黒鉛材料の重量に対して、通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。学振法によるX線回折で求めた黒鉛材料の結晶子サイズ(Lc)は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上である。レーザー回折・散乱法により求めた黒鉛材料のメジアン径は、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、特に好ましくは7μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
【0136】
また、黒鉛材料のBET法比表面積は、通常0.5m2/g以上、好ましくは0.7m2/g以上、より好ましくは1.0m2/g以上、特に好ましくは1.5m2/g以上であり、通常25.0m2/g以下、好ましくは20.0m2/g以下、より好ましくは15.0m2/g以下、特に好ましくは10.0m2/g以下である。アルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析で、1580〜1620cm-1の範囲で検出されるピークPAの強度IAと、1350〜1370cm-1の範囲で検出されるピークPBの強度IBとの強度比IA/IBが、0以上0.5以下であるものが好ましく、ピークPAの半価幅は26cm-1以下、特に25cm-1以下が好ましい。
【0137】
炭素材料以外の負極活物質としては、例えば、酸化錫や酸化ケイ素などの金属酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金などが挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、炭素材料と組み合わせて用いてもよい。
【0138】
負極活物質層は、正極活物質層と同様にして形成させればよい。すなわち、前述の負極活物質及び結着剤、並びに所望により増粘剤及び導電材を、分散媒でスラリー化したものを負極集電体に塗布し、乾燥することにより形成させることができる。分散媒、結着剤、導電材及び増粘剤としては、正極活物質と同じものを用いることができる。
【0139】
負極集電体の材質としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。金属材料の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜等が挙げられ、炭素材料の形状としては、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、通常は1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。集電体が薄いと集電体として必要な強度が不足することがある。逆に厚すぎると、取り扱いづらくなる。
【0140】
このような集電体上に形成される負極活物質層の厚さは、通常10μm以上、200μm以下である。
【0141】
電解質としては、例えば、有機電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質、無機固体電解質等が挙げられ、これらのうち有機電解液(非水電解液)が好ましい。
【0142】
有機電解液に用いる有機溶媒には公知のいずれのものも用いることができる。例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン系化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル類;1,2−ジクロロエタン等の塩素化炭化水素類;アミン類;エステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0143】
有機電解液は、電解質を解離させるため、25℃における比誘電率が20以上である高誘電率溶媒を含んでいるのが好ましい。中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びそれらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した有機溶媒を含んでいることが好ましい。有機電解液全体に占める高誘電率溶媒の電解液の割合は、通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上である。また、有機電解液には、CO2、N2O、CO、SO2等のガスやポリサルファイドSx2-など負極表面にリチウムイオンの効率良い充放電を可能にする良好な被膜を形成する添加剤を、任意の割合で添加してもよい。
【0144】
溶質となるリチウム塩は、従来公知の任意のものを用いることができる。具体例としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiN(SO3CF32等が挙げられる。これらの溶質は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0145】
電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.75mol/L以上で、1.5mol/L以下、好ましくは1.25mol/L以下である。この濃度が、高くても低くても伝導度が低下し、電池特性が低下することがある。
【0146】
有機電解液に用いる無機固体電解質としては、電解質として用いることが知られている結晶質・非晶質の任意のものを用いることができる。結晶質の無機固体電解質としては、例えば、LiI、Li3N、Li1+xxTi2-x(PO43(M=Al、Sc、Y、La)、Li0.53xRE0.5+xTiO3(RE=La、Pr、Nd、Sm)等が挙げられる。非晶質の無機固体電解質としては、例えば、4.9LiI−34.1Li2O−61B25、33.3Li2O−66.7SiO2等の酸化物ガラス等が挙げられる。これらは任意の1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0147】
二次電池は、電極同士の短絡を防止するため正極と負極の間に非水電解質を保持するセパレータを備えているのが好ましい。
【0148】
セパレータの材質や形状は、使用する有機電解液に対して安定で、かつ保液性に優れ、更に電極同士の短絡を確実に防止できるものであれば任意である。例えば、各種の高分子材料からなる微多孔性のフィルム、シート、不織布等が挙げられる。高分子材料としては、例えば、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子が挙げられる。化学的及び電気化学的な安定性の点からはポリオレフィン系高分子が好ましく、電池の自己閉塞温度の点からはポリエチレンが好ましい。ポリエチレンとしては、高温形状維持性に優れる超高分子ポリエチレンが好ましい。ポリエチレンの分子量は、通常50万以上、好ましくは100万以上、特に好ましくは150万以上で、通常500万以下、好ましくは400万以下、特に好ましくは300万以下である。分子量が小さいと高温時の形状が維持できなくなることがある。逆に、分子量が大きすぎると流動性が低くなり、加熱時セパレータの穴が閉塞しないことがある。
【0149】
リチウム二次電池の形状は、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。形状としては、例えば、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。リチウム二次電池は、目的とする電池の形状に合わせ公知の方法により組み立てればよい。
【実施例】
【0150】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0151】
以下の実施例及び比較例では、焼成粉体を各種の分級装置で分級処理し、その処理速度及び処理前後のタップ密度及びメジアン径等を下記の方法で調べることにより、評価を行なった。
【0152】
[I.正極材料の評価方法]
〔分級速度の評価方法〕
目開き1mmの網を通過させて解砕(予備解砕)した焼成粉体20kgを、1kg/分の速度で分級装置に供給し、分級処理を行なった。メッシュスクリーンを通過して粉体が排出される様子を目視で観察しながら焼成粉体の排出が確認できなくなるまでの時間を計測し、焼成粉体の供給量を処理時間で割った値を算出して分級速度とした。
【0153】
〔タップ密度の評価方法〕
先出の[I.リチウム二次電池用正極材料]における〔タップ密度〕の欄に記載された方法を用いて測定した。装置としては、セイシン企業製タップデンサー(KYT−4000)を用いた。
【0154】
〔メジアン径の評価方法〕
先出の[I.リチウム二次電池用正極材料]における〔メジアン径〕の欄に記載された方法を用いて測定した。装置としては、堀場製作所製LA−920を用いた。
【0155】
〔安息角の評価方法〕
先出の[I.リチウム二次電池用正極材料]における〔安息角〕の欄に記載された方法を用いて測定した。装置としては、ホソカワミクロン製パウダーテスター(PT−R)を用いた。
【0156】
[II.正極材料の製造及び評価]
〔実施例1〕
NiO、CoOOH及びMn34を、Ni:Co:Mn=0.33:0.33:0.33のモル比となるように秤量し、これに0.15mol/LのLiOH水溶液を加え、攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式ビーズミルを用いて、スラリー中の固形分をメジアン径0.35μmに湿式粉砕した。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥し、メジアン径約7μmのほぼ球状の造粒粒子を得た。得られた造粒粒子に、メジアン径3μmのLiOH粉末を、(Ni+Co+Mn)に対するLiのモル比が1.05となるように加え、乾式混合することにより、ニッケル原料、コバルト原料、マンガン原料の造粒粒子とリチウム原料との混合粉を得た。この混合粉をセラミック製焼成鉢に仕込み、空気を流通させながら、昇温速度5℃/分で最高温度945℃まで昇温させ、945℃で15時間保持した後、降温速度5℃/分で降温させて、ほぼ仕込みのモル比組成の焼成粉体を得た。
【0157】
この焼成粉体を、目開き1mmの網を通過させることにより、予備解砕を行なった。得られた予備粉砕後の焼成粉体の安息角を測定したところ、59度であった。
【0158】
予備解砕後の焼成粉体を、高速回転するブレードでメッシュスクリーンに押し当て、通過させることで篩い分ける分級機を用いて分級することにより、正極材料を得た。なお、分級装置としては、ツカサ工業製のパウシフター(型番PSF−25/50)を用い、回転数900rpmで運転した。メッシュスクリーンとしては、目開き45μmのものを使用した。
【0159】
予備解砕後の焼成粉体についてタップ密度(A)及びメジアン径(C)を測定し、また、分級後の正極材料のタップ密度(B)及びメジアン径(D)を測定した。A、B、C、D及びB/A、D/Cの値を表1に示す。本実施例では焼成粉体を10kg/時間の速度で分級することができ、メッシュスクリーンの目詰まり、塊状物質の発生等は見られなかった。分級を経て得られた正極材料は、分級前の焼成粉体と比べて小粒径化し、タップ密度も向上した。
なお、分級後の正極材料について安息角を測定したところ、60度であった。
【0160】
〔実施例2〕
実施例1と同様の手法で得られた予備解砕後の焼成粉体を、実施例1のパウシフターの代りにターボスクリーナーを用いて分級処理した。ターボスクリーナーとしてはターボ工業製TS125×200を用い、回転数1200rpmで運転した。
【0161】
予備解砕後の焼成粉体についてタップ密度(A)及びメジアン径(C)を測定し、また、分級後の正極材料のタップ密度(B)及びメジアン径(D)を測定した。A、B、C、D及びB/A、D/Cの値を表1に示す。本実施例においては焼成粉体を60kg/時間の速度で分級することができ、メッシュスクリーンの目詰まり、塊状物質の発生等は見られなかった。実施例1と同様、分級を経て得られた正極材料は、分級前の焼成粉体と比べて小粒径化し、タップ密度も向上した。
【0162】
〔比較例1〕
実施例1と同様の手法で得られた予備解砕後の焼成粉体を、実施例1のパウシフターの代わりに振動篩を用いて分級処理した。振動篩としては、興和工業所製のKGOR−500を使用した。評価結果を表1に示す。本比較例では篩の上で焼成粉体の粒子が互いにくっつき合って塊状物となり、ほとんど分級することができなかった。
【0163】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の製造方法により得られるリチウム二次電池用正極材料は、結着剤及び導電材と共に集電体上に活物質層を形成させてリチウム二次電池用正極とすることによって、携帯用電子機器、通信機器及び自動車用動力源など、各種のリチウム二次電池の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極材料を製造する方法であって、
原料を混合し、造粒し、焼成し、必要に応じて解砕して得られた焼成粉体を、高速回転するブレードにより粉体をメッシュスクリーンに押し当て通過させることで篩い分ける分級機を用いて、分級処理する工程を備える
ことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記焼成粉体が、下記測定法により測定した安息角が50度以上の粉体である
ことを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
[安息角の測定法]
(1)標準篩いを振動させ、ロートを通してテーブル上に粉体を供給する。但し、篩い振動数は3600回/分、篩い振動幅は2mm、篩い時間は4分間、ロート口径は8mmとする。
(2)粉体の安息角を測定する。但し、測定は半導体レーザー(波長670nm)の変位センサーによる角度計算方式(最小二乗法)を用いて行ない、最小読み取り分解能は0.1度とする。
【請求項3】
前記正極材料が、下記式(II)で表わされる組成を有する
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【化1】

(式(II)中、
Qは、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、Zn、Mg、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sc、Al、B、及びZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を表わし、
xは、0.7≦x≦1.3の数を表わし、
aは、0.2≦a≦0.8の数を表わし、
bは、0.2≦b≦0.8の数を表わし、
cは、0.15≦c≦0.4の数を表わし、
dは、0≦d≦0.4の数を表わし、但し、a+b+c+d=1であり、
δは、−0.1<δ<0.1の数を表わす。)
【請求項4】
該分級処理前の焼成粉体のタップ密度(1mm目通し後)をA、
該分級処理後の正極材料のタップ密度をBとした場合に、
(B/A)≧1.05である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項5】
該分級処理前の焼成粉体のメジアン径(1mm目通し後)をC、
該分級処理後の正極材料のメジアン径をDとした場合に、
(D/C)≦0.8である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法により製造される
ことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料。
【請求項7】
リチウム二次電池に用いられる正極であって、
請求項6記載のリチウム二次電池用正極材料を含有する
ことを特徴とする、リチウム二次電池用正極。
【請求項8】
リチウムを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、リチウム塩を電解質として含有する有機電解液を備えたリチウム二次電池であって、
該正極が、請求項7記載のリチウム二次電池用正極である
ことを特徴とする、リチウム二次電池。

【公開番号】特開2006−278031(P2006−278031A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92346(P2005−92346)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】